検査対象 | 石油公団 |
科目 | 一般勘定 |
事業の概要 | 石油及び可燃性天然ガスの探鉱・開発事業を実施する開発会社に対し、投融資により必要な資金を供給すること及び債務の保証を行うこと |
投融資等先 | 石油等の開発会社314社 |
出資累計額 | 1兆0407億円(昭和42事業年度〜平成14事業年度) |
融資累計額 | 1兆1279億円(昭和42事業年度〜平成14事業年度) |
債務保証引受累計額 | 1兆2209億円(昭和42事業年度〜平成14事業年度) |
事業損失累計額 | 1兆2865億円(昭和42事業年度〜平成14事業年度) |
1 探鉱投融資等事業の概要
我が国は、主要先進国に比ベエネルギーの石油依存度が高く、石油のほぼ全量を輸入に依存しているなど、エネルギー供給構造がぜい弱なものとなっている。
このような状況にかんがみ、昭和42年10月、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の答申に基づき、石油の自主開発を推進するため、石油公団(53年6月以前は石油開発公団。以下「公団」という。)が設立された。
石油の開発には巨額な資金を必要とするばかりでなく、商業油田の発見率は数%程度と極めて低く、商業生産への移行後にも原油価格(以下「油価」という。)や為替相場の変動の影響を受けるなど多大なリスクを伴っている。このため公団では、石油公団法(昭和42年法律第99号)等に基づき、海外等で石油及び可燃性天然ガス(以下「石油等」という。)の探鉱・開発事業を実施する会社(以下「開発会社」という。)に対する様々な財政支援を、次のように行ってきた。
ア 開発会社が探鉱を行う段階における財政支援
開発会社が探鉱を行う段階では、開発会社に対し、石油税を財源とする石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計等からの政府出資金及び開発会社からの配当金等を原資として、原則として総探鉱事業費の70%を限度として出資及び融資(以下「投融資」という。)により資金の提供を行う。また、開発会社が探鉱を行っている期間中は、石油等の生産がなく販売収入も生じないことから、探鉱期間中に支払期限が到来する貸付金利息を貸付金元本に繰り入れることができる。さらに、石油開発に伴う高いリスクにかんがみ、探鉱事業が失敗に終わった場合又は不測の事態により生産が著しく減退したなどの場合には、融資に係る開発会社の債務を減免することができる。
イ 開発会社が生産を行うための準備を進める段階における財政支援
開発会社が生産を行うための準備を進める段階では、必要な資金の調達は通常国際協力銀行と市中金融機関との協調融資を受けることによって行われ、公団は、その融資に対して原則として融資額の60%を限度として債務保証を行う(以下、この債務保証に前記の投融資を併せて「探鉱投融資等事業」という。)。
探鉱が終了して石油等の生産を開始した場合でも、油価の下落・円高の進行などにより開発会社の経営状況が悪化し、融資を受けた資金の返済原資が十分に確保できない事態が生じることがある。このような場合に貸付金元本及び利息(以下「貸付金元本等」という。)の返済を迫れば、開発会社は債務不履行に陥り、結果として貸付金元本等を回収できない可能性が高くなる。そこで、石油等の生産を継続させることにより、引き続き自主開発原油の確保を図るとともに、将来貸付金元本等を回収できる可能性を高めることを目的として、公団では、上記の事態が生じた昭和60年代以降、貸付金元本の返済猶予や利息の棚上げなどの特別措置を講じてきている。
公団が設立以来投融資等により支援を行った開発会社は、平成14事業年度末までに314社(債務保証のみによる支援を実施した10社を含む。)となっており、昭和50年代後半に投融資額が大幅に増加した結果、これらの会社に対する平成14事業年度末までの投融資累計額は計2兆1686億円(出資累計額1兆0407億円、融資累計額1兆1279億円)となっている。このうち、14事業年度末現在で投融資残高がある開発会社は82社、その残高は3956億円となっている。また、14事業年度末現在で債務保証残高がある開発会社は13社、その残高は1018億円となっている。
我が国の自主開発原油の輸入量は、このような公団の支援策もあって、公団が設立された昭和42年度の日量27万バレル(総輸入日量216万バレルの12.7%)から、平成11年度には同65万バレル(同428万バレルの15.2%)に増加した。なお、公団は、12事業年度に開発会社に対する自主開発原油の持込み義務を緩和し、石油等の需給ひっ迫時等においてのみ我が国に持ち込むことを義務付け、通常時は自主開発原油を海外で売却することを認めている。そして、14年度の自主開発原油の輸入量は、日量43万バレル(同417万バレルの10.3%)であり、これに海外向け売却分を含めた自主開発原油の引取量は日量62万バレルに上っている。
