在外公館は、事務所、公邸等の施設を管理、使用している。外務省では、これらの施設には外交活動の拠点、情報の発信及び収集、邦人保護等の様々な役割があり、施設の機能や規模は在外公館が所在する国又は地域の状況や相手国政府との関係等によって異なるため、施設の面積や借料は様々な観点からの検討が必要になるとしている。
(ア) 在外公館が管理する国有財産及びリース権
21年度末現在、全在外公館211公館のうち127公館は、国有財産法に基づき、事務所、公邸等の用に供するための土地、建物等を国有財産として管理しており、それらの国有財産台帳価格は、図表4-1のとおり、計1665億6704万余円に上っている。また、31公館(国有財産を管理している23公館を含む。)は、土地、建物等のリース権(注4-1) を国有財産に準じて管理しており、それらの台帳価格は計126億4680万余円に上っている(以下、国有財産及びリース権を合わせて「国有財産等」という。)。
図表4-1 在外公館が管理する国有財産等の状況(平成21年度末現在) (単位:千円)
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国有財産は、国有財産法により、国の事務、事業又はその職員の住居の用に供し、又は供するものと決定したものなど国の行政の用に供するために所有する行政財産と、行政財産以外の普通財産とに分類され、このうち行政財産は、各省各庁の長が管理することとされている。また、外務省は、上記のとおり、土地、建物等の行政財産を管理するとともに行政の用に供するために取得したリース権を管理している。さらに、外務省は、行政財産等を用途廃止した普通財産等を処分するまでの間管理している。
外務省は、管理する国有財産の取扱いについて、外務省所管国有財産取扱規程(昭和28年外務省訓令第1号)を定めており、これにより、国有財産に関する事務の統轄については外務省大臣官房会計課長が行うこととし、各在外公館の国有財産の管理及び処分に係る事務については館長が分掌することとしている。
(イ) 在外公館が管理する借上施設
21年度末現在、全在外公館211公館のうち167公館(国有財産等を管理している91公館を含む。)は、事務所、公邸等の用に供するために土地、建物等を借り上げており、これらの借上施設の借料は計123億4194万余円(21年度)に上っている。
なお、外務省は、21年11月に行われた行政刷新会議のいわゆる事業仕分けの評価結果も踏まえ、見直しの余地がある借上施設について、より借料の安価な施設への移転や施設の統合による借料の抑制を目的とした在外公館のコンパクト化に取り組んでいる。
外務省は、在外公館の事務所や公邸の施設を新設する場合、国土交通省が毎年度作成する「各省各庁営繕計画書に関する意見書」に掲載されている庁舎別固有業務室面積算定基準(以下「面積算定基準」という。)に基づき、当該施設を使用する職員の人数等によりその必要面積を算定することとしている。
しかし、面積算定基準は、15年度に初めて設定されたため、14年度以前に新設した施設や借上施設には適用されていない。また、外務省は、施設を借り上げる際は、面積だけではなく、施設の立地、設備、借料等の諸条件を勘案して選定している。このため、施設の面積は、次のとおり、在外公館によって差が生じている。
(ア) 事務所の面積の状況
検査した51公館について、国有財産等、借上げの別に、事務所に勤務する職員等1人当たりの延床面積が広い上位3公館と狭い上位3公館の延床面積等の状況を示すと、それぞれ図表4-2のとおりである。
図表4-2 事務所の職員等1人当たりの延床面積(平成22年1月1日現在) a 国有財産等<事務所が国有財産等である27公館> 〔1〕 面積が広い事務所 (単位:m2
、円)
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注(1) | 外務省は海外における治安、社会情勢等が我が国と異なることから犯罪等に対する安全性を確保するために在外公館の施設面積を公表していないことなどから、在外公館名を記載していない(以下同じ。)。 |
注(2) | 職員等のうち現地職員については、その職員数に、事務所の基準面積を算定する際に用いる外務公務員1人当たりの標準面積に対する現地職員の比率(0.625)を乗じている。以下、a〔2〕 及びb〔1〕 〔2〕 も同じ。 |
注(3) | 「台帳価格」は、建物の価格のほか、土地、工作物等の価格を含む。以下、a〔2〕 及び図表4-3のa〔1〕 〔2〕 も同じ。 |
〔2〕 面積が狭い事務所 (単位:m2
、円)
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b 借上げ<事務所を借り上げている24公館> 〔1〕 面積が広い事務所 (単位:m2
