会計名及び科目 | 厚生保険特別会計 | (健康勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入 (年金勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入 |
部局等の名称 | 北海道ほか28都府県(214社会保険事務所) | |
保険料納付義務者 | 1,850事業主 | |
徴収不足額 | 健康保険保険料 | 1,109,752,680円 |
厚生年金保険保険料 | 2,781,786,530円 | |
計 | 3,891,539,210円 |
1 保険料の概要
健康保険は、常時従業員を使用する事業所の従業員を被保険者として、業務外の疾病、負傷、分娩等に関し医療、療養費、傷病手当金、出産手当金等の給付を行う保険である。また、厚生年金保険は、常時従業員を使用する事業所の65歳未満の従業員を被保険者として、老齢、死亡等に関し年金等の給付を行う保険である。
保険料は、被保険者と事業所の事業主とが折半して負担し、事業主が納付することとなっている。
そして、これらの事業主は、都道府県の社会保険事務所等に対し、健康保険及び厚生年金保険に係る次の届け書を提出することとなっている。
(ア) 新たに従業員を使用したときには、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届
(イ) 毎年8月には、同月1日現在において使用している被保険者の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額算定基礎届
(ウ) 被保険者の報酬月額が所定の範囲以上に増減したときには、変更後の報酬月額等を記載した被保険者報酬月額変更届
これらの届け書の提出を受けた社会保険事務所等は、届け書に記載された被保険者の報酬月額に基づいて標準報酬月額(注1)
を決定し、これに保険料率を乗じて得た額を保険料として徴収している。
このほか、事業主は被保険者に対して賞与等の支払を行ったときには、その支払総額等を記載した賞与等支払届を提出することとなっている。この届け書の提出を受けた社会保険事務所等は、その都度、賞与等の支払総額に特別の保険料率を乗じて得た額を特別保険料として徴収している。
(注1) 標準報酬月額 健康保険では第1級92,000円から第40級980,000円まで、厚生年金保険では第1級92,000円から第30級590,000円までの等級にそれぞれ区分されている。被保険者の標準報酬月額は、実際に支給される報酬月額をこの等級のいずれかに当てはめて決定される。
2 検査の結果
本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金(注2)
の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者(「厚生年金保険の老齢厚生年金及び国民年金の老齢基礎年金の支給が適正でなかったもの」参照)
を使用している事業主が届出を適正に行っていなかったため多額の保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。さらに、平成8年度決算検査報告からは派遣労働者を使用している労働者派遣事業の派遣元の事業主が、平成9年度決算検査報告においては看護補助者等を使用している医療機関の事業主が届出を適正に行っていなかったため保険料が徴収不足となっている事態を掲記している。
また、近年、郵便局では取り扱う郵便物の増加に伴って多数の非常勤職員を雇い入れ郵便事業に従事させている状況にあり、平成9年度決算検査報告に掲記した事態の中には郵便局の事業主が非常勤職員に係る届出を適正に行っていなかったものもあった。
これらのことから、本年の検査に当たっては、北海道ほか28都府県の216社会保険事務所管内の事業主のうち、次のような4,336事業主について、都道府県における保険料の徴収の適否を検査した。
(ア) 派遣労働者を使用している派遣元の事業主
(イ) 看護補助者等を使用している医療機関の事業主
(ウ) 非常勤職員を使用している郵便局の事業主
(エ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用しているなどの事業主
(注2) 特別支給の老齢厚生年金 厚生年金保険において行う保険給付であり、厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あって老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者などに60歳以上65歳に達するまでの間支給される。そして、受給権者が厚生年金保険の適用事業所に使用され被保険者である間は、その者の標準報酬月額等に応じて年金の額の一部又は全部の支給が停止される。
検査したところ、上記の29都道府県の214社会保険事務所管内における4,325事業主のうち1,850事業主について、徴収額が3,891,539,210円(健康保険保険料1,109,752,680円、厚生年金保険保険料2,781,786,530円)不足していた。
これを、前記の事業主別にみると次のとおりである。
(ア) 派遣労働者を使用している派遣元の事業主に係るもの
79事業主 徴収不足額 581,852,901円
(イ) 非常勤職員を使用している郵便局の事業主に係るもの
319事業主 徴収不足額 553,510,787円
(ウ) 看護補助者等を使用している医療機関の事業主に係るもの
205事業主 徴収不足額 369,917,580円
(エ) 特別支給の老齢厚生年金の裁定を受け年金の額の全部を支給されている受給権者を使用しているなどの事業主に係るもの
1,247事業主 徴収不足額 2,386,257,942円
これは、事業主が次のように届出を適正に行っていなかったのに、上記の29都道府県の214社会保険事務所において、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによるものである。
〔1〕 被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
1,587事業主 徴収不足額 3,479,851,537円
〔2〕 資格取得年月日の記載が事実と相違していたもの
220事業主 徴収不足額 358,800,819円
〔3〕 賞与等支払届の提出を怠っていたり、賞与等の支払総額を誤っていたりしていたものなど
43事業主 徴収不足額 52,886,854円
このように事業主が届出を適正に行っていなかったのは、制度を十分に理解していなかったり、従業員が受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止となる事態を避けようとしたりしていたことなどによる。
なお、これらの徴収不足額については、本院の指摘により、すべて徴収決定の処置が執られた。
徴収不足額の大部分を占める被保険者資格取得届の提出を怠っていた事態についての事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 非常勤職員を使用している郵便局の事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
A郵便局は、郵便物の区分、集配等の業務に従事する非常勤職員104人を使用していた。同郵便局は、これら非常勤職員のうち53人については、使用期間が短く常用的な使用でないなどとして、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の53人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同郵便局はこのうち30人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料12,712,149円(健康保険保険料4,282,478円、厚生年金保険保険料8,429,671円)が徴収不足になっていた。
<事例2> 特別支給の老齢厚生年金の受給権者を使用している事業主が被保険者資格取得届の提出を怠っていたもの
B会社は、物品の運送等の業務に従事する従業員117人を使用していた。同会社は、これら従業員のうち12人については、年金の受給権者である従業員から、被保険者資格取得届が提出されると受給している特別支給の老齢厚生年金が支給停止になるとの申し出を受けるなどしたため、社会保険事務所に対して被保険者資格取得届を提出していなかった。
しかし、上記の12人について賃金台帳、雇用契約書等により調査したところ、同会社はこれら12人を常用的に使用しており、被保険者資格取得届を提出すべきであった。
このため、健康保険及び厚生年金保険の保険料7,901,400円(健康保険保険料3,157,030円、厚生年金保険保険料4,744,370円)が徴収不足になっていた。
これらの徴収不足額を都道府県別に示すと次のとおりである。