要請を受諾した年月日
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平成21年4月14日
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検査の対象
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総務省、日本郵政株式会社
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検査の内容
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簡易生命保険の加入者福祉施設等の譲渡等についての検査要請事項
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報告を行った年月日
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平成22年3月17日
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会計検査院は、平成21年4月13日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月14日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、 会計検査及びその結果の報告を求める事項
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(一) 検査の対象
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総務省、日本郵政株式会社
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(二) 検査の内容
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簡易生命保険の加入者福祉施設等の譲渡等に関する次の各事項
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参議院決算委員会は、21年6月29日に「平成19年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、上記検査の要請に関する項目の内容は、以下のとおりである。
5 「かんぽの宿」等の施設の譲渡等における不透明な契約の是正について
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日本郵政株式会社の所有・運営する「かんぽの宿」等の施設の譲渡に当たって、契約内容や契約手続、譲渡額等に不透明な点などがあるとして、本年4月、総務省は、16の問題点を指摘するとともに、日本郵政株式会社法に基づく監督上の命令を発出する事態に至っている。また、旧日本郵政公社等が締結した譲渡等に関する契約において、譲渡後に当該施設が売却額を大きく上回る額で転売される事態が見られるなど、施設の譲渡等に関する契約内容の妥当性が疑問視される事態が相次いでいる。
政府は、日本郵政株式会社に対し、「かんぽの宿」等の施設の譲渡等に関する契約の締結に当たっては、公平性、透明性の確保等を図るよう対応させるべきである。 |
政府は上記(2)の「平成19年度決算審査措置要求決議」に対して、22年1月27日に「平成19年度決算審査措置要求決議について講じた措置」を以下のとおり参議院決算委員会に報告している。
5 「かんぽの宿」等の施設の譲渡等における不透明な契約の是正について
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「かんぽの宿」等の施設の譲渡等については、総務省は、平成21年4月、日本郵政株式会社に対し、企業統治の強化等を内容とした「日本郵政株式会社法」に基づく監督上の命令を行い、日本郵政株式会社が講じる是正・改善措置の四半期毎の報告を求めたところである。
