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  • 平成30年3月|

東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関し、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況、機構による資金援助業務の実施状況等、及び東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等について、国の支援等はどのように実施されているか、機構を通じて東京電力に交付された資金の回収の見通しはどのようになっているか、東京電力による賠償は適正かつ迅速に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

検査結果の概要は、次のとおりである。

(1) 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

国が原子力損害の賠償に関する支援等に係る財政上の負担等をした額は、計8兆0504億余円となっている。このほか、国は、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関して計2242億余円の財政措置を講じている(2023_2_1リンク参照)。

ア 国による財政上の措置等の状況
(ア) 原賠法に基づく措置の状況

国は、東京電力に対して、福島第一原発に係る補償契約による補償金として1200億円、福島第二原発に係る補償契約による補償金として689億2666万余円を支払っている(2023_2_1_1_1リンク参照)。

(イ) 国から機構に対する財政上の措置の状況

a 交付国債の交付、償還等の状況

国は、機構に対して13兆5000億円の交付国債を交付しており、機構の請求に応じて29年12月末までに計7兆5497億円を償還し、機構は東京電力に対して同額を賠償資金として交付している。また、交付国債の償還のために借り入れるなどした借入金等は計6兆7822億余円となっていて、これに係る支払利息は、今後、償還期限が到来するものも含めて計154億8426万余円となっている。さらに、機構法第68条の規定に基づき、26、27、28各年度にそれぞれ350億円が機構に交付され、また、促進勘定の平成29年度予算においては470億円が計上されている(2023_2_1_1_2_1リンク参照)。

b 交付国債の発行限度額の引上げ

交付国債の発行限度額は、28年度までは9兆円となっていたが、平成29年度予算において増額され、13兆5000億円となっている。これは、交付国債の発行により対応すべき費用が約13.5兆円と見込まれたことによるものであるが、当該費用の見込額が増加した主な要因は、被災者・被災企業への賠償費用については、商工業や農林漁業に関する営業損害や風評被害の収束の遅れ等、除染及び汚染廃棄物処理の費用については、被災地における各種工事等の需給のひっ迫による労務費や資材費の上昇等が挙げられる。また、中間貯蔵施設の費用については、輸送時の安全対策の追加等により一定の蓋然性を有する費用の試算が可能な範囲が広がったことが挙げられる(2023_2_1_1_2_2リンク参照)。

(ウ) 福島県民健康管理基金に係る支出等の状況

a 福島県原子力被害応急対策基金

内閣府は、24年3月に、放射線量低減対策特別緊急事業費補助金403億8515万余円を福島県に交付し、同県は福島県原子力被害応急対策基金を設置した。また、東京電力は、同年8月に、同基金の積み増しに充てるために、同県に30億円の寄付を行った。

24年度から28年度までの福島県原子力被害応急対策基金の使用実績は計433億1072万余円となっていて、資金運用益を加味した28年度末の基金残高は9507万余円となっている(2023_2_1_1_3_1リンク参照)。

b 福島県民健康管理基金

福島県は、県民の健康不安の解消や将来にわたる健康管理の推進等を図ることを目的として県民健康管理事業を総事業費1031億8241万余円で行うこととし、この事業等に要する資金を積み立てるために、23年9月に福島県民健康管理基金を設置した。経済産業省は、23年10月に、同基金の造成に要する経費として、電源立地等推進対策交付金(原子力被災者健康確保・管理関連交付金)781億8241万余円を福島県に交付した。そして、総事業費1031億8241万余円と国の支出額781億8241万余円との差額250億円については、東京電力が、24年1月に、賠償金として福島県に支払っている。また、環境省は、24年12月に、原子力災害健康管理施設整備交付金59億8000万円を福島県に交付し、同県は、交付額全額を福島県民健康管理基金に積み増した。

福島県民健康管理基金のうち、これらの資金に係る分の23年度から28年度までの使用実績は計389億9066万余円となっていて、資金運用益を含めた28年度末の基金残高は719億3797万余円となっている(2023_2_1_1_3_2リンク参照)。

c a及びbの基金による事業の実施状況

福島県民健康管理基金によるゲルマニウム半導体検出器整備事業で購入したゲルマニウム半導体検出器17台の中に、年間の測定時間が他の同検出器に比べて大幅に少なくなっているものが5台見受けられ、福島県原子力被害応急対策基金の事業で購入した7台のうち1台についても同様の状況が見受けられた。基金で購入された機器類は県民の将来にわたる健康管理の推進を図るために必要なものとして配備されているが、このように使用実績が比較的少なく他の用途に利用できる余地があるものについては、更なる有効活用を検討したり、今後の機器類の調達に当たってその利用状況を考慮したりすることが望まれる。また、福島県民健康管理基金による事業において、基金事業計画書の変更を適切に行っていない事態が3件見受けられた。基金事業は継続的に行われるものであり、事業の進捗等に応じて事業内容の変更を行うことも見込まれることから、福島県は、今後の事務手続の適正な実施に努める必要がある(2023_2_1_1_3_3リンク参照)。

イ 国による財政上の措置以外の支援等の状況
(ア) 審査会及びADRセンターによる支援の状況

ADRセンターにおける23年9月から29年9月末までの和解の仲介の申立てに係る取扱実績は、申立件数22,913件、処理件数20,930件となっていて、29年9月末現在で1,983件が未処理となっている。最近は、集団申立てや地方公共団体による申立てのように処理に時間及び労力を要する案件の比重が増えてきており、未処理件数が大幅に減少するには、なお時間を要すると考えられることから、文部科学省においては、これらの状況の推移にも的確に対応しつつ、引き続き処理の促進に努めることが望まれる。また、23年度から28年度までの審査会及びADRセンターの運営等に係る経費の支出額は、計123億9333万余円となっている(2023_2_1_2_1リンク参照)。

(イ) 機構法附則の検討条項に係る進捗状況

機構法附則第6条第1項の規定によれば、政府は、機構法の施行後できるだけ早期(1年を目途)に、原賠法の改正等の抜本的な見直しを始めとする必要な措置を講ずることとされている。また、同条第2項の規定によれば、政府は、機構法の施行後早期(2年を目途)に、23年原発事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及び他の原子力事業者との間の負担の在り方等を含め、機構法の施行状況について検討を加えて、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとされている。さらに、同条第3項の規定によれば、政府は、電気供給に係る体制の整備を含むエネルギーに関する政策の在り方についての検討を踏まえつつ、原子力政策における国の責任の在り方等について検討を加えて、その結果に基づき、原子力に関する法律の抜本的な見直しを含め、必要な措置を講ずることとされている。

これらについては、原子力損害賠償制度専門部会において原子力損害賠償制度の見直しの方向性について取りまとめが行われるなどして検討の具体的な進展がみられたり、28年閣議決定等により特定復興拠点の整備は国の負担において行うこととされ、交付国債の発行限度額が9兆円から13兆5000億円に引き上げられるなど、一定の措置が講じられたりしている事項もあるが、原賠法の改正等の抜本的な見直しなどには至っていない事項もある(2023_2_1_2_2リンク参照)。

(ウ) 電気事業会計規則の改正

25年閣議決定を受けて、経済産業省は、27年3月に電気事業会計規則の改正を行った。この改正により、除染費用等に対応する資金交付金に係る未収金については、資金援助の申請時に「未収原賠・廃炉等支援機構資金交付金」には計上せず、同未収金相当額を「原子力損害賠償引当金」の見積額から控除することとされた。これにより、東京電力の総資産の一時的な増大が抑制されることとなった(2023_2_1_2_3リンク参照)。

