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(2) 私立学校施設の耐震補強事業において、補助の対象とならない備品の設置等に係る経費を補助対象経費に含めないことなどにより補助金の交付額の算定を適切に行うよう是正改善の処置を求め、及び補助対象工事の範囲を明確にすることにより耐震補強事業が効率的に実施されるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)私立学校振興費 (項)東日本大震災復旧・復興私立学校振興費
部局等
文部科学本省、13県
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
15学校法人
補助事業
防災機能強化施設整備事業(耐震補強工事)
補助事業の概要
私立高等学校等における防災機能の強化等のための施設整備事業に要する経費の一部を補助するもの
補助の対象とならない備品の設置等に係る経費を補助対象経費に含めている学校法人数及びその耐震補強事業数
7学校法人、23耐震補強事業
上記の7学校法人において過大に交付されている補助金の交付額(1)
3538万円(平成21年度~23年度)
校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていない工事に係る経費を補助対象経費に含めている学校法人数及びその耐震補強事業数
6学校法人、8耐震補強事業
上記の6学校法人において生じている補助金の交付額の開差額(2)
3541万円(平成21年度~23年度)
耐震補強壁等の設置に伴って必要になるとは認められない工事に係る経費を補助対象経費に含めている学校法人数及びその耐震補強事業数
10学校法人、29耐震補強事業
上記の10学校法人において生じている補助金の交付額の開差額(3)
1億3087万円(平成21年度~23年度)
(1)から(3)までの純計
15学校法人 2億0168万円

((1)の事態については、「私立学校施設整備費補助金(防災機能強化施設整備事業)が過大に交付されていたもの」参照)

【是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求したものの全文】

私立学校施設における耐震補強事業の補助対象経費の取扱いについて

(平成26年9月30日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により改善の処置を要求する。

1 補助金の概要

(1) 私立学校施設における耐震補強事業の概要

貴省は、私立の高等学校、中学校等(以下「高等学校等」という。)の教育の充実と質的向上を図ることを目的として、高等学校等を設置する学校法人が、当該学校法人の施設に係る防災機能の強化を図るために、耐震補強壁、柱、梁等の構造体の設置・補強等の工事を実施する防災機能強化施設整備事業(耐震補強工事)(以下「耐震補強事業」という。)を行う場合に、当該学校法人に対し、これに必要な経費について、私立学校施設整備費補助金(私立学校教育研究装置等施設整備費(私立高等学校等施設高機能化整備費))(以下「補助金」という。)を交付している。

耐震補強事業の補助対象経費は、私立学校施設整備費補助金(私立学校教育研究装置等施設整備費(私立高等学校等施設高機能化整備費))交付要綱(平成13年文部科学大臣裁定。以下「交付要綱」という。)によれば、工事費、実施設計費及び耐震診断に要する経費とされており、補助金の交付額は、補助対象経費に補助率(校舎等の建物の耐震性能に応じて2分の1以内又は3分の1以内)を乗じて得た額とされている。

貴省は、耐震補強事業を実施する学校法人に対し、平成20年度から24年度までに164億0295万余円の補助金を交付している。

(2) 耐震補強事業の補助の要件等

ア 補助の要件

耐震補強事業の補助の要件は、「平成23年度私立学校施設整備費補助金(私立学校教育研究装置等施設整備費(私立高等学校等施設高機能化整備費))の計画調書の提出について(通知)」(平成23年文部科学省高等教育局私学部私学助成課長通知。以下「課長通知」という。)等によれば、新耐震基準(注1)施行以前に建築された校舎等の建物で、当該建物の耐震性能を数値化した構造耐震指標の値がおおむね0.7に満たないものであって、補強後の当該建物の構造耐震指標の値がおおむね0.7を超えるものであることなどとされている。

そして、学校法人は、補助金の交付申請に当たり、耐震診断の結果に基づき行われる耐震補強事業の内容及び耐震補強事業の実施前後の耐震性能の評価が示された耐震診断報告書等の写しを貴省に提出することなどとなっている。

