前項3
及び4
のとおり、各独立行政法人が随意契約の見直しを進めている中で、競争性、透明性等の確保に関して検討すべきであったと認められる事態が多数見受けられるなど、独立行政法人における契約の適正化は、運用面においてまだ十分であるとはいえない。
一方、各法人の随意契約見直し計画に基づく契約方式の見直しにより、競争契約の件数が増加しており、これに伴い入札手続や仕様書の整備等に係る契約事務も増加している。
そこで、上記のような状況を踏まえて、20年報告に掲記した各法人の契約事務の体制に係る取組、契約の適正化に向けた審査体制及び契約に係る情報の公表状況について、その後の変化の状況を把握するとともに、整理合理化計画において、入札及び契約の適正な実施について、監事及び会計監査人による監査において厳正にチェックするとされていることを踏まえて、これらの監査の実施状況についても調査した。
独立行政法人における契約は、おおむね、各部門からの調達要求に基づき、契約担当部門が取りまとめ、各法人の会計規程等の定めるところにより法人の長又は契約を行うこととして指定された役職員(以下、両者を「契約担当役等」という。)が契約を締結することとされている。各独立行政法人における契約事務の体制について、契約締結事務に携わる法人本部の契約担当役等の実員規模でみると、21年4月1日現在では、最小で1人、最大で36人となっており、20年報告と比べて大きな変化はみられない。
このような状況の下、各法人は、随意契約見直し計画の着実な実施に向けて、契約事務を効率的に処理するなどのため、20年報告でも記述した次のような取組を引き続き行っている。
〔1〕 複数年契約の活用又は一括発注の推進等による契約事務の合理化
〔2〕 契約権限の委譲、契約部門の再編若しくは一元化、契約事務マニュアルの作成又は職員の研修等による事務処理体制の整備
〔3〕 仕様書や公告に係る様式の統一、入札執行日若しくは公告日の集約化又は電子入札の実施若しくは電子データでの資料配布等の契約事務の電子化等による事務処理の効率化・省力化
なお、上記に関連して、21年4月1日現在で電子入札システムを導入している法人の状況を調査したところ、図表70
のとおり、6法人となっており、20年4月1日現在の5法人から1法人増加している。そして、この中では、20年5月に導入した宇宙航空研究開発機構の利用実績が678件と最も多くなっている。
図表70 電子入札システムを導入している法人
(平成21年4月1日現在)
法人名 | 導入年月 | 導入した契約手続 | 利用実績 | |
平成19年度 | 20年度 | |||
情報処理推進機構 | 平成16年1月 | 競争入札 | 52件 | 38件 |
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 | 17年1月 | 競争入札 | 430件 | 415件 |
随意契約等 | 98件 | 76件 | ||
国立高等専門学校機構 | 18年10月 | 競争入札 | 220件 | 304件 |
随意契約 | 11件 | 15件 | ||
都市再生機構 | 20年1月 | 競争入札 | 2件 | 21件 |
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 | 20年4月 | 競争入札 | - | 7件 |
宇宙航空研究開発機構 | 20年5月 | 競争入札 | - | 678件 |
随意契約等の契約の適正化を図るためには、契約締結の事前及び事後のチェックを徹底するなど、審査、監視体制の充実強化を図ることが必要である。そこで、随意契約とした理由の妥当性に関する各独立行政法人の事前の審査体制と内部監査の状況について20年報告に引き続き検査することとし、併せて、監事及び会計監査人による契約の適正化に関する監査の実施状況を調査した。
随意契約とした理由の妥当性に関する事前の審査体制については、21年4月1日現在で、100法人すべてにおいて、契約担当部門が通常の契約締結の決裁の過程で審査を行っているとしている。また、これに加えて、図表71 のとおり、54法人においては会計規程等に基づき設置された審査委員会等(政府調達に関する協定に該当する契約のみを審査するための委員会は除く。)が、27法人においては監査担当部門等が、28法人においては契約審査担当役等その他の組織が、それぞれ審査を行っているとしており、83法人が契約担当部門の審査に加えて審査委員会等の他の部門等による事前の審査を実施しているとしている。さらに、このうち24法人では、上記のうち二つ以上の部門等で審査を行っているとしている。これらについて、20年4月1日現在の状況と比較すると、「〔4〕 〔1〕 〔2〕 〔3〕 のいずれかで審査を実施しているとする法人」の割合が14.0ポイント、「〔5〕 〔4〕 のうち〔1〕 〔2〕 〔3〕 いずれか二つ以上で審査を実施しているとする法人」の割合が7.0ポイント上昇している(法人別内訳は別表12 参照)。
事項 | 平成20年4月1日現在 | 21年4月1日現在 | |
対象法人 | 100法人 (100%) |
100法人 (100%) |
|
〔1〕 審査委員会等が審査を実施しているとする法人 | 48法人 | 54法人 | |