これを受けて、日本郵政株式会社から、同年6月、第1回報告として、不動産売却等のルールの整備・確立を内容とする是正・改善措置の報告が、また、同年10月には、第2回報告として、不動産売却等のルールの整備状況及び第1回不動産売却等審査会の開催状況など、同年9月末までに講じた措置についての報告が行われたところである。 今後とも、日本郵政株式会社が有する財産の処分に際しては、国民共有の財産という認識の下、手続等の公平性、透明性の確保を図るべく、監督上の命令に対する是正・改善措置の状況についての報告を精査し、しかるべく指導・監督を行ってまいりたい。 |
ア 加入者福祉施設等の概要
簡易生命保険の加入者福祉施設(以下、単に「加入者福祉施設」という。)は、簡易生命保険法(昭和24年法律第68号。平成19年10月廃止)の規定に基づき、簡易生命保険の加入者の福祉を増進するため設置されたもので、昭和37年以降、簡易保険福祉事業団(以下「簡保事業団」という。)により、保養センター、レクリエーションセンター等の諸施設が全国に計112施設設置された。また、郵便貯金事業においては、郵便貯金周知宣伝施設(以下「周知宣伝施設」という。)が、郵便貯金法(昭和22年法律第144号。平成19年10月廃止)の規定に基づき、全国に計23施設設置された。
公的宿泊施設については、整備が進んだ民間の同種施設との競合が50年代後半になって各地で問題とされ、種々の検討が行われた結果、加入者福祉施設や周知宣伝施設に対しても、新設を行わないこと、施設の統廃合等を含めその配置を見直すことなどの政府の方針が閣議決定として、58年から平成13年にかけて示されている。
そして、上記の閣議決定を受けるなどして、簡保事業団及び日本郵政公社(15年4月に簡保事業団の業務を承継。以下「公社」という。)は、各施設の収支率等を勘案して、加入者福祉施設等の廃止、売却を行った。
イ 日本郵政株式会社に承継された加入者福祉施設等の概要
19年10月、公社の解散に伴い、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)は、加入者福祉施設71施設、周知宣伝施設11施設を承継した。これらの施設は、日本郵政株式会社法(平成17年法律第98号)の規定により、24年9月30日までにすべて譲渡又は廃止することとされたが、21年12月に「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律」(平成21年法律第100号。以下「郵政株式処分停止法」という。)が施行され、日本郵政は、日本郵政株式会社法の規定にかかわらず、別に法律で定める日までの間、承継した加入者福祉施設及び周知宣伝施設の譲渡又は廃止をしてはならないものとされている。
ウ 日本郵政が締結した株式譲渡契約と見直しの経緯
日本郵政は、承継した加入者福祉施設であるかんぽの宿等について、20年度内の譲渡完了に向けて契約手続を進めた結果、20年12月26日に、オリックス不動産株式会社(以下「オリックス社」という。)と株式譲渡契約を締結した。しかし、21年1月、総務大臣から本件契約に関し契約相手方の選定等についての疑義が表明されたことから、日本郵政は、同年2月25日、本件契約を解約している。
本院は、検査の要請を受けた各項目について、正確性、合規性、経済性、効率性等の観点から、施設の運営管理は経済的、効率的に行われているか、減損会計の適用等による資産の評価及びその手続は適切に行われているか、不動産売却における予定価格の算定及び契約事務は適切に行われ、公正性、競争性及び透明性が確保されているか、また、日本郵政が締結したオリックス社との株式譲渡契約の内容、契約手続及び契約価格は適切かなどに着眼して検査を実施した。
検査は、総務省、日本郵政等から調書及び報告を徴して、施設の運営状況、減損会計の実施状況、契約の実施状況等を専門家の意見も踏まえて分析するとともに、総務省、日本郵政の本社及び地方組織等計26か所の会計実地検査を行った。
ア かんぽの宿等(旧加入者福祉施設)について
21年3月末現在、日本郵政が運営管理しているかんぽの宿等は、全国の主な保養地等に所在する71施設となっており、その簿価は269億2599万余円、建設に要した費用は総額2666億2676万余円となっている。
