1 本院が要求した改善の処置
健康保険又は厚生年金保険が適用される事業所は、事業主等の意思にかかわらず健康保険又は厚生年金保険に加入し、その適用を受けなければならないこととなっている。社会保険事務所等は、適用事業所が解散したり休業したりするなどして、その従業員全員が使用されなくなって被保険者全員の資格が喪失した場合には、当該事業所の事業主に対し、被保険者全員の資格喪失届に健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届(以下「全喪届」という。)を添付して提出させることにしている。全喪届は、法令等の規定に基づいて事業主に提出させているものではないが、社会保険事務所等は、事業主から被保険者全員の資格喪失届と全喪届が提出された場合には、その事業所に係る全喪処理を行うことにしている。この全喪処理により、その事業所は適用事業所から除外され、健康保険又は厚生年金保険の適用を受けないことになる。
そこで、主として休業を理由とした政府管掌健康保険及び厚生年金保険の適用事業所の全喪処理が適正に行われているかについて検査したところ、全喪処理後も引き続き事業を継続していたり、全喪処理後に短期間で事業を再開していたりしているのに、健康保険又は厚生年金保険の適用を受けていない事態が見受けられた。
このような事態が生じているのは、事業主が誠実でなく保険料の負担を避けるなどのため全喪届を提出していたこと及び社会保険事務所等における事業主に対しての指導等が十分でなかったことにもよるが、なお次のようなことによると認められた。
(ア) 全喪届は全喪処理を行うための重要な届書であるのに法令等で規定されておらず、全喪届の記載内容やこれを確認するための添付資料が明確に示されていないため、社会保険事務所等において、全喪届を提出した事業所の事業実態を的確に把握することができないこと
(イ) 全喪届の記載内容について、社会保険事務所等が行う調査確認方法などが具体的に定められていないこと
適用事業所の全喪処理について、その適正化が図られるよう、次のとおり、社会保険庁長官に対し平成13年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
(ア) 全喪届について法令等で規定してその記載内容を明確に示し、また、事業所が休業等に至った事由などを確認するための資料を添付させることにより、社会保険事務所等において、全喪届を提出した事業所の事業実態を的確に把握することができるようにすること
(イ) 全喪届の記載内容について、社会保険事務所等が行う具体的な調査確認方法などを定めること
2 当局の処置状況
社会保険庁では、本院指摘の趣旨に沿い、上記の(ア)については、全喪届について法令等で規定することなどの検討を行っている。また、(イ)については、14年10月に開催された全国社会保険事務所長会議において全喪届の記載内容の調査確認方法を示しており、今後、地方社会保険事務局にその取扱いを改めて通知することとしている。