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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

人事・給与等業務・システム、調達業務の業務・システム並びに旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システムの3の府省共通業務・システムにおける最適化の進捗状況等について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

 3の府省共通業務・システムは、当初の最適化計画が順次改定されており、これに伴い参加府省等の運用開始が遅延していて、最適化効果の発現が大幅に遅延している。そのため、これまでの経緯及び現状を検査するとともに、効率性、有効性等の観点から、最適化の実施に当たり、担当府省と参加府省等との間や関連するシステムとの間でどのような調整が行われているか、また、最適化の進捗の遅延により参加府省等にどのような影響が生じているか、さらに、最適化を円滑に進捗させるための具体的課題は何かなどに着眼して検査を行った。
 検査の状況の概要は、以下のとおりである。

ア 3の府省共通業務・システムの経緯及び現状

(ア) 人給システムの経緯及び現状

 人給システムは、16年2月の当初の最適化計画では、「分散方式」を前提としていたが、運用経費や業務処理時間の削減に関して一層効果を上げるために、19年7月に「集中管理方式」へ運用方式が変更され、人事院は、20年度から23年度までの間にシステムの設計・開発等を行っており、既にシステムが構築されていて、23年度以降、運用段階に入っている。
 人給システムに係る人事院及び総務省の15年度から23年度までの間の支出金額は、計89億2734万余円となっており、これ以外にも、国庫債務負担行為による24年度から28年度までの間の運用経費等の予算額は、計31億2059万余円となっている。
 人給システムに係る参加府省等のシステムへの参画時期は、16年2月の当初の最適化計画では、17年度から19年度までの間となっていたが、その後、最適化計画の改定に伴い、順次、参加府省等の運用開始は遅延し、23年申合せでは、参加府省等は、27年度までに運用を開始するなどとしている。また、24年7月末現在では、6省庁等が、人給システムを並行稼働しながらデータの整合性の確認等を行っている。(参照

(イ) 調達システムの経緯及び現状

 調達システムは、16年9月に当初の官房5業務の各業務・システムの最適化計画が策定された後、「電子契約システム」として、設計・開発が行われたが、19年度の「予算執行等管理システム」のシステム化に関する実現可能性調査等の影響を受けて設計・開発が遅延したり、22年2月の旅費業務の実態調査の影響を受けて22年度からの設計・開発業務に向けた調達手続が一旦中止されたりしており、24年7月末現在、システムの構築のため、設計・開発が行われている。
 調達システムに係る総務省の17年度から23年度までの間の支出金額は、計5億3994万余円となっており、これ以外にも、国庫債務負担行為による24、25両年度の開発経費等の予算額は、計10億4974万余円となっている。
 調達システムに係る参加府省等のシステムへの参画時期は、16年9月の官房5業務の各業務・システムの最適化計画で、20、21両年度となっており、23年7月改定の調達システムの最適化計画に基づく参加府省等のシステムへの参画時期は、26年3月又は同年4月となっている。(参照

(ウ) 旅費等システムの経緯及び現状

 旅費等システムは、16年9月に当初の官房5業務の各業務・システムの最適化計画が策定された後、「予算執行等管理システム」として、設計・開発が行われたが、システムの構築のため、今後、設計・開発が行われる。
 旅費等システムに係る経済産業省の16年度から23年度までの間の支出金額(官房5業務の各業務・システムの最適化計画に係る開発経費を含む。)は、計14億4776万余円となっており、これ以外にも、国庫債務負担行為による24、25両年度の開発経費等の予算額は、計13億2062万円となっている。
 旅費等システムに係る参加府省等のシステムへの参画時期は、16年9月の官房5業務の各業務・システムの最適化計画で、20、21両年度となっており、24年1月改定の旅費等システムの最適化計画に基づく参加府省等のシステムへの参画時期は、旅費、謝金・諸手当に係るシステムは26年1月又は27年1月、物品管理に係るシステムは26年4月又は27年4月となっている。(参照

