独立行政法人国立美術館(以下「国立美術館」という。)では、売買、貸借、請負その他の契約に係る予定価格が少額である場合には、独立行政法人国立美術館会計規則(平成13年国立美術館規則第49号。以下「会計規則」という。)の規定に基づき、随意契約によることができるとしている(以下、予定価格が少額であることを理由とした随意契約を「少額随契」という。)。そして、少額随契によることができる場合の限度額(以下、少額随契によることができる場合の予定価格の限度額を「随契限度額」という。)については、平成17年12月に会計規則を改正し、500万円としていた。また、見積書の徴取については、随意契約によろうとするときには、なるべく2者以上から見積書を徴取しなければならないとしていた。
そこで、合規性、経済性、効率性等の観点から、契約事務が、会計規則に基づいて適切に処理されているか、公正性、透明性を確保し競争の利益を享受したものになっているかなどに着眼して検査したところ、次のような事態となっていた。
競争に付することが可能な契約であるにもかかわらず、随契限度額が500万円であるため、競争に付することが可能な契約に占める少額随契の割合は約90%となっていて、競争性を確保する上で十分な水準となっていない事態が見受けられた。
少額随契としている契約において、2者以上から見積書を徴取することが可能であるのに1者からしか徴取していない契約が16年度99件(少額随契に占める割合は44.7%)、17年度114件(同40.8%)見受けられた。
このような事態が生じているのは、随契限度額の設定について、独立行政法人に移行する際及びその後の随契限度額の引下げに当たり業務の効率的実施等と競争性の確保についての比較検討が十分でなかったこと、見積書の徴取が適切でなかった契約について、同一の美術館において見積書を徴取すべき複数の業者が存在していて見積書の比較検討ができるのにその検討が十分でないことなどによると認められた。
国立美術館における契約事務の公正性及び透明性を確保し、これにより競争の利益を享受できるよう、次のとおり、国立美術館の理事長に対し18年10月に、会計検査院法第36条の規定により意見を表示し、同法第34条の規定により是正改善の処置を求めた。
独立行政法人の契約についても一般競争入札を原則とすることが求められていることにかんがみ、随契限度額の設定については、業務の効率的実施等と競争の利益を享受できなくなるデメリットとを比較検討した上で適切な水準になるよう、改めて検討を行うこと
見積書を徴取すべき業者が複数存在しているかについて、同一の美術館において同種の契約実績等を十分確認するなどして、見積書の徴取を会計規則等の趣旨に照らして適切に行うこと
本院は、国立美術館において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、国立美術館では、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 随契限度額については、19年3月に会計規則を改正し、19年4月1日以後締結する契約から、国の基準と同額に引き下げた。
イ 見積書の徴取については、18年11月に各館長あてに通知を発するなどして適切に行うよう周知徹底を図った。