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  • 第4章 国会からの検査要請事項及び特定検査対象に関する検査状況|
  • 第1節 国会からの検査要請事項に関する検査状況

<参考:報告書はこちら>

「政府開発援助に関する決議」の実施状況に関する会計検査の結果について


 平成11年11月から12年10月までの間に、国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定による要請を受諾したものは「政府開発援助に関する決議」の実施状況に関するもの1件であり、これについては検査を実施してその結果を報告した。その報告の概要は次のとおりである。

「政府開発援助に関する決議」の実施状況に関する会計検査の結果について

要請を受諾した年月日 平成12年3月27日
検査の対象 外務省、国際協力銀行及び国際協力事業団
検査の内容 第145回国会の参議院行政監視委員会において行われた「政府開発援助に関する決議」のうち、〔1〕被援助国の実情に即した国別援助計画の作成、〔2〕事業の重点化と事業間の連携強化、〔3〕評価制度の充実、〔4〕ODAの不正防止及び〔5〕重債務貧困国に対する債務救済の5事項に関する実施状況
検査期間 平成12年3月〜10月
報告を行った年月日 平成12年11月10日

1 要請の概要

 参議院行政監視委員会において、平成12年3月27日、行政監視、行政監察及び行政に対する苦情に関する調査のため、会計検査院に対し、会計検査を行いその結果の報告を求めることが協議決定され、同日参議院から会計検査院に対しその要請がなされた。 要請を受けた内容は次のとおりである。

(1) 検査の対象

 外務省、国際協力銀行及び国際協力事業団

(2) 検査の内容

 第145回国会の参議院行政監視委員会において行われた「政府開発援助に関する決議」(以下「国会決議」という。)のうち次の各事項に関する実施状況
〔1〕 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成
〔2〕 事業の重点化と事業間の連携強化
〔3〕 評価制度の充実
〔4〕 ODAの不正防止
〔5〕 重債務貧困国に対する債務救済
 会計検査院は、同日検査官会議において上記の要請を受諾することを決定し、要請事項に関する検査を実施して、11月10日、その結果を参議院に報告した。

2 検査の方法

 検査に当たっては、外務省、国際協力銀行(以下「銀行」という。)及び国際協力事業団(以下「事業団」という。また、これら3機関を併せて以下「外務省等」という。)から各種資料の提出を受け、説明の聴取等を行った。
 また、本院は毎年数箇国を選定して政府開発援助(以下「ODA」という。)事業の現地調査を実施しているが、12年5月及び6月中に現地調査を実施したカンボディア、ニカラグァ、エジプト、ガーナ及びインドネシアの5箇国において、ODA事業の現地調査と併せ、要請事項に関して相手国機関等に赴くなどして説明を聴取した。
 このほか、要請事項に関する他の援助国や国際機関の取組状況について、公開されている資料を参考にしたり、説明を聴取したりして調査した。

3 検査の結果

(1) 被援助国の実情に即した国別援助計画の作成

(国会決議)

 この項目に関する国会決議は次のとおりである。

 援助を効果的、効率的かつ重点的に行うとともに、統一的な運用を確保するため、他の援助国及び国際機関の計画も勘案しつつ、外務省がイニシアティヴをとって、被援助国の実情に即した国別援助計画を作成すること。その際、民間企業、NGOなど現地の事情に精通している人材を活用するとともに、現地住民の声を計画に十分反映させること。
 なお、軍事支出の多い国に対するODAは、軍事費の肩代わりにならないようにすること。

(国別援助方針と国別援助計画)

 政府では、被援助国ごとの援助の基本方針や重点分野を示すものとして、従来、主要な援助対象国について国別援助方針を作成している。この国別援助方針には、援助対象国としての位置付け、援助の重点分野等が記載されており、10年9月までに24箇国について作成、公表された。
 国別援助計画は、各種答申等を踏まえて、国別援助方針を発展・充実させ、当該国の経済社会状況に関する認識、援助の重点課題・分野、活用すべき援助手法等を明確にし、案件選定に当たっての指針となるものとされた。
 そして、12年8月までに、タイ、バングラデシュ、ヴィエトナム、エジプト、ガーナ、タンザニア、フィリピン、ケニア及びペルーの9箇国について作成、公表された。12年度においても中国等8箇国について作成する予定となっている。
 これらの国別援助計画では、我が国の援助政策の在り方が、援助対象国の政治、経済、社会情勢等及び開発上の課題についての分析を踏まえた上で、援助の意義、政府開発援助大綱(平成4年6月閣議決定。以下「ODA大綱」という。)等と関連付けて記述されている。

