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  • 平成22年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

消費税の課税期間に係る基準期間がない法人の納税義務の免除について


第5 消費税の課税期間に係る基準期間がない法人の納税義務の免除について

検査対象 財務省、国税庁、8国税局等、47税務署
基準期間がない法人の消費税の納税義務の免除の概要 事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1000万円未満の法人の設立事業年度とその翌事業年度の納税義務を免除するもの
検査の対象とした法人数 1,546法人
上記の法人のうち納付消費税額の推計が可能な法人数及びその売上高 587法人 1005億円(平成16年度〜21年度)
免税となっている納付消費税額の推計額   17億5714万円(平成16年度〜21年度)

1 検査の背景

(1) 消費税の導入及びその後の経緯

 消費税は、税体系全体を通じた税負担の公平を図るとともに、国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するため、消費に広く薄く負担を求めるという観点から、消費税法(昭和63年法律第108号)の制定により平成元年4月に導入された。
 その後、9年4月に、税率を3%から4%に引き上げるとともに地方消費税(消費税額の25%、消費税率換算で1%)を創設するなどした。また、16年4月に、小規模事業者に係る納税義務の免除の特例について、その適用上限の課税売上高を3000万円から1000万円に引き下げるなどした。

(2) 消費税の仕組み

 消費税は、製造、卸売、小売等の各段階の売上げに課税され、その税相当額が順次価格に織り込まれて転嫁され、最終的には消費者が負担することが予定されている。そして、消費税法は、前段階で課税されている消費税が各段階で二重、三重に累積的に課税されないように、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除する仕組みを採っている。消費税の納税義務者は、国内において課税資産の譲渡等を行う事業者(注1) となっている。

 事業者  個人事業者及び法人

(3) 事業者免税点制度

 消費一般に幅広く負担を求めるという消費税の課税の趣旨等の観点からは、消費税の納税義務を免除される事業者(以下「免税事業者」という。)は極力設けないことが望ましいとされている。一方、小規模事業者の事務処理能力等を勘案し、課税期間(注2) に係る基準期間(個人事業者では課税期間の前々年、法人では課税期間の前々事業年度)における課税売上高が1000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除されることとなっている(以下、この消費税の納税義務が免除される仕組みを「事業者免税点制度」という。)。その結果、事業者として新たに事業を開始した場合、個人事業者の新規開業年及びその翌年並びに法人の設立事業年度及びその翌事業年度については、それぞれ課税期間に係る基準期間が存在しないことから、原則として免税事業者となり、納税義務が免除されることとなっている。

 課税期間  納付する消費税額の計算の基礎となる期間

(4) 個人事業者の法人成り

 個人事業者は、事業の拡大等を理由として、当該事業を新たに設立した法人(以下「新設法人」という。)に引き継ぐ場合がある(以下、このように個人事業者が行っていた事業を新設法人へ引き継ぐことを「法人成り」という。)。
 そして、個人事業者として課税事業者であった場合でも、個人事業者が新設法人に事業を引き継いだときには、法人としての課税期間に係る基準期間が存在しないことから、設立事業年度とその翌事業年度は、原則として免税事業者となる。

(5) 新設法人における納税義務の免除の特例

 新設法人の中には設立事業年度から相当の売上高を有する法人もあることなどから、6年の税制改正において、新設法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額(以下「資本金」という。)が1000万円以上の法人は、課税期間に係る基準期間が存在しない設立2年以内の納税義務が免除されないこととされた。