14年7月に、「石油公団法及び金属鉱業事業団法の廃止等に関する法律」(平成14年法律第93号。以下「廃止法」という。)及び「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法」(平成14年法律第94号。以下「機構法」という。)が制定、公布された。この廃止法に基づき、公団の融資業務は継続中の案件を除いて廃止され、また、出資業務の出資比率及び債務保証業務の保証比率はいずれも50%以下とすることとされた。また、公団は、廃止法の公布日から3年以内に解散することとされ、その間、探鉱投融資等事業に係る資産(以下「公団資産」という。)の管理及び処分を行うこととされた。なお、機構法に基づき公布日から1年9箇月以内に設立される独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」という。)の設立以降においては、開発会社に対する新規案件に係る出資及び債務保証業務は、機構が実施することとされた。
さらに、15年3月には、経済産業大臣の諮問を受けた総合資源エネルギー調査会の石油分科会開発部会石油公団資産評価・整理検討小委員会が、「石油公団が保有する開発関連資産の処理に関する方針」(以下「資産処理方針」という。)を取りまとめている。この資産処理方針では、エネルギーの安定供給の効率的な実現と売却資産価値の最大化を同時に追求するために、公団資産の処理を通じて、「必要な資産を選択、統合することによって、企業価値を高める形で、石油・天然ガス開発事業に携わる中核的企業の形成を促進する方法」を、公団資産の処理として適切な方策としている。そして、中核的企業については、高度な経済性分析や経営戦略立案を実行し得る経営能力と、海外でのオペレーターシップ(注1)
を効率的に遂行できるだけの高い技術力とを兼ね備える必要があるとして、公団資産のうち中核的企業を構成すべきと想定されるものには、国際石油開発株式会社、ジャパン石油開発株式会社(以下「ジャパン石油」という。)及びサハリン石油ガス開発株式会社に係る公団資産が考えられるとしている。また、中核的企業を構成するものとならない公団資産については、原則として株式公開後に売却又は入札による売却を行うことが望ましいとしている。
2 検査の背景及び着眼点
本院では、探鉱投融資等事業については、昭和51年度決算検査報告において、探鉱事業に失敗し長期間休眠状態に陥っている開発会社について、これを放置しておくことは公団の不良資産の累増を招くことになる旨を、「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記した。また、平成9年度決算検査報告において、いわゆるナショナルプロジェクト(注2) を実施するために設立されたジャパン石油等の開発会社(以下「ナショナルプロジェクト会社」という。)の経営状況及び公団の財務状況を分析し、公団の事業収入には貸付金元本に組み入れた利息や長期未収金(注3) が多くを占める状況となっていることから、開発会社の経営状況を十分見極めて的確な措置を講じる要があるなどの旨を、「特定検査対象に関する検査状況」として掲記したところである。
(注2) | ナショナルプロジェクト 石油の安定供給確保のために政府が積極的に支援した事業規模の大きな探鉱・開発事業 |
(注3) | 長期未収金 開発会社に対する融資の回収可能性を高める目的で棚上げした利息のうち、将来の回収可能性が高いと判断したものを収益計上し、同額を長期未収金として資産計上する。なお、将来的に回収可能性が低いと判断したものは収益計上せず財務諸表の注記事項としている(以下「非計上棚上利息」という。)。 |
その後、公団では、プロジェクトの評価基準の一層の定量化、開発会社の整理等、探鉱投融資等事業の実施に係る各種の改善策を実施してきたところであるが、前記のとおり、制度改正により公団が解散することとされるなど、探鉱投融資等事業については、今後その実施体制が大きく変わろうとしている。一方、同事業の円滑な実施は、エネルギーの安定的な供給を図る上で重要なものとされており、石油開発に対する国民の関心も高いものとなっている。