(エ) 託送料金による賠償費用の負担及び廃炉費用の捻出の仕組み

28年閣議決定により、国が行う新たな環境整備として、①福島第一原発の事故前には確保されていなかった分の賠償の備えを広く電気の使用者全体の負担とするために必要な託送料金の見直し等の制度整備、②機構が廃炉に係る資金の管理等を行うことにより、今後、長期にわたる巨額の資金需要に対応できる体制を整備し、廃炉の実施をより確実なものとするための廃炉等積立金の創設等を行うこととなっている。

①については、託送料金の仕組みにより回収する金額の規模は約2.4兆円を上限とするとし、その資金は、適正な託送料金水準を維持していく観点から、32年度以降、年間600億円程度を40年にわたって回収していくとしている。

また、②については、機構法を改正して機構が新たに廃炉等積立金管理業務を担うなどの体制整備が行われることとなったが、これと併せて、廃炉の実施責任を有する東京電力が廃炉を確実に実施するために、必要な資金の捻出に支障を来すことのないよう、託送収支の事後評価における特例的な取扱い等を含んだ制度整備を行うこととなった(2023_2_1_2_4リンク参照)。

(2) 機構による資金援助業務の実施状況等

ア 機構及び東京電力による特別事業計画の作成等の状況
(ア) 特別事業計画の作成及び変更の状況

機構は、機構法に基づき、東京電力と共同して交付国債による資金交付の前提となる特別事業計画を作成し、又は変更して、主務大臣である内閣総理大臣及び経済産業大臣に対して認定の申請を行い、両大臣の認定を受けている。そして、29年7月に変更の認定を受けた第2次新々・総特においては、賠償見積額が9兆7047億0400万円となったことを受けて、資金交付額は、補償契約に基づき支払われた1889億2666万余円を控除した9兆5157億7733万余円となった(2023_2_2_1_1リンク参照)。

(イ) 経営評価の状況

機構は、29年5月11日に28年評価を公表し、評価結果の総論として「東電経営への国の継続的関与が必要であると判断した」としている。機構は、28年評価を踏まえて東京電力と共同で作成した新々・総特において、福島事業に対しては体制強化を図る一方で、その他の事業ではモニタリングの重点化を行うこととした。そして、その結果に基づいて、国と連携して、31年度末を目途に同年度以降の関与の在り方を検討することとしている(2023_2_2_1_2リンク参照)。

イ 資金援助業務の実施状況
(ア) 東京電力が発行する株式の引受け等の状況

機構は、機構法に基づく東京電力に対する資金援助の一環として、24年7月に、東京電力が発行する株式を払込金額総額1兆円で引き受けている。そして、新・総特においては、株式の売却による出資金の回収について、ある程度具体的な見通しが示されていたが、新々・総特においては、「2019年度末を目途にそれ以降の関与の在り方を検討する」こととされ、それと併せて公的資本の回収方法についても検討することとされた。

25年閣議決定においては、株式の売却により生じた利益について、機構が保有する東京電力の株式を売却することにより得られる利益の国庫納付により除染費用相当分(約2.5兆円)の回収を図ること、売却益に余剰が生じた場合は中間貯蔵施設費用相当分(約1.1兆円)の回収に用いることなどが示されていた。そして、28年閣議決定においては、除染費用相当分が約4.0兆円、中間貯蔵施設費用相当分が約1.6兆円と見積もられているが、上記の回収に係る方針は維持することとされている。

機構が引き受けた東京電力の種類株式を全て普通株式に転換して売却等する場合、機構が全ての売却等までに得ることになる対価の額は平均売却価額に約33.3億株を乗じて得られる額となる。そして、除染費用相当分(約4.0兆円)を株式の売却益で回収するには、平均売却価額が1,500円になることが必要となる(2023_2_2_2_1_1リンク参照)。

(イ) 交付国債の償還請求及び賠償資金の交付の状況

機構は、東京電力からの賠償資金交付の要望に応じて交付国債の償還請求を行い、東京電力に対して賠償資金として交付しており、29年12月末までの交付額は、計7兆5497億円となっている(2023_2_2_2_2リンク参照)。

ウ 機構への負担金の納付及び機構からの国庫納付の状況
(ア) 機構への負担金の納付の状況

一般負担金に係る負担金率は、機構が運営委員会の議決を経て定めた基準に従って、23年度に当時の各原子力事業者が保有する原子炉の熱出力等を勘案して設定されたものが、その後も引き続き用いられているが、24年度以降、複数の原子炉で廃炉の決定が行われており、将来的には廃炉作業が完了して各原子力事業者が保有する原子炉の熱出力等が23年度当時の状況から変動することが想定されることから、各原子力事業者の負担金率がどのようになっていくかなどについて引き続き注視していく必要がある。

28年度の一般負担金年度総額1630億円について、原子力事業者は同額を29年12月末までに納付している。そして、同年12月末までに各原子力事業者が納付した一般負担金の累計額は8343億0465万円となっている。

東京電力は、特別事業計画について主務大臣の認定を受けていることから特別負担金を納付すべき原子力事業者に該当する。機構は、28年度分の特別負担金については、新・総特の収支計画や各年度の収支の見通しなどを踏まえて1100億円と定めて、主務大臣はこれを認可した。

機構は、運営委員会の議決を経て特別負担金の額を定めたことを公表するに当たり、「一般負担金額及び特別負担金額について」として特別負担金額の算定に当たっての考え方を特別負担金の額と併せて公表している。これには機構が特別負担金の額を算定する際に考慮した観点が記載されているが、特別負担金の額の検討に際して考慮した東京電力の現在の経営状況や今後の事業運営に要する資金の規模その他の経理上の諸要素が示されておらず、特別負担金の額が、経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものとなっているか必ずしも明らかにはされていないと考えられる。今後、機構は、東京電力の納付する特別負担金の額が、東京電力の経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものとなっているかについて、特別負担金の額の検討に際して考慮した東京電力の現在の経営状況や今後の事業運営に要する資金の規模その他の経理上の諸要素を用いるなどして、国民に対して丁寧に説明することが望まれる。また、経済産業省においては、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して丁寧に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督していくことが望まれる。

なお、東京電力は、28年度分の特別負担金1100億円を29年12月末までに納付している。そして、同年12月末までに東京電力が納付した特別負担金の累計額は2900億円となっている(2023_2_2_3_1リンク参照)。

(イ) 機構からの国庫納付の状況

機構は、東京電力に対して国からの交付国債を原資とした資金交付を行っているため、機構法第59条の規定により、毎事業年度、損益計算において生じた利益の残余の額を国庫に納付しなければならないこととなっている。機構は、28年度の当期純利益の全額に相当する額3043億0520万余円について、その2分の1に相当する額である1521億5260万余円を29年7月31日に国庫に納付しており、残る1521億5260万余円を30年1月31日に国庫に納付している(2023_2_2_3_2リンク参照)。

(ウ) 交付した資金の回収に係る試算

会計検査院において、国が機構を通じて東京電力に交付した資金が、今後、どのように実質的に国に回収されるかなどについて、資金交付額が交付国債の額である13兆5000億円になるとして、一定の条件を仮定して機械的に試算した。その結果、特別負担金の額を新々・総特における収支見通し上の仮置きの額とした場合に13兆5000億円を回収する期間は、本報告書の作成年度である29年度から19年後の平成48年度から同34年後の平成63年度まで、特別負担金の額を新々・総特における収支見通し上の経常利益(特別負担金控除前)の2分の1とした場合に13兆5000億円を回収する期間は、同17年後の平成46年度から同32年後の平成61年度までとなった。回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、前者の場合は約1439億円から約2182億円まで、後者の場合は約1318億円から約2020億円までとなり、いずれの場合も原賠資金への追加的な資金投入等が必要になる試算結果となった。