、円)
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〔2〕 面積が狭い事務所 (単位:m2
、円)
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(イ) 公邸の面積の状況
検査した51公館について、国有財産等、借上げの別に、公邸の延床面積が広い上位3公館と狭い上位3公館の延床面積等の状況を示すと、それぞれ図表4-3のとおりである。
図表4-3 公邸の延床面積(平成22年1月1日現在) a 国有財産等<公邸が国有財産等である41公館> 〔1〕 面積が広い公邸 (単位:m2
、円)
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〔2〕 面積が狭い公邸 (単位:m2
、円)
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b 借上げ<公邸を借り上げている10公館> 〔1〕 面積が広い公邸 (単位:m2
、円)
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〔2〕 面積が狭い公邸 (単位:m2
、円)
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(ア) 事務所の施設の利用状況等
在外公館は、職員等の執務室のほか、会議室、多目的ホール等の施設を備えており、外務省は、これらの施設について、会議、広報文化活動、在外選挙等の通常の目的に利用する以外に、非常時に邦人保護のためのオペレーションルームや緊急避難場所として利用するとしている。
検査した51公館の事務所の会議室、多目的ホール等の施設の設置状況は、図表4-4のとおりである。
図表4-4 事務所の施設の設置状況(平成22年1月1日現在) (単位:公館)
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これらの施設は、在外公館の活動状況、職員等の人数、施設の設置数等によっても利用頻度が異なってくるが、多額の経費を使用して建設したり借り上げたりしているものであることから、可能な限り有効に活用する必要がある。これらの施設のうち、会議室及び多目的ホールの21年度の利用状況は次のとおりである。
a 会議室の利用状況
会議室を備えた51公館の会議室の月間利用回数は、図表4-5のとおりであり、11回以上利用していた在外公館が17公館(33.3%)ある一方、5回以下しか利用していなかった在外公館が21公館(41.2%)あった。
図表4-5 会議室の月間利用回数(平成21年度)
b 多目的ホールの利用状況
多目的ホールを備えた36公館の多目的ホールの月間利用回数は、図表4-6のとおりであり、11回以上利用していた在外公館が6公館(16.7%)ある一方、5回以下しか利用していなかった在外公館が23公館(63.9%)あった。
図表4-6 多目的ホールの月間利用回数(平成21年度)
多目的ホールは、主に展示会、講演会、外交目的のレセプション、在外選挙の投票所等に利用するために設置されているが、外交目的のレセプションや在外選挙は実施回数が限られているため、展示会、講演会等を積極的に行っていない在外公館は、多目的ホールの利用回数が特に少なかった。
(イ) 館長公邸の施設の利用状況等
館長の公邸は、館長の住居であるとともに、所在国関係者、外交団、邦人関係者等との会食、レセプション、広報文化事業等の外交活動に利用する公的な場であることから、国が国有財産等として所有したり、借り上げたりしている。
検査した51公館の公邸は、食堂、サロン等、ゲストルーム、プール及びテニスコートの施設を備えており、その設置状況は図表4-7のとおりである。
図表4-7 公邸の施設の設置状況(平成22年1月1日現在) (単位:公館、%)
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これらの施設は、現地の状況等を踏まえた外交活動の方針によって、利用の仕方、回数等が異なってくるが、多額の経費を使用して建設したり借り上げたりしているものであることから、可能な限り有効に活用する必要がある。これらの利用状況は、次のとおりである。
a 食堂、サロン等の利用状況
前記のとおり、公邸は会食、レセプション、広報文化事業等の外交活動の場として利用されることから、通常、食堂、サロン等の部屋が複数設けられている。
食堂、サロン等での年間会食実施件数別の在外公館数は、図表4-8のとおりであり、1年間に61回以上会食を実施していた在外公館が17公館(33.3%)ある一方、20回以下しか実施していなかった在外公館が2公館(3.9%)あった。
