要請を受諾した年月日
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平成17年6月8日
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検査の対象
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外務省、国際協力銀行、独立行政法人国際協力機構
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検査の内容
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政府開発援助(ODA)についての検査要請事項
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報告を行った年月日
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平成18年9月21日
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会計検査院は、平成17年6月8日、参議院から、下記事項について会計検査を行い、その結果を報告することを求める要請を受けた。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一)検査の対象
外務省、独立行政法人国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)
(二)検査の内容
政府開発援助(ODA)についての次の各事項
1 開発コンサルタント、NPO等への委託契約の状況について
特に
・対コスタリカODAにおける株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)に係る不祥事の概要、同種事案の有無
・外務省、JICA及びJBICのPCI等日本の開発コンサルタント会社に対する事務・業務の委託契約の状況
2 草の根・人間の安全保障無償援助の実施状況について
3 スマトラ沖地震の緊急援助の実施状況について
参議院決算委員会は、17年6月7日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成15年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、上記検査の要請に関する項目の内容は、以下のとおりである。
12 ODAにおける不正事案について
昨年9月、コスタリカへのODA事業「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」で、同国政府機関「国土地理院」への再委託料として(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)に支払われた約231,000ドル(約2,500万円)のうち、コスタリカ側に支払われた約59,000ドルを除いた約172,000ドル(約1,800万円)が政府機関の口座に入金されないまま使途不明になっていることが、独立行政法人国際協力機構(JICA)の調査で明らかになった。JICAは、「不正又は不誠実な行為」があったとして、同年12月、指名停止6か月の処分を行った。なお、PCIは、コスタリカ側に支払われた約59,000ドルを除いた約172,000ドル(プラス利息分)を今年1月JICAに返還した。
上記事案を受けてJICAは、PCIが過去5年間に受注した類似の案件について調査を実施し、本委員会においてその結果を聴取した。それによれば、調査の結果4か国4案件において実態と異なる再委託契約を行いJICAに対して不正な請求を行っていたことが新たに判明したことを踏まえて、JICAはPCIに対して新たに9か月の指名停止措置をとり、不正請求額合計1,527万円相当及び利息分の返還を請求した。
ODAの実施に際して、再度開発コンサルタント会社の不祥事が起きることのないよう、外務省は、再発防止のためにより透明性の高い事業を遂行するように指導監督すべきであり、またJICAは、再委託契約手続の各段階を見直して、再委託先に関する情報のJICA在外事務所への報告の徹底、入札時の同事務所員による立会いの励行、再委託契約にかかわるすべての会計書類のJICAへの提出、JICA在外事務所が設置されていない地域への現地調査団派遣など監督体制強化の措置を講ずべきである。
PCIを始めとするODAに関するコンサルタント会社への委託業務についての会計検査については、過去に不正事案がなかったかなどの実態を十分に調査した上、実施すべきである。
13 草の根・人間の安全保障無償について
グローバル化が急進する中、感染症、環境問題といった国境を超える問題が世界中で広がっている。また、多発する地域紛争や経済的な要因により、難民や国内避難民などの非自発的な人の移動が大きな問題となっている。こうした問題を克服するためには、人間の生存、生活、尊厳を直接に脅かす深刻かつ広範な脅威から人々を保護し、個人やコミュニティが自立するための能力を育成することが必要である。これが「人間の安全保障」の考え方であり、我が国は、人間の安全保障分野における取組を推し進めるために、1999年3月国連に「人間の安全保障基金」を設置し、積極的に支援を行ってきた。
平成15年度予算から、開発途上国の現地住民に直接裨益するきめ細かな援助として高い評価を得てきている草の根無償資金協力(平成14年度予算100億円)に、人間の安全保障の考えをより強く反映させ、「草の根・人間の安全保障無償」として、主にNGOを被供与団体とし、迅速な実施が求められる緊急の支援にも対応していくこととした(平成15年度草の根・人間の安全保障無償資金協力予算150億円)。
供与限度額の原則1,000万円以下は草の根無償資金協力時と変更はないが、最大供与額を従来の5,000万円から1億円に引き上げた。
政府は、15年度から実施した「草の根・人間の安全保障無償」について、それまでの草の根無償と比較して、その意義、効果等について調査・検討する必要がある。
15 スマトラ沖地震に対する緊急援助の実施状況について
