1 本院が表示した改善の意見
特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、適用事業所に新たに使用されて被保険者となったときなどには、標準報酬月額等を用いて、一定の方式により算定した額に応じ、年金額の全部又は一部の支給を停止することとなっている。
社会保険庁では、特別支給の老齢厚生年金の受給権者のうち年金額の全部を支給されている者(以下「受給者」という。)について、現に事業所に使用されている場合は、年1回提出を求めている年金受給者現況届(以下「現況届」という。)に、事業所の名称及び所在地を記載させることとしている。これは、受給者の就労状況に関する情報(以下「就労情報」という。)を現況届により把握して活用することにより、厚生年金保険等の適用及び年金給付の適正化を図ろうとするものである。そして、社会保険事務所等では、適用事業所に使用されている者に係る被保険者資格取得の届出漏れ及び届出誤りがないよう事業主指導に努めることとなっており、総合調査等を実施し、使用されている受給者等の被保険者資格取得等の適否について、賃金台帳等を照合して事実を確認することとされている。
本院では、毎年度の決算検査報告において、特別支給の老齢厚生年金が適正に支給されていない事態を掲記するとともに、これらの者に係る厚生年金保険保険料等が徴収不足となっている事態を掲記している。
そこで、就労情報の把握及び活用状況を検査したところ、受給者が適用事業所に使用されているのに、現況届に記載がないため就労情報を把握することができなかったり、社会保険事務所等において現況届による就労情報を十分に活用していなかったりしていたことから、特別支給の老齢厚生年金が適正に支給されていないとともに、厚生年金保険保険料等が徴収不足となっている事態が見受けられた。
このような事態が生じているのは、事業主又は受給者が不誠実であることにもよるが、受給者が現況届に就労状況を記載すべきことについての周知、並びに社会保険事務所等における現況届による就労情報を活用した被保険者資格取得の届出に関する周知、調査確認及び指導についての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
特別支給の老齢厚生年金の不適正支給などの事態の防止が図られるよう、受給者が現況届に就労状況を記載すべきことについて更に周知すること、社会保険事務所等において現況届による就労情報を活用した被保険者資格取得の届出に関する周知、調査確認及び指導を適切に実施することなどの処置を講ずるよう、社会保険庁長官に対し平成14年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
2 当局が講じた改善の処置
社会保険庁では、本院指摘の趣旨に沿い、15年10月に地方社会保険事務局に対して通知を発するなどし、現況届の様式を変更するなどして受給者が就労状況を記載すべきことについて更に周知するとともに、社会保険事務所等において、被保険者資格取得の届出の状況等を踏まえて適用事業所の総合調査を行うこととするなど、現況届による就労情報を活用した被保険者資格取得の届出に関する周知、調査確認及び指導を適切に実施する処置を講じた。