図表4-8 食堂、サロン等での年間会食実施件数(平成20年度)
b その他の施設の利用状況等
多くの公邸は、周辺環境が悪化した場合でも我が国から訪問する政府要人等が宿泊したり、休憩したりすることができるようにゲストルームが設けられている。外務本省は、ゲストルームを宿泊に限らず、公邸で行われる茶道や生け花等の日本文化を紹介するための文化活動、講演会等の際の着替室、休憩室等としても積極的に活用するよう指導している。
また、公邸には、借上げ又は借換えの際に立地、規模等が適切と判断される施設に既にプールやテニスコートが設置されていたり、勤務環境が厳しい地域等に国有財産の施設を新設する際に職員の福利厚生を図ることや外交団や在留邦人に利用させて外交活動の円滑化を図ることなどを目的としてプールやテニスコートを設置したりしている。
なお、外務省は、国有財産等の公邸について、財務省の平成15年度予算執行調査において、勤務・生活環境が特に劣悪な場合を除き、プール及びテニスコートを新設しないよう改善策が示されたことなどから、プールは14年度以降、テニスコートは15年度以降新設していない。
検査した51公館の公邸のうち、ゲストルーム、プール又はテニスコートを設置している公邸のこれらの施設の21年度の利用状況は、図表4-9のとおりである。
図表4-9 ゲストルーム、プール及びテニスコートの年間利用回数(平成21年度)
〔1〕 ゲストルーム
〔2〕 プール
〔3〕 テニスコート
上図のとおり、ゲストルームについては、1年間に10回以下の利用しかなかった在外公館が36公館(ゲストルーム設置公館の76.6%)あった。これは、ほとんどの在外公館は市中に政府要人等が宿泊可能なホテルがあること、小規模な在外公館は政府要人等が訪問する機会が少ないことなどによる。なお、利用回数が多かった在外公館は、館長が友人や家族を宿泊させていることによるものである。
プールについては、1年間に21回以上利用していた在外公館が3公館(プール設置公館の15.8%)あったが、これらの在外公館は、職員が昼休みや休日に利用するなどしていた。一方、全く利用していなかった在外公館が9公館(同47.4%)あったが、これらの在外公館は、プールとしての利用が全く見込めないとして防火水槽としていたり、老朽化したため利用禁止にしていたりなどしていた。
テニスコートについては、1年間に21回以上利用していた在外公館が4公館(テニスコート設置公館の36.4%)あったが、これらの在外公館は、職員に呼びかけて利用させていたり、外交団を招待したりなどして積極的に活用していた。一方、1年間に全く利用していなかった在外公館が5公館(同45.5%)あった。
ドイツ大使館は、11年にドイツ連邦共和国の首都がボンからベルリンに移転した後も引き続きボンに所在している省庁や国際機関(国際連合ボランティア計画、気候変動枠組条約事務局等)との間の業務を円滑に遂行するため、ボン出張駐在官事務所を閉鎖した14年以降、ボン市内のホテルの2室(スイートルーム1室及びシングルルーム1室)を執務室として借り上げていた。なお、外務省によると、2室ともベッドを撤去して複写機等の事務機器を設置していたため、宿泊のために利用することはできなかったとしている。
同大使館がこのホテルの部屋を借り上げていたことについて、20年10月に、利用率が20%程度にすぎず税金が効率的に使われていない、重要な仕事もないのに予算消化のため年度末近くに部屋が利用されるケースもあるなどとする新聞報道があり、批判の対象になった。同大使館は、昨今の厳しい財政状況等も踏まえて、その必要性等を再検討した結果、20年10月末をもってこの借上げを取りやめた。
今回このホテルの借上げについて検査した範囲では、利用率を上げるための年度末の不必要な利用や、私的な利用等は見受けられなかったが、以前から部屋の利用が低調であったこと(利用日数:18年度88日(支払額1286万余円)、19年度91日(同1404万余円)、20年度(10月末まで)38日(同915万余円))などから、早期に借上げを取りやめるべきであったと認められる。
同ホテルの借上げを取りやめた後、同大使館は、ボン郊外にあるビジネスセンターの貸室(18m²)を必要に応じて借り上げることにして、ボンへの出張者等に利用させている(利用料は1時間当たり約3,800円)。その結果、この貸室の利用日数は20年度9日(支払額4万余円)、21年度3日(同2万余円)となっており、ホテルの部屋を借り上げていたときに比べて支払額が大幅に減少している(図表4-10
参照)。
