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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

国民健康保険組合における組合員の被保険者資格の確認を適切に行うことにより、組合員資格の適正化を図るとともに、療養給付費補助金等の算定が適正なものとなるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


(1) 国民健康保険組合における組合員の被保険者資格の確認を適切に行うことにより、組合員資格の適正化を図るとともに、療養給付費補助金等の算定が適正なものとなるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
(平成19年度以前は、 (項)国民健康保険助成費)
  (項)医療費適正化推進費
部局等 厚生労働本省、4都府県
補助の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
補助事業者 4国民健康保険組合(保険者)
療養給付費補助金等の概要 国民健康保険組合が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るなどのため、被保険者に係る医療給付費等に対して補助等するもの
療養給付費補助金等交付額
913億0328万余円
(平成16年度〜21年度)

過大に交付されていた療養給付費補助金等の額
5億0186万円
(平成16年度〜21年度)

 (前掲の「国民健康保険の療養給付費補助金等が過大に交付されていたもの」参照

 【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

   国民健康保険組合における組合員の被保険者資格の確認について

(平成23年10月28日付け 厚生労働大臣宛て)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 国民健康保険の制度等の概要

(1) 国民健康保険組合の概要

 国民健康保険は、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)又は国民健康保険組合(以下「国保組合」という。)が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関して、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等の給付を行う保険である。
 このうち、国保組合は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「国保法」という。)により、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けて設立され、都道府県知事の認可を受けた規約において定めた同種の事業又は業務に従事する者で当該国保組合の地区内に住所を有する者を組合員として組織することとなっており、国保組合が行う国民健康保険の被保険者は、これらの組合員及びその世帯に属する者とされている。
 また、健康保険法(大正11年法律第70号)により、常時5人以上の従業員を使用する建設、医療等の事業を行う事業所又は法人事業所は、健康保険の適用を受けることとなっており、これらの事業所(以下「適用事業所」という。)に常時使用される者等は、健康保険の被保険者となることとされている。ただし、国保組合の組合員を使用する事業所が新たに適用事業所としての要件を満たすこととなるなどの場合、当該事業所に使用される者が、厚生労働大臣(平成21年12月以前は、社会保険庁長官)等に健康保険の適用を受けないこと(以下「適用除外」という。)とする申請を行い、承認を受けた場合には、従前どおり国保組合が行う国民健康保険の被保険者として取り扱われることとされている。

(2) 療養給付費補助金等の概要

 貴省は、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一環として、国保組合が行う国民健康保険事業運営の安定化を図るなどのため、国保組合に対して、療養給付費補助金、事務費負担金、出産育児一時金補助金、特定健康診査・保健指導補助金(以下、これらを合わせて「療養給付費補助金等」という。)等を交付している。
 このうち、療養給付費補助金の交付額は、原則として、各国保組合の被保険者の療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額(以下「医療給付費」という。)の100分の32(ただし、9年9月1日以降に適用除外の承認を受けて国保組合の組合員となった者及びその世帯に属する者については、政府管掌健康保険(20年10月以降は、全国健康保険協会管掌健康保険)との均衡を図るため、100分の13)に相当する額等とすることとなっている。
 療養給付費補助金等の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする国保組合は都道府県に交付申請書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、貴省に提出して、〔3〕 貴省はこれに基づき交付決定を行い療養給付費補助金等を交付することとなっている。そして、〔4〕 当該年度の終了後に、国保組合は都道府県に実績報告書を提出して、〔5〕 これを受理した都道府県は、その内容を審査の上、貴省に提出して、〔6〕 貴省はこれに基づき交付額の確定を行うこととなっている。

(3) 貴省が行った組合員資格の適正化の処置

 適用除外の承認に係る事務処理については、適用事業所の従業員等であるにもかかわらず適用除外の承認を受けないまま国保組合に加入している事態が見受けられたことから、17年10月に、本院は、厚生労働大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により、改善の処置を要求 したところである。
 そして、この本院の改善の処置要求を受けて、貴省は、同年12月に都道府県等に対して「国民健康保険組合の行う国民健康保険の被保険者に係る政府管掌健康保険の適用除外について(通知)」(以下「17年通知」という。)等を発するなどして、国保組合の組合員の被保険者資格の適正化が図られるよう指導している。
 17年通知においては、政府管掌健康保険における被保険者は、適用除外の承認がなされて初めて国保組合の被保険者となるものであることから、承認については、原則として遡及しないものであることなどの制度の周知を図っている。

