ページトップ
  • 平成20年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 厚生労働省|
  • 不当事項|
  • 保険給付

年金記録相談において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合等の処理が適切に行われていなかったため、本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしているもの


(72) 年金記録相談において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合等の処理が適切に行われていなかったため、本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしているもの

会計名及び科目 年金特別会計(厚生年金勘定)  (項)保険給付費
部局等 7社会保険事務局
基礎年金番号への統合等の処理が行われていなかった老齢厚生年金等の支給等の相手方 (1) 年金受給者のうち年金の再裁定を受けた者 12人
(2) 年金受給者のうち新規に年金の裁定を受けた者 12人
(3) 年金受給者のうち年金の再裁定の手続が処理中の者等 140人
(4) 被保険者等 269人
433人
上記に係る年金支給額の増加額、増加見込額等 (1) 年金支給額の増加額(年額) 669,500円
   そ及して支給された年金額 5,273,073円
(2) 年金支給額の増加額(年額) 576,400円
(3) 年金支給額の増加見込額(年額) 7,400,300円
(4) 年金支給見込額の増加額(年額) 35,423,700円

1 年金記録の基礎年金番号への統合等に係る処理の概要

(1) 年金記録の基礎年金番号への統合の処理

 社会保険庁は、平成9年1月の基礎年金番号の導入に当たり、8年10月にその実施に係る事務の取扱いを定めた通知を発している。これによれば、基礎年金番号を有している者について基礎年金番号以外の年金手帳等の記号番号(以下「手帳番号」という。)の年金記録(注1) が判明した場合は、当該手帳番号に係る年金記録を社会保険オンラインシステムの端末装置(以下「端末装置」という。)により、基礎年金番号に統合することとされている。そして、このような場合には、社会保険庁は、年金受給者(年金の裁定(注2) を受けて年金を受給している者をいう。以下同じ。)又は被保険者等(以下、これらを合わせて「年金受給者等」という。)からの届出を受けることなく未統合の年金記録を基礎年金番号に統合することとしている。ただし、年金受給者等について氏名の変更(訂正)及び生年月日の訂正の処理が必要な場合は、年金受給者等からこれらに係る変更又は訂正の届出を受けた上で上記統合の処理を行うこととしている。

(注1)
 年金記録  年金受給者、被保険者等の手帳番号、氏名、性別、生年月日等に関する記録
(注2)
 裁定  年金を受給する資格ができたときに必要となる手続

(2) 年金受給者等から年金記録の照会があった場合の事務処理

 社会保険庁は、18年8月から年金記録相談の特別強化体制を執るに当たり、各地方社会保険事務局に対して年金記録相談の実施方法に係る通知を発するなどしている。
 この通知によれば、社会保険事務所又は社会保険事務局社会保険事務室(以下「社会保険事務所等」という。)の年金記録相談で、年金受給者等から厚生年金保険に係る年金記録の照会があり端末装置によりそれが確認できなかった場合の事務処理方法は、おおむね次のとおりとされている。

ア 社会保険事務所等は、年金受給者等から「厚生年金保険被保険者加入期間照会申出書」(以下「照会申出書」という。)を提出してもらう。
 この照会申出書には、年金受給者等が記入する氏名、生年月日、住所、基礎年金番号、職歴等について様式が定められている。そして、〔1〕 未統合の年金記録の基礎年金番号への統合、〔2〕 氏名の変更(訂正)又は〔3〕 生年月日の訂正が必要な場合は、この申出によって当該統合、変更又は訂正の処理が行われるようにするための届出欄が設けられている。社会保険庁は、この届出欄が設けられている理由について次のとおり説明している。

(ア) 未統合の年金記録が判明して、基礎年金番号の氏名、生年月日等と一致した場合には、社会保険事務所等は年金受給者等からの届出を受けることなく上記〔1〕 の統合の処理を行う必要があるが、照会申出書にこれに係る届出欄が設けられているのは、念のために年金受給者等の意思を確認するためである。

(イ) 前記〔2〕 の氏名の変更(訂正)又は〔3〕 の生年月日の訂正の処理を必要とする場合は、年金受給者等にこれらに係る届け書を提出してもらう必要があるが、照会申出書にこれらに係る届出欄が設けられているのは、年金受給者等に社会保険事務所等への再度の来訪等を求めて届け書を改めて提出してもらうことなく、統合の処理を速やかに行うためである。

イ 社会保険事務所等は、年金受給者等から照会申出書が提出された場合は、これに基づき当該記録の調査を行う。そして、年金受給者等が基礎年金番号と手帳番号の両方を保有していることが判明した場合には、手帳番号の年金記録を基礎年金番号に統合するなどして、その結果を年金受給者等に文書で回答する。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 18年以降の国会審議等において年金記録問題が大きな社会問題となった(後掲の「年金記録問題について」 参照)ことなどから、本院は、合規性等の観点から、年金記録の基礎年金番号への統合等の事務処理が適切に行われているかなどに着眼して、20年2月から21年7月までの間に、27社会保険事務局(注3) 管内の141社会保険事務所等において会計実地検査を行った。検査に当たっては、前記の年金記録相談の特別強化体制が執られた18年8月以降に社会保険事務所等が年金受給者等から年金記録の照会を受けて回答したものを対象として、照会申出書等の関係書類により検査した。