また、27年報告の試算結果と今回の試算結果とを比較すると、仮定した東京電力株式の売却益の金額等が異なるため、単純に比較することはできないが、回収に要する期間(回収が始まった24年度から回収が完了する年度までの期間)は、1割から3割程度長期化する結果となっている(2023_2_2_3_3リンク参照)。

エ 機構の決算等の状況
(ア) 26、27、28各年度の決算

国から機構に交付された交付国債9兆円に関して、各年度に決定された資金交付の額については、損益計算書の交付国債受贈益及び資金交付費に計上され、9兆円から各年度までに決定された資金交付の額を控除した残額については、貸借対照表の資産の部の資金援助事業資産及び負債の部の交付国債見返に両建てで計上されている。また、貸借対照表の未払金には、各年度までに決定された資金交付の額から当該年度までに東京電力に支払われた額を控除した額が計上されている。

また、損益計算書の特別負担金収入に東京電力からの特別負担金が計上され、政府交付金収入に機構法第68条の規定に基づく資金交付の額が計上されている(2023_2_2_4_1リンク参照)。

(イ) 28年度決算における契約関係業務の実施状況

機構は、随意契約により契約を締結していた54件、計7億7428万余円のうち11件、計1億6420万余円について、同種の業務を行うことが可能な事業者が複数存在していて、競争契約としたり、他者から見積書を提出させたりすることができると考えられるのに、これらの手続について十分に検討しておらず、契約額の妥当性を確保しないまま契約を締結して支払を行っていた。上記11件のうち4件の契約について、機構は、29年度において、会計検査院の検査を受けて、企画競争を行うなどした上で契約を締結しており、契約額の妥当性を確保するよう努めていた(2023_2_2_4_2リンク参照)。

(3) 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

ア 原子力損害の賠償の状況
(ア) 損害項目及び賠償基準

東京電力は、審査会の策定した中間指針等で示された損害項目について賠償基準を定めて、賠償金の支払を進めている。そして、29年1月の中間指針第四次追補の改訂を受けて福島県都市部の平均宅地単価を変更するなど、中間指針や閣議決定等の内容や趣旨を踏まえて賠償基準の見直しを行うなどして、賠償金の支払を進めている(2023_2_3_1_1リンク参照)。

(イ) 東京電力による賠償金の支払状況等

a 賠償金の支払に係る体制等の状況

東京電力は、福島復興本社に設置した福島原子力補償相談室を中心として、被害者に対する賠償対応業務を実施している。また、賠償対応業務に係る費用については、請求書受領件数の減少に伴う委託要員の配置の適正化等により費用の低減を図っているが、実際に発生した費用と原価に算入された費用との金額のかい離による利益の圧縮が生じないように、引き続き費用の低減を図ることが望まれる(2023_2_3_1_2_1リンク参照)。

b 仮払補償金の精算等の状況

仮払補償金の支払を受けた164,456人のうち、29年12月末現在で732人が本賠償金の支払請求を行っておらず、これらの者に対する仮払補償金の支払額は計5億余円となっており、未精算状態の早期の解消が望まれる(2023_2_3_1_2_2リンク参照)。

c 賠償金の支払等の状況

23年4月から29年12月までの東京電力の賠償金の支払額は、7兆6821億余円である。

東京電力に資金交付された額の各資金交付日前日の賠償口座の残高の平均は、26年において1277億余円、27年において759億余円、28年において549億余円、29年において436億余円と年々減少しているが、国が機構に交付国債の償還を行うに当たっては、前記のとおり借入金の借入れにより資金を調達していることなどから、東京電力においては、支払見込額を算定する精度を引き続き向上させて賠償口座の残高を抑える取組を継続することが望まれる。

26年度以降の本賠償金計に占める割合を支払件数についてみると、「個人」が全体の6割から7割を占めている。支払額については、26年度から「個人」が減少しているのに対して、「法人等」が27年度から増加している。1件当たりの平均支払額についても、「法人等」が27、28両年度に大きく増加している。これらは、「法人等」に区分されている環境省等による除染等の事業に要した費用に係る賠償金の請求が本格化したことが一因であると考えられる(2023_2_3_1_2_3リンク参照)。

d 支払対象別の賠償金の支払の状況

東京電力は、賠償金の請求受付から支払の合意に至るまでの進捗を賠償システムを利用するなどして管理している。

 「個人」に係る賠償金の支払について、2件、計65万余円の重複が見受けられた。また、請求受付から支払までの平均日数についてみると、「個人」は51.1日、「法人(定型書式)」は42.7日、「法人(非定型書式)」は113.3日、「公共」は95.3日となっていて、中には賠償金の支払までに1,800日以上の長期間を要しているものも見受けられた。東京電力においては、時間の経過を受けて生じた個別事情を踏まえた上で、適切な審査に努めるとともに、引き続き処理の促進を図ることが望まれる。また、「求償」については、請求受付から支払までの平均日数は402.9日となっていて、サンプルチェックによる提出書類の簡素化を図ることなどにより、期間の短縮化の傾向にあるが、東京電力は、関係府省と引き続き連携を図り、審査の適切かつ確実な実施を効率的な事務処理と両立させるよう努めていく必要がある(2023_2_3_1_2_4リンク参照)。

e 賠償に必要な費用の見込み

28年閣議決定において、交付国債の発行により対応すべき費用として、被災者・被災企業への賠償費用に約7.9兆円、除染・汚染廃棄物処理の費用に約4.0兆円、中間貯蔵施設の費用に約1.6兆円、計約13.5兆円を要するとの見込みに基づき、交付国債の発行限度額を13.5兆円に引き上げることが決定された。

このうち、被災者・被災企業への賠償費用約7.9兆円については、地方公共団体に対する不動産の賠償のように、本報告書作成時点では賠償基準が定められておらず合理的な見積りを行うことができない損害項目があることなどから、被災者・被災企業への賠償費用に係る賠償見積額は、特別事業計画で示されている額から更に増加することが想定されるものとなっている。そして、特別事業計画における賠償見積額や実際の支払累計額が25年閣議決定で示された賠償費用の見込額を超えていた時期があった。このようなことを踏まえると、被災者・被災企業への賠償費用が約7.9兆円に収まるかどうかについても注視する必要がある。

また、除染・汚染廃棄物処理の費用約4.0兆円及び中間貯蔵施設の費用約1.6兆円については、除染作業や仮置場での除染土壌の管理、除染土壌の発生に伴う中間貯蔵施設への輸送や同施設の整備等に要する費用等によって算定されているが、これらの措置の実施にどの程度の期間が必要か確実には見通せない面がある。さらに、中間貯蔵施設で保管される除染土壌等に係る最終処分の方法や費用の負担者等については決定されていないため、28年閣議決定における除染等の費用の見込額に最終処分に係る費用は含まれていないが、将来的にはその費用を当該見込額に含めることが想定される。このようなことを踏まえると、今後の状況等によっては、当該見込額を見直す必要が生ずるおそれがあると考えられる。