〔2〕 監査担当部門等が審査を実施しているとする法人 | 22法人 | 27法人 | |
〔3〕 その他の組織が審査を実施しているとする法人 | 17法人 | 28法人 | |
〔4〕 〔1〕 〔2〕 〔3〕 のいずれかで審査を実施しているとする法人 | 69法人 (69.0%) |
83法人 (83.0%) |
|
〔5〕 〔4〕 のうち〔1〕 〔2〕 〔3〕 のいずれか二つ以上で審査を実施しているとする法人 | 17法人 (17.0%) |
24法人 (24.0%) |
注(1) | 金額基準により審査を省略する場合があるものを含む。 |
注(2) | 〔2〕 の監査担当部門等には監事を含む。 |
独立行政法人の中には、組織として監査部門を設けて内部監査を実施している法人がある。そして、内部監査の結果は、一部の関係者だけの知見にとどめず、他部門等における執務の参考とさせて適切な契約事務の執行に資することが重要であり、そのためには、組織として監査結果をデータベース化するなどして情報の蓄積及び共有化を図ることが有効であると考えられる。
20年度の内部監査において、随意契約の妥当性の検証に係る項目を監査項目として設定しているとする法人は、図表72
のとおり、100法人中69法人となっている。また、内部監査の結果をデータベース化しているとする法人は50法人、このうち全役職員が閲覧可能としている法人は34法人であり、20年4月1日現在と比較して、その割合は上昇しているものの、依然として少数にとどまっている(法人別内訳は別表12
参照)。
事項 | 平成19年度 | 20年度 | ||
対象法人 | 100法人 (100%) |
100法人 (100%) |
||
随意契約の妥当性の検証に係る項目を監査項目として設 定しているとする法人 |
53法人 (53.0%) |
69法人 (69.0%) |
||
内部監査の結果をデータベース化しているとする法人 | 32法人 (32.0%) |
50法人 (50.0%) |
||
うち全役職員が閲覧可能としている法人 | 17法人 (17.0%) |
34法人 (34.0%) |
ウ 監事及び会計監査人による入札及び契約の適正な実施に関する監査の実施状況
前記のとおり、整理合理化計画では、独立行政法人の随意契約の見直しに関する措置として、随意契約見直し計画の実施状況を含む入札及び契約の適正な実施について、監事及び会計監査人による監査において厳正にチェックするとしている。また、総務省においては、19年11月に、各独立行政法人の主務府省に対して、所管する独立行政法人の監事及び会計監査人に対し、入札及び契約の適正な実施について徹底的なチェックをするべき旨を要請するよう、事務連絡を発している。
一方、各独立行政法人における両監査の実施状況をみると、21年4月1日現在で、監事監査は、100法人すべてにおいて、監査に関する規程等を整備して実施されている。また、会計監査人監査は、独立行政法人通則法に基づき、資本の額その他の経営の規模が一定の基準に達しないため監査が義務づけられていない25法人を除く75法人において実施されている。なお、監査が義務付けられていない25法人のうち、任意で会計監査人の監査を実施しているなどとする法人が11法人ある。
上記を踏まえて、20年度における監事監査の実施状況をみると、図表73
のとおり、入札及び契約の適正な実施状況に関する監査は、99法人が実施しているとしており、このうち、随意契約の適正化を含めた入札及び契約の適正な実施状況を監査項目として設定しているとする法人は92法人となっている。また、監査において契約に関する指摘事項があるとする法人は32法人となっている(法人別内訳は別表12
参照)。
事項 | 平成20年度 | ||
監事監査 | 入札及び契約の適正な実施状況について監査を実施しているとする法人 | 99法人 | |
随意契約の適正化を含めた入札及び契約の適正な実施状況を監査項目監として設定しているとする法人 | 92法人 | ||
監査において契約に関する指摘事項があるとする法人 | 32法人 |
20年度における会計監査人監査の実施状況をみると、独立行政法人通則法に基づき会計監査人監査が実施されている75法人のうち57法人は、入札及び契約の適正な実施や法人運営における資金の不経済な使用について、直接、会計監査人がチェックや判断をすることは、財務諸表監査の性格から範囲を超えるものであることを会計監査人から確認しているなどの理由から、随意契約の適正化を含めた入札及び契約の適正な実施状況に関する監査は実施されていないなどとしている。また、18法人は、随意契約の適正化を含めた入札及び契約の適正な実施状況を監査計画書の監査項目として設定しているなどとしているが、その内容をみると、独立行政法人に適用される監査基準に基づき内部統制が適切に整備されているかを検証するとしていたり、財務諸表監査の範囲内で監査の実施過程において非効率的な取引等の発見に努めるとしていたりなどしている(法人別内訳は別表12
参照)。
なお、日本公認会計士協会は、20年2月に、前記の入札及び契約の適正な実施に関する会計監査人監査による厳正なチェックに関連して、「入札・契約のそもそもの適切性や法人運営における資金の無駄使いについて、直接的に会計監査人がチェックや判断をすることは、財務諸表監査の性質から範囲を超えるものである」などとする見解を公表している。
