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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
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  • 役務

ねんきん特別便の作成及び発送準備業務に係る委託契約において、仕様書の記載、委託業者への指示等が適切でなかったため、再度、ねんきん特別便の作成及び発送が必要となり不経済となっているもの


(87) ねんきん特別便の作成及び発送準備業務に係る委託契約において、仕様書の記載、委託業者への指示等が適切でなかったため、再度、ねんきん特別便の作成及び発送が必要となり不経済となっているもの

会計名及び科目 年金特別会計(業務勘定)  (項)業務取扱費
部局等 社会保険庁
ねんきん特別便の作成及び発送準備業務に係る委託契約の概要 社会保険庁が貸与する磁気テープに基づき「ねんきん特別便年金記録のお知らせ」等を作成するためのデータ編集から郵便物として差し出すまでの一連の作業を行うもの
契約名 ねんきん特別便の作成及び発送準備業務(追加分)
契約の相手方 共同印刷株式会社
契約 平成20年2月 随意契約
誤ったねんきん特別便の発送件数 19,827件 (平成19年度)
正確なねんきん特別便の再発送に要した額 3,431,226円 (平成19年度)
不経済となっている支払額 3,431,226円 (平成19年度)

1 検査の背景

 社会保険庁における国民年金、厚生年金保険等の年金受給者等の氏名、生年月日、性別、被保険者期間、保険料の納付等に関する記録(以下「年金記録」という。)の管理体制等について、平成18年以降の国会審議等において、〔1〕 社会保険オンラインシステムの年金記録には基礎年金番号に統合されていない又は統合できないものが約5095万件あること、〔2〕 マイクロフィルムで管理されている年金記録約1466万件が社会保険オンラインシステムに収録されていないこと、〔3〕 社会保険オンラインシステムの年金記録にはその内容が正確に入力されていないものがあることなどが取り上げられて、大きな社会問題となった。
 この年金記録問題に対して、社会保険庁は、19年6月に「年金記録問題への新対応策の進め方」等を公表して、「ねんきんあんしんダイヤル」、「ねんきん特別便専用ダイヤル」を設置して年金記録に関する相談体制を強化したり、「ねんきん特別便」により年金受給者等に国民年金、厚生年金保険等の加入履歴等を通知したりするなどしている。
 本院は、年金記録問題が国民の大きな関心事となっている現状を踏まえて、個々の年金記録は年金給付を適正に行う上で基本的かつ重要なものであること及び年金制度に対する国民の信頼を確保するためには年金記録が適切に管理されるような体制の構築が不可欠であることから、年金記録の管理体制等について検査を実施しており、20年4月に年金記録検査室を設置している。
 また、本院は、同年6月9日に参議院から国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定に基づき、〔1〕 年金記録問題発生の経緯、現状等、〔2〕 年金記録問題への対応に係る契約の内容、予定価格の算定、履行及びその確認等の状況、〔3〕 年金記録問題の再発防止に向けた体制整備の状況の各事項について、会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けたことから、この検査要請事項について、検査を引き続き実施して、21年次に報告することとしている。
 今回、年金記録問題に関して社会保険庁等を検査している中で、本件及び「職員の不正行為による損害が生じたもの」 (後掲参照)の事態が見受けられたことから、これらを不当事項として掲記するものである。

2 ねんきん特別便の作成及び発送準備業務に係る委託契約の概要等

(1) 年金記録の名寄せ、ねんきん特別便の発送等

 社会保険庁は、19年8月に厚生労働省が公表した「年金記録適正化実施工程表」等に基づき、前記約5095万件の年金記録を基礎年金番号に統合することを目的として、同年11月から20年3月までの間に、社会保険オンラインシステム上のすべての年金記録の名寄せ、基礎年金番号に年金記録が結び付くと思われる者に対するねんきん特別便の発送等を行っている。
 このうち、年金記録の名寄せは、社会保険オンラインシステム上の年金記録の中から、氏名、生年月日等が共通するなどしていて同一人の年金記録ではないかと思料されるものを抽出する業務である。そして、社会保険業務センターは、基礎年金番号に結び付く年金記録を有すると思われる約1030万人に対して、加入履歴等を記載するなどしたねんきん特別便を発送している。
 ねんきん特別便の発送については、社会保険庁は「ねんきん特別便年金記録のお知らせ」及び「年金加入記録照会票及び確認はがき」の帳票印刷から、分離裁断、紙折、封入・封かん、郵便番号区分業務及び納品、郵便局差出処理までの一連の作業を「ねんきん特別便の作成及び発送準備業務」として民間業者に委託することとしている。そして、この作業のために社会保険庁は、年金受給者等の加入履歴等を記録した磁気テープを編集及び作成して、委託の相手方である民間業者(以下「委託業者」という。)に貸与している。

