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委託して行う国民年金保険料収納業務について、受託事業者による直接的な納付督励の成果に基づいて、より適正な事業の進捗管理を行うなど、抜本的な業務の見直しを行うよう意見を表示したもの


(2) 委託して行う国民年金保険料収納業務について、受託事業者による直接的な納付督励の成果に基づいて、より適正な事業の進捗管理を行うなど、抜本的な業務の見直しを行うよう意見を表示したもの

科目 業務経費
部局等 日本年金機構本部
国民年金保険料収納業務の委託の概要 国民年金の事業に関する事務の一環として国民年金保険料の滞納者に対する納付督励等の業務を民間事業者に委託するもの
契約の相手方 11社
契約件数及び契約額 95契約 141億9972万余円  (平成22年1月〜24年9月)
上記の契約に係る平成23年2月までの期間における契約相当額 56億2441万円 (背景金額)
   (平成22年1月〜23年2月)

【意見を表示したものの全文】

  国民年金保険料収納業務の委託について

(平成23年10月19日付け 日本年金機構理事長宛て)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 委託事業等の概要

(1) 国民年金保険料の収納状況

 国民年金制度は老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として運営されている。しかし、現下の厳しい経済情勢や公的年金制度に対する不信等を背景として、近年、国民年金保険料の納付率は低下傾向にあり、平成18年度の現年度に係る納付率は66.3%であったが、22年度にはこれが59.3%となっている。

(2) 委託事業の概要

 貴機構は、国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づく国民年金の事業に関する事務の一環として国民年金保険料の滞納者に対して行う納付の督励(以下「納付督励」という。)等の業務を、「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年法律第51号。以下「公共サービス改革法」という。)に基づき、民間事業者に委託して実施している。
 公共サービス改革法に基づき実施される事業(以下「市場化テスト事業」という。)は、民間が担うことができるものは民間に委ねるとの観点から、透明かつ公正な競争の下で民間事業者の創意と工夫を適切に反映させることにより、行政サービスをより良質かつ低廉に行うことを目的とするものである。
 このため、貴機構では、国民年金保険料の納付率の向上を図ることなどを目的とした収納業務の実施において、強制徴収、納付書の送付等については引き続き貴機構が直接行うこととした上で、本件委託事業により行う国民年金保険料の滞納者に対する電話や訪問等の手法を用いた納付督励等については、その業務の具体的な遂行の在り方等は受託事業者の提案と裁量に委ねるものとしている。
 本件委託事業は、19年10月に社会保険庁の下で開始されたものであり、22年1月1日の貴機構発足以降、貴機構は、312年金事務所全てを対象として、受託事業者計11社と本件委託事業に係る業務委託契約計95契約を委託費計141億9972万余円(23年2月実施分までの合計額は56億2441万余円)で締結している(図1参照)

図1 国民年金保険料収納業務委託事業の推移

図1国民年金保険料収納業務委託事業の推移

(3) 本件委託事業の進捗管理等

 貴機構は、本件委託事業の実施に当たり、納付督励によって納付させる滞納保険料に係る月数(注1) の目標として、年金事務所ごとに、最低限確保されるべき納付月数(以下「最低水準」という。)及び事業の達成目標となる納付月数(以下「要求水準」という。)を設定している。
 最低水準は、年金事務所ごとに、前年度の納付率を達成するために必要な納付月数等から算出することとされている。また、要求水準は、年金事務所ごとの前年度の納付率に毎年度一定の加算率を加えた目標納付率を達成するために必要な納付月数から算出することとされている。したがって、最低水準が確保されればおおむね前年度の納付率が確保され、要求水準が達成されれば一定の納付率の向上が見込まれるものとなっている。
 さらに、貴機構では、業務の質を確保し、より一層の向上を促すなどのため、納付月数の実績が最低水準を下回ることが明らかな場合等には、受託事業者に対して公共サービス改革法第27条に基づく業務改善を指示することとしており、契約期間の終了後には要求水準の達成率(注2) に応じて達成した場合には委託費の増額を未達成の場合には減額をしたりすることとしている。
 また、受託事業者は、要求水準を達成するための納付督励の件数等を自ら定めた納付督励等実施計画(以下「督励計画」という。)に基づいて、電話、戸別訪問等の方法により納付督励を実施している。
 受託事業者は、その実施に当たり、貴機構本部から毎月提示される滞納者情報の中から対象者を選定している。そして、納付督励の件数等の実績は、業務実績報告書等により毎月年金事務所等へ報告され、報告を受けた年金事務所等は、原則として毎月、受託事業者と事業の進捗状況や収納対策に関する定例打合せ会議を行い、納付督励の実施結果の分析を行っている。
 このように、貴機構は、要求水準の達成率や督励計画に対する実績等により事業の進捗管理を行っている。