(6) 会社法施行に伴う最低資本金制度の撤廃

 会社に関する法律として、会社法(平成17年法律第86号)が制定されて18年5月から施行された。これにより、従来設けられていた株式会社の設立には1000万円以上の資本金が必要であるとする最低資本金制度が撤廃された。
 そして、上記の最低資本金制度が撤廃された以降においても、新設法人の設立2年以内の納税義務について資本金を基準として判定することは、特段見直されていない。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 消費税法は、前記のとおり、法人については設立2年以内における納税義務の判定基準として基準期間の課税売上高に代えて資本金を採用し、その事業年度開始の日における資本金が1000万円未満の法人を免税事業者としている。
 しかし、従前から資本金1000万円未満の新設法人においても、設立当初の第1期事業年度から相当の売上高を有する法人や設立2年以内の事業者免税点制度を利用した租税回避等を行っている法人が見受けられている。さらに、会社法により、最低資本金制度が撤廃され、少額の資本金でも容易に会社を設立することが可能になっている。
 そこで、本院は、消費税に関する国民の関心が高まっている中で、上記のような状況を踏まえて、有効性等の観点から、新設法人の設立2年以内における納税義務の判定基準として資本金を採用している事業者免税点制度が、有効かつ公平に機能しているかに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、財務省、国税庁、8国税局等(注3) 及び47税務署(注4) において、会計実地検査を行った。このうち、財務省においては税制改正の内容等について、国税庁においては消費税に係る租税回避等の状況等について、それぞれ説明を聴取するなどして検査した。また、47税務署においては、検査の効率性を勘案して、表1のア及びイのような法人を抽出するとともに、8国税局等及び47税務署においては、表1のウ及びエのような法人を抽出し、計1,546法人を対象として、法人税及び消費税の確定申告書等によりその内容を分析するなどして検査した。

表1 検査の対象とした法人
平成18年中に設立された資本金1000万円未満の新設法人のうち、設立2年以内の事業者免税点制度の適用による効果が大きいと想定される業種、すなわち、比較的設備投資に費用を要さずに事業の開始、移転及び廃止が容易で、費用のうちに課税仕入れの対象とならない給与等の占める割合が高いと想定される業種の法人 法人
1,283
課税事業者であった個人事業者が、18年中に資本金1000万円未満で法人成りして同一の事業内容等で事業を開始した後、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて、第3期課税期間から課税事業者となっていた法人 206
資本金1000万円未満の新設法人のうち、第3期事業年度までの間に資本金が1000万円以上となる増資を行っていたなどの法人で設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けていた法人 33
資本金1000万円未満の新設法人のうち、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後に、解散等していた法人 24
1,546
(注3)
 8国税局等  仙台、関東信越、東京、名古屋、大阪、広島、福岡各国税局、沖縄国税事務所
(注4)
 47税務署  札幌南、須賀川、新潟、水戸、伊勢崎、川口、長野、千葉東、麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、品川、四谷、新宿、目黒、蒲田、渋谷、中野、豊島、武蔵府中、鶴見、横浜中、戸塚、平塚、岐阜南、静岡、沼津、昭和、熱田、刈谷、右京、阿倍野、東、豊能、吹田、神戸、府中、下関、八幡浜、小倉、大川、佐賀、長崎、熊本西各税務署

3 検査の状況

(1) 資本金1000万円未満の新設法人における売上高等の状況

 18年中に設立された資本金1000万円未満の新設法人で検査の対象とした1,283法人のうち、第1期事業年度の売上高が1000万円を超え、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて、第3期課税期間において納付消費税額を申告している343法人を抽出して、これらの法人の第1期事業年度から第3期事業年度までの売上高及び消費税の課税の状況についてみると、表2のとおりである。

表2 売上高1000万円超の新設法人に係る売上高の推移等
事業年度等
区分
第1期事業年度
(第1期課税期間)
第2期事業年度
(第2期課税期間)
第3期事業年度
(第3期課税期間)
売上高の状況 売上高計 百万円
22,230
百万円
35,902
百万円
36,187
1社平均売上高 百万円
64
百万円
104
百万円
105
消費税の課税の状況 課税標準額計 免税 免税 千円
32,332,422
納付消費税額計 千円
652,681
1社平均
課税標準額
千円
94,263
1社平均
納付消費税額
千円
1,902
(注)
 検査対象の法人に係る売上高のデータは百万円単位である。以下同じ。

 343法人は、第1期事業年度及び第2期事業年度の1社平均売上高が、それぞれ64百万円及び1億04百万円となっているのに、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて、第1期課税期間及び第2期課税期間は免税事業者となっていた。
 また、343法人を資本金及び売上高の区分別にみると、表3のとおりである。

