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  • 東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について

第2 検査の結果


1 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

国は、原子力損害の賠償に関する様々な支援等を行ってきている。これらの支援等に係る財政負担等の状況は、図表1-1のとおりであり、国が負担等をした額は、計3兆3044億余円となっている。

これらのうち、「交付国債の交付」については、機構に交付された5兆円の交付国債のうち3兆7893億余円を上限として償還を行うことにより国が財政上の負担をする一方で、機構の損益計算の結果生じた利益が国庫に納付されるという仕組みで、各原子力事業者が機構に納付する負担金により償還された資金が実質的に回収されることになっている。一方、交付国債の償還のための借入金等に係る利払費用のように、その額が今後も増こうするものがある。なお、これらの金額には、国における事務に従事する職員の人件費は含まれていない。

図表1-1 原子力損害の賠償に関する支援等に係る国の財政負担等の状況

(単位:百万円)


項目 金額 会計 本報告書での記載箇所
1 補償契約に基づく補償金の支払額 120,000 一般会計 (1)ア
2 補償金の支払に先立つ審査、調査等に係る委託 70 一般会計 (1)ア
3 東京電力の経営・財務の調査に係る委託費用 508 一般会計 (1)イ(ア)
4 機構への出資 7,000 一般会計 (1)イ(イ)
5 (交付国債の交付)
<うち東京電力への交付を決定した額>
うち平成25年9月末までに国から機構に償還済みの額
(5,000,000)
<3,789,334>
3,048,300
エネルギー対策特別会計
原子力損害賠償支援勘定
(1)イ(イ)
6 一般会計からエネルギー対策特別会計原子力損
害賠償支援勘定への繰入れ
1,052 一般会計 (1)イ(イ)
7 原子力損害賠償支援資金のうち25年9月末まで
に利払のため取り崩した額
1,063 一般会計 (1)イ(イ)
8 仮払金の支払に係る委託費用 18 一般会計 (1)ウ(ア)
9 仮払法に基づく原子力被害応急対策基金の設置
費用
40,385 一般会計 (1)ウ(イ)
10 福島県民健康管理基金の設置費用 84,162 23年度:一般会計
24年度:東日本大震災復興
特別会計
(1)オ(イ)
11 原子力損害賠償紛争審査会の設置、運営等の費
28 23年度:一般会計
24年度:東日本大震災復興
特別会計
(2)ア
12 原子力損害賠償紛争解決センターの設置、運営
等の費用
1,833 23年度:一般会計
24年度:東日本大震災復興
特別会計
(2)イ(エ)
3,304,424
政府保証の限度額 23年度 2,000,000
24年度 4,000,000
25年度 4,000,000
一般会計 (1)イ(イ)
(注)
番号5及び7の項目は平成25年9月末までの状況であり、それ以外の番号の項目は24年度末までの状況である。

上記のほか、国が23年原発事故に対処するために要した費用としては、延べ約80,000人に及ぶ自衛隊の原子力災害派遣に要した費用、除染に関連して国が負担している費用等がある。

(1) 国による財政上の措置等の状況

ア 補償契約による補償等の状況

補償契約は、前記のとおり、原子力事業者と民間保険会社等との間の責任保険契約等では対応できない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が国に補償料を納付する契約である。補償契約法において、補償契約により原子力事業者に支払われる補償金は、補償契約金額までとされており、また、そのために原子力事業者が支払うべき補償料の額については、補償契約金額に補償損失の発生の見込み、補償契約に関する国の事務取扱費等を勘案して政令で定める料率を乗じて得た金額に相当する金額とすることとされている。

そして、23年原発事故の発生を受けて、国と東京電力の間で昭和45年1月に締結された福島第一原発に係る補償契約に基づき、平成23年11月に、国から東京電力に対して補償金1200億円が支払われている。

なお、補償金の支払に先立って、文部科学省は、補償金支払の請求の受付及び請求に係る書類の記載事項に関する審査、調査等を損害保険会社に委託して実施しており、一般会計から7095万余円が支出されている。

原子力事業者から支払われる補償料及び国から支払われる補償金の経理はいずれも一般会計で処理されており、全ての原子力事業者からの補償料の収納済歳入額は、補償契約制度が発足した昭和36年度から平成23年度までの間で、図表1-2のとおり、計158億0319万余円となっている。

図表1-2 補償契約に基づく補償料の収納済歳入額(昭和36年度~平成23年度)

年度 補償料の
収納済歳入額
(千円)
注(1)
賠償措置の額
注(1)
補償料率
(参考)
熱出力1万kW超の原子炉の「原子炉の運
転」に係る一事業所当たりの1か年分の
補償料
昭和36 25 昭和37年3月15日~50億円 1万分の5 50億円×5/10,000=250万円
37 2,688
38 2,691
39 5,188
40 5,191
41 5,255
42 6,835
43 7,736
44 15,323
45 15,300
46 19,189 46年10月1日~60億円 60億円×5/10,000=300万円
47 25,796
48 34,832
49 39,112
50 36,182
51 46,786
52 49,980
53 52,941
54 70,765
55 93,578 55年1月1日~100億円 100億円×5/10,000=500万円
56 90,031
57 89,995
58 105,095
59 99,961
60 105,110
61 105,474
62 106,107
63 110,885
平成元 284,078 平成2年1月1日~300億円 300億円×5/10,000=1500万円
2 348,406
3 360,555
4 378,085
5 379,058
6 381,529
7 381,218
8 380,293
9 378,747
10 395,019
11 696,564 12年1月1日~600億円 600億円×5/10,000=3000万円
12 795,617
13 806,480
14 807,171
15 851,316
16 854,445
17 821,923
18 823,064
19 790,623
20 850,708
21 890,595
22 914,876 22年1月1日~1200億円 1万分の3 1200億円×3/10,000 注(2)=3600万円
23 884,751
15,803,193
注(1)
熱出力が1万キロワット超の原子炉の運転の場合(原賠法が規定する最高額)
注(2)
補償料率は、23年原発事故後に改正され、平成24年4月1日以降、熱出力1万キロワット超の原子炉の運転に係る補償契約については、1万分の20へと引き上げられており、1か年分の補償料は3600万円から2億4000万円に引き上げられている。