かんぽの宿等の運営管理の状況についてみると、宿泊利用者数は15年度以降毎年度減少し、20年度の宿泊利用者数は、71施設の合計で211万人(1施設当たり平均3万人)となっているが、客室稼働率は71.2%、定員稼働率は50.8%となっていて、民間の中規模旅館より相当良好な状況にある。個別のかんぽの宿等の施設損益は、15、16両年度では、かんぽの宿有馬のみが経常損益で黒字であったが、17年度から減損会計が導入され減価償却費が大幅に減少したことにより、20年度には黒字施設が12施設に増加している。71施設の損益を集計すると、経常収益354億1690万余円、経常費用379億5641万余円で差引き25億3951万余円の赤字となっている。また、本社等経費を含めた宿泊事業全体の損益は、施設損益の2倍以上の58億1573万余円の赤字となっている。
かんぽの宿等の宿泊料金は、施設によって土曜日や夏休み、連休等のシーズン料金の扱いが異なっており、中には高需要期にもかかわらず料金が比較的低廉に設定されているものがあった。また、日本郵政は、20年度以降の3年間で、飲食部門等3部門の委託業務の直営化を実施することとしたが、直営化後の人件費率についてみると、20年4月から3部門を直営化した1施設では50.7%、6月に直営化がずれ込んだ9施設でも42.3%となっていて、いずれも中規模旅館の人件費率28.2%(19年度)を大きく上回っている。
かんぽの宿等における損益分岐点売上高を本院で試算したところ、固定費(人件費のうち固定給与部分、光熱水料費等)の割合が高くなっているため、481億3176万余円と試算され、現在の営業収益352億1309万余円と比べて著しく高い数値となる。
本院において、かんぽの宿等66施設を対象に、18年度から20年度までの償却前営業利益額(以下「GOP」という。)に基づき、A、B、Cの3類型に区分して、各区分ごとに各種の経営指標を比較したところ、下位のB、C区分においては、GOPを改善するため、グループ利用等の新たな顧客開拓等による宿泊利用者数の更なる増加及び飲食単価の上昇による収益の増加に努めるとともに、民間旅館と比べ高率となっている人件費の更なる削減を図る必要があると認められた。そして、C区分については、その上でなお損益が改善されない施設は、郵政株式処分停止法の施行により現時点での廃止はできないとしても、一時的な休業も念頭に抜本的な損益改善策を検討することも必要である。
イ メルパルク(旧周知宣伝施設)について
日本郵政が承継したメルパルク11施設の簿価は、21年3月末現在で346億4336万余円となっており、その利用者は19年度には447万人となっている。公社化以降、11施設すべてにおいて、収入から支出(減価償却費等を除く。)を差し引いた収支が黒字となっている。
メルパルク等の運営について、国、公社及び日本郵政は、20年9月まで郵便貯金振興会(昭和52年からは認可法人の郵便貯金振興会、平成15年からは財団法人郵便貯金振興会、19年10月からは財団法人ゆうちょ財団。以下、これらを合わせて「振興会」という。)に委託していた。国との運営委託契約において、振興会は、毎事業年度、損益計算の結果生じた利益は振興会の積立金として整理することとしていた。その結果、公社化直前の14年度末における積立金の額は48億1716万余円となっていた。また、公社との運営委託契約においては、振興会は、委託事業に係る経理を行っていた特別会計における「剰余の資産」のうち、契約期間中に公社が負担した減価償却費等に相当する額までは公社に納付することとされていたが、19年度下期においては固定額を納付させることとしていたため、19年度の利益10億3815万余円が振興会に帰属している。
さらに、20年度の日本郵政との運営委託契約の終了に伴い、国、公社及び日本郵政との委託契約に基づく施設の運営に必要な職員を対象として引当てが行われていた退職給付引当金の残高は、20年度末には47億4393万余円になっているが、振興会は厚生年金基金を解散し、23年9月末までに清算を終了する予定となっており、その際に退職給付引当金の取崩しの結果として会計上の利益が生ずることが見込まれている。
以上のように、国が国有財産であるメルパルク等の運営を委託したことなどにより生じた利益等が、委託契約の終了に伴う積立金の処分に係る規定が法令及び委託契約書上になかったなどのために振興会に帰属することとなっている。しかし、これらの利益が生じた背景として、郵便貯金法の規定によりメルパルク等の運営は振興会にのみ委託することとされていたことなど特殊な状況にあったことを考慮すると、これらの利益がすべて振興会に帰属することについて、今後、検討の必要があると認められる。
ウ 加入者福祉施設等の承継に係る会計処理と減損会計の実施状況