これら賠償に必要な費用の見込みは、交付国債の発行限度額の根拠となり、国民負担の規模に影響を与えることから、経済産業省において、関係省庁と協力して、被災者等への賠償の推移や除染、中間貯蔵施設等に係る事業の進捗等を適時適切に把握して妥当性を検証し、その額を見直す必要が生じた場合には、負担の在り方や必要性について国民に対して十分に説明する必要がある(2023_2_3_1_2_5リンク参照)。

f 賠償業務に対するモニタリングの実施状況

機構は、東京電力が行う日々の賠償業務における審査の実施状況や証ひょう類の確認状況等について、専門の部署を設けて常時モニタリングを実施している。モニタリング等により過払いの疑いがある支払を発見した場合には相互に検証作業を行い、過払いであることが認定された支払については、機構が毎月分を取りまとめた上で、東京電力に過払い額に係る資金を戻入するよう要請する文書を作成するなどしている(2023_2_3_1_2_6リンク参照)。

イ 特別事業計画に基づく東京電力の事業運営の状況
(ア) 経営の合理化のための諸方策の実施状況

a コスト削減等の状況

(a) 新・総特におけるコスト削減目標と実績の状況

26年度から28年度までの新・総特に基づく各年度のコスト削減額をみると、目標額1兆8761億円に対して、東京電力が算定して公表している実績額は2兆2212億円となっている。

総特に掲げたコスト削減目標を上回るコスト削減を目指して、24年11月に設置された調達委員会は、一定程度の役割を果たしたとして29年5月に一旦閉会している。東京電力は、同委員会のこれまでの成果として、東北地方太平洋沖地震前の22年度におけるコスト水準に対して、28年度までにコスト低減率20%、コスト低減累計額4360億円を実現したとしている(2023_2_3_2_1_1_1リンク参照)。

(b) 個別のコスト削減施策の状況

東京電力は、新・総特において、JERAで実施する出力1000万kWの経年火力リプレース等により25年度と比較して将来的に年間6500億円超の原価の低減を図るとしていたが、一部の発電所の営業運転開始時期が計画より遅れたことにより、原価の低減の効果の発現が一部後ろ倒しになっている。

このほか、新座洞道火災の再発防止策の実施により設備投資削減効果が押し下げられることになったり、火力電源入札の一部の落札者が事業化の中止を決定したため、1年間当たり4.5億円程度のコストの増加が見込まれたりしている施策も見受けられた(2023_2_3_2_1_1_2リンク参照)。

(c) 電力小売全面自由化に伴い発生した問題事象のコスト面への影響

東電PGは、28年4月14日に、スマートメーターの設置に遅延が生じていることを公表した。そして、その遅延解消のために、東京電力の施工力不足の影響を補うための工事単価の割増しにより5.9億円、計器メーカーに対する120A計器の増産要請により12.2億円、それぞれ追加的な費用が発生していた。

また、東電PGは、託送業務システムの不具合等に伴い、電気使用量を小売電気事業者に通知できない事態が生じていた。このため、小売電気事業者は、電気の使用者からの問合せに対応するためにコールセンターを設置するなどの対応を行った。そして、そのために要した費用について、29年11月末時点で東電PGは、小売電気事業者6社から計6億余円の請求を受け、合意できた1億余円を支払っている。

さらに、東京電力は、25年4月に「電力システムに関する改革方針」が閣議決定され、国の制度設計の詳細が未確定の状況下で託送業務システムの開発に着手したが、国の制度設計の進捗に伴うシステムの規模の増大に対して、きめ細かなプロジェクト管理ができず、過剰な人員が投入されることになった。その結果、東京電力は、託送業務システムの開発費用について、電力システム改革が完了する32年度までの保守費用等を含めて予算を設定しており、26年3月にその額を429億円としていたが、27年11月に見直した上記32年度までの予算額は621億円まで増加し、そのうち開発費については、生産性が低下したことにより60.7億円増加したり、人件費単価見直しにより36.0億円増加したりなどしており、27年度当初予算の52億円に対して27年度実績額が122億円増加して174億円となった。そして、前記の小売電気事業者からの賠償請求のほかにも、28年度において計83億余円の増加費用が生じていた(2023_2_3_2_1_1_3リンク参照)。

b 資産売却・グループ会社合理化等

(a) 資産売却の状況

資産売却について、目標達成後の新・総特においては、「今後も、新・総特に掲げた成長戦略等を踏まえつつ、最効率の事業運営に向けて引き続き最大限取り組んでいく」としており、東京電力は、新々・総特において取組を明記していないものの、同様の取組を行うとしている。

総特において不動産の売却目標額の設定に当たり売却対象とされた900件(簿価891億余円)の不動産のうち、29年9月末時点で未売却となっている物件は245件(簿価27億余円(29年3月末)。総特時点における評価額249億余円)となっている。

また、25年報告で売却可能性について検討を行う必要があるとした172件のうち、29年9月末時点で未売却となっているのは38件となっている。

総特における有価証券の売却目標額の設定に当たり売却の対象とされた315件のうち29年9月末時点で未売却となっている銘柄は91件(簿価75億余円(29年3月末))となっている。

総特における子会社・関連会社の売却目標額の設定に当たり45社が売却対象とされていたが、これらのうち29年9月末時点で17社が未売却となっている(2023_2_3_2_1_2_1リンク参照)。

(b) 子会社のコスト削減等の状況

新・総特において、25年度から34年度までの10年間で計3517億円のコスト削減を行うこととなっている。26年度から28年度までの経営管理サイクル会社におけるコスト削減について、東京電力は、計画値の1052億円を上回る1777億余円のコスト削減を実施したとしている(2023_2_3_2_1_2_2リンク参照)。

(c) 固定資産に計上されている核燃料

東京電力の28年度末の加工中等核燃料の保有量は、燃料集合体に換算すると13,659体分で、柏崎刈羽原発の1号機から7号機までの全機が稼働した場合のおよそ13年分に相当する量となっている。そして、将来引取り分を含めた保有量は、燃料集合体換算で19,479体分となる。柏崎刈羽原発全体の今後の運転状況が想定からおおむね3割程度低下した場合には、不要となる核燃料が発生し、その購入代金分について、電気を販売することによって回収できなくなる。そして、現在のウラン精鉱の市況が続き、かつ、不要となる核燃料が発生した場合には、その資産評価は、購入代金より低いウラン精鉱の市場価格を基礎としたものとなるおそれがある。

したがって、東京電力は、原子炉の運転計画と市場動向を注視しながら、引き続き、核燃料の適正な保有量について検討するとともに、保有量の削減が必要な場合には、既に保有しているウラン精鉱等を削減したり、長期購入契約を締結しているものについて引取りの中止等の交渉を行ったりする方策を実施するなどの措置を執る必要がある(2023_2_3_2_1_2_3リンク参照)。

(イ) 収支見通しの状況

a 新・総特の収支見通しから新々・総特の収支見通しへの見直し内容

新々・総特においては、29年度から38年度までの10年分の収支見通しが示されている。そして、特別負担金の仮置き額は、新・総特において25年度は経常利益の2分の1、26年度以降は毎期500億円の一定額と設定されていたところ、新々・総特において29年度から31年度までは毎期500億円、32年度以降は毎期1000億円の一定額となっていて、32年度以降の特別負担金が増額されている。

廃炉等積立金について、東京電力は、30年度以降の積立額の積み増し分を、廃炉等費用の総額等に基づいて毎期定額の2000億円と仮置きしている(2023_2_3_2_2_1リンク参照)。

b 柏崎刈羽原発の状況と収支等への影響

(a) 新規制基準に適合するための工事の進捗状況等

東京電力は、柏崎刈羽原発を再稼働させるために、新規制基準に適合するよう各種の安全対策を進めている。東京電力は、6、7号機について新規制基準に対する適合性審査を受けるために、25年9月に原子炉設置変更許可等を規制委員会に申請し、規制委員会は、審査を行った結果、29年12月に、6、7号機について設置変更を許可した。一方、同月末時点で、安全設備設置工事の一部が実施途中であるなど、再稼働の時期については、いまだ見通せない状況となっている。

