会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費 | |
部局等 | 北海道 | |
国庫負担の根拠 | 生活保護法(昭和25年法律第144号) | |
補助事業者 (事業主体) |
北海道滝川市 | |
国庫負担対象事業 | 生活保護事業 | |
国庫負担対象事業の概要 | 生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの | |
指摘対象被保護世帯に対する国庫負担金交付額 | 191,578,098円 | (平成17年度〜19年度) |
不当と認める国庫負担金交付額 | 179,145,000円 | (平成17年度〜19年度) |
生活保護費負担金(以下「負担金」という。)は、都道府県又は市町村(特別区を含む。)が、生活に困窮する者に対して、最低限度の生活を保障するために、その困窮の程度に応じて必要な保護を行う場合に、その費用の一部(4分の3)を国が負担するものである(負担金の概要については、前掲の「生活保護費負担金の経理が不当と認められるもの」
参照)。
生活保護の実施機関である都道府県知事又は市町村長(特別区の長を含む。)は、社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務所等(以下「福祉事務所」という。)の長に対して保護の決定及び実施に関する事務を委任することができることとなっている。
そして、福祉事務所には、福祉事務所長のほか、福祉事務所長等の指揮監督を受けて、現業事務の指導監督を行う所員(以下「査察指導員」という。)、保護決定の手続や被保護世帯の指導援助等の現業を行う所員(以下「現業員」という。)等を置くこととなっている。
保護費は、生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)等に基づき、保護を受ける世帯(以下「被保護世帯」という。)を単位として、その所在地域、構成員の数、年齢等の別に応じて算定される生活費の額から、被保護世帯における就労収入、年金受給額等を基に収入として認定される額を控除するなどして決定することとなっている。
生活保護は、生活扶助、住宅扶助、医療扶助等8種類に分類されて、このうち医療扶助は、医療の給付を原則として現物給付によって行うものであり、その範囲は診療、薬剤、治療通院に伴う移送(以下「移送」という。)等となっている。そして、医療扶助の実施に際しては、生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づくほか、「生活保護法による医療扶助運営要領について」(昭和36年社発第727号厚生省社会局長通知。以下「運営要領」という。)等によりその事務を処理することとされている。
運営要領によれば、現に保護を受けていると否とにかかわらず保護を必要とする状態にある者(以下「要保護者」という。)から医療扶助の申請を受理した場合は、福祉事務所長は医療の必要性を検討した上で医療扶助を決定することとなっており、その決定に当たっては、専門的・技術的判断が要請されることから、あらかじめ選定した医療機関(以下「指定医療機関」という。)に対して、医療、給付等の要否に係る意見書(以下「要否意見書」という。)への意見の記載を求めて、これに基づき行うこととなっている。そして、意見の記載を求める際は、要保護者の居住地等に比較的近距離に所在する指定医療機関を選定することなどを標準とすること、記載内容が不明の場合には記載者に照会するとともに、医療扶助の決定に当たり問題があると思われるときは、要保護者に健康状態等を確認するための検診を受けるよう命ずること(以下、この命令を「検診命令」という。)などとされている。
移送に係る保護費は、保護基準において「移送に必要な最小限度の額」となっている。また、移送の申請があった場合には、運営要領により、移送の必要が明らかな場合を除いて、要否意見書に記載された指定医療機関の意見を検討した上で移送の給付の可否について決定することとされている。さらに、この決定に際しては、運営要領により、原則として最低限度の移送を現物給付するものとされており、その給付の範囲は通院等による受診等に伴う移送のための交通費(以下「通院移送費」という。)の最小限度の実費とすることとされている。
福祉事務所における医療扶助の実施に当たっては、運営要領により、査察指導員、現業員、嘱託医等は組織的な連携に努めるなど医療扶助の適正な実施の推進を図ること、嘱託医は査察指導員、現業員等からの要請に基づき、医療扶助の決定、実施に伴う専門的な判断、必要な助言指導等を行うこととされている。
そして、福祉事務所は、医療の要否判定等医療扶助の実施に当たって疑義がある場合は、都道府県に対して技術的助言を求めることとなっている。
本院は、従来、負担金の経理については、合規性等の観点から、被保護世帯に対する収入認定が適正かなどに着眼して検査を行ってきたところ、今般、北海道滝川市において高額な保護費を受給していた被保護世帯Aに係る通院移送費についての不正請求等の事態が報道された。
そこで、本院は、医療扶助のうち診療等の現物給付及び通院移送費の支給について、合規性等の観点から、その支給は適正に行われているかに着眼して、北海道並びに滝川市及び札幌市において、事業実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。
検査したところ、滝川市において、次のような事態が見受けられた。
ア 被保護世帯Aの保護の経緯
滝川市における被保護世帯Aの保護の経緯は次のとおりとなっていた。