(4) 全国建設工事業国民健康保険組合をめぐる状況

 国保組合のうち、全国建設工事業国民健康保険組合(以下「工事業国保」という。)は、東京都内に所在する本部及び全国の59支部で構成されており、工事業国保の規約等によると、組合員は、建設工事業に従事する者とされている。
 工事業国保に関しては、21年12月以降、無資格者加入や偽装加入の問題が報道されたことなどから、本院は、22年1月以降、工事業国保本部及び6支部に対して会計実地検査を行い、平成21年度決算検査報告において、医療給付費等の算定に当たり、無資格者であるため補助の対象とならない者を含めていて、療養給付費補助金等が過大に交付されていた事態について「国民健康保険の療養給付費補助金等が過大に交付されていたもの」 として掲記している。
 一方、工事業国保も、本院の検査と並行して、22年3月以降、貴省及び工事業国保の設立を認可した東京都の指示により全59支部に対して調査(以下「全国調査」という。)を行っている。この全国調査は、同年1月末時点における全ての組合員を対象に、その業種及び業態の確認を行うために、それらを確認できる資料を添付した調査票を事業主である組合員に提出させることにより、実施したものである。その結果、被保険者27,898人について、建設工事業に従事していないなど加入資格がなかったことが判明したことなどから、貴省は、同年9月に、工事業国保に対し是正改善命令を発して、実態の解明、追加調査(同年1月末時点で既に脱退していて全国調査の対象とならなかった組合員の資格についての調査)等を求めている。また、東京都においては、貴省からの通知を受け、22年度末までに、16年度から21年度までの間に過大に交付されていた療養給付費補助金等計75億5778万余円について、返還命令を発している。そして、このうち27億9615万余円が返還されている。
 その後、工事業国保は、23年3月に、追加調査の結果等を貴省及び東京都に報告している。この報告においては、建設工事業に従事していないのに加入していた組合員728人(被保険者1,426人)及び法人事業所等の従業員等であるのに従業員5人未満の個人事業所の従業員等として加入していた組合員1,894人(被保険者3,840人)の組合員計2,622人(被保険者計5,266人)については加入資格がなかったとし、これらの者に係る16年度から21年度までの間の療養給付費補助金等計11億3889万余円が過大に交付されていたとしている。そして、これについても、東京都は、貴省からの通知を受け、23年7月に返還命令を発している。

2 本院の検査結果

 (検査の観点及び着眼点)

 前記のとおり、17年10月の本院の処置要求により貴省が改善の処置を講じた後も、依然として、無資格者が国保組合に加入しているなどの事態が見受けられ、また、前記の平成21年度決算検査報告において、本院は、工事業国保について引き続き検査を行っていくこととするとしたところである。
 そこで、本年次においては、本院は、合規性等の観点から、工事業国保の行った全国調査等において組合員資格の確認が適切なものとなっているか検査するとともに、工事業国保以外の国保組合において組合員資格の確認が適切に行われ、療養給付費補助金等の額が適正に算定されているかなどに着眼して検査した。

 (検査の対象及び方法)

 本院は、〔1〕 工事業国保において、工事業国保が実施した全国調査及び前記の追加調査の結果、組合員資格があることが確認された組合員71,555人を対象として、全国調査等で用いられた調査票等を確認するなどの方法により、また、〔2〕 14都府県(注1) の38国保組合において、事業実績報告書、加入申込書等の関係書類を確認するなどの方法により、会計実地検査を行った。そして、各国保組合において組合員資格を確認する際に用いられた資料等について疑義のある事態が見受けられた場合は、当該国保組合に対して調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査を行った。

 14都府県  東京都、京都、大阪両府、秋田、神奈川、富山、山梨、岐阜、愛知、三重、広島、山口、福岡、沖縄各県

 (検査の結果)

 検査したところ、工事業国保及び3府県(注2) の3国保組合(注3) において、組合員計1,129人(被保険者計2,315人)について、組合員としての資格がないのに国保組合に組合員として加入させていた事態が、次表のとおり見受けられた。
 すなわち、工事業国保は、建設工事業に従事していないのに従事しているとして組合員27人(被保険者53人)を、また、法人事業所等の従業員等であるのに従業員5人未満の個人事業所の従業員等であるとして組合員851人(被保険者1,911人)を加入させていた。
 また、3府県の3国保組合は、法人事業所等の従業員等であるのに従業員5人未満の個人事業所の従業員等であるとして組合員251人(被保険者351人)を加入させていた。