表3 売上高1000万円超の新設法人の資本金別・売上高別法人数
区分
資本金
法人数
(%)
第1期事業年度売上高別法人数 (参考)
1社
平均
売上高
第2期事業年度売上高別法人数 (参考)
1社
平均
売上高
3千万
円以下
3千万
円超
5千万
円以下
5千万
円超
1億円
以下
1億円超 3千万
円以下
3千万
円超
5千万
円以下
5千万
円超
1億円
以下
1億円超
  うち
3億
円超
  うち
3億
円超
100万円未満
〔1〕

55
(16.0)

28

12

4

11

5
百万円
77

25

8

8

14

7
百万円
107
100万円
〔2〕

52
(15.2)
23 14 11 4 0 48 17 8 13 14 2 88
小計
100 万円以下
(〔1〕 +〔2〕 )

107
(31.2)
51 26 15 15 5 63 42 16 21 28 9 98
100 万円超
300 万円未満
〔3〕

16
(4.7)
10 4 1 1 0 40 7 2 4 3 0 57
300 万円
〔4〕

134
(39.1)
56 34 19 25 4 66 33 31 33 37 15 113
小計
300 万円以下
(〔1〕 +〔2〕 +〔3〕 +〔4〕 )

257
(74.9)
117 64 35 41 9 63 82 49 58 68 24 104
300 万円超
500 万円未満
〔5〕

5
(1.5)
3 0 0 2 0 96 1 2 0 2 0 109
500 万円以上
1000 万円未満
〔6〕

81
(23.6)
26 19 21 15 0 66 14 15 22 30 3 106

(〔1〕 +〔2〕 +〔3〕 +
〔4〕 +〔5〕 +〔6〕 )

343
(100.0)
146 83 56 58 9 64 97 66 80 100 27 104
(注)
 「法人数」欄の( )内の数値は四捨五入しているため、合計しても100%にならない。

 343法人のうち1億円超の売上高を有している法人は、第1期事業年度で58法人(16.9%)、第2期事業年度で100法人(29.2%)となっており、このうち3億円超の売上高を有している法人は、それぞれ9法人(2.6%)及び27法人(7.9%)見受けられた。
 そして、前記のとおり、最低資本金制度が撤廃されたことから、少額の資本金で法人を設立しているものも見受けられ、上記343法人のうち257法人(74.9%)が資本金300万円以下となっていた。これら257法人の第1期事業年度及び第2期事業年度の1社平均売上高は、それぞれ63百万円及び1億04百万円となっており、このうち1億円超の売上高を有している法人は、それぞれ41法人(16.0%)及び68法人(26.5%)、さらに、3億円超の売上高を有している法人もそれぞれ9法人(3.5%)及び24法人(9.3%)見受けられた。
 前記1,283法人のうち343法人の第1期事業年度及び第2期事業年度の売上高計は、表2 のとおり、それぞれ222億30百万円及び359億02百万円で、これら343法人が第1期課税期間及び第2期課税期間において課税事業者であったとして納付消費税額を推計(注5) すると、それぞれ4億3550万余円及び7億0051万余円となる。

 推計  課税事業者となった第3期課税期間の納付消費税額に、第3期事業年度の売上高に対する第1期事業年度の売上高又は第2期事業年度の売上高の割合を乗ずるなどして納付消費税額を推計している。以下同じ。

(2) 法人成りした場合における売上高等の状況

 課税事業者となっていた個人事業者206人が、18年中に資本金1000万円未満で法人成りして同一の事業内容等で事業を開始した後、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けていた場合における個人事業者としての17、18両年分の事業収入及び消費税の課税の状況と、法人成り後の法人としての第1期事業年度から第3期事業年度までの売上高及び消費税の課税の状況についてみると、表4のとおりである。

表4 法人成り後の法人に係る売上高等の推移
事業年度等
区分
個人事業者(206人) 法人(206法人)
平成17年分 18年分 第1期事業年度
(第1期課税期間)
第2期事業年度
(第2期課税期間)
第3期事業年度
(第3期課税期間)
売上高の状況
事業収入計
売上高計
百万円
13,009
百万円
7,322
百万円
13,864
百万円
16,318
百万円
15,330
1人平均事業収入
1社平均売上高
百万円
63
百万円
35
百万円
67
百万円
79
百万円
74
消費税の課税の状況 課税標準額計 千円
12,500,211
千円
7,660,587
免税 免税 千円
14,866,994
納付消費税額計 千円
156,109
千円
109,114
千円
193,319
1人(1社)平均
課税標準額
千円
60,680
千円
37,187
千円
72,169
1人(1社)平均
納付消費税額
千円
757
千円
529
千円
938
(注)
 平成18年1月1日〜12月31日の間の法人成りのため、この間に、個人事業者の18年分と法人の第1期事業年度がある。