昨年末に発生したスマトラ沖地震及びインド洋津波被害に関し、我が国は5億ドルを限度とする協力を関係国及び国際機関等に対して無償で供与することを決定した。このうちの半分の2億5,000万ドルはユニセフ、世界食糧基金等の国際機関経由で、残りの2億5,000万ドルはインドネシア、スリランカ等の被災国に直接送金されている。しかし、後者の二国間供与分については、資金が相手側に届いているにもかかわらず、調達がまだ実施されていない部分がある。
政府は、今後の緊急支援においてその趣旨が生かされないというものがないよう、スマトラ沖地震に関し緊急支援として供与した援助について、その実施状況を調査する必要がある。
ア 検査の対象及び着眼点
本院は、開発コンサルタント会社、特定非営利活動法人(Non Profit Organization。以下「NPO」という。)等(以下、これらを総称して「コンサルタント」という。)への委託契約の状況について、我が国の援助実施機関である外務省、国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation。以下「JBIC」という。)及び独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency。以下「JICA」という。)が、12年度から16年度までの5年間にコンサルタントと締結した事務・業務の委託契約を対象として検査した。
JICAがコスタリカ共和国(以下「コスタリカ」という。)で実施した開発調査「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」において、JICAが株式会社パシフィックコンサルタンツインターナショナル(以下「PCI」という。)と締結した委託契約に係る業務の一部の再委託契約の実施に関し不祥事が発覚した。この不祥事は、PCIがコスタリカ国土地理院と締結した再委託契約に係る経費の一部が使途不明となったというものである。本院は、このことを踏まえ、JICAに対して事実関係及び現地における調査の結果について説明を求めるとともに、委託契約及び精算の適否に着眼して検査した。
また、同種事案の有無については、JICA及びJBIC(以下「JICA等」という。)がPCIと締結した委託契約のうち、現地で再委託契約が締結されているもののすべてを対象とし、現地における調査をJICA等に求めるとともに、委託契約及び精算の適否に着眼して検査した。さらに、PCI以外のコンサルタントと締結した契約についても、PCIに対すると同様の現地における調査を行うようJICA等に求めた。JICA等はこれを受けて、現地で再委託契約が締結された委託契約の中から、契約年度、業務が実施された国における在外事務所の有無、委託契約の相手方であるコンサルタント、再委託された契約金額等を考慮した96契約を対象として、現地における調査等を行うこととした。そして、本院は、これらの96契約を対象として検査した。
イ 検査の方法
本院は、我が国の援助実施機関がコンサルタントと締結した委託契約の状況について、各援助実施機関から決算書等の関係書類に基づき業務実施等に関する説明を聴取した。また、対コスタリカODAにおけるPCIに係る不祥事や同種事案の有無については、JICA等から委託契約書、PCIから提出された再委託契約書、領収書、成果品等関係する証憑の提示を受けるなどして国内での書類審査の状況を聴取するとともに、JICA等に対し現地での再委託先に対する調査を実施するよう求めた。
また、PCIに対しては、本社に赴き、社員から社内の会計処理について関係書類に基づき説明を聴取し、また、同社が保存している本件「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」に関する銀行の出入金の記録等の証憑を精査するなどして検査を実施した。
さらに、会計検査院は、コスタリカに職員を派遣し、協力が得られた範囲で、再委託先等の関係者から事情を聴取するとともに、関係書類を確認している。
なお、本件事案の検査の過程において、外務本省、JBIC本店、JICA本部等に対する会計実地検査及びコスタリカにおける現地調査に要した人日数は41.2人日である。
ア コンサルタントへの委託契約の概要
我が国の援助実施機関が委託契約を締結しているコンサルタントには、開発コンサルタント会社のほかに、財団法人、社団法人、NPO、国立大学法人、個人等が含まれている。
援助実施機関ごとの委託契約の状況は、表1のとおりとなっている。
表1 援助実施機関ごとの委託契約状況表
(単位:件、百万円)
年度
|
外務省
|
JBIC
|
JICA
|
|||
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
|
12
|
21
|
230
|
141
|
3,406
|
890
|
33,976
|
13
|
31
|
343
|
123
|
3,667
|
914
|
32,220
|
14
|
11
|
98
|
201
|
4,873
|
861
|
29,182
|
15
|
24
|
391
|
260
|
5,326
|
964
|
29,038
|
16
|
18
|
315
|
191
|
3,206
|
1,173
|
26,380
|
計
|
105
|
1,380
|
916
|
20,480
|
4,802
|
150,798
|
表1に示した委託契約の状況を、〔1〕開発コンサルタント会社、財団法人及び社団法人並びに〔2〕NPO、国立大学法人、個人等のコンサルタントの態様別に示すと、表2のとおりとなっている。
表2 コンサルタント態様別の委託契約状況表
(単位:件、百万円)
年度
|
外務省
|
JBIC
|
JICA
|
|||||||||
〔1〕開発コンサルタント会社等
|
〔2〕NPO等
|
〔1〕開発コンサルタント会社等
|
〔2〕NPO等
|
〔1〕開発コンサルタント会社等
|
〔2〕NPO等
|
|||||||
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
|
12
|
19
|
212
|
2
|
18
|
126
|
3,180
|
15
|
225
|
869
|
33,891
|
21
|
84
|
13
|
30
|
313
|
1
|
29
|
106
|
3,418
|
17
|
248
|
884
|
31,682
|
30
|
537
|
14
|
8
|
77
|
3
|
21
|
167
|