(国別援助計画作成に際しての外務省の取組状況)

 国会決議では、〔1〕他の援助国及び国際機関の計画を勘案すること、〔2〕外務省がイニシアティブをとること、〔3〕被援助国の実情に即した計画を作成すること、〔4〕現地の事情に精通している人材を活用すること、〔5〕現地住民の声を計画に十分反映させることが求められている。
 外務省では、〔2〕及び〔3〕については、被援助国との政策対話を随時行い、現地の事情に精通した在外公館が国別援助計画(案)を作成することにより、国会決議の要請に応えるようにしており、また、〔5〕については、在外公館が直接現地住民の意見を聴取することは、対象者の選定基準をどのように定めるかなど困難な点が多いとしている。
 そこで、本院が〔1〕及び〔4〕に関する取組状況を検査したところ、次のとおりとなっていた。
(ア) 外務本省では、公表された9箇国の計画について、社団法人経済団体連合会及びその傘下企業や現地で活動する我が国NGO等との間で意見を交換していた。
(イ) 在外公館では、計画の作成に際して、援助国会合等の機会をとらえて他の援助国等の状況を把握するように努めたり、草の根無償資金協力の実施を通じて関係を培ってきたNGOから寄せられる情報を参考にしたりしていた。

(国別援助計画の内容の分析)

 国別援助計画について国別援助方針と比較するなどして分析したところ、各重点分野における達成目標を明らかにするために、援助の対象を詳細に記述したり、絞り込んだりしていて、国別援助方針と比較して援助の対象がより明確になっていた。
 そして、これにより案件選定の指針としての性格が増したと考えられる一方、一部には達成目標の内容が個別具体的でなく具体的に何を支援すればいいかが判断しづらくなっている部分もあり、案件選定の指針としての性格はまだ不十分な面があった。
 また、各重点分野における目標を達成するための手段については、一部に言及していないものも見受けられたが、銀行における海外経済協力業務実施方針や国別業務実施方針、事業団における国別事業実施計画の作成等の取組みの中で補完されていた。

(所見)

 国別援助計画を作成する目的は、援助を効率的・効果的に実施すること及び援助の透明性を高めることにあると考えられる。
 国別援助計画の公表後、半年足らずしか経過していない現時点では、従来と比較して、我が国のODAが効率的・効果的に実施されるようになったかどうかを判断する段階にはないが、これまでに公表された計画は、国別援助方針と比較して援助の対象がより明確になっており、また、銀行及び事業団において、海外経済協力業務実施方針や国別事業実施計画等が新たに作成されるなど、ODAの効率的・効果的実施に向けて一定の取組みが行われていると認められた。
 しかし、国別援助計画については、一部に案件選定の指針としての性格がまだ不十分な面もあるので、今後、ODAについて政府全体を通ずる調整の中核としての機能を担う外務省において、重点分野や援助の対象につき可能な限り一層の絞り込みを行うなどして、より重点的な援助を指向していくことが望まれる。
 また、国別援助計画等がホームページで公表されるなど、援助の計画面における透明性は従来と比較して向上していると認められるが、目標達成のための手段の選定経過を明らかにするなどの工夫が必要であると考えられるので、今後、より一層の透明性の向上を目指した取組みが望まれる。

(2) 事業の重点化と事業間の連携強化

(国会決議)

 この項目に関する国会決議は次のとおりである。

 援助を一層効果あるものにするため、事業は重点的に実施するとともに、重点化に当たっては、インフラ整備などハード面の援助に比べソフト面での援助が不十分であることから、今後はソフト面の援助を充実すること。また、他の関連事業の遅れ、資機材・技術者の不足、運営・保守管理体制の不備等により、期待した効果を上げていない例も見られることから、外務省が中心となり、各援助事業間の連携を一層強化すること。

(事業の重点化)

