会計名及び科目
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労働保険特別会計(徴収勘定)
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(款)保険収入
(項)保険料収入
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部局等
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厚生労働本省、17労働局
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不払事業主のうち保険料に徴収過不足があった事業主数
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徴収不足 48事業主
徴収過大 42事業主
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上記の事業主に係る徴収過不足額
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徴収不足額 6916万余円
徴収過大額 3888万余円
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(平成16年度〜19年度)
(平成16年度〜19年度)
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上記のうち是正情報の活用に係る徴収不足額
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782万円
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労働保険(前掲「労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの」 参照)の保険料は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)に基づいて徴収されており、都道府県労働局及び労働基準監督署(以下「都道府県労働局等」という。)の徴収業務担当課がその業務に当たっている。そして、その主な業務内容は次のとおりとなっている。
ア 年度更新
事業主は、都道府県労働局等の徴収業務担当課に対し、毎年度の初めに概算保険料を申告、納付し、次の年度の初めに前年度に実際に支払った賃金(労働の対償として事業主が労働者に支払うものをいう。以下同じ。)の総額に基づき算定した確定保険料を申告する。徴収業務担当課は、この確定保険料の申告内容を審査し、その結果に基づき事業主は、保険料の過不足分を精算する(以下、この確定保険料の申告等の事務を「年度更新」という。)。
この年度更新の事務処理に当たっては、「労働保険適用関係事務処理手引・労働保険料算定基礎調査実施要領」(平成12年3月労働省発労徴第35号。以下「手引・要領」という。)によると、厚生労働省が毎年度の年度更新開始前にその具体的な処理要領を定めることとされている。そして、徴収業務担当課は、この処理要領により事業主に対して適正な申告納付に必要な知識を周知徹底することとされている。
イ 労働保険料の算定基礎調査
徴収業務担当課は、年度更新終了後、適正な保険料等の額を確認するため、徴収法第43条等の規定に基づき、事業主の事務所等に立ち入るなどして帳簿書類等の調査を行っている(以下、この調査を「算定基礎調査」という。)。その結果、保険料等に過不足が生じた事業主は、保険料等の過不足分を精算することとなっている。
算定基礎調査の対象となる事業主の選定に当たっては、手引・要領に定められた選定基準により保険料率の適用に疑義があった事業主等を選定することとされている。
全国の都道府県労働局等が算定基礎調査を実施した事業主数は、平成16年度から18年度までに計122,949事業主となっており、その結果、保険料の徴収不足額は35,819事業主について84億1301万余円(指摘率(注1)
29.1%、1事業主当たり平均23万余円)、また、保険料の徴収過大額は20,415事業主について45億1023万余円(指摘率16.6%、1事業主当たり平均22万余円)となっている。
都道府県労働局等の監督業務担当課は、主に上記の徴収業務担当課と同じ労働基準監督署内に設置されており、労働基準法(昭和22年法律第49号)等に基づき、事業主等に対する監督指導業務を行っている。そして、監督業務担当課では、事業主が労働者に所定の割増賃金を支払うことなく残業(いわゆるサービス残業)を行わせていたときは、この不払となっている賃金(以下「不払賃金」という。)を支払うよう指導(以下「是正指導」という。)し、不払賃金が労働者に支払われた場合には、事業主からその支払等に関する報告(以下「是正情報」という。)を求め、是正指導の改善結果について確認している(以下、是正指導を受け不払賃金を支払った事業主を「不払事業主」という。)。
厚生労働省によると、15年度から17年度までの間に是正指導に基づき支払われた不払賃金の支払額は、次表のとおり多額に上っており、このうち支払額が1事業主当たり1000万円以上のものがその大半を占めている。
年度
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不払賃金の支払額が100万円以上のもの
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左のうち不払賃金の支払額が1000万円以上のもの
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事業主数
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金額(A)
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事業主数
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金額(B)
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割合(B/A)
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平成15
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1,184
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23,874,660
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236
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21,027,370
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88.1%
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16