同様の事態がほかにもないか、外務本省において検査したところ、イスラエル大使館も、職員がテルアビブ所在の大使館から約65km離れたエルサレムに用務があって出かける場合の執務室として、エルサレム市内のホテルの1室を9年度から年間契約により借り上げていた。しかし、同大使館は、近年、利用が低調になっていた(利用日数:18年度不明(支払額366万余円)、19年度54日(同382万余円)、20年度(10月末まで)15日(同189万余円))ため、ドイツ大使館のホテルの借上げについて新聞報道があった20年10月に、経費節減等の観点から、その必要性等を再検討した結果、年間借上げによる同ホテルの契約を時間単位で利用する契約に変更した。その結果、契約変更後の同ホテルの利用日数は、20年度(20年11月から21年3月まで)が12日(支払額24万余円)、21年度が19日(同45万余円)となっており、ドイツ大使館の場合と同様、年間契約で借り上げていたときに比べて支払額が大幅に減少している(図表4-11 参照)。
ロシア大使館は、昭和32年1月にロシア共和国連邦(平成3年12月以前は、旧ソビエト社会主義共和国連邦)外務省附属外交団世話総局(以下「ロシア当局」という。)から、同大使館の事務所及び大使公邸としてモスクワ市内の土地及び建物を一括して借り受けて利用していた(20年度借料9766万余円)。そして、当該事務所の建物が老朽化して職員数等に比べて狭あいになったことから、モスクワ市内の別の場所に新事務所を建設して、19年3月に移転した。しかし、その後21年3月まで、旧事務所の建物を賃借し続けていた(事務所分の20年度借料4909万余円(延床面積比で案分))。
このように事務所として利用していない建物を2年間にわたって賃借していたことについて外務本省及びロシア大使館において検査を実施するとともにロシア当局に赴いて直接説明を受けた。その結果は、次のとおりである。
大使公邸と旧事務所は、建物としては別棟であるが、一画地に建てられており、昭和32年に同大使館が賃借を開始する以前から一体のものとして管理されていた。
旧事務所の建物には、公道に面した出入口がなく、建物の出入口や大使公邸の駐車場がある中庭に公道から通じる通路は1本である。このことに加えて、モスクワ市が供給する温水を利用した暖房設備や電気、ガス、上下水道、電話等の設備が一体で利用されるものとして整備されていることなどから、両方の建物を完全に分離して旧事務所だけを賃貸するためには、大規模な改修工事が必要であった。
そのため、同大使館は、ロシア当局と数次にわたる交渉を行い、事務所移転の2年後の平成21年3月に、旧事務所を第三者に賃借させることを前提に、近い将来に大使公邸と旧事務所を全面改修することにするとともに、利用していない旧事務所の大部分の賃借を取りやめることでロシア当局と合意した。そして、同年4月から大使公邸と旧事務所の一部だけを賃借している。
しかし、ロシア当局と合意した大使公邸と旧事務所の全面改修については、改修工事中は大使公邸を仮移転等する必要があることから、22年3月の会計実地検査時点において、工事開始のめどが立っていなかった。なお、ロシア当局によれば、この全面改修が完了するまで旧事務所を第三者に賃貸することはないとのことである。
(イ) 利用していない旧事務所を2年間賃借していたときのロシア大使館の対応
旧事務所の移転に先立って、同大使館は、大使公邸及び旧事務所の取扱いについて種々の検討を行っていた。
同大使館は、大使公邸に来客用の駐車場がなく、手狭なことなどから、12年頃から、民間の不動産業者やロシア当局を通じて新大使公邸の候補地を探していたが、適当な物件を見つけるまでには至らなかった。
また、利用していない旧事務所の一部を取り壊して大使公邸の敷地として利用することを検討したこともあったが、ロシア当局から建物を取り壊すと借料が得られなくなるとして残る建物の借料の大幅値上げが提示されたため、合意に至らなかった。
さらに、独立行政法人国際交流基金が旧事務所を借りることも検討されたが、これも実現に至らなかった。これらのほか、ロシア当局から、現行の借料を市場価格に合わせて値上げしたいとの提案がなされたこともあった。
これらの交渉はいずれも難航して時間を要したため、結果として、事務所移転後も旧事務所の賃借を続けざるを得なくなったものと認められる。
したがって、検査した範囲では、次のa及びbの事項を除き、同大使館の対応で特に問題とすべき事項は見受けられなかった。
a ロシア当局は、現在、返還を受けた旧事務所に警備員を1人常駐させているが、ロシア当局との契約で賃借する土地の範囲が明確にされておらず、塀等による物理的な区分けもされていない。また、現在ロシア当局が管理している旧事務所の電気、ガス、上下水道及び暖房用温水の料金については、設備が大使公邸と一体になっているため分計できないとして、同大使館が支払っており、ロシア当局に負担を求めていない。
b 事務所移転後の電話料金の支払に関して、前記第2の3(2)イ(オ)d のとおり適切でない事態があった。