安全設備設置工事の中には、当初は6、7号機に対する新規制基準適合対策として実施していたものの、最終的に新規制基準に適合させることができなかった設備もある。東京電力は、6、7号機以外の各号機に対する新規制基準適合対策を実施する際には、安全性を早期に確保するために、有効に投資を進めていくことが望まれる(2023_2_3_2_2_2_1リンク参照)。

(b) 柏崎刈羽原発の再稼働時期等による収支への影響

柏崎刈羽原発の再稼働時期等による収支への影響について、収支見通しの中で最も再稼働の進捗が速い「31年度以降再稼働すると仮定し、2~4号機を織り込む場合」と、最も再稼働の進捗が遅い「33年度以降再稼働すると仮定し、3、4号機を織り込まない場合」とで比較すると、31年度から経常利益及び当期純利益に顕著な差が生じていて、10年間の累計では経常利益で5358億円、当期純利益で3933億円、いずれも「31年度以降再稼働すると仮定し、2~4号機を織り込む場合」の方が大きくなっている(2023_2_3_2_2_2_2リンク参照)。

(c) 新々・総特の収支の見通しにおけるキャッシュ・フローと財政状態の見通し

特別負担金と廃炉等積立金がキャッシュ・フローの見通しに与えている影響についてみると、廃炉等積立金の積み増しは、30年度から毎年度2000億円ずつ、特別負担金については、柏崎刈羽原発の再稼働までは毎年度500億円とし、再稼働の翌年度から1000億円の計上を仮置きしている。また、財政状態については、純資産の増加は29年度末から38年度末までで1兆5254億円であり、その結果、機構保有株式調整後1株当たり純資産は29年度末に429円であるのに対して、38年度末には738円となり、10年間で1.7倍の増加にとどまる見通しになっている。

柏崎刈羽原発の具体的な再稼働時期について見通しが立っていないことから、東京電力は、必要に応じて収支見通しを適時に見直す必要がある(2023_2_3_2_2_2_3リンク参照)。

c 核燃料サイクルバックエンドに係る費用

電力小売全面自由化により競争が進展しても、エネルギー基本計画で定められた方針に従い、使用済燃料の再処理等が滞ることがないように必要な資金を引き続き安定的に確保するなどのために、国は、旧再処理等積立金法による積立金制度を廃止して、新たに再処理等拠出金法による拠出金制度を構築することとした。

一方、拠出金単価の認可が行われる前の29年5月に第1次新々・総特の認定が行われているため、新々・総特の収支見通しに計上されている使用済燃料再処理等拠出金は、東京電力が旧再処理等積立金制度の枠組みで見積もった金額となっている。

東京電力は、使用済燃料再処理等準備引当金について、29年3月末に再処理機構に支払うよう経済産業大臣から通知を受けた金額等を除いた650億0407万余円をその他固定負債に振り替えた。この額は、23年原発事故発生時において、福島第一原発1号機から3号機までの原子炉内に装荷されていた燃料及び1号機から4号機までの使用済燃料プールに保管されていた燃料分として計算されたものであり、当該燃料の処理や処分に当たって、性状の分析及び技術的検討を踏まえた検討が必要であるため、経済産業大臣の支払通知から除外されたものである。東京電力は、上記の検討に基づいた金額を今後支払う可能性があるが、その具体的な金額や時期を見通すことが困難であることから収支見通しに反映していない。

旧再処理等積立金制度時の見積りについてみたところ、東京電力は、返還低レベル廃棄物管理費用の見積りについて、旧再処理等積立金制度創設後の状況の変化を反映して適時に見直しを行っていない状況となっていたが、仮に旧再処理等積立金法に基づく見積りが適時に見直されていないために積立額に過不足があり、原子力事業者が将来に納付することになる拠出金の額に影響することとなった場合には、東京電力が収支見通し等で想定した各年度の利益に影響するおそれがある。したがって、東京電力は、仮に拠出金単価が変動する場合には、今後納付することとなる拠出金の額を適時適切に収支見通しに反映していくことが求められる。

法定の積立て等の制度がないウラン濃縮工場バックエンド費用のうち、東京電力の分担額から28年度末時点で費用計上している金額を控除した残額約326億円について、東京電力は、合理的に見積もられた金額ではないために引当金として計上しておらず、新々・総特の収支見通しにも反映させていない(2023_2_3_2_2_3リンク参照)。

(ウ) 金融機関への協力要請等

a 23年原発事故から新・総特の認定までの資金調達の状況

東京電力が発行する社債及び政投銀からの借入金には、電気事業法等により、損害賠償債務等の他の債務に優先して弁済される一般担保が付されている。

23年原発事故に伴い、東京電力は、取引のある全ての金融機関に対して、社債市場への復帰までの間における与信維持、新規融資の実行等を要請し、協力を得た。東京電力は、この融資には信託スキームを利用することとし、長期資金については私募債形式を採り、民間金融機関の融資に実質的に一般担保が付されることになった(2023_2_3_2_3_1リンク参照)。

b 新・総特の認定後の資金調達の状況

東京電力は、新・総特及び新々・総特において、取引のある全ての金融機関に対して、①引き続き借換えなどにより与信を維持すること、②一般担保による与信の総量が、23年原発事故発生時における範囲を超えないようにするとともに、毎年度継続的に減少していく運用とすること及び③債務の履行に特段の支障がないことを前提に今後新規に契約される融資について、できるだけ早期に私募債形式によらないこととするよう、機構と東京電力との間で真摯に協議することなどについて協力を要請することとした。

これらの要請に対する金融機関の対応状況として、①については、与信を維持し、②については、一般担保による与信の総量は23年原発事故発生時における範囲を超えておらず、要請後は減少してきており、③については、機構及び東京電力と協議した上で、26年4月以降、原則として、返済期限が到来した借入金の借換えの際に短期の委託者向けローン等を選択し、私募債形式によらない融資を行っている(2023_2_3_2_3_2リンク参照)。

c 財務制限条項の状況

金融機関が実質的に引き受けた私募債及び借入金の一部には、東京電力及び東京電力グループの損益、純資産及び現預金残高の各項目の実績値が金融機関に提示した計画値を一定程度以上下回らないようにしなければならないなどの財務制限条項が付されている。

29年9月末において、財務制限条項が付されているのは、私募債6582億余円、借入金8799億余円、計1兆5382億余円となっている(2023_2_3_2_3_3リンク参照)。

d 公募社債市場への復帰

電力小売全面自由化後も総括原価方式が維持され、安定的な収益の確保が可能な送配電事業を行う東電PGは、29年3月に900億円の公募社債を発行した(同年9月末までの発行累計額2600億円)。しかし、機構は、更なる企業価値向上施策等を通じて、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要であるとするなど、東京電力の経営への国の継続的関与が必要であると判断している(2023_2_3_2_3_4リンク参照)。

上記のように、コスト削減総額の目標に対して超過達成はしているものの、コスト削減目標を達成できない施策が見受けられることや、施策の実施により追加的な費用が生じていたり、想定以上の費用が生じていたりしていることから、東京電力は、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要とされていることを踏まえて、コスト削減施策等の取組につながるよう業務運営の適切性の確保に努める必要がある(2023_2_3_2_3_4リンク参照)。

ウ 福島第一原発の廃炉に向けた取組等の状況
(ア) 福島第一原発の廃炉・汚染水対策の概要

a 廃炉に向けた中長期的な取組体制

28年閣議決定において、引き続き国は前面に立って必要な研究開発を支援するとしている一方で、東京電力は原子炉の設置者として廃炉の実施責任を果たしていく必要があるとしている。

