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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書
  • 平成30年4月

在日米軍関係経費の執行状況等について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

日本国政府は、日米安全保障条約、日米地位協定、特別協定等に基づき、日本国の安全に寄与するなどのために、日本国政府の負担の下、日本国内の施設等を合衆国政府に提供するなどしている。また、日米両政府が8年12月に合意したSACO最終報告に基づくSACO事業が8年度から、日米両政府が18年5月に合意したロードマップ等に基づく普天間飛行場代替施設の建設やグアム移転事業等の在日米軍再編事業が18年度から、日本国政府の負担の下にそれぞれ実施されている。そして、これらの在日米軍の駐留及び再編等に関して日本国政府が負担している在日米軍関係経費の予算額は、毎年度多額に上っている。

そこで、在日米軍関係経費の執行状況等について、正確性、合規性、経済性、有効性等の観点から検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 在日米軍関係経費の決算の状況

 「在日米軍の駐留に関連する経費」のうち、「在日米軍駐留経費負担」に係る23年度から28年度までの支出済歳出額は、計1兆0913億6184万余円となっている。この期間における各年度の執行率についてみると、「提供施設整備(FIP)」については、各年度の提供施設等の整備に係る工期を翌年度に延長したことによる予算の繰越し、契約価格が予定を下回ったことによる不用等が生じたことなどにより、50%から77%までの間で推移しているが、「在日米軍駐留経費負担」全体では90%を超えている。また、「周辺対策、施設の借料等」の23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「施設の借料」は、年度中の所要経費を高い精度で見込めるため、96%から99%までと高い執行率になっている一方、「周辺対策」は、工事日程の調整に時間を要することなどにより、67%から90%までの間で推移しており、「周辺対策、施設の借料等」の全体では83%から93%までの間で推移している。

 「SACO関係経費」に係る支出済歳出額は、23年度以降、減少傾向となっており、「土地返還のための事業」は、28年度に「米軍再編関係経費」の「沖縄における再編のための事業」から100億余円の振替を受けている一方で、歳出予算現額の64%を29年度に繰り越している。また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「土地返還のための事業」は、提供施設等の移設等の工期が翌年度に延長されたことなどにより、28年度が29%になるなど年度ごとに違いが大きく、その結果、「SACO関係経費」全体では40%から87%までの間で推移している。

 「米軍再編関係経費」に係る支出済歳出額は、23年度の548億9120万余円から毎年度増加し、28年度には1550億8189万余円と、約2.8倍になっている。また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「在沖米海兵隊のグアムへの移転」は、23、24両年度に多額の繰越額及び不用額を計上したことや、27、28両年度においてグアム移転資金を予算と同額支出したことなどにより、0.5%から99%までと各年度で大きな差が生じている。「沖縄における再編のための事業」は、提供施設等の整備事業の工期を翌年度に延長したことなどにより、25%から63%までの間で推移しており、「米軍再編関係経費」全体では38%から78%までの間で推移している(4016_3_1リンク参照)。

イ 提供施設等に係る土地等の状況並びに受渡し及び返還に伴う国有財産の提供や関係経費の支出の状況

提供施設等に係る土地面積は、8年度末には3億1399万余m2であったが、28年度末には2億6434万余m2となっている。このうち、沖縄県内の提供施設等については、SACO最終報告が公表された8年度末には2億3498万余m2であったが、28年度末には1億8609万余m2となっている。

施設整備が完了した施設等の受渡しの状況についてみたところ、28年度末時点で提供の合意に係る手続をとっていない施設等で、工事完了後3年以上を経過しているものが、5防衛局で工事件数183件見受けられた。これは、施設等の提供のための合意に係る手続について一定規模の施設等をまとめて行うことになっていることにもよるが、これらの中には、長期間を要しているものも見受けられた。このため、上記施設等の整備が完了して国有財産台帳の価格が増加しているのに、提供施設等の中に国有財産が所在する市町村に対して交付される国有提供施設等所在市町村助成交付金が算定されないこととなっている。

