ページトップ
  • 平成12年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

新潟県刈羽群刈羽村における電源立地促進対策交付金事業の施行について


第7 新潟県刈羽郡刈羽村における電源立地促進対策交付金事業の施行について

検査対象 資源エネルギー庁、通商産業省東北通商産業局(平成13年1月6日以降は経済産業省東北経済産業局)、新潟県、新潟県刈羽郡刈羽村
会計名及び科目 電源開発促進対策特別会計(電源立地勘定) (項)電源立地対策費
交付の根拠 発電用施設周辺地域整備法(昭和49年法律第78号)
事業主体 新潟県刈羽郡刈羽村
交付金 電源立地促進対策交付金
交付金の概要 発電用施設の周辺地域における公共施設の整備を促進することにより、地域住民の福祉の向上を図り、もって発電用施設の設置の円滑化に資することを目的に、発電用施設が設置される市町村等に対して交付されるもの
交付対象事業 (1) 生涯学習センター「ラピカ」建設事業
(2) 源土運動広場整備事業
交付金事業の概要 (1) 学習室、図書館、文化ホール等を有する2階建て本館等の建築工事のほか、外構の整備、設計業務委託、施工監理業務委託、備品の購入を行うもの
(2) 野球場、多目的広場、ゲートボール場等の整備を行うもの
交付対象事業費 (1) 55億3318万余円(平成7、9、10各年度)
(2) 18億1419万余円(昭和63年度、平成8年度〜10年度)
上記に対する交付金交付額 (1) 50億3100万余円
(2) 14億0286万余円

1 事業の概要

(刈羽村生涯学習センターラピカ」建設事業及び源土運動広場整備事業の概要)

 通商産業省東北通商産業局(平成13年1月6日以降は経済産業省東北経済産業局)では、新潟県刈羽郡刈羽村(以下「村」という。)に対し、7、9及び10年度に、刈羽村生涯学習センター「ラピカ」の建設(以下「ラピカ建設事業」という。)に要する経費の一部として電源立地促進対策交付金(以下「交付金」という。)5,031,002,000円を村の交付申請に基づき交付している。
 ラピカ建設事業は、事業費総額5,533,186,350円をもって、約2方m2 の敷地に、学習室、図書館、文化ホール、プール、アリーナ等を有する鉄骨鉄筋コンクリート造などの2階建ての本館(延べ面積7,893m2 )、木造平屋建ての陶芸工房(同138m2 )及び茶道館(同85m2 )等の建築工事(延べ面積の計8,117m2 、以下「本館等建築工事」という。)のほか、外構の整備、設計業務委託、施工監理業務委託、備品の購入を行ったものである。
 また、源土運動広場の整備事業(以下「運動広場整備事業」という。)は、事業費総額1,814,197,160円(交付金1,402,869,000円)をもって、約17万m2 の敷地内に、野球場1面、多目的広場1面、ゲートボール場8面等の建設工事等を行ったものである。

(交付金の概要及び村に対する交付金の交付)

 この交付金は、発電用施設周辺地域整備法(昭和49年法律第78号。以下「法」という。)及び「原子力発電施設等に係る電源立地促進対策交付金交付規則」(昭和49年科学技術庁、通商産業省告示第2号。以下「交付規則」という。)の規定に基づき、発電用施設の周辺地域における公共用施設の整備を促進することにより、地域住民の福祉の向上を図り、もって発電用施設の設置の円滑化に資することを目的に、発電用施設が設置される市町村やその周辺の市町村等が、都道府県知事が作成する整備計画に基づき行う事業に係る経費に充てるために交付するものである。
 法、交付規則及び発電用施設周辺地域整備法施行令(昭和49年政令第293号)によれば、交付金は、原子力発電用施設の場合、出力35kW万以上(核燃料サイクル開発機構が設置する場合は15万kW以上)の規模の発電用施設が所在する市町村及び周辺市町村等を対象として交付することができることとされている。そして、交付金は、発電用施設の出力に一定の単価及び係数を乗じて得られる金額を限度として、発電用施設の設置工事が開始される年度から運転開始後5年まで、交付することができることとされている。
 新潟県柏崎市及び村にまたがる地域には、東京電力株式会社が昭和53年から柏崎刈羽原子力発電所の建設を開始し、現在、総出力821.2万kWの原子力発電施設が稼働している。
 村に対する交付金は、この原子力発電所の立地に伴い交付されることとなったもので、その交付額は、53年度から平成12年度までに総額214億余円に上っている。