23年原発事故前に補償契約に基づく補償金が支払われた実績はなく、補償契約に基づく補償金の支払は、前記23年11月の1200億円の支払が初めてとなっている。

なお、福島第一原発の「原子炉の運転」に係る補償料の収納済歳入額は、図表1-3のとおり、計6億0250万余円となっている。

図表1-3 福島第一原発の「原子炉の運転」に係る東京電力からの補償料の収納状況

補償料納付の対象期間 補償料の収納済
歳入額 (千円)
補償契約金額 補償料率
始期 終期
昭和45年1月16日 昭和46年1月15日 2,500 50億円 1万分の5
46年1月16日 47年1月15日 2,646 昭和46年10月1日~60億円
47年1月16日 48年1月15日 3,000
48年1月16日 49年1月15日 3,000
49年1月16日 50年1月15日 3,000
50年1月16日 51年1月15日 3,000
51年1月16日 52年1月15日 3,000
52年1月16日 53年1月15日 3,000
53年1月16日 54年1月15日 3,000
54年1月16日 55年1月15日 3,082 55年1月1日~100億円
55年1月16日 56年1月15日 5,000
56年1月16日 57年1月15日 5,000
57年1月16日 58年1月15日 5,000
58年1月16日 59年1月15日 5,000
59年1月16日 60年1月15日 5,000
60年1月16日 61年1月15日 5,000
61年1月16日 62年1月15日 5,000
62年1月16日 63年1月15日 5,000
63年1月16日 平成元年1月15日 5,000
平成元年1月16日 2年1月15日 5,410 平成2年1月1日~300億円
02年1月16日 3年1月15日 15,000
03年1月16日 4年1月15日 15,000
04年1月16日 5年1月15日 15,000
05年1月16日 6年1月15日 15,000
06年1月16日 7年1月15日 15,000
07年1月16日 8年1月15日 15,000
08年1月16日 9年1月15日 15,000
09年1月16日 10年1月15日 15,000
10年1月16日 11年1月15日 15,000
11年1月16日 12年1月15日 15,616 12年1月1日~600億円
12年1月16日 13年1月15日 30,000
13年1月16日 14年1月15日 30,000
14年1月16日 15年1月15日 30,000
15年1月16日 16年1月15日 30,000
16年1月16日 17年1月15日 30,000
17年1月16日 18年1月15日 30,000
18年1月16日 19年1月15日 30,000
19年1月16日 20年1月15日 30,000
20年1月16日 21年1月15日 30,000
21年1月16日 22年1月15日 30,246 22年1月1日~1200億円 1万分の3
22年1月16日 23年1月15日 36,000
23年1月16日 24年1月15日 36,000
602,502
(注)
補償契約期間が平成18年度以前のものについては証拠書類の保存年限が経過しているが、補償契約法等の規定から推定計算している。

福島第一原発については、23年原発事故に伴う補償金1200億円が支払われたことにより原子力損害賠償に充てることができる金額が0円となったが、文部科学大臣は、23年12月7日に、原賠法第7条第2項の規定に基づき、これを24年1月16日までに賠償措置額である1200億円に回復するよう東京電力に命じている。これは、仮に新たな地震や津波等が発生した場合には、福島第一原発に関して新たな原子力損害が生ずる可能性がないとはいえないことから、その賠償の履行を確保する措置を講じておく必要があったため執られた措置である。

東京電力は、上記の命令を踏まえて、政府と補償契約を締結し、24年1月13日に賠償措置額を1200億円に回復させたものの、保険期間が同月15日に満了する責任保険契約については、新たな責任保険契約の締結が困難な状況となっていた。このため、東京電力は、損害賠償措置として、責任保険契約及び補償契約の締結以外の方法として認められている「供託」を実施することとし、同月13日に1200億円を東京法務局に供託して損害賠償措置を講じている。

一方、特別事業計画を履行するなどのために現金の確保が喫緊の課題である東京電力は、責任保険契約を締結し、かつ、国と補償契約を締結することで、現金で供託している1200億円の返還を受けることができるといった事情を踏まえて、引き続き、民間保険会社との責任保険契約の締結の可能性を探っている。

なお、供託金には、供託法(明治32年法律第15号)の規定により、利息が付されることとなっている。その利率は、1年につき0.024パーセントとされており、保証としての金銭の供託の場合には、毎年、供託した月に応当する月の末日後に、同日までの利息の払渡しを受けることができることとされている。上記の供託金1200億円に関しては、24年2月から25年1月までの分として2880万円の利息が付されており、東京電力は、同年2月27日に同額を受領している。

機構を通じた賠償を支援するための措置の実施状況

(ア) 機構の業務の前提となる調査委員会の設置及び運営

前記のとおり、東京電力から原賠法第16条に基づき国の援助の枠組みの策定等の支援を求められたことを受けて、政府は、①賠償総額の上限を設けない、②福島第一原発の安定化に全力を尽くす、③電力の安定供給等の安全確保のための経費確保、④最大限の経営合理化、⑤厳正な資産評価等のための政府が設ける第三者委員会の経営財務の実態調査への対応、⑥利害関係者への協力要請等が確認されたとして、23年5月13日の関係閣僚会合において東京電力に対する支援の実施を決定した。

そして、上記の関係閣僚会合において、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うこととしたことを踏まえて、同月24日の閣議において、有識者から成る調査委員会を開催し、東京電力の厳正な資産評価と徹底した経費の見直しのために経営・財務の調査を行い、その調査結果を政府の東京電力に対する支援に活用することとし、同年6月、内閣官房に調査委員会を設置した。調査委員会による調査は、問題の緊急性に鑑みて、法律事務所、監査法人等に委託して行われることとなり、そのための経費は平成23年度第2次補正予算(23年7月25日成立。以下「23年度2次補正」という。)において措置された。この調査は同年7月25日から開始され、その結果は同年10月3日に委員会報告として取りまとめられた。委託費の支払額は、図表1-4のとおりであり、計5億0874万余円が一般会計から支出されている。

図表1-4 東京電力の経営・財務の調査に係る委託の状況

(単位:千円)

契約件名 支払額 委託先の選定方法 委託先
東京電力株式会社の経営・財務等に係る調査
(法務に係るデュー・デリジェンス)
115,342 総合評価方式
(応札者:3者)
西村あさひ法律事務所
東京電力株式会社の経営・財務等に係る調査
(財務・税務に係るデュー・デリジェンス)
201,180 総合評価方式
(応札者:4者)
有限責任監査法人トーマツ
東京電力株式会社の経営・財務等に係る調査
(事業に係るデュー・デリジェンス)
192,225 総合評価方式
(応札者:3者)
株式会社ボストン・コンサル
ティング・グループ
508,748
(注)
デュー・デリジェンスとは、投資に先立ち行われる資産査定のことをいう。
(イ) 国から機構に対する財政上の措置の状況

機構法の成立に伴い、国が機構に対して各種の財政上の措置(交付国債の交付等)を講ずる仕組みが設けられた。

これを受けて、機構に対する財政援助に係る資金管理を行い、交付国債の償還財源の調達を区分経理することにより、その経理を明確化する必要があること、また、国の原子力政策に係る経理については従前からエネルギー対策特別会計が管理していることなどから、23年8月に特別会計法が改正され、同特別会計に新たに原子力損害賠償支援勘定(以下「原賠勘定」という。)が設けられ、交付国債の償還のための借入金等を区分経理することとされた。

国の機構に対する財政上の措置の状況は、図表1-5のとおりとなっており、出資、交付国債の交付、政府保証等の様々な措置が講じられている。

図表1-5 国の機構に対する財政上の措置の状況

国の機構に対する財政上の措置の状況

注(1)
各金額は、平成25年度予算又は25年9月末までの実績に基づくものである。ただし、「賠償2兆9100億円」は、同年9月27日までの支払額である。
注(2)
東京電力から原子力損害を受けた者に対する「賠償2兆9100億円」には、補償契約に基づく補償金1200億円を原資とした分が含まれている。
注(3)
機構に対して出資した「原子力事業者等」には、原子力事業者ではないため一般負担金を納付していない電源開発株式会社が含まれる(後掲図表1-6参照)。
注(4)
一般負担金は、消費者から直接電気料金を受領していない日本原子力発電株式会社及び日本原燃株式会社も納付することとされている(後掲図表2-8及び図表2-9参照)。

そして、国の機構に対する財政上の措置を措置別にみると、その状況は次のとおりとなっている。

a 機構への出資

経済産業省は、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施等を目的とした機構の設立のために、機構の資本金140億円のうち2分の1である70億円を負担することとし、23年度2次補正において同額が計上された。