日本郵政が承継した加入者福祉施設等80施設の承継価額は、土地198億8757万余円、建物等105億7044万余円、計304億5801万余円となっており、周知宣伝施設11施設の承継価額は、土地212億6557万余円、建物等149億8934万余円、計362億5491万余円となっている。
公社及び日本郵政における17年度から20年度までの加入者福祉施設等及び周知宣伝施設に係る減損損失額は、それぞれ1715億0239万余円、1138億9939万余円となっている。加入者福祉施設等における各施設の減損率(減損前の簿価に対する減損損失額の割合)は、17年度で平均52.0%となっているが、18、19両年度(公社実施分)においても引き続き高い水準で推移し、20年度までの通算の減損率は平均77.9%と著しく高くなっている。減損損失額は、不動産鑑定評価額を基に算定されていたが、鑑定評価の手法や鑑定評価額の算定方法が鑑定業者によって相違していたり、具体的な根拠が示されていなかったりしているものなどが見受けられた。
公社の会計に減損会計を適用したことについては、公社法等に基づき企業会計基準に準拠して行われたものである。また、加入者福祉施設等に減損会計を適用したことについては、収益性を重視した取組がなされていること、公社が間近に株式会社化を控えていたことなどの状況を前提とすれば、合理性があると思料される。
しかし、日本郵政が20年3月期以降に減損の兆候ありと判定していることについては、「譲渡又は廃止の決定」及び「雇用維持」は過去の年度の事象であることなどから、これらを再度の減損の兆候とすることには疑義があると思料される。また、19年度の不動産鑑定評価は、本来求めるべき価格よりも相当程度低い価額となっている可能性があると思料される。
ア 旧日本郵政公社が締結した譲渡契約に係る分(15年度〜19年度上期)
(ア) 契約方式及び入札手続について
公社が不用資産として売却した土地、建物等の不動産は628物件、売却価格は総額1093億7632万余円に上っている。
これらに係る146契約のうち一般競争契約によるものが74契約、540物件(売却価格858億7866万余円)、随意契約によるものが72契約、88物件(同234億9765万余円)と、一般競争契約による物件が85.9%と高い比率を占めていた。一般競争契約74件についてみると、62件(83.7%)が1回目の入札で落札者が決定されており、この62件のうち1者応札が13件(20.9%)となっていた。随意契約72件について契約の相手方別にみると、地方公共団体が30件と最も多くなっていた。
複数の不動産を一括して売却するバルク売却は、16年度から19年度までの各年度に1件、計4件が一般競争契約により実施されており、また、複数の物件を地域ごとにグループ化して売却するグループ売却は、17、18両年度に計12件が一般競争契約又は不落随契により実施されているが、それらの物件数は、バルク売却で計431件(売却価格502億2400万円)、グループ売却で計66件(同32億8759万余円)となっている。
(イ) 売却価格の分析
146契約のうち144件(個別売却128件、バルク売却等16件)の平均落札率は、個別売却128件で156.1%、このうち随意契約によるものは120.1%、一般競争契約によるものは201.3%となっていた。落札率が120%以上のものは、随意契約では65件のうち8件(12.3%)にとどまっているのに対して、一般競争契約では63件のうち40件(63.4%)に上っている。また、バルク売却及びグループ売却による落札率は16契約で119.4%となっていた。このように、個別売却による一般競争契約において落札率が高い傾向が明確になっている。
(ウ) 売却における不動産鑑定評価について
鑑定評価額が簿価を下回っていたものが626物件中323件あり、加入者福祉施設等24件は5割にも満たない状況となっていた。また、鑑定評価額が固定資産税評価額を下回っていたものが620物件中241件(38.8%)あり、加入者福祉施設等51件については5割未満となっており、そのうち11件については1割未満となっていた。
公社時に売却された物件の予定価格の算定についてみると、短期間に不動産鑑定評価を2回行い低額な鑑定評価額を採用しているものなど、鑑定評価の徴取方法に疑義がある事態があった。
(エ) 簡保事業団から承継した大規模な未利用地の売却について
簡保事業団当時に加入者福祉施設等の用地として取得され、公社が承継したものの、目的の用途に供されないまま売却された物件の中には、施設の建設を中止したため、地元地方公共団体に解決金を支払うこととなったものなどがあった。