(注1)
新耐震基準  建築物の耐震性能を向上させるために昭和55年に改正され56年6月1日に施行された建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)に示された建築物の耐震設計のための基準

イ 補助対象工事の範囲

課長通知によれば、耐震補強事業の補助対象となる工事(以下「補助対象工事」という。)の範囲は、「耐震補強壁等の設置」、「建物に固着していた棚・ロッカー等の解体・設置」、「防水工事の軽量化等」、「高架水槽の移設等」、「内装」等の15の工事区分ごとに定められている。そして、建物に固着していた棚・ロッカー等の解体・設置、防水工事の軽量化等、高架水槽の移設等及び内装の各工事区分に係る主な補助対象工事の範囲は、次のとおりとなっている。

(ア) 建物に固着していた棚・ロッカー等の解体・設置

〔1〕 耐震補強壁等の設置部分に設置されていたものの他の位置への復旧工事

〔2〕耐震補強壁等の設置面以外の箇所で、床、壁及び天井を撤去することに伴い、必然的に実施される撤去、復旧工事(他の位置への復旧を含む。)

(イ) 防水工事の軽量化等

既存の防水層を撤去し露出防水として軽量化を図るなどの工事

(ウ) 高架水槽の移設等

耐震性高架水槽への交換工事

(エ) 内装

耐震補強壁等を設置した箇所と同一の室内又は同一の廊下の全面にある床、壁、天井及び内装に係る工事

ウ 補助金の交付額の確定

学校法人が耐震補強事業を完了したときは、実績報告書が都道府県知事に提出されることとなっており、都道府県知事は、学校法人から実績報告を受けた場合には、実績報告書等の審査や、必要に応じて現地調査等を行い、当該耐震補強事業が補助の要件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金の額を確定し、学校法人に通知することとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

貴省の調査によれば、私立の幼稚園から高等学校までの施設の耐震化率は、25年4月現在で77.8%にとどまっており、施設の耐震化は喫緊の課題となっている。このような状況の中、貴省は、私立学校施設の耐震化の促進を図るために、耐震補強事業を実施する学校法人に対し、毎年度多額の補助金を交付している。

そこで、本院は、合規性、効率性等の観点から、補助金の交付額が適切に算定されているか、補助対象工事の範囲は耐震補強事業の効率的な実施の面からみて適切なものとなっているかなどに着眼して、20年度から24年度までに24都府県(注2)に所在する40学校法人が実施した84耐震補強事業(補助対象経費計67億3059万余円、補助金交付額計26億8302万余円)を対象に、設計図書、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
24都府県  東京都、京都府、山形、栃木、群馬、神奈川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、鳥取、広島、香川、福岡、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、13県管内の15学校法人が実施した39耐震補強事業(補助対象経費計23億8687万余円、補助金交付額計9億6628万余円)において、次のような事態が見受けられた(アからウまでの各事態には、学校法人が重複しているものがある。)。

ア 補助の対象とならない備品の設置等に係る経費を補助対象経費に含めているもの

6県(注3)7学校法人(23耐震補強事業)

6県管内の7学校法人は、21年度から23年度までに実施した23耐震補強事業(補助対象経費計13億2495万余円、補助金交付額計5億4658万余円)において、ロッカー等の備品を新たに購入して設置したり、耐震補強壁等を設置した箇所とは関連のない箇所に設置されていた備品を更新したりすることなどに係る経費を工事費に含めて補助対象経費を算定していた。

しかし、これらは、課長通知で定めている、建物に固着していた棚・ロッカー等の解体・設置に係る補助対象工事には該当せず、これらに係る経費を補助対象経費に含めていることは適切とは認められない。

