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医療費等に係る国の負担が不当と認められるもの


(59) 医療費等に係る国の負担が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計(組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
(項)生活保護費
(項)障害保健福祉費
平成19年度以前は、  
一般会計(組織)厚生労働本省 (項)児童保護費
(項)生活保護費
(項)障害者自立支援給付諸費
(項)老人医療・介護保険給付諸費
(項)国民健康保険助成費
年金特別会計(健康勘定) (項)保険料等交付金
平成20年度は、  
年金特別会計(健康勘定) (項)保険給付費及保険者納付金
平成19年度は、  
年金特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
平成18年度以前は、  
厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
(項)老人保健拠出金
(項)退職者給付拠出金
船員保険特別会計 (項)疾病保険給付費及保険者納付金
平成19年度以前は、  
船員保険特別会計 (項)保険給付費
  (項)老人保健拠出金
  (項)退職者給付拠出金
部局等 厚生労働本省、社会保険庁(平成21年12月末まで)、8地方厚生(支)局(指導監督庁。20年10月以降)、31道府県
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。平成20年3月31日以前は「老人保健法」)、生活保護法(昭和25年法律第144号)等
医療給付の種類 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律、生活保護法等に基づく医療
実施主体 国、全国健康保険協会、都府県19、市340、特別区17、町140、村22、後期高齢者医療広域連合41、広域連合1、国民健康保険組合36、計618実施主体
医療機関、薬局及び施術所 医療機関122、薬局30、施術所3
過大に支払われた医療費等に係る診療報酬項目等 入院基本料、入院基本料等加算、調剤報酬等
過大に支払われた医療費等の件数 139,250件(平成18年度〜22年度)
過大に支払われた医療費等の額 991,274,560円(平成18年度〜22年度)
不当と認める国の負担額 438,767,124円(平成18年度〜22年度)

1 医療給付の概要

(1) 医療給付の種類

 厚生労働省の医療保障制度には、老人保健制度(平成20年3月以前)、後期高齢者医療制度(20年4月以降)、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。

ア 20年3月以前は、老人保健制度の一環として、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が老人保健法に基づき、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法等(以下「医療保険各法」という。)による被保険者(被扶養者を含む。以下同じ。)のうち、当該市町村の区域内に居住する老人(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して行う医療
イ 20年4月以降は、上記のアに代わるものとして創設された後期高齢者医療制度において、高齢者の医療の確保に関する法律(以下「高齢者医療確保法」という。)に基づき、各都道府県の区域内に住所を有する後期高齢者(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して後期高齢者医療の事務を処理するために当該都道府県の区域内の全ての市町村が加入する後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)が行う医療
ウ 医療保険制度の一環として、医療保険各法に規定する保険者が、医療保険各法に基づき被保険者(老人及び後期高齢者を除く。)に対して行う医療
エ 公費負担医療制度の一環として、都道府県又は市町村が、生活保護法に基づき被保護者に対して行う医療等

(2) 診療報酬、調剤報酬及び療養費

 これらの医療給付においては、被保険者(上記エの被保護者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受け、又は薬局で薬剤の支給等を受けた場合、市町村、保険者又は都道府県(以下「保険者等」という。)及び患者がこれらの費用を医療機関又は薬局(以下「医療機関等」という。)に診療報酬又は調剤報酬(以下「診療報酬等」という。)として支払う。
 診療報酬等の支払の手続は、次のとおりとなっている(図参照 )。

 図 診療報酬の支払の手続

図診療報酬の支払の手続

(注) 調剤報酬の支払の手続についても同様となっている。

ア 診療等を担当した医療機関等は、診療報酬等として医療に要する費用を所定の診療点数又は調剤点数に単価(10円)を乗ずるなどして算定する。
イ 医療機関等は、上記診療報酬等のうち、患者負担分を患者に請求して、残りの診療報酬等(以下「医療費」という。)については、老人保健法に係るものは市町村に、高齢者医療確保法に係るものは広域連合に、医療保険各法に係るものは各保険者に、また、生活保護法等に係るものは都道府県又は市町村に請求する。
 このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。

(ア) 医療機関等は、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書(以下「請求書」という。)に医療費の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを、国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)に毎月1回送付する。
(イ) 審査支払機関は、請求書及びレセプトに基づき請求内容を審査点検した後、医療機関等ごと、保険者等ごとの請求額を算定して、その後、請求額を記載した書類と請求書及びレセプトを各保険者等に送付する。