在外公館の施設に関しては、51公館以外の在外公館も含めてその管理する国有財産等の利用、処分等の状況について検査を行い、22年10月6日に会計検査院法第36条の規定により、「在外公館が管理する国有財産等の処分について」 として意見を表示した。会計検査院が表示した意見の概要は、次のとおりである。
在外公館は、事務所、公邸及び宿舎の用途に利用するために取得した土地、建物等の行政財産及びリース権並びにこれらを用途廃止した普通財産等を管理している。しかし、在外公館において、行政財産について整備計画を定めないまま長期間保有するなどしていたり(3公館、3件、台帳価格5億8423万円)、用途廃止した土地、建物等の普通財産等が処分されないままとなっていたり(8公館、13件、台帳価格16億7206万円)する事態が見受けられた。したがって、外務省において、長期間利用しておらず今後も利用する見込みのない行政財産について早期に用途廃止することを検討するとともに、普通財産等についてはより積極的に不動産仲介業者等に処分を委託したり、現地の経済事情等を反映させるために鑑定評価額を適時に見直したり、在外公館に対する指導及び助言を十分行ったりするなど、これらの国有財産等について早期処分に向けた措置を講ずる要がある。
国の物品は、その適正かつ効率的な供用その他良好な管理を図るため、物品管理法、物品管理法施行令(昭和31年政令第339号)等により、物品管理官が管理事務を行うこととされている。
物品管理官は、物品管理簿を備えて、その管理する物品の分類、品目ごとに、物品の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項及び管理上必要な事項を記録することとされており、物品管理法施行令で定める取得価格が50万円以上等の機械及び器具(以下、これらの物品を「重要物品」という。)は、その価格も記録しなければならないこととされている。また、物品管理官は、供用等の必要がない物品について、他の物品管理官等への管理換により適切な処理をすることができないときなどには、これらの物品について不用の決定を行い、売払い又は廃棄等をすることができることとされている。
外務省が管理する物品は、外務省所管物品管理事務取扱規程(昭和33年外務省訓令第9号)により、在外公館では物品管理官である館長が物品の取得、保管、供用及び処分に関する事務を包括して取り扱うこととされている。
外務省の物品は、図表4-12のとおり、重要物品、備品類、消耗品類及び図書類に分類されている。
図表4-12 物品の分類 | ||||||||||||||||||
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そして、重要物品、備品類及び備品扱図書(以下、備品類と備品扱図書を合わせて「一般物品」という。)は、物品管理簿に品目ごとの現在高、増減数等を記録しなければならないこととされている。そして、一般物品のうち、鑑賞のための掲示を主目的とする芸術性を備えた絵画、彫刻、書、陶磁器等の美術品については、個々にその写真を貼付して題名、作者名、購入年月日等を記載した美術品写真台帳を整備することとしている。このほか、外務省は、ワイン、日本酒等の酒類、消耗品等の物品について管理する帳簿を備えることにより、増減及び在庫の状況等を把握して、効率的な使用及び適切な管理を行うこととしている。これは、適切に記録された帳簿による管理が行われていないと、紛失等の場合にその事実を把握しにくくなるなどのためである。
在外公館は、毎年度、重要物品の物品管理簿に基づき「物品増減及び現在額報告書」を作成して、外務本省に提出することとされている。「物品増減及び現在額報告書」によると、全211公館の重要物品の数量、価格は、21年度末現在計7,703個、180億3063万余円となっている。
重要物品について物品管理簿の記録状況と管理の状況を照らし合わせるなどして51公館において検査したところ、検査した範囲では適切でないと認められる事態は見受けられなかった。
一般物品は、前記のとおり、その異動を物品管理簿に記録することとされている。
しかし、検査した51公館のうち9公館(注4-2)
では、外務本省が購入して在外公館に送った(以下、このことを「購送」という。)物品や在外公館が購入した物品(計18個、3,060,562円)を物品管理簿に記録していなかった。
また、外務本省がリース契約を締結したリース物品についても、在外公館に送るまでの間は外務本省において、在外公館に送って管理換をした時以降は在外公館において、物品管理簿に記録して適切に管理する必要がある。
しかし、外務本省は、17年度にリース契約を締結した旅券作成機(リース料総額691,286,164円)等のリース物品を物品管理簿へ記録することについて関係各課に周知していなかったため、外務本省の物品管理簿へ記録しておらず、また、すべての在外公館は管理換の通知を受けていないため、在外公館の物品管理簿に記録していなかった。
