ページトップ
  • 平成21年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第19 独立行政法人日本学術振興会|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

科学研究費補助事業において、研究者に対して効果的な督促を行うことなどにより、研究成果報告書等を長期間提出していない事態を解消するよう適宜の処置を要求し及び今後同種事態が発生しないよう是正改善の処置を求めたもの


科学研究費補助事業において、研究者に対して効果的な督促を行うことなどにより、研究成果報告書等を長期間提出していない事態を解消するよう適宜の処置を要求し及び今後同種事態が発生しないよう是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 (項)科学研究費補助事業費
  平成10年度以前は、
一般会計 (組織)文部本省 (項)科学振興費
部局等 独立行政法人日本学術振興会(平成15年9月30日以前は日本学術振興会。平成10年度以前は、文部本省)
補助の根拠 独立行政法人日本学術振興会法(平成14年法律第159号。平成15年9月30日以前は日本学術振興会法(昭和42年法律第123号)。平成10年度以前は、予算補助)
補助事業 科学研究費補助
補助事業の概要 我が国の学術の振興に寄与するために、あらゆる分野における優れた独創的・先駆的な学術研究を格段に発展させるもの
平成22年1月現在の督促リストに記載されて いる長期未提出課題数 164研究機関における長期未提出者593人の658件(研究期間終了年度平成11年度〜19年度)
上記に対する国庫補助金交付額の合計 57億8253万円(平成9年度〜19年度)
上記の長期未提出者のうち新規に研究課題の採択を受けていた者及びその研究課題数 69人の72件(平成21年度)
上記に対する国庫補助金交付額の合計  2億8167万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

    科学研究費補助事業における研究成果報告書等の提出について

(平成22年6月21日付け 独立行政法人日本学術振興会理事長あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1) 科学研究費補助金の概要

 貴振興会(平成15年9月30日以前は日本学術振興会。以下同じ。)は、独立行政法人日本学術振興会法(平成14年法律第159号。15年9月30日以前は日本学術振興会法(昭和42年法律第123号))等に基づき、我が国の学術の振興に寄与するために、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的・先駆的な学術研究を格段に発展させることを目的として、科学研究費補助事業を実施している。この事業は、学術研究を行う大学、研究所等(以下「研究機関」という。)の研究者又は研究者グループが計画する基礎的研究のうち、学術研究の動向に即して特に重要なものについて、研究費用を助成するために科学研究費補助金(以下「科研費」という。)を交付するものである。

(2) 科研費の交付等の業務

 科学研究費補助事業の公募及び審査並びに科研費の交付業務は、10年度までは文部科学省(13年1月5日以前は文部省。以下同じ。)がすべての研究種目について実施していたが、11年度以降は段階的に文部科学省から貴振興会に業務の移管が行われており、現在では、貴振興会が科研費の交付対象となる研究種目のうち基盤研究、挑戦的萌芽研究、奨励研究等に係る交付等の業務を実施している。
 科研費の交付を新規に受けようとする者は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究等)取扱要領(平成15年規程第17号。以下「取扱要領」という。)等により、研究計画初年度の前年度の9月以降に公募される研究種目ごとに、所属する研究機関を通じて、研究課題等を記載した応募書類を貴振興会に提出することとなっている。そして、科学研究費補助事業の採択に当たっては、応募書類に基づき、貴振興会に設置された科学研究費委員会が審査を行うこととなっている。