4,287
|
34
|
586
|
826
|
28,783
|
35
|
398
|
15
|
23
|
384
|
1
|
6
|
222
|
4,853
|
38
|
473
|
929
|
28,441
|
35
|
597
|
16
|
15
|
286
|
3
|
29
|
151
|
2,792
|
40
|
414
|
1,096
|
25,574
|
77
|
806
|
計
|
95
|
1,275
|
10
|
105
|
772
|
18,533
|
144
|
1,947
|
4,604
|
148,374
|
198
|
2,424
|
また、表2のコンサルタント態様別の委託契約のうち、〔1〕の開発コンサルタント会社等として示したものの中で契約の相手方がPCIであるものは、表3のとおりとなっている。
表3 契約の相手方がPCIであるもの
(単位:件、百万円)
年度
|
外務省
|
JBIC
|
JICA
|
|||
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
件数
|
金額
|
|
12
|
—
|
—
|
5
|
245
|
71
|
4,755
|
13
|
3
|
28
|
10
|
391
|
74
|
4,537
|
14
|
—
|
—
|
8
|
526
|
62
|
5,055
|
15
|
2
|
21
|
12
|
517
|
79
|
4,830
|
16
|
—
|
—
|
10
|
119
|
53
|
3,077
|
計
|
5
|
50
|
45
|
1,800
|
339
|
22,256
|
イ 対コスタリカODAにおけるPCIに係る不祥事の概要、同種事案の有無
(ア)「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」におけるJICAとPCIの契約及び精算
JICAは、「テンピスケ川中流域農業総合開発計画」の実施に当たり、PCIと業務実施契約を締結していた。そして、PCIは、12年10月から14年10月までの間に本件調査を実施し、JICAに対して各年度ごとに精算報告書を提出していた。これによれば、精算金額は計419,349,000円でこのうち再委託分は計34,537,000円となっていた。
上記の再委託契約に係る精算金額計34,537,000円のうち、PCIがコスタリカ公共事業運輸省の付属機関である国土地理院(Instituto Geografico Nacional。以下「IGN」という。)と再委託契約を締結した地形図作成及び測量業務は、計26,213,000円となっていた。
当該再委託契約について、PCIは、計231,067米ドルの精算報告書に領収書等を添付し、同額をIGNに支払ったとして精算していた。
しかし、実際は、上記の再委託契約は、計49,047米ドルが水増しされたものであり、精算のためにJICAに提出していた再委託契約書及び領収書は、PCI側が偽造したものであった。
一方、IGN公金口座へのPCI側からの入金額は、計18,960,930コロンとなっており、これを米貨に換算すると58,613.31米ドルになるという説明を現地で聴取した。しかし、それ以外にPCIからIGNに支払われた額については確認できていない。
JICAは、PCIに支払っていた金額とIGN公金口座に実際に入金されていた金額との差額である不正請求額計19,589,455円及び利息分等の返還を請求し、17年1月までにPCIから27,238,113円を返還させた。
(イ)参議院決算委員会に既に報告されているPCIとの契約における同種事案
JICAによる調査の結果、PCIとの契約において、4箇国(注1)
4案件について、JICAに提出されていた再委託契約書の額よりも少額の再委託契約書が存在していたり、JICAに提出されていた再委託契約書、領収書等に記載のある再委託先が架空のものであったりなどしていて、適正を欠く行為があったことが判明した。
JICAは、PCIに対し、不正請求額計15,361,089円及び利息分等の返還を請求し、17年9月までにPCIから21,303,740円を返還させた。
(ウ)JICAにおける再発防止策
JICAは、17年1月に、「コンサルタント契約の現地再委託業務に係る事故防止策について」と題する文書をコンサルタントに発した。さらに、同様の事案が発生することを防止するために、事後チェックの強化と事前手続の合理化、効率化等の面から手続の見直しを行い、17年12月に「コンサルタント等契約における現地再委託契約手続きガイドライン」を制定し、18年1月16日以降に業務実施契約を締結する案件から適用することとした。
(エ)国会からの検査要請後に新たに判明した同種事案
a JICAとPCIの契約に係る同種事案
本院は、JICAがPCIと締結した契約のうち、再委託契約が締結されているものすべてを対象として、JICAに対し、調査を実施し、その結果を報告するよう求めた。
その結果、新たに11箇国13案件に係る再委託契約36件について、JICAに提出されていた再委託契約書の額よりも少額の再委託契約書が存在していたり、JICAに提出されていた再委託契約書に記載された再委託先と契約が締結されていなかったりしていて、経理処理や精算手続が事実と異なり適切でなかったものがあった。
今後、JICAは、PCIが実施した業務の内容、証憑等の精査を引き続き行い、返還請求の要否の検討及びその額の確定をすることにしている。
本院としては、それらの精査が終了した段階で、その報告を受け検査を引き続き実施する。
b 外務省及びJBICとPCIの契約に係る同種事案
本院は、外務省が12年度から16年度までの過去5年間にPCIと締結したすべての委託契約を対象として検査したところ、PCIが再委託契約を締結していたものはなかった。
また、本院は、JBICに対し、JBICが12年度から16年度までの過去5年間にPCIと締結したすべての委託契約を対象として、JBICが保存していた精算報告書により再委託契約の有無の確認を調査するよう求めたところ、PCIが再委託契約を締結していたものが、5箇国6案件において見受けられた。
本院は、これらについて、JBICに対し、調査を実施し、その結果を報告するよう求めた。その結果、インドネシア共和国の2案件について、JBICに提出されていた再委託契約書の額よりも少額の再委託契約書が存在していて、経理処理や精算手続が事実と異なり適切でなかったことが判明した。JBICは、過大に支払われた額4,711,892円及び利息分等の返還を請求し、18年8月までにPCIから5,707,084円を返還させた。
