検査対象 | 社会保険庁 | |
会計名及び科目 | 厚生保険特別会計(業務勘定) | (項)業務取扱費 |
(項)保健事業費 | ||
(項)福祉施設事業費 | ||
船員保険特別会計 | (項)福祉事業費 | |
国民年金特別会計(業務勘定) | (項)業務取扱費 | |
(項)福祉施設費 |
社会保険オンラインシステムの概要 | 国民年金、厚生年金保険等の適用、保険料の徴収、年金の裁定及び給付等の業務を行うために専用の通信回線により接続されたコンピュータシステム |
社会保険オンラインシステムに係る経費 | 1108億円(平成16年度) |
1 社会保険オンラインシステムの概要
社会保険庁では、国民年金、厚生年金保険、政府管掌健康保険及び船員保険の適用、保険料の徴収、年金の裁定及び給付、年金相談等の業務を行っている。
そして、上記の業務を迅速かつ正確に処理し、膨大な記録を長期にわたり管理するため、社会保険庁の社会保険業務センターに設置されたホストコンピュータ等と各社会保険事務所等に設置された専用端末機を専用の通信回線により接続したシステム(以下、このシステムを「社会保険オンラインシステム」という。)を運用している。
社会保険オンラインシステムは、「年金給付システム」、「記録管理システム」及び「基礎年金番号管理システム」の3つのシステムから構成されており、その開発や運用等は、社会保険業務センターの高井戸、三鷹、三田各庁舎において行われている。
以下、3つのシステムそれぞれの概要を示すと次のとおりである。
〔1〕 年金給付システム
年金給付システムにおいては、受給権者記録の管理、年金額計算、年金の給付の業務を行っており、昭和39年度から稼働している。受給権者記録数は約3982万件(平成15年度末現在)で、主として高井戸庁舎で運用されている。
〔2〕 記録管理システム
記録管理システムにおいては、被保険者資格記録の管理、保険料計算及び納入告知書等の作成の業務を行っており、昭和55年度から稼働している。被保険者記録数は約2億5789万件(平成15年度末現在)で三鷹、三田両庁舎で運用されている。
〔3〕 基礎年金番号管理システム
基礎年金番号管理システムにおいては、生涯不変の一人一番号である基礎年金番号の付番・管理の業務を行っており、8年度から稼働している。基礎年金番号数は約1億0242万件(15年度末現在)で三鷹庁舎で運用されている。
社会保険オンラインシステムに係る経費は、厚生保険特別会計、船員保険特別会計及び国民年金特別会計がそれぞれ負担して支払っており、16年度の支払額は約1108億円(厚生保険特別会計が約949億円、船員保険特別会計が約6000万円、国民年金特別会計が約158億円)と巨額なものとなっている。
(1)社会保険オンラインシステム刷新可能性調査実施の経緯
15年7月に各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議において、「電子政府構築計画」(16年6月一部改定)が決定され、その一部として各府省におけるレガシーシステム(規模が大きく高コストでかつ特定の業者との随意契約が長期間続いている旧式システムのことをいう。)の見直しのための行動計画(アクションプログラム)が策定された。
そして、レガシーシステムの見直しに当たっては、各省庁が既存システムの効率性・経済性等についてレガシーシステム刷新可能性調査を実施することとし、その後、この調査の結果を踏まえ、システムの安全性の確保、信頼性維持に配慮しつつ、17年度末までのできるかぎり早期に、業務処理過程の見直し、業務・システムの将来像等からなる最適化計画を策定することとなっている。
社会保険庁では、レガシーシステムの一つである社会保険オンラインシステムについて、アクションプログラムに基づき、15年度より、外部の専門家による業務分析、システム分析及び評価を内容とした「社会保険オンラインシステム刷新可能性調査」(以下「刷新可能性調査」という。)を実施した。
(2)刷新可能性調査の概要
刷新可能性調査は、使用者(社会保険庁)及び利用者(被保険者、年金受給者、事業主等)の利便性を下げずに、経費総額の削減が可能か、システム刷新による方法も含めて検討し、結論を得ることを目的としている。