このような状況を踏まえ、公団が長年にわたり巨額の資金を投下して実施してきた探鉱投融資等事業の損益状況及び平成9年度決算検査報告で取り上げたナショナルプロジェクト会社の経営状況に着眼し、これらの損益状況等が公団の財務状況にどのような影響を与えているかという視点で検査した。
3 検査の状況
(1)探鉱投融資等事業の損益状況
公団の探鉱投融資等事業に係る資金の流れの概要は図1のとおりである。
図1 探鉱投融資等事業に係る資金の流れ
注(1) | 投融資額1兆9270億円及び回収額2790億円は、ジャパン石油に対する融資の出資金への振替分2416億円を控除したものである。 |
注(2) | 投融資については、このほかに為替変動等に伴う損失128億円がある。 |
注(3) | 元加利息3109億円については、回収額1309億円程度、損失額1398億円程度と推計される。 |
注(4) | その他事業収入1491億円の主なものは、債務保証料収入263億円、株式売却益204億円などである。 |
注(5) | 長期未収金については、このほかに為替変動に伴う損失2億円がある。また、ジャパン石油の民事再生法に基づく再生手続に伴い、非計上棚上利息から長期未収金へ233億円を計上したことから、貸借対照表の長期未収金残高は949億円となる。 |
注(6) | 債務保証引受累計額は1兆2209億円、代位弁済を除く債務保証解除累計額は1兆0609億円、為替変動に伴う債務保証引受額の増額分は50億円、債務保証残高は1018億円である。 |
公団が設立当初の昭和42事業年度以降投融資により支援を行った開発会社は、平成14事業年度末現在で304社となっており、支援を終了した開発会社数、支援中の開発会社数等の内訳は表1のとおりである。そして、支援を終了した227社のうち213社は石油等の開発を断念し解散するなどした開発会社であり、支援中の77社のうちにも解散準備中の開発会社が15社ある。
なお、石油等を生産中の開発会社38社のうち直近の決算において14社が繰越損失を計上している。
表1 投融資により支援を行った開発会社
(平成14事業年度末現在、単位:社)
投融資による支援を終了した開発会社 | 227 | ||
解散した開発会社 | 208 | ||
清算手続き中の開発会社 | 5 | ||
他の投融資先開発会社と合併した開発会社 | 4 | ||
支援終了後も事業活動中の開発会社 | 10 | ||
投融資により支援中の開発会社 | 77 | ||
解散準備中の開発会社 | 15 | ||
生産中の開発会社 | 38 | ||
生産準備中の開発会社 | 5 | ||
探鉱中の開発会社 | 19 | ||
投融資先開発会社累計 | 304 |
また、公団が行った投融資の累計額等の推移を示すと、図2のとおりであり、特に昭和54年に始まる第2次石油危機の前後の緊迫した石油情勢を背景に、50年代後半にナショナルプロジェクトなどの探鉱・開発事業に対して多額の投融資が行われた結果、61事業年度には投融資累計額、投融資残高ともに1兆円を超えることとなった。
図2 投融資累計等の推移
その後、大規模な探鉱・開発事業案件の減少、油価の下落及び円高傾向を背景として、毎事業年度の投融資額は以前より減少し、探鉱・開発事業が成功した開発会社からの貸付金元本等の回収が進み、また失敗した開発会社への投融資について損失処理が行われた。このため、投融資残高については、平成10事業年度まで1兆1000億円程度とほぼ横ばいの状態で推移した。しかし、11事業年度以降、事業終結に係る損失や「金融商品に係る会計基準」(平成11年企業会計審議会。以下「会計基準」という。)の規定に基づく評価損(注4) が計上されたことなどにより、損失累計額が大幅に増加するとともに投融資残高は大幅に減少した。
この結果、14事業年度末における上記の304社に対する投融資による支援状況は表2のとおり、投融資累計額2兆1686億円、回収累計額5206億円、損失累計額1兆2396億円、投融資残高3956億円となっている。しかし、上記の投融資累計額及び回収累計額には、ジャパン石油に対する特別措置として講じられた融資の出資金への振替分2416億円が含まれている。これは、油価の下落、円高傾向などから、ジャパン石油が貸付金元本等の返済を円滑に行うことが困難になったために講じられた措置であり、貸付金元本の一部を回収しその回収額を追加出資しているが、これは新規事業の資金需要に応じた出資ではない。そこで、重複分を控除して実質的な投融資累計額及び回収累計額を算定すると、それぞれ1兆9270億円及び2790億円となり、損失累計額の投融資累計額に対する比率57.1%は、実質的には64.3%となる。
表2 304社に対する投融資による支援状況
(平成14事業年度末現在、単位:億円)
