1 本院が要求した是正改善の処置
東日本旅客鉄道株式会社では、民間企業等の事業所に対して定期乗車券を一括して販売するために、私鉄等との間で、それぞれ相手方の路線のみに係る定期乗車券を販売する業務を無償で相互に行うこととするなどの定期乗車券の委託販売に関する契約(以下「委託販売契約」という。)を締結している。同会社はこの委託販売契約に従い、私鉄等の路線のみに係る定期乗車券(以下「私鉄単独定期券」という。)を一括して販売し、これに多額の経費を負担している。一方、私鉄等では、同会社の路線のみに係る定期乗車券を一括して販売する体制がなく、取扱いの実績も全くないため、実態は同会社の一方的な役務提供となっている。このような販売等の実態からみて、私鉄単独定期券の販売に係る手数料を無償としているのは適切でなく、収入の確保が図られていないと認められた。
このような事態が生じているのは、同会社において、私鉄等における委託販売契約の履行状況を十分に把握していなかったこと、私鉄単独定期券の委託販売に伴う経費が多額に上っていることを十分認識していなかったことなどによると認められた。
東日本旅客鉄道株式会社において、私鉄単独定期券の販売に見合う手数料を私鉄等から収受できるように委託販売契約を改めて収入の確保に努めるなどするよう、同会社代表取締役社長に対し平成2年12月に、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を要求した。
2 当局が講じた是正改善の処置
東日本旅客鉄道株式会社では、私鉄単独定期券の販売に係る手数料を収受すべく私鉄等と協議しているが、私鉄等では、当初の委託販売契約の締結時にその販売に係る手数料は相互に収受しないこととしていることなどを理由に契約変更に応じておらず、手数料を収受するに至っていない。
このような事態を踏まえて、同会社では今後の委託販売契約の取扱いについて検討した。その結果、私鉄単独定期券を含む定期乗車券の一括販売が、事業所に対する積極的な営業活動の契機となって、定期乗車券以外の乗車券類や旅行業商品の販売額の増加に貢献していることから、この定期乗車券の一括販売は事業所に対する営業の拡大に有効なものと位置づけて、委託販売契約を引き続き維持することとした。そして、収入の確保を図るなどのため、次のような処置を執ることとした。
(ア) 事業所に対する定期乗車券以外の商品の販売を一層促進して収益の増加を図り、また、販売促進によりこれらの商品の発売を委託している旅行代理店に対し支払う手数料を節減して採算性の向上に努める。
(イ) 営業努力にもかかわらず定期乗車券以外の商品の販売が望めない事業所については、当該事業所と協議のうえ定期乗車券の販売の取扱いを中止する。