(ラピカ建設事業及び運動広場整備事業の実施経緯)

(1)ラピカ建設事業の実施経緯

 村では、ラピカ建設事業に係る設計、施工等の各契約及び交付金の申請等の業務を次のように実施している。
〔1〕 設計については、7年5月から7月までに、ラピカ建設事業に係る設計コンぺティションを実施し、その結果、参加した6会社の中から1会社を設計委託先として決定した。そして、同会社と同年7月に設計業務委託契約を114,948,000円(うち交付金114,102,000円)で締結して、その後、本館、茶道館等の基本設計及び実施設計用の設計図面、特記仕様書、設計書からなる設計図書(以下「実施設計図書」という。)等の成果品を受領している。
〔2〕 工事の発注及び交付金の申請に当たり、村では、これらの実施設計図書等を同会社の協力を得て修正し、工事発注のための設計図面、特記仕様書、設計書等からなる設計図書(以下「発注設計図書」という。)等を新たに作成し、9年5月に、これにより東北通商産業局に交付金の交付申請を行っている。
〔3〕 本館等建築工事については、同年7月に一般競争による入札を行い、本館等建築工事請負契約を工事費4,693,500,000円(うち交付金4,475,900,000円)で締結している。村は、その後、工事の進ちょくに伴い、請負業者と2回の変更契約を締結し、11年3月にしゅん功検査を行って、施設の引渡しを受けている。
〔4〕 この本館等建築工事に係る施工監理業務については、建築工事の適正な履行を確保するため、専門的な知識を有する者に委託することとしている。そして、現場状況や施設の配置計画等を把握していて適切な施工監理が行えることを理由にして、上記の設計会社に9年8月、随意契約により契約額78,015,000円(うち交付金66,000,000円)で委託している。その後11年3月に、本館等建築工事の終了に伴い、契約どおり施工監理業務が履行されたとして完了検査を了している。
〔5〕 本館等の外構工事については、10年9月に、指名競争契約により工事費409,500,000円で築山の造成、歩道の整備等を発注し、11年3月にしゅん功検査を了している。
〔6〕 ラピカに使用する書棚、机、椅子などの備品類については、10年11月及び11年2月に、指名競争契約又は随意契約により計9会社と11件の売買契約を締結し、総額213,001,950円(うち交付金125,000,000円)で購入しており、11年3月までに納品検査を了している。
 上記の各契約を一覧にして示すと、表1のとおりである。

表1 ラピカ建設事業に係る契約一覧

年度 契約内容 契約金額
(円)
交付金額
(円)
平成7年度 刈羽村生涯学習センター(仮称)設計業務委託 114,948,000 114,102,000
平成9、10年度 刈羽村生涯学習センター(仮称)建設工事 当初 4,693,500,000
4,714,107,300
4,475,900,000
平成9、10年度 刈羽村生涯学習センター(仮称)建設工事に係る監理施工業務委託 78,015,000 66,000,000
平成10年度 刈羽村生涯学習センター外構工事 当初 409,500,000
413,114,100
250,000,000
小計
当初 5,295,963,000
5,320,184,400
4,906,002,000
平成10年度 「刈羽村生涯学習センター一般事務機器備品(その1)」ほか10契約 213,001,950 125,000,000
合計
当初 5,508,964,950
5,533,186,350
5,031,002,000