政府は、廃炉・汚染水対策を推進していくための大方針として、23年12月に中長期ロードマップ(初版)を策定し、継続的に見直しを行っている。

機構は、廃炉等の適切かつ着実な実施の確保のための助言、指導及び勧告を行うこと並びに廃炉等技術の研究開発のマネジメントを行うこととなっている。また、機構は、技術戦略プランを策定している。

規制委員会は、監視・評価検討会における検討状況を踏まえて、実施計画の審査及び認可を行い、福島第一原発に係る施設の保安又は特定核燃料物質の防護のための措置が実施計画に従って行われているかについて検査を実施するなどしている。

研究開発機関にはJAEAやIRID等があり、これらは、廃炉作業における技術的難易度の高い課題に対処していくための研究開発を行っている。

東京電力は、福島第一原発の廃炉を行うための組織として、廃炉カンパニーを設置しており、部門横断的なプロジェクト管理体制を導入し、延べ700人が従事している(2023_2_3_3_1_1リンク参照)。

b 中長期ロードマップ等の概要

中長期ロードマップはこれまで4回の改訂が行われており、改訂第4版の主な変更点は、燃料デブリ取り出しについては、現時点では難しい冠水工法から気中工法に軸足を置き、小規模な取り出しから開始して段階的に規模を拡大していく方針としたことなどとなっている(2023_2_3_3_1_2リンク参照)。

(イ) 国による廃炉・汚染水対策に対する財政措置

国は、23年度以降、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する研究開発等、研究施設の整備等及び実証事業に対して、計2242億余円の財政措置を講じている(2023_2_3_3_2リンク参照)。

a 研究開発等の全体像

経済産業省は、応用開発に位置付けられる研究開発等を実施しており、IRID等の研究開発機関が主な実施主体となっている。また、文部科学省は、基礎的・基盤的研究に位置付けられる研究開発等を実施しており、大学及び研究開発機関が主な実施主体となっている。このように、多様な実施主体によって実施されている廃炉・汚染水対策に係る研究開発等は、今後の着実な廃炉作業のために連携して行われることが必要となるとして、機構は、研究開発分野におけるマネジメント等を行うとしている(2023_2_3_3_2_1リンク参照)。

b 廃炉・汚染水対策事業に係る研究開発等

27年報告後の基金補助事業の実施状況をみると、平成26年度補正予算事業から平成28年度補正予算事業までで、基金補助事業計26事業が実施されており、公募に対する応募者数が2者以上となっていた事業の割合は、平成26年度補正予算事業以降増加していた。また、26事業のうち1事業を除いた全ての事業における基金補助事業者は、IRID又はIRIDを含む者となっていた。これは、基金補助事業が開始される前の23年度から25年度にかけて経済産業省が研究開発等に係る事業を実施しており、当該事業における受託者及び補助事業者の7割程度は、IRIDの組合員となっているため、他に競合相手が少ないことが原因であると考えられる。

このように、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にあることを踏まえた上で、事務局法人においては、事業費が適正であるかを引き続き十分に確認する必要がある(2023_2_3_3_2_2リンク参照)。

c 国の財政措置による成果の利活用の状況

(a) 廃炉・汚染水対策事業における研究開発等の成果の活用状況

廃炉・汚染水対策事業において継続して実施されている研究開発等で得られた成果は、実施内容に関連性のある研究開発等や後継の研究開発等で活用されていた。一方、継続する研究開発等がなく、その成果が29年9月末時点で活用されていないものには、今後の廃炉作業の進展等に伴い活用が見込まれるとしているものもあるが、廃炉作業への適用性に関して課題が残されているとしているものや廃炉・汚染水対策の進捗により現場状況が改善したため活用に至っていないものも見受けられた。

機構は、廃炉等技術の研究開発に係るマネジメントの役割を担っていることなどを踏まえ、今後の廃炉等技術の研究開発について、得られた成果が実用に資するものとなっていくよう、適切に管理していく必要がある(2023_2_3_3_2_3_1リンク参照)。

(b) 施設整備の状況

JAEAは、事業費100億円で福島県双葉郡楢葉町に整備した楢葉センターを28年4月から本格運用しており、また、放射性物質の分析・研究施設は29年度内の運用開始を目指して、事業費750億円で同郡大熊町に建設することとされている。

検査したところ、楢葉センターにおけるVRシステムに係る事業において、関連する事業間のスケジュールの設定や管理の在り方について留意する必要がある事例が見受けられたが、関係機関相互の間において、関連する事業の進捗状況を適切に把握して各事業の実施開始時期を検討することなどにより効率的かつ効果的に事業を実施できる場合には、機構において状況を把握し、問題がある場合には必要な措置を講ずる必要がある(2023_2_3_3_2_3_2リンク参照)。

d 汚染水処理対策に係る実証事業の実施状況

(a) 凍土方式遮水壁大規模整備実証事業

福島第一原発における地下水の流入を抑制するために東京電力が取り組んでいる対策に加えた抜本策の柱として、経済産業省は、凍土方式遮水壁大規模整備実証事業において凍土壁の構築に係る公募を行い、東京電力等2社の共同提案事業者を補助事業者に決定した。補助金額は、当初交付決定時に平成25年度予算の予備費を使用して予算措置された129億余円から、最終的に345億余円に増額された。補助事業に要した経費は562億余円となっていた。

東京電力等2社は、28年3月31日以降、凍土壁(海側)から段階的に凍結を開始し、29年8月に、最後の未凍結箇所1か所の凍結を開始した。東京電力によると、地下水の流入抑制の効果は、建屋流入量の変化のデータを根拠に一定程度表れているとしている。しかし、30年1月末までに東京電力が示した建屋流入量等の変化は、凍土壁のみではなく、地下水バイパスやサブドレンを含めた汚染源に水を「近づけない」ための重層的な取組によるものであり、凍土壁単体としての効果が示されたものとはいえない。

東京電力は、凍土壁を整備したことによる建屋への地下水流入抑制等の効果を適切に示していく必要がある(2023_2_3_3_2_4_1リンク参照)。

(b) 高性能多核種除去設備整備実証事業

25年3月から運転を開始した既設ALPSは、放射性廃棄物の発生量が多く、保管場所を圧迫していることから、経済産業省は、高性能多核種除去設備整備実証事業において高性能ALPSを開発することとして公募を行い、東京電力等3社の共同提案事業者を補助事業者に決定した。東京電力等3社は、25年10月から27年3月まで補助事業を実施し、補助事業終了後も共同研究を継続して実施した結果、高性能ALPSを開発することができ、研究の目的を達成したとしている。高性能ALPSの開発費用は、補助金額137億余円と、補助金を超過した額及び補助事業期間終了後の共同研究期間に発生した費用とを合わせて計291億余円となっている。しかし、高性能ALPSは、28年2月以降長期停止中となっている。

東京電力は、多額の国費を投入して開発された高性能ALPSについて、活用に向けた検討を継続し、今後有効に活用するよう努める必要がある(2023_2_3_3_2_4_2リンク参照)。

(ウ) 東京電力による廃炉・汚染水対策の概要

a 東京電力における汚染水対策の状況等

東京電力は、23年原発事故後、継続して汚染水対策を実施してきている。そして、25年9月には、政府が汚染水問題基本方針を決定し、汚染水問題の根本的な解決に向けて、汚染源を「取り除く」、汚染源に水を「近づけない」、汚染水を「漏らさない」という三つの方針の下、各種対策を講じていくこととした(2023_2_3_3_3_1リンク参照)。

b 汚染源を「取り除く」ための取組

東京電力は、汚染水に含まれる主要な放射性物質を一定程度除去することなどを目的として、汚染水処理設備を設置するとともに、放射性物質のうち取り除くことが技術的に困難なトリチウムを除くセシウム、ストロンチウム等の62核種を告示濃度を下回る濃度まで除去するために、3台のALPSを設置した。また、東京電力は、汚染水処理の加速化を図るために可搬型の除去設備等を設置した。