区分 | 投融資累計額 | 回収累計額 | 損失累計額 (為替差損を除く) |
その他増減 | 投融資残高 |
出資 | 10,407 | △178 | △8,099 | 51 | 2,180 |
融資 | 11,279(8,863) | △5,028(△2,612) | △4,297 | △179 | 1,775 |
合計 | 21,686(19,270) | △5,206(△2,790) | △12,396 | △128 | 3,956 |
比率 | 100.0% | 24.0%(14.4%) | 57.1%(64.3%) | 0.5%(0.6%) | 18.2%(20.5%) |
公団が昭和42事業年度以降債務保証により支援を行った開発会社は、平成14事業年度末までに57社となっており、この内訳は表3のとおりである。
表3 債務保証により支援を行った開発会社
(平成14事業年度末現在、単位:社)
保証債務が消滅した開発会社 | 44 | ||
保証債務を完済した開発会社 | 41 | ||
公団が代位弁済した開発会社 | 3 | ||
債務保証により支援中の開発会社 | 13 | ||
債務保証のみ行っている開発会社 | 2 | ||
債務保証先開発会社累計 | 57 |
そして、14事業年度末現在における上記の57社に対する債務保証引受累計額、代位弁済により公団が取得した求償権等は表4のとおりである。そして、求償権631億円については、14事業年度末までに110億円が回収されているが、406億円については損失として処理されている。
表4 57社に対する債務保証引受累計額等
(平成14事業年度末現在、単位:億円)
債務保証 | 債務保証引受累計額 | 債務保証解除累計額 (代位弁済を除く) |
代位弁済累計額 | その他増減額 | 債務保証残高 |
12,209 | △10,609 | △631 | 50 | 1,018 | |
求償権 | 取得額 | 回収額 | 償却額 | その他増減額 | 求償権残高 |
631 | △110 | △406 | − | 114 |
公団の探鉱投融資等事業の実施に伴う事業収入の累計額は、14事業年度末までに8389億円となっており、この内訳は表5のとおりである。
表5 探鉱投融資等事業に係る事業収入累計額及び内訳
(平成14事業年度末現在、単位:億円)
貸付金利息 | 受取配当金 | その他 | 事業収入の累計額 | ||
利息 | 長期未収金 | ||||
4,908 | 4,099 | 809 | 1,989 | 1,491 | 8,389 |
そして、この貸付金利息の中には、長期未収金809億円及び利払資金を貸し付けた上で支払を受けた貸付金利息3109億円が含まれている。
このうち、長期未収金については、14事業年度末までに28億円が回収されているが、62億円が損失として処理されるなどして、未回収残高は715億円となっている,また、貸付金元本に組み入れた利息(以下「元加利息」という。)については、元本と、一体化して処理されることとなるため、元加利息のみに係る回収額や損失額は算定できないが、元加利息の生じた開発会社に対する融資総額とその回収額または損失額との比率から試算すると、1309億円程度が回収され、1398億円程度が損失となっていると推定される。
一方、事業損失の累計額は、14事業年度末までに1兆2865億円となっている。そして、その内訳を示すと、表6のとおりであり、出資に係る損失8099億円、融資に係る損失4297億円、求償権に係る損失406億円などとなっている。
また、ナショナルプロジェクト会社5社に係る事業損失の累計額は、14事業年度末までに6789億円に上っており、これは事業損失累計額の52.7%を占めている。
表6 探鉱投融資等事業に係る事業損失累計額及び内訳
(平成14事業年度末現在、単位:億円)
出資に係る損失 | 融資に係る損失 | 求償権に係る損失 | 長期未収金に係る損失 | 事業損失累計額 | うちナショナルプロジェクト会社に係る事業損失累計額 |
8,099 | 4,297 | 406 | 62 | 12,865 | 6,789 |
(2)ナショナルプロジェクト会社の経営状況
本院は、平成9年度決算検査報告において、ナショナルプロジェクト会社であるジャパン石油、日本インドネシア石油協力株式会社、日中石油開発株式会社、サハリン石油開発協力株式会社及び北極石油株式会社の5社の9年度までの経営状況を分析し掲記したところである。その後、公団では、各社の経営状況、財務状況等を検討し、ジャパン石油については追加の特別措置を講じるなどし、また、日中石油開発株式会社、サハリン石油開発協力株式会社及び北極石油株式会社の3社は事業を終結している。