(注)村の単独施行分を除く。

(2)運動広場整備事業の実施経緯

 村では、村民が屋外スポーツやレクリエーションを楽しむ施設として、西谷・井岡地内に、野球場、多目的広場、ゲートボール場等の運動施設を整備するため、総額1,814,197,160円(うち交付金1,402,869,000円)をもって、表2のとおり、昭和63年度から測量・地質調査の業務を行い、平成8年度から10年度に各施設の建設工事を施行し、各施設は11年3月に完成している。

表2 運動広場整備事業に係る契約一覧

年度 契約内容 契約金額
(円)
交付金額
(円)
昭和63年度 源土運動広場整備工事測量委託 8,100,000 13,769,000
源土運動広場整備工事調査委託 6,805,000
平成8年度 源土運動広場整備工事 296,029,210 225,000,000
平成9年度 源土運動広場整備工事 716,869,650 450,000,000
平成10年度 源土運動広場整備工事 786,393,300 714,100,000
合計
1,814,197,160 1,402,869,000

(注)村の単独施行分を除く。

2 ラピカ建設事業、運動広場整備事業に係る問題提起と当局の対応

(提起されている問題点)

 本件両事業については、12年に刈羽村議会議員がラピカ建設事業のうち茶道館に関する情報公開請求を村に提出したことなどに端を発して、様々な問題点が提起され、国会でも取り上げられている。
 そのうち主なものを要約して示すと次のとおりである。

(1)ラピカ建設事業について

 ア 本館等建築工事について
 〔1〕 設計図面と出来形との間に多数の相違がある
 〔2〕 特に茶道館については、設計と異なる安価な材料が使用されている
 〔3〕 予定価格の積算が高額となっている
 イ 外構工事について
 〔1〕 設計図面と出来形との間に多数の相違がある
 ウ 備品類の購入契約について
 〔1〕 予定価格の積算が高額となっている


(2)運動広場整備事業について

 〔1〕 盛土内に産業廃棄物が混入していて工事の施工が粗雑である
 〔2〕 ゲートボール場の地盤が沈下してひび割れが生じていて使用に耐えないものとなっている


(当局による調査)

 上記のような問題点が提起されたため、村では、ラピカ建設事業の調査を行うこととし、財団法人新潟県建設技術センターに委託するなどして、申請からしゅん功に至るまでの関係図書と出来形との照合・精査を行った。その結果、〔1〕本館等建築工事については、しゅん功に当たって最終的な出来形を示すものとされた設計図面(以下「しゅん功図」という。)と出来形との間に多数の相違箇所があることが判明し、また、〔2〕外構工事についても、同様に相違箇所があることが判明したとする設計変更調査表を13年3月に作成している。
 そして、東北経済産業局及び資源エネルギー庁においては、事態を解明するため、13年6月、公共建築物の建設に関する調査、研究等を行っている社団法人公共建築協会(以下「建築協会」という。)にラピカ建設事業に関する実態調査を委託し、同年9月にその調査報告書の提出を受けている。
 この調査に当たっては、建築協会は、村が作成した設計変更調査表の確認を目的として、東北経済産業局からの提供資料、村に保存されていた工事関係書類を調査するとともに、現地確認及び関係者からの聴取り調査を行っている。しかし、調査報告書によれば、〔1〕発注設計図書の原本が村に保存されていないこと、〔2〕設計図面と設計書の不一致、使用材料等の品質の不明確、同一図面のなかでの不整合など設計図書の完成度が低いこと、〔3〕変更手続きが不明確であることなど、調査の実施に当たって困難な問題が数多く指摘されており、すべてを解明することは困難であったとされている。そして、このような制約のもとに作成された報告書であるが、しゅん功図と出来形の間などに、248項目の相違点があったり、交付申請時の設計書の一部に誤りがあり、約2200万円の積算の過大があるなどの調査結果が報告されている。
 また、村では、産業廃棄物の管理責任を有する新潟県の助言、指導を受けながら、運動広場整備事業についても、産業廃棄物に関する調査を行っている。また、ゲートボール場の地盤沈下については、工事実施時点からその状況を継続的に確認している。そして、資源エネルギー庁においても、村から産業廃棄物に関する調査結果及び地盤沈下の状況や補修の状況について報告を受けるなどして確認している。

