1 本院が表示した改善の意見
農林水産省では、愛知県と三重県の県境部に位置する木曽川河口部付近で国営木曽岬干拓事業を実施している。この事業は、昭和41年度に着手したもので、49年度には延長6.1kmの堤防で締め切った長さ4km、幅1kmの区域を陸地化しており、この干陸した土地の全面積は444ha(道路、水路等を除いた面積は約370ha)に上っている。
しかし、本事業により造成した土地は、愛知、三重両県の県境がいまだに確定されないため、干拓地の土地利用計画が定められないまま、さら地で放置され、事業効果が発現していない事態が長年月にわたり継続していた。さらに、事業の長期化等に伴い事業費や借入金及びその金利が増こうしている。その結果、地元負担金が高額なものとなり、干拓地での農業経営が困難な状況となってきていることが判明した。
本件干拓地は、その立地、規模等からみて、有効利用を十分図ることができるのに、県境問題のためにさら地のままとなっていて、投じられた多額の国費がその効果を全く発現していない事態は改善を必要とすると認められた。
本件干拓地の有効利用を図る観点から、次のとおり、農林水産大臣に対し平成2年12月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
(ア) 早急に県境を確定するよう関係機関に対し強く要請し、その解決を図る。
(イ) その後に策定される干陸計画において、周辺の農業事情を考慮して営農の可能性について十分検討するとともに、干拓地の立地条件や将来の農業情勢等を総合的に勘案し、干拓地の利用について多角的に検討する。
2 当局の処置状況
農林水産省では、本院指摘の趣旨に沿い、事態の改善を図るために、次のような処置を執っている。
(ア) 愛知県と三重県の県境問題については、6年6月に、農林水産省の立会いのもとに、両県知事が「木曽岬干拓地に関する確認書」を取り交わして合意した。その後、8年5月に三重県内の2町の町境が確定し、同年9月に両県内の隣接する2町の町境が確定したことにより、県境が確定した。
(イ) 土地利用の在り方については、5年8月に両県とともに設置した「木曽岬干拓土地利用検討会議」において、地域の実情に即した干拓地の多角的利用の検討を行ってきている。そして、課題であった県境問題の解決で、具体的な土地利用について踏み込んだ検討が行えるようになったことから、引き続き、両県が早急に土地利用計画を策定できるよう指導に努め、干拓地の有効利用を図ることとしている。