ウ 請求を受けた保険者等は、それぞれの立場から医療費についての審査点検を行って金額等を確認の上、審査支払機関を通じて医療機関等に医療費を支払う。
 また、保険者等は、やむを得ないものと認める場合等には、上記の医療費に代えて療養費を支給することができるとされている。この療養費は、被保険者等が療養に要した費用の全額を支払った後に保険者等に支給の申請を行い、保険者等がその内容を点検するなどした上で、支給することが原則となっている。
 療養費の一つとして、柔道整復師の施術に係る療養費(以下「柔道整復療養費」という。)がある。これについては、上記の例外として、地方厚生(支)局長、都道府県知事及び柔道整復師の団体との間の協定等に基づき、被保険者等が柔道整復療養費の受領を柔道整復師に委任する取扱いが認められている。この場合は、保険者等は、全国健康保険協会の都道府県支部に設置されている柔道整復療養費審査委員会又は国民健康保険等柔道整復療養費審査委員会の審査等を経た後に、点検等を行いこの委任を受けた柔道整復師に柔道整復療養費を支払うこととなっている。

(3) 国の負担

 保険者等が支払う医療費及び柔道整復療養費(以下「医療費等」という。)の負担は次のようになっている。

ア 老人保健法に係る医療費(以下「老人医療費」という。)については、老人の居住する市町村が審査支払機関を通じて支払い、同法に係る柔道整復療養費については、市町村が支払うが、これらの費用は国、都道府県、市町村及び保険者が次のように負担している。

(ア) 老人保健法により、原則として、国は12分の4を、都道府県及び市町村はそれぞれ12分の1ずつを負担しており、残りの12分の6については、各保険者が拠出する老人医療費拠出金が財源となっている。
(イ) 国民健康保険法により、国は市町村等が保険者として拠出する老人医療費拠出金の納付に要する費用の額の一部を負担している。
(ウ) 健康保険法等により、国は政府管掌健康保険等の保険者として老人医療費拠出金を納付している。

イ 高齢者医療確保法に係る医療費(以下「後期高齢者医療費」という。)については、広域連合が審査支払機関を通じて支払い、同法に係る柔道整復療養費については、広域連合が支払うが、これらの費用は国、都道府県、市町村及び保険者が次のように負担している。

(ア) 高齢者医療確保法により、原則として、国は12分の4を、都道府県及び市町村はそれぞれ12分の1ずつを負担しており、残りの12分の6については、各保険者が納付する後期高齢者支援金及び後期高齢者の保険料が財源となっている。
(イ) 国民健康保険法により、国は市町村等が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。
(ウ) 健康保険法により、国は全国健康保険協会(注1) が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。
(エ) 船員保険法により、国は全国健康保険協会が管掌する船員保険事業に要する費用の一部を負担している。

 平成20年10月1日から政府管掌健康保険が、また、22年1月1日から船員保険のうち職務外疾病部門が、それぞれ全国健康保険協会管掌健康保険として全国健康保険協会へ承継された。

ウ 医療保険各法に係る医療費等については、国は、患者が、〔1〕 全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である場合の医療費等は全国健康保険協会が支払った額の16.4%(22年6月30日以前は13%)を、〔2〕 船員保険の被保険者である場合の医療費等は全国健康保険協会が支払った額の一部を、〔3〕 市町村が行う国民健康保険の一般被保険者である場合の医療費等は市町村が支払った額の43%を、〔4〕 国民健康保険組合が行う国民健康保険の被保険者である場合の医療費等は国民健康保険組合が支払った額の47%を、それぞれ負担している。
エ 生活保護法等に係る医療費等については、国は都道府県又は市町村が支払った医療費等の4分の3又は2分の1を負担している。

2 検査の結果

(1) 検査の観点及び着眼点

 国民医療費は11年度以降毎年度30兆円を超えており、このうち老人医療費(20年度以降は後期高齢者医療費。以下同じ。)は、高齢化が急速に進展する中でその占める割合が3割を超えている。このような状況の中で医療費等に対する国の負担も多額に上っていることから、本院は、老人医療費を中心に、合規性等の観点から、医療費等の請求が適正に行われているかに着眼して検査を行っている。
 そして、近年では医療機関等において、医師、看護師等の医療従事者が不足していて要件を満たしていなかったり、別途介護保険制度の介護給付等として行われるものを医療費として請求したりしていて不適正と認められる事態が多く見受けられる。そこで、本年の検査に当たっても、合規性等の観点から、これらの点を中心に検査することとした。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、8地方厚生(支)局(注2) 、社会保険庁の5社会保険事務局及び31道府県において、保険者等の実施主体による医療費等の支払について、レセプト、各種届出書、報告書等の書類により会計実地検査を行った。そして、医療費等の支払について疑義のある事態が見受けられた場合は、地方厚生(支)局及び道府県に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

 社会保険庁の地方社会保険事務局が行っていた保険医療指導監査業務等は、平成20年10月から地方厚生(支)局へ移管された。

(3) 過大となっていた支払の事態

 検査の結果、31道府県に所在する122医療機関、30薬局及び3施術所に対して618実施主体が行った18年度から22年度までの間における医療費等の支払が、139,250件で991,274,560円過大となっていて、これに対する国の負担額438,767,124円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。
 これを診療報酬項目等の別に整理して示すと、次のとおりである。

診療報酬項目等 実施主体(医療機関等及び施術所数) 過大に支払われた医療費等の件数 過大に支払われた医療費等の額 不当と認める国の負担額
    千円 千円
〔1〕 入院基本料 95市区町等
(40)
4,662 398,086 176,063
〔2〕 入院基本料等加算 194市区町村等
(25)
14,236 165,636 70,970
〔3〕 リハビリテーション料 39市町等
(6)
3,415 114,113 49,647
〔4〕 医学管理料 117市区町村等
(16)
19,044 79,968 37,645
〔5〕 在宅医療料 64市町等
(10)
5,605 37,802 16,542
〔6〕 初診料・再診料 40市町等
(8)
6,078 26,432 13,119
〔7〕 処置料 95市区町村等
(11)
3,589 21,152 8,958
〔8〕 入院時食事療養費・入院時生活療養費等 101市区町村等
(6)
11,563 37,592 16,452
〔1〕 -〔8〕 の計 464実施主体
(122)
68,192 880,783 389,398
〔9〕 調剤報酬 275市区町村等
(30)
70,061 102,813 46,328
〔1〕 -〔9〕 の計 614実施主体
(152)
138,253 983,597 435,727
〔10〕 柔道整復療養費 9市町村等
(3)
997 7,677 3,039
〔1〕 -〔10〕 の計 618実施主体
(155)
139,250 991,274 438,767
注(1)  複数の診療報酬項目について不適正と認められる請求があった医療機関については、最も多額な診療報酬項目で整理した。
注(2)  計欄の実施主体数は、各診療報酬項目等の間で実施主体が重複することがあるため、各診療報酬項目等の実施主体数を合計したものとは符合しない。
注(3)  〔8〕 入院時食事療養費・入院時生活療養費等には、入院時食事療養費・入院時生活療養費の外に、特定入院料、画像診断料及び検査料を含む。

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。

ア 実施主体及び審査支払機関において、医療機関等から不適正と認められる医療費の請求があったのにこれに対する審査点検が十分でなく、特に、診療報酬請求上の各種届出についての確認が必ずしも十分でなかったこと
イ 県において、医療機関の医療従事者が不足していることを把握する資料があるにもかかわらず、その活用が十分でなく、また、地方厚生(支)局等と県との連携が必ずしも十分でなかったこと
ウ 地方厚生(支)局等及び道府県において、医療機関等又は柔道整復師に対する指導が十分でなかったこと
エ 実施主体において、柔道整復師から不適正と認められる柔道整復療養費の請求があったのにこれに対する点検等が必ずしも十分でなかったこと

(4) 各事態の詳細

 上記の医療費等の支払が過大となっていた事態について、診療報酬項目等の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。

〔1〕  入院基本料

 入院基本料は、患者が入院した場合に1日につき所定の点数が定められている。入院基本料のうち療養病棟入院基本料等は、患者の疾患、状態等について厚生労働大臣が定める区分に従い、所定の点数を算定することとされている。
 検査の結果、15府県に所在する40医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが4,662件あった。その態様は、療養病棟入院基本料等に定められた区分のうち、より低い点数の区分の状態等にある患者に対して高い区分の点数で算定していたものである。
 このため、上記4,662件の請求に対して95市区町等が支払った医療費が398,086,387円過大となっていて、これに対する国の負担額176,063,187円は負担の必要がなかったものである。

〔2〕  入院基本料等加算

 入院基本料等加算には、療養病棟療養環境加算、重症者等療養環境特別加算等があり、それぞれ所定の点数が定められている。そして、これらの加算の多くは、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関において、その基準に掲げる区分に従い所定の点数を算定することとされている。ただし、療養病棟療養環境加算等は、医師の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)を満たしていないなどの場合には算定できないこととされている。
 また、重症者等療養環境特別加算は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関に入院している重症者等に対して算定することとされている。ただし、この加算は、特殊疾患入院施設管理加算を算定している患者に対しては、算定できないこととされている。
 検査の結果、17府県に所在する25医療機関において、入院基本料等加算等の請求が不適正と認められるものが14,236件あった。その主な態様は、次のとおりである。

ア 医師の数が標準人員を満たしていないのに、療養病棟療養環境加算等を算定していた。
イ 特殊疾患入院施設管理加算を算定している患者に対して、重症者等療養環境特別加算を算定していた。

 このため、上記14,236件の請求に対して194市区町村等が支払った医療費が165,636,495円過大となっていて、これに対する国の負担額70,970,086円は負担の必要がなかったものである。

〔3〕  リハビリテーション料

 リハビリテーション料のうち摂食機能療法は、摂食機能障害を有する患者に対して、個々の患者の症状に対応した診療計画書に基づき、所定の訓練指導を行った場合に算定することとされている。ただし、治療開始日から3月を超えた場合は、1月に4回を限度として算定するなどとされている。
 また、運動器リハビリテーション料等は、専従する常勤理学療法士等が勤務していることなどの厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た病院において、その届出に係る所定の点数を算定することとされている。
 検査の結果、4道府県に所在する6医療機関において、リハビリテーション料の請求が不適正と認められるものが3,415件あった。その主な態様は、次のとおりである。

ア 多くの入院患者に対して長期にわたり摂食機能療法を1月に4回を超えて実施してリハビリテーション料を算定していた。
イ 専従の常勤理学療法士又は常勤作業療法士がいないにもかかわらず、運動器リハビリテーション料等を算定していた。

 このため、上記3,415件の請求に対して39市町等が支払った医療費が114,113,493円過大となっていて、これに対する国の負担額49,647,719円は負担の必要がなかったものである。

〔4〕  医学管理料

 医学管理料のうち特定疾患療養管理料等は、生活習慣病等を主病とする患者に対して、治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合等に算定することとされている。ただし、特別養護老人ホーム等の施設に配置されている医師(以下「配置医師」という。)がこれらの施設の入所者に対して行っている診療については、その診療が別途介護保険制度の介護給付等として行われているものであることから、特定疾患療養管理料等は算定できないこととされている。
 また、診療情報提供料(I)は、医療機関が、患者の同意を得て、当該患者が居住する市町村又は介護保険の指定居宅介護支援事業者等に対して、診療状況を示す文書を添えて、当該患者に係る保健福祉サービスに必要な情報を提供した場合や、在宅で療養を行っている患者の同意を得て、薬局に対して、診療状況を示す文書を添えて、当該患者に係る在宅患者訪問薬剤管理指導に必要な情報を提供した場合などにそれぞれ算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては、同一月において、介護保険の居宅療養管理指導等を医師が行い居宅療養管理指導費等を算定している場合、診療情報提供料(I)は、市町村若しくは指定居宅介護支援事業者等又は薬局に対する情報提供に係るものには算定できないこととされている。
 検査の結果、8府県に所在する16医療機関において、医学管理料等の請求が不適正と認められるものが19,044件あった。その態様は次のとおりである。

ア 配置医師が特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、特定疾患療養管理料等を算定していた。
イ 介護保険の要介護被保険者等である患者に対して居宅療養管理指導費等が算定されているのに、市町村等に対する情報提供を行ったものについて診療情報提供料(I)を算定していた。
ウ 配置医師でない医師が定期的に特別養護老人ホーム等の入所者の診療に当たっている場合、その医師は実質的には配置医師とみなすべきであるのに、特定疾患療養管理料等を算定していた。

 このため、上記19,044件の請求に対して117市区町村等が支払った医療費が79,968,113円過大となっていて、これに対する国の負担額37,645,681円は負担の必要がなかったものである。

〔5〕  在宅医療料

 在宅医療料のうち在宅患者訪問診療料等は、医療機関が、在宅での療養を行っている患者であって通院が困難なものに対して、計画的な医学管理の下に定期的に訪問して診療を行った場合等に算定することとされている。ただし、特別養護老人ホーム等の入所患者に対しては、在宅患者訪問診療料等は算定できないこととされている。
 検査の結果、7県に所在する10医療機関において、在宅医療料等の請求が不適正と認められるものが5,605件あった。その主な態様は、特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、在宅患者訪問診療料等を算定していたものである。
 このため、上記5,605件の請求に対して64市町等が支払った医療費が37,802,196円過大となっていて、これに対する国の負担額16,542,210円は負担の必要がなかったものである。

〔6〕  初診料・再診料

 初診料は、患者の傷病について医学的に初診といわれる医師の診療行為があったときに、再診料はその後の診療行為の都度、それぞれ算定することとされている。ただし、配置医師が特別養護老人ホーム等の入所者に対して行っている診療については、その診療が別途介護保険制度の介護給付等として行われているものであることから、初診料及び再診料は算定できないこととされている。
 検査の結果、6府県に所在する8医療機関において、初診料、再診料等の請求が不適正と認められるものが6,078件あった。その主な態様は、配置医師が特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、初診料及び再診料を算定していたものである。
 このため、上記6,078件の請求に対して40市町等が支払った医療費が26,432,572円過大となっていて、これに対する国の負担額13,119,555円は負担の必要がなかったものである。

〔7〕  処置料

 処置料には、一般処置料、皮膚科処置料等があり、それぞれの処置の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、処置に当たって薬剤を使用した場合は、実際に使用した薬剤の総量に基づいた薬剤料の点数を合算して算定することとされている。
 検査の結果、7府県に所在する11医療機関において、処置料等の請求が不適正と認められるものが3,589件あった。その主な態様は、人工腎臓の処置に使用される薬剤について、実際に使用した量よりも多い量により薬剤料を算定していたものである。
 このため、上記3,589件の請求に対して95市区町村等が支払った医療費が21,152,172円過大となっていて、これに対する国の負担額8,958,264円は負担の必要がなかったものである。

〔8〕  入院時食事療養費・入院時生活療養費等

 入院時食事療養費・入院時生活療養費のうち入院時食事療養(I)は、厚生労働大臣が定める基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た医療機関において、食事療養を行った場合に算定することとされている。
 検査の結果、6府県に所在する6医療機関において、入院時食事療養費等の請求が不適正と認められるものが11,563件あった。その主な態様は、地方厚生(支)局長への届出を行っていないのに、入院時食事療養(I)を算定していたものである。
 このため、上記11,563件の請求に対して101市区町村等が支払った医療費が37,592,514円過大となっていて、これに対する国の負担額16,452,285円は負担の必要がなかったものである。

〔9〕  調剤報酬

 調剤報酬のうち在宅患者訪問薬剤管理指導料は、在宅で療養を行っている患者に対して、医師の指示に基づき、薬剤師が患家を訪問して薬学的管理指導を行った場合に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては、この指導が別途介護保険制度の介護給付として行われるものであることから、在宅患者訪問薬剤管理指導料は算定できないこととされている。
 検査の結果、13府県に所在する30薬局において、調剤報酬の請求が不適正と認められるものが70,061件あった。その主な態様は、介護保険の要介護被保険者等である患者に対して在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していたものである。
 このため、上記70,061件の請求に対して275市区町村等が支払った医療費が102,813,221円過大となっていて、これに対する国の負担額46,328,155円は負担の必要がなかったものである。

〔10〕  柔道整復療養費

 柔道整復療養費の支給対象となる施術料には、初検料、再検料、後療料等があり、それぞれ所定の点数が定められている。ただし、単なる肩こりなどに対する施術等は柔道整復療養費の支給対象とならないことから、後療料等は算定できないこととされている。
 検査の結果、1県に所在する3施術所において、柔道整復療養費の請求が不適正と認められるものが997件あった。その態様は、柔道整復療養費の支給対象とならない肩こりなどに対する施術等であるのに、柔道整復施術療養費支給申請書に事実と異なる負傷名等を記載して、後療料等を算定していたものである。
 このため、上記997件の請求に対して9市町村等が支払った柔道整復療養費が7,677,397円過大となっていて、これに対する国の負担額3,039,982円は負担の必要がなかったものである。

