1 本院が要求した改善の処置
水産庁では、漁業災害補償法(昭和39年法律第158号)に基づき、中小漁業者(以下「漁業者」という。)が営む漁業につき異常の事象又は不慮の事故によって受ける損失を補てんすることにより、漁業者の漁業再生産の阻害の防止及び漁業経営の安定に資することを目的として、漁業災害補償制度を運営している。
この制度は、沿海の39都道府県に設立されている漁業共済組合(以下「組合」という。)が行う漁業共済事業(以下「共済事業」という。)、全国漁業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う漁業再共済事業、国が行う漁業共済保険事業の3事業により構成されており、漁業者の相互救済の精神を基調として、保険の仕組みによりその危険負担を分散することとして運営されている。
この共済事業の運営について検査したところ、漁業協同組合(以下「漁協」という。)等が共済掛金を負担するとともに、共済金を他の用途に使用するなどしていて、共済掛金の負担及び共済金の支払等が適切でないと認められる事態が見受けられた。
このような事態が生じているのは、連合会や組合等において、制度の趣旨を十分理解していなかったり、都道府県において、組合等に対して制度の趣旨の周知徹底や共済掛金の負担及び共済金の支払等についての指導・監督を十分行っていなかったり、水産庁において、共済掛金の負担及び共済金の支払等についての実態を十分把握していないこと、及び漁協一括契約の団体規約に定める共済掛金の分担及び共済金の配分の方法が制度の趣旨に沿った適切なものとなるよう指導していなかったりしていることなどによると認められた。
共済事業が制度の趣旨に沿って適正に運営されるよう、次のとおり、水産庁長官に対し平成9年12月に、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
(ア) 共済掛金の負担及び共済金の支払等についての実態の把握に努めること
(イ) 漁協一括契約の団体規約に定める共済掛金の分担及び共済金の配分の方法が制度の趣旨に沿った適切なものとなるよう明確な基準を示すこと
(ウ) 都道府県、連合会及び組合に対して、次のような指導を行うこと
〔1〕 制度の趣旨を十分理解させるとともに、漁協等に対しても周知徹底させること
〔2〕 漁協一括契約の団体規約に定める共済掛金の分担及び共済金の配分の方法が制度の趣旨に沿った適切なものとなるよう漁協等に対して周知徹底させること
〔3〕 共済掛金の負担及び共済金の支払が適切に行われるよう指導・監督体制を整備させること
2 当局が講じた改善の処置
水産庁では、本院指摘の趣旨に沿い、9年12月に通達を発するなどして、共済事業が、制度の趣旨に沿って適切に運営されるよう、次のような処置を講じた。
(ア) 共済掛金の負担及び共済金の支払状況等を把握するため、都道府県にその実態調査をさせ、その報告を行わせることとした。
(イ) 漁協一括契約の団体規約に定める共済掛金の分担及び共済金の配分の方法が制度の趣旨に沿った適切なものとなるよう団体規約の基準を明確に定めるとともに、この基準に沿わない団体規約による漁協一括契約の引受けは行わないよう指導した。
(ウ) 都道府県、連合会及び組合に対して、次のような指導を行った。
〔1〕 制度の趣旨を十分理解するとともに、漁協等に対しても周知徹底すること
〔2〕 漁協一括契約の団体規約に定める共済掛金の分担及び共済金の配分の方法が制度の趣旨に沿った適切なものとなるよう漁協等に対して周知徹底すること
〔3〕 共済掛金の負担及び共済金の支払を適切に行うよう、共済金の支払を確認するためのシステムを構築し、これを組合等に周知徹底するなどし、指導・監督体制を整備すること