(注1)
 滞納保険料に係る月数  毎月の保険料は、翌月末日までに納付しなければならないとされており、納付状況及び滞納状況の管理は月単位(月数)で行われている。
(注2)
 要求水準の達成率  要求水準に対する納付月数の実績の割合

2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 本院は、社会保険庁の下で導入された国民年金保険料収納業務委託事業(市場化テストモデル事業)の実施状況について、その検査結果を平成18年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況 として、社会保険事務所等における受託事業者との連携、協力、納付率の向上を目指す取組等について掲記し、その取組について今後引き続き注視していくこととしている。
 そして、本件委託事業が19年10月に本格的に開始されて以降も、大部分の年金事務所において要求水準を達成することができないまま、その達成率は年々低下している状況である。
 そこで、本院は、有効性等の観点から、本件委託事業が国民年金保険料の納付率の向上に資するものとなっているかなどに着眼して、貴機構本部等において、受託事業者から年金事務所へ提出された業務実績報告書等の関係書類等により会計実地検査を行った。
 検査に当たっては、本院が貴機構本部から、22年5月から23年2月までの納付督励の事跡計2587万件に係るデータ及びこの間の納付督励の対象月(注3) となる20年4月分から22年12月分の国民年金納付記録計787万人分に係るデータの提供を受け、この787万人に係る納付督励、納付記録等のデータを抽出し、受託事業者による納付督励の成果等についての分析を行った。

 納付督励の対象月  国民年金法第91条により毎月の保険料の納期限は翌月末日となっており、また同法第102条第4号により保険料の徴収権の時効は2年となっているため、平成22年5月から23年2月までの期間に督励の対象となるのは、20年4月分から22年12月分までの滞納保険料となる。

 (検査の結果)

 検査したところ、本件委託事業について次のような事態が見受けられた。

(1) 要求水準等の達成状況及び納付督励の実施状況

 要求水準の達成状況は、貴機構が発足した22年1月から23年2月までの14か月の要求水準計2631万月に対して納付月数の実績は計1897万月となっていて、その達成度合い(注4) は72.1%にとどまっていた。これを年金事務所別にみると、表1 のとおり、要求水準の達成度合いが100%以上の事務所は僅か3事務所にすぎず、実績が最低水準すら下回っている年金事務所が281事務所(312事務所の90.0%)に上るなど、全体的に要求水準の達成状況は著しく低調となっている状況が見受けられた。

 達成度合い  本院が対象として設定した期間における要求水準等の達成状況を測定した値で、同期間における要求水準等に対する納付月数の実績の割合


表1
 年金事務所別の要求水準及び最低水準の達成度合い

要求水準の達成度合い
(平成22年1月〜23年2月)
40%以上
50%未満
50%以上
60%未満
60%以上
70%未満
70%以上
80%未満
80%以上
90%未満
90%以上
100%未満
100%以上 合計
事務所数 25 96 17 71 78 22 3 312
309
全事務所に対する割合 99.0% 0.9% 100%
最低水準の達成度合い
(22年1月〜23年2月)
50%以上
60%未満
60%以上
70%未満
70%以上
80%未満
80%以上
90%未満
90%以上
100%未満
100%以上 合計
事務所数 11 65 63 71 71 31 312
281
全事務所に対する割合 90.0% 9.9% 100%
(注)
 全事務所に対する割合は、端数処理のため合計と一致しない(以下の表においても同様)。

 また、納付督励の実施状況についてみると、前記の14か月における電話による督励(以下「電話督励」という。)及び戸別訪問による督励(以下「訪問督励」という。)の実績件数は、受託事業者が策定した督励計画上の件数3192万件(うち電話督励3058万件、訪問督励134万件)に対して、2786万件(うち電話督励2662万件、訪問督励123万件)となっていて、その実施率は87.2%にとどまっていた。これを年金事務所別にみると、表2 のとおり、納付督励の実績が計画を下回っている年金事務所が169事務所と全体の54.1%を占めていた。

表2
 年金事務所別の督励計画の実施状況

納付督励の実施率
(平成22年1月〜23年2月)
40%以上
50%未満
50%以上
60%未満
60%以上
70%未満
70%以上
80%未満
80%以上
90%未満
90%以上
100%未満
100%以上 合計
事務所数 6 6 31 52 16 58 143 312
169
全事務所に対する割合 54.1% 45.8% 100%