c JICA等とPCI以外のコンサルタントの契約
本院は、PCI以外のコンサルタントとの委託契約についても同様に、再委託契約を含むものについて調査を実施するようJICA等に求めた。
JICAは、19案件31契約について、調査を実施した。それに加えて、JICAが上記調査の対象とした案件に係るコンサルタント各社に対して、その他の案件についても自ら調査を行い、その結果をJICAに報告するよう求めたものが41案件54契約ある。
また、JBICは、PCI以外のコンサルタントと締結した契約で、再委託契約が締結されていたもののうち11契約について、調査を実施した。
本院は、これらの調査の結果として、契約又はその精算に当たり適切を欠いていた事態は見受けられなかったとの報告を18年5月までに受けている。本院としては、今後これらの調査結果について報告の内容を検証することとする。
ウ 外務省、JICA及びJBICのPCI等日本の開発コンサルタント会社に対する事務・業務の委託契約の状況
(ア)JICAにおけるコンサルタントとの契約の実績
JICAは、コンサルタントについて登録制度を設けており、開発調査等に係る契約においては、原則として、コンサルタントの能力等を評価することによって、競争的に契約の相手方を選定するプロポーザル方式によることとされている。
JICAにおけるコンサルタントとの委託契約のうち、開発調査等に係る契約の5年間の実績は、契約件数計1,578件、契約金額計1361億余円となっている。この1,578件のうち再委託契約を含む契約は、859件(54.4%)となっている。
そして、契約額の合計額の上位10社で契約件数の3分の2、契約額の2分の1を占めており、中でも、PCIを含む上位の2社で契約件数、契約額ともに3割前後を占める状況となっている。
(イ)外務省及びJBICにおけるコンサルタントとの契約の状況
外務省は、ODA評価有識者会議による国別評価等、評価に係る調査等を、NPOを含むコンサルタントとの間で委託契約を締結し、実施している。
外務省がコンサルタントと締結する契約はいずれも随意契約によっているが、公平性、透明性等を確保するため、プロポーザル方式により契約の相手方を決定している。
JBICは、海外経済協力業務に関連して必要な調査として、有償資金協力促進調査を実施しているほか、円借款事業の評価等も実施しており、コンサルタントを活用している。
JBICでは、国内外の様々な知見を有効活用するとの理由から、コンサルタントの登録制度を設けていないが、公募により最もふさわしい調達先を選定することが適当と認められるものは、プロポーザル方式によることとされている。
ODAにおいては、対象となる分野が多岐にわたっており、高い技術力と援助ニーズの多様化に伴う専門性が従来にも増して要求されていることから、コンサルタントの果たす役割とそれに対する信頼が不可欠となっている。特に、JICAが開発調査等を実施するためにコンサルタントと締結する業務実施契約においては、その過半において再委託契約が締結される現状となっている。そうした中で、コンサルタントが現地で締結した再委託契約の精算に当たって、JICAにおいて、対コスタリカODAのPCIに係る不祥事が発覚し、さらに、4箇国4案件について適正を欠く事態があり、また、JBICにおいて1箇国2案件について適切でなかった事態があったことは遺憾である。
コンサルタントは、JICAから事前に承認を得て現地で再委託契約を締結することとされていたが、JICAは、承認後は、再委託先、再委託契約の実施状況の把握を十分行っていなかった。上記の事態を踏まえ、JICAは、前記のガイドラインを定め、再委託契約締結後の契約の確認の徹底と再委託契約業務完了後の第三者機関による抽出検査の導入等を図っているところである。また、JBICは、運用指針に則した精算を行うよう指導を徹底しているところである。
JICA等においては、再委託契約を伴うコンサルタントとの委託契約について、前記のガイドライン等に沿って、適正な契約の履行の確保に徹底を期する必要がある。また、外務省においては、このような事態が生じることがないように、JICA等に対し指導監督等を十分に行う必要がある。
本院としては、今後とも、ODAに関するコンサルタントとの委託契約について、特に再委託契約に関しては、JICA等が講じた再発防止策が有効に機能して、適正な契約の履行が確保されているか、引き続き注視していく。
そして、今回の検査によって、再委託契約に係る経理処理や精算手続が事実と異なっていることが判明したJICAとPCIとの委託契約に係る11箇国13案件については、今後、JICAによる精査の結果の報告を踏まえ、引き続き検査を実施する必要がある。
また、PCI以外のコンサルタントとの委託契約について、現地での再委託契約の精算の適否について報告を求めたところ、JICAでは39箇国における20コンサルタントに係る60案件、JBICでは7箇国における8コンサルタントに係る11案件の再委託契約の精算の適否について、特に問題がなかった旨の報告を受けている。これらの71案件については、JICA等の報告における調査内容を検証する必要がある。
したがって、これらPCIに係る13案件の検査及びPCI以外のコンサルタントに係る71案件の検証の結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。
ア 検査の対象
本院は、外務省が7箇国10在外公館(注2)
において13年度から16年度までに実施した草の根・人間の安全保障無償資金協力(14年度以前は草の根無償資金協力。以下「草の根)無償」という。428件、計30億2234万余円(金額は邦貨換算額。以下同じ。)を対象として、援助の実施状況を検査した。
このうち、実施年度、分野、被供与団体等を勘案して選定した10在外公館の52件、計4億5303万余円について、援助の対象となった施設、機材等の利用状況を調査した。
イ 検査の着眼点
本院は、次の点に着眼して検査した。
(ア)外務本省においては、制度の導入の背景や変遷、近年における援助の目的・対象はどのようなものか、援助実績及び実施手続はどのようになってきたか。