そして、刷新可能性調査は、その本調査のための実施計画等の策定等を内容とする予備調査と、システム刷新施策等の検討等を行う本調査とに分けて実施することとされている。
(3)刷新可能性調査を行う業者の選定
刷新可能性調査を行う業者の選定については、企画書の評価による企画競争方式とし、公募に一定の条件を付した一般公募型としている。
そして、業者の選定に当たっては、外部専門家の意見を参考に、庁内に設置した「社会保険オンラインシステム刷新検討委員会」において、応募した業者からプレゼンテーションを聴取した上で、「社会保険オンラインシステム刷新可能性調査業者審査基準」に基づき、調査内容、調査方法、調査体制等について審査を行い、決定している。
2 検査の背景及び着眼点
社会保険オンラインシステムは、その経費が巨額であることなどによりレガシーシステムの代表的なものとされており、年金制度の在り方に様々な議論がある中、システムの開発等が経済的・効率的なものとなっているかについて社会的関心の高いところとなっており、社会保険庁においても、刷新可能性調査においてシステム費用の妥当性についても検証することとし、また、前記のアクションプログラムに沿ったシステムの見直しを進めているところである。
そこで、特定の業者と長年にわたり随意契約を続けている社会保険オンラインシステムに係る契約は、経済性及び効率性を十分確保するものとなっているかに着眼し、〔1〕社会保険オンラインシステムに係る契約金額の算定方法等の状況、〔2〕刷新可能性調査におけるシステム費用の妥当性についての記述内容、〔3〕社会保険庁におけるシステムの見直しなどの状況について検査した。
3 検査の状況
(1)社会保険オンラインシステムに係る契約
前記のとおり、社会保険オンラインシステムは3つのシステムに大別されるが、社会保険庁は、「記録管理システム」については昭和55年以降、「基礎年金番号管理システム」については平成8年以降、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(昭和60年までは日本電信電話公社、63年までは日本電信電話株式会社、平成10年まではエヌ・ティ・ティ・データ通信株式会社。以下「NTTデータ」という。)とデータ通信サービス契約を締結している。
そして、社会保険庁は、「年金給付システム」について、ソフトウェアの開発委託契約を株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)と、また、ハードウェアの賃貸借契約を日立製作所及び日本電子計算機株式会社(以下「JECC」という。)と、それぞれ昭和42年以降毎年度随意契約で締結している。
ア NTTデータとのデータ通信サービス契約
データ通信サービス契約は、NTTデータが定めた「データ通信サービス契約約款」に基づき、ハードウェア、ソフトウェア、通信回線、端末設備等の各種システムサービスを社会保険庁が利用し、そのサービスの対価として使用料をNTTデータに毎月支払うものである。
そして、当該契約について、社会保険庁は、会計法(昭和22年法律第35号)第29条の12等の規定により、翌年度以降長期にわたり役務の提供を受けることのできる長期継続契約としている。
社会保険庁では、毎年度、使用料算定の基礎となる人件費単価などの基本的な事項をNTTデータと協議の上決定しており、また、ハードウェアの変更や新たなソフトウェア開発などがあるごとに契約を変更している。契約変更に当たっては、NTTデータから見積書を徴するとともに同時に提出させた見積額の根拠資料によりその詳細を確認し、見積額が妥当であると判断した場合には、同額をもって使用料の増減を行っている。
そして、使用料の内訳は以下のとおりとなっている。
〔1〕 センター設備使用料(ハードウェア使用料、ソフトウェア使用料、電力設備使用料、建物使用料)
〔2〕 事務処理機器使用料
〔3〕 通信関係設備使用料
〔4〕 通信回線使用料
(ア)ソフトウェア使用料の算定について
ソフトウェア開発費は巨額に上ることから、原則として10年間で分割して毎月のソフトウェア使用料として支払うこととされており、その月額使用料は、個々のソフトウェア開発ごとに、次のように算定されている。