3 検査の状況

(検査の着眼点及び対象)

 上記のとおり、ラピカ建設事業及び運動広場整備事業については、様々な問題点が提起されたため、これらの問題点を中心として、両事業が交付金の交付目的に沿って適切に実施されているか、前記の表1、2に示した各契約を対象として検査した。

(検査の状況)

(1)検査の経緯と結果の概要

 本院は、本件事態について、12年7月、13年7月及び9月の3回にわたって村に対する会計実地検査を行い、また、同年8月に東北経済産業局(交付決定庁)の会計実地検査を行って、事実関係を調査するとともに、その後、収集した資料を分析検討し、さらに資源エネルギー庁の見解を聴取するなどして事態の解明に努めてきた。
 しかし、事業の実施過程で使用された設計図書やその根拠資料の一部が既に失われていたり、現在保管されている一部の設計図書もその完成度が低かったりなど、村の事業の実施状況は極めて不適切であった。このため、事態を完全に把握することが困難な状況となっていた。
 さらに、次のような問題点が事実の究明を更に困難にした。
〔1〕 村に無断で設計が変更されており、このうち一部については、これを追認するため、村は正規の変更手続きを行わずに設計図書を差し替えていた。
〔2〕 正規の変更手続きを行っていない箇所が多数あり、これらについて村が承知していた範囲が明確でなかった。
〔3〕村が事実究明の前提であるこれら諸点を整理することや村としての確定した見解を示すのに時日を要した。
 上記のような状況から、本院の検査においても、すべての事実を確認、解明するには至らなかった。しかし、本院では、このように検査が制約される中ではあるが、会計実地検査等において確認した事実と本院が確認した建築協会の報告内容とを合わせて問題点を整理し、その結果に基づき、本件事業の一部について不当事項として決算検査報告に掲記するとともに、以下のとおり、事業全体の検査の状況と本院の見解を示すこととした。

(別掲不当事項参照)

 なお、本館等建築工事に係る検査においては、今回の事態を確認する上で基礎となる発注設計図書が、村による不適切な事業実施の過程で失われているため、現存していた「交付金の申請に使用した設計図書」(以下「申請設計図書」という。)を基礎として事態を確認した。村では、この申請設計図書は発注設計図書と同一であり、追加や変更は加えていないと説明している。

(2)ラピカ建設事業の具体的な検査状況と本院の見解

ア 本館等建築工事等の実施状況について

 前記のとおり、村では、7年度に基本設計と実施設計の作成を設計業者に委託し、その成果品として、実施設計図書等を受け取っている。
 その後、村民の意見を聞くなどして所要の修正をした発注設計図書を作成し、この設計図書により本館等建築工事を発注している。そして、工事の進ちょくに伴い、10年2月及び10月の2回にわたって、正規の設計変更を行い、その結果、計20,607,300円の増額変更契約を締結している。
 11年3月、同工事が完成し、その際、しゅん功図が施工業者より提出されている。村では、この図面どおり工事が履行されたものとしてしゅん功検査を了している。
 しかし、この間の事業の実施過程において、次のとおり不適切な事態が見受けられた。
(ア)交付規則によれば、実施設計図書は設計業務の成果品であり、収支に関する証拠書類として5年間保存しなければならないこととされているのに、その保存期間を経過していない12年の時点で既に失われていた。このため、その内容を確認できない状況となっている。
(イ)村では、建物等の一部が施工された段階で、設計図書と出来形との間に、村が承知していない箇所を発見し、施工監理業者に説明を求めるなどしたとしている。しかし、村は、設計変更の手続きを執ることなく、発注設計図書の一部を差し替えて、発注時から出来形に沿った設計であったとする不適切な処理を行った。
 この結果、当初の発注設計図書は、原本が失われてその内容を確認できない状況となっており、現存しているのは申請設計図書のみとなっている。
(ウ)上記(イ)の申請設計図書を確認したところ、特に茶道館については、工事の実施に必要な情報が網羅されていなかったり、設計図面間に不整合があったりしているなど不適切なものとなっている。
(エ)施工業者から提出されたしゅん功図には、上記(イ)のほかにも設計内容の変更箇所が示されていた。しかし、工事費の見直しは行われておらず、正規の契約変更手続きも執られていない状況となっている。
(オ)数量調書は、設計変更の過程で原本に修正を加えていった結果当初の数量調書が失われており、また、単価決定の根拠となった見積書も紛失していて確認できない状況となっている。
(カ)施工監理業者が村に無断で設計の変更を行った上、これをしゅん功図にも反映させていなかったため、しゅん功図と出来形とが異なる箇所が多数見受けられる事態となっている。
 また、外構工事の実施過程においても上記と同様の事態が見受けられた。