一方、日米両政府において返還の合意があった提供施設等について検査したところ、関係市町村等から返還時期の延長等の要望を受けているものが見受けられた。また、このほかに、地上部分について提供施設等として本来の使用目的が失われているものなどが見受けられた。これらを合わせると、2防衛局管内で計4提供施設等に係る6区域(これらに係る土地面積計34万余m2、28年度末の国有財産台帳価格計3億1617万余円、28年度の賃借料計9182万余円)となっている(4016_3_2リンク参照)。

ウ 在日米軍駐留経費負担の支払

 「在日米軍駐留経費負担」の大半を占める労務費について、駐留軍等労働者数の14年度以降の推移をみると、14年度の24,974人に対して22年度の25,859人をピークに増加傾向にあったが、その後は25,200人(26年度)から25,545人(23年度)までの間で推移している。また、28年度の労務費の支払額は、日米地位協定分及び特別協定分を合わせて計1220億0961万余円となっている。

労務費の支払について検査したところ、夏季手当及び年末手当の期間計算に当たり、労務提供契約に、制裁措置として科される出勤停止期間を除算する規定が定められておらず、出勤停止期間を除算せずに期間計算を行うなどしていた。しかし、駐留軍等労働者の勤務条件は、国家公務員及び民間企業の従業員における給与等を考慮して定めることとなっており、国家公務員の期末手当及び勤勉手当の算定については停職期間を除算することとなっていることから、期間計算に当たっては出勤停止期間を除算する必要があったと認められる。

これについて、日本国政府(防衛省)は、会計検査院の検査を踏まえて、合衆国政府(在日米軍)との間で、出勤停止期間を除算するよう労務提供契約を改正する処置を講じた(4016_3_3リンク参照)。

エ SACO関係経費及び米軍再編関係経費に関する事業の実施

(ア) SACO関係経費に関する事業の実施

SACO交付金は、その交付が開始された9年度から28年度までに、SACO事業に関連する12特定防衛施設が所在する23市町村に対して、計506億3779万余円が支出されている。なお、29年12月末現在、「SACO関係経費」の対象となる事業は、パラシュート降下訓練、沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練に係る訓練移転費等となっている。

SACO交付金により実施した事業について、会計検査院は、平成28年度決算検査報告に「特定防衛施設周辺整備調整交付金で整備したIP告知システムによる一斉放送が実施できておらず、補助の目的を達していなかったもの」を掲記している(4016_3_4_1リンク参照)。

(イ) 米軍再編関係経費に関する事業の実施

 「米軍再編関係経費」のうち23年度から28年度までの支出済歳出額の合計の大きい「空母艦載機の移駐等のための事業」「沖縄における再編のための事業」「再編関連措置の円滑化を図るための事業」及び「在沖米海兵隊のグアムへの移転」の実施状況についてみたところ、次のとおりとなっている。

a 空母艦載機の移駐等のための事業

空母艦載機の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐等に係る事業に要した経費の18年度から28年度までの間の支出済歳出額は、計3981億9298万余円となっている。

このうち、中国四国防衛局では、空母艦載機部隊の移駐に伴う軍人等の住宅等の建設のために、24年3月に愛宕山用地を168億9000万円で購入し、土地の価格について国有財産台帳に記録していた。しかし、27年5月に完了していた敷地造成のための整地工事及び盛土工事に係る工事費計6億1956万余円について、国有財産関係要領等に基づき、工事完了後に国有財産台帳価格に加算すべきであったのに、同防衛局では加算しておらず、平成27年度国有財産増減及び現在額報告書の価格にも反映していなかった。

これについて、同防衛局は、会計検査院の検査を踏まえて、28年度末までに、報告漏れとなっていた工事費を当該土地の価格に加算するなどして、国有財産台帳価格の修正を行った(4016_3_4_2_1リンク参照)。

b 沖縄における再編のための事業

沖縄防衛局は、普天間飛行場代替施設の建設に係る工事、キャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事及び各種の業務等を実施しており、これらの事業に要した18年度から28年度までの間の支出済歳出額は、計763億2290万余円となっている。そして、これらの事業を実施するために締結した契約のうち、沖縄県との協議のため工事等の契約締結後に一時中止した建設工事が27件見受けられた。このうち、キャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事6件は、工事の一時中止に伴い、工事契約に基づき「受注者の責めに帰すことができない事象により工事の施工を中止させた場合の増加費用」として、受注者が設置した仮設の現場事務所等の賃借料等に対する支払が計2137万余円発生していた。また、残りの工事21件は、現在においても再開されていないものや完成に至っていないものなどがあることから、今後、同様の費用が発生し、これに係る支払が必要となることが見込まれる。