(ア) 外務省等の取組状況

〔1〕 地域の重点化

 ODA大綱や「政府開発援助に関する中期政策」(平成11年8月閣議報告。以下「中期政策」という。)において、アジア地域に重点を置くとしつつ、他地域への取組みも進めていくとしている。

〔2〕 分野の重点化

 国別援助計画においては、ODA大綱、経済協力開発機構の開発援助委員会(DAC)の定めた新開発戦略及び中期政策を踏まえて、重点分野を定めており、外務省では案件の形成、採択がこの計画に沿って行われることにより、援助の重点化が図られるようになるとしている。また、一部の無償資金協力と技術協力については、11年度から「統一・課題別要望調査」を実施し、事業の重点化を図ることとしている。
 銀行は、11年12月に、海外経済協力業務実施方針を公表し、分野別及び地域・国別の方針を明らかにしたり、主要な被援助国について国別業務実施方針を作成し、国別援助計画等に定められた重点分野に可能な範囲で優先順位を付したりなどしている。
 事業団は、国別援助計画の作成に対応して国別事業実施計画を作成し、重点分野ごとに被援助国の開発課題を整理し、これに対する事業団の協力方針を明らかにした上で、目標達成に必要な援助の投入計画プログラムを体系的に取りまとめている。

(イ) 分析と検証

〔1〕 地域の重点化

 6年から10年までの二国間援助の地域別実施状況をみると、アジア地域に対する援助額は総額の5割程度を占めていて、アジア重視という方向性が実際の援助にも反映されていた。

〔2〕 分野の重点化

 従来作成されていた国別援助方針においては、被援助国ごとに3ないし6の重点分野が定められていた。インドネシアほか5箇国において、7年度から11年度までの間に実施された主な援助案件を、国別援助方針における重点分野別に分類したところ、ほとんどすべての案件が重点分野に投入されていた。また、重点分野ごとの実施案件をみると、多数の案件が実施されている分野がある一方、全く実績のない分野もある。これについて外務省では、個別具体的な案件の採択を、必要性、緊急性、案件の成熟度等を考慮して行ったことによるものであるとしている。このほか、インドネシアの重点分野「公平性の確保」のように、分野そのものが抽象的に幅広く設定されていて、医療施設建設から道路建設に至るまで多岐にわたる案件を包含するものも見受けられた。
 次に、上記6箇国のうち国別援助計画が公表された4箇国について分析したところ、計画の重点分野の数は国別援助方針とほぼ同数の5項目程度となっており、また、分野の内容についてもほぼ同様となっていて、この面からみると重点化が図られたとみることは困難であった。しかし、外務省では、被援助国に対する援助政策の一貫性等からみて重点分野の数を絞り込むことは困難であるとしている。
 一方、国別援助計画の記述ぶりは国別援助方針と比較して詳細なものとなっており、重点的に実施すべき事業の方向性が看取できるものになっていた。

(ウ) 所見

 国別援助計画は、援助の対象を絞り込むなどして重点化を指向するものとなってはいる。しかし、重点分野の数は国別援助方針とほぼ同数で、内容的にも違いはなく、また、原則として重点分野相互の優先度を定めていないことから、一層の重点化を図るには必ずしも十分ではない。
 したがって、今後、外務省においては、国別援助計画における重点分野の絞り込みを可能な限り行い、また、銀行及び事業団においても、政府の定めた方針に沿って、より優先して解決すべき開発課題を明らかにしていく必要がある。

(援助のソフト化)

 本院では、国会決議における「ソフト面の援助」を、人材育成・制度造りといった「ソフト分野」とハードの運用等を補強する「ソフト面」とに区分して分析した。

(ア) 「ソフト分野」の強化に係る外務省等の取組み

〔1〕 政策面での取組み

 ハード中心のODAに対する批判があることを考慮して、我が国は、ODA大綱や中期政策において、ソフト分野の援助にも力を注ぐことを明らかにし、国別援助方針や国別援助計画においても、ソフト分野を重点分野としている。

〔2〕 制度面での取組み

 主としてハードを対象として援助を実施してきた無償資金協力事業及び円借款事業において、ソフト分野の支援を強化するための制度として、11年度から留学生支援無償資金協力が実施されるなどしている。