(オ) 譲渡後の転売等その後の状況について
日本郵政の調査結果によると、売却された628物件のうち転売されているものが510件あり、中には4回以上転売されているものが29件(4.6%)あった。また、本院において売却物件40物件を抽出し、現地調査を実施したところ、日本郵政が調査を委託した業者が現地の場所を取り違えるなどして、実際に売却した物件とは異なる物件の現況を記載するなど契約が的確に履行されていないのに、検証が十分行われていないものが5物件あった。
イ 郵政事業庁及び簡保事業団が締結した譲渡契約に係る分(13、14両年度)
13、14両年度に、郵政事業庁及び簡保事業団において売却された不動産は、郵政事業庁296物件、簡保事業団13物件、計309物件となっており、その売却価格は総額263億9921万余円となっていた。売却物件は、郵政事業庁においては、そのほとんどが職員宿舎であった。また、簡保事業団においては、簡易保険診療所等を5件売却していた。
ア 加入者福祉施設等の処分方針について
かんぽの宿等については、24年9月30日までに譲渡又は廃止しなければならないという法律上の前提があった。日本郵政がかんぽの宿等について一括譲渡方式の採用を決定するまでの検討過程についてみると、様々な譲渡方式のメリット及びデメリットを検討した上で、事業の一括譲渡の方針を決定している。しかし、公社が実施した施設の単純売却において、売残りなくすべての施設を売却でき相応の売却益が生じていたことを考慮すると、それぞれの方法におけるメリット及びデメリットの定量的な評価や、それらによった場合の結果を事前に確実に予測することは相当困難であるものの、事業の一括譲渡方式以外にも選択の余地はあったと思料される。
イ かんぽの宿等に係る株式譲渡契約について
(ア) 株式譲渡契約の概要
本件株式譲渡契約は、日本郵政がかんぽの宿等の資産・負債、権利義務の一切を承継する会社を会社分割(新設分割)により設立して、その会社の株式を譲渡するものである。一括譲渡の対象施設は、かんぽの宿等70施設と首都圏の9社宅の計79施設であり、その取得費用は総額2420億余円に上っているが、20年9月末時点の簿価は123億余円と取得費用の約20分の1となっている。
(イ) 本件株式譲渡契約の実施手続
M&Aに関する専門家の意見も聴取した上で検討したところ、本件株式譲渡契約のプロセスは、M&Aでは一般的なものと認められた。そして、プロセスの各段階についての検査結果を示すと、次のような状況となっていた。
a アドバイザーの選定手続
アドバイザーの選定手続についてみると、企画提案の審査に当たっての評価項目に、重要な判断材料であるアドバイザリー手数料は含まれていなかった。企画提案の第二次審査は第一次審査で審査した企画提案書をそのまま用いて審査することとして、評価委員も5名のうち3名までが第一次審査と同一の人物で構成されていたが、第一次審査と第二次審査との得点順位が逆転し、第一次審査で2位であったメリルリンチ日本証券株式会社(以下「メリル社」という。)が第二次審査で1位となってアドバイザーに選定されていた。
b 本件株式譲渡契約に係る手続規程
日本郵政の公的な側面にかんがみれば、その経営に当たって、国民に対して十分な説明責任を果たすことが求められており、本件株式譲渡契約の契約手続等については、その重要性を考慮すれば、公平性及び透明性を確保する必要があったのに、これらに対する配慮が十分でなかった。また、本件株式譲渡契約のプロセスは企画提案の内容を審査して契約の相手方を決定するものであって、入札価格が最も有利な者を直ちに契約の相手方とする競争契約方式によるものではないことから、入札公告において競争入札と表示したことは入札参加希望者等に対して誤解を生じさせる可能性があり、入札公告に対する日本郵政の認識には問題があった。
c 予備審査と損益見通しの配布
予備審査の結果、27社のうち財務安定性や取得後の事業運営体制に問題があるなどとされた4社が落選とされた(その後、1社が辞退した。)。
第一次審査の買い手候補に配布された譲渡後のかんぽの宿の損益見通しは、譲渡後は様々な制約から解放されることを前提に、可能な限りの損益改善事項を盛り込んで作成され、譲渡直後の21年度で17億8600万円の経常利益を計上でき、その後も経常利益は漸増して25年度では29億4000万円となると予測されている。