 法人成りが18年中に行われていることから、1年間の売上高で比較するために、個人事業者の17年分の事業収入と法人の第2期事業年度の売上高をみると、個人事業者の17年分の1人平均事業収入が63百万円であるのに対して、法人の第2期事業年度の1社平均売上高は79百万円と同等以上の売上高となっていた。このように事実上、同一の事業内容等を継続していて法人成り後も相当の売上高があるのに、個人事業者が法人成りして事業を開始した後、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて、第1期課税期間及び第2期課税期間は免税事業者となっていた。
 また、法人成り後の206法人を資本金及び売上高の区分別にみると、表5のとおりである。

表5 法人成り後の法人の資本金別・売上高別法人数
区分
資本金
法人数
(%)
第1期事業年度売上高別法人数 (参考)
1社
平均
売上高
第2期事業年度売上高別法人数 (参考)
1社
平均
売上高
3千万
円以下
3千万
円超
5千万
円以下
5千万
円超
1億円
以下
1億円超 3千万
円以下
3千万
円超
5千万
円以下
5千万
円超
1億円
以下
1億円超
  うち
3億
円超
  うち
3億
円超
300万円未満
〔1〕

66
(32.0)

16

20


19


11

1
百万円
63

8

20

24


14


0
百万円
73
300万円
〔2〕

90
(43.7)
24 28 23 15 1 65 13 20 41 16 2 78
小計
300 万円以下
(〔1〕 +〔2〕 )

156
(75.7)
40 48 42 26 2 64 21 40 65 30 2 76
300 万円超
500 万円未満
〔3〕

4
(1.9)
1 1 1 1 0 56 1 1 1 1 0 65
500 万円
〔4〕

34
(16.5)
5 14 8 7 0 70 2 8 13 11 0 88
500 万円超
1000 万円未満
〔5〕

12
(5.8)
1 3 3 5 0 92 1 3 3 5 0 95

(〔1〕 +〔2〕 +〔3〕
+ 〔4〕 +〔5〕 )

206
(100.0)
47 66 54 39 2 67 25 52 82 47 2 79
(注)
 「法人数」欄の( )内の数値は四捨五入しているため、合計しても100%にならない。

 206法人のうち1億円超の売上高を有している法人は、第1期事業年度で39法人(18.9%)、第2期事業年度で47法人(22.8%)となっていた。
 そして、206法人のうち156法人(75.7%)は、資本金300万円以下であり、その第1期事業年度及び第2期事業年度の1社平均売上高は、それぞれ64百万円及び76百万円となっていた。このうち1億円超の売上高を有している法人は、第1期事業年度で26法人(16.7%)、第2期事業年度で30法人(19.2%)見受けられた。
 上記206法人の第1期事業年度及び第2期事業年度の売上高計は、表4 のとおり、それぞれ138億64百万円及び163億18百万円で、これら206法人が第1期課税期間及び第2期課税期間において課税事業者であったとして納付消費税額を推計すると、それぞれ1億7373万余円及び2億0811万余円となる。

(3) 資本金が1000万円以上となる増資を行っていたなどの法人における売上高等の状況

 資本金1000万円未満の新設法人のうち、第2期事業年度の開始の日の翌日以降に資本金が1000万円以上となる増資を行っていたなどの法人を検査したところ、次のような状況となっているものが見受けられた。
 第1期事業年度開始の日の翌日以降の同事業年度中に資本金を1000万円以上に増資して第1期課税期間は免税事業者となり、第2期課税期間から課税事業者となっていたなどの法人が10法人、第2期事業年度開始の日の翌日以降に資本金を1000万円以上に増資して第1期課税期間及び第2期課税期間は免税事業者となり、第3期課税期間以降から課税事業者となっていたなどの法人が19法人、計29法人見受けられた。
 そして、これらの法人の売上高及び消費税の課税の状況についてみると、表6のとおりである。