イ 本館等建築工事に係る設計図書と出来形との相違等について

 上記アの結果、本館等建築工事においては、しゅん功図と出来形との間などに221項目に上る相違箇所が生じている。
 これらの相違箇所について検討し、本館等建築工事の茶道館と本館及び陶芸工房とに分けて、その出来形を評価すると、次のとおりである。

(ア)茶道館について

 茶道館に係る申請設計図書には、木造建築に不可欠な軸組図や詳細図がないなど必要な情報が網羅されていなかったり、図面間に不整合があったりしているため内容が読み取れないなどの問題点が多数あった。さらに、設計図面又は仕様書と工事費の積算とが異なっていて、整合性が取れていないものも多数あった。
 そして、実際の出来形において、特記仕様書、設計図面及び設計書と合わない品質又は質感の劣る材料によって施工されているほか、設計図書上の意図が明確なものについても質感に劣る安価な材料に変更されているなど合計46項目に上るしゅん功図等との相違点が確認された。
 したがって、茶道館(直接工事費63,802,698円)は事業の実施が不適切であり、交付金の交付目的に沿った施設となっていない。

(別掲不当事項参照)

(イ)本館、陶芸工房について

 本館等建築工事のうち、本館、陶芸工房に係る相違箇所は、窓のペアガラスの厚さを8mmから6mmに変更したものや、フローリングの材質をナラからカバザクラに変更したものなど計175項目に上っている。これらは、その内容が茶道館と異なり、それぞれの施設全体の信頼性を失わせるほどのものではなく、変更内容を個別に検討の上、評価すべきものと認められた。これらを機能や経済性などから、その妥当性を評価すると次のとおりである。

〔1〕設計変更して工事費を精査すべきであったと認められるもの  102項目
〔2〕機能品質が劣るなど設計変更する妥当性がないもの  4項目
〔3〕明確に判断できないもの  69項目

 すなわち、上記のうち〔1〕の102項目については、変更の内容及び理由は妥当であるが、工事費を精査の上、変更契約により減額すべきであったと認められた。また、〔2〕の4項目については、本館や陶芸工房の畳等を変更したものであるが、機能品質が劣るなど設計を変更する妥当性がないと認められた。
 したがって、上記の〔1〕、〔2〕(これらに係る直接工事費97,448,809円)については、一部の施工がしゅん功図等と相違した安価なものや低品質なものとなっており、その施工が不適切となっている。

(別掲不当事項参照)

 なお、上記〔3〕の69項目については、妥当性を明確に判断するまでに至らなかった。
 上記のほか、本館等建築工事の工事費の積算においては、茶道館の建具や本館の内部足場の数量が過大に計上されるなどして、約2200万円直接工事費が過大となっているものが見受けられた。しかし、本件交付金は、立地される発電用施設の出力に一定の単価及び係数を乗じて得られる金額を限度として交付することとなっており、制度上この過大額を減額しても直ちに交付決定額に影響を与えるものとはなっていない。