本件事業に関して、会計検査院は、平成28年度決算検査報告に「海上警備業務契約の予定価格の積算に当たり、業務内容を十分精査した上で、同種の業務に係る他の機関を含めた取引の実例価格又は官公庁の定める労務単価によることができるものについてはこれらを採用するなどして、労務費の算定を適切なものとするよう改善させたもの」を掲記している(4016_3_4_2_2リンク参照)。

c 再編関連措置の円滑化を図るための事業

再編交付金は、その交付が開始された19年度から28年度までに、19再編関連特定防衛施設が所在する44市町村に対して、計837億4535万余円が支出されている。

本件事業に関して、会計検査院は、平成28年度決算検査報告に「魚礁の設計及び施工が適切でなかったもの」を掲記している(4016_3_4_2_3リンク参照)。

d 在沖米海兵隊のグアムへの移転

グアム移転事業に必要な経費として、21年度から29年度(29年12月末まで)までの間に、各年度の交換公文に基づき日本国政府から合衆国政府へ支払われたグアム移転資金の移転済額は、計15億0146万米ドル(合衆国の2008会計年度米ドルで13億4495万米ドル)であり、同期間におけるグアム移転資金を使用した合衆国政府によるグアム島内での米軍施設等の建設に係る契約済額は、計4億0162万米ドルとなっている。

また、防衛省は、駐留軍再編促進金融業務を実施するための費用として、23、24両年度に株式会社日本政策金融公庫等に対するグアム移転出資金計436億9440万円を計上したが、24年4月の日米安全保障協議委員会においてグアムに移転する米海兵隊員の人数等の見直しが行われた結果として、出融資の必要がないと結論付けられたことなどから、グアム移転出資金を使用しなかった(4016_3_4_2_4リンク参照)。

(2) 所見

防衛省において、今回の検査により明らかになった状況を踏まえて、在日米軍関係経費の執行等が適切に行われるよう、次の点に留意することが必要である。

ア 提供施設等に係る土地等の状況並びに受渡し及び返還に伴う国有財産の提供や関係経費の支出について

  • (ア) 提供施設等の受渡しについて、施設等の整備の工事完了後、在日米軍において既に使用を開始するなどしている施設等について、引き続き施設等の提供のための手続を適切に行うこと
  • (イ) 提供施設等に係る返還の合意を行っている土地等について、賃借料の節減が図られるよう、関係市町村、所有者、合衆国政府等との間で協議を一層進めること。また、提供施設等として使用目的が失われていると認められる土地等について、必要な手続を進めること

イ 在日米軍駐留経費負担の支払について

  •  「在日米軍駐留経費負担」のうち労務費については、多額の予算が計上されていることを踏まえて、日米地位協定、特別協定等に基づき引き続き適正に執行するとともに、その計算方法が国家公務員及び民間企業の従業員における給与等を考慮した適切なものとなるよう留意すること

ウ SACO関係経費及び米軍再編関係経費に関する事業の実施について

  • (ア) 在日米軍再編事業等により購入した土地について、庁舎、宿舎等を新営するための造成工事を実施した場合は、国有財産関係要領等に基づき国有財産台帳の当該土地の価格に当該工事費を加算するなど適正に記録するようにすること
  • (イ) SACO交付金及び再編交付金の交付を受けて地方自治体が実施する事業について、平成28年度決算検査報告に掲記した事態のように、事業の目的を達していないと認められた場合は、その原因を分析するなどして、今後の事業の実施に当たって同種事態の発生防止のために活用すること

会計検査院としては、今後とも在日米軍関係経費の執行状況等について引き続き検査していくこととする。