したがって、7学校法人の23耐震補強事業について、上記補助の対象とならない経費を除外して算定した適正な補助対象経費計12億3726万余円に対する補助金の額は計5億1119万余円となり、前記の補助金交付額計5億4658万余円は、これと比べて、3538万余円が過大に交付されている。

(注3)
6県  岐阜、愛知、兵庫、広島、福岡、熊本各県

<事例1>

広島県に所在する学校法人比治山学園は、平成22年度に実施した本館の校舎(鉄筋コンクリート造4階建て)に耐震補強壁(12か所)を設置するなどの工事に係る経費を対象として、補助対象経費を1億4499万余円と算定し、補助金5799万余円の交付を受けていた。

そして、同学校法人は、耐震補強壁等を設置する工事と併せて、本館の校長室、職員室等に、施工前には存在していなかった戸棚等を設置する工事(工事費1484万余円)を行い、これに係る経費を補助対象経費に含めていた。

しかし、上記の工事は、課長通知で定めている、建物に固着していた棚・ロッカー等の解体・設置に係る補助対象工事には該当しないことから、これに係る経費は耐震補強工事の補助対象とはならない。

イ 校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていない工事に係る経費を補助対象経費に含めているもの

5県(注4)6学校法人(8耐震補強事業)

5県管内の6学校法人は、21年度から23年度までに実施した8耐震補強事業(補助対象経費計8億4212万余円、補助金交付額計3億6868万余円)において、校舎等の建物に係る防水層の軽量化等の工事や高架水槽の更新工事等を行っていた。6学校法人は、課長通知において、既存の防水層を撤去し露出防水として軽量化を図るなどの工事や耐震性高架水槽への交換工事等が補助対象工事となっていることを理由に、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていないにもかかわらず、これらの工事に係る経費を補助対象経費に含めていた。

しかし、耐震補強事業は校舎等の建物の耐震性能を確保することを目的とするものであることから、耐震補強事業に必要な経費として取り扱うには、これらの工事が、単に課長通知における補助対象工事の範囲に含まれているだけでは十分ではなく、校舎等の建物の耐震性能の向上を趣旨とした工事であって、耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされている必要があると認められる。

したがって、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていない工事に係る経費を補助対象経費に含めていることは、耐震補強事業の趣旨に照らして適切とは認められない。

そこで、6学校法人の8耐震補強事業について、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていない工事に係る経費を除外して適切な補助対象経費を算定すると計7億5361万余円となり、これに対する補助金の額は計3億3327万余円となることから、前記の補助金交付額計3億6868万余円と比べて、3541万円の開差を生ずることとなる。

(注4)
5県  山形、神奈川、岐阜、静岡、三重各県

<事例2>

山形県に所在する学校法人九里学園は、平成23年度に実施した芸術棟(鉄筋コンクリート造2階建て)に鉄骨ブレース(2か所)を設置するなどの工事に係る経費を対象として、補助対象経費を4610万余円と算定し、補助金1536万余円の交付を受けていた。

そして、同学校法人は、芸術棟に鉄骨ブレースを設置する工事と併せて実施した、屋上のパラペット(注)の撤去工事及び屋上防水工事が校舎等の建物の耐震性能の向上に資するものと判断したとして、これらの工事に係る経費(工事費1328万余円)を補助対象経費に含めていた。

しかし、これらの工事については、耐震診断報告書等において、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていなかった。

(注)
パラペット  高さの低い壁の総称で、建築では屋上などに見られる手すり壁

ウ 耐震補強壁等の設置に伴って必要になるとは認められない工事に係る経費を補助対象経費に含めているもの

8県(注5)10学校法人(29耐震補強事業)

8県管内の10学校法人は、21年度から23年度までに実施した29耐震補強事業(補助対象経費計17億7719万余円、補助金交付額計7億0224万余円)において、耐震補強壁等を設置した教室又は廊下の内装を全面にわたって改修するなどの工事を行っていた。そして、10学校法人は、課長通知において、耐震補強壁等を設置した箇所と同一の室内又は同一の廊下の全面にある床、壁、天井及び内装に係る工事が補助対象工事となっていることを理由に、耐震補強壁等の設置に伴って必要となった工事であるかどうかにかかわらず、これらの工事に係る経費を補助対象経費に含めていた。

