ページトップ
  • 平成22年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 不当事項|
  • 補助金

国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの


(3) 国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの

40件 不当と認める国庫補助金 932,214,000円

 国民健康保険(前掲の「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照 )については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。
 普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費、老人保健医療費拠出金等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、その不足を公平に補うことを目途として交付するものであり、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金等(注1) に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注2) に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、普通調整交付金の交付額は、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。

(注1)
後期高齢者支援金等 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する支援金等 
(注2)
介護納付金  介護保険法(平成9年法律第123号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金

 特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付するものであり、結核・精神病特別交付金、減額解除特別交付金、保健事業特別交付金等がある。
 財政調整交付金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書及び実績報告書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、これを厚生労働省に提出して、〔3〕 厚生労働省はこれに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
 本院は、33都府県の210市区町村において、平成16年度から21年度までの間に交付された財政調整交付金について、会計実地検査を行った。その結果、15府県の40市町村において、普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、調整対象収入額を過小に算定したり、特別調整交付金のうち結核・精神病特別交付金を過大に算定したりなどしていて、交付金交付額計37,842,941,000円のうち計932,214,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、上記の40市町村において制度の理解が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたため適正な実績報告等を行っていなかったこと、また、これに対する上記15府県の審査が十分でなかったことによると認められる。
 前記の事態について、主な態様を示すと次のとおりである。

ア 普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していたもの

 普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分に係る調整対象需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費、老人保健医療費拠出金等の合計額から療養給付費負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
 このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額である。ただし、遡及して退職被保険者等の資格を取得した者について、退職被保険者等に該当することとなった年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費が含まれている場合は、これを医療給付費から控除することとなっている。
 13府県の35市町村は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定するなどしていたため、調整対象需要額を過大に算定していた。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 埼玉県川越市は、平成20年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、遡及して退職被保険者等の資格を取得した者について、退職被保険者等に該当することとなった年月日以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費を控除する際の計算を誤ったため、調整対象需要額を過大に算定していた。
 その結果、適正な医療分の調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、計564,781,000円が過大に交付されていた。

イ 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していたもの

 普通調整交付金の調整対象収入額は、医療分、後期分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、それら被保険者の所得を基に算定される応能保険料額とを合計した額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。
 このうち、医療分及び後期分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定される。
 そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算定することとなっている。ただし、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を、上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額とすることとなっている。
 また、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について上記と同様に算定することとなっている。
 4県の4市は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額のうち、所得限度額を超える部分の額を過大にするなどしていたため、調整対象収入額を過小に算定していた。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 愛知県高浜市は、平成20年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額を集計する際に、誤って被保険者ではない者の所得金額を含めたため、所得限度額を超える部分の額を過大にしていたことにより、算定基礎所得金額を過小に計算していた。
 その結果、適正な算定基礎所得金額により算出した調整対象収入額等に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、47,659,000円が過大に交付されていた。

ウ 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金)を過大に算定していたもの

 特別調整交付金のうち、結核・精神病特別交付金は、市町村における一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金等を控除した額のうち結核性疾病及び精神病に係る額(以下「結核・精神病に係る実質保険者負担額」という。)の占める割合が100分の15を超える場合に交付するものである。
 そして、この交付額は、一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金等を控除した額に、この金額のうち結核・精神病に係る実質保険者負担額の占める割合から100分の15を控除して得た割合を乗じて得た額の10分の9以内の額となっている。
 3県の3市は、結核・精神病特別交付金の実績報告等に当たり、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算出するなどしていた。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。

<事例>

 島根県大田市は、平成19、20両年度の結核・精神病特別交付金の実績報告等に当たり、結核・精神病に係る高額療養費を重複して計上するなどしていたため、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。
 その結果、結核・精神病特別交付金が計76,593,000円過大に交付されていた。

 以上のア、イ及びウのほか、3県の3市町は、特別調整交付金の減額解除特別交付金又は保健事業特別交付金の実績報告等に当たり、対象事業費を過大に算定するなどしていたため、交付額を過大に算定していた。
 なお、前記の40市町村のうち6市町については事態の態様が重複している。
 以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

部局等 交付先
(保険者)
交付金の種類 年度 交付金交付額 左のうち不当と認める額 摘要
千円 千円
(118) 青森県 青森市 普通調整交付金 19 2,368,940 2,143 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(119) むつ市 16〜19 1,817,078 4,060
(120) 岩手県 北上市 普通調整交付金、特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 17、19、
20
1,563,469 3,522 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(121) 山形県 鶴岡市 普通調整交付金 20 786,721 11,617 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(122) 茨城県 笠間市 19、20 890,047 8,994 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(123) 牛久市 20 195,170 28,542 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(124) かすみがうら市 19、20 426,511 4,153 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(125) 埼玉県 川越市 20 1,214,401 564,781
(126) 富山県 高岡市 20 762,333 17,414 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(127) 長野県 北安曇郡白馬村 17、18 177,354 2,301 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(128) 愛知県 高浜市 20 78,768 47,659 調整対象収入額を過小に算定していたものなど
(129) 丹羽郡扶桑町 18、19 111,950 2,144 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(130) 滋賀県 野洲市 20 92,502 21,872
(131) 大阪府 摂津市 普通調整交付金、特別調整交付金(減額解除特別交付金) 16〜19 1,298,267 4,770 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(132) 奈良県 大和高田市 普通調整交付金 20 542,061 2,207 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(133) 天理市 19、20 1,062,404 3,701
(134) 御所市 18〜20 1,120,286 4,863
(135) 生駒市 16〜18、
20
971,360 2,321
(136) 宇陀市 18〜20 986,403 3,362
(137) 山辺郡山添村 18、19 79,220 2,339
(138) 生駒郡平群町 18〜20 211,432 3,694
(139) 磯城郡川西町 18、19 139,705 1,557
(140) 磯城郡三宅町 18、19 141,056 2,264
(141) 宇陀郡曽爾村 18〜20 87,848 5,291
(142) 高市郡高取町 18〜20 215,072 4,496
(143) 北葛城郡上牧町 20 127,408 3,626
(144) 北葛城郡王寺町 18、19 219,700 7,738
(145) 北葛城郡広陵町 18〜20 479,526 2,132
(146) 吉野郡吉野町 19、20 231,840 5,417
(147) 吉野郡大淀町 19 183,221 1,852
(148) 吉野郡下市町 18、19 167,293 2,417
(149) 吉野郡天川村 18、19 45,744 1,686
(150) 島根県 大田市 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 19、20 811,001 76,593 結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していたもの
(151) (注3)
仁多郡奥出雲町
普通調整交付金、特別調整交付金(保健事業特別交付金) 16〜19 269,830 39,004 保健事業の対象となる事業費を過大にしていたものなど
(152) 邑智郡川本町 普通調整交付金 19、20 85,908 1,809 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(153) 岡山県 岡山市 17、18 5,260,168 18,745
(154) 津山市 普通調整交付金、特別調整交付金(減額解除特別交付金) 20 907,431 4,837 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(155) 美作市 普通調整交付金 20 267,447 1,414 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(156) 福岡県 久留米市 18、19 6,362,338 1,671
(157) 沖縄県 宜野湾市 普通調整交付金、特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 16〜19 5,083,728 3,206 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(118)—(157)の計 37,842,941 932,214
(注3)
平成17年3月30日以前は仁多郡仁多町

 上記の事態については、厚生労働省は、従来発生防止に取り組んでいるところであるが、さらに、通知等により市町村の事務処理の適正化に努めるとともに都道府県の実績報告等に係る審査等の強化を図る必要があると認められる。