(イ) 「ソフト面」の強化に係る外務省等の取組み

〔1〕 無償資金協力事業におけるソフト面の強化

 無償資金協力事業において、従来からハードを対象とする本体事業に併せて施設の管理運営指導を行った例があるが、12年度からは、ソフト支援無償資金協力として、施設建設、機材供与等のハード面の経費に、事業運営、技術指導等のソフト面に必要な経費を併せて供与することとしている。

〔2〕 円借款事業におけるソフト面の強化

 銀行では、被援助国側の調達手続の支援、事業施行の監理、完了検査等を行うコンサルタントの雇用に係る経費について、円借款の金利の優遇等を通じてコンサルタントの雇用を奨励するなどして、ソフト面の強化を図っている。また、円借款事業の完成後の運営・維持管理を改善指導するなどのために有償資金協力促進調査を実施している。

(ウ) 所見

 援助のソフト化に関しては、「ソフト分野」及び「ソフト面」への支援を強化するための各種スキームが設けられるなど、ソフト化に向けた取組みが行われていると認められる。
 ただし、ソフト化については様々な見解が考えられるところであり、また、その結果を定量的に示すことには困難な面もある。
 今後は、どのような分野に、どのような態様で援助を実施すればソフト化が図られたことになるのかを明らかにするとともに、その達成状況を確認できるようにしていくことが望まれる。

(事業間の連携強化)

(ア) 連携強化のための取組み

 外務省等では、ODA大綱や中期政策において、無償資金協力、円借款、技術協力の各事業間をはじめとする各種の連携強化に取り組むとしている。さらに、銀行では、海外経済協力業務実施方針において、連携に留意して円借款業務を行うとしている。
 制度的枠組みとしては、「政府開発援助関係省庁連絡協議会」の設置、事業団における地域部の創設が挙げられる。また、新たな取組みとして、国別援助計画や、国別事業実施計画、数年度にわたる円借款候補案件リスト(ロング・リスト)の作成、統一・課題別要望調査の実施等による有機的な事業実施への取組みが挙げられる。

(イ) 近年の連携実績等

〔1〕 資金協力連携専門家

 事業団では、無償資金協力事業及び円借款事業の案件形成に係る支援、事業実施中の案件監理、事業終了後における運営管理に関する技術指導等を行う資金協力連携専門家を派遣している。その実績をみると、新規派遣者数等は増加傾向にあるが、事業団の全専門家派遣者数に占める割合は特に増加していない。

〔2〕 無償資金協力事業と技術協力事業の連携

 事業団では、無償資金協力事業の案件について技術協力事業との連携の必要性を、事業の実施計画策定のための基本設計調査において調査している。
 一般プロジェクト無償案件等64案件の基本設計調査報告書について、技術協力との連携の要否を検討しているか調査したところ、検討結果を記述しているものが44案件あったが、特に言及していないものが20案件見受けられた。また、上記の64案件について、実際の技術協力案件との連携状況を調査したところ、連携を要するとされていた31案件のうち連携が行われたのは27案件となっていた。

〔3〕 円借款事業と技術協力事業の連携

 円借款事業の中には、事業団が開発調査として実施するフィージビリティ調査の結果を踏まえて事業計画等の作成など案件形成が行われたものがある。このような事業の総事業数に占める割合については増加傾向はみられなかった。
 また、事業団では、昭和52年度から、被援助国において円借款事業を担当する者を研修員として受け入れる「ODAローンセミナー」を実施しているが、平成10年度から、新規に4コース(中小企業金融、電力設備の効率的運用、ODAローン実施促進及び公害対策融資)の研修が実施されている。

〔4〕 円借款事業と無償資金協力事業の連携

 外務省では、10年度から、効果が十分に発現しない状況となるなどした円借款事業について、その改善のための事業を無償資金協力により行う「リハビリ無償」を実施している。

(ウ) 所見

 事業間の連携については、中期政策や国別援助計画において連携強化への積極的な姿勢が明らかにされ、また、統一・課題別要望調査の実施やロング・リストの公表等、連携に向けた新たな取組みが行われていると認められる。
 今後、これらの新たな取組みが有効に機能し、被援助国の開発課題の解決に向けた援助事業間の有機的な連携が図られていくことが望まれる。
 また、外務省は、中央省庁等改革基本法等により、技術協力に関する企画立案について、政府全体を通ずる一元的な調整の中核としての機能を担うこととされているので、今後、無償資金協力事業及び円借款事業と各省庁が実施している技術協力との連携のためのシステムを構築していくことが望まれる。