そして、出資に当たっては、23年8月17日に一般会計から70億円を原賠勘定に繰り入れて、9月6日に同額を原賠勘定から支出して機構への出資に充てた。また、残る2分の1である70億円については、図表1-6のとおり、原子力事業者等である12社が出資している。

図表1-6 原子力事業者等12社の出資の状況

原子力事業者等 出資額 出資
割合
備考
(保有している原子力発電所、原子炉の数、熱出力等)
北海道電力 2億5400万円 1.8% 泊3炉、計596.0万kW
東北電力 4億1800万円 3.0% 東通1炉、女川3炉、計975.8万kW
東京電力 23億7900万円 17.0% 福島第一6炉(廃止した4炉を含む。)、福島第二4炉、柏崎刈羽
7炉、東通(建設中)1炉、計5561.2万kW
中部電力 6億2200万円 4.4% 浜岡5炉(廃止した2炉を含む。)、計1454.1万kW
北陸電力 2億3600万円 1.7% 志賀2炉、計551.9万kW
関西電力 12億2900万円 8.8% 美浜3炉、大飯4炉、高浜4炉、計2881.9万kW
中国電力 3億3100万円 2.4% 島根3炉(1炉建設中)、計774.2万kW
四国電力 2億5400万円 1.8% 伊方3炉、計596.0万kW
九州電力 6億6000万円 4.7% 玄海4炉、川内2炉、計1546.6万kW
日本原子力発電 3億3200万円 2.4% 東海第二1炉、敦賀2炉、計778.0万kW
日本原燃 1億1700万円 0.8% 再処理工場等
電源開発 1億6800万円 1.2% 大間1炉(建設中)、392.6万kW
70億円 50% 59炉、計1億6108.3万kW(再処理工場等は除く。)
注(1)
原子力事業者等の名称中、「株式会社」は省略した。
注(2)
出資割合は、小数点以下第2位を四捨五入している。
b 交付国債の交付及び償還

交付国債を発行することができる金額の限度は、特別会計予算総則において定められている。その金額は、23年度2次補正では2兆円とされ、その後、平成23年度第3次補正予算(23年11月21日成立。以下「23年度3次補正」という。)で3兆円増額されて5兆円となっている。そして、23年11月8日に2兆円、同年12月9日に3兆円、計5兆円の交付国債が機構に交付された。

 

機構は、東京電力からの要望に応じて、図表1-7のとおり、23年11月8日から25年8月末までの間に20回、計3兆0483億円の交付国債について国に償還請求を行っている。そして、機構は、国から交付国債の償還を受け、同年9月末までに同額の資金を東京電力に対して交付している。

図表1-7 交付国債の償還請求の状況

機構からの
請求年月日
償還額 東京電力への
交付年月日
償還の累計額
1 平成23年11月8日 5587億円 23年11月15日 5587億円
2 24年3月2日 1049億円 24年3月27日 6636億円
3 4月3日 2186億円 4月23日 8822億円
4 4月27日 466億円 5月22日 9288億円
5 6月6日 809億円 6月29日 1兆0097億円
6 6月28日 1071億円 7月26日 1兆1168億円
7 8月2日 1551億円 8月21日 1兆2719億円
8 8月28日 547億円 9月24日 1兆3266億円
9 10月1日 497億円 10月24日 1兆3763億円
10 11月1日 932億円 11月27日 1兆4695億円
11 11月26日 292億円 12月18日 1兆4987億円
12 11月29日 2503億円 12月27日 1兆7490億円
13 12月27日 2717億円 25年1月22日 2兆0207億円
14 25年1月29日 2106億円 2月22日 2兆2313億円
15 3月22日 2235億円 4月18日 2兆4548億円
16 4月25日 1549億円 5月21日 2兆6097億円
17 5月30日 1151億円 6月24日 2兆7248億円
18 6月27日 732億円 7月24日 2兆7980億円
19 7月29日 1762億円 8月21日 2兆9742億円
20 8月27日 741億円 9月24日 3兆0483億円

国は、交付国債の償還に当たり、原賠勘定の負担に属する借入金の借入れ、融通証券の発行等を行っている。ただし、借入金の借入れ、融通証券の発行等に係る事務は、特別会計法第16条の規定により財務大臣が行うこととされており、具体的には、図表1-8のように、財務省理財局が入札を実施して、短期の借入れを行ったり、政府短期証券である原子力損害賠償支援証券を発行したりすることにより金融機関から資金を調達している。

図表1-8 交付国債の償還の流れ(概念図)

交付国債の償還の流れ(概念図)

交付国債の償還に当たっては、23年度においては、入札による借入れでは日程的に困難であったため、政府短期証券の発行により資金調達が行われており、機構からの償還請求額が判明した後に、資源エネルギー庁から経済産業大臣名で「短期資金調達請求書」が財務大臣に提出され、償還請求額と同額の資金調
達の請求が行われていた。

24年度以降においては、資金調達は原則として借入金により行うこととし、借入金の入札に当たっては、①入札の3か月前に入札予定を公表する必要があること、②安定的な資金調達を行うためには一定の額を定期的に入札することが望ましいこと、③償還請求額に不足を来さないよう、ある程度余裕のある資金調達を行う必要があることなどから、資源エネルギー庁があらかじめ償還請求額を見込んだ上で財務省に対して短期資金の調達を請求し、財務省は請求のあった額を入札により調達している(償還請求、入札、償還等の状況については、巻末別表1参照)。

そして、上記のとおり、資源エネルギー庁は、財務省に対して短期資金の調達を請求しているが、特に24年度の上半期においては、事前に調達した資金に比べて実際の償還請求額が少額であったことなどにより、資金繰りに余裕が生じていた。

この余裕金については、前年度から繰り入れられた剰余金8億0683万余円や、機構からの国庫納付金799億9280万余円等とともに、資源エネルギー庁が資金繰りを勘案しながら財政投融資特別会計財政融資資金勘定に預託することにより運用しており、24年度において受取利息2億5687万余円が原賠勘定の歳入となっている(余裕金の預託の状況については、巻末別表2参照)。

また、原賠勘定には、交付国債の償還のために調達した資金に係る利払費用に充てるために、23年度末に、一般会計から繰り入れられた100億円を原資として原子力損害賠償支援資金(以下「原賠資金」という。)が設置されている。原賠資金は、24年度においては財政投融資特別会計財政融資資金勘定に預託することにより運用されており、同年度において受取利息978万余円が原賠勘定の歳入となっている(原賠資金の預託の状況については、巻末別表3参照)。

一方、原子力損害賠償支援証券の発行、借入金の借入れなどに係る支払利息の状況及び同証券に係る償還手数料等の状況は、図表1-9のとおりとなっており、25年9月末までに借り入れるなどして調達した資金については、今後、償還期限が到来するものも含めて支払利息が計53億5502万余円、償還手数料等が計2118万余円、合計53億7620万余円となっている。

図表1-9 原子力損害賠償支援証券の発行、借入金の借入れ等に係る支払利息等の状況

原子力損害賠償支援証券の発行、借入金の借入れ等に係る支払利息等の状況

注(1)
平成25年9月末までの発行又は借入れに係る状況である。
注(2)
種別欄の「証」は原子力損害賠償支援証券の発行、「借」は借入金、「時」は一時借入金である。
注(3)
機構に対して出資した「原子力事業者等」には、原子力事業者ではないため一般負担金を納付していない電源開発株式会社が含まれる(後掲図表1-6参照)。
注(4)
一般負担金は、消費者から直接電気料金を受領していない日本原子力発電株式会社及び日本原燃株式会社も納付することとされている(図表2-8及び図表2-9参照)。