ウ 外構工事に係る設計図書と出来形との相違について

 外構工事についても、本館等建築工事と同様、しゅん功図と出来形との間などに相違が生じており、その内容は築山の形状を変更したものなど合計27項目となっている。
 これらについては、その内容が外構工事全体の信頼性を失わせるほどのものではなく、変更内容を個別に検討の上、評価すべきものと認められた。その妥当性を評価して示すと次のとおりである。

〔1〕設計変更して工事費を精査すべきであったと認められるもの  16項目
〔2〕明確に判断できないもの  11項目

 そして、上記のうち〔1〕については、設計変更すべきであったと認められるが変更契約により工事費を減額すべきものであったとは認められなかった。

エ 施工監理業務委託について

 村では、本館等建築工事の実施に当たって、村に建築技術に関する専門家がいないなどのため、その施工監理を委託することとし、9年8月、本館等の設計を行った設計会社と委託契約を締結している。しかし、受託者が、相当の部分について村に無断で設計を変更した上その内容を報告していなかったり、村が、その内容を承知していたもののその後の指示又は設計変更等の処理を怠っていたりしたものが多数見受けられる状況となっている。
 これらのことなどのため、前記イのとおり、本館等建築工事において設計図書と出来形との間に多数の相違箇所が生じるなどしており、委託業務の目的が達成されておらず、本件委託業務にかかる78,015,000円全額が不当と認められる。

(別掲不当事項参照)

オ 備品類の購入契約について

 村では、ラピカに使用する備品類を、10年11月及び11年2月に、指名競争契約又は随意契約により、一般事務機器備品の購入契約ほか10契約を総額213,001,950円で9業者と締結し、購入している。
 これらの契約に係る予定価格の算定に当たり、村では、備品類に関する特段の算定方法が定められていないことから、建築工事等に適用する建築工事設計単価表(以下「単価表」という。)に記載されている単価の決定方法を準用することとしていた。この単価表によれば、見積りを採用する場合、原則として3社以上から徴収することとし、そのうちの最低価格に必要に応じて資材等の種類ごとに定められた調整率を乗じて単価を決定することとされている。
 しかし、単価表に記載されている単価決定方法は、建築工事の資材単価等を決定するためのもので、備品類の購入単価を決定するためのものではない。したがって、 その適用の妥当性について検討をすべきであるのに、特段の根拠もなしに単価表に記載されている調整率を一律に適用していたり、備品の見積りはほとんどが1社から徴収しただけとなっていたりしていて、予定価格の算定方法が不適切なものとなっていたが、購入価格そのものが割高となっていると明確に判断できる状況にはない。

(3)運動広場整備事業の具体的な検査状況と本院の見解

 運動広場整備事業について、今回、整備した施設の盛土を一部掘削するなどして検査したところ、多目的広場については、コンクリート片、木片等の産業廃棄物のほか、今回の工事で施工することとはなっていない玉石等の石材が混入していることが確認された。
 これらが混入した経緯は必ずしも明らかではないが、本院が地元関係者等から聴き取るなどして調査した結果によれば、多目的広場周辺はもともと沼地でそのままでは利用できないことから、過去に公共事業を中心とする工事により発生した残土を沼地に受け入れていたとしていた。その際、一部に産業廃棄物が混入していた形跡があったとのことであり、このような状況から推定すれば、その一部が今回の造成工事等を施工する際混入したことも考えられる。
 そして、今回、確認された産業廃棄物等の多くは比較的大きなものであり、造成工事等の施工に当たってその混入は目視により容易に発見できたものと認められる。したがって、施工業者がその混入を確認した際、村に申し出た上で撤去する処置を講じる要があったものと認められた。
 本件事態について、多目的広場全般にわたる確認は困難であるが、このような産業廃棄物の混入が広範囲に及んでいるとすれば、その利用に支障が生じるなどのおそれもある状況となっている。
 また、ゲートボール場については、地盤が沈下して支障があるとの問題点が提起されている。ゲートボール場の敷地は、元々軟弱な地盤の上に整備されているため、当初の設計においても、いったん所定の高さより高い盛土をすることにより、一定期間沈下を促進した後、その沈下量の観測結果から今後の沈下量を予測した上で、ある程度沈下することを想定して施設を整備している。そして実際には、現在までおおむね予測した沈下量で推移しており、部分的には予測した沈下量を上回るなどしているものの、この種の予測を正確に行うことが技術的に難しい面があることを考慮すると、現状ではやむを得ないものと認められた。