独立行政法人が締結する契約に係る情報(以下「契約情報」という。)の事後の公表については、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年法律第127号)、「政府調達に関する協定」等に基づいて、各法人が公表項目、公表方法等を内部規程に定めるなどして公表するとともに、「公共調達の適正化について」において国が公表することを定められている契約情報についても、国に準じて公表することが要請されている。
上記の根拠法令等ごとに、契約情報の公表項目を整理すると、図表74
のとおりである。
図表74 契約情報の公表項目(契約締結後の公表)の状況
(平成21年4月1日現在)
根拠法令等 | 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律 | 政府調達に関する協定 | 公共調達の適正化について |
公表対象の契約 | 公共工事 | 特定調達契約注(2) | すべての契約(少額随契を除く。) |
公表時期 | 遅滞なく | 落札者等決定日の翌日から起算して72日以内 | 契約締結後72日以内 |
公表方法
\
公表項目
|
公衆の見やすい場所に掲示、公衆の閲覧に供する方法又はインターネット | 官報により公示 | ホームページにおいて公表 |
物品役務等の名称及び数量 | ○ | ○ | |
公共工事の名称、場所、概要及び種別 | ○ | ○ | |
契約担当役等の氏名並びにその所属する部門の名称及び所在地 | ○ | ○ | |
入札参加者の名称 | ○ | ||
入札金額 | ○ | ||
入札参加資格 | ○ | ||
落札決定日 | ○ | ||
落札者 | ○ | ○ | |
落札金額 | ○ | ○ | |
低入札価格調査制度を適用した場合の経緯 | ○ | ||
総合評価方式により落札者を決定した場合におけるその者を落札者とした理由 | ○ | ||
契約を締結した日 | ○ | ||
契約の相手方の名称及び住所 | ○ | ○ | ○ |
契約の相手方を決定した手続 | ○ | ||
契約金額 | ○ | ○ | |
工期(着手・完成) | ○ | ○ | |
入札公告日又は公示日 | ○ | ||
随意契約の理由 | ○ | ○ | ○ |
一般競争入札・指名競争入札別(総合評価方式の実施) | ○ | ||
予定価格 注(3) | ○ | ○ | |
落札率 | ○ | ||
当該独立行政法人の主務府省と同一の所管に属する公益法人が随意契約の相手方である場合、当該法人の役員のうち所管府省退職者の再就職者の数 | ○ |
注(1) | 「○」は、根拠法令等において、公表すべきとされている項目である。 |
注(2) | 「政府調達に関する協定」に基づく国、独立行政法人等の機関による調達のうち、現金及び有価証券を除く物品等又は特定のサービスに係る役務を調達するための契約で予定価格が一定金額以上のものをいう。 |
注(3) | 契約締結後に、事後の契約において予定価格を類推されるおそれがないと認められる場合等に公表することとされている。 |
そして、各法人における契約情報の公表状況(21年4月1日現在)をみると、20年報告における調査結果と同様で、ほとんどの法人においては、おおむね適切に公表されている(法人別内訳は別表12
参照)。
しかし、会計規程等に定められた公表期限までに契約情報が公表されていなかったり、会計規程等に公表期限の定めがないことから、国の基準に準じた公表期限により運用することとしていたものの、この期限までに契約情報が公表されていなかったりなどしているものがあった。
上記について事例を示すと、次のとおりである。
<事例>
[公表期限までに契約情報が公表されていないもの]
〔33〕 国立健康・栄養研究所は、国立健康・栄養研究所契約事務取扱要領において、契約を締結した日の翌日から起算して72日以内(4月に締結した契約については93日以内)に契約情報をホームページで公表することとしている。
しかし、平成21年1月26日現在における契約情報の公表状況を調査したところ、同日現在で既に公表期限が到来している20年4月から10月までに締結した契約13件(競争契約6件、随意契約7件)のすべてについて、契約情報が公表されていなかった。
なお、同研究所は、会計検査院の検査を踏まえて、21年1月27日に、これらの契約情報をホームページで公表した。
〔34〕 年金・健康保険福祉施設整理機構は、年金・健康保険福祉施設整理機構会計規程実施細則において、契約情報をホームページで公表することとしているが、その公表期限についての定めはなく、国の基準に準じて、契約を締結した日の翌日から起算して72日以内(4月に締結した契約については93日以内)に公表することにしている。
しかし、平成20年11月18日現在における契約情報の公表状況を調査したところ、同日現在で既に公表期限が到来している20年4月から8月までに締結した契約36件(競争契約21件、随意契約15件)のすべてについて、契約情報が公表されていなかった。
なお、同機構は、会計検査院の検査を踏まえて、20年12月10日に、これらの契約情報をホームページで公表した。