(イ)在外公館においては、外務本省が定めた実施手続に従い、契約の締結、資金の供与、案件の進ちょくを把握するモニタリングなどを適切に行い、案件の終了後、当初想定した事業効果が発現しているかを検証するフォローアップを実施しているか。
(ウ)援助の対象となった施設、機材等は、案件当初の目的に即して十分利用されているか。
ウ 検査の方法
本院は、外務本省から、援助実績の推移、実施手続等に関する各種資料の提出を受け、説明を聴取するとともに、10在外公館に職員を派遣して、各案件の実施状況や援助の対象となった施設、機材等の利用状況について説明を受け、その一部については現場確認を行うなどして現地調査を実施した。
なお、本件事案の検査の過程において、外務本省及び10在外公館に対する会計実地検査及び7箇国における現地調査に要した人日数は96.2人日である。
ア 制度の導入の背景や変遷、援助の目的、実施手続等
草の根無償は、我が国に対する信頼感を醸成させるとともに援助要請への機動的な対応が可能であるとして実施されてきたもので、開発途上国の所得水準などを考慮して決定した国又は地域(16年5月現在132箇国(地域))を対象としている。そして、多様な開発要請に対し、当該国の経済・社会情勢に精通している我が国の在外公館が、当該国又は地域において活動している非政府団体(Non−Governmental Organization。以下「NGO」という。)、地方公共団体、教育・医療機関等の実施する比較的小規模な案件に資金を供与し、一般国民等のいわゆる草の根レベルに直接援助の効果が発現することを目的としている。そして、本制度の援助は、在外公館と被供与団体との間において贈与契約を締結すれば足り、我が国と被援助国との間において交換公文を締結する必要がないことなど、援助の実施手続が簡略化され迅速化が図られていることが特長となっている。また、案件1件当たりの供与限度額については原則として1000万円以下とされている。
外務本省では、草の根無償の制度の運用に当たり、14年度までは、毎年度実施方針を決めてこれにより実施していた。そして、15年度には、人間の安全保障の考えを反映して、草の根・人間の安全保障無償資金協力と改称され、事業規模が拡充されたことなどから、従来の実施方針に代え、「草の根・人間の安全保障無償資金協力実施ガイドライン」を策定し以後これにより実施している。
ガイドラインによると、15年度以降の草の根無償の具体的な実施手順は、次のとおりとなっている(下図参照)
。
イ 在外公館における草の根無償の実施状況
(ア)モニタリングの実施状況
a 案件の実施期間
草の根無償は、贈与契約書において贈与契約の締結から1年以内の決められた期日まで(以下「契約期間」という。)に案件を終了することとされている。そして、前記の428件についてみると、18年1月1日現在で、贈与契約上の終了期日が到来している案件が405件あり、このうち最終報告書が提出されるなどして在外公館が案件の終了を確認したとしているものが382件(94.3%)、未終了となっていたものが23件(5.7%)となっている。
上記382件のうち、贈与契約の契約期間内に終了しているものは257件であった。残り125件は、贈与契約の契約期間内に終了していないものであり、このうち、契約締結日から案件終了までの期間が2年を超えているものは16件であった。
また、贈与契約上の終了期日が到来しているのに未終了となっていた23件について、贈与契約締結日からの経過期間をみると、すべて1年を超えており、2年を超えているものが4在外公館で7件あり、この中には、4年を超えるものもある状況となっている。
b 契約期間の変更
契約期間の延長についてみると、贈与契約の契約期間内に終了していなかった前記の125件と未終了となっていた23件の計148件のうち、被供与団体から在外公館に変更の申請が行われ、在外公館において承認する手続が執られていたのは4在外公館で14件(9.5%)に過ぎず、6在外公館では契約期間の延長手続が執られていなかった。
c 最終報告書の提出
最終報告書は、被供与団体が案件の終了したことや領収書等を添付して資金の使用状況などを在外公館に対して報告するため、案件の終了期日に沿って提出するものであり、在外公館はすべての案件についてこれを確実に受理する必要があるとされている。そして、前記428件のうち、18年1月1日現在で案件が終了している391件について、最終報告書の提出状況をみると、案件の終了日から1箇月以内に提出を受けたものが195件、1箇月を超え3箇月以内のものが67件、3箇月を超え6箇月以内のものが49件となっていて、6箇月を超えたものが58件、未だ提出を受けていないものが22件あった。
d 終了時確認の実施
案件の終了については、建設した施設や調達した機材の案件現場の視察を行うなどして確認することとされている。
前記428件のうち、案件が終了している391件についてみると、案件現場の視察による終了時確認が実施されたものは270件で、全体の実施率は69.1%となっているものの、中には実施率が低い在外公館もある状況となっている。
(イ)フォローアップの実施状況
案件が終了し、一定の期間が経過した後、当初想定した事業効果が発現しているかを検証するフォローアップについては、在外公館の職員等が案件現場に赴き実施することとされている。そして、前記428件中、18年1月1日現在で終了期日が到来し案件の終了したもののうち、終了後一定期間が経過した13年度から15年度までに実施された330件のフォローアップの実施状況についてみると、実施しているものが110件(33.3%)、実施していないものが220件(66.7%)となっていた。これを在外公館別にみると、実施率が100%となっている在外公館がある一方で、50%に満たない在外公館も多く見受けられた。
ウ 援助の対象となった施設等の利用状況
(ア)調査対象事業の選定及び調査の状況
前記428件の草の根無償のうち、贈与契約上の終了期日到来後一定期間が経過した13年度から15年度までに実施された341件から、実施年度、分野、被供与団体等を勘案して選定した10在外公館の52事業を対象として、10在外公館で現況について説明を受けるとともに、施設等の利用状況について実地に調査した。このうち、在リオデジャネイロ日本国総領事館の1事業は治安の問題により案件現場の確認ができなかったが、残り51事業はすべて案件現場の確認を行った。その結果、表4の4事業は、本院の調査時において事業が完了していなかったり、事業は完了しているものの事業本来の目的で一度も施設等が利用されていなかったりしていて、案件当初の目的に即して利用されているとは認められなかった。
