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  • 平成9年度|
  • 第2章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第4 厚生省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

特別養護老人ホーム等の入所者に対する診療報酬の請求の取扱いを明確にすることにより、その請求が適切に行われるよう改善させたもの


(1) 特別養護老人ホーム等の入所者に対する診療報酬の請求の取扱いを明確にすることにより、その請求が適切に行われるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生本省 (項)老人福祉費
(項)国民健康保険助成費
(項)生活保護費
(項)精神保健費
(項)身体障害者保護費
(項)児童保護費
厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
舶員保険特別会計 (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか18府県
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)等
医療給付の種類 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、老人保健法、生活保護法等に基づく医療
実施主体 国、県8、市156、特別区11、町159、村18、国民健康保険組合8、計361実施主体
医療機関 72医療機関
不適切に支払われた医療費に係る診療報酬 初診料・再診料、指導管理料、処置料等
不適切に支払われた医療費の額 4億5006万円
上記に対する国の負担額 2億4528万円

1 制度の概要

(医療給付と診療報酬)

 厚生省では、健康保険法等に基づき、保険者等が行う医療給付に関し、その適正な実施を図るため、都道府県を通じるなどして保険者、市町村等に対する指導を行うとともに、医療給付に要する費用の一部を負担している。この医療給付においては、医療機関が診療を担当し、その費用を診療報酬として「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号)等に基づいて算定し、このうち患者負担分を患者に請求し、残りの診療報酬(以下「医療費」という。)を保険者等に請求することとなっている。(前掲の「医療費に係る国の負担が不当と認められるもの」参照)

(老人ホーム等における医療と国庫負担)

 厚生省では、老人福祉法(昭和38年法律第133号)、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)等に基づき、都道府県、市町村、社会福祉法人等(以下「都道府県等」という。)が設置、運営する特別養護老人ホームほか8施設(注1) (以下「老人ホーム等」という。)に対し指導を行うとともに、その入所者の福祉を図るためにこれに要する費用の一部を負担している。
 そして、都道府県等では、老人ホーム等に常勤又は非常勤の医師、看護婦等を配置(以下、この配置されている医師を「配置医師」という。)して、入所者の健康管理、生活指導等を行っているが、これらの配置医師、看護婦等の人件費については、上記の国庫負担の対象とされている。

(注1)  特別養護老人ホームほか8施設 特別養護老人ホーム、養護老人ホーム(定員111名以上の場合)、身体障害者療護施設、重度身体障害者更生援護施設、救護施設(定員111名以上の場合)、精神薄弱者更生施設(定員150名以上の場合)、精神薄弱者授産施設(定員150名以上の場合)、乳児院(定員100名以上の場合)、情緒障害児短期治療施設

(老人ホーム等の入所者に対する診療報酬の請求の制限)

 老人ホーム等の入所者に対する診療報酬の請求については、「特別養護老人ホーム等における療養の給付(医療)の取扱いについて」(平成5年保険局医療課長、老人保健福祉局老人保健課長連名通知。以下「取扱通知」という。)により、次のような制限が設けられている。すなわち、配置医師の所属する医療機関は、診療報酬の算定に当たり、配置医師が老人ホーム等に赴いて入所者に対して行った診療(緊急の往診を除く。)については、初診料、再診料等を算定できないこととされている。また、配置医師が入所者に対して行った健康管理、生活指導等については、指導管理料等の一部を診療報酬として算定できないこととされている。
 このような制限は、配置医師が入所者に対して行う健康管理、生活指導等が施設本来の基本的な業務とされており、これに要する配置医師の人件費については、前記のとおり、国庫負担の対象とされていることから診療報酬請求と国庫負担との整合を図るため設けられたものである。
 また、老人ホーム等と合築又は併設されている医療機関(以下「併設医療機関」という。)のうち、特別養護老人ホームの併設医療機関については、多くの入所者の診療を恒常的に行っていて、入所者の健康状態について把握していることなどから、そこに所属する医師は配置医師とされ、上記と同様に診療報酬請求上の制限を受けることとされている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 老人ホーム等の施設の数は逐年増加してきており、これに係る医療費も多額に上っているため、老人ホーム等の入所者に係る診療報酬の請求が適切に行われているか、特に制度の運用面等で改善すべき点がないかに着眼して北海道ほか23府県(注2) に所在する631医療機関の老人ホーム等の入所者に係る診療報酬の請求について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、北海道ほか18府県(注3) に所在する72医療機関において、不適切と認められる事態が見受けられ、このため、医療費が83,960件、450,065,164円(これに対する国の負担額245,288,860円)不適切に支払われていると認められた。
 これを、態様別に示すと次のとおりである。