これらの支払利息等については、一般会計から原賠勘定に繰り入れられた資金や前記の預託による受取利息収入が支払の財源となっている。

すなわち、23年度中に発行した原子力損害賠償支援証券に係る支払利息2億3953万余円及び償還手数料等577万余円、計2億4530万余円については、23年度に一般会計から原賠勘定に繰り入れられた10億5213万余円を財源として支払われている。なお、差額の8億0683万余円については、原賠勘定の剰余金として24年度に繰り越されている。

また、24年度中に償還期限が到来した借入金に係る支払利息3億4894万余円については、原賠資金の取崩しにより支払われており、償還手数料等1541万余円については、余裕金等の運用により生じた受取利息収入により支払われている。

さらに、25年度中、9月末までに償還期限が到来した借入金に係る支払利息は計16億6304万余円となっていて、これらは、前記の差額8億0683万余円、余裕金等の運用により生じた受取利息収入及び原賠資金計7億1477万余円の取崩しにより支払われている。

これらにより、原賠資金は、25年9月末までに10億6372万余円が取り崩されており、その残高は89億3627万余円となっている。

そして、25年10月以降に償還期限が到来する借入金及び一時借入金に係る支払予定利息は、同年9月末現在で判明しているだけでも25年度分計11億6415万余円、26年度分計19億4092万余円、合計31億0508万余円となっており、これらについては原賠資金の取崩しにより支払われる予定となっている。したがって、原賠資金の残高は、図表1-10のとおり、26年9月末までに58億3119万余円にまで減少する予定である。

図表1-10 原賠資金の残高の状況

利息の
支払年度
借入金等の
償還期限
元金
(億円)
支払(予定)利息
(千円)
原賠資金の
崩し(予定)額
(千円)
原賠資金の(予定)残高
<元金100億円>

(千円)
平成24年度 25年 2月20日 3000 348,943 348,943 9,651,056
25年度 4月22日 2999 346,438 9,651,056
5月20日 3000 344,800 9,651,056
6月20日 3000 327,031 70,000 9,581,056
7月22日 3000 322,758 322,758 9,258,297
9月20日 3000 322,020 322,020 8,936,277
小計 1,663,049 714,778
10月21日 3000 (322,115) (322,115) (8,614,162)
12月20日 3000 (203,835) (203,835) (8,410,327)
26年 1月20日 3000 (231,453) (231,453) (8,178,873)
2月20日 4000 (406,751) (406,751) (7,772,122)
小計 1,164,155 1,164,155
25年度の計 2,827,205 1,878,934
26年度 4月21日 3000 (302,169) (302,169) (7,469,952)
5月20日 4000 (441,130) (441,130) (7,028,822)
6月20日 4000 (385,777) (385,777) (6,643,044)
7月22日 4000 (389,970) (389,970) (6,253,073)
8月19日 1323 (132,300) (132,300) (6,120,773)
9月22日 3000 (289,578) (289,578) (5,831,195)
小計 1,940,926 1,940,926
合計 5,117,074 4,168,804
c 政府保証

政府は、機構法第61条の規定に基づき、国会の議決を経た金額の範囲内において、機構が行う金融機関等からの借入れ(借換えを含む。)又は原子力損害賠償支援機構債(以下「機構債」という。)の発行(機構債の借換えのための発行を含む。)に係る債務の保証を行うことができることとされている。

これを受けて、一般会計予算総則で政府保証契約の限度額が定められており、その金額は、23年度2次補正で2兆円、平成24年度予算で4兆円、平成25年度予算で4兆円となっている。

機構は、23年度においては、金融機関等からの借入れ及び機構債の発行を行わなかったが、24年度においては、4兆円の政府保証契約の限度額に対して、政府保証が付された金融機関からの1兆円の借入れを行い、25年度においては、当該1兆円に係る借換えを行っている。なお、この借入れにより調達した1兆円の資金は、東京電力が発行する株式の引受けに充てられている。

仮払法による賠償を支援するための措置の実施状況

(ア) 国の仮払金の支払実績等

仮払法は、前記のとおり、23年9月18日に施行されたが、その裏付けとなる仮払金の支払に関する予算については、23年度3次補正で263億円が措置され、また、当該事務に要する予算については、平成23年度一般会計東日本大震災復旧・復興予備費で1億3900万余円、23年度3次補正で7920万余円、計2億1820万余円が措置された。上記23年度3次補正の263億円は、旅館業等の観光に関連する6事業それぞれについて、各種統計データを用いた次の算式により算出された額を合算した仮払見込額である。

計算式

(注)
算式中の1/10は、23年原発事故後の風評被害を受けて、観光業者の1割が緊急的に国に対して仮払金の支払請求を行う(請求見込件数10,535件)との仮定によるもので、算式中の5/10は、仮払法施行令第2条第3項で定める割合である。

これに対して、国に対する仮払金の支払請求件数は、図表1-11のとおり、見込みを大きく下回る64件となり、支払件数は50件、計17億3326万余円にとどまった。

図表1-11 国の仮払金の支払実績

(単位:件、円)

請求年月 請求件数 支払件数 支払金額
平成23年9月 8 0 0
10月 29 0 0
11月 7 0 0
12月 3 35 1,456,953,278
24年1月 12 3 55,127,221
2月 3 12 221,184,437
3月 2 0 0
64 50 1,733,264,936

このように、前記の予算額263億円に対する執行率が6%程度にとどまっているのは、次のようなことによると考えられる。

すなわち、東京電力は、観光業者に対する風評被害の賠償において、当初は、国の仮払金と同様に、23年原発事故以外の要因による売上の減少を考慮することとし、阪神・淡路大震災後や東日本大震災後の統計データ等を基にして、賠償の対象とはならない23年原発事故以外の要因による売上の減少が20%あるとして支払額を算定していた。このように、23年原発事故以外の要因による売上減少率が20%とされたことにより、賠償を受けようとする観光業者が東京電力への賠償金の支払請求を留保していたとみられる中で、東京電力は、支払請求の受付の開始から1か月後の23年10月に、観光庁から公表された統計データ等を踏まえるなどして、売上減少率の見直しを行った。具体的には、同年8月末までの損害に係る売上減少率を①20%(同年3月11日~5月31日に適用)及び0%(同年6月1日~8月31日に適用)又は②10%(同年3月11日~8月31日)とし、同年9月以降の損害に係る売上減少率は一律0%として、23年原発事故以外の要因による売上の減少については最終的に考慮しないこととした。一方、文部科学省も、同年10月に上記と同様に売上減少率の引下げを行うなどした。このような状況の中、賠償を受けようとする観光業者は、原子力損害の概算額に最大で10分の5を乗じて得た額までしか支払われない国の緊急措置としての仮払金ではなく、一回の請求でより多額の支払を受けられる可能性のある東京電力による賠償を選択することになり、国の仮払金の支払額が予算額の6%程度にとどまったと考えられる。

なお、仮払金を支払った国から東京電力に対する損害賠償請求権については、図表1-11の50件の全てについて行使されており、24年3月末までに、17億3326万余円全額が東京電力から国に対して支払われている。

また、文部科学省は、上記の仮払金の支払に関する事務の一部を、機構及び東京電力に委託しており、図表1-12のとおり、該当する委託契約は3件、支出額は計1875万余円となっている(各委託契約に係る事務の実績については、後掲2(4)イ及び3(1)イ(カ)において記述する。)。