d 第一次審査とプロセス継続に関する提案
第一次審査の結果、オリックス社等3社が第二次審査の買い手候補として選定されたが、ほぼ同額の取得価格を提示した2社の提案の評価に差がつけられ、一方が落選とされていた。M&Aのプロセスにおいて4社程度を第二次審査に進めさせることは通常あり得ることであり、譲渡価格の更なる増大を期待する観点からも上記2社のうち1社を落選とした判断にはなお疑問が残り、検討する余地があったものと思料される。
また、メリル社から、第一次提案書の提出期限の前日に、現行プロセスの中止・延期を含む提案がされているが、プロセスの中止・延期に関する判断という重要な問題であるにもかかわらず、この提案に対する日本郵政の判断と具体的対応については、関係書類では確認できない状況であり、特に対応を執ることなく審査のプロセスを進めたことには問題があると認められた。
e 第二次(最終)選定プロセスにおける辞退の申出とその対応
第二次(最終)審査に進んだ3社のうち本件手続の辞退の意向を申し出てきたA社及びE社に対して、日本郵政は、E社に対しては執行役が直接訪問し辞退の撤回を促しているが、A社に対しては特段の対応を行っておらず、A社はそのまま本件株式譲渡契約のプロセスから除外されていた。
f 最終提案書
最終提案書における取得価格は、オリックス社105億2200万円、E社105億5500万円となっており、E社がオリックス社を上回っていた。しかし、両社の提示価格には対象事業の負債の承継に関する前提条件の違いがあり、同じ尺度で評価をするためE社をオリックス社の前提条件に合わせると、85億7200万円となり、オリックス社の方が優勢と判断されることとなった。
オリックス社の最終提案書には、新設分割会社に日本郵政から登用するとされた取締役候補者1名の名前が記載されていたが、日本郵政からオリックス社に対して記載部分の訂正を求めるなどの方策はとられていなかった。なお、オリックス社は、対象正社員全員の雇用を引き受けるとしていたが、人件費率を40%から30%へ漸次引き下げることを要望しており、人件費率の目標達成が明らかに困難となった場合、その内容に応じて評価額を減額するなどとしていた。
g 最終審査と株式譲渡契約の締結及び解約
日本郵政は、メリル社からの提案を受け、世田谷レクセンターを譲渡対象から除外して、宿泊事業と首都圏社宅をセットにして価格の更なる引上げを要請したところ、オリックス社から108億8600万円の再提案があったが、E社からは再提案がされなかった。日本郵政は、20年12月26日に、オリックス社を相手方として本件株式譲渡契約を締結して、株式譲渡の実行日を21年4月1日と定めていたが、同年2月25日、日本郵政は、本件契約を解約している。
h 本件株式譲渡契約及びプロセスについての検討
各社の提案金額はM&Aのプロセスにおいて一般的かつ妥当と認められる方法によって算定されていたが、本件のような公的財産の処分に当たっては、公正性、透明性等を確保した上でその説明責任を果たすことが重要となる。しかし、本件株式譲渡契約のプロセスは、実施基準等が定められないまま進められていたことから、譲渡価格の公正性等が確保されたとは必ずしもいえない状況となっていた。
また、かんぽの宿等の簿価は、減損会計の適用により公社承継時に比べ大幅に減額されているが、減損損失の算定等に疑義があり、その減損後の簿価が必ずしも資産価値を適切に反映したものとなっているとはいえないと思料されることから、簿価との比較により判断することはできない。
20年8月及び11月にメリル社からなされた本件株式譲渡契約のプロセスの中止・延期を含めた提案については、担当部門のみで判断すべき事項ではなく、また、これらの段階で経営会議等に諮っていれば、このままプロセスを継続することは必ずしも時宜を得ていないとの経営判断がなされた可能性も否定できないことから、担当者段階で本件プロセスの継続の適否の判断を行ったことは適切ではなかったと思料される。
譲渡対象施設についてみると、首都圏社宅、ラフレさいたま及び休館中のかんぽの宿については、その不動産価値や利用目的等を考慮すると、一括譲渡の対象施設から除外して、個別売却により譲渡価格の最大化を図ることなどを検討する必要があったと思料される。
