会計名及び科目 | 年金特別会計(厚生年金勘定) (項)保険給付費 | ||
部局等 | 厚生労働本省(平成21年12月31日以前は社会保険庁) | ||
厚生年金保険等の事業に関する事務の一部を委託している相手方 | 日本年金機構(平成22年1月1日以降) | ||
基礎年金番号への統合が行われていなかった年金受給者等 | (1) | 平成20年度決算検査報告においても統合が行われていないとして掲記した者 | 103人 |
(2) | 年金記録相談により判明した者 | 92人 | |
(3) | 黄色便により判明した者 | 2,218人 | |
計 | 2,413人 | ||
上記に係る年金支給見込額の増加額等 | (1) | そ及して支給される年金の見込額 | 4200万円 |
(2) | 年金支給見込額の増加額(年額) | 930万円 | |
そ及して支給される年金の見込額 | 203万円 | ||
(3) | 年金支給見込額の増加額(年額) | 1億0465万円 | |
計 | 1億5800万円 |
(前掲の「年金記録相談等において判明した年金記録について、基礎年金番号への統合が適切に行われていなかったため、老齢厚生年金等が適正に支給されないなどしていたもの」参照 )
年金記録相談等において判明した年金記録の基礎年金番号への統合の処理について
(平成22年10月20日付け | 厚生労働大臣 日本年金機構理事長 |
あて) |
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び 是正改善の処置を求める。
記
厚生労働省は、平成22年1月1日に社会保険庁が廃止されたことに伴い、従来同庁が所掌していた厚生年金保険及び国民年金の事業に関する事務を所掌することとなった。
そして、厚生労働省は、当該事業に関する事務の一部を同日に設立された日本年金機構(以下「機構」という。)に委任又は委託し、機構は、厚生労働省の監督の下に、本部並びに全国9ブロック本部、312年金事務所及び47事務センターにおいて当該委任又は委託された事務を実施している。
厚生労働省は、厚生年金保険及び国民年金の被保険者に関する原簿をそれぞれ備えることとされており、これに氏名、資格の取得及び喪失の年月日、基礎年金番号その他厚生労働省令で定める事項等を記録しなければならないとされている。そして、厚生労働省は、この記録に係る事務を機構へ委託している。
機構の年金事務所(21年12月31日以前は地方社会保険事務局の社会保険事務所又は地方社会保険事務局社会保険事務室)又は事務センター(以下、これらを合わせて「年金事務所等」という。)は、基礎年金番号以外の年金手帳等の記号番号(以下「手帳番号」という。)に係る年金記録(注1) が判明した場合は、老齢厚生年金等を適正に支給するため、社会保険オンラインシステムの端末装置により、当該年金記録を基礎年金番号に統合することとされている。そして、このような場合には、年金事務所等は、年金受給者(年金の裁定(注2) を受けて年金を受給している者をいう。以下同じ。)、年金受給権者又は被保険者等(以下、これらを合わせて「年金受給者等」という。)からの届出を受けることなく統合の処理を行うこととしている。ただし、年金受給者等についての氏名の変更(訂正)及び生年月日の訂正の処理が必要な場合は、年金受給者等からこれらに係る変更又は訂正の届出を受けた上で上記統合の処理を行うこととしている。
(注1) | 年金記録 年金受給者、被保険者等の手帳番号、氏名、性別、生年月日等に関する記録
|
(注2) | 裁定 年金を受給する資格ができたときに必要となる手続
|
年金記録相談で年金受給者等から厚生年金保険に係る年金記録の照会があった場合や、未統合記録の一部を記載した「年金記録の確認のお知らせ(黄色い封筒)」(以下「黄色便」という。)を送付した年金受給者等(以下「送付対象者」という。)から自身の記録である旨の回答票を返送された場合の年金事務所等における事務処理方法は、おおむね次のとおりとされている。
ア 年金記録相談により判明した年金記録に係る事務処理
年金事務所等は、年金受給者等から提出された「厚生年金保険被保険者加入期間照会申出書」(以下「照会申出書」という。)について調査した結果、年金受給者等が基礎年金番号と手帳番号の両方を保有していることが判明した場合には、手帳番号の年金記録を基礎年金番号に統合するなどした上で、その結果を年金受給者等に被保険者記録照会回答票等により回答する。
ただし、照会申出書の提出者が年金受給者であるときは、年金記録の統合により年金額に影響がある場合、年金事務所等は、統合後の年金見込額の試算を行って、その年金見込額試算結果を提示する。そして、その年金受給者から年金記録の訂正及び年金額の再裁定(当初の年金支給開始の際に行った裁定の変更をいう。以下同じ。)に係る申出書(以下「年金再裁定申出書」という。)を提出してもらって、その年金再裁定申出書に基づき年金受給者に係る年金記録の統合及び年金の再裁定を行う。
イ 黄色便により判明した年金記録に係る事務処理
年金事務所等による調査の結果、送付対象者が黄色便に記載された手帳番号の持ち主であると判明した場合には、手帳番号の年金記録を基礎年金番号に統合するなどして、その結果を送付対象者に被保険者記録照会回答票等により回答する。ただし、送付対象者が年金受給者であるときは、年金記録の統合により年金額に影響がある場合、上記アと同様の事務処理を行う。