月額使用料=(稼働人数×人件費単価+物品費+諸掛費)×年経費率/12
稼働人数=開発規模/開発効率 |
(注)
開発規模はソフトウェアの規模であり、通常プログラムの行数(ステップ数)で表される。開発効率はシステムエンジニアなどの1人月当たりの作業可能ステップ数である。なお、本件契約においては、開発効率は設計、製造及び試験の各工程ごとに設定され、稼働人数もそれぞれの工程ごとに算出したものを合算している。
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この月額使用料の算定について検査したところ、以下のように、開発規模、開発効率、人件費単価等の妥当性について事後の検証が行われていないなどの事態が見受けられた。
a 開発規模について
開発規模については、ソフトウェアの開発着手前にNTTデータがその規模の見積りを行い、その結果について社会保険庁において「類似システム比較法(注1)
」により検証し、開発途中で機能の追加等の変更がない限り、これを開発規模としている。
この「類似システム比較法」による検証は客観的な評価が難しく、適用範囲にも制約があるとされているが、社会保険庁では、ソースプログラム(プログラム言語を用いて記述された、人間が理解することのできるプログラム)を入手するなどしておらず、開発規模の妥当性について、事後的な検証を行っていなかった。
b 開発効率及び稼働人数について
開発効率について、社会保険庁は、前年度の実績値を踏まえNTTデータと協議の上、設定したとしている。しかし、社会保険庁は、開発に従事した技術者の作業日報等の提出を受けていないため、個々のソフトウェア開発に従事した人数及びその作業時間の実績を把握しておらず、開発効率及び稼働人数の妥当性について、事後的な検証を行っていなかった。なお、システムの大規模な基盤整備が行われた平成13年1月以降、開発効率の数値は変更されていない。
c 人件費単価について
人件費単価について、社会保険庁は、一般に公表されている積算参考資料を基に、設計、製造及び試験の各工程ごとに、従事する技術者を想定して工程別の単価を設定している。そして、社会保険庁は、各工程に投入された稼働人数の前年度実績の比率から工程別単価の加重平均を求め、これに管理費等相当額を加算し、賃金上昇率等を加味して算定した単価を基に、NTTデータと協議して人件費単価を設定したとしている。
しかし、上記の加重平均を求めるに当たって用いられた各工程に投入された稼働人数については、前年度実績によっているとしているが、これは、実際には見積りによる稼働人数であって、実績に基づく人数ではない。そして、社会保険庁では前記のとおり作業日報等の提出を受けていないため、ソフトウェア開発に従事した技術者の種別(システムエンジニア、プログラマなど)、ランク及びその作業時間の実績を把握しておらず、人件費単価算定の基となる稼働人数等が妥当なものであるか検証していなかった。
d 諸掛費について
諸掛費は、研究開発費や販売管理費等であり、人件費と物品費の合計額に一定の率を乗じて算出されている。
しかし、諸掛費の算出に用いた率の根拠が明らかでなく、社会保険庁は、その妥当性について検証していなかった。
また、前記のとおり、人件費単価は積算参考資料を基に設定されているが、積算参考資料に掲載されている人件費単価は、諸経費(契約内容によって条件が異なる旅費等の費用を除く。)を含むものである。
したがって、経費等が重複して計上されることのないよう、その内容について慎重に検討する要があると認められた。
e 年経費率について
年経費率は、ソフトウェア開発費を原則として10年間の分割払で支払うこととして、NTTデータと協議の上、毎年度決定されており、その12年度から16年度までの推移は以下のとおりとなっていた。
区分 | 12年度 | 13年度 | 14年度 | 15年度 | 16年度 |
年経費率 | 0.1414 | 0.1404 | 0.1383 | 0.1363 | 0.1352 |
年経費率は、減価償却費率、維持運営費率、公正報酬率及び利子相当額率により構成されている。
