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  • 平成19年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第12 国土交通省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

まちづくり交付金等による事業の実施に当たり、土地開発公社等が先行取得した用地を地方公共団体が取得する場合の交付対象事業費の範囲が適切なものとなるよう改善させたもの


(4) まちづくり交付金等による事業の実施に当たり、土地開発公社等が先行取得した用地を地方公共団体が取得する場合の交付対象事業費の範囲が適切なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)国土交通本省
      (項)住宅建設等事業費
    (項)揮発油税等財源都市環境整備事業費
      (項)都市環境整備事業費
部局等 国土交通本省、5県  
交付の根拠 都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)、地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法(平成17年法律第79号)
交付金事業者(事業主体) 県1、市5、計6事業主体
交付金事業の概要 まちづくり交付金及び地域住宅交付金により公園、広場等を整備するために、地方公共団体が土地開発公社等から事業用地を取得するもの
先行取得時と再取得時の取得目的が異なっているなどの事業用地に係る交付対象事業費 113億7183万余円 (平成16年度〜19年度)
過大になっていた交付対象事業費 79億2733万余円 (平成16年度〜19年度)
上記に対する交付金相当額 28億1274万円  

1 事業の概要

(1) まちづくり交付金等の概要

 国土交通省は、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)に基づき、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が都市再生整備計画(以下「整備計画」という。)を定めて、整備計画に基づく事業等を実施する場合に、その経費に充てるために、平成16年度から、予算の範囲内で当該市町村に対してまちづくり交付金を交付している。
 まちづくり交付金は、市町村の自主性と創意工夫による都市再生を推進するために、市町村の自主性・裁量性を大幅に拡大した財政支援措置で、国土交通省が従来、個別の補助制度において支援してきた道路、公園等の公共施設等の整備を行う基幹事業のほか、市町村の提案する幅広い事業を交付対象にできるとされている。そして、この提案事業は、国の補助制度がないものや、既存の補助制度の採択基準を満たしていないものも交付対象にできることになっている(まちづくり交付金制度の趣旨、事業内容、交付手続等の概要については、前掲の「まちづくり交付金事業の実施に当たり、交付対象事業の範囲についての基準等を明確に示すことなどにより、事業が公平かつ効率的に行われるよう改善させたもの」 参照)。
 また、国土交通省は、まちづくり交付金のほかに、「地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法」(平成17年法律第79号)に基づき、地方公共団体が地域住宅計画を定めて、同計画に基づく事業を実施する場合に、その経費に充てるために、17年度から、予算の範囲内で当該地方公共団体に対して地域住宅交付金を交付している。この交付金は、まちづくり交付金と同様に、従来の公営住宅や公的賃貸住宅等の個別補助制度を交付対象にした基幹事業と地方公共団体による提案事業があり、公園等の整備も実施できることとなっている。

(2) 事業用地の再取得に対する国庫補助

 地方公共団体は、道路、公園等の公共施設等を整備するために、従来、国庫補助事業により事業用地を取得している。
 その取得方法には、(ア)当該年度の予算をもって地方公共団体自らが土地所有者から事業用地を買い取る方法と、(イ)地方公共団体の土地取得に係る特別会計若しくは基金又は地方公共団体が設立した土地開発公社(以下「公社等」という。)が地方公共団体の依頼によりあらかじめ事業用地を取得(以下「先行取得」という。)して、地方公共団体において後年度に事業が予算化された時に公社等から当該事業用地を買い取る方法(以下「再取得」という。)がある。
 補助事業により事業用地を取得する場合は、原則として(ア)の方法によるものとされていて、この場合の取得価額は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年閣議決定)等により、取得時の近傍類地の取引価格を勘案した額(以下「時価」という。)としており、同額を補助対象事業費として補助基本額に計上することとなっている。
 また、(イ)の再取得には、国庫債務負担行為により複数年度の予算で実施する場合と、国庫債務負担行為によらず単年度の予算で実施する場合がある。このうち、国庫債務負担行為による再取得の場合は、国が先行取得に際してその必要性を認めているもので、補助基本額は、「国庫債務負担行為により直轄事業又は補助事業の用に供する土地を先行取得する場合の取扱いについて」(平成13年国総国調第88号国土交通事務次官通知)により、再取得時までに公社等が要した、〔1〕 先行取得に係る土地の取得費、〔2〕 当該土地に存する物件の移転等に要した補償費、〔3〕 先行取得に伴う公社等の事務費、〔4〕 当該土地を管理するために要した直接管理費及び〔5〕 公社等が先行取得した際の借入金に係る利子支払額の合計額(以下「再取得時までに公社等が要した費用」という。)を計上できることとなっている。
 一方、国庫債務負担行為によらない場合は、先行取得を行うことについて国の関与はなく、地方公共団体の自主的な判断で先行取得が行われることになる。そして、当該先行取得用地を再取得する場合、国土交通省都市・地域整備局所管事業において、街路事業にあっては、「街路事業に係る用地先行取得国庫債務負担行為等の取扱いについて」(平成2年都街発第7号建設省都市局街路課長通達。平成17年国都街第84号最終改正。以下「通達」という。)によることとなっており、また、公園等の事業にあっては、通達を準用することにしている。
 通達では、上記の場合の補助基本額は、再取得時の時価に物件の移転等に要した補償費及び公社等の事務費を加えた額と再取得時までに公社等が要した費用とのいずれか低い額となっている。ただし、近傍類地の取引価格が下落局面にある場合においても、市街化の進展が著しく、建物の建築が進むことで、用地交渉が困難となり、事業費の増大が見込まれるときなど、先行取得を行うことについて合理的な理由のあるときは、国庫債務負担行為により先行取得する場合と同様に、再取得時までに公社等が要した費用を補助基本額に計上できることとなっている。
 そして、通達の適用は、当該事業用地が、先行取得時において都市計画決定がなされていて、用途が確定している土地であって、かつ、再取得時の目的がその先行取得時の目的と同一である場合となっており、再取得時の目的が先行取得時の目的と異なる場合は、通達は適用されないため、再取得として扱うのではなく、前記の(ア)と同じ扱いをすることとなり、補助基本額は再取得時の時価となる。