(3) 評価制度の充実

(国会決議)

 この項目に関する国会決議は次のとおりである。

 ODAの成果を的確に把握し、その後の援助に反映させるため、評価については、第三者評価の拡大など更なる充実を図るとともに、より効果的な評価手法及び基準の確立に努めること。
 また、会計検査院及び総務庁においても、第三者的立場から、ODAに関する検査及び調査を強化すること。

(ODA評価制度の目的と充実の方向性)

(ア) ODA評価の目的と機能

 ODA評価の目的ないし機能としては、〔1〕ODAが効率的・効果的に実施されているかを検証すること、〔2〕評価結果を援助案件の運営管理の改善に活用するとともに将来の援助政策等に役立てODAの質の向上を図ること、〔3〕評価結果を公表することによりODAの実態や成果を国民に明らかにすることが挙げられる。

(イ) 評価制度の充実の方向性

 外務省等では、現在、次のような評価制度の充実に取り組んでいる。
〔1〕 プロジェクト・サイクル全体の評価体制を整備するとの観点から、事前から中間、事後に至る一貫した評価プロセスを確立する。
〔2〕 可能な限り定量的な評価指標を導入するとともに、同種の目的、内容の事業に関する評価指標については可能な限り統一化を図る。
〔3〕 ODA政策の企画立案を担当する外務省と事業実施機関である銀行及び事業団は、それぞれの役割に応じて評価を実施することとし、評価手法の確立を図る。
〔4〕 第三者を関与させることにより、評価の客観性、中立性及び透明性を確保するとともに、豊富な知識や専門性に基づく評価の質の向上を図る。

(近年の評価の分析)

(ア) 評価の形態

 外務省等では、評価の実施者、対象、視点等の異なる様々な形態の評価を実施している(外務省12区分、銀行2区分、事業団6区分)。

(イ) 評価対象の選定

〔1〕 評価対象案件の選定基準

 外務省等が定めている評価対象案件の選定基準は、「地域的、分野的バランスを考慮する」とするなど各機関に裁量の余地が残されているが、評価報告書を公表していることや中間評価・事後評価の実施時期を事前評価の際に明らかにすることにより、今後は、評価対象案件の選定の透明性がより向上していくと期待される。

〔2〕 評価の対象事業

 外務省等が実施している事業の中には、評価目的が異なっていることなどにより数度にわたって評価が実施されている事業がある一方、食糧援助や商品借款など評価の実績が少ない事業も見受けられた。

〔3〕 プログラムレベルの評価

 プログラムレベルの評価の一つと考えられる外務省の国別評価についてみると、主要な援助対象国とされる国別援助方針作成国24箇国のうち6箇国で実施されていなかった。今後は、国別援助計画作成国又は作成予定国の国別評価を優先的に実施するなどして、評価のフィードバック機能をより有効に活用できるよう、対象国の選定につき更に工夫が望まれる。

(ウ) 評価実施者の選定−第三者評価の充実

 第三者評価の件数は、いずれの機関においても近年増加傾向にある。評価実施者については、中立的・客観的な立場から評価を実施する者を選定することが求められている。評価が中立的・客観的に実施されたか否かについては、公表された評価報告書により明らかになるものであるが、評価実施者の評価結果(見解)とこれに対する外務省等の意見の双方を掲記すれば、評価の中立性・客観性を高めることができる。

(エ) 評価の基準

 ODAの評価に関しては、「効率性」、「目標達成度」、「インパクト」、「妥当性」及び「自立発展性」の5項目から分析、評価を行うとするDAC評価原則が採択されており、我が国のODA評価も、この原則を踏まえて行うこととされている。
 9年度に実施された在外公館による評価82件のうち、評価の対象事業が共通で、統一のとれた評価の実施が比較的容易であると認められる食糧増産援助の評価7件について検査したところ、上記の5項目の一部について評価を行っていないものや、目標の達成状況に関する記述が一部ないなど評価として十分とは認められないものが見受けられた。

(事前調査に係る分析)