これらの設備のうち、一定期間運転したものの停止状態となっている設備等があり、一部の設備については、実施計画の変更手続を行い、廃止としたものもある(2023_2_3_3_3_2リンク参照)。

c 汚染源に水を「近づけない」ための取組

東京電力は、汚染源に水を「近づけない」ための対策として、「地下水バイパスの構築」「サブドレンの復旧及び強化」「凍土壁の構築」及び「フェーシング」を実施している。これらの取組を通じて、建屋流入量は、対策実施前の400m3/日程度から、29年3月の平均では120m3/日程度にまで低減し、目標としていた水準をおおむね達成したとされている。なお、フェーシングについては、工事の施工状況を踏まえて、引き続き毎月の保守点検を慎重かつ確実に実施して維持管理を適切に行っていくことが望まれる(2023_2_3_3_3_3リンク参照)。

d 汚染水を「漏らさない」ための取組

東京電力は、原子炉建屋内の地下等にたまり続けている汚染水をくみ上げ、汚染水処理設備等により放射性物質を除去するなどした後に、処理水を敷地内に設置されたタンクに貯蔵しているが、現在のタンクの設置速度が維持される限り、少なくとも32年12月末までの間に汚染水発生量の増加にタンクの貯蔵容量が対応できなくなるおそれは低いとしている(2023_2_3_3_3_4リンク参照)。

(エ) 福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る東京電力の負担等

22年度から28年度までの人件費及び減価償却費を加味した廃炉・汚染水対策に係る費用の累計は、概算で9681億円となっている(2023_2_3_3_4リンク参照)。

a 災害損失引当金等に計上したもののうちこれを取り崩して対価を支払うなどした額

廃炉・汚染水対策費用として災害損失引当金等に計上したもののうち、これを取り崩して対価を支払うなどした額は、28年度末までに4880億余円となっている(2023_2_3_3_4_1リンク参照)。

b 安定化維持費用

安定化維持費用に係る支出額は、28年度までで計2672億余円となっていて、汚染水のストロンチウム処理が本格化した26年度以降、第二セシウム吸着装置の消耗品等の汚染水処理に係る費用が増加している(2023_2_3_3_4_2リンク参照)。

c 研究開発費に計上されている費用

東京電力によると、廃炉・汚染水対策を進める上で必要となる研究開発費は、28年度までで計125億余円となっている(2023_2_3_3_4_3リンク参照)。

d 廃止措置資産の設備投資額

廃止措置資産の設備投資の内容は、汚染水処理設備、汚染水タンクの増設、廃止措置に向けた設備の整備、廃炉作業の拠点整備、廃棄物焼却設備、フェーシング等となっていて、これらを含む新たに取得した廃止措置資産は28年度末までで計4018億余円となっている(2023_2_3_3_4_4リンク参照)。

e 廃炉・汚染水対策費用の見積額

東京電力は、安定化維持費用及び研究開発費を除いた福島第一原発の廃炉・汚染水対策に要する費用の総額を1兆0117億余円と見積もっており、このうち、今後負担することとなる廃炉・汚染水対策費用(28年度末までに見込んだ額)として、「福島第一原発の事故の収束及び廃止措置に向けた費用または損失」を災害損失引当金として3306億余円、「解体費用」を原子力発電施設解体引当金として1930億余円計上している。

東京電力は、廃止措置に関連する費用のうち「燃料デブリ取り出し費用等」の概算額として、TMIの実績に基づいて、22年度に2500億円を災害損失引当金に計上し、28年度までこの額の見直しを行っていない。

新々・総特策定の前提となっている廃炉に係る必要資金の8兆円は、これまで廃炉に要する資金として見込んだ2兆円に加えて、燃料デブリの取り出し工程を実行する過程で、追加で最大6兆円程度の資金が必要であるとして28年12月に東電委員会に示された試算額である。

廃炉費用がどのような規模となるのかは、東京電力の企業価値の水準のほか、損益や資金繰り等の収支の状況に影響を及ぼす可能性があり、収支の状況に照らして経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものであることなどの基準に沿って決定されることになる特別負担金の額を通じて、交付国債の元本分の回収期間にも影響し得るものである。

そして、廃炉費用の見積りを適切に行い、会計上適切に反映することは、資産及び収支の状況に係る評価を適切に行ったり、廃炉等積立金制度の趣旨を踏まえて積立額を適切に決定したりしていく上で重要である。東京電力は、今後の中長期ロードマップの進捗等により通常の見積りが可能となった場合には、これを踏まえた見積りを行い、災害損失引当金等の計上に適切に反映していく必要がある(2023_2_3_3_4_5リンク参照)。

エ 東京電力の決算の状況
(ア) 21年度以降の決算

23年原発事故後、東京電力の純資産は大幅に減少し、24年度末の純資産は8317億余円、自己資本比率は5.7%であったのに対し、28年度末の純資産は、いまだ利益剰余金は欠損状態にあるものの、1兆9006億余円と1兆0688億余円増加し、自己資本比率は16.1%と10.4ポイント増加した。また、有利子負債の削減に取り組むなどした結果、24年度末に13兆7880億余円だった負債は28年度末には9兆8807億余円と3兆9073億余円減少していた。

なお、この間、電気事業会計規則の改正や使用済燃料の再処理等の実施に要する費用に係る制度の改正が行われており、これらの改正により、資産の減少のうち1兆1447億余円、負債の減少のうち1兆5115億余円、純資産の増加のうち3668億余円の影響があった(2023_2_3_4_1リンク参照)。

(イ) 決算の状況

26年度から28年度までの新・総特に添付されている収支見通しと東京電力の決算を比較すると、営業収益のうち、電灯電力料は減収となっていたが、原子力発電所の再稼働を前提に見込んでいた電気料金の値下げを実施しなかったことや、コスト削減に努めたことなどから、経常利益については、26年度はほぼ見込みどおり、27、28両年度は見込みを上回る結果となっている。

28年評価では、自己資本比率の改善、有利子負債の削減及び社債の発行について一定の成果を挙げたものの、東京電力の資本市場からの信頼獲得が不十分だったり、発電資産・燃料資産(核燃料を含む。)への減損会計の適用に課題があったりして進捗が十分でなかったとされ、更なる企業価値向上施策等を通じ、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要とされている(2023_2_3_4_2リンク参照)。

2 所見

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、原賠法等の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として、機構が東京電力に対して出資したり、原子力損害の賠償のための資金を交付したりすることなどにより、多額の財政資金を投じて実施されている。

政府は、復興に向けた取組の具体的な進展が見られるものの、その進捗にはいまだばらつきが見られ、避難状態の長期にわたる継続に伴って新たな課題も顕在化しているとして、28年閣議決定を行い、この中で、原子力災害からの復興について、その進捗と相まって廃炉、賠償等の事故対応費用の見通しが明らかになりつつあるとして、改めて国と東京電力の役割分担を明確にした。また、東京電力の経営改革に対して機構が29年5月に示した28年評価において、東京電力の経営について国の継続的関与が必要であるとの判断が示された。そして、28年閣議決定において明らかにされた国の方針や、東京電力を取り巻く事業環境の変化等を踏まえて新・総特の内容を全面的に改訂した新々・総特が策定され、東京電力は、賠償及び復興に引き続き全力を尽くし、未踏領域に入る廃炉については安定的な財源拠出や事業推進体制を確立することとされた。また、生産性の倍増に更に取り組み、中長期的には、共同事業体の設立を通じた再編・統合を目指し、更なる収益力の改善と企業価値の向上を図ることなどが示された。あわせて、機構法が改正され、東京電力は廃炉等実施認定事業者として機構に廃炉等積立金を積み立てることなどとされた。