表4 案件当初の目的に即して利用されているとは認められなかった事業
在外公館
|
年度
|
事業名
|
分野
|
被供与団体
|
金額(円)
|
態様
|
リオデジャネイロ
|
13
|
ムール貝・牡蠣養殖計画
|
農林水産
|
ローカルNGO
|
7,310,561
|
機材の売却など
|
エチオピア
|
15
|
アカキ青少年育成センター設置計画
|
教育研究
|
ローカルNGO
|
9,988,018
|
施設が未完成、機材が未調達
|
エチオピア
|
15
|
ギザウ博士記念総合病院建設計画
|
医療保健
|
ローカルNGO
|
9,645,442
|
施設が未完成
|
クロアチア
|
13
|
ヴェリキ・グラダツ村小学校再建計画
|
教育研究・医療保健
|
ローカルNGO
|
4,689,100
|
施設等が未利用
|
(イ)過去に決算検査報告に掲記した草の根無償の現況について
草の根無償については、平成14年度決算検査報告及び平成16年度決算検査報告において援助の効果が十分発現されていないなどの事態を3事業及び4事業、計7事業掲記している。これらについて、18年5月末現在における現況を、本院が外務省から説明を聴取するなどして確認したところ、1事業については、施設が完成し、6事業については、購入予定の機材の一部が納入されていなかったり、施設が完成していなかったり、供与機材が当時と同じ状態で保管されていたりするなどしているとのことである。
草の根無償は、前記のとおり、15年度に人間の安全保障の考えを反映させ草の根無償資金協力から草の根・人間の安全保障無償資金協力に改称され、予算額が増加され、供与限度額が拡充されており、在外公館においては、供与資金の適正な使用に対する説明責任の徹底が求められている。そして、外務本省では、15年度以降、前記のガイドラインにより、在外公館における案件の申請、モニタリング、フォローアップ等に関する実施手順などを具体的に示している。
今般、本院は、草の根無償の実施状況について、外務本省及び7箇国10在外公館において検査を実施した結果、13、14両年度に比べて15、16両年度では、案件現場の視察による事前調査が緊急案件を除きすべて実施されるようになっており、また、案件実施中における現場視察の実施率が増加している状況となっていたが、その一方で、以下のような事態が認められた。
〔1〕 草の根無償は、贈与契約の締結から1年以内の決められた期日までに案件を終了することとされているのに、案件終了まで1年以上経過しているものが少なからず見受けられ、贈与契約上の終了期日までに終了していないものが多く見受けられる一方、契約期間の変更に関する承認手続がほとんど行われていない状況となっている。
〔2〕 最終報告書の提出が遅延しているものがあったり、案件現場の視察による終了時の確認が十分に実施されていないものがあったり、一部の案件が未終了となっていたりしている。
〔3〕 案件終了後の現場におけるフォローアップは、一部の在外公館を除き実施が低調となっている。
外務本省においては、以上の検査の結果を踏まえ、在外公館における草の根無償の実施の実態を把握した上で、草の根無償が制度の趣旨に沿って適正に実施され所期の目的を果たすよう、在外公館に対し以下の点について指示を徹底し、また、在外公館においては、今後の業務運営等に当たり以下の点に更に留意することが必要であると考えられる。
〔1〕 贈与契約の締結等の際には、契約上の期日以内に案件を終了すること、契約期間等の変更には承認手続が必要なこと、案件終了後速やかに最終報告書を提出することなど贈与契約の内容に沿った適切な案件の実施について被供与団体に対し十分に説明し、草の根無償の制度の趣旨を一層周知徹底すること
〔2〕 被供与団体との連絡を密に取り、案件の進ちょく状況や最終報告書の提出状況などを踏まえ、案件現場の視察を必要に応じて、遺漏がないよう実施し、施設、機材の現況を確認し同団体の活動状況を把握して案件が未終了のままとならないよう努めること
〔3〕 案件終了後における事業効果の発現状況について、案件現場に赴き施設や機材の利用状況を把握するなどして、終了した案件を事後的に評価し、将来の案件形成にフィードバックすることが不可欠な業務であることを十分認識して、計画的、効率的なフォローアップに一層努めること
本院としては、開発途上国においては草の根無償の事業内容が多様化し、援助実績も増加してきていることにかんがみ、今後とも、草の根無償が制度の趣旨に沿って適切に実施され、当初想定したとおりの事業効果が発現しているかについて注視していくこととする。
ア 検査の対象
本院は、16年12月26日に発生したスマトラ沖地震及びインド洋津波被害(以下「津波等災害」という。)に際して、我が国が無償で供与することを決定した5億米ドルのうち、二国間供与分の緊急援助としてインドネシア共和国、モルディブ共和国、スリランカ民主社会主義共和国(以下「スリランカ共和国」という。)及びタイ王国の4箇国(以下「4箇国」という。)に供与した次の財政的支援2億5000万米ドル相当を対象として検査した。
(ア)JICAが4箇国に対して実施した緊急援助物資供与
(イ)外務省が4箇国のうちタイ王国を除く3箇国(以下「3箇国」という。)に対して実施した緊急無償資金協力事業及びノン・プロジェクト無償資金協力事業(以下「ノンプロ無償資金協力事業」という。)
イ 検査の着眼点
本院は、次の点に着眼して検査した。
(ア)津波等災害に対する被災国及び国際機関からの要請に対し、我が国政府はどのようにして財政的支援の規模、方法を決定したか。
(イ)緊急援助物資供与及び緊急無償資金協力事業については、相手国においてどのように受け入れられ実施されているか、供与された物資や資金は、その趣旨に沿って使用されているか。
(ウ)ノンプロ無償資金協力事業として供与された資金(以下「ノンプロ無償資金」とい国う。)については、国別に、
a 相手国において援助がどのように受け入れられ実施されているか、被災地における需要の把握及び事業内容の決定がどのようになされているか、
b 供与された資金は交換公文、附属文書等に従って使用されているか、各案件については決定された事業内容に従って契約手続が執られ資金の支払が行われているか、契約手続や資金の支払が遅延しているものはないか、