(4)本件事態の発生原因と背景

 本件事態が生じたのは、主として次のようなことによると認められる。

ア ラピカ建設事業について

(ア)村においては、その行政規模等から見て異例の大規模な事業であるのに、建築工事に関する専門的な知識を有する職員もいないまま、わずか数名の担当者というぜい弱な体制で、総額50億円を超える工事の設計、積算、施工の監理及び施工監理業務委託に対応させた上、備品の購入等の業務も行わせている。そして、このような事業執行体制を補うために、専門的な知識を有する者にその施工監理を委託したにもかかわらず、次のような状況に至っていたことによると認められる。
〔1〕 施工監理を行う上での具体的な手続きを明確に取り決めていなかったことから、設計を変更するに当たって、その処理が曖昧になってしまっていること
〔2〕 設計変更の是非について、施工監理業者の判断に委ねざるを得なかったこと
〔3〕 上記の〔1〕、〔2〕により、書類の整備が十分でなく、しゅん功検査に当たって、しゅん功図に基づく確認が十分行われなかったこと
 また、備品の購入契約については、村に、物品類を購入するに当たっての予定価格の算定に関する規則等が定められていなかったこと、また、準用した基準の検討が十分でなかったことによると認められる。
(イ)本件交付金の交付決定を行った東北通商産業局においては、交付金の交付事務に従事する職員が数名にすぎないこともあって、大規模な事業であったにもかかわらす、審査が十分行われておらず、また、村に対する事業の執行に関する指導監督が十分行われなかったこと、さらに、交付金の額の確定に当たっても、実績報告書に基づく現地確認が十分行われていないことによると認められる。

イ 運動広場整備事業について

(ア)村においては、ラピカ建設事業同様、専門的な知識を有するものがいないままラピカ建設事業に携った職員数名で事業を執行しており、施工監理及びしゅん功検査が十分行われなかったため、産業廃棄物の混入を見過ごしたことによると認められる。
(イ)東北通商産業局においては、交付金の額の確定に当たって、十分な現地確認が行われていないことによると認められる。

4 本院の所見

 交付金は、その財源が電気事業者からの電源開発促進税によって賄われているものであり、ひいては国民が電気料金の一部として負担しているものである。そして、交付金による事業の実施に当たっては、「補助金等の予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号)第11条に定めるとおり、事業者は善良な管理者の注意をもって事業を行う必要がある。また、適切に事業を実施したことを明らかにするため、関係書類を整備保管し、説明責任を果たすことが求められている。
 しかし、本件事業の実施状況は以上のとおりであり、設計変更に当たって適切な処理が行われなかったり、設計図面と出来形が著しく相違しているのに図面どおり完成しているものとしていたり、また、事業の実施過程において作成された証拠書類も一部失われていたりなどしていて、その過程も不明となっていた。これらのことから、本件事業は、善良な管理者の注意を持って実施されたとは認められず、事業の執行が不適切なものとなっている。
 したがって、本院は、今回の検査の結果により、事業の一部を不当事項として掲記することとしたほか、事態の早期是正と今後の同種事態の再発防止を期して、特に、検査状況を掲記することとした。
 また、資源エネルギー庁においては、今回の事態の是正を図るとともに、今後、同種事態の再発を防止するため、事業執行体制のぜい弱な自治体が事業を実施するに当たっては、様々な支援の方途を工夫するなど事業の執行体制の強化を図り、さらに、額の確定時における検査体制を強化するなど適正な事業執行を確保するための体制の整備を図ることなどが必要である。