2 検査の結果

(検査の観点及び着眼点)

 まちづくり交付金及び地域住宅交付金(以下、両者を合わせて「交付金」という。)は地方公共団体の自主性・裁量性が高い新しい制度となっており、事業主体の提案により幅広い事業の実施が可能になっているが、一方、事業用地の再取得に対する国庫補助の準則は前記のとおりとなっているところである。
 また、地価の動向は、三大都市圏においては、昭和61年頃から平成3年までは急激に上昇しているが4年以降は相当な下落に転じており、地方圏においては、4年までは上昇しているが、5年以降下落傾向が続いている状況である。
 そこで、効率性等の観点から、交付金による事業(以下「交付金事業」という。)で再取得を行った事業用地について、地価の下落傾向が続いている中で、その交付対象事業費の算定が通達等の趣旨を踏まえて適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 22都道府県(注1) 管内の121事業主体が、16年度から19年度までの間に交付金事業で公社等から再取得を行った事業用地に係る558契約(契約金額計1213億2566万余円、交付対象事業費計886億2898万余円)を対象に、土地売買契約書、完了実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。

  22都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、宮城、茨城、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、石川、福井、山梨、愛知、兵庫、広島、徳島、愛媛、福岡、佐賀、長崎各県

(検査の結果)

 検査したところ、5県(注2) 管内の6事業主体の13契約(契約金額計113億7187万余円、交付対象事業費計113億7183万余円)において、〔1〕 再取得時の取得目的が先行取得時の取得目的と異なる事業用地、〔2〕 先行取得時に都市計画決定がなされておらず、用途が確定していない事業用地及び〔3〕 先行取得を行うことについて通達に定める合理的な理由がない事業用地について、再取得時までに公社等が要した費用を交付対象事業費に含めている事態が見受けられた(次表参照)。
 これらは、前記の通達等によった場合、〔1〕 及び〔2〕 の事態については、再取得時の時価のみが交付対象事業費になり、また、〔3〕 の事態については、再取得時の時価に物件の移転等に要した補償費及び公社等の事務費を加えた額が交付対象事業費になる。そして、これによると、交付対象事業費は計34億4449万余円となり、計79億2733万余円(交付金相当額計28億1274万余円)が過大になっている。

表 事業用地の再取得に係る交付対象事業費
(単位:m 、千円)