 さらに、督励計画を達成している143事務所についても、表3 のとおり、要求水準の達成度合いが100%以上の事務所は2事務所のみであり、残りの141事務所は督励計画の達成が要求水準の達成に結びついていない状況であった。

表3
 督励計画を達成している143事務所の要求水準の達成度合い

要求水準の達成度合い 40%以上
50%未満
50%以上
60%未満
60%以上
70%未満
70%以上
80%未満
80%以上
90%未満
90%以上
100%未満
100%以上 合計
事務所数 21 78 5 21 15 1 2 143
141
全事務所に対する割合 98.6% 1.3% 100%

 そこで、21年度開始分の11契約について、納付督励の実施率及び要求水準の達成度合いの算定基礎となる納付督励の件数及び納付月数をみると、図2 のとおり、貴機構により業務改善の指示が出された22年7月以降、納付督励の件数は業務改善の指示前より増加しており、一定の改善傾向が見受けられる。その一方で、納付月数は納付督励の件数ほど増加しておらず、21年12月と22年12月における納付督励の件数と納付月数の実績を比較すると、納付督励の件数は2.1倍に増加しているのに対し、納付月数は1.3倍となっていて、増加の割合が低くなっている。

図2 納付督励の件数と納付月数の推移

図2納付督励の件数と納付月数の推移

 このことから、納付督励の実施に当たって単に納付督励の回数を増加させるだけでは、必ずしも納付月数の増加に結びついていないと認められる。
 なお、納付月数は年末に増加しているが、これは貴機構が直接行う納付対策の一環として、滞納者に対し納付書を一斉送付した時期と重なっており、この貴機構の取組も寄与していると認められた。

(2) 業務改善の状況

 貴機構は、前記のとおり、要求水準の達成状況が著しく低調であったため、22年7月に、21年度開始分の契約の受託事業者4社に対して、公共サービス改革法第27条に基づく業務改善の指示を行っている。
 しかし、これを受けて各受託事業者から提出された業務改善計画書は、増員による人員体制等の整備、戸別訪問の強化等の納付督励の手法の改善等を図るとしていたものの、人員の増員規模が従来の体制に数名程度の増員をするなど若干の補強をする程度にとどまっていたり、納付督励の手法の改善内容も具体性に乏しいものであったりするなど、総じて要求水準達成の実現可能性に疑義があるものとなっていた。
 また、貴機構は、22年10月に新規の契約を締結する際、「国民年金保険料の収納事業民間競争入札実施要項」において、これまで民間事業者の提案と裁量に委ねることとしていた具体的な事業の実施体制等について、戸別訪問員の必須配置数を設けるなどして訪問督励の取組を強化したり、入札の方式を従来よりも企画提案書の内容を重視する方式に改めたりするなどの改善措置を講じた。

ア 訪問督励の取組強化

 前記の22年5月から23年2月までの間の納付督励の対象となった滞納者は計104万人であり、これらの滞納者に対する納付督励の事跡及び納付実績を対象として、貴機構が他の手法より効果的な納付督励の方法であるとし、業務改善の指示等においてもその強化を図ることとした訪問督励の効果についてみたところ、訪問督励の結果接触できた者のうち納付の約束に至った者が占める割合は、10.6%にとどまっていた。そして、これらの者の納付率を見たところ、訪問督励の結果接触できた者の納付率は18.3%であり、さらに、接触できた者のうち納付の約束に至った者の納付率は、43.0%となっていた。
 このような状況となっている背景としては、訪問督励が、文書や電話の督励手法では納付に結びつかない滞納者を主な対象として実施されているためと思料され、このような督励方法のまま単に訪問員の増員を行ったとしても、必ずしも訪問督励が納付月数の増加に効果的に結びつくことにはならないものと認められる。