(3) 研究成果報告書等の提出と公開

 取扱要領等により、科研費の交付を受けた研究者は、研究期間終了後に、貴振興会における科研費交付対象研究種目のうち挑戦的萌芽研究、奨励研究等に係るものを除き、科研費による研究成果を冊子体に取りまとめた研究成果報告書並びにその概要を記した和文及び英文の研究成果報告書概要を作成して、これらを研究計画最終年度の翌年度の6月20日から同月30日までの間に、貴振興会等に提出することが義務付けられている(以下、科研費による研究成果の提出が義務付けられた研究者を「研究成果提出義務者」という。)。
 ただし、研究成果提出義務者は、上記の提出期限までに研究成果を取りまとめられない場合には、その理由、取りまとめ予定時期等を記した研究経過報告書を提出して、研究成果の取りまとめができ次第速やかに(19年度以前は原則として1年以内。)、研究成果報告書及び研究成果報告書概要(以下、これらを合わせて「研究成果報告書等」という。)を提出することとなっている。
 上記のうち研究成果報告書は国立国会図書館に配架され、研究成果報告書概要は貴振興会に提出された後、その内容が大学共同利用機関法人である情報・システム研究機構国立情報学研究所の科研費データベースに登録され、それぞれ広く一般に公開されている。そして、20年度以降に終了する研究課題からは、研究成果報告書等を一体化して電子媒体により貴振興会に提出することとされており、上記の科研費データベースにおいて公開されることとなっている。
 以上のように、科学研究費補助事業において研究成果報告書等を提出させて公開することとしているのは、国民の貴重な税金等を原資とする科研費による研究成果を社会に還元するためであり、研究成果提出義務者が所属する研究機関には、研究成果報告書等の提出に関する事務を行うことが義務付けられている。

(4) 研究成果報告書等の提出が義務付けられている研究種目に係る科学研究費補助事業の応募及び新規採択の状況

 研究成果報告書等の提出が義務付けられている研究種目に係る科学研究費補助事業の貴振興会における最近の応募及び新規採択の状況についてみると、表1のとおりとなっている。

表1
研究成果報告書等の提出が義務付けられている研究種目に係る科学研究費補助事業の貴振興会における最近の応募及び新規採択の状況

年度 応募のあった研究課題数 新規採択された研究課題数等
研究課題数 科研費交付額
 
平成19
20
21

48,113
52,200
51,915

11,062
11,332
12,239

53,408,550
49,514,569
51,703,886

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

 本院は、検査の結果、科学研究費補助事業において研究成果報告書等が提出されず研究成果が公開されないままとなっている事態が多数見受けられたことから、研究成果報告書等の提出の徹底を図り、科研費による研究の評価の充実に資するよう、文部大臣に対して10年11月に会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。 これを受けて文部科学省は、研究成果報告書等の提出状況を調査・把握して研究成果報告書未提出課題一覧(以下「督促リスト」という。)を作成するとともに、これを研究成果報告書等が未提出となっている研究成果提出義務者(以下「未提出者」という。)の所属する研究機関に送付して督促の強化を図るよう指導し、さらに、11年度以降の科研費の交付に当たっては、科学研究費補助事業の新規採択者が未提出者である場合には、研究機関の代表者に対して速やかに研究成果報告書等を提出させるよう交付の内定通知に明示することとするなどの処置を講じたところである。
 そこで、本院は、文部科学省により執られた上記の処置のフォローアップとして、貴振興会が、研究成果報告書等の提出が義務付けられている研究種目に係る科研費の交付等の業務の大半を行っていることから、合規性、有効性等の観点から、貴振興会において、研究成果報告書等の提出に係る指導の徹底が図られているか、研究成果報告書等の提出状況の調査・把握や督促が適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

 検査に当たっては、貴振興会において、貴振興会が作成している督促リストのうち研究期間終了後1年を超えて研究成果報告書等が未提出となっている研究課題(以下「長期未提出課題」という。また、長期未提出課題に係る研究成果提出義務者を「長期未提出者」という。)について、22年1月現在の督促リストに記載されている164研究機関における593人の658件を対象として、研究機関に対する督促の指導状況等を聴取するとともに、このうち長期未提出者が多い研究機関を中心として21研究機関(注1 )において、長期未提出者に対する督促の実施状況等について、督促リスト等の関係書類を確認したり、長期未提出者から事情を聴取したりするなどの方法により、それぞれ会計実地検査を行った。
 また、貴振興会において、上記の長期未提出者593人を対象として、21年度の科学研究費補助事業の新規採択状況等について検査した。

 21研究機関  北海道大学、東北大学、筑波大学、東京医科歯科大学、東京工業大学、一橋大学、京都大学、大阪大学、広島大学、首都大学東京、横浜市立大学、兵庫県立看護大学(現兵庫県立大学)、埼玉工業大学、青山学院大学、慶應義塾大学、共立薬科大学(現慶應義塾大学)、昭和大学、法政大学、関西大学、財団法人労働科学研究所、国立感染症研究所