在外公館は、日本文化を発信する役割を担っていることから、外務本省が16年度以前に購送した美術品(17年度以降は美術品を購入していない。)や寄贈を受けた美術品を多数保有している。検査した51公館は、21年度末現在、計2,060点(台帳価格計1,132,106,742円)を保有している。
外務省は、在外公館の事務所の正面玄関ホール、ロビー及び館長室、公邸の玄関ホール、ロビー、食堂、サロン等の場所に掲示する美術品の点数について、インテリアコーディネーターの意見を参考にするなどして、掲示場所の延床面積50m²当たり絵画等の壁掛け美術品2点、陶磁器等の置物美術品1点、計3点の設置を基準とすることとしている。そして、必要な美術品数(以下「定量基準」という。)を算定して在外公館に通知するとともに、在外公館が美術品を保有する際の目安としている。
検査した51公館全体では、美術品の保有点数が定量基準を241点上回っていた。そして、各在外公館における掲示場所の延床面積と美術品の保有点数の関係は、図表4-13のとおりであり、26公館(51.0%)で保有点数が定量基準を下回っていたものの、25公館(49.0%)で保有点数が定量基準を上回っており、中には定量基準の1.5倍以上の美術品を保有している在外公館が8公館(注4-3)
(15.7%)あった。このように在外公館によって美術品の保有点数に偏りがあるのは、外務省によると、寄贈者から特定の在外公館での掲示を指定されていたり、作者に特定の在外公館に掲示することを条件に安価に制作してもらったりした美術品があること、他の在外公館に輸送するには多額の費用を要することなどから、容易に管理換を行えないことがあるためであるとしている。
図表4-13 掲示場所の延床面積と美術品の保有点数の関係(平成21年度末現在)
検査した51公館が保有している美術品のうち、価値が高いとされている文化勲章受章者で外務省の保有点数が多い有名画家の絵画の21年度末現在の保有点数をみたところ、図表4-14のとおり計171点あった。
図表4-14 文化勲章受章者で外務省の保有点数が多い有名画家(10人)の絵画の保有状況 (平成21年度末現在) (単位:点)
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在外公館は、上記のとおり、高価な美術品を多数保有しており、適切に管理する必要がある。そのため、外務本省は、掲示場所に関する注意点等をまとめたガイドラインを定めて各在外公館を指導している。しかし、在外公館は、美術品の管理に関する専門的な知識を有する職員がおらず、必ずしも美術品に最適な環境のところばかりではない。
美術品は、掲示しない期間を設けることで劣化の進行を遅らせる効果があることなどから、必ずしもすべてを常時掲示しなければならないものではないが、51公館が保有している美術品のうち、事務所や公邸に掲示されずに倉庫等に保管されていた美術品の点数は、図表4-15のとおり、全保有点数2,060点のうち159点(7.7%、台帳価格計20,206,000円)あり、掲示していない美術品の点数が保有点数の20%以上ある在外公館が4公館あった。これらの在外公館は、いずれも保有点数が定量基準を上回っていた。
図表4-15 美術品の保有点数、掲示状況等(平成21年度末現在) (単位:点、%)
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フランス大使館は、事務所で94点、大使公邸で73点、計167点の美術品を保有している。このうち、文化勲章受章者の作品30点は、他の在外公館に貸し出すなどしていたが、平成16年度以降貸出しを希望する在外公館がないことから、事務所の倉庫に保管したままにしている。また、21年6月に掲示場所を見直した際に、大使公邸の73点のうちの9点は掲示する適当な場所がないとして、公邸の倉庫に保管したままにしていた。
(ア) 酒類の保有本数について
在外公館は、館長の公邸等で開催する会食やレセプション、贈呈等に使用するワイン、日本酒等の酒類を購入している。酒類については、不要不急のものを購入せず過去の払出実績を考慮した適正な本数の保有に努める必要がある。
検査した51公館の20、21両年度における酒類の受払の状況は、図表4-16のとおりであり、21年度末では、年間の払出本数に対して約2.0倍の本数を保有していた。
図表4-16 酒類の受払の状況(平成20、21両年度) (単位:本、%)