図表1-12 仮払金の支払に係る委託契約の状況

(単位:千円)

契約件名 契約先(契約年月日) 当初契約額 変更契約額 支出額
平成23年度特定原子力損害に係る
仮払金請求書受付業務委託事業
機構
(平成23年10月7日)
125,437 14,885 13,871
平成23年度特定原子力損害に係る
仮払金請求書補正等業務委託事業
東京電力
(23年10月7日)
13,566 6,409 3,752
平成23年度特定原子力損害に係る
仮払金払渡し業務委託事業
機構
(平成23年11月21日)
6,439 1,163 1,130
145,442 22,458 18,754

前記のとおり、仮払金の支払の請求件数が当初の見込みに達せず、支払の請求受付から支払に至るまでの一連の事務に係る人件費等の実績額が計画額を大幅に下回るなどしたため、仮払金の支払に関する事務に要した経費の支出額についても、当初契約金額を大きく下回ることとなった。

 

(イ) 仮払法に基づく地方公共団体の基金の設置状況等

前記のとおり、国は、地方公共団体が仮払法に基づく原子力被害応急対策基金を設ける場合に、予算の範囲内において、その財源に充てるために必要な資金を補助することができることとされている。

内閣府は、平成23年度一般会計東日本大震災復旧・復興予備費により、①農林水産物、食品等の全量検査体制の整備、②子どもの屋外活動の支援、③地域の「ふくしま」ブランド価値回復に向けた活動支援等の各事業の財源となる原子力被害応急対策基金の造成に要する経費403億8515万余円を措置し、24年3月に、放射線量低減対策特別緊急事業費補助金として福島県に同額を交付し、同県は福島県原子力被害応急対策基金を設置した。そして、同県は同年5月21日に同基金を活用して、市町村を通じて、県南、会津、南会津各地域の住民に対して給付金を給付することにより地域ブランドイメージの回復に向けた活動を支援するために、関係経費303億4200万円を福島県の24年度の補正予算に計上したことを発表した。

このように、福島県が、福島県原子力被害応急対策基金を活用して、給付金を給付することとしたのは、次のような事情によるためである。

すなわち、国の原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。審査会の設置の経緯等については、次項(2)アにおいて記述する。)が原子力損害の範囲の判定等について23年12月に定めた指針においては、福島県の県北、県中、相双、いわき各地域の計33市町村中、23市町村が「自主的避難等対象区域(注11)」として明示されたが、県南、会津、南会津各地域の計26市町村は上記の区域には含まれていなかった(地方自治法の規定に基づき福島県が地方振興局を設置している7地域の状況は図表1-13参照)。同指針では、自主的避難等対象区域以外の地域についても、個別具体的な事情に応じて賠償の対象と認められることとされていたものの、東京電力は、24年2月末に「自主的避難等に係る損害」の賠償を開始することを発表した時点では、同指針で示されていない26市町村を一律に当該賠償の対象とすることに難色を示しており、当該賠償の対象者を23年原発事故の発生日に23市町村に生活の本拠としての住居があった者に限定していた。このようなことなどから、福島県は、早急に福島県原子力被害応急対策基金を活用して、26市町村の住民に対して給付金を給付することとした。

図表1-13 福島県が地方振興局を設置している7地域の状況

福島県が地方振興局を設置している7地域の状況

なお、東京電力は、24年3月22日に、26市町村からの申入れや指針の内容等を踏まえて、県南地域の9市町村に生活の本拠としての住居があった者の一部についても、「自主的避難等に係る損害」の賠償の対象者に追加することとし、同年6月に賠償金の支払を開始するとともに、同年8月に、福島県原子力被害応急対策基金の積増しに充てるために、福島県に30億円の寄付を行った。26市町村に係る給付金の給付対象等は、図表1-14のとおりとなっており、地域、年齢等により区分されている。

(注11)
自主的避難等対象区域  ①福島第一原発からの距離、②避難指示等対象区域(審査会が平成23年8月に策定した指針においてその適用対象とされた区域)との近接性、③政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報、④自主的に避難した者の多寡等の要素を総合的に勘案し、審査会が決定した区域をいう。具体的には、県北地域の8市町村(福島、二本松、伊達、本宮各市、伊達郡桑折、国見、川俣各町、安達郡大玉村)、県中地域の12市町村(郡山、須賀川、田村各市、岩瀬郡鏡石町、石川郡石川、浅川、古殿各町、田村郡三春、小野両町、岩瀬郡天栄村、石川郡玉川、平田両村)、相双地域の2市町(相馬市及び相馬郡新地町)及びいわき地域の1市(いわき市)のうち、上記の避難指示等対象区域を除く区域である。

図表1-14 26市町村に係る給付金の給付対象等


地域
福島県原子力被害応急対策基金を財源とする給付金【受付開始:平成24年7月】
23年3月11日~12月31日 24年1月1日~
 18歳以下で
 あった者
妊娠していた期間がある者 左記以外の者  18歳以下で
あった者
妊娠していた期間がある者 左記以外の者
県南 10万円 10万円 4万円 × × ×
会津 20万円 20万円 4万円 × × ×
南会津 20万円 20万円 4万円 × × ×

地域
<参考>東京電力の賠償金【受付開始:24年6月、25年2月】
23年3月11日~12月31日 24年1月1日~
 18歳以下で
 あった者
妊娠していた期間がある者 左記以外の者  18歳以下で
あった者
妊娠していた期間がある者 左記以外の者
県南 20万円 20万円 × 8万円 8万円 4万円
会津 × × × × × ×
南会津 × × × × × ×
注(1)
図表中の金額は、1人当たりの給付金又は賠償金の受取額である。
注(2)
福島県原子力被害応急対策基金を財源とする給付金の支払は、市町村単位で行われ、当該給付金の支払申請の受付開始月日は市町村により異なる。
注(3)
「県南」は、白河市、西白河郡矢吹町、東白川郡棚倉、矢祭、塙各町、西白河郡西郷、泉崎、中島各村、東白川郡鮫川村の計9市町村である。
注(4)
「会津」は、会津若松、喜多方両市、耶麻郡西会津、磐梯、猪苗代各町、河沼郡会津坂下、柳津両町、大沼郡三島、金山、会津美里各町、耶麻郡北塩原村、河沼郡湯川村、大沼郡昭和村の計13市町村である。
注(5)
「南会津」は、南会津郡下郷、只見、南会津各町、南会津郡檜枝岐村の計4町村である。

そして、福島県原子力被害応急対策基金の使用実績及び年度末の残高は、図表1-15のとおり、24年度に26市町村の住民に対する給付金の給付事業に要した額が287億余円等となっていて、24年度末の基金残高は53億余円となっている。

図表1-15 福島県原子力被害応急対策基金の使用実績等(平成23、24両年度)

(単位:千円)


事業名 事業内容 事業費
(基金取崩額)
備考


23

学校給食検査
体制整備事業
学校給食に関してより一層の安全・安心を確保す
るために、給食施設のある県立学校に検査機器の
購入等を行い食材の検査体制を整備するととも
に、市町村の取組を支援
1,338,662 24年2月議会で予算
化。翌年度に繰越し
(金額は同年5月の県
一般会計への繰出額)
年度計 1,338,662
年度末基金残高 39,046,494
24