契約書の内容について検討したところ、本件株式譲渡契約においては、日本郵政は、売却後1年間の正社員及び期間雇用社員に係る総人件費について、売主及び買主双方が合意する水準に達することを確実にすることを誓約していた。しかし、その決定方法や合意に至らなかった場合の措置は契約書には規定されていないため、オリックス社が、本件株式譲渡契約の解除や提示した評価額から上記の水準を超える人件費相当分の減額を主張する可能性を否定できないものとなっており、本件株式譲渡契約は売主である日本郵政にとって不利益な結果を招くおそれがあると思料される。
日本郵政内部の決裁手続について、本件プロセスの各段階で実施された事項のうち経営会議又は取締役会への付議あるいは報告が必要と思料される9事項の決裁状況を確認したところ、取締役会等への付議又は報告の事実が確認できたものは4事項にとどまっていた。社長等に対しプロセスの各段階で口頭説明を行っていたとしても、取締役会等への付議又は報告を十分に行っていないことは、意思決定機関である取締役会等の本件株式譲渡契約に対する関与が十分でなかったものと認められ、本件プロセスにおいて経営判断が適切になされていたとは必ずしもいえない結果となっていた。
ウ ゆうぽうと(旧東京簡易保険会館)及びメルパルクの賃貸借契約等について
ゆうぽうとは、今回のかんぽの宿等の一括譲渡の対象施設から除外されており、その運営については、20年12月から、ホテル、結婚式場等の部門とフィットネスジム部門とに区分して、それぞれ民間会社との間で定期建物賃貸借契約を締結し、各事業を運営させている。また、世田谷レクセンターの運営については一括して民間会社に委託している。
メルパルク11施設については、20年10月から、ワタベウェディング株式会社を相手方に定期建物賃貸借契約を締結して、各施設を運営させている。
かんぽの宿等及びメルパルクについては、従前、日本郵政株式会社法の規定により、24年9月末までに譲渡又は廃止しなければならないとされていたが、21年12月に郵政株式処分停止法が施行され、同法第4条の規定により、日本郵政は、日本郵政株式会社法の規定にかかわらず、別に法律で定める日までの間、譲渡又は廃止をしてはならないものとされた。
したがって、これらの施設は、日本郵政が当分の間は引き続き保有することになったことから、日本郵政においては、今後、多額の損失を毎年計上しているかんぽの宿等の効率的な運営に努め、収支の改善を図ることが喫緊の課題となっている。また、日本郵政及びグループ各社においては、引き続き経営の効率化や郵便局舎等の資産の有効活用等の施策を推進するとしていることを考慮すれば、今後も保有する不動産の売却や再開発等を実施していくものと思料される。
日本郵政の設立過程及びかんぽの宿等のこれまでの設置、運営の経緯等を考慮すれば、かんぽの宿等は、簡易生命保険の契約者等がその保険料等で間接的に負担して長期にわたり設置運営されてきたもので、国民にとっても貴重な財産である。また、日本郵政は、日本郵政株式会社法の規定により設立された特殊会社であり、取締役の選任決議、事業計画の決定等に総務大臣の認可を要することとされるなど、総務大臣の監督を受けることとされている。したがって、これらの施設の運営管理及び処分に当たっては、日本郵政は、適切に定められた手続を適正に実施するとともに、公平性、競争性、透明性が確保されるよう努めなければならず、かつ、それらについて十分な説明責任を果たすことが求められている。
今回、本院が検査したところ、前記の2の検査の結果に示したように、かんぽの宿等の運営、不動産の譲渡等に関し、効率性、公平性、競争性等の面で更に検討すべきであったと認められる事態が見受けられた。また、日本郵政においては、今般問題となったかんぽの宿等の譲渡及び公社時代の不動産処分に関して、21年6月に、総務大臣の監督上の命令に基づき、今後の不動産売却等に関する改善・是正措置を講ずることとするとともに、かんぽの宿等の経営改善に関し、23年度の黒字化を目指して収益面及び費用面での各種の施策を講ずることとしている。
したがって、日本郵政においては、上記の改善・是正措置等を厳正かつ着実に実施することが肝要であるが、特に、次のような点に留意することが必要である。また、総務省においても、日本郵政及びグループ各社への監督に関する職責を引き続き的確に遂行する必要がある。そして、国が振興会に対してメルパルク等の運営を委託したことなどにより生じた利益等がすべてゆうちょ財団に帰属することについて、今後、検討の必要があると認められる。