前記のとおり、公団のこれら5社に係る事業損失累計額が多額に上っていることから、5社の10年度以降も含めた経営状況等を個別に示すと、次のとおりである。
ア ジャパン石油
ジャパン石油は、アラブ首長国連邦においてアブダビ沖合鉱区の油田開発を行う事業が昭和47年12月に公団の探鉱投融資の対象事業として採択されたことから、48年2月に設立された法人である。公団から同社への投融資累計額については、前記の特別措置として講じられた融資の出資金への振替分2416億円を融資額から控除して実質的な投融資累計額を算定すると、表7のとおり、平成14事業年度末までに4587億円に上っている。これは、開発会社の中で最も多額なものとなっていて、公団の全開発会社に対する実質的な投融資累計額1兆9270億円の23.8%に達している。そして、同社は、14年度において、自主開発原油輪入量(日量43万バレル)の約42%を輸入しており、我が国におけるエネルギーの安定的な供給を図る上で重要な役割を果たしている。
表7 ジャパン石油に対する支援総額
(平成14事業年度末現在、単位:億円)
区分 | 累計額 | ||
全開発会社 (A) |
ジャパン石油 (B) |
B/A (%) |
|
出資 | 10,407 | 3,281 | 31.5 |
融資 | 8,863 | 1,306 | 14.7 |
合計 | 19,270 | 4,587 | 23.8 |
長期未収金 | 1,042 | 848 | 81.3 |
非計上棚上利息 | 2,311 58 |
1,374 58 |
59.4 100.0 |
しかし、同社の経営は設立以来厳しい状況が継続しており、14事業年度末現在において3319億円の未処理損失がある。この要因としては、次のようなことなどがあると考えられる。
〔1〕 設立後間もない昭和49年に、アブダビ政府の参加比率が大幅に引き上げられたことから、同社の参加比率が低下し、当初見込まれていた原油の引取量が減少したこと
〔2〕 同社が権益を保有する油田からの原油の生産量が、石油輸出国機構による生産制限の影響を受け当初見込みを大きく下回ったこと
〔3〕 60年代以降の油価安・円高により、円換算した石油等売上高が大幅に減少したことに加え、借入金の多くが円建てであったため、その償還や支払利子の負担が重くなったこと
公団では、同社に対し、61事業年度以降4回にわたり、貸付金利息の棚上げや合計2416億円に上る融資の出資金への振替を含む債務超過回避等のための特別措置を実施している。一方、同社では、市中金融機関からの借入金の返済を優先してきた結果、平成12年3月に完済し、公団が行っていた債務保証は解除されている。また、同社では、10事業年度以降、公団からの借入金についても合計72億円を返済している。
しかし、同社は、アブダビ政府により、同社の主力油田の操業により得られる所得に適用される税率が18年から引き上げられることが決定されたことなどから、今後の経営はより厳しいものになることが見込まれていた。一方、同社は、前記の資産処理方針において、中核的企業を構成すべき会社の1つに挙げられている。そして、同方針においては、「恵まれた埋蔵量を有し、一定の営業キャッシュフローが見込まれながらも、債務が累積し財務状況が悪化している現状を踏まえると、民事再生手続きなどの法的手続きにより債務を速やかに整理した後に、統合することが適切である」とされている。
このような状況を踏まえ、同社は、民事再生法(平成11年法律第225号)に基づき抜本的な再建策を講じることによって会社の再生を図ることとし、15年3月、東京地方裁判所に対して、再生手続開始の申立てを行い、同月に再生手続開始が決定された。そして、公団は、同社の再生手続開始の申立てに伴い、会計基準の規定に基づき、14事業年度において、同社に対する出資金3281億円を備忘価格1円を除き評価損として損失に計上している。この金額は、前記の探鉱投融資等事業に係る公団の事業損失累計額の1兆2865億円の25.5%に上っている。
これらのことから、14事業年度末における同社に対する投融資額、長期未収金、債務保証額の残高の合計額は、表8のとおり1193億円となっており、9事業年度末と比較すると3213億円減少している。しかし、このうち長期未収金の残高は848億円に増加しており、また円建債務に係る非計上棚上利息も1141億円と9事業年度末と同程度となっている。さらに、同社の未処理損失は、10事業年度以降の5年間に約2000億円増加し、14事業年度末で3319億円に上っている。