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そこで、51公館について、年間の払出本数に対する21年度末現在の保有残高の割合別に公館数をみると、図表4-17のとおりであり、年間の払出本数の5倍以上の残高を保有している在外公館が3公館(注4-4) (計16,770本)あった。
図表4-17 年間払出本数に対する年度末の保有残高の割合別公館数(平成21年度)
また、検査した51公館が保有しているワインのうち、高い価格で取引されているワインの21年度末の残高は、4,000本以上であった。
経済協力開発機構代表部は、平成21年度に払い出した会食用のワインが268本であったのに、同年度末の保有本数は21年度の払出本数の29.5倍の7,896本となっていた。また、会計実地検査時(22年3月)に、高い価格で取引されているワインを1,000本以上保有していた。なお、これらのワインの多くは、16年度以前に購入されたものである。
(イ) 酒類の保管について
ワイン等の酒類を保管する場合は、温度、湿度等を適切な状態に保ち品質の劣化防止に心がけなければならない。
しかし、検査した51公館のうち4公館では、ワインカーブで保管していたものの、図表4-18のとおり、会食用酒類又は贈呈用酒類計1,044本を使用できない状態になっていたとして廃棄処分するなどしていた。
図表4-18 廃棄処分するなどしていた酒類 (単位:本、円)
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(ウ) ワインに関する外務省の対応
外務省は、年間の払出本数に比して大量にワインを保有している在外公館があるとの会計検査院の会計実地検査時の指摘により、22年4月に在庫のワインを他の在外公館に管理換したり、民間業者に売却したり、新規の購入を抑制したりして、今後3年間程度で大幅に削減することとする方針を決めた。また、同時に調達費用節減等の観点から酒類の買置き等は引き続き行うものの、年度末の在庫が適切な量となるよう購入数量を調整するなどして酒類の在庫管理を行うこととした。
在外公館は、外交上使用する贈呈品を外務本省から購送を受けたり、自ら購入したりして取得している。そして、これらの贈呈品は、受払簿に取得年月日、金額、払出年月日、払出先、払出目的等を記載し管理することとされている。また、劣化したり陳腐化したりして贈呈に適さなくなるおそれがあるため、必要の都度購入して適時に払い出す必要がある。
しかし、検査した51公館のうち39公館(注4-5)
は、会計実地検査時点で取得から1年以上が経過した贈呈品(計2,212個、1715万余円)を払い出すことなく保有していた。これらの贈呈品の取得年度は、図表4-19のとおりであり、5年以上の長期にわたり払い出されていないものが個数で35.4%、購入金額で38.4%を占めていた。これらの中には、フィルム式カメラのように既に旧式化していて贈呈に適さないものもあった。
図表4-19 1年以上保有している贈呈品の取得年度別の保有状況
オーストリア大使館は、平成11年度に、コンパクトカメラ15個(計30万円)、クロックラジオ15個(計29万余円)等総額164万余円分の贈呈品の購送を外務本省から受けた。しかし、会計実地検査時(22年1月)でもコンパクトカメラ6個(計12万円)、クロックラジオ8個(計15万余円)等総額72万余円分の贈呈品を保有していた。中でもコンパクトカメラは、フィルム式のため既に旧式化していて贈呈に適さなくなっていると認められた。
また、贈呈品については、受払簿を整備して適切に管理しないと在庫等の状況が把握できず、効率的な使用等を妨げるおそれがある。検査した51公館のうち4公館(注4-6) は、贈呈品の受払簿を整備していなかったり、受払簿は整備しているものの記載漏れがあったり、受払簿に事実と異なる記載をしたりして、贈呈品の管理を適切に行っていなかった。
在外公館は、事務用品等の消耗品については外務本省から購送を受けたり、自ら購入したりして取得している。また、郵便切手、ガソリン引換券等の金券類も必要に応じて購入している。これらは、前記のとおり、受払簿を備えて実態を把握し、効率的な使用、十分な管理を行う必要があるとされている。
しかし、検査した51公館のうち1公館(注4-7)
は、一部の消耗品について必要以上の数量を保有しており、また、7公館(注4-8)
は、ガソリン引換券について職員の私物と貸し借りを行っていたり、郵便切手の払出簿に受入れと残高を記入していなかったりなどしていて、金券類の受払の管理等を適切に行っていなかった。
(注4-7) | 1公館 オーストリア大使館
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(注4-8) | 7公館 タイ、イタリア、オランダ、バチカン各大使館、ミュンヘン総領事館、軍縮会議、国際連合教育科学文化機関両代表部