 ODAが効率的・効果的に実施されているかを検証する場合、事前調査や審査において、被援助国の状況を十分把握するとともに、事業の目標及び評価指標を明らかにしておく必要があるが、事業団が実施した「上水道」整備に係る14案件の基本設計調査を対象に分析したところ、指標が区々となっていたり、定性的な記載にとどまっていたりするものが見受けられた。

(評価後のフォローアップ)

 これまでの決算検査報告において援助の効果が発現していないとして掲記した事業のうち、エジプト及びガーナにおける円借款事業3事業、インドネシアにおけるプロジェクト方式技術協力事業1事業を対象として、外務省等におけるフォローアップの状況を調査した。円借款事業については、いずれも銀行がフォローアップを実施しており、状況が改善されるか、近い将来の改善が見込まれていた。他方、プロジェクト方式技術協力事業については、相手国の事情によりフォローアップを実施していなかったが、移転された技術は小規模ながら活用されていた。

(所見)

 ODA事業の評価については、従来から着実に充実・強化が図られているところであり、今後もその充実が期待されている。
 本院が検査したところ、外務省が行う国別評価において対象国の選定に工夫すべき面があったり、一部の在外公館による評価において十分な評価が行われていなかったり、また、事業団が行う基本設計調査において定量的な指標が用いられていなかったりするなどの事態が見受けられた。今後の評価制度の充実の過程において、評価手法の開発、在外公館評価の在り方の検討等が行われることになっており、外務省等において早期の改善がなされることが望まれる。
 本院においても、従来からODA事業について主として有効性の観点から検査を行ってきているところであるが、国会決議を踏まえ、引き続き検査を強化していくこととする。

(4) ODAの不正防止

(国会決議)

 この項目に関する国会決議は次のとおりである。

 政府は、インドネシアリベート疑惑に関する本委員会の指摘により、OECF調達ガイドライン改訂による制裁措置の追加等の改善措置を講ずることとしたが、ODAをめぐる不正を防止し、国民の不信感を払拭するため、今後もODAに関する不正防止のための法令、調達ガイドライン等の整備及び監視に努めるとともに、あらゆる機会を通じて援助実施機関や関係民間業者などに対し、その趣旨の徹底を図ること。また、被援助国に対しても、事業実施の透明性を高めるなど、更に不正防止の徹底を求めること。

(ODA不正事案)

(ア) 過去のODA不正事案

 本院が決算検査報告で取り上げたODA不正事案としては、ODA資機材供給業者による独占禁止法違反事件(平成6年度決算検査報告)と、ブータンにおける調達機材の無断変更等の問題(平成10年度決算検査報告)がある。

(イ) インドネシアリベート疑惑

〔1〕 概要

 インドネシアリベート疑惑は、同国における円借款事業において、我が国の建設業者が現地の仲介業者を介して、受注工作としてリベートを相手国大統領周辺や所管官庁幹部に支払っていたとされるものである。
 外務省及び旧海外経済協力基金(以下「基金」という。)において、リベートを支払ったとされる2社に対して事情聴取を行ったが、いずれもリベート支払の事実を否定している。

〔2〕 本院の検査結果

 本院は、円借款事業における契約の当事者である相手国及び契約企業に対しては検査権限が及ばない。
 一方、基金では、相手国側との借款契約等に規定するところにより、入札の事前資格審査の方法及び結果、入札図書の内容、入札結果の評価、契約書類の内容等が基金の調達ガイドラインに沿ったものかどうか確認することとなっている。本院が、リベート疑惑に関係する円借款事業について基金の確認手続が適切に行われたか検査したところ、適切でない事態は見受けられなかった。

〔3〕 相手国政府による調査の進ちょく状況

 本院は、インドネシアにおけるODA事業の現地調査の際、同国政府機関を訪問し調査の進ちょく状況等について聴取したが、調査継続中との回答であった。

(不正防止に関する外務省等の取組状況)

(ア) 法令及び体制の整備

 不正防止に関しては、不正事案が発生する都度何らかの再発防止措置が執られ、その中で法令及び体制の整備が進められてきている。
 ブータン問題を踏まえた改善措置においても、12年10月までに、交換公文の附属文書の雛形及び事業団の調達ガイドラインが改訂された。
 基金では、調達ガイドライン及びコンサルタント雇用ガイドラインを改訂し、相手国側と汚職・不正に関わった企業との契約締結に同意しないこととするなどし、これを銀行が継承した。
 また、外務省も、我が国のODA事業の実施に際して不正行為等を行った企業を無償資金協力事業から一定期間排除する措置を執ることとした。