このうち、維持運営費率は、ソフトウェアに対する運用対応(故障調査、修理等)の経費率で、日本電信電話公社当時から設定されていたもので、その後、システム規模の拡大による維持管理経費の増大のため、11年度に率を見直しているが、それ以降事実上見直しはされておらず、その妥当性も検証されていなかった。
そして、公正報酬率は、ソフトウェア作成に係るNTTデータの利益率で、日本電信電話公社当時に設定されたものであるが、その当時から料率は事実上変更されておらず、その妥当性も検証されていなかった。
利子相当額率は、直近2年分の長期プライムレートを加重平均したものであるが、ソフトウェア使用料の算出において利子相当額が本来負担すべき額を超えている事態があり、これについては「第3章 個別の検査結果」
に意見を表示し又は処置を要求した事項として掲記した。
(イ)ハードウェア使用料の算定について
a ハードウェア使用料の算定方法
ハードウェアについては、業務量及び費用対効果を考慮して、必要な更改、増設、撤去等を行っている。これに伴い、ハードウェア使用料は、「データ通信サービス契約約款」に基づく契約変更の手続により改定されていて、増設される機器がある場合は増額して、また、撤去される機器がある場合は減額してそれぞれ算定されている。
そして、社会保険庁は、増設した機器の使用料については、NTTデータから見積書と価格証明書を提出させ、見積書の価格がJECCレンタル価格(注2)
等から一定の率で割引されていることを確認して契約しているとしている。
しかし、JECCレンタル価格は、各コンピュータメーカーが独自に決定した価格をJECCに届け出たもので、希望賃貸料の性格を有しているものであり、また、割引率については一定の相場があるものではない。機器の構成等が異なることから、他のシステムの割引率等をそのままあてはめることはできないが、市場の動向等も踏まえ、今後更に経済的・効率的な調達となるよう割引率の引上げなどについて交渉を続けるなどの努力が必要である。
b 契約外のハードウェア
社会保険庁は、上記のように機器の更改、増設等があった場合は、契約変更の手続を行い、当該変更を踏まえたハードウェア使用料を支払うことになるが、記録管理システムに使用しているハードウェアの中には、データ通信サービス契約の対象とはなっておらず、無償で使用している機器があった。また、契約している機種と異なる機器を使用しているものも一部見受けられた(表1参照) 。
このように、契約の対象となっていない機器があることや契約と異なる機種を使用していることは社会保険庁も認識しており、これらの機器については、システムの維持に必要なためNTTデータが自らの負担で設置しているとのことである。
しかし、システムを運用する上で必要な機器であれば、有償無償を問わず契約に含めるなどし、システム全体として管理する必要がある。
(ウ)建物使用料について
建物使用料は、社会保険業務センターの三鷹、三田両庁舎が、NTTデータの所有する建物の中にあるため、これらの借上げに係る賃借料として支払っているものであり、16年度における使用料は三鷹庁舎が15億9368万余円、三田庁舎が1億6073万余円となっている。
なお、建物使用料については、17年度からデータ通信サービス契約から切り離し、別途賃貸借契約を締結しているが、それに伴い、契約面積、月額単価を見直したため、年間の使用料が16年度に比べてそれぞれ4億3688万余円、1989万余円減少している。
イ 日立製作所とのソフトウェア開発契約
社会保険庁は、年金給付システムのソフトウェアの開発について、毎年度、日立製作所とソフトウェア開発ごとに、そのシステム設計業務、プログラム作成業務及び総合テスト業務に係る委託契約を締結している。
そして、契約の締結に当たっては、14年度以降、次のように予定価格を算定している。
この予定価格の算定について検査したところ、以下のように、開発規模、人件費単価等の妥当性について事後の検証が行われていないなどの事態が見受けられた。
(ア)開発規模、開発効率及び稼働人数について
開発規模の妥当性についての事後的な検証がされていないなど、前記ア(ア)a及びbと同様の状況となっていた。
