会計名及び科目 | 労働保険特別会計(雇用勘定) | (項)失業等給付費 |
部局等 | 厚生労働本省(支給庁)、68公共職業安定所(支給決定庁) | |
要調査対象受給資格者等の検出情報の概要 | 労働市場センター業務室が、就職年月日が求職者給付の支給期間中となっているなど不正受給の可能性があると考えられる者等を検出し、当該情報を該当する公共職業安定所に通知又は配信するもの | |
要調査対象受給資格者等の検出情報が未活用となっていた者 | 844人 | |
上記の者に対する失業等給付金の支給額の合計 | 4億9030万余円(平成19年度〜22年度) | |
上記のうち支給の要件を満たしていない可能性のある失業等給付金の支給額 | 1億1162万円 |
厚生労働省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業した場合に必要な給付等を行う雇用保険を、また、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等に対して療養の給付等の保険給付等を行う労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)をそれぞれ管掌している。
雇用保険の失業等給付金の中には、被保険者が離職して労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることなどの要件を満たす者に対して支給される基本手当、傷病手当等の求職者給付及び再就職手当等の就職促進給付(以下、これらを合わせて「求職者給付等」という。)がある。また、労災保険の保険給付の中には、業務上の事由又は通勤による負傷又は疾病に係る療養のため労働することができず、賃金を受けられない者に対して支給される休業補償給付及び休業給付(以下、これらを合わせて「休業補償給付等」という。)がある。
そして、雇用保険の求職者給付等は、公共職業安定所において、その受給資格があると決定された者(以下「受給資格者」という。)から提出された失業認定申告書等に記載されている就職の有無等の事実について確認して、支給決定に当たっては、受給資格者が実際に失業している日について失業の認定を行うなどして、厚生労働省が支給することとなっている。また、受給資格者が休業補償給付等の支給を受けている場合は、一般に就労できる状態にないことから、休業補償給付等の支給を受けている間の求職者給付等の受給資格の決定及び失業の認定を行わないこととなっている。
厚生労働省職業安定局が定めた業務取扱要領〔雇用保険給付関係〕(以下「取扱要領」という。)によれば、就職の事実を秘匿し、又は自己の労働による収入を届け出ないなど、不正の手段を用いて失業等給付金を詐取しようとすることを未然に防止し、又は摘発するために、次の措置等を執ることとされている(図参照 )。
図 要調査対象受給資格者の検出過程等
ア 要調査対象受給資格者の検出等
雇用保険の被保険者等に関する記録の作成等の業務を行う厚生労働省職業安定局労働市場センター業務室(以下「センター」という。)は、就職した受給資格者について、公共職業安定所が入力した就職年月日等変更票等の就職年月日が求職者給付の支給期間中となっている場合は、不正受給の可能性があることから、当該受給資格者を要調査対象として検出し(以下、要調査対象として検出した受給資格者を「要調査対象受給資格者」という。)、検出の都度、当該情報等を該当する公共職業安定所に通知する。
イ 休業補償給付等と求職者給付の併給を受けている可能性のある者の検出等
本院は、平成12年度決算検査報告に「雇用保険の求職者給付等の支給に当たり、労働者災害補償保険の休業補償給付等の情報を活用することにより、支給の適正化を図るよう是正改善の処置を要求したもの」
を掲記した。これを受けて厚生労働省は、以下のとおり休業補償給付等の情報を活用できる体制を整備した。
センターは、休業補償給付等の支給期間と求職者給付の支給期間とが重複していて、両給付の併給を受けている可能性のある者(以下、要調査対象受給資格者と両給付の併給を受けている可能性のある者を合わせて「要調査対象受給資格者等」という。)を検出し、年1回、当該情報を記載した一覧表を該当する公共職業安定所に配信する。
そして、センターから上記のア及びイにより検出された情報(以下「検出情報」という。)の通知又は配信を受けた公共職業安定所は、要調査対象受給資格者等に対して面接を行うなどして事実関係を調査することとされている。なお、雇用保険法によれば、厚生労働省が失業等給付金の返還を受ける権利は、支給から2年を経過したときに、時効によって消滅することとされている。
厚生労働省は、検出情報等に係る調査に当たらせるため、全国の公共職業安定所に雇用保険給付調査官(以下「給付調査官」という。)を配置(平成23年5月1日現在の定員513人)するなどしている。
公共職業安定所において検出情報の通知又は配信を受けた後の調査等については、取扱要領に基づいて都道府県労働局(以下「労働局」という。)が事務処理要領等を定めており、その内容はおおむね次のとおりとなっている。
〔1〕 給付調査官等が検出情報等に係る調査を円滑に行うために備える所定の整理簿に要調査対象受給資格者等に関する情報を記録する。
〔2〕 不正受給等の根拠となる証拠書類を要調査対象受給資格者等を雇い入れた事業主等から徴するなどの調査を速やかに行う。
〔3〕 〔1〕 で徴した証拠書類に基づき、要調査対象受給資格者等本人に連絡を取って面接を行うなどして事実関係を調査する。
〔4〕 要調査対象受給資格者等の所在が確認できず連絡が取れないため調査に相当の期間を要するなどして、検出情報が未活用となっている事案について、公共職業安定所の管理者に適宜報告を行う。
〔5〕 要調査対象受給資格者等に係る調査が終了した事案等を一定期間ごとに取りまとめて、不正受給に関する報告(以下「業務報告」という。)として労働局に提出する。