表 組合員としての資格がないのに国保組合に組合員として加入させていた者の数(単位:人)
工事業国保 3国保組合 合計
秋田県歯科医師国民健康保険組合 山梨県医師国民健康保険組合 京都建築国民健康保険組合
検査対象被保険者 組合員数 71,555 1,552 1,652 16,628 91,387
扶養家族数 94,918 1,059 1,042 21,816 118,835
  166,473 2,611 2,694 38,444 210,222
指摘被保険者数 組合員数 878 38 150 63 1,129
扶養家族数 1,086 9 16 75 1,186
  1,964 47 166 138 2,315
態様別指摘被保険者数 国保組合の規約に定める業種に従事していないもの 組合員数 27 0 0 0 27
扶養家族数 26 0 0 0 26
53 0 0 0 53
法人事業所等の従業員等であるのに従業員5人未満の個人事業所の従業員等であるとして加入させていたもの 組合員数 851 38 150 63 1,102
扶養家族数 1,060 9 16 75 1,160
1,911 47 166 138 2,262

<事例>

 工事業国保神奈川県支部は、全国調査の実施に当たり、組合員から提出された調査票及びその添付書類として事業主である組合員が発行した請求書等を確認し、そこに法人事業所であることを示す株式会社等の記載が見受けられなかったことなどから、個人事業主であると判断し、組合員資格があるとしていた。
 しかし、本院が上記の書類を検査したところ、疑義のある事態が見受けられたことから、同支部に対し客観的な資料によりあらためて報告するよう求めた結果、実際には、組合員217人(被保険者497人)が法人事業所の従業員等となっていて、加入資格がなかった。

 このため、4国保組合の被保険者に係る医療給付費等が過大に算定されており、その結果、療養給付費補助金等が16年度から21年度までの間に計5億0186万余円過大に交付されていたと認められる。

(注2)
3府県  京都府、秋田、山梨両県
(注3)
3国保組合  秋田県歯科医師国民健康保険組合、山梨県医師国民健康保険組合、京都建築国民健康保険組合

 (是正及び是正改善を必要とする事態)

 上記のように、17年通知等において、貴省が国保組合の組合員の被保険者資格の適正化を図るための処置を講じたにもかかわらず、4国保組合において、依然として、組合員としての資格がない者が国保組合に組合員として加入していて、その結果、療養給付費補助金等が過大に交付されている事態は適切ではなく、早急に是正及び是正改善を図る要があると認められる。

 (発生原因)

 このような事態が生じているのは、4国保組合において、組合員に対する定期的な組合員資格の確認が適切に行われていないこと、貴省において、組合員資格の確認を適切に行うことに対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

 国保法は、保険者を原則として市町村とする一方、その歴史的経緯等から、国保組合も保険者となることを認めている。そして、国保組合は、同種の事業又は業務に従事する者が自主的に組織するものであることから、国保組合において、その組織する組合員の資格が適切に取り扱われることで、適正で公平な国民健康保険事業の運営が図られるとともに、補助事業の適正な執行にもつながることとなる。
 貴省においては、工事業国保以外の国保組合においても不適切な事業運営が見られ、その背景には、国保組合や組合員のコンプライアンスの認識の欠如が見受けられるとし、23年5月に国保組合のコンプライアンス担当理事や関係者を集めて、法令遵守に関する研修会を開催している。この研修会では、17年通知等の趣旨、組合員資格の加入時及び加入後の確認・再確認の方法等について周知し、組合員資格の適正化を図ることとしている。
 これは、業種や業態を客観的に確認できる公的機関発行の書類等を組合員から徴取するなどして組合員資格を確認等させるための方法を示したものであるが、この確認等を更に実効性のあるものとし、これにより組合員資格の適正化を確実に図るためには、各国保組合に対して、調査を行わせるなどする必要があると認められる。
 ついては、貴省において、前記の4国保組合に対して、無資格者について速やかに組合員資格の適正化を図らせるよう是正の処置を要求するとともに、国保組合に対して、貴省が前記の研修会で周知した確認の方法等による調査を確実に行わせて、その結果を貴省に報告させるなどして組合員資格の適正化を図り、今後、国保法等の規定にのっとって国保組合の組合員が適正に組織され、ひいては、療養給付費補助金等の算定が適正なものとなるよう是正改善の処置を求める。