1 本院が表示した改善の意見
農林水産省では、平成5年に農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号)に基づく農業経営改善計画(以下「改善計画」という。)の認定制度を創設し、この認定を受けた農業者(以下「認定農業者」という。)に対しては、改善計画の達成に向けて金融面、税制面等から様々な支援措置を講じることとしている。
農業経営改善促進資金(以下「スーパーS資金」という。)は、金融面からの支援措置の一つとして、6年度に設けられた制度資金で、認定農業者が改善計画に基づいて経営規模の拡大や合理化等を図るために必要な運転資金を、農業協同組合系統資金等の民間資金との協調融資を活用し、短期低利でかつ利用しやすい貸付方式で融通しようとするものである。
本院で、農林漁業信用基金から農業信用基金協会への貸付状況、同協会が預託した融資機関から認定農業者へのスーパーS資金の貸付状況を検査したところ、農林漁業信用基金に造成された全国低利預託基金の利用状況が、制度発足後約5年経過した10年度末においても依然として低調な状況となっていて、国からの多額の出資により造成された全国低利預託基金の大部分が活用されておらず、国の出資目的が十分達成されていなかった。
このような事態が生じているのは、近年、農業経営に対する先行き不透明感が強まり農業者が経営規模拡大等のための投資を手控えていることなどの事情によるほか、次のような理由などによると認められた。
(ア) 資金利用計画の審査等に長期間を要することがあり、即応性に欠けること
(イ) 資金利用計画において認定農業者に作成させている収支計画等の記載内容が、過度に詳細なものとなっていること
(ウ) 預託金利が融資機関の資金調達金利より高いこと及び貸付方式が煩雑又は不慣れな方式となっていること
(エ) 認定農業者に対する制度の内容の周知が徹底していないこと
農林水産省では、本院の検査の進行に伴い、上記の発生原因のうち(ア)、(イ)及び(エ)については、10年5月及び11年10月に通達を発し、改善の処置を講じてきているが、(ウ)の金利及び貸付方式に係る原因については、その対策が講じられていなかった。
スーパーS資金の預託金利、貸付方式等について、金融情勢等の変化並びに認定農業者及び融資機関双方のニーズに対応したものとなるよう制度の改善を検討することにより、スーパーS資金のより一層の利用を促進し、ひいては全国低利預託基金の有効な活用を図るよう、農林水産大臣に対し11年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
2 当局が講じた改善の処置
農林水産省では、本院指摘の趣旨に沿い、11年12月に通達を発するなどして、スーパーS資金のより一層の利用促進と全国低利預託基金の有効な活用を図るよう、次のような処置を講じた。
(1) 貸付原資に係る融資機関への預託利率は年1%に固定されていたが、金融情勢等の変化に対応できるよう定期預金利率の平均が年1%未満の場合は当該利率とすることとした。
(2) 認定農業者及び融資機関双方のニーズに対応し、借受者にとってより一層利用しやすい制度となるよう、従来、当座貸越及び手形貸付方式に限られていた貸付方式に新たに証書貸付方式を追加した。