県南・会津・
南会津地域給
付金事業
地域ブランドイメージの回復へ向けた活動を支援
するために、県南、会津、南会津各地域の住民に
対して給付金を給付
28,729,660
ふくしまの恵
み安全・安心
推進事業
産地における放射性物質検査体制を構築し、検査
結果等の可視化対策を推進するとともに、放射線
等の安全管理対策を促進
3,768,530
福島県ブラン
ド・イメージ
回復支援市町
村交付金事業
地域ブランドイメージの回復に向け、地域の実情
に応じたきめ細かな取組を行う市町村に対して支
援を実施
3,425,000
ふくしまっ子
体験活動応援
事業
子どもたちが心身ともにリラックスし自然体験活
動、交流体験活動等が行えるような事業を実施
988,310
学校給食検査
体制整備事業
学校給食に関してより一層の安全・安心を確保す
るために、給食施設のある県立学校に検査機器の
購入等を行い食材の検査体制を整備するととも
に、市町村の取組を支援
▲586,083
(戻入)
23年度から24年度に繰
越しの上、実施
繰越額1,338,662
決算額752,579
水道水質安全
確保事業
警戒区域等における住民帰還後の復興支援の一環
として、水道水及び飲用井戸水等の検査体制を強
化し、効率的に放射性物質のモニタリング検査を
実施
180,142
観光復興特別
対策事業
福島県の観光ブランドの低下を早急に回復させる
ために、広報媒体の活用やイベント等による風評
被害対策を実施
172,050
ほか2事業 63,351
年度計 36,740,959
年度末基金残高 5,321,77

エ 株式会社日本政策投資銀行による融資の状況

株式会社日本政策投資銀行(以下「政投銀」という。)は、20年10月に、株式会社日本政策投資銀行法(平成19年法律第85号)に基づき、全額政府出資の金融機関として、日本政策投資銀行(以下「旧政投銀」という。)の権利及び義務を承継して設立された。政投銀は政府関係機関として政策金融を担っていた旧政投銀及びその前身である日本開発銀行等の時代から、東京電力に対して多額の貸付けを行っており、25年3月末現在における政投銀の東京電力に対する貸付金残高は6112億余円となっている。

政投銀は、その業務の一環として、図表1-16のとおり、財政投融資資金を原資とした株式会社日本政策金融公庫からの貸付けを受けて、東日本大震災により被害を受けた事業者に対する貸付けなどを行う危機対応業務を実施している。危機対応業務による貸付けは国による財政上の措置そのものではないものの、上記の東京電力に対する貸付金残高6112億余円のうち1717億余円は危機対応業務による貸付けとなっている。

また、政投銀は、23年原発事故の発生後から25年3月末までの間に、東京電力に対して、危機対応業務以外の貸付けとして、23年4月の緊急融資1000億円のほか、東京電力が行う借換えのための貸付け延べ1604億余円、延べ2604億余円の貸付けを実行している。

なお、政投銀は、電気事業者に対する貸付けについては、「電気事業会社の株式会社日本政策投資銀行からの借入金の担保に関する法律」(昭和25年法律第145号)により、社債権者と同等に他の債権者に先立って自己の弁済を受ける権利を有することとされているため、東京電力に対する貸付金残高6112億余円について、一般債権に優先して弁済を受けることとなる。

図表1-16 政投銀の危機対応業務による貸付け

政投銀の危機対応業務による貸付け

オ 福島県民健康管理基金に対する支出の状況

(ア) 基金設置の経緯

福島県は、23年原発事故による県内の放射能汚染を踏まえて、23年5月以降、県民の健康不安の解消や将来にわたる健康管理の推進等を図ることを目的として、全県民を対象とした調査等の事業(以下「県民健康管理事業」という。)等を行うこととし、同年9月に、県民健康管理事業等に要する資金を積み立てるために、福島県民健康管理基金を設置した。

県民健康管理事業は、①県民健康管理調査事業、②線量計等緊急整備支援事業、③県民健康管理(内部被ばく検査)事業、④ゲルマニウム半導体検出器整備事業及び⑤ふくしまっ子体験活動応援事業の5事業で構成されていて、23年度から52年度までの30年間に、総事業費1031億8241万余円で実施することとされている。

(イ) 基金設置のための国の支出

経済産業省は、23年度2次補正において、福島県民健康管理基金の造成に要する経費として計781億8241万余円を計上し、23年10月に、福島県に電源立地等推進対策交付金(原子力被災者健康確保・管理関連交付金)として同額を交付した。

上記の781億余円は、一般会計(財源は電源開発促進税収623億余円及び過年度の一般会計留保分158億余円)からエネルギー対策特別会計への繰入れを経て、同特別会計から交付されたものであり、事業計画における積算内訳は、図表1-17のとおり、県民健康管理調査事業計492億円、線量計等緊急整備支援事業136億円等となっている。

図表1-17 事業計画における国の交付額の積算内訳

項目 期間 金額(億円)
県民健康管理調査事業 基本調査 1年間+以降5年ごと 25
甲状腺超音波検査 30年間 170
生体試料冷凍保存 30年間 3
長期健康調査 30年間 164
データベース構築等 30年間 86
県民健康管理ファイル配布 1年間+以降10年ごと 42
492
線量計等緊急整備支援事業 個人線量計等の整備 5年間 136
県民健康管理(内部被ばく
検査)事業
ホールボディカウンター導入事業
及び検査事業
10年間 119
ゲルマニウム半導体検出器整備事業 1年間 4
子どもの心身健康確保事業(体験活動応援事業補助事業等) 1年間 29
合計 781

その後、24年9月の原子力規制委員会(以下「規制委員会」という。規制委員会の設置の経緯等については、後掲3(3)ウ(ア)において記述する。)の設置に伴う関係法令の改正により、環境省が所掌事務の一つである公害に係る健康被害の補償及び予防に関する事務の一環として、住民の健康管理対策に取り組むこととなり、福島県民健康管理基金を活用した事業の実施状況報告書の提出先が経済産業大臣から環境大臣に変更された。なお、環境省は、平成24年度東日本大震災復興特別会計予備費により、福島県民の健康管理を図るために行う施設整備事業に必要な経費として59億8000万円を別途措置し、24年12月に、原子力災害健康管理施設整備交付金として福島県に同額を交付し、同県は交付額全額を福島県民健康管理基金に積み増した。

福島県民健康管理基金については、当初の総事業費1031億余円と国の支出額781億余円との差額250億円を東京電力が24年1月に賠償金として支払っているほか、上記のとおり、国が同年12月に59億余円を追加で支出している。また、放射性物質の除染の推進等の経費に充てるために内閣府等から交付されている補助金もある。このように、福島県民健康管理基金は、23年度以降に複数の府省から交付された交付金等を財源とした基金であるが、福島県から国に提出された23年度の経済産業省の交付金に係る基金事業実施状況報告書では、使用実績や残高が財源(経済産業省の交付金及び東京電力の賠償金)別に表示されておらず、一括管理され表示されている。これらについては、後掲3(1)イ(オ)において、記述することとする。

(2) 国による財政上の措置以外の支援等の状況

ア 審査会の設置及び各種指針の策定の状況

原子炉の運転等により原子力損害を与えた原子力事業者はその損害を賠償する責任を負うこととなるが、当該原子力事業者と被害者との間で原子力損害の賠償に関して紛争が起こる場合がある。また、賠償の責任を負うとされる原子力損害については、原賠法の規定上、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用により生じた損害とする定義はあるものの、その具体的な対象は必ずしも明確ではなく、原子力損害の賠償を円滑に進めるためには、何が原子力損害に該当するのかを具体的に明らかにすることが重要となる。