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 研究成果報告書等が長期間提出されていない事態

 ア 貴振興会における研究機関に対する督促の指導状況

 貴振興会は、毎年1月現在の督促リストを作成して未提出者が所属する研究機関に送付して、研究機関が未提出者に対して督促を行うよう指導している。そこで、貴振興会が作成した21年1月現在と22年1月現在の督促リストを比較したところ、研究成果報告書未提出課題の件数は1,567件から1,075件へと減少している。
 一方、長期未提出課題の件数は593件から658件へと増加しており、22年1月現在の長期未提出課題658件(科研費交付額計57億8253万余円)について研究期間終了年度別の内訳をみると、表2のとおりとなっている。

表2
平成22年1月現在の督促リストにおける長期未提出課題の研究期間終了年度別内訳

研究期間
終了年度
長期未提出課題数   研究科研費交付額
長期未提出者数 左に係る機関数
 
平成11
  12
  13
  14
  15
  16
  17
  18
  19
15
31
36
32
55
64
61
112
252
(%)
( 2)
( 5)
( 5)
( 5)
( 8)
(10)
( 9)
(17)
(38)
14
31
36
32
55
64
60
111
250
 
11
22
27
21
36
34
38
54
93
千円
68,500
102,600
220,510
231,980
407,970
369,320
499,430
1,149,654
2,732,570
合計 658 (100) 593 164 5,782,534

注(1) 長期未提出課題数欄の( )内の数値は年度別の構成割合で、四捨五入しているため、これらを合計しても100%にならない。

注(2) 長期未提出課題数と長期未提出者数とが一致しないのは、1人で複数の研究課題について科研費の交付を受けている者がいるためである。

注(3) 長期未提出者数及び研究機関数の合計欄はそれぞれ純計である。

注(4) 科研費交付額には交付年度が平成9年度及び10年度のものが含まれている。

 これをみると、研究期間終了年度が18年度以前、すなわち、約2年10か月以上未提出となっている長期未提出課題数が406件(全体の62%)となっていて、中には10年近く研究成果報告書等を提出していないものも15件ある。
 このような状況に対し、貴振興会は、長期未提出者が所属する研究機関に対して督促リストを送付して督促を行うよう指導しているものの、長期未提出課題を解消するための特別な指導や長期未提出者に対する未提出理由の調査等を全く行っていなかった。また、研究機関から報告された研究成果報告書等の提出情報が督促リストに誤って記載されている事態も見受けられた。

イ 研究機関による督促の実施状況

 研究機関は、上記のとおり、貴振興会から毎年1月現在の督促リストの送付を受けて、未提出者に対して督促を行うよう指導を受けている。しかし、会計実地検査を行った21研究機関のうち3研究機関(注2 )においては、未提出者に対する督促を全く行っておらず、残りの18研究機関においては、未提出者に対して電話、文書等により、貴振興会から督促を受けていることを通知しているだけで、21研究機関で、その代表者(学長等)が責任を持って研究成果報告書等を提出させるなどの効果的な督促を実施しているものはなかった。
 また、会計実地検査を行った21研究機関のうち7研究機関(注3 )においては、研究機関に研究成果報告書等が提出されているのに、研究機関でこれを貴振興会等に提出しないまま倉庫等に保管するなどしていて長期未提出者とされている者があった。

 3研究機関  埼玉工業大学、共立薬科大学(現慶應義塾大学)、国立感染症研究所

 7研究機関  東京医科歯科大学、横浜市立大学、埼玉工業大学、青山学院大学、慶應義塾大学、昭和大学、国立感染症研究所

ウ 長期未提出者の認識とその問題点

 会計実地検査を行った21研究機関において、長期未提出者から未提出理由を聴取したところ、その理由は主として次のようなものとなっていた。
〔1〕 業務多忙等のため提出を失念したり、既に提出しているものと誤認したりなどしていたこと
〔2〕 科研費による研究成果について、他の研究成果を加えて取りまとめを行おうとしたり、学術雑誌への論文投稿を優先しようとしたりしたこと
 しかし、長期未提出者は、平均採択率が約2割という厳しい競争の中から選ばれて国民の貴重な税金等を原資とする科研費を使用しているのであるから、上記〔1〕 のような理由を未提出の理由として挙げることは、研究成果提出義務者としての認識が十分でないと認められる。また、上記〔2〕 のような理由は、研究成果提出義務者が行わなければならないとされている研究成果報告書等の作成・提出とは別個の問題である。