表8 ジャパン石油に対する支援の推移等
(単位:億円)
区分 | 9事業年度末残高 | 発生額 | 回収額 | 損失額 | 為替 | 14事業年度末残高 |
出資 | 1,295 | 1,986 | − | 3,280 | − | 0 |
融資 | 2,432 | − | 2,068 | − | △18 | 345 |
長期未収金 | 617 | 233 | − | − | △1 | 848 |
債務保証 | 61 | − | 67 | − | 6 | − |
合計 | 4,406 | 2,219 | 2,135 | 3,280 | △13 | 1,193 |
非計上棚上利息 | 1,149 48 |
225 11 |
233 - |
− - |
− - |
1,141 58 |
元加利息 | 1,135 | − | − | − | − | 1,135 |
未処理損失 | 1,376 | − | − | − | − | 3,319 |
イ 日本インドネシア石油協力株式会社
日本インドネシア石油協力株式会社は、インドネシア国営石油会社が実施する油田開発事業に参加するため昭和54年9月に設立された法人であり、同年12月にこの事業が公団の探鉱投融資の対象事業として採択されている。
同社は、61年に探鉱事業1件が失敗して損失が121億円発生したこと、60年代以降の想定外の油価安・円高により円換算した石油等売上高が大幅に滅少したことから、ジャパン石油と同様に厳しい経営状況が継続している。そして、公団では、財政状態が悪化し株式の実質価額が著しく低下したとして、会計基準の規定に基づき、平成12事業年度において、同社に対する出資金293億円のうち264億円を評価損として損失に計上している。一方、同社が市中金融機関からの借入金を完済した結果、公団が行っていた債務保証は11事業年度までに解除されている。また、同社は、公団からの借入金についても、14事業年度までに全額返済している。これらのことから、14事業年度末における同社に対する投融資額及び債務保証額の残高の合計額は、表9のとおり29億円となっており、9事業年度末と比較すると398億円減少している。しかし、同社の未処理損失は、平成10事業年度以降の5年間に119億円増加し、14事業年度末で262億円に上っている。
表9 日本インドネシア石油協力株式会社に対する支援の推移等
(単位:億円)
区分 | 9事業年度末残高 | 発生額 | 回収額 | 損失額 | 14事業年度末残高 |
出資 | 293 | − | − | 264 | 29 |
融資 | 116 | − | 116 | − | − |
債務保証 | 17 | 3 | 20 | − | − |
合計 | 427 | 3 | 136 | 264 | 29 |
元加利息 | 80 | − | − | − | 80 |
未処理損失 | 143 | − | − | − | 262 |
ウ 清算結了した3社
日中石油開発株式会社、サハリン石油開発協力株式会社及び北極石油株式会社の3社については、可採埋蔵量が当初予想を下回ったこと、昭和60年代以降の油価安・円高等により、事業継続のための経済性確保の見通しが立たなかったりしたことなどから、既に事業を終結して清算を結了している。この結果、これらの3社については、表10のとおり、投融資等に係る公団の最終的な損失は3244億円(うち平成10事業年度以降発生分2922億円)に上り、前記の探鉱投融資等事業に係る公団の事業損失累計額1兆2865億円の25.2%となっている。さらに、このほかに、回収できる可能性が低いため当初から収益に計上しなかったことから損失に計上されないこととなる非計上棚上利息については、その合計額が556億円となっている。これは、経理処理上の損失にはならないが、実質的には探鉱投融資等事業のコストとも考えられる。
表10 清算結了した3社に係る損失等
(単位:億円)
区分 | 日中石油開発(株) | サハリン石油開発協力(株) | 北極石抽(株) | 合計 |
出資 | 645 (645) |
135 (135) |
292 (292) |
1,072 (1,072) |
融資 | 531 (397) |
314 (164) |
938 (938) |
1,784 (1,500) |
求償権 | 387 (350) |
− - |
− - |
387 (350) |
合計 | 1,564 (1,392) |
450 (300) |
1,230 (1,230) |
3,244 (2,922) |
非計上棚上利息 | 347 (276) |
160 (160) |
49 (49) |