(イ) 援助実施機関及びODA関連業者並びに被援助国に対する趣旨の徹底

 ODAの不正防止は、ODAに携わるすべての者がその趣旨を踏まえて自覚的に行動することが必要であるとの観点から、外務省では、ODA実施省庁及びODA関連業者に対して、各種の働きかけを行っている。また、在外公館を通じるなどして被援助国に対しても各種の申入れを行っている。

(ODAの情報開示に関する外務省等の取組状況)

 外務省等では、ODA事業の調達過程における入札や契約に係る業者名や価格の情報開示を進め、透明性を確保することにより不正防止を図ることとしている。

(被援助国の取組状況)

 不正防止を十全ならしめるためには、被援助国において不正防止の仕組みが十分に機能することも重要であることから、本院では、現地調査の際、被援助国における法令や監視体制の整備等の不正防止の取組みについて調査したが、調査した範囲では特に問題のある点は認められなかった。

(所見)

 外務省等においては、援助実施機関、ODA関連業者及び被援助国に対する働きかけや情報開示の面で一定の取組みが行われていると認められる。
 ブータン問題を踏まえて執るとしていた改善措置については、公表後2年近くが経過し順次実施に移されているが、今後ともこれらの措置を確実に実施していくことが重要である。
 さらに、外務省等において、今後とも被援助国等に対する働きかけや情報開示等につき、不断の取組みを続けていくことが必要である。

(5) 重債務貧困国に対する債務救済

(国会決議)

 この項目に関する国会決議は次のとおりである。

 重債務貧困国に対する債務救済に当たっては、その財源が国民の負担によって賄われることにかんがみ、我が国が債務救済に至った事情を国民に対して十分説明し、理解と協力が得られるよう引き続き努力すること。また、債務救済がモラル・ハザードを引き起こすことのないよう、対象国に対し、引き続き自助努力を促すとともに、これまで以上に資金の使途の監視を強めること。
 さらに、重債務貧困国に対する今後の援助に当たっては、被援助国の実情に即した適切な検討を加え、援助の在り方について早急に結論を得ること。

(重債務貧困国の債務の状況)

 世界銀行及び国際通貨基金(以下「世銀等」という。)により、重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries HIPC)に認定された国は41箇国あり、これらの国々の債務は、8年時点で総額約1690億ドル(公的債務約1490億ドル、民間債務約200億ドル)となっている。
 重債務貧困国が我が国に対して負うODA債務には、円借款債務とコメ延払債務があり、11年度末における残高はそれぞれ1兆1015億円、359億円となっている。このうち弁済期限を1年以上経過して延滞となっているものは、円借款債務で1610億円、コメ延払債務で78億円となっている。

(国際的な枠組みによる債務救済措置の概要)

(ア) パリ・クラブにおける従来の債務救済措置

 ODA債務を含む公的債務については、その繰延交渉を行う債権国会議(パリ・クラブ)の場において、昭和31年から、返済繰延等につき、対外債務の返済が困難となった開発途上国と債権国との間で交渉が行われている。平成6年には、一定の条件を満たす開発途上国のODA債務について、67%の削減となる措置を講ずることが合意された。