このため、23年原発事故の発生から1か月後の23年4月11日に、原賠法第18条第1項及び「原子力損害賠償紛争審査会の設置に関する政令」(平成23年政令第99号)の規定に基づき、文部科学省に審査会が設置されており、25年9月末現在で、9人の委員が任命されている。

審査会は、原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行ったり、原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めたり、上記の仲介や賠償指針策定の事務を行うために必要な原子力損害の調査及び評価を行ったりする事務を処理することとされている。

審査会は、23年原発事故の被害者を迅速、公平かつ適正に救済する必要がある状況に鑑みて、原子力損害に該当する蓋然性の高い損害から順次指針を提示し、可能な限り早期の被災者救済を図ることとして、原賠法第18条第2項第2号の規定に基づき、23年4月28日から25年1月30日までの間に、図表1-18のとおり、指針を策定して公表している。特に、23年8月5日策定の「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)は、後に東京電力が策定することとなる賠償基準の基となる考え方を示したものとなっている。

図表1-18 審査会が策定した原子力損害の範囲の判定等に関する指針

公表年月日 指針の名称 備考
平成23年
4月28日
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する第一次指針
政府指示等に伴う損害の範囲等を明示
5月31日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針
避難生活等に伴う精神的損害、いわゆ
る風評被害による損害等の範囲等を明
6月20日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針追補
避難生活等に伴う精神的損害の損害額
の算定方法等を明示
8月5日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針
公表済みの指針の内容も含めて、賠償
すべき損害と認められる一定の範囲の
損害類型を明示
12月 6日 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的
避難等に係る損害について)
中間指針の対象となった避難指示等に
係る損害以外の損害である、自主的避
難等に係る損害について、その範囲等
を明示
24年
3月16日
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補
(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)
政府の避難区域等の見直しなどを踏ま
えて、中間指針等の対象となった損害
等に関し今後の検討事項とされていた
ことなどについて、当該時点で可能な
範囲で考え方を明示
25年
1月30日
東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による
原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第三次追補
(農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害について)
農林漁業及び食品産業の風評被害につ
いて、中間指針に加えて、当該時点で
可能な範囲で、損害の範囲等を明示
(注)
以下、本文及び図表において、平成23年12月6日に策定された指針を「中間指針追補」、24年3月16日に策定された指針を「中間指針第二次追補」、25年1月30日に策定された指針を「中間指針第三次追補」という。

審査会は、中間指針等に示されていない損害等に係る指針の策定について、状況の変化に伴い、必要に応じて改めて検討することとしている。

指針の策定等に係る審査会の会議は、原則として公開して行われており、23年4月に第1回が開催されて以降、23年度は26回、24年度は5回、25年度は9月末までに3回、計34回の会議が開催されている。

そして、指針の策定や、指針策定の事務を行うために必要な原子力損害の調査等の審査会の運営に係る経費については、23年度は一般会計、24年度は東日本大震災復興特別会計の歳出予算により賄われており、その支出額は、図表1-19のとおり、23年度2667万余円、24年度226万余円、計2893万余円となっている(国の職員に係る人件費及び後掲の原子力損害賠償紛争解決センターに係る支出額を除く。)。

図表1-19 審査会の運営に係る支出額(平成23、24両年度)

(単位:千円)

平成23年度 24年度
支出額 支出額
委員手当 10,868 委員手当 955 11,823
諸謝金 1,430 原子力損害賠償業務謝金 - 1,430
庁費 11,832 原子力損害賠償業務庁費 719 12,551
職員旅費 503 原子力損害賠償業務旅費 - 503
委員等旅費 2,041 原子力損害賠償業務委員等旅費 588 2,630
26,675 2,263 28,939

原子力損害賠償紛争解決センターの設置及び和解の仲介の申立てに係る取扱実績

(ア) 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

審査会は、原賠法の規定に基づき、原子力損害の賠償に関する紛争についての和解の仲介等の事務を処理することとされており、円滑、迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として、23年8月29日に、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「ADRセンター」という。)を設置した。

ADRセンターは、図表1-20のとおり、総括委員会、パネル(和解の仲介を行う仲介委員又はその合議体)及び和解仲介室から構成されている。ADRセンターには、東京都内に東京第一、第二両事務所が設置されているほか、福島県内にも23年9月13日に福島事務所(郡山市)が、24年7月2日に県北支所(福島市)、会津支所(会津若松市)、いわき支所(いわき市)、相双支所(南相馬市)がそれぞれ設置されている。

図表1-20 ADRセンターの組織図

ADRセンターの組織図

そして、ADRセンターにおいては、図表1-21のとおり、25年6月末現在、仲介委員210人、調査官(仲介委員を補佐する者)173人、和解仲介室職員145人、計528人が、和解の仲介等の事務に従事している。

図表1-21 ADRセンターの職員数の推移

(単位:人)

区分 平成23年
12月末
24年
6月末
12月末 25年
3月末
6月末
仲介委員 128 205 205 208 210
調査官 28 42 91 140 173
和解仲介室職員(調査官を除く。) 34 67 112 126 145
(うち福島事務所、各支所) (8) (17) (25) (25) (26)
190 314 408 474 528
(イ) 総括基準の策定について

ADRセンターの総括委員会は、ADRセンターに申立てがなされた事件のうち、複数の事件に共通する項目について一定の基準を示し、仲介委員が行う和解の仲介に当たって参照される基準として、図表1-22のとおり、計14件の総括基準を策定し、公表している。

図表1-22 総括基準一覧

番号 公表年月日 表題
1 平成24年2月14日 避難者の第2期の慰謝料について
2 2月14日 精神的損害の増額事由等について
3 2月14日 自主的避難を実行した者がいる場合の細目について
4 2月14日 避難等対象区域内の財物損害の賠償時期について
5 3月14日 訪日外国人を相手にする事業の風評被害等について
6 3月14日 弁護士費用について
7 4月19日 営業損害算定の際の本件事故がなければ得られたであろう収入額の認定方法について
8 4月19日 営業損害・就労不能損害算定の際の中間収入の非控除について
9 7月5日 加害者による審理の不当遅延と遅延損害金について
10 7月5日 直接請求における東京電力からの回答金額の取扱いについて
11 8月1日 旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等について
12 8月24日 観光業の風評被害について
13 11月8日 減収分(逸失利益)の算定と利益率について
14 12月21日 早期一部支払の実施について

ADRセンターは、審査会の中間指針等や上記の総括基準に基づき、和解の仲介の手続を進めている。総括基準が策定されることにより、ADRセンターにおいて、被害者間の公平にも配慮した和解案が迅速に提案され、紛争解決が加速していくことが期待されている。

(ウ) 和解の仲介の申立てに係る取扱実績

ADRセンターにおける23年9月から25年6月までの和解の仲介の申立てに係る 取扱実績は、図表1-23のとおり、申立件数は6,922件、処理件数は4,279件となっ ていて、25年6月末現在で2,643件が未処理(以下、当該件数を「未済件数」とい う。)となっている。

図表1-23 和解の仲介の申立て及び処理の状況

(単位:件)