(2) 長期未提出者に対して科研費を新規に交付している事態

 貴振興会が作成した22年1月現在の督促リストに記載されている長期未提出者593人を対象として21年度の科学研究費補助事業の新規採択の状況についてみたところ、貴振興会は、長期未提出者に対する未提出理由の調査を行わないまま、長期未提出者69人が新たに応募した研究課題数72件(科研費交付額計2億8167万円)に対して、再度科研費を交付していた。
 しかし、研究成果報告書等を提出させて公開することとしているのは国民の貴重な税金等を原資とする科研費による研究成果を社会に還元させるためであることにかんがみれば、貴振興会が、上記のように、研究成果報告書等の提出を怠り国民に対する説明責任を果たしていない長期未提出者に対して未提出の理由を確認しないまま科研費を新規に交付している事態は適切とは認められない。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

 上記のように、研究成果報告書等が長期間にわたり提出されていない事態や、長期未提出者に対して科研費を新規に交付している事態は適切とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、長期未提出者において研究成果の公開の重要性等についての認識が欠如していることにもよるが、主として次のことなどによると認められる。

ア 長期未提出者が所属する研究機関において、研究成果報告書等の提出に関する事務を行うことが研究機関の義務であるという認識が不足しているため、長期未提出者に対する督促が十分でないこと

イ 貴振興会において、研究成果報告書等の提出状況の調査・把握や長期未提出者が所属する研究機関に対する指導が十分でないこと

ウ 貴振興会において、過去に科研費の交付を受けた研究課題に係る研究成果報告書等の提出の有無を確認することなく、科研費を新規に交付していること

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

 科研費は我が国の研究基盤を形成するための基幹的な研究資金であり、国民の貴重な税金等により賄われるものであることから、研究成果提出義務者には、研究成果報告書等を提出することによって国民に対する説明責任を果たすとともに、科研費の研究成果を広く国民に公開して、社会に還元することが求められている。
 ついては、貴振興会において、22年1月現在の督促リストに記載されている長期未提出者に対して研究成果報告書等を速やかに提出させるとともに、研究成果報告書等の提出がない場合には、その理由を確認して、正当な理由があるとは認められない長期未提出者に対しては既に交付した科研費の返還を求めるよう是正の処置を要求し及び長期未提出課題の発生を防止し、また、長期未提出者に対し科研費を新規に交付することのないよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

ア 研究機関との連絡を密にして研究成果報告書等の提出状況を調査して的確に把握するとともに、研究成果報告書等の提出に関する事務を行うことが義務付けられている研究機関に対して、研究機関の代表者が研究成果提出義務者に責任を持って研究成果報告書等を提出させるなどの効果的な督促の実施等について指導したり、督促に応じない長期未提出者やこれが所属する研究機関に関する情報を公表したりなどすること

イ 科研費の新規交付に当たり、過去に科研費の交付を受けた研究課題に係る研究成果報告書等が提出されているか否か調査を行い、提出されていない場合にはその理由を確認して、正当な理由があるとは認められない長期未提出者に対しては科研費の新規交付の制限等を行うこと

【当局が講じた処置】

 本院は、独立行政法人日本学術振興会(以下「振興会」という。)において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
 検査の結果、振興会は、本院指摘の趣旨に沿い、22年8月末までに、病気療養中のため提出できない者等を除くすべての長期未提出者から研究成果報告書等を提出させていた。
 また、振興会は、22年8月末までの督促業務において、研究成果報告書の提出状況を的確に把握するため「研究成果報告書提出予定課題一覧」を作成して各研究機関に送付するとともに、振興会理事長名の督促通知を研究機関の代表者から未提出者に対して交付することとするなどして、効果的な督促を行うよう各研究機関を指導する処置を講じていた。
 さらに、振興会は、22年9月に、「平成23年度科学研究費補助金公募要領」を定めて、これに研究機関の代表者の責任において研究成果報告書を必ず提出させること、研究成果報告書を理由なく提出しない長期未提出者が所属する研究機関の名称等を公表する場合があることなどを明記し、各研究機関に通知するとともに、取扱要領の一部を改正して、研究成果報告書を理由なく提出しない長期未提出者には科研費を交付しないこととするなどの処置を講じていた。