(2) 検査の結果

 検査したところ、7社会保険事務局(注4) 管内の58社会保険事務所等において、年金受給者等1,133人に係る厚生年金保険の手帳番号の年金記録1,319件を基礎年金番号に統合する必要があるのに、統合していない事態が、次のとおり見受けられた。

ア 未統合の年金記録が年金受給者等本人のものであると判明した場合は、文書により年金受給者等に社会保険事務所等への再度の来訪等を求めて、これに係る届け書を改めて提出してもらう必要があるとしていたものが一部に見受けられた。
 このため、年金受給者等から届け書が提出されていなかったなどのものについて、基礎年金番号への統合を行っていなかった。

イ 前記の年金記録相談に係る通知の発出後においても、地方社会保険事務局又は社会保険事務所等が独自に作成するなどした氏名の変更(訂正)又は生年月日の訂正に係る届出欄の無い様式の申出書を使用していて、年金受給者等にこれらに係る届け書を改めて提出してもらうこととしていたものなどが一部に見受けられた。
 このため、年金受給者等から氏名の変更(訂正)又は生年月日の訂正に係る届け書が提出されていなかったなどのものについて、基礎年金番号への統合を行っていなかった。

 しかし、判明した未統合の年金記録は年金受給者等からの届出を受けることなく基礎年金番号に統合することとされており、また、年金受給者等に対して氏名の変更(訂正)又は生年月日の訂正が必要な場合は、未統合の年金記録を基礎年金番号に統合するために年金受給者等に対してこれに係る届け書を提出するよう勧奨するなどする必要があることから、58社会保険事務所等においては、年金受給者等からの届出が無くとも未統合の年金記録を基礎年金番号に統合するための処理を行ったり、年金受給者等から氏名の変更(訂正)又は生年月日の訂正の届出が無い場合に、年金受給者等に対してこれに係る届け書を提出するよう勧奨したりなどする必要があったと認められる。
 そして、前記の年金受給者等1,133人に係る未統合となっていた年金記録1,319件のうち、年金記録の基礎年金番号への統合により老齢厚生年金等の年金支給額又は年金支給見込額(注5) に変動が生ずる者433人に係る年金記録は499件であり、その内訳は次のとおりである。

〔1〕  年金受給者のうち年金の再裁定(注6) を受けた者
12人  13件  年金支給額の増加額(年額)  669,500円
     そ及して支給された年金額  5,273,073円
〔2〕  年金受給者のうち新規に年金の裁定を受けた者
12人  14件  年金支給額の増加額(年額)  576,400円
〔3〕  年金受給者のうち年金の再裁定の手続が処理中の者等
140人  153件  年金支給額の増加見込額(注7) (年額)  7,400,300円
〔4〕  上記〔1〕 から〔3〕 までの年金受給者を除く年金受給者等
269人  319件  年金支給見込額の増加額(年額)  35,423,700円

 これらの事態を各地方社会保険事務局別に示すと、次表のとおりである。

 判明した未統合の年金記録を基礎年金番号に統合することにより年金受給者の年金支給額が増額するなどしていたもの

地方社会保険事務局名 〔1〕 年金受給者のうち年金の再裁定を受けた者 〔2〕 年金受給者のうち新規に年金の裁定を受けた者 〔3〕 年金受給者のうち年金の再裁定の手続が処理中の者等 〔4〕 左の〔1〕 から〔3〕 までの年金受給者を除く年金受給者等
人数 年金支給額の増加額(年額) そ及して支給された年金額 人数 年金支給額の増加額(年額) 人数 年金支給額の増加見込額(年額) 人数 年金支給見込額の増加額(年額)
東京





33

1,563,500

52

6,945,500
長野 3 183,100 2 32,400 8 866,600
岐阜 64 4,427,900 56 8,557,600
大阪 10 650,500 5,003,243 37 1,331,200 130 15,924,100
島根 2 60,500 1 1,500 2 39,700
香川 2 19,000 269,830 7 332,800 1 17,300 13 1,009,500
長崎 2 26,500 8 2,080,700
12 669,500 5,273,073 12 576,400 140 7,400,300 269 35,423,700

 したがって、年金記録相談において判明した未統合の年金記録を基礎年金番号に統合する必要があったのに、これを行っておらず、その結果、本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしているのは適切でなく、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、58社会保険事務所等において、未統合の年金記録を年金受給者等からの届出が無くとも基礎年金番号に統合する必要があることや氏名の変更(訂正)又は生年月日の訂正に係る届け書を提出するよう年金受給者等に勧奨することなどについての認識が十分でなかったこと、7社会保険事務局において、58社会保険事務所等に対する指導等が十分でなかったことなどによると認められる。

(注3)
 27社会保険事務局  青森、岩手、秋田、群馬、埼玉、東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、島根、山口、徳島、香川、高知、福岡、長崎、熊本、宮崎、沖縄各社会保険事務局
(注4)
 7社会保険事務局  東京、長野、岐阜、大阪、島根、香川、長崎各社会保険事務局
(注5)
 年金支給見込額  50歳以上の被保険者について現に加入している制度の被保険者記録を受給権発生日又は60歳のいずれか早く到来する時点まで延長した場合等の額であり、平成21年度における年金額の増加見込額である。この額は、必ずしも将来における実際の年金支給額となるものではない。
(注6)
 再裁定  当初の年金支給開始の際に行った裁定の変更
(注7)
 増加見込額  現に支給されている年金額と記録を統合した場合の年金支給見込額との差額である。この額は年金額の一部又は全部の支給が停止されている場合でも、支給が停止されていないものとして算出している。