(イ)人件費単価について
人件費単価について、社会保険庁では、一般に公表されている積算参考資料を基に、設計、製造及び試験の各工程ごとに、従事する技術者を想定して工程別の単価を設定している。
しかし、社会保険庁では、作業日報等の提出を受けていないため、ソフトウェア開発に従事した技術者の種別、ランク及びその作業時間の実績を把握していなかった。
(ウ)諸経費率について
諸経費率については、14、15両年度は10%、16年度は15%となっている。社会保険庁は、14年度から諸経費率を計上しているが、これは、人件費単価の基としている積算参考資料の単価が技術者数300人程度までの企業を対象としたものであることから、契約の相手方である日立製作所の規模を勘案したものであるとしている。そして、16年度に更に5%上乗せしたのは保険料の増を考慮したためとしている。
しかし、諸経費は一般管理費などの経費であり、会社規模の違いによる人件費相当額の増加分について諸経費として算定するのは、予定価格の算定方法として適切とは認められない。また、諸経費率に更に5%を上乗せする根拠も十分なものとは認められない。
ウ 日立製作所及びJECCとのハードウェア賃貸借契約
社会保険庁は、年金給付システムのハードウェアについて、昭和42年以降毎年度、原則として中央処理装置等のホスト系機器はJECCと、VDT端末などの端末系機器は日立製作所とそれぞれ賃貸借契約を締結している。
そして、その契約に当たっては、年度当初に、月ごとに導入する機器や撤去する機器などを定めた電子計算機組織改善実行計画を作成し、見積書及び価格証明書の提出を受け、それらを基に予定価格を積算している。
社会保険庁は、この予定価格について、JECCレンタル価格(JECCレンタル価格の設定のない機器については価格証明書の価格)に一定の割引率を乗じて算定したとしている。この割引率は、従来JECCレンタル価格をそのまま予定価格としていたものを、日立製作所及びJECCと交渉した結果設定されたものであるとのことであるが、前記ア(イ)aと同様に、今後更に経済的・効率的な調達となるよう割引率の引上げなどについて交渉を続けるなどの努力が必要である。
(2)刷新可能性調査
刷新可能性調査について、社会保険庁は、前記の公募及び審査の結果、アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス株式会社(以下「受託業者」という。)と、予備調査の業務委託契約を平成15年12月に契約額2100万円で、本調査の業務委託契約を16年4月に契約額5億6744万余円でそれぞれ締結し、調査を実施している。
予備調査は16年1月から3月まで実施され、同月に予備調査報告書及び本調査提案書が提出された。そして、本調査は、予備調査で得られた知見に基づいて決定した調査方法、実施計画等に従い16年4月から17年2月まで実施され、16年7月、10月、17年1月及び2月に受託業者から経過報告が行われ、17月3月に最終報告書(以下「報告書」という。)が提出された。
報告書の内容は以下のとおりとなっている。
〔1〕業務の効率性・合理性の分析、〔2〕システム構成の効率性・合理性の分析、〔3〕費用算定方法等の妥当性の分析、〔4〕安全性・信頼性の確保、〔5〕業務刷新の方向性、〔6〕システム刷新の方向性、〔7〕情報技術動向及び先進事例調査、〔8〕新しいシステムの提案、〔9〕業務・システム刷新を支える仕組みの提案
このうち、「費用算定方法等の妥当性の分析」では、現行のシステム費用の妥当性並びに今後のシステム刷新を見据えた契約内容及び著作権等についての調査結果と課題が記載されており、システム費用に一部課題があるものの、おおむね妥当であるとされているが、その内容についてみると、次のとおり、受託業者として実施可能な範囲で行われた概括的な調査となっていた。
ア SIサービスに係る費用の妥当性評価