和解の仲介の申立て及び処理の状況

申立件数の増加に伴い未済件数が増加等することに対応するために、ADRセンターは、前記の図表1-21のとおり、仲介委員、調査官等の人員を増員するなどしている。

また、書面による審理を積極的に活用することにより審理の迅速化に努めるとともに、口頭審理を開催する場合には、事務所及び支所に設置したテレビ会議システムを利用するなどして、申立人等の利便性の向上に努めており、これらの施策により、月間約500件の処理を目指している。

これらの取組の結果、1か月当たりの処理件数が申立件数を上回るようになってきており、未済件数は24年12月の3,201件が最大値で、その後、減少に転じている。

なお、ADRセンターが示した和解案には、除染費用等の賠償といった東京電力の賠償基準では対応が明らかとなっていない項目に係るものが複数含まれている。

(エ) ADRセンターに係る国の支出

ADRセンターの設置、運営等に係る経費については、23年度は一般会計、24年度は東日本大震災復興特別会計の歳出予算により賄われており、その支出額は、図表1-24のとおり、23年度4億1943万余円、24年度14億1402万余円、計18億3346万余円となっている(国の職員に係る人件費及び前記の審査会の運営に係る支出額を除く。)。

図表1-24 ADRセンターの設置、運営等に係る支出額(平成23、24両年度)

(単位:千円)

平成23年度   24年度  
支出額 支出額
委員手当 80,936 委員手当 252,792 333,728
非常勤職員手当 88,269 非常勤職員手当 536,596 624,866
諸謝金 3,703 原子力損害賠償業務謝金 9,467 13,170
庁費 146,100 原子力損害賠償業務庁費 520,662 666,762
職員旅費 1,899 原子力損害賠償業務旅費 3,468 5,368
委員等旅費 7,633 原子力損害賠償業務委員等旅費 12,698 20,331
原子力損害賠償仲介調査委託費 90,894 原子力損害賠償仲介調査委託費 78,338 169,232
419,437 1,414,023 1,833,461
(オ) ADRセンターの利用促進のための取組

事故等による損害賠償請求権は、民法において、損害及び加害者を知った時から3年の消滅時効が定められているが、裁判所への訴えなどにより、時効が中断することとされている。

しかし、原子力損害の賠償の請求について、ADRセンターで和解が成立しないまま、和解の仲介の途中で時効期間が経過した場合においては、その後、東京電力が時効を援用すると、裁判で争うことが困難な状況になるため、ADRセンターの利用を被害者がためらい、被害者にとって利点のある和解の仲介に係る制度が十分に活用されないおそれがあった。

そこで、和解の仲介の途中で時効期間が経過しても、裁判での解決が図られるよう、25年6月5日に、「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律」(平成25年法律第32号。以下「原賠ADR時効中断特例法」という。)が公布されて、同日施行された。

原賠ADR時効中断特例法によると、東日本大震災に係る原子力損害賠償の請求について、ADRセンターで和解が成立しないまま、和解の仲介の途中で時効期間が経過しても、和解の仲介の申立人が、和解の仲介を打ち切った旨の通知を受け取ってから1か月以内に裁判所に訴えを提起したときは、当該和解の仲介の申立てのときに訴えの提起があったものとみなすこととされている。これにより、和解の仲介の申立人は、和解の仲介の途中での時効期間の経過を懸念することなく、ADRセンターを利用することが可能となった。

ただし、原賠ADR時効中断特例法の規定により時効を中断するためには、民法の規定による時効期間の3年以内にADRセンターに和解の仲介の申立てを行う必要があり、今後、ADRセンターへの申立てが急増することも考えられる。

ウ 経済産業省による賠償基準についての考え方の公表

前記のとおり、原子力損害の賠償を円滑に進めるための原子力損害の範囲の判定等の指針については、文部科学省に設置された審査会が策定することとされており、審査会は、23年12月の国の避難指示区域の見直しの方針等を受けて、24年3月に中間指針第二次追補を公表した。これを受けて、東京電力が具体的な賠償基準を策定することとされていたが、政府において、当該賠償基準は避難指示区域の見直し及び被害者の生活再建に密接に関わるため、被害を受けた地域やその住民の意見や実情を賠償基準に反映させるべきであるとの判断がなされた。

そこで、電力事業を所管する経済産業省が、関係市町村等と意見交換を行うなどして、24年7月20日に、「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を取りまとめ、東京電力が、同月24日に、中間指針第二次追補や上記の考え方を踏まえて策定した賠償基準を公表した。

政府が取りまとめた考え方の基本的な方針は、被害者が帰還を希望する場合も、移住を希望する場合も、賠償上の取扱いは同一とし、幅広い損害項目について賠償金の一括払を可能とすることなどにより、当該被害者の生活再建のための十分な金額を確保するというものである。

エ 機構法附則の検討条項に係る進捗状況

機構法附則では、政府に対して、次のとおり、各種の検討及び当該検討結果に基づく必要な措置の実施を求めている。

(ア) 機構法の施行後できるだけ早期に検討すべきとされている事項

機構法附則第6条第1項によれば、政府は、機構法の施行後できるだけ早期に、原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方、原子力発電所の事故が生じた場合におけるその収束等に係る国の関与及び責任の在り方等について検討を加えるとともに、原子力損害の賠償に係る紛争を迅速かつ適切に解決するための組織の整備について検討を加えて、これらの結果に基づき、原賠法の改正等の抜本的な見直しを始めとする必要な措置を講ずることとされている。そして、原子力損害賠償支援機構法案に対する23年7月26日の衆議院東日本大震災復興特別委員会の附帯決議及び同年8月3日の参議院東日本大震災復興特別委員会の附帯決議において、同項に規定する「できるだけ早期に」は、1年を目途とすると認識するとされている。

上記の政府における検討等の進捗状況についてみたところ、国のエネルギー・環境会議が24年9月に決定した「革新的エネルギー・環境戦略」において、「国策民営の下で進められてきた原子力事業体制については、官民の責任の所在の明確化について検討を進める。原子力損害賠償制度は、東京電力福島原発事故に係る賠償の実施状況や上記の検討等を踏まえて、今後の制度の在り方について必要な検討を進める」とされ、同年10月には、経済産業省及び文部科学省が、原子力発電所の再稼働、電力システム改革等の進捗に併せて、同年末までに検討を進めることとされた。その後、上記会議の開催を決定した国家戦略会議が同年12月に廃止されるなどしているが、政府は、引き続き、23年原発事故に係る原子力損害の賠償が適切かつ迅速に実施されることを最優先としつつ、機構法附則第6条第1項において検討を加えることとされている事項に関しては、国のエネルギー政策における原子力の位置付けなどの検討状況や現在進行中の賠償の実情等を踏まえながら検討を進めるとしている。

(イ) 機構法の施行後早期に検討すべきとされている事項

機構法附則第6条第2項によれば、政府は、機構法の施行後早期に、23年原発事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方、当該資金援助を受ける原子力事業者の株主その他の利害関係者の負担の在り方等を含め、国民負担を最小化する観点から、機構法の施行状況について検討を加えて、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとされている。そして、上記(ア)の参議院東日本大震災復興特別委員会の附帯決議において、同項に規定する「早期に」は、2年を目途とすると認識するとされている。

上記の政府における検討等の進捗状況についてみたところ、機構法を所管している経済産業省は、国のエネルギー政策についての検討と併せて必要な検討を加えていくこととしているが、エネルギー政策については様々な観点から検討が進められており、機構法の施行状況についての検討のみが先行して終了する状況とはなっていないとしている。

以上のように、機構法附則において求められている事項については、政府において、なお検討の途上にあり、その結果に基づく原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていない。