未来開拓学術研究費補助金は、我が国の未来の開拓につながる創造性豊かな学術研究を大学主導により重点的に推進することなどにより学術研究の振興を図ることを目的として、独立行政法人日本学術振興会に設置された未来開拓学術研究推進事業委員会が選定した研究プロジェクトの中心となる研究者(以下「プロジェクト・リーダー」という。)の所属する研究機関に対して、研究プロジェクトに必要な経費を国が補助するものである。
この補助金の交付額は、「未来開拓学術研究費補助金交付要綱」(平成14年文部科学大臣決定)等により、研究プロジェクトの遂行に必要な消耗品等(以下「研究用物品」という。)の購入費等を補助対象経費として、1研究プロジェクト当たり年間5千万円から3億円程度までの範囲で、その全額を補助することとなっている。
本院が、1研究機関において会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
事業主体 | 補助事業 | 年度 | 補助対象経費 | 左に対する国庫補助金交付額 | 不当と認める補助対象経費 | 不当と認める国庫補助金 | 摘要 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(42) | 国立大学法人宮崎大学 | 未来開拓学術研究推進 | 16 | 181,000 | 181,000 | 2,500 | 2,500 | 不適正な経理処理 |
国立大学法人宮崎大学(以下「宮崎大学」という。)は、本件補助事業を平成16年度に実施して、181,000,000円の補助金の交付を受けていた。そして、宮崎大学は、この補助事業を実施したプロジェクト・リーダーから、研究プロジェクトの研究協力者で国立大学法人山口大学(以下「山口大学」という。)に所属する研究者E(注)
が発注したとする研究用物品計2,500,000円に係る納品書、請求書等の提出を受け、その購入代金を業者に支払っていた。
しかし、実際は上記の研究用物品は納入されておらず、研究者Eが業者に架空の取引を指示して虚偽の納品書、請求書等を作成させ、これにより宮崎大学に上記の購入代金を支払わせて、その全額を業者に預けて別途に経理していた。
したがって、適正な補助対象経費に基づいて補助金の額を算定すると178,500,000円となり、国庫補助金2,500,000円が過大に交付されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究者Eにおいて、任意に業者を選定できる発注者の立場から融通の利く特定の業者に架空の取引を指示するなど、補助金の原資は税金等であるにもかかわらず事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、宮崎大学において、研究者Eの研究実施状況の把握が十分でなかったこと、及び文部科学省において、研究者及び研究機関に対して補助金等の不正使用の防止について必要な措置の導入や指導を行っていたものの、その周知徹底が十分でなかったことによると認められる。