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厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの


(125) 厚生年金保険の老齢厚生年金の支給が適正でなかったもの

会計名及び科目 年金特別会計(厚生年金勘定) (項)保険給付費
部局等 厚生労働本省(平成21年12月31日以前は社会保険庁)
厚生年金保険の事業に関する事務の一部を委任又は委託している相手方 日本年金機構(平成22年1月1日以降)
支給の相手方 138 人
老齢厚生年金の支給額の合計 215,531,816円 (平成19年度〜22年度)
不当と認める支給額 85,284,186円 (平成19年度〜22年度)

1 保険給付の概要

(1) 厚生年金保険の給付

 厚生労働省は、平成22年1月1日に社会保険庁が廃止されたことに伴い、従来社会保険庁が所掌していた厚生年金保険の事業に関する事務を所掌することとなった。そして、同省は、当該事業に関する事務の一部を同日に設立された日本年金機構(以下「機構」という。)に委任又は委託し、機構は、同省の監督の下に、本部、全国9ブロック本部及び312年金事務所等において当該委任又は委託された事務を実施している。
 厚生年金保険(「健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足していたもの」 参照)において行う給付には、老齢厚生年金等がある。

(2) 老齢厚生年金

ア 老齢厚生年金の支給の原則

 老齢厚生年金では、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)により、厚生年金保険の適用事業所に使用された期間(以下「被保険者期間」という。)を1月以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者等が65歳以上である場合に受給権者となる。

イ 特別支給の老齢厚生年金

 特別支給の老齢厚生年金では、当分の間の特例として、原則60歳以上で被保険者期間を1年以上有し、老齢基礎年金に係る保険料納付済期間が25年以上ある者等が受給権者となっている。

ウ 特別支給の老齢厚生年金の給付額

 特別支給の老齢厚生年金の給付額(以下「年金の額」という。)は、〔1〕 受給権者の被保険者期間、その期間における報酬、生年月日等を基に算定される額(以下「基本年金額」という。)と〔2〕 配偶者等について加算される額との合計額となっている。

エ 特別支給の老齢厚生年金の支給の停止

(ア) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、厚生年金保険の適用事業所に常用的に使用されて被保険者となった場合において、総報酬月額相当額(注) と基本月額(基本年金額を12で除して得た額)との合計額が280,000円を超えるときなどには、基本年金額の一部又は年金の額の全部の支給を停止することとなっている。

(注)
総報酬月額相当額  標準報酬月額と、受給権者が被保険者である日の属する月以前1年間の標準賞与額(総額)を12で除して得た額との合算額

(イ) この場合の支給停止の手続は次のとおりである。
〔1〕  厚生年金保険の適用事業所の事業主は、常用的に使用している者が受給権者であるときは、その者の年金手帳により氏名、基礎年金番号等を確認した上で、資格取得年月日、報酬月額等を記載した被保険者資格取得届を年金事務所(21年12月31日以前は、社会保険庁地方社会保険事務局の社会保険事務所又は地方社会保険事務局社会保険事務室。以下、これらを「社会保険事務所等」といい、年金事務所と合わせて「年金事務所等」という。)に提出する。

〔2〕  年金事務所は、これを調査確認の上、届出内容を機構本部(21年12月31日以前は社会保険庁)に伝達する。

〔3〕  機構本部が届出内容に基づいて算定した受給権者に係る年金の支給停止額を厚生労働本省(以下「本省」という。)が確認し、決定する(21年12月31日以前は社会保険庁がこれらの機構本部及び本省が行う事務を行っていた。)。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点及び対象

 全国47地方社会保険事務局の312社会保険事務所等のうち16地方社会保険事務局の88社会保険事務所等(注1) 及び全国9ブロック本部の管轄区域内に所在する312年金事務所のうち8ブロック本部の72年金事務所(注2) が管轄する区域内において19年に特別支給の老齢厚生年金の裁定を受けて年金の額の全部を支給されている受給権者等667,550人のうちに、厚生年金保険の適用事業所からの給与収入が確認されて調査の必要があると認められた者が1,055人見受けられた。そこで、本院は、合規性等の観点から、これらの受給権者等を使用している620事業所について、被保険者資格取得届等の提出は適正になされているかに着眼して、19年度から22年度までの間における特別支給の老齢厚生年金等の支給の適否を検査した。