 以上を医療機関等及び施術所の所在する道府県別に示すと次のとおりである。

道府県名 実施主体(医療機関等及び施術所数) 過大に支払われた医療費等の件数 過大に支払われた医療費等の額 不当と認める国の負担額 摘要
    千円 千円  
北海道 12市町等
(1)
1,665 72,626 28,521 〔3〕
青森県 21市町村等
(4)
1,310 9,448 3,821 〔7〕 〔10〕
秋田県 6市等
(3)
976 9,617 3,447 〔2〕 〔9〕
山形県 33市区町村等
(6)
3,025 88,614 36,398 〔1〕 〔2〕 〔6〕 〔7〕
茨城県 59市区町村等
(4)
2,614 18,295 7,182 〔1〕 〔2〕 〔9〕
栃木県 24市区町等
(1)
10,696 7,329 3,197 〔9〕
群馬県 41市町村等
(3)
2,167 40,686 21,682 〔2〕 〔3〕 〔8〕
千葉県 43市区町村等
(7)
3,085 18,170 7,530 〔2〕 〔4〕 〔5〕 〔7〕
神奈川県 75市区町村等
(18)
21,435 100,538 47,608 〔1〕 〔2〕 〔4〕 〔5〕 〔6〕 〔8〕 〔9〕
福井県 70市町等
(4)
4,857 37,994 14,767 〔1〕 〔2〕 〔5〕
山梨県 21市区町等
(4)
2,360 32,320 14,921 〔1〕 〔4〕 〔5〕
岐阜県 1広域連合
(1)
18 2,133 851 〔1〕
静岡県 32市町等
(11)
7,923 95,222 37,045 〔1〕 〔2〕 〔4〕 〔6〕 〔9〕
愛知県 13市町等
(2)
513 3,306 1,223 〔9〕
三重県 15市町等
(3)
727 9,624 4,073 〔2〕 〔5〕 〔7〕
滋賀県 3市等
(1)
648 2,475 941 〔4〕
大阪府 36市町村等
(15)
5,814 57,660 27,563 〔1〕 〔2〕 〔3〕 〔4〕 〔6〕 〔7〕 〔8〕 〔9〕
兵庫県 38市区町等
(14)
2,960 39,413 15,886 〔1〕 〔2〕 〔3〕 〔7〕 〔8〕 〔9〕
奈良県 92市区町村等
(1)
24,040 6,797 3,784 〔9〕
島根県 19市町村等
(6)
1,346 25,002 10,037 〔1〕 〔2〕
岡山県 11市町等
(1)
1,218 82,706 38,743 〔1〕
広島県 5市等
(5)
7,834 9,282 3,586 〔2〕 〔9〕
香川県 2市等
(1)
41 2,019 810 〔5〕
高知県 14市町等
(3)
683 17,967 7,360 〔1〕 〔2〕 〔4〕
福岡県 94市町村等
(24)
20,258 124,903 61,007 〔1〕 〔2〕 〔4〕 〔5〕 〔6〕 〔8〕 〔9〕
佐賀県 47市町等
(1)
7,583 9,331 4,327 〔9〕
長崎県 3市等
(1)
101 1,416 522 〔1〕
熊本県 17市町村等
(6)
1,744 47,844 22,257 〔1〕 〔2〕 〔7〕 〔8〕
宮崎県 4市町等
(1)
629 2,522 1,391 〔6〕
鹿児島県 9市町等
(2)
670 5,916 2,543 〔9〕
沖縄県 9市町村等
(1)
310 10,082 5,730 〔2〕
618市区町村等
(155)
139,250 991,274 438,767  
注(1)  計欄の実施主体数は、道府県の間で実施主体が重複することがあるため、各道府県の実施主体数を合計したものとは符合しない。
注(2)  摘要欄の〔1〕 〜〔10〕 は、本文の過大となっていた支払の事態 の診療報酬項目等の別に対応している。

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、地方厚生(支)局及び都道府県に対して、把握した情報を有効に活用しながら医療機関等に対する指導を実施するよう努めるとともに、審査支払機関、保険者等に対する指導の徹底を図るよう助言等を行う必要があると認められる。