表6 増資法人に係る売上高等の状況
事業年度等
区分
第1期事業年度
(第1期課税期間)
第2期事業年度
(第2期課税期間)
第3期事業年度
(第3期課税期間)
10法人
1社平均
売上高
百万円
451
百万円
注(1)
373

1社平均
課税標準額
免税 千円
注(1)
371,654

1社平均
納付消費税額
千円
注(1)
4,334
19法人
1社平均
売上高
百万円
97
百万円
322
百万円
注(2)
367

1社平均
課税標準額
免税 免税 千円
注(2)
312,833

1社平均
納付消費税額
千円
注(2)
4,960
注(1)  第2期事業年度等の申告期限が未到来の法人が2法人あるため、8法人に係る売上高等である。
注(2)  第3期事業年度等の申告期限が未到来の法人が2法人及び第3期課税期間が免税となっている法人が6法人あるため11法人に係る売上高等である。

 第1期課税期間が免税事業者となっていた10法人の同期間における1社平均売上高は、4億51百万円となっており、第1期課税期間及び第2期課税期間が免税事業者となっていた19法人の同期間における1社平均売上高は、それぞれ97百万円及び3億22百万円となっていた。そして、これら29法人の中には、5億円以上の売上高を有している法人も5法人見受けられた。また、前記のとおり、最低資本金制度が撤廃されたことから、上記10法人の中には、1万円及び5万円の資本金でそれぞれ法人を設立して、第1期事業年度における売上高が47百万円及び1億41百万円となっている法人も見受けられた。
 上記のほかに、資本金1000万円未満の新設法人が、その事業年度開始の日の翌日以降の第1期事業年度中に資本金が1000万円以上となる増資を行ったため、第2期課税期間から課税事業者となるところ、第1期事業年度中に再度資本金が1000万円未満となる減資を行ったため第2期課税期間も免税事業者となっていたなどの法人が4法人見受けられた。
 前記の29法人及び上記の4法人計33法人のうち29法人(注6) の第1期事業年度及び第2期事業年度の売上高計は、それぞれ33億40百万円及び54億60百万円で、これら29法人が第1期課税期間及び第2期課税期間において課税事業者であったとして、第1期課税期間及び第2期課税期間の納付消費税額を推計すると、それぞれ5333万余円及び7439万余円となる。

 29法人  33法人のうち、会計実地検査時において、推計計算の基となる事業年度等の申告期限未到来の4法人を除いたもの

(4) 設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後に解散等した法人の状況

 資本金1000万円未満の新設法人のうち、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて免税事業者となり、第3期事業年度以降に解散等している法人について検査したところ、次のような状況となっているものが見受けられた。
 設立2年以内において相当の売上高を有していることから第3期課税期間は消費税の申告及び納付が見込まれるのに、第3期事業年度以降に解散していたり、無申告となっていたりしているなどの法人や、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後の第3期事業年度以降に他の新設同族法人へ売上げを移転するなどしているとみられる法人が計24法人見受けられた。
 上記24法人のうち9法人(注7) の第1期事業年度及び第2期事業年度の売上高計は、それぞれ13億98百万円及び20億68百万円で、これら9法人が第1期課税期間及び第2期課税期間において課税事業者であったとして納付消費税額を推計すると、それぞれ4430万余円及び6723万余円となる。

 9法人  24法人のうち、第3期課税期間以降の消費税申告書等の提出がないなどの15法人を除いたもの

 以上の(1)から(4)までの検査の対象とした計1,546法人のうち、納付消費税額の推計が可能な計587法人((1)343法人、(2)206法人、(3)29法人及び(4)9法人)の第1期事業年度及び第2期事業年度の売上高計は、それぞれ408億33百万円及び597億49百万円、計1005億83百万円であり、これら587法人の第1期課税期間及び第2期課税期間の納付消費税額の推計額は、それぞれ7億0687万余円及び10億5026万余円、計17億5714万余円となる。