イ 担当府省と参加府省等との間の調整

(ア) 人給システムにおける調整

 当初の「分散方式」による人給システムの設計・開発では、参加府省等から多くの意見等が寄せられたが、これらのうちには、企画段階において、担当府省と参加府省等との間で、最適化の対象となる業務範囲等について十分調整を図り、政府全体としての共通認識を持って要件定義を行っていれば、本来生じなかったものも多いと考えられるが、初期開発の要件定義に係る資料が保存されていないため、会計実地検査では、どのような確認、合意等が行われたのか確認できず、担当府省として十分な説明責任を果たしていない。
 また、参加府省等は、移行作業に求められる具体的な業務内容や技術水準等に関する情報が少なく、人事院においても、より多くの情報を参加府省等に提供することにより、移行作業が円滑に実施できるよう支援する必要がある。さらに、最適化効果に関する統一的な視点からの評価を可能とするため、人事院は、内閣官房等とも調整の上、参加府省等の移行経費を適切に把握して投資額に含めるよう検討する必要がある。(参照 )。投資対効果の観点から参加府省等の移行経費を最適化の実施に係る投資額として計上できるよう参加府省等の移行作業の業務内容を十分把握するなど、移行経費の合理的な算定方法について検討することは、別途「人事・給与等業務・システムについて、参加府省等との調整をより一層実施するなどして、安定的に運用できるよう引き続き改修に努めるとともに、参加府省等と十分情報共有を図り移行支援を実施するなどして、最適化効果が早期に発現するよう内閣総理大臣及び人事院総裁に対して意見を表示したもの」 (以下「意見表示報告書」という。)記載)

(イ) 調達システム及び旅費等システムにおける調整

 調達システム及び旅費等システムに関しては、18年度の「予算執行等管理システム」の設計・開発段階のライフサイクルコストの試算が、企画段階での試算を大幅に上回ったが、このような事態は、企画段階において、担当府省と参加府省等との間で、最適化の対象となる業務範囲等について十分調整を図り、政府全体としての共通認識を持って要件定義を行っていれば、本来生じなかったものと考えられるが、企画段階の要件定義に係る資料が保存されていないため、会計実地検査では、どのような確認、合意等が行われたのか確認できず、担当府省として十分な説明責任を果たしていない(参照 )。

ウ 連携する他のシステムとの間の調整

 3の府省共通業務・システムの設計・開発は、その基盤となる共同利用システム基盤等の調達と密接に関係するため、相互の調達時期等について十分調整する必要があるが、共同利用システム基盤の調達時期の変更が調達システムの機器等の調達に影響を与えていた事態や、職員等利用者認証基盤業務の業務・システムにおいて、人給システム等との連携が遅延しているために、最適化効果の発現に影響を与えている事態が見受けられた(参照 )。

エ 最適化の遅延による影響

 3の府省共通業務・システムは、参加府省等の運用開始が遅延しているため、削減経費等の最適化効果が発現していない。また、参加府省等は、引き続き独自システムに係る現行経費を支出しているほか、最適化の進捗の遅延により、サーバ等の機器調達やソフトウェアの更新等の費用が発生するなどしている。
 人給システムに関しては、22年度の移行作業の遅延を受けて、現在も移行作業を継続している参加府省等においては、独自システムと人給システムへの二重のデータ入力作業等に多大な労力を要していたり、今まで実施してきた移行作業を一旦中止し、改めて「新移行方式」により移行作業を実施する参加府省等においては、一度整備したデータの修正作業等が必要となったりしている。
 共同利用システム基盤における人給システムに係るデータベースサーバのデータ領域の使用率は、人給システムを運用している府省等が少ないことなどから、0.1%から1.9%までとなっており、26年10月以降に運用開始を予定している11府省等については、本番稼働を迎えることなく賃借期間が終了するおそれがあると思料される。また、独自の電子入札システムを運用していた3省庁は、22、23両年度に、電子入札システムを休止している。(参照

オ 最適化を円滑に進捗させるための具体的課題

 人給システムについて、22年度から実施された移行作業の遅延等により、参加府省等の運用開始が大幅に遅延しており、実施された設計・開発や移行作業の業務等に関して、次の(ア)から(エ)までのとおり最適化を円滑に進捗させるための具体的課題が見受けられた。

(ア) 設計・開発段階における課題

 第1期から第3期までの設計・改修業務においては、設計・改修業者に品質点検や再発防止に向けた対策を求めるなどしたため、総合テストや受入テストが大幅に遅延している。また、性能要件の定義に当たり、参加府省等の業務内容を十分把握していなかったことなどから、22年度に参加府省等のデータを人給システムに登録して参加府省等がシステムを並行稼働させたところ、性能に係る障害が数多く発生し、人事院において改修等を実施しているものの、現在も安定的なシステム運用が実現できていない。(参照 )。参加府省等と人給システムの改修の優先順位等を調整の上、引き続き改修に努めるとともに、改修業務についてシステムの品質を確保するためにテストの作業工程や作業期間を十分検討することは、意見表示報告書記載

(イ) 移行作業における課題

 人事院は、移行作業の準備段階では、登録データの作成に当たって、事前にデータの品質を確保する必要があることなどを十分伝えていないなど、人事院と参加府省等との間で十分な情報共有が図られていなかったことなどから、人給システムに登録したデータの整合性が確保できないエラーが多数発生した。また、人事院のヘルプデスク業務は、参加府省等の運用開始が大幅に遅延したことなどから、実際の業務内容や業務量が当初の想定と大きく異なっている。(参照 )。人給システムの移行作業について参加府省等と十分情報共有を図って移行支援を実施するとともに、ヘルプデスク業務について必要となる業務量や業務内容を十分検討することは、意見表示報告書記載