本院は、20、21両年次の検査の結果、年金記録相談において判明した年金記録について基礎年金番号への統合の処理が適切に行われていなかったため、本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしている事態を平成20年度決算検査報告
に掲記した。これに対し、厚生労働省は、指摘のあった事案に係る統合処理等を進めることはもとより、年金記録相談において記録が判明してから相当の期間が経過しているにもかかわらず届出書等の提出がない者に対する勧奨方法を検討して対応するとともに、年金記録が判明した場合の基礎年金番号への統合処理等の取扱いを改めて明示することにより、対応の統一化及び事務の迅速化に努めるなどとしていた。
そこで、本年次においては、合規性等の観点から、年金事務所等において年金記録の基礎年金番号への統合が適切に行われているか、また、厚生労働本省及び機構本部において再発防止のための措置を講じているかなどに着眼して検査した。
本院は、機構の全国9ブロック本部の管轄区域内に所在する179年金事務所等において、次の年金受給者等を対象として、照会申出書、被保険者記録照会回答票等の関係書類により会計実地検査を実施した。
〔1〕 平成20年度決算検査報告に、基礎年金番号への統合が適切に行われていなかったため老齢厚生年金等が適正に支給されていないなどとして掲記した者
〔2〕 年金事務所等が年金記録相談において年金受給者等から照会申出書の提出を受けて回答した者(平成20年度決算検査報告に掲記した者を除く。)
〔3〕 黄色便により送付対象者が手帳番号の持ち主であると判明した者
検査したところ、117年金事務所等において、年金受給者等3,252人に係る厚生年金保険の手帳番号の年金記録3,801件を基礎年金番号に統合する必要があるのに、当該年金記録を統合していないなどの事態が、次のとおり見受けられた(年金事務所等数については重複しているものがある。)。
ア 前記〔1〕 の平成20年度決算検査報告に掲記した1,133人(1,319件)に係る事態について、厚生労働省は、前記のとおり、届け書等の提出がない者に対する勧奨方法を検討して対応するとともに、年金記録が判明した場合の基礎年金番号への統合等の取扱いを改めて明示することにより、対応の統一化及び事務処理の迅速化に努めるなどとしていた。しかし、これらの対応は執られておらず、同省は、機構に対して年金記録相談において判明した未統合記録の処理状況を確認して対応するよう依頼したにとどまっている状況であった。
このため、次表のとおり、本院が22年5月及び6月に実施した会計実地検査時点においても、年金事務所等において、依然として基礎年金番号への統合が行われていなかったため、そ及して支払われるべき年金が支給されていないなどしていた。
42年金事務所、565人、678件
平成20年度決算検査報告に不当事項として掲記されたもの | 左のうち本年度の検査において依然として基礎年金番号への統合が行われていないなどしていたもの | 左の内訳 | |||||
年金記録の統合により年金支給額等に増加が生じる年金記録を有するもの | 年金記録の統合により年金支給額等に変動が生じない年金記録を有するもの | ||||||
人数 | 件数 | 人数 | 件数 | 人数 | 件数 | 人数 | 件数 |
人
1,133 |
件
1,319 |
人
565 |
件
678 |
人
103 |
件
139 |
人
462 |
件
539 |
イ 前記〔2〕 の年金記録相談において、年金事務所等が年金受給者等から照会申出書の提出を受けて回答した者について、平成20年度決算検査報告に掲記した事態と同様、調査結果に基づく当該年金記録の統合、届出及び年金再裁定申出書の提出等の進ちょく管理を行う体制が整備されておらず、届け書が未提出になっている者に対し、これを提出するよう勧奨するなどの統合に向けた処理を行っていなかった。また、氏名の変更(訂正)及び生年月日の訂正がないなどの者については、届出がなくとも基礎年金番号への統合を行うことになっていたのに、これを行っていなかった。
65年金事務所等、365人、421件
前記〔3〕 の黄色便について、年金事務所等は、送付対象者本人の年金記録であると判明していて、これを速やかに基礎年金番号に統合する必要があったのに、黄色便の送付対象者が申し出た勤務先等に係る記録の調査確認、統合後の年金見込額の試算等の事務処理が遅滞しているとして統合を行っていなかったり、年金再裁定申出書が未提出になっている者に対し、これを提出するよう勧奨するなどの統合に向けた処理を行っていなかったりしていた。
40年金事務所等、2,322人、2,702件
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
品川年金事務所では、黄色便に係る記録を調査確認することによって年金受給者に係る年金記録が判明したのに、246人(275件)の年金記録について、当該記録が判明してからおおむね3か月から6か月経過した22年5月の会計実地検査時点においても、統合後の年金見込額の試算を行っていなかった。
しかし、年金受給者については、その年金額が増加する可能性があるため、同事務所は、これらの年金記録に係る統合後の年金見込額の試算を速やかに行い、基礎年金番号への統合を進める必要があった。
そして、本院の会計実地検査を踏まえて、その後同事務所が上記の246人の年金記録について調査したところ、そのすべてが統合を行うことにより、年金受給者の年金額が増加する者であった。