28年閣議決定においては、交付国債で対応すべき被災者・被災企業への賠償費用、除染費用、中間貯蔵施設費用がそれぞれ約7.9兆円、約4.0兆円、約1.6兆円、計13.5兆円と示され、25年閣議決定の計9.0兆円から増加することが見込まれている。国から機構に対しては、原子力損害の賠償に必要な資金を東京電力に交付するために累計で13.5兆円の交付国債が交付されており、加えて中間貯蔵施設費用相当分として28年度末までに累計で1050億円の資金が交付され、更に29年度中に470億円が交付されることとなっている。そして、29年12月までに東京電力が支払った賠償金の累計は7兆6821億余円となっている。

一方、東京電力は、25年度分から特別負担金の納付を開始して、28年度分は1100億円を納付し、その累計は2900億円となった。東京電力は、今後とも賠償金の支払を継続することに加えて、福島第一原発の廃炉・汚染水対策を長期間にわたり実施するために廃炉等積立金の積立てを行うなどして、多額の資金を確保する必要があること、また、その安定的な財源を中・長期的に確保するために必要な収益力の改善及び企業価値の向上を図る必要があることから、同程度の金額を今後も納付することができるかについて注視する必要がある。そして、25年閣議決定に続き、28年閣議決定においても、機構が保有する東京電力の株式を売却し、それにより生ずる利益の国庫納付により除染費用相当分等の回収を図るとされていることから、東京電力の株式をできる限り早期に、かつ、高い価格で売却することは、国が交付した資金の早期の回収と国民負担の極小化に大きく貢献する。このため、株式を高い価格で売却できるようにするために、より一層の収益力の改善や企業価値の向上に東京電力が取り組むことが必要とされているが、その取組は決して容易ではなく、また、実際の売却価格は様々な要素により決まるもので、高い価格での売却は確実なものではない。さらに、福島第一原発の廃炉・汚染水対策は長期にわたる取組であり、かつ、今後着手する工程も多いことから、国、機構及び東京電力が密接に連携し、中長期ロードマップを踏まえて着実に実施していくことが求められる。

したがって、上記のような点を踏まえた上で、今後、文部科学省は次の(1)アの点に、経済産業省は次の(1)イの点にそれぞれ留意して原子力損害の賠償に関する支援等を実施し、機構は次の(2)の点に留意して資金援助業務等を実施し、また、東京電力は次の(3)の点に留意して原子力損害の賠償その他の特別事業計画を履行していく必要がある。

(1) 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

ア 文部科学省において、

(ア) ADRセンターにおける和解の仲介については、申立件数の減少等を受けて未処理件数の減少傾向がみられるが、集団申立て等のように、その処理に時間と労力を要する案件の比重が増えていることから、これらの状況の推移にも的確に対応しつつ、引き続き処理の促進に努める。

(イ) 機構法附則において求められている事項については、その検討等に具体的な進展がみられるものの原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていないことから、必要な措置を早期に講ずるよう努める。

イ 経済産業省において、

(ア) 交付国債の発行により対応すべき費用の見込額については、関係省庁と協力して、被災者等への賠償の推移や除染、中間貯蔵施設等に係る事業の進捗等を適時適切に把握して妥当性を検証し、見込額を見直す必要が生じた場合には、その負担の在り方や必要性について国民に対して十分に説明する。

(イ) 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の認可に当たっては、「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえて、国が機構を通じて交付した資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に引き続き十分に配慮する。また、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して丁寧に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督する。

(ウ) 廃炉・汚染水対策事業の実施に当たり、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にあることを十分踏まえた上で、事務局法人に事業費が適正であるかどうかを十分に確認させるなどの必要な措置を講ずる。

(2) 機構による資金援助業務の実施状況等

機構において、

ア 東京電力における原子力損害の賠償の実施や経営合理化のための諸施策の実施に関するモニタリング、廃炉事業の実施等に関する管理・監督を的確に実施するなどして、東京電力による特別事業計画の確実な履行を引き続き支援する。

イ 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の検討に当たっては、「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえて、国が機構を通じて交付した資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に引き続き十分に配慮する。また、特別負担金の額が東京電力に対して「経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担」を求めたものであるかについて、特別負担金の額の検討に際して考慮した東京電力の現在の経営状況や今後の事業運営に要する資金の規模その他の経理上の諸要素を用いるなどして、国民に対して丁寧に説明する。

ウ 着実な廃炉作業の実施のため、福島第一原発の廃炉に係る研究開発を、機構が中心となって、基礎から実用に至るまで一元的にマネジメントするとされていることに鑑み、今後の研究開発機関における廃炉等のために必要な研究開発の実施に当たり、得られた成果が実用に資するものとなっていくよう、適切に管理するとともに、関連する事業間のスケジュールの設定や管理が適切かつ効率的に行われているか把握し、問題がある場合には必要な措置を執る。

(3) 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

東京電力において、

ア 賠償金の請求受付から支払までに要する期間が長期化している案件が散見されることから、被災者・被災企業への賠償については、時間の経過を受けて生じた個別事情を踏まえた上で、適切な審査に努めるとともに、引き続き処理の促進を図る。また、除染等の「求償」に係る賠償については、引き続き関係府省との連携を図り、審査の適切かつ確実な実施と効率的な事務処理とを両立させるよう努める。

イ 更なる企業価値向上施策等を通じて、より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要であるとされていることを踏まえて、コスト削減等の取組につながるよう業務運営の適切性の確保に努めるとともに、原子炉の運転計画と市況動向を注視しながら、引き続き、核燃料の適正な保有量について検討し、保有量の削減が必要な場合には既に保有しているウラン精鉱等を削減したり、長期購入契約を締結しているものについて引取りの中止等の交渉を行ったりする方策を実施するなどの必要な措置を執る。

ウ 廃炉・汚染水対策について今後も引き続き適切に進めていくとともに、実証事業等の効果を適切に示し、今後成果を有効に活用するよう努める。

エ 廃炉費用がどのような規模となるのかは、東京電力の企業価値の水準のほか、損益や資金繰り等の収支の状況に影響を及ぼす可能性があり、収支の状況に照らして経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担をするものであることなどの基準に沿って決定されることになる特別負担金の額を通じて、交付国債の元本分の回収期間にも影響し得るものであるところ、将来の費用の見積りに当たっては、今後の中長期ロードマップの進捗等や、再処理等拠出金の単価の変動を踏まえた見積りを行うなどして、災害損失引当金等の計上や収支見通しが適切かどうかについて適時適切に見直しを行う。

以上のとおり報告する。

会計検査院は、東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況について、25年12月、28年12月の二度の閣議決定で示された東京電力に対する支援の新たな枠組み等に留意しながら検査を行い、3回にわたり報告を行った。

会計検査院としては、28年閣議決定において、廃炉・賠償等の事故対応費用の見通しが明らかになりつつあることを踏まえて改めて国と東京電力の役割分担が明確化されたことから、国が前面に出ることとしている廃炉・汚染水対策の進捗状況にも留意して、東京電力に対する国の支援の状況等について引き続き検査していくこととする。