〔1〕 被保護世帯Aは、平成18年3月に、世帯主がこれまで通院していた札幌市内のB病院等から転院を希望したことなどから、札幌市から滝川市に転入した。そして、世帯主は、滝川市内のC病院に通院することになったものの、一部の治療については、引き続きB病院への通院を続けていた。その後、本人の希望によりC病院に代えて札幌市内の別のD病院への通院を開始した。この間の通院に際して、世帯主は酸素供給装置が搭載可能な高規格のストレッチャー対応型タクシー(以下「ストレッチャー付タクシー」という。)での通院を希望して、滝川市から通院移送費を受給していた。
〔2〕 世帯主の配偶者は、上記の滝川市への転入以来、同市内のC病院への通院を続けてきたが、その症状に改善が見られないとして、札幌市内の医療機関での受診を希望して、18年10月から世帯主と同様に同市内のB病院等への通院を開始した。また、この間の通院については、世帯主と同じくストレッチャー付タクシーでの通院を希望して、滝川市から通院移送費を受給していた。
〔3〕 19年11月の被保護世帯Aの世帯主及び配偶者の逮捕等に伴い、滝川市は同年12月に保護を廃止している。
イ 滝川市における保護費の支給
上記アのような経緯から、滝川市は、18年3月から19年12月までの間、被保護世帯Aに対して、生活扶助、住宅扶助、医療扶助等の保護費計255,437,476円(負担金交付額191,578,098円)を支給していた。このうちストレッチャー付タクシーによる通院移送費の支給額は、238,860,000円(負担金相当額179,145,000円)となっていた。
この被保護世帯Aの世帯主及び配偶者に対する通院移送費の支給の妥当性についてみると、それぞれ次のとおりとなっていた。
(ア) 被保護世帯Aの世帯主に対する通院移送費の支給
滝川市福祉事務所は、世帯主のストレッチャー付タクシーでの通院に係る通院移送費の支給を決定した理由として、次のようなことを挙げている。
〔1〕 札幌市内のB病院の医師から、同院への通院が必要であるなどの意見があったこと
〔2〕 滝川市内のC病院の主治医が、札幌市内のD病院への転院を認めたこと
〔3〕 17年5月から18年3月まで被保護世帯Aに対して保護を実施していた札幌市E福祉事務所がストレッチャー付タクシーでの移送を認めていたこと
〔4〕 上記〔1〕 から〔3〕 までの決定に際しては、滝川市福祉事務所が北海道保健福祉部に対して照会したところ、支給を肯定する旨の回答を得たこと
しかし、上記の同市福祉事務所の世帯主に対する通院移送費の支給に関する判断は、次のような点等からみて適切とは認められない。
〔1〕 滝川市内のC病院の主治医の要否意見書等によれば、世帯主の病気については、同院で治療が可能であるとしており、同市の嘱託医もその判断を支持していたこと、また、移送については、C病院の主治医の要否意見書において、被保護世帯Aの自宅から同院までは近距離にあるため、ストレッチャー付タクシーによる移送の必要はないとしていたこと
〔2〕 滝川市内のC病院から札幌市内のD病院への転院は世帯主本人の希望により行われたものであり、医療機関による医学的判断によるものではないこと
〔3〕 札幌市E福祉事務所管内での保護期間中におけるストレッチャー付タクシーでの移送については、居住地と病院との距離が滝川市の場合と比較して大きく異なるなど、滝川市が通院移送費を支給する際の根拠とはならないこと
〔4〕 被保護世帯Aに対する生活実態、診療内容、通院状況等の把握が十分行われておらず、また、世帯主に対する診療、移送の内容等に関して、近隣の医療機関への転院を検討するための嘱託医協議、検診命令等の措置も執られていないこと
なお、滝川市福祉事務所の北海道保健福祉部に対する照会及びその回答については、当事者間においてその内容の認識に食い違いがあるなど、実際の照会内容等を確認することはできない状況となっている。
(イ) 世帯主の配偶者に対する通院移送費の支給
滝川市福祉事務所は世帯主の配偶者に対する医療扶助の決定に際しても、世帯主と同様に、配偶者の札幌市内の医療機関への通院の希望等により札幌市内の医療機関へのストレッチャー付タクシーでの通院を認めていた。
しかし、滝川市福祉事務所の配偶者に対する通院移送費等の支給に関する判断も、世帯主の場合と同様に、同市内の医療機関で治療可能であるにもかかわらず、札幌市内の医療機関への移送を認めたものであり、その支給は適切とは認められない。
上記イのとおり、同市福祉事務所の世帯主及び配偶者に対する通院移送費の支給に関する判断は、同市内のC病院で治療可能であるにもかかわらず、札幌市内の医療機関への移送を認めたものであり、それに基づいた通院移送費の支給は保護基準に定めた「移送に必要な最小限度の額」に違反した取扱いとなっている。
したがって、滝川市福祉事務所の被保護世帯Aに対する通院移送費の支給238,860,000円に係る負担金計179,145,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、主として次のことによると認められる。
ア 滝川市福祉事務所が、被保護世帯の医療扶助の決定に際して、同市内の主治医の要否意見書等において、被保護者の病気は同病院で治療可能であるなどとしていたにもかかわらず、適切な判断を行わなかったこと
イ 同市福祉事務所が、被保護世帯に係る要否意見書等による治療の必要性等について十分確認を行わず、検診命令等の措置を適切に行っていなかったこと
ウ 北海道において、管内の各福祉事務所に対して行う適正な生活保護の実施、特に通院移送費の取扱いに関する指導が十分でなかったこと
本院は、今後、さらに、全国の福祉事務所において、通院移送費等の医療扶助について引き続き検査するとともに、その他の種類の扶助についても適正な支給となっているかについて検査を行っていくこととする。