(注1)
16社会保険事務局の88社会保険事務所等  社会保険庁が廃止される前の平成21年12月末までに本院が検査した箇所
(注2)
8ブロック本部の72年金事務所  日本年金機構が設立された平成22年1月以降に本院が検査した箇所

(2) 検査の方法

 本院は、本省においては、機構本部から提出された年金の支給額に関する関係書類により、また、上記の88社会保険事務所等及び72年金事務所においては、事業主から提出された厚生年金保険に係る届け書等の書類により会計実地検査を行った。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に年金事務所等に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

(3) 不適正支給の事態

 検査したところ、10地方社会保険事務局の41社会保険事務所等及び8ブロック本部の管轄区域内に所在する33年金事務所、計74年金事務所等における112事業所の138人については、当該事業所において常用的に使用されて厚生年金保険の被保険者資格要件を満たしていて、総報酬月額相当額と基本月額との合計額が280,000円を超えるなどしていることから、機構本部において、基本年金額の一部又は年金の額の全部の支給を停止するための手続をとるべきであったのに、被保険者資格取得届が提出されなかったなどのためこの手続がとられておらず、本省(21年12月31日以前は社会保険庁)は、これらの者について、基本年金額の一部又は年金の額の全部の支給を停止していなかった。したがって、特別支給の老齢厚生年金の受給権者138人に対する支給(支給額215,531,816円)のうち85,284,186円は支給が停止されていなかったもので、支給が適正でなく、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、次のようなことによると認められる。

ア 年金事務所等において、受給権者又は事業主が制度を十分理解していなかったり、誠実でなかったりして、事業主が前記の届出を怠るなどしていたのに、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったこと

イ 本省において、機構に対する監督が十分でなかったこと
 前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 社会保険庁は、受給権者Aに対して平成19年10月に裁定を行ったが、AがB会社に常用的に使用され厚生年金保険の被保険者となっていたことから、基本年金額の一部の支給を停止して支給していた。その後、B会社では、Aが20年8月に退職して短時間就労者になったとして、被保険者資格喪失届を提出したため、同庁は、Aに対して同年9月分から22年1月分まで特別支給の老齢厚生年金を全額支給していた。
 しかし、Aは、20年9月以降も引き続きB会社に常用的に使用されており、同人の基本年金額の一部1,826,347円の支給を停止すべきであったのに、これが行われていなかった。

 なお、これらの不当と認める支給額については、本院の指摘により、すべて返還の処置が執られた。
 以上を地方社会保険事務局及びブロック本部ごとに示すと次のとおりである。

地方社会保険事務局名 社会保険事務所等 本院の調査に係る受給権者等数 不適正受給権者数 左の受給権者に係る支給額 左のうち不当と認める支給額
千円 千円
北海道 札幌西 等4 18 5 3,083 884
群馬 前橋 等4 51 13 23,700 9,389
千葉 幕張 等6 36 11 12,950 5,829
東京 中央 等5 18 6 8,209 3,834
新潟 新潟東 等4 42 10 21,852 8,854
岐阜 岐阜南 等3 28 4 3,096 1,794
愛知 中村 等8 47 19 25,391 12,722
和歌山 和歌山東 等3 27 5 8,568 4,106
宮崎 宮崎 等2 26 3 5,178 1,529
鹿児島 鹿児島南 等2 33 2 5,848 953
小計 41か所 326 78 117,879 49,898
ブロック本部名 年金事務所 本院の調査に係る受給権者等数 不適正受給権者数 左の受給権者に係る支給額 左のうち不当と認める支給額
千円 千円
東北 仙台東 1 14 2 1,155 401
北関東・信越 水戸南 等12 102 22 42,751 14,828
南関東 川崎 等3 10 4 2,733 1,298
中部 富山 等7 111 18 31,807 10,015
近畿 兵庫 等3 20 3 4,924 594
中国 岡山東 等2 26 2 4,208 789
四国 善通寺 1 7 3 5,149 4,304
九州 西福岡 等4 17 6 4,921 3,151
小計 33 か所 307 60 97,652 35,385
74 か所 633 138 215,531 85,284

 上記の事態については、社会保険庁及び機構は、発生防止に取り組んできたところであるが、さらに、機構において、事業主に対する指導・啓発の強化を図るとともに、高年齢労働者等が多いと見込まれる事業所に対する調査を重点的に実施するなどの必要があると認められる。また、本省において、機構に対する監督を適切に行う必要があると認められる。