しかし、耐震補強事業は校舎等の建物の耐震性能を確保することを目的とするものであることから、耐震補強事業に必要な経費として取り扱うには、これらの工事が、単に課長通知における補助対象工事の範囲に含まれているだけでは十分ではなく、耐震補強壁等の設置に伴って必要となるものであることが求められる。

したがって、耐震補強壁等を設置した教室又は廊下において実施された工事であっても、耐震補強壁等の設置に伴って必要になるとは認められない工事に係る経費を補助対象経費に含めていることは、耐震補強事業の趣旨に照らして適切とは認められない。

そこで、10学校法人の29耐震補強事業について、耐震補強壁等の設置に伴って必要になるとは認められない工事に係る経費を除外して適切な補助対象経費を算定すると計14億2634万余円となり、これに対する補助金の額は計5億7136万余円となることから、前記の補助金交付額計7億0224万余円と比べて、1億3087万余円の開差を生ずることとなる。

(注5)
8県  群馬、山梨、岐阜、静岡、兵庫、広島、香川、熊本各県

<事例3>

兵庫県に所在する学校法人松蔭女子学院は、平成21年度に実施した南館(鉄筋コンクリート造3階建て)に鉄骨ブレース(5か所)を設置するなどの工事に係る経費を対象として、補助対象経費を7419万余円と算定し、補助金2473万余円の交付を受けていた。

そして、同学校法人は、南館1階の食堂に鉄骨ブレース(2か所)を設置する工事と併せて、同食堂の床材約516m2を全面にわたって張り替えるなどの内装工事等を行い、これに係る経費を補助対象経費に含めていた。

しかし、内装工事等を実施した約516m2のうち、鉄骨ブレースの設置に伴い床材の張替えなどが必要となる範囲は約30m2であり、残りの約486m2に係る内装工事等(工事費2504万余円)については、耐震補強壁等の設置に伴って必要となる工事ではなかった。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

補助の対象とならない備品の設置等に係る経費を補助対象経費に含めて補助金の交付額が算定されている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされていない工事や、耐震補強壁等の設置に伴って必要になるとは認められない工事に係る経費を補助対象経費に含めて補助金の交付額が算定されている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 学校法人において補助対象経費の算定方法等についての理解が十分でないこと、県において実績報告書等に対する審査が十分でないこと

イ 貴省において、耐震補強事業の補助対象工事が、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされている工事や、耐震補強壁等の設置に伴って必要となる工事に限られることについて、課長通知で明示していないこと

3 本院が求める是正改善の処置及び要求する改善の処置

貴省は、今後も引き続き、耐震補強事業を実施する学校法人に対して補助金を交付し、私立学校施設の耐震化を促進することとしている。

ついては、貴省において、補助金の交付額が適切に算定され、補助対象工事の範囲が明確にされる処置を講ずることにより、もって耐震補強事業が効率的に実施されるよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求する。

ア 補助の対象とならない備品の設置等に係る経費を補助対象経費に含めないことを課長通知等において明示し、これを、実績報告書等に対する審査を行う都道府県及び耐震補強事業を実施しようとする学校法人に対して周知徹底するとともに、都道府県に対して審査を適切に行うよう指導すること(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)

イ 補助対象工事は、校舎等の建物の耐震性能の向上に資することが構造計算等により明確にされている工事や、耐震補強壁等の設置に伴って必要となる工事に限られることを、課長通知において明示し、これを、実績報告書等に対する審査を行う都道府県及び耐震補強事業を実施しようとする学校法人に対して周知徹底すること(同法第36条による改善の処置を要求するもの)