イ 入札方式の変更

 貴機構は、前記のとおり、企画提案書の内容を点数化し、それを入札価格で除した値が最も高い者が落札することとしていた従来の入札方式を、企画提案書の内容と入札価格を共に点数化(比率3対1)し、それらを合計した値が最も高い者が落札する方式(加算式)にすることにより、入札価格の高低よりも企画力を重視することとした。
 そこで、入札方式の変更後の督励の状況についてみると、22年度開始分の契約において、入札の際に提出された企画提案書では、落札した受託事業者3社が提案した22年10月から23年2月までの電話督励及び訪問督励の予定件数は合計で1704万件(うち電話督励1576万件、訪問督励128万件)とされているにもかかわらず、実際に委託業務を開始する際に提出された督励計画の計画件数は合計で1226万件(うち電話督励1129万件、訪問督励97万件)と企画提案書の予定件数を大きく下回っていた(企画提案書の予定件数の71.9%)。そして、実際に督励を行った件数は、685万件(うち電話督励602万件、訪問督励82万件)であり、企画提案書の予定件数の40.1%(うち電話督励38.2%、訪問督励64.3%)にとどまっていた。
 貴機構は、業務の具体的な遂行の在り方等については受託事業者の裁量に委ねるという市場化テストの枠組みの下ではあるが、受託事業者に対して業務監督としての指導等を行い、企画提案書の内容を大きく下回る督励計画の再検討を求めている。しかし、現実には企画提案書を大きく下回る督励計画により納付督励が行われており、結果として実績も低調となっているなど、入札方式の変更の効果が発現していない状況が見受けられた。

(3) 受託事業者による納付督励の成果

 前記のとおり、貴機構は、本件委託事業の進捗管理を要求水準の達成率や督励計画に対する実績等により行うこととしている。そして、要求水準の達成率の算定基礎となる納付月数の実績についてみると、滞納者が納付した月数から貴機構が実施した強制徴収に係る月数を除いたものとなっている。しかし、受託事業者による納付督励は毎月全ての滞納者に対して行うことになっていないため、この実績には、納付督励の対象ではあるが、滞納者との接触等がないまま、納付義務者が自主的に納付(以下「自然納付」という。)した分、すなわち、納付督励と直接的な因果関係が認められない分が含まれることになる。
 そこで、本院が貴機構本部から提供を受けたデータにより、受託事業者による納付督励の成果等について分析を行ったところ、次のとおりとなっていた。
 検査の対象とした22年5月から23年2月までの納付督励の対象月(20年4月から22年12月まで)における納付対象月数は計197,563,424月であり、このうち納付されていた月数は計44,385,410月であった。この納付されていた月数のうち、受託事業者が納付の約束を取り付けた事跡がある滞納者の納付月数を算出すると計11,653,274月と納付月数全体の26.2%となっていた。
 このように、納付月数の実績のうち、受託事業者による納付督励と直接的な因果関係が認められる納付月数は極めて限られているため、貴機構が進捗管理に用いている要求水準の達成率は、受託事業者の直接的な納付督励の成果を正確に把握する指標となっておらず、本件委託事業の進捗管理に際しては、より精度の高い指標を用いて受託事業者の成果を評価する必要があると認められる。

 (改善を必要とする事態)

 前記のとおり、本件委託事業において、市場化テスト事業の枠組みの中で、民間事業者の創意工夫を更に求めるために業務監督を行うなどしたものの、納付の増加に結びつく督励となっていなかったり、訪問督励が有効に活用されていなかったり、受託事業者の策定した督励計画が入札の際に提出した企画提案書の内容とかい離していたり、進捗管理に用いている要求水準の達成率が、受託事業者の直接的な納付督励の成果を正確に把握する指標となっていないなどの事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴機構において、次のことなどによると認められる。
ア 事業の実施に際して納付督励の手法の検討が十分でないこと
イ 受託事業者が提出した企画提案書の内容に沿った督励計画により納付督励が実施されるための受託事業者に対する指導等が十分でないこと
ウ 受託事業者の納付督励の成果をより適正に把握し評価することに対する検討が十分でないこと

3 本院が表示する意見

 我が国の公的年金制度は、国民の老後等の生活保障を担う重要な制度であるが、前記のとおり、国民年金保険料の納付率は、近年、急速に低下の一途をたどっている。この状況は、無年金者・低額年金者の増大を引き起こすことにつながるだけでなく、公的年金制度の根幹に関わる大きな問題であり、保険料の未納対策は喫緊の課題となっている。
 そして、本件委託事業は、市場化テスト事業として実施され、民間事業者の創意工夫を最大限に活用することとされている。
 ついては、貴機構において、次のような措置を講ずるなどして、本件委託事業の業務について抜本的に見直すよう意見を表示する。
ア 貴機構の取組と受託事業者の納付督励との更なる連携を進めるとともに、訪問督励の効果的な活用方法等、有効な納付督励の手法について十分に検討すること
イ 受託事業者が提出した企画提案書の内容に沿った督励計画により督励が実施されるよう、受託事業者に対する指導等の方策を検討すること
ウ 受託事業者による直接的な納付督励の成果がより適正に反映されるような達成目標及び実績の測定・把握方法を確立し、その評価に基づいて、事業の進捗管理を行う方法について検討を行うこと