c 援助の対象となった施設及び機材は、当初決定された事業内容に即し被災地においてその趣旨に沿って使用されているか。
ウ 検査の方法
検査に当たっては、外務本省及びJICA本部において、我が国政府の対応状況、援助の制度的枠組み、実施手順等について説明を聴取したほか、在外公館及びJICAの在外事務所からの報告資料等に基づき説明を聴取した。また、職員を3箇国に派遣し、在外公館及びJICAの在外事務所において、相手国の実施機関等から提出された報告書等の関係書類等に基づき事業の実施状況について説明を聴取した。
また、本院の検査権限は相手国には及ばないが、協力が得られた範囲で、事業の実施状況について相手国の実施機関等から説明を聴取した。さらに、一部の案件については、概括的に事業の進ちょく状況を確認するなどの現地調査を外務省の職員等の立会いの下に実施した。
なお、本件事案の検査の過程において、外務本省、JICA本部等に対する会計実地検査及び3箇国における現地調査に要した人日数は55.5人日である。
ア 我が国政府の対応状況
津波等災害に対し我が国が行った緊急援助物資供与、緊急無償資金協力事業及びノンプロ無償資金協力事業の概要は、以下の表5から表7のとおりである。
表5 緊急援助物資供与による支援
(単位:円)
国名
\
内訳
|
インドネシア共和国
|
モルディブ共和国
|
スリランカ共和国
|
タイ王国
|
計
|
供与相当額
|
19,177,918
|
7,866,755
|
14,209,853
|
11,752,352
|
53,006,878
|
物資送付完了時期
|
16年12月30日
|
17年1月2日
|
16年12月31日
|
17年1月5日
|
表6 緊急無償資金協力事業による支援
(単位:米ドル)
国名
\
内訳
|
インドネシア共和国
|
モルディブ共和国
|
スリランカ共和国
|
計
|
供与額
|
1,499,570
|
510,000
|
1,011,000
|
3,020,570
|
支出日
|
17年1月19日
|
17年1月6日
|
17年1月6日
|
|
送金完了日
|
17年2月1日
|
17年1月10日
|
17年1月12日
|
表7 ノンプロ無償資金協力事業による支援
(単位:億円)
国名
\
内訳
|
インドネシア共和国
|
モルディブ共和国
|
スリランカ共和国
|
計
|
供与額
|
146
|
20
|
80
|
246
|
送金完了時期
|
17年1月19日
|
17年1月19日
|
17年1月19日
|
イ 緊急援助物資供与事業
4箇国に対する緊急援助物資供与についてみると、我が国が援助の要請に応じて供与した物資は、災害発生直後の17年1月5日までに4箇国に対してすべて引き渡されていた。本院は、このことを関係書類等で確認し、これらの物資は被災地に届けられその趣旨に沿って使用されているとの説明を受けた。
ウ 緊急無償資金協力事業
3箇国に対する緊急無償資金協力についてみると、我が国が援助の要請に応じて供与した資金は、使途報告書によれば、スリランカ共和国では17年4月、モルディブ共和国では同年6月までにその趣旨に沿って使用されたとしていた。そして、インドネシア共和国については、18年1月に提出された使途報告書によれば、17年2月1日に我が国から供与された資金は全額支出済みであるとしていたが、我が国以外から供与された資金も合わせた全体額について、津波等災害に関する援助のために使用されたとする報告となっており、我が国の供与した資金の具体的使途等を特定することができない状況となっていた。
エ ノンプロ無償資金協力事業
(ア)事業の実施手順
17年1月17日に閣議決定され、外務省が、同日に3箇国と取り交わした交換公文及び附属文書によれば、資金は、相手国政府が開設した日本国内の銀行口座(以下「政府口座」という。)に、17年3月末までに円貨で支払うこととなっている。
そして、相手国政府は、この資金(この資金から発生した利息を含む。以下同じ。)による必要な資機材等の調達に当たっては、附属文書の規定によって、事業の円滑な実施と適切な調達の実施が確保できるように、調達代理機関を選定することとなっている。そして、相手国政府と調達代理機関とが締結した契約(以下「調達代理契約」という。)に基づき、調達代理機関が相手国政府に代わって資機材等の調達に必要な業務を行い、相手国政府は調達代理手数料を支払うこととなっている。
今回の津波等災害に対する支援に当たっては、外務省は、調達代理機関として財団法人国際協力システム(Japan International Cooperation System。以下「JICS」という。)を推薦し、17年1月及び2月に3箇国はJICSと調達代理契約を締結した。そして、JICSは、相手国政府から調達を希望する資機材等の品目の提示を受けた後、資機材等の代金の支払に必要な資金を政府口座から調達代理機関であるJICSの口座(以下「調達口座」という。)に受け入れ、調達口座から、業者に代金を支払うこととなっている。
(イ)事業の実施状況
事業の実施状況について、18年3月末現在で案件実施のために締結した契約の契約締結率(資金供与額に対する契約締結済額の割合)、支払率(資金供与額に対する支払済額の割合)、及び調達口座における残高等についてみると表8のとおりとなっていた。
表8 資金の執行状況
18年3月末現在
国名
|
政府口座から調達口座への受入金額(円)
|
調達口座での資金の執行状況
|
|||||
契約
|
支払
|
支払後の残高(無単位は円、$は米ドル)
|
|||||
件数
|
金額(円)
|
契約締結率
(%)
|
金額(円)
|
支払率
(%)
|
|||
インドネシア共和国
|
14,600,059,325
|
108
|
8,526,959,242
|
58.4
|
2,990,672,270
|
20.5
|
11,609,387,055
|
モルディブ共和国
|
2,000,002,235
|
20
|
1,956,669,286
|
97.8
|
604,208,723
|
30.2
|
136,066,407
$10,504,212.91
邦貨換算額計
1,396,571,956
|
スリランカ共和国
|
8,000,009,316
|
86
|
7,506,743,290
|
93.8
|
3,423,649,226
|
42.8
|
4,576,364,911
|