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1,437
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22,613,140
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298
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18,860,600
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83.4%
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17
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1,524
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23,295,000
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293
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19,614,940
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84.2%
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そして、不払事業主は、原則として次の年度の年度更新の際に、この不払賃金の支払額を前年度に支払った賃金の総額に含めて確定保険料を申告することとされている。
本院は、全国47労働局のうち17労働局(注2) において会計実地検査を行い、管内の16、17、18各年度に是正指導を受けた不払事業主のうち、不払賃金の支払額が1000万円以上となっている126事業主を選定し、効率性等の観点から、これらの事業主に係る保険料の徴収業務が是正情報を活用して適切に行われているかなどに着眼して、確定保険料申告書等の書類により検査した。そして、適切でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求め、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
17労働局すべてにおいて、監督業務担当課の把握する是正情報が徴収業務担当課に提供されていなかったため、徴収業務担当課では、算定基礎調査の対象事業主の選定に当たり、不払事業主をその対象とすることとしていなかった。
しかし、本院が選定した前記の126事業主において、雇用保険の加入要件を満たすパートタイム労働者等を保険加入させていないなどしていたため徴収不足となっているものが15労働局(注3)
で計48事業主、保険料6916万余円(指摘率38.1%、1事業主当たり平均144万余円)、労働保険の対象とならない役員等の報酬を賃金の総額に算入するなどしていたため徴収過大となっているものが12労働局(注4)
で計42事業主、保険料3888万余円(指摘率33.3%、1事業主当たり平均92万余円)見受けられた。
このように、本院の選定した不払事業主の指摘率、1事業主当たりの平均過不足額が、前記の全国の都道府県労働局等による算定基礎調査の実施結果をいずれも上回るものであったことから、都道府県労働局等において、算定基礎調査の対象事業主として、不払事業主であることも選定の判断要素とする必要があると認められた。
そして、上記の検査の結果、8労働局(注5)
において、計13事業主が確定保険料の申告の際に不払賃金の支払額4億1759万余円を前年度の賃金の総額に算入するなどしていなかったため、保険料782万余円が徴収不足となっていた。
これらの事態について、事例を示すと次のとおりである。
A事業主は、平成17年度に労働基準監督署監督業務担当課の是正指導を受け、17年12月に17年度分の不払賃金1億7005万余円を労働者に支払い、監督業務担当課にその旨を報告していたが、18年度の確定保険料の申告の際に、この額を17年度の賃金の総額に算入していなかったため、保険料292万余円が徴収不足となっていた。
一方、徴収業務担当課では、監督業務担当課からこの是正情報の提供を受けていなかったため、これを活用することなく年度更新を行っていた。また、A事業主を算定基礎調査の対象として選定していなかった。
このように確定保険料の申告の際に不払賃金の支払額を前年度の賃金の総額に算入するなどしていなかったため不払事業主の保険料が徴収不足となっていたにもかかわらず、都道府県労働局等において是正情報を活用していない事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。
(注3) | 15労働局 北海道、埼玉、東京、神奈川、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、滋賀、京都、大阪、岡山、宮崎各労働局
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(注4) | 12労働局 北海道、山形、埼玉、東京、神奈川、長野、岐阜、滋賀、京都、大阪、熊本、宮崎各労働局
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(注5) | 8労働局 埼玉、東京、神奈川、山梨、静岡、京都、大阪、熊本各労働局
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このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められた。
ア 都道府県労働局等において、同じ労働基準監督署内に設置された徴収業務担当課と監督業務担当課の間で是正情報を共有するための連携が十分でなかったため、是正情報を算定基礎調査の対象事業主の選定、年度更新の際の事業主に対する周知徹底等に活用していなかったこと
イ 厚生労働省において、都道府県労働局に対し、徴収業務担当課と監督業務担当課の間で是正情報を共有するための連携を十分に図り、算定基礎調査の対象事業主の選定、年度更新の際の事業主に対する周知徹底等に活用するよう手引・要領等において適切な指示を行っていなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、19年10月に都道府県労働局に対して通知を発するなどして、労働保険料について、不払賃金の是正情報を活用することにより不払事業主の納付する労働保険料の徴収業務を一層適切なものとするよう次のような処置を講じた。
ア 手引・要領の改訂等を行い、監督業務担当課で把握した是正情報を徴収業務担当課に提供させるとともに、算定基礎調査の対象事業主の選定基準に他部署から情報提供があったものを加えることとし、不払事業主についてもその対象とすることとした。
イ 不払事業主に対し、年度更新の際には不払賃金の支払額を賃金の総額に含めて申告しなければならない旨について周知徹底を図るよう処理要領に定めることとした。