本院は、毎年度の決算検査報告において、失業等給付金の支給を受けた者(以下「受給者」という。)が、再就職した後も引き続き失業等給付金の支給を受けるなどしていて、その支給が適正でない事態を不当事項として掲記している。23年次の検査においても、18労働局(注1)
管内の152公共職業安定所において会計実地検査を行ったところ、18労働局の106公共職業安定所管内における20年度から23年度までの間の受給者365人に対する失業等給付金計86,567,930円が支給の要件を満たしていなかった(前掲の「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照
)。
そこで、本院は、合規性等の観点から、公共職業安定所において、検出情報が十分に活用されているか、未活用となっている検出情報について組織的な取組がなされているかなどに着眼して、12労働局(注2)
管内の115公共職業安定所において、21年4月から22年12月までの間にセンターが通知又は配信した検出情報について、整理簿等の書類により検査を行った。
(注1) | 18労働局 秋田、茨城、群馬、神奈川、新潟、富山、静岡、三重、大阪、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、高知、福岡、大分、鹿児島各労働局
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(注2) | 12労働局 神奈川、新潟、静岡、三重、大阪、鳥取、島根、岡山、山口、高知、福岡、大分各労働局
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検査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、9労働局(注3)
管内の68公共職業安定所において要調査対象受給資格者等844人に係る検出情報が未活用となっており、これらの者に支給した失業等給付金計4億9030万余円のうち、支給の要件を満たしていない可能性のある支給額(以下「不適正支給見込額」という。)は計1億1162万余円となっていた。
そして、上記の検出情報が未活用となっていた要調査対象受給資格者等844人の中には、前記の23年次の検査において支給の要件を満たしていないことが確認された者が100人含まれており、これらの者に係る支給の要件を満たしていない失業等給付金の支給額は9労働局管内の33公共職業安定所において計16,823,276円となっていた。
公共職業安定所において検出情報を十分に活用するためには、整理簿に調査の進状況を記録するとともに、検出情報の活用状況を適切に把握して、事実関係の確認に向けて組織として取り組むことのできる体制を整備することが重要となる。
そこで、未活用となっている検出情報の組織としての把握・管理の状況についてみると次のとおりとなっていた。
ア 公共職業安定所において、整理簿に未活用となっている検出情報が記録されていないもの |
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イ 公共職業安定所において、整理簿に未活用となっている検出情報の記録はあるものの、給付調査官等から管理者への報告が十分に行われていないもの |
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ウ 労働局において、未活用となっている検出情報について業務報告により把握していないもの |
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なお、前記の検出情報が未活用となっていた要調査対象受給資格者等844人のうち、583人については、上記のア、イ及びウの状況が重複してみられた。また、141人に係る不適正支給見込額計2422万余円については、検出情報が未活用となっている状況のまま支給から2年以上が経過(23年6月末現在)しているため、時効により返還を受ける権利が消滅しており、支給の要件を満たしていないことが確認された場合でも、その返還を命じることができなくなっていた。
このように、検出情報を十分に活用していない事態は適切とは認められず、改善を図る必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、公共職業安定所において、センターから通知又は配信される検出情報を活用することの重要性に対する認識が十分でなかったことにもよるが、主として次のことなどによると認められた。
ア 厚生労働省において、未活用となっている検出情報に係る調査の進捗状況を整理簿等により適切に把握して管理する体制を整備することについて労働局に対する指導監督が十分でなかったこと
イ 公共職業安定所において、未活用となっている検出情報に係る調査の進捗状況を組織として十分に把握して管理していなかったこと
ウ 労働局において、未活用となっている検出情報について公共職業安定所からの業務報告等により適切に把握する体制が整備されていなかったこと
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、23年9月に各労働局に通知を発し、未活用となっている検出情報を十分に活用して、失業等給付金の支給が適正なものとなるよう、次のような処置を講じた。
ア センターが通知又は配信する検出情報に係る調査の進捗状況を把握して管理することが可能となるような整理簿の統一的な様式を定めるとともに、労働局及び公共職業安定所に対して、整理簿に記録する趣旨を周知徹底し、整理簿に適切に記録するよう指導した。
イ 未活用となっている検出情報に係る調査の進捗状況を公共職業安定所において組織として十分に把握して管理することができるよう、給付調査官等が整理簿を使用して定期的に管理者に報告を行うこととするなどの体制を整備した。
ウ 未活用となっている検出情報について、労働局において適切に把握できるよう、公共職業安定所から労働局に定期的に業務報告等により報告を行うこととするなどの体制を整備した。