注(1) | 契約件数にはJICSとの調達代理契約が含まれ、契約金額にはその概算額(上限額)が含まれる。
|
注(2) | 「政府口座から調達口座への受入金額」には我が国から供与された資金の他に、政府口座において発生し調達口座に入金された利息(インドネシア共和国59,325円、モルディブ共和国2,235円、スリランカ共和国9,316円)を含む。
|
注(3) | モルディブ共和国及びスリランカ共和国における「支払後の残高」は、調達口座において発生した利息が含まれているため、「政府口座から調達口座への受入金額」から「支払」欄の金額を差し引いた金額とは一致しない。
|
注(4) | 「契約締結率(%)」及び「支払率(%)」は小数点以下第2位を四捨五入している。
|
また、案件に係る契約の進ちょく状況についてみると、表9のとおりとなっていた。
表9 案件の契約進ちょく状況
18年3月末現在
国名
|
予定契約件数
|
契約進ちょくの段階
|
||
契約相手方の選定開始件数
|
契約締結の終了件数
|
契約に基づく給付の完了件数
|
||
インドネシア共和国(14案件)
|
123
|
111
|
107
|
45
|
モルディブ共和国(3案件)
|
19
|
19
|
19
|
8
|
スリランカ共和国(14案件)
|
94
|
85
|
85
|
26
|
(ウ)外務省における中間評価
外務省では、緊急援助のうちのノンプロ無償資金協力事業についてモニタリングを主体とした中間評価を行い、その結果を「スマトラ沖大地震及びインド洋津波被害2国間無償資金協力に係る中間評価報告書」(以下「報告書」という。)として取りまとめ、津波等災害の発生から1年後の17年12月26日に発表を行った。
報告書では、各案件について、案件の進ちょく状況、案件の妥当性、施設及び機材の活用度、案件完了後に期待される効果等について評価を行うとともに、提言、教訓等を記述している。
案件の進ちょく状況については、全体的な進ちょく状況、他の支援国等との比較、案件の進ちょくの遅れの原因、再入札などの入札プロセスとの関連等に関して、また、施設及び機材の活用度については、引き渡されている機材に関して、それぞれ評価を行っている。そして、提言及び教訓については、災害復興を迅速に行うための枠組みの整備、迅速な案件形成、着実な施工管理及びモニタリングを行うための体制作りの重要性、変化する被災地のニーズを把握し、時宜に適った調達・事業を行うことの重要性等を挙げている。
なお、外務省においては、今後とも各事業の完了後、数箇月以内を目途に事後評価を行うとしている。
本院は、前記のとおり、4箇国に対する緊急援助物資供与については、我が国が援助の要請に応じて供与した物資が、災害発生直後の17年1月5日までに4箇国に対してすべて引き渡されていたことを関係書類等で確認した。そして、これらの物資は、被災地に届けられその趣旨に沿って使用されているとの説明を受けた。
また、3箇国に対する緊急無償資金協力については、我が国が援助の要請に応じて供与した資金は、使途報告書によれば、スリランカ共和国では17年4月、モルディブ共和国では同年6月までにその趣旨に沿って使用されたとしていた。そして、インドネシア共和国については、18年1月に提出された使途報告書によれば、17年2月1日に我が国から供与された資金は全額支出済みであるとしていたが、我が国以外から供与された資金も合わせた全体額について、津波等災害に関する援助のために使用されたとする報告となっており、我が国の供与した資金の具体的使途等を特定することができない状況となっていた。
3箇国に対するノンプロ無償資金協力事業については、17年1月にインドネシア共和国に対しては146億円、モルディブ共和国に対しては20億円、スリランカ共和国に対しては80億円が供与されて以来、3箇国とも交換公文に定められた使用期限である12箇月以内に調達口座へ資金の移動がすべてなされ、我が国と各相手国との間における政府間協議会によって、分野ごとに実施する案件の内容が決定されていた。
そして、案件実施のために締結した契約の契約締結率は、18年3月末現在、モルディブ共和国及びスリランカ共和国では90%以上であるのに比べて、インドネシア共和国では58.4%となっている。
ノンプロ無償資金による事業の内容は、3箇国とも、施設の工事に係る契約が多く、契約締結に先立って工事前の詳細設計等が必要であり時間を要すること、また契約締結後も工事の完了までに相応の工期を要し、工事の進ちょくに応じて資金を支払うことになっていることから、資金供与額に対する支払率は、インドネシア共和国では20.5%、モルディブ共和国では30.2%、スリランカ共和国では42.8%となっていた。
また、3箇国とも、供与されたノンプロ無償資金はすべて政府口座から調達口座に移動されていたが、調達口座における残高状況を見ると、ノンプロ無償資金が供与されて1年2箇月を経過した18年3月末において、インドネシア共和国では約116億円、モルディブ共和国では約14億円、スリランカ共和国では約46億円が残されていた。
ノンプロ無償資金協力事業は、津波等災害に対する緊急援助として実施されたものであるため、相手国において、速やかに、必要な施設が建設され機材が調達されて、被災地等で災害復旧・復興のために使用されることが必要である。
したがって、本院としては、本件ノンプロ無償資金協力事業によって施設が建設され、機材が調達されて完了することとなる事業について、施設の建設や機材の調達のための資金の執行状況について引き続き検査を実施し、取りまとめが出来次第報告することとする。
また、今回実施されたノンプロ無償資金協力事業は、従来のノンプロ無償資金協力事業と比べて大規模なものであり、対象となった事業のうちには、中長期的な事業効果が期待される施設の案件も含まれている。外務省においては、17年12月に中間評価を公表し、さらに、今後とも同様な評価を行うことにしている。
そして、本院としては、緊急援助の最終受益者である被災地の住民に援助が届き、また、中長期的な事業効果が発現されるかどうか、外務省が行う本件ノンプロ無償資金協力事業に対する評価を踏まえた上で、今後の利活用の状況について注視していく。
なお、本院は、我が国を含めた各国等からインドネシア共和国政府に供与された津波等災害の援助資金による復興再建事業に対して同国会計検査院が行う会計検査活動を支援するための国際会議等に参加し、協力を行ってきている。