(5) 国税庁による消費税の査察調査状況

 資本金1000万円未満の新設法人に係る事業者免税点制度についての本院の検査の状況は、上記の(1)から(4)までのとおりであるが、国税庁においても、消費税については不正の手段により税を免れ、また、不正に還付金を得るケースが見受けられることから、その査察調査に重点的に取り組んでいる。
 そこで、本院が明らかにした検査の状況に関連して、国税庁による消費税の査察調査状況についてみたところ、18年度から22年度までの間に検察庁に告発した件数は、表7のとおりとなっていた。

表7 国税庁から検察庁へ告発した件数の推移
(単位:件)
年度
区分
平成18 19 20 21 22
告発件数 23 30 12 18 19 102
うち事業者免税点制度を悪用して消費税を免れていた事例 15 14 7 10 12 58

 そして、上記の告発件数102件のうち58件は、資本金1000万円未満の新設法人の設立2年以内の事業者免税点制度を悪用し、法人の設立や解散を繰り返すなどして消費税を免れている事例であった。当該事例において、脱税した消費税(地方消費税を含む。)総額は41億5826万余円、告発事件1件当たりの脱税額は7169万余円であった。

(6) 政府における免税事業者の要件の見直しの状況

 政府は、事業者免税点制度における免税事業者の要件の見直しに向けた取組を行い、現行制度では、課税売上高が1000万円を超えた場合に翌々事業年度から課税事業者となるが、同制度を悪用した法人の新設等による課税逃れを抑制する観点から、課税売上高が1000万円を超えることが事業年度の途中で明らかとなった場合には、翌事業年度から課税事業者とすることとする、消費税法の一部改正を含む、税制改正法案を国会に提出した。そして、同法案は国会の審議を経て可決・成立し、「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第82号)として、24年1月1日から施行することとされた。
 そして、設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けて免税事業者となる期間は短縮されることとなったが、新設法人の納税義務の判定を事業年度開始の日における資本金により行うことには変わりがないため、本院の検査によって明らかになった状況が十分に解消されるまでには至っていないと認められる。

4 本院の所見

 消費税については、消費一般に幅広く負担を求めるという課税の趣旨等の観点から、免税事業者は極力設けないことが望ましいとされている。一方、小規模事業者の事務処理能力等を勘案して事業者免税点制度が設けられており、新設法人については設立2年以内における納税義務の判定基準として基準期間の課税売上高に代えて資本金を採用し、その事業年度開始の日における資本金1000万円未満の法人を免税事業者としている。
 しかし、従前から資本金1000万円未満の新設法人においても、設立当初の第1期事業年度から相当の売上高を有する法人や設立2年以内の事業者免税点制度を利用した租税回避等を行っている法人が見受けられている。さらに、会社法により、最低資本金制度が撤廃され、少額の資本金でも容易に会社を設立することが可能になっている。
 消費税に関する国民の関心が高まっている中で、本院は、上記のような状況を踏まえて、事業者免税点制度が有効かつ公平に機能しているかに着眼して検査したところ、新設法人の納税義務の判定を基準期間の課税売上高に代えて資本金により行っていることにより、次のような状況となっていた。

〔1〕  資本金1000万円未満の新設法人において設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けている法人の中には、設立当初の第1期事業年度から相当の売上高を有する法人が相当数見受けられた。

〔2〕  法人成り後も相当の売上高を有しているのに、第1期課税期間及び第2期課税期間において免税事業者となっている法人が相当数見受けられた。

〔3〕  1000万円未満の資本金で法人を設立し、第2期事業年度の開始の日の翌日以降に増資を行い資本金を1000万円以上にすることなどにより、第1期課税期間及び第2期課税期間において免税事業者となっている法人が見受けられた。

〔4〕  設立2年以内の事業者免税点制度の適用を受けた後の第3期事業年度以降に解散等している法人が見受けられた。

 前記のとおり、「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」により、事業者免税点制度の適用に関する改正が行われたところであるが、この改正によっても、本院の検査によって明らかになった状況が十分に解消されるまでには至っていないと認められる。
 ついては、今後、消費税に関わる幅広い議論が十分なされるよう、財務省において、消費税の課税の趣旨等の例外として設けられている事業者免税点制度の在り方について、引き続き、様々な視点から不断の検討を行っていくことが肝要である。

 本院としては、今後とも事業者免税点制度を含む消費税全般について、引き続き注視していくこととする。