556 (487) |
(3)公団の財務状況
前記の探鉱投融資等事業の損益状況及びナショナルプロジェクト会社の経営状況を公団の財務状況という観点からみると、以下のとおりである。
公団では、探鉱投融資等事業等の業務に係る経理を、一般勘定において行っている。そして、昭和42事業年度以降継続して実施してきた同事業等に係る平成14事業年度末の一般勘定の貸借対照表は表11のとおりとなっている。
表11 平成14事業年度貸借対照表(一般勘定)
(平成15年3月31日現在 単位:億円)
資産の部 | 負債及び資本の部 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
流動資産 | 797 | 流動負債 | 69 |
固定資産 | 5,376 | 固定負債 | 1,084 |
石油開発事業資産 | 4,181 | 退職給付引当金 | 44 |
出資金 | 2,180 | 資産見返交付金 | 20 |
貸付金 | 1,775 | 保証債務 | 1,018 |
長期未収金 | 949 | (負債合計) | 1,153 |
投融資関連受取権 | 56 | 資本金 | |
求償権 | 114 | 政府出資金 | 12,716 |
投融資損失引当金 | △894 | 欠損金 | △7,701 |
有形固定資産 | 99 | 資本剰余金 | 1 |
無形固定資産 | 0 | 欠損金 | △7,702 |
投資その他の資産 | 1,094 | 繰越欠損金 | △6,159 |
債務保証基金 | 67 | 当期損失金 | △1,542 |
敷金・保証金 | 9 | 評価差額金 | |
保証債務見返 | 1,018 | その他有価証券評価差額金 | 3 |
(資本合計) | 5,019 | ||
資産合計 | 6,173 | 負債・資本合計 | 6,173 |
国の石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計等から公団に出資された政府出資金は1兆2716億円(うち探鉱投融資等事業のための政府出資金は1兆2522億円)であり、これに対し、欠損金は7701億円に上っている。これは、事業終結等に伴う損失累計額1兆2865億円と事業収入累計額8389億円の差額に、投融資損失引当金894億円及び一般管理費等累計額2331億円を加えたものである。そして、資本金から欠損金を控除するなどした資本合計は5019億円となっている。
一方、固定資産の大部分を占める出資金、貸付金等の石油開発事業資産は、投融資損失引当金を控除する前の額で5076億円であり、うち投融資により支援中の77開発会社に係るものは4767億円に上っている。そして、その内訳は、ナショナルプロジェクト会社2社に係るもの1223億円、その他の生産中の36開発会社に係るもの2020億円、、生産準備中の5開発会社に係るもの527億円、探鉱中の19開発会社に係るもの852億円、解散準備中の15開発会社に係るもの143億円となっている。また、投融資損失引当金を控除した石油開発事業資産は4181億円となっている。
4 本院の所見
公団の探鉱投融資等事業の損益については、国の出資金等を財源として300社を超える開発会社に支援を行ったものの、投融資累計額の6割を超える額が損失として処理されている。また収益の中には、既にこの損失の一部となっているものと推定される元加利息及び実収に至っていない長期未収金が多額に含まれているなど、その状況は良好なものとなっていないと認められる。また、ナショナルプロジェクト会社に係る事業損失が多額に上っているなど、多くの開発会社の経営状況が厳しいものとなっている状況である。
一方、同事業については、公団内部においても業務の見直しを行ってきたところであるが、エネルギーの安定的な供給を図る上での重要性にかんがみ、実施体制の大きな変更を伴いつつ、引き続き実施すべく各方面において議論が行われているところである。
そして、公団では、資産処理方針に基づき、開発会社の株式を売却するなどして出資金の回収などを行うこととされており、解散時における一切の権利及び義務は、国及び資本の全額を国が出資する株式会社に承継されることとされている。したがって、今後は、公団において、売却資産価値の最大化を図りつつ開発会社の株式売却等の資産処理を行っていくことが、特に肝要となる。
本院としては、探鉱投融資等事業の実施体制の大きな変更を背景として今後まず実施されることとなる上記の資産処理、機構の設立、中核的企業の形成等が適正、適切に行われることが重要であることにかんがみ、資産処理等について引き続き注視していくこととする。