(ウ) プロジェクト管理支援業務における課題

 人事院は、プロジェクト管理支援業務の契約完了を、システムの設計・改修業務の契約期間内に終了してしまったり、プロジェクト管理支援業務の契約期間内で完了しなかった管理支援業務についてその後のプロジェクト管理支援業務として実施したりしており、管理支援業者の技術的支援が十分受けられるようプロジェクト管理支援業務の契約期間や業務内容等を十分検討する必要がある(参照 )。プロジェクト管理支援業務について管理支援業者の技術的支援が十分受けられるよう契約期間や業務内容等を十分検討することは、意見表示報告書記載 )。

(エ) 人事院における業務執行体制等の課題

 人事院は、参加府省等からの人材を、主に併任によって確保しており、参加府省等の人材面からの協力なしに、単独で業務執行体制を維持することが困難であることから、効率的かつ効果的な業務執行体制の構築を検討した上で、参加府省等と十分調整を図り、また、移行作業を進捗させるための課題に係る情報の共有をより一層実施する必要がある(参照 )。人給システムの移行作業について参加府省等と十分情報共有を図って移行支援を実施することは、意見表示報告書記載 )。

(2) 所見

 政府は、電子行政の取組を迅速かつ強力に推進していくため、「電子行政推進に関する基本方針」(平成23年8月IT戦略本部決定)に基づき、24年8月、内閣官房に政府情報化統括責任者(政府CIO)を設置した。
 同月決定された「政府CIO制度の推進体制について」(平成24年8月IT戦略本部決定・行政改革実行本部決定)において、政府CIOは、IT政策を担当する国務大臣及び行政改革担当大臣を助け、同基本方針のうち、政府CIO制度の役割として掲げられた事項に基づいた職務に関する企画及び立案並びに総合調整を行うこととされており、また、政府CIOを中心に、政府全体として、制度・業務プロセス改革の推進に資する電子行政の合理化・効率化・高度化の取組を迅速かつ強力に推進していくこととされている。
 府省共通業務・システムの最適化を円滑に実施するためには、企画、設計・開発等の各段階において、担当府省と参加府省等との間で十分調整を図るなどして、政府全体が一体となって、プロジェクトを推進していくことが重要であり、政府CIOを中心に政府全体として、早期に、最適化の円滑な進捗に取り組むことが望まれる。
 3の府省共通業務・システムは、当初の最適化計画が順次改定されるなどしており、これに伴い参加府省等の運用開始が遅延していて、最適化効果の発現が遅延しているだけでなく、参加府省等において独自システムの更新等のために新たな経費が発生したり、人給システムの移行作業に多大な労力を要していたりなどしている。また、人事院と参加府省等との間で十分な情報共有が図られていなかったことなどから、人給システムに登録したデータの整合性が確保できないエラーが多数発生したり、「予算執行等管理システム」の要件定義において、参加府省等の個別業務を取り入れたことなどから、システム開発費等が企画段階での試算を大幅に上回り、システムの設計・開発が企画段階に戻って再検討されたりしている。さらに、初期開発や企画段階での要件定義に係る資料が保存されていないため、担当府省と参加府省等との間でどのような確認、合意等が行われていたのか確認できず、担当府省として十分な説明責任を果たしていなかったり、連携する他の府省共通業務・システムの最適化効果の発現に影響を与えていたりしているなどの事態が見受けられる。
 そこで、3の府省共通業務・システムについて、担当府省と参加府省等において、これまでの経緯及び現状を十分踏まえた上で、参加府省等が早期に運用開始できるように、次のことを実施するなどして、最適化効果を早期に発現させるとともに、内閣官房においても、政府全体として最適化が円滑に進捗するように、総合調整等を行うことが必要である。

ア 設計・開発、改修や移行作業に当たっては、担当府省と参加府省等との間で十分な調整が図られるよう、必要となる課題等の情報の共有を更に進めること
イ 設計・開発、改修等の要件定義に当たっては、担当府省と参加府省等との間で十分協議して、その内容を決定すること
ウ 担当府省においては、担当府省と参加府省等との間の協議事項に関する情報について、システムの構築から運用まで一貫して管理していくこと
エ 連携する業務・システムにおいても最適化効果が早期に発現できるよう、協力、調整等について引き続き努力すること

 会計検査院としては、電子行政の推進や政府CIO制度の推進に向けた政府の動きに留意するとともに、3の府省共通業務・システムの最適化が円滑に進捗し、最適化効果が早期に発現するよう、今後とも引き続き注視していくこととする。