(ア) 配置医師の所属する医療機関において、老人ホーム等の多数の入所者を定期的に通院させて行った診療について、初診料、再診料等の診療報酬を請求していたもの

25医療機関(26施設)
不適切に支払われた医療費 35,309件 116,059,139円
(上記に対する国の負担額 59,857,882円)

 上記の医療機関では、所属する配置医師が老人ホーム等の多数の入所者を定期的に通院させて行った上記の診療について、初診料、再診料等の診療報酬を請求していた。
 取扱通知では、前記のとおり、配置医師が、老人ホーム等に赴いて入所者に対して行った診療については制限を設けているが、所属する医療機関に通院させて行った診療については、特に制限を設けていない。
 しかし、前記診療は、入所者の健康管理等の一環として行っているもので、医療機関に通院させて診療を行ったものでも、本来、配置医師が老人ホーム等に赴いて行うものと同様と認められた。
 したがって、これらの診療について、初診料、再診料等の診療報酬を請求していたのは適切とは認められない。

(イ) 特別養護老人ホーム以外の老人ホーム等の併設医療機関において、それら施設の多数の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料等の診療報酬を請求していたもの

9医療機関(11施設)
不適切に支払われた医療費 26,730件 52,192,611円

(上記に対する国の負担額 27,838,708円)

 上記の特別養護老人ホーム以外の老人ホーム等の併設医療機関では、所属する医師が、多数の入所者に対して定期的に行った上記の診療について、初診料、再診料等の診療報酬を請求していた。
 取扱通知では、前記のとおり、特別養護老人ホームの併設医療機関について、所属する医師を配置医師として診療報酬請求上の制限を設けているが、特別養護老人ホーム以外の老人ホーム等の併設医療機関には、特に制限を設けていない。
 しかし、特別養護老人ホーム以外の老人ホーム等の併設医療機関は、それら施設と合築又は併設されていること、これらの医療機関に所属する医師が定期的に多数の入所者の診療を担当している実態があることなどから、特別養護老人ホームの併設医療機関と実態は変わるところがないと認められた。
 したがって、上記のように、特別養護老人ホーム以外の老人ホーム等の併設医療機関においても、初診料、再診料等を請求していたのは適切とは認められない。

(ウ) 配置医師の所属する医療機関において、老人ホーム等に配置されている看護婦等が入所者に対して行った行為について、診療報酬を請求していたもの

38医療機関(38施設)
不適切に支払われた医療費 21,921件 281,813,414円
(上記に対する国の負担額 157,592,270円)

 上記の医療機関では、老人ホーム等に配置されている看護婦等が、医師の指示に基づいて入所者に対して行った皮膚科軟膏処置、注射等の行為について、処置料、注射料、リハビリテーション料の診療報酬を請求していた。
 これは、診療報酬の請求が、医師及び医師の補助として看護婦等が行った行為を対象としているので、医師が老人ホーム等に配置されている看護婦等に指示を行っていれば、それら看護婦等が入所者に対して行った行為についても診療報酬を請求できるとしていたものである。
 しかし、上記の行為は医療機関の看護婦等によって行われたものではなく、老人ホーム等に配置されている看護婦等によって行われたものであることから、これを診療報酬として請求していたのは適切とは認められない。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

(ア) 厚生省において、前記のような不適切な診療報酬の請求が行われている実態について把握が十分でなかったため、前記(ア)、(イ)について初診料、再診料等を診療報酬として請求できない旨を定めておらず、(ウ)についてその取扱いを明確にしていなかったこと

(イ) 都道府県において、関係部局の連携が十分でなく、老人ホーム等の配置医師の診療実態に関する情報提供を市町村等に対して十分行っていなかったことなどのため、市町村等が行う老人ホーム等の入所者に係るレセプトの審査が適切に行われていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生省では、平成10年11月に各都道府県に対して通知を発し、老人ホーム等の入所者に対する診療報酬について、その請求が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。

(ア) 老人ホーム等の入所者を配置医師の所属する医療機関へ通院させて行った診療及び特別養護老人ホーム以外の老人ホーム等の併設医療機関に所属する医師が行った診療については、初診料、再診料等を診療報酬として請求できない旨、取扱通知に定めた。また、老人ホーム等に配置されている看護婦等が入所者に対して行った行為に係る診療報酬は請求できない旨、取扱通知で明確にした。

(イ) 都道府県に対し、各施設の配置医師の診療実態について把握した情報を、必要に応じ市町村等に周知することにより、市町村等のレセプトの審査に活用させることとした。

(注2)  北海道ほか23府県  北海道、京都、大阪両府、岩手、山形、福島、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、静岡、兵庫、島根、広島、山口、徳島、愛媛、高知、福岡、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(注3)  北海道ほか18府県  北海道、京都、大阪両府、岩手、山形、埼玉、千葉、神奈川、静岡、兵庫、島根、広島、徳島、愛媛、高知、福岡、大分、宮崎、鹿児島各県