(イ) 重債務貧困国を対象とするHIPCイニシアティブの下での措置

 世銀等は、重債務貧困国に係る債務救済措置に関して、リヨンサミット(8年6月)の合意を受け、これらの国々の債務を継続して返済していくことが可能な水準まで引き下げるための枠組み(HIPCイニシアティブ)を8年9月に承認した。そして、同年11月のパリ・クラブ会合において、これに基づく債務救済スキームが合意された。
 HIPCイニシアティブでは、先進援助国は、国際機関に対する債務の救済のため世銀等に設置された債務救済基金に拠出を行うこととされ、また、二国間の非ODA債務については80%を上限として削減することとされた。そして、二国間のODA債務については、従来から実施されていた67%の削減となる措置を引き続き講ずることとされた。
 そして、重債務貧困国がHIPCイニシアティブに基づく債務救済を受けるためには、世銀等が認める構造調整プログラムを受け入れ、継続的に構造調整改革を実施することが必要とされた。
 その後、HIPCイニシアティブは、重債務貧困国に対し、より早く、深く、広範な救済を行うため、ケルンサミット(11年6月)や世銀等の年次総会を通じて拡大され(拡大HIPCイニシアティブ)11年11月のパリ・クラブ会合においてその詳細が合意された。
 拡大HIPCイニシアティブにおいては、主要先進7箇国は二国間のODA債務について100%の削減となる措置を講ずることとされている。そして、債務救済措置を求める重債務貧困国は、構造調整改革を実施するだけでなく、債務救済措置を「貧困削減」に資するものとするため、「貧困削減戦略文書」(PRSP)と呼ばれるプログラムを作成・実施することが原則として必要とされている。

(我が国の執った債務救済措置の実績)

(ア) パリ・クラブの枠組みによる債務救済措置

 我が国は、パリ・クラブの枠組みの下で、11年度までに計9710億円の繰延べを実施しており、このうち重債務貧困国に対するものは1803億円となっている。
 また、我が国は、世銀等に設置された債務救済基金に対し、11年度までに計112億円を拠出している。

(イ) 債務救済無償資金協力による債務救済措置

 我が国は、自助努力の支援を旨とする従来からの援助理念を踏まえ、債務の帳消し(棒引き)を行わないこととして債務国に返済を求める一方、返済がなされた場合には原則として返済額と同額の無償資金を供与する債務救済無償資金協力を行っている。
 この債務救済無償資金協力を実施した国は、11年度までの累計で29箇国(供与額計3732億円)となっている。

(国民の理解と協力を得るための外務省の取組み)

 外務省では、開発途上国の債務問題に関し、「年次報告」、「ODA白書」をはじめとする各種資料やホームページ、新聞、テレビ等の媒体を通じた広報などにより、国民の理解と協力を得るための説明を行っている。

(資金使途の監視に係る取組み)

(ア) 国際機関を通じた監視

 世銀等は、各種の融資を実施したりHIPCイニシアティブ等を適用したりする際に、その条件として債務国が継続的に構造調整改革を実施することを義務付けている。そして、世銀等は、構造調整改革の実施を確保するために債務国の財政状況を含むマクロ経済等全般について監視しており、債務救済措置により債務国側に生じた返済の必要のない資金の使途についても監視の対象としている。
 そして、我が国は、債務繰延等の国際的な枠組みによる債務救済措置を行うに際しては、世銀等が上記の監視結果を考慮して融資の実行を承認することなどを条件にして、国際機関を通じた資金使途の監視を行っている。
 また、PRSPの作成・実施が拡大HIPCイニシアティブの適用を受ける条件とされたことから、資金使途の監視の仕組みは一層強化されることとなった。

(イ) 債務救済無償資金協力における監視

 外務省では、債務救済無償資金協力の実施に当たっては、我が国と相手国との間で締結される交換公文及び附属文書において、供与する資金の使途を相手国の経済開発と国民の福祉の向上に寄与するものに限定するとともに、その使途の実績を我が国に報告させることにより、資金使途の監視を行っている。
 本院がその報告書の提出状況を検査したところ、6年度から9年度までの間に債務救済無償資金協力により資金を供与した20箇国(各年度では14〜19箇国)のうち、一回でも報告書の提出があったのは6箇国にとどまっており、毎回提出されているのは2箇国のみであった。そして、一回も報告書を提出していない国は14箇国(うち重債務貧困国は10箇国)となっていた。

(所見)

 我が国は、債務救済措置の対象となる国が今後増加することが見込まれる中で、引き続き途上国の債務問題に取り組んでいくことが求められている。
 外務省においては、債務問題に関する国民の理解と協力を得るための一定の取組みが行われており、また、債務救済措置により債務国側に生ずる返済の必要のない資金の使途についても、その監視を行うための仕組みが設けられていた。
 しかし、債務救済無償資金協力に係る資金使途の監視の実施状況についてみると、相手国からの報告書が提出されておらず資金の使途が明らかにされていないものが多いことから、外務省においては、資金使途の監視のための取組みを今後より一層強化する必要がある。