データ通信サービス契約等の契約書等には具体的な作業内容は明記されていないが、ハードウェア費用及びソフトウェア費用にはNTTデータ等が付帯的に実施しているSIサービス(中長期計画策定支援などシステムを開発・運用していく上で必要な高度な専門性を要する作業。SIはシステムインテグレーションの略)に係る費用が含まれている。これは標準的なハードウェア費用及びソフトウェア費用には含まれないため、報告書では、SIサービスに係る費用をハードウェア費用及びソフトウェア費用から分離し、別途評価している。
そして、受託業者は、NTTデータ及び日立製作所に対してSIサービスに係る人件費単価について書面調査を行って把握し、受託業者における実績値にコンピュータ専門誌の記事の人件費単価に関する情報を加味して決定した価格を市場価格としてこれと比較し、いずれも市場価格の範囲内で調達しているとしておおむね妥当としている。
このように、SIサービスに係る人件費単価は、受託業者が根拠資料の調査により確認したものではなく、NTTデータ及び日立製作所に対する書面調査により把握したものであった。
イ ハードウェア費用の妥当性評価
ハードウェア費用の妥当性について、報告書では、調達価格が標準価格より安価であるかどうか評価するとしており、その標準価格としてJECCレンタル価格を用いている。
そして、報告書では、調達価格について、JECCレンタル価格から値引きされて決定されていることからおおむね妥当としているが、報告書でも触れられているとおり、JECCレンタル価格はコンピュータメーカーが独自に決定した価格であり、契約に当たっては、この価格から値引きされることが通常であると考えられる。
また、社会保険オンラインシステムで設置されているすべてのハードウェアについてJECCレンタル価格が設定されているわけではなく、その設定のない端末機器などのハードウェアについては費用の妥当性評価が実施されていない。特に、窓口装置等の一部の端末機器については、社会保険庁の説明によれば、市場で流通している機器に一定の改造を施したものであるので、市場価格と比較することも可能であったのではないかと考えられる。なお、報告書によると、15年度においてハードウェア費用に占める端末機器に係る費用の割合はおよそ25%となっている。
ウ ソフトウェア費用の妥当性評価
報告書では、ソフトウェア費用の妥当性を、〔1〕開発工数の妥当性、〔2〕開発単価の妥当性及び〔3〕開発規模評価の実施の有無の3点から評価している。
そして、開発単価の評価に当たっては、NTTデータ及び日立製作所から見積書の提示を受け、その人件費単価について市場価格と比較している。
評価の結果、開発工数については妥当としており、また、開発単価についてはNTTデータの単価が標準価格帯よりやや高いとし、日立製作所の単価については妥当としている。また、開発規模評価については実施しているが、客観的な指標では実施していないとしている。
しかし、NTTデータに係るソフトウェア費用には、人件費のほか、諸掛費等や前述の維持運営費、公正報酬及び利子相当額が含まれているが、これらについては妥当性評価が行われていない。なお、これらの経費がNTTデータに係るソフトウェア費用全体に占める割合は、16年度契約分においておよそ30%となっている。また、開発工数の妥当性の評価に当たって、その前提となる開発規模については、前記のとおり客観的な指標では評価されていないとしつつ、NTTデータ及び日立製作所が見積もった開発規模を所与のものとしており、この見積りが妥当であったかどうかについて、ソースプログラムを入手するなどしての検証は行われていないところである。
エ その他の費用の妥当性評価
その他の費用のうち、施設費については、報告書では、三鷹、三田両庁舎の建物使用料を対象として妥当性評価を実施しており、施設費の総システム費用に占める割合が低いことから、契約内容の明確さを確認するとしている。そして、報告書では、調査の結果、建物使用料の明細には、各階の部屋単位に面積・使用料が明記されており、不明確な点がなく妥当であるとしているが、建物使用料の明細に面積、単価が記載されるのは極めて通常のことであり、費用水準の妥当性を評価したものではないと考えられる。
(3)社会保険庁におけるシステムの見直しなどの状況
社会保険庁では、国会等において社会保険オンラインシステムに対する様々な問題点が指摘されたことなどから、次のように、システムの見直しなどを行っている。