ア かんぽの宿等の運営管理に当たっては、今後、新規のグループ利用等新たな利用者層の開拓等を行って利用客数の増加を図るとともに、シーズン料金の適切な改定を行ったり、魅力あるプラン商品の開拓、宴会需要や昼会食の利用客を更に取り込んだりして飲食単価を上昇させることなどにより、収益の増加を図ることが必要である。また、費用の削減のため、業務分担の見直し、作業の共有化等により民間と比べ高率な人件費の抑制を行うとともに、近年投資が抑えられてきたために老朽化が進んだ施設及び設備については、今後、大規模な修繕や更新が必要となるが、これらの実施により減価償却費が増加し、損益に影響等を与えることから、これらの修繕等に当たっては、投資効果を十分に考慮して実施することが必要である。
しかし、上記のような措置を執っても、宿泊事業全体についての早急かつ継続的な黒字化は容易なことではないと思料される。このため、各施設について徹底した現況調査を実施した上で詳細かつ適切な経営分析を行い、その結果に基づき施設ごとに適切な経営見通しを策定する必要がある。これにより、確実に損益の改善向上が見込まれる施設と、一般的な措置では採算が取れない施設等との見極めを行い、前者については、重点的かつ効果的な追加投資や営業活動の推進を実施して収益力の向上を図るとともに、後者については、郵政株式処分停止法の施行により施設の現時点での廃止はできないとしても、一時的な休業も念頭に抜本的な損益改善策を検討するなどして、かんぽの宿等の全体的な経営改善を図り、ひいてはこれらの資産価値を高めるように努める必要がある。
イ かんぽの宿等における減損会計の適用に当たっては、減損会計の趣旨及び減損会計基準等に基づき適切に実施する必要があるが、その際、正味売却価額を不動産鑑定評価額により算定する場合は、試算価格(積算価格及び収益価格)の算定及びその調整方法並びに算定基礎数値について十分留意し、必要な場合には受託者から説明や再検討を求めるなどして、適切な鑑定評価額を徴することに努める必要がある。
ア 原則として一般競争契約により不動産を売却することとしているが、その上で適時適切な売却方式等を選定することにより競争性を高め、もって譲渡価格の最大化を図る必要があり、さらに、売却手続の透明性の確保に留意する必要がある。
イ 不動産売却等における予定価格(最低売却価格又は目標価格を含む。)の基となる鑑定評価額を徴するに当たっては、市場価格と大きくかい離することがないよう、その整合性に十分留意する必要がある。
オリックス社との契約の対象であったかんぽの宿等については、前記のとおり、別に法律で定める日までの間は譲渡又は廃止をしてはならないとされたことから、当分の間、これらの施設に関して譲渡手続が必要となる事態は想定されない。しかし、本件のオリックス社との契約における契約候補者の選定プロセスの実施状況に照らして、日本郵政が21年7月に定めた不動産売却等規程に基づいて事業譲渡等を実施するとした場合において、特に留意すべき点を示すと次のとおりである。
ア 公平性、透明性を確保するため、契約に関する実施基準やマニュアルの策定及びそれらの競争参加者への周知に十分留意する必要がある。
イ 譲渡対象施設等の選定や事業損益等の情報の開示・提供に当たっては、競争参加者の増加や譲渡価格の増大等を図る観点から、その内容を十分検討するとともに適時適切に実行することが必要である。
ウ 候補者の選定プロセスの各段階においては、公平性及び透明性を高めるため、審査基準を明確に定めるとともに、譲渡価格の最大化を図るために競争性を高める配慮が必要である。
エ 各段階における意思決定に当たっては、担当部門において完結することなく、新設された不動産売却等審査会において適切な資料による十分な検討を行い、それらに基づいて適切に経営判断を行う必要がある。
オ 契約の締結に当たっては、契約条件に関して契約相手方と十分協議して、事前の合意を図るとともに、合意事項を文書化することにより、事後に不利益な結果を招くことのないよう努める必要がある。
カ 日本郵政等が保有する資産の重要性にかんがみ、透明性の一層の確保を図る観点から、各段階における意思決定や実施プロセスについては、適切かつ十分な記録の作成保管に努め、必要な場合には十分に説明責任を果たせるようにする必要がある。
本院としては、日本郵政及びグループ各社が承継したかんぽの宿等の資産の重要性にかんがみ、今後とも、その運営状況及び処分を含む資産の利活用等の状況について、引き続き検査していくこととする。