1 本院が要求した是正の処置
農林水産省では、平成13年9月10日に国内で初めてその発生が確認された牛海綿状脳症(以下「BSE」という。)の関連対策の一つとして、BSE検査を受けていないことを理由とする牛肉に対する消費者の不安及び市場における牛肉の滞留を解消することにより、円滑な食肉流通を確保するため、BSE全頭検査体制が執られた同年10月18日より前にと畜解体処理された国産牛肉を市場から一定期間隔離し、保管する牛肉在庫緊急保管対策事業(以下「緊急保管事業」という。)を実施することとした。そして、この事業は、農畜産業振興事業団(平成15年10月1日以降は「独立行政法人農畜産業振興機構」。以下「事業団」という。)による助成事業として全国農業協同組合連合会ほか5団体が事業主体となり実施されている。緊急保管事業の対象とする牛肉(以下「事業対象牛肉」という。)は、上記の国産牛肉の枝肉を部位別に分割した部分肉で、助成金の額は1kg当たり707円以内と定められている。この額は、冷凍・保管等に要する経費329円と冷凍したことによる商品価値の下落分(以下「冷凍格差」という。)378円の合計額となっている。
そして、国産牛肉市場における取引状況をみると、冷凍牛肉として流通するものが相当数量あるのに、すべての事業対象牛肉について冷凍格差を含めた一律の単価で助成することとされ、助成金の交付決定が行われていたことから、冷凍格差の助成がBSEの発生との関係において適切なものとなっているか検査した。その結果、冷凍時期を確認できたものの56.5%はBSEが国内で初めて確認された日よりも前に冷凍されていて、BSEの発生に対処するために冷凍されたものではないなどの事態が見受けられ、一律に冷凍格差を助成することは適切を欠くと認められた。
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、緊急保管事業の設定に当たり、国産牛肉市場での取引状況等を考慮して冷凍格差の助成対象とする牛肉の範囲を定める必要があるとの認識がないまま、事業対象牛肉のすべてに一律に冷凍格差を助成することとしたことなどによると認められた。
事業対象牛肉の全量について、速やかに合理的な冷凍時期の確認・判断方法を検討するとともに、適切な検品を行って冷凍時期を確定し、その結果により事業団に適正な助成金交付額を算定させ、これを助成金の交付に反映させるための処置を講じるよう、農林水産大臣に対し14年7月に、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求した。
2 当局が講じた是正の処置
農林水産省では、本院指摘の趣旨に沿い、15年6月までに、事業対象牛肉について、冷凍日又は部分肉への加工日、品質保持期限等に基づいて冷凍時期を確認、判断する基準を明確にし、また、事業団とともに全箱検品等を行い、事業団に対し、これらにより冷凍時期を確定させ、その結果、BSEの発生に関係なく冷凍されたと判断されたものについて、冷凍格差(助成金相当額24億7290万余円)を除いて助成金の額を算定し交付させる処置を講じた。