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外務省は、大規模自然災害、テロ等の重大事件等の緊急事態が発生した際に外務本省と在外公館の間や在外公館相互の間でテレビ会議を行うため、本省庁舎2か所及び緊急事態発生の可能性が高い在外公館や地域の拠点公館等20公館に危機管理用テレビ会議システムを設置している。
外務省は、同システムについて、18年4月に本省庁舎のテレビ会議室(2か所)及び10公館(注4-9)
にリース契約により設置し、4年間で総額23,360,400円を支払っている。また、20年3月に2公館(注4-10)
に3,150,000円で購入して設置し、さらに、21年3月に8公館(注4-11)
に8,379,000円で購入して設置している。
同システムについては、上記のとおり、多額の経費を使用してリースし又は購入していることから、できる限り有効に活用して利用率を高める必要がある。外務省が20年9月に定めた運用要領によると、同システムは、危機管理目的の使用を優先させるが、危機管理目的以外でも、本省庁舎と在外公館の間、在外公館相互の間又は所在国の政府関係者、国際機関等との間の会議で使用しても差し支えないとされている。
しかし、検査した51公館のうち、同システムを設置している15公館(注4-12)
の同システムの20、21両年度の使用は、図表4-20のとおり、危機管理目的での実績はなく、危機管理目的以外でも低調であった。
このような状況になっているのは、設置された在外公館において緊急事態が発生しなかったことに加え、同システムは、一般回線を使用するため秘匿性が十分確保されていないとの理由から、高次の秘密事項の協議又は連絡に使用できないこと、20年9月に定めた上記の運用要領により一般的な会議で使用できるとの認識が職員に十分浸透していないことなどによるものである。
図表4-20 危機管理用テレビ会議システムの使用状況(平成20、21両年度)<15公館> (単位:回)
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外務省は、22年4月に、危機管理用テレビ会議システムは、リース契約による設置公館の数を3か所減らすなどしたものの、使用回数の少なさだけで廃止することはできないとして、本省庁舎(2か所)及び7公館は、リース契約を更に3年間継続することとして3年間総額15,070,860円でリース契約を更新した。
外務省は、会計検査院の会計実地検査時の指摘により、22年7月に、同システムを国際機関との協議で使用したり、本省庁舎と在外公館との間の打合せで使用したりするなどして、同システムを積極的に活用するよう、外務本省関係部局及び在外公館に対して通知を発した。
(注4-9) | 10公館 インドネシア、大韓民国、中華人民共和国、フィリピン、アメリカ合衆国、英国、フランス、ヨルダン各大使館、上海総領事館、国際連合代表部
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(注4-10) | 2公館 タイ、イラク両大使館
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(注4-11) | 8公館 インド、シンガポール、パキスタン、メキシコ、ロシア、アフガニスタン各大使館、在ジュネーブ国際機関、経済協力開発機構両代表部
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(注4-12) | 15公館 インド、インドネシア、シンガポール、タイ、大韓民国、中華人民共和国、アメリカ合衆国、メキシコ、英国、フランス、ロシア各大使館、上海総領事館、国際連合、在ジュネーブ国際機関、経済協力開発機構各代表部
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在外公館は、外出中、勤務時間外又は休日等における公務連絡用として公用携帯電話を職員等に貸し出しており、外務省は、公用携帯電話を私用で使用することは人道上の理由等やむを得ない場合を除き禁止している。また、公用携帯電話が私用で使用されると、私用電話料金の計算等が必要になるため、会計担当者の事務負担が増加することになる。
しかし、貸出しを受けた職員等が、私用電話料金を自己負担していたものの、やむを得ない場合ではないのに私用で使用していて、これに係る私用電話料金が携帯電話料金の20%以上を占めている在外公館が、図表4-21のとおり、検査した51公館のうち4公館あった。
図表4-21 私用電話料金が携帯電話料金の20%以上の在外公館(平成21年度) (単位:台、円、%)
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