上記(1)及び(2)の統合の処理が行われていなかった年金受給者等計3,252人に係る年金記録計3,801件のうち、脱退手当金(注3) の支給を受けていたなどのため年金支給見込額(注4) が増加しない者839人に係る1,022件を除いた2,413人に係る2,779件の年金支給見込額の増加額及びそ及して支給される年金の見込額の内訳は、次のとおりである。
前記(1)アに係る年金受給者等 | ||||
103人 | 139件(注5) | そ及して支給される年金の見込額 | 4200万余円 |
前記(1)イに係る年金受給者等(注6) | ||||
92人 | 102件 | 年金支給見込額の増加額(年額) | 930万余円 | |
7人 | 7件 | そ及して支給される年金の見込額 | 203万余円 |
前記(2)に係る年金受給者等 | ||||
2,218人 | 2,538件(注7) | 年金支給見込額の増加額(年額) | 1億0465万余円 |
注(3) | 脱退手当金の支給に係る年金記録を基礎年金番号へ統合した場合、老齢厚生年金等の受給資格を満たすための期間には算入されるものの、老齢厚生年金等の額には影響しない。 |
注(4) | 年金支給見込額 被保険者について現に加入している制度の被保険者記録を受給権発生日又は60歳のいずれか早く到来する時点まで延長した場合等の額である。この額は、必ずしも将来における実際の年金支給額となるものではない。
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注(5) | 103人 139件 103人(139件)に係る年金支給見込額の増加額665万余円(年額)は、平成20年度決算検査報告において指摘金額としており、本件指摘と重複するため含めていない。
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注(6) | 下段の年金受給者等7人(7件)は上段の92人(102件)と重複している。 |
注(7) | 2,218人 2,538件 2,218人(2,538件)のうち年金受給者及び年金受給権者に係るそ及して支給される年金の見込額は、統合すべき年金記録が判明した時点では、年金事務所等においてこの額を試算していない。
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以上のように、年金事務所等において、年金記録相談等により統合すべき年金記録が判明した場合は速やかに基礎年金番号に統合する必要があったのに、これを行っておらず、その結果、本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしている事態は適切とは認められない。
そして、一昨年次から本年次までの間において会計実地検査の対象とした照会申出書、被保険者記録照会回答票等は、年金相談者から年金記録の照会の申出を受けたものなどのごく一部にすぎないことから、これ以外の照会申出等についても、上記と同様の事態が多数生じている可能性がある。
したがって、このような本来支給されるべき老齢厚生年金等が年金受給者に適正に支給されないなどしている事態を解消するため、早急に是正及び是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 年金事務所等において
(ア) 届け書等を提出するよう年金受給者等に勧奨することや、年金受給者等からの届出が無くとも基礎年金番号への統合を行う必要があることの認識が十分でないこと
(イ) 基礎年金番号への統合や届け書及び年金再裁定申出書の提出等の進ちょく管理を十分に行っていないこと
イ 機構において、年金事務所等に対して、未統合の年金記録が判明した場合の基礎年金番号への統合の取扱いを明示していないなど年金事務所等に対する指導が十分でないこと
ウ 厚生労働省において、上記ア及びイのことについて、機構に対する監督が十分でないこと
厚生労働省及び機構において、これまでの本院の検査の結果、基礎年金番号への統合が行われていなかった年金記録について、基礎年金番号への統合を速やかに行うよう是正の処置を要求するとともに、今後、年金記録の基礎年金番号への統合を適切に行うための体制を整備するよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 機構において、年金事務所等に対して、年金記録の統合に必要な届け書等の提出についての勧奨方法等、基礎年金番号への統合に当たっての取扱いを明示するとともに、そのことについて周知徹底を図ること
イ 機構において、年金事務所等に対して、年金受給者等からの年金記録に係る照会及びその回答並びに黄色便に係る送付対象者からの回答を基にして、年金記録の統合に必要な届出の勧奨、年金見込額試算結果の提示、年金再裁定申出書の提出の勧奨及び未統合記録の統合等の各段階について、その進ちょく状況の把握が可能となるよう管理簿等に記録させるなどするとともに、関係書類を適切に管理させること
ウ 機構において、上記イの年金事務所等における未統合記録の処理状況を確実に把握するとともに、年金記録の統合の取組が十分でない年金事務所等に対して、その的確な実施を図るために指導を行うこと
エ 厚生労働省において、機構に対して、上記ア、イ及びウの処置が適切に執られるよう監督を十分行うこと