ア 16年11月に庁内にシステム検証委員会を設置し、専門知識を有する民間スタッフの参画を得て、事前にシステム開発の必要性を検証し、また、開発規模の妥当性については事前及び事後の検証を行い、価格の妥当性についても検証を行うこととしている。
イ 開発規模の検証については、16年度末から「類似システム比較法」に加えて、異なる観点から評価するためにソフトウェアの持つ機能の数を基に、そのソフトウェアの規模を測定する「ファンクションポイント法」による評価も併せて実施している。
ウ 17年度のシステム開発契約から、作業日報等を個人が識別される形で提出させることとしており、開発規模等の妥当性等を検証するとともに、開発作業の進ちょく管理を行っている。
エ システム機器の更改又は増設等について、システム検証委員会に諮ることとし、システム機器調達等の必要性、妥当性について事前に検証を行っている。
オ 「電子政府構築計画」に基づき、「社会保険業務に係る業務・システムの見直し方針」を17年6月に定めた。この方針では、厚生労働省は、刷新可能性調査結果を踏まえ、社会保険業務に係る業務・システムについて必要な見直しを行い、本見直し方針に沿って、その最適化に取り組むこととなっている。
社会保険庁では、この見直しにおいて、主に次のようにシステムを刷新することにより経費の削減を図ることとしている。
(ア)メインフレームについて、移行リスク、移行コスト及び運用経費削減効果について十分な検討と評価を行った上で、可能な限り国際標準又は業界標準を採用したオープンシステムの採用を目指す。そして、社会保険事務所等に設置している専用端末及びプリンターについて極力専用機から汎用機へ更改する。
(イ)3箇所で分散運用しているセンター機能のうち、三鷹、三田両庁舎の機能を統合し、運用効率の向上を図るとともに、システム資源の節約、建物使用料の圧縮を図る。
(ウ)システムの調達については、随意契約を見直し、原則として一般競争入札により調達を行い、ハードウェアとソフトウェアの分離調達を図るとともに国庫債務負担行為の活用について検討する。また、調達の際には、社会保険庁内のシステム検証委員会、並びに調達委員会において、調達手続や調達内容に関して説明性・透明性が確保されているか審議を行う。
そして、社会保険オンラインシステムの刷新については、現行のシステムが大規模であることから段階的に実施する必要があり、このため、当面5年間(18年度から22年度まで)で実施可能な最適化計画を策定することとしている。
また、年金給付システムについては年金制度改正による大規模な修正が見込まれていることから、記録管理システム及び基礎年金番号管理システムのオープン化を先行して実施することとしている。
4 本院の所見
社会保険庁では、社会保険業務を迅速かつ的確に運営するために、多額の予算を投じて、社会保険オンラインシステムを整備してきている。そして、今後レガシーシステムの見直しによるシステムの刷新が見込まれるが、そうした中、社会保険庁においては、社会保険オンラインシステムに係る予算の経済的・効率的な執行が強く求められている。
したがって、社会保険オンラインシステムを運用する社会保険庁では、次のような点に留意することが必要と考えられる。
ア ソフトウェア使用料等の算定に当たり、開発規模の事前及び事後の検証に努めるとともに、ソフトウェア開発に係る稼働人数等の的確な把握と検証に努め、適切な人件費単価及び経費等を設定することによって経済的・効率的な調達を行うこと
イ ハードウェア使用料については、市場の動向等も踏まえ、更に経済的・効率的な調達となるよう努めること。なお、いわゆる契約外のハードウェアについては、システムを運用する上で必要な機器であれば、有償無償を問わず契約に含めることにより、システム全体として管理すること
ウ 刷新可能性調査においては、システム費用の妥当性について、おおむね妥当である旨の結果が得られたとしているところではあるが、前記のとおり、必ずしもシステム費用のすべてについて検証したものではないなど概括的なものと考えられることから、これを踏まえ、今後ともソフトウェア使用料、ハードウェア使用料等を含めたシステム費用全体の節減を図るよう努めること