事業主体 交付金名 地区名等 交付金事業(再取得) 先行取得 態様 通達等によった場合の交付対象事業費(再取得時の時価等)
(B)
交付対象事業費の差額
(A)−(B)
(交付金相当額)
年度 契約件数 面積 交付対象事業費(再取得時までに公社等が要した費用)
(A)
目的 年度 目的
A まちづくり交付金 平成18 1 641.1 406,000 市街地整備事業用地 昭和61 市街地整備事業用地 〔2〕 194,912 211,087
(84,434)
B まちづくり交付金 17〜19 3 1,908.3 2,994,884 地域交流センター、広場用地 平成3、5 都市計画道路代替用地 〔1〕 230,047 2,764,837
(963,943)
C まちづくり交付金 16、17 1 2,520.9 677,763 広場用地 平成8 広場用地 〔2〕 350,412 327,351
(130,940)
17 1 244.4 42,835 道路用地 平成8 公園用地 〔1〕 21,386 21,449
(8,579)
18、19 2 4,443.5 1,608,361 公園、広場用地 昭和49 街路事業代替用地 〔1〕 437,536 1,170,824
(214,967)
D まちづくり交付金 18 2 27,446.5 2,242,844 公園、緑地用地 平成4、8 公園、緑地用地 〔2〕 472,402 1,770,442
(708,176)
E まちづくり交付金 16 1 1,228.0 1,309,810 公園用地 平成6 文化施設用地 〔1〕 391,741 918,068
(367,227)
F 地域住宅交付金 18、19 2 54,221.0 2,089,334 公園用地 平成10〜13 公園用地 〔3〕 1,346,056 743,277
(334,474)
      13 92,654.0 11,371,834         3,444,496 7,927,338
(2,812,745)
(注)
  金額は単位未満切り捨て、面積は小数第2位以下切り捨てのため、計は一致しない。

 上記について1契約の事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 B市は、イ地区において、平成17年3月に整備計画を策定して、17年度から21年度までの間に、まちづくり交付金により基幹事業として地域交流センター及び広場の整備等を実施している。そして、当該地域交流センター及び広場の用地1,279.0m について、B市土地開発公社と20億5095万余円で契約して取得している。
 この用地は、同公社が、同市からの依頼に基づき、4年3月に、都市計画道路の代替用地として先行取得したものを、17年9月に地域交流センター及び広場の用地として、同市が再取得したものである。
 そして、同市は、まちづくり交付金が幅広い事業の実施が可能になっていることから、基幹事業の地域交流センター及び広場の整備事業費には再取得時の時価1億5987万余円、利子支払額5億7749万余円、同公社の事務費2883万余円及び直接管理費284万余円計7億6905万余円を計上して、また、提案事業には先行取得価格から下落した再取得時の時価を差し引いた額(以下「時価差額」という。)12億8190万余円を計上して、合わせて上記契約額20億5095万余円の全額を交付対象事業費(まちづくり交付金相当額7億9006万余円)としていた。
 しかし、本件再取得用地は、先行取得時と再取得時の取得目的が異なっており、前記の通達等によった場合、再取得時の時価のみが交付対象事業費となることから、時価差額等計18億9108万余円(まちづくり交付金相当額6億5931万余円)が過大になっている。
 国土交通省は、これら6事業主体から提出された整備計画等に基づいて交付金の交付及び交付限度額を判断する際に、交付金事業は地方公共団体の裁量により幅広い事業が行える新しい制度であることから、その事業用地の再取得については前記の通達等に準じた取扱いをする必要はなく、時価差額等も整備計画等の目標を達成するために必要な事業に係る経費として交付対象事業費に含めることができると判断して、これを認めていた。
 しかし、交付金事業は、地方公共団体の自主性・裁量性が高い制度であるとはいえ、当該地方公共団体の判断で先行取得した事業用地の地価変動に伴う危険負担をすべて国が負う必要はなく、また、国が負うこととした場合には、地方公共団体の自己責任による自律的な財政運営を損なったり、地方公共団体において地価高騰時に先行取得した土地の交付金事業への安易な転用使用等を招来したりするおそれも考えられる。
 また、交付金の効率的使用の観点からは、時価差額等ではなく、整備計画等の目標達成に資する他の事務・事業に交付金を充当する方がより効果的と考えられる。
 したがって、国土交通省においては、地方公共団体の自主性・裁量性の高い交付金事業にあっても、事業用地の再取得に係る交付対象事業費の範囲について、通達等の趣旨を踏まえて、街路、公園等の個別の補助制度による事業と同様に取り扱うこととして、適切に判断すべきであったのに、前記のように、一貫した判断がなされず、交付金が過大になっている事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

 5県  宮城、茨城、埼玉、千葉、神奈川各県

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、国土交通省において、交付金が地方公共団体の自主性・裁量性を尊重する新しい制度であり、交付金事業が地方公共団体の裁量で幅広い事業を実施できるものであることから、通達等の趣旨を踏まえた事業用地の再取得に係る交付対象事業費の範囲についての検討が十分でないまま、交付金の交付及び交付限度額の判断がなされていたことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、交付金事業による事業用地の再取得に係る交付対象事業費の範囲が適切なものとなるよう、20年9月に、街路、公園等の個別の補助制度による事業と同様の基準等を取りまとめて、その基準等を明示した通知を発して、整備計画等に対する交付金の交付及び交付限度額の判断や交付申請に対する審査に係る事務を行う地方整備局等及び都道府県並びに整備計画等を作成する地方公共団体に周知・徹底する処置を講じた。