(2) ねんきん特別便の作成及び発送準備業務に係る委託契約

 社会保険庁は、年金受給者に対するねんきん特別便の発送のために、19年11月から20年3月までの間に、共同印刷株式会社等2会社と「ねんきん特別便の作成及び発送準備業務(追加分)」等7契約を締結して、同年2月から4月までの間に328,873,338円を支払っている。

3 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 社会保険庁が20年2月に共同印刷株式会社と締結した委託契約(実施件数558,636件、支払額44,579,152円。以下「当初委託契約」という。)により、同年3月19日に発送したねんきん特別便のうち遺族年金受給者に係る19,827件には、「加入記録」欄に本人の遺族年金の基となっている亡くなった者の加入記録に加えて別人の遺族年金の基となっている記録が印字されていたり、加入履歴等が別人の「加入記録」欄等に印字されてしまったために「加入記録」欄等には何も印字されなかったりしていて、正確な加入履歴等が示されていなかった。そして、社会保険庁は、この19,827件のねんきん特別便を再度作成して発送するために、同月24日に改めて上記の委託業者と委託契約(実施件数19,827件、支払額1,582,194円)を締結して、発送等に要した郵便料金等1,849,032円と合わせて計3,431,226円を支出していた。
 そこで、本院は、合規性等の観点から、委託契約に係る仕様書等の内容、委託業者に対する指示等は適切に行われていたかなどに着眼して、社会保険庁及び社会保険業務センターにおいて、契約書、仕様書等の書類により会計実地検査を行った。

(2) 検査の結果

 検査したところ、上記19,827件のねんきん特別便に正確な加入履歴等が示されていなかったのは、次のような事情によると認められた。
 すなわち、当初委託契約の仕様書によると、社会保険庁が委託業者に貸与する磁気テープには、個人ごとの加入履歴等のデータに識別番号が連番で重複することなく付与されて記録されているとされていた。
 そして、20年3月19日より前に発送されたねんきん特別便については、委託業者に貸与された磁気テープは複数となっていたが、各加入履歴等のデータに付与された識別番号は複数の磁気テープを通じて連番で付与されており、重複していなかった。
 一方、3月19日発送分として委託業者に貸与された磁気テープは、遺族年金の受給者に対して死亡した被保険者の加入履歴等を通知するためのもので、被保険者の基礎年金番号の有無等を基準に複数巻の磁気テープに分けて作成されていたが、各加入履歴等のデータに付与された識別番号は磁気テープごとに付与されており、同一の識別番号を付与された加入履歴等のデータが複数の磁気テープに重複して存在していた。そして、委託業者は上記複数の磁気テープの識別番号が重複しているのを知らなかったため、仕様書どおり識別番号の重複はないものとして処理した。その結果、加入履歴等のデータをねんきん特別便に印字するに当たり、同一の識別番号が付された複数の加入履歴等のデータが併せて印字されたり、別の受給者あてのねんきん特別便に加入履歴等のデータが印字されたことにより、加入履歴等のデータが印字されなかったりすることとなった。
 しかし、委託業者に貸与する複数の磁気テープに記録された加入履歴等のデータに識別番号の重複しているものがあったということは、識別番号が重複することなく付与されているとする当初委託契約の仕様書は適切でなかったと認められる。また、識別番号の重複が生じているのであれば、委託業者にその旨を伝えるとともに、処理方法を指示すべきであったと認められる。
 このような事態が生じていたのは、基礎年金番号に結び付く年金記録を有すると思われる年金受給者等に対して、同年3月までにねんきん特別便を発送する必要があったことなどにもよるが、社会保険庁において、仕様書の記載が十分でなかったこと、磁気テープを貸与する際の委託業者に対する指示等についての配慮が十分でなかったことなどによると認められる。
 したがって、社会保険庁が仕様書を適切に作成したり、委託業者に対する指示等を適切に行ったりしていれば、ねんきん特別便を再度作成して発送する必要はなかったもので、当初委託契約に基づいて発送したねんきん特別便のうち19,827件は契約の目的を達成していないと認められる。そして、前記の再発送に要した額計3,431,226円は支出の必要がなかったものであり、不当と認められる。