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  • 平成22年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第4節 特定検査対象に関する検査状況

独立行政法人が実施している融資等業務の状況について


第6 独立行政法人が実施している融資等業務の状況について

検査対象 融資等業務を実施している独立行政法人26法人
融資等業務の概要 事業者等を対象とした資金の貸付け、事業者等の資金調達の円滑化を図るための債務の保証、保険の引受け
貸付業務の貸付残高 24法人56業務 62兆5423億円 (平成21年度末)
債務保証業務の保証引受残高 10法人25業務 1兆0577億円 (平成21年度末)
保険業務の保険価額残高 2法人5業務 5兆7567億円 (平成21年度末)
融資等業務に係る資金に特定できた政府出資金 2兆9669億円 (平成21年度末)
融資等業務に交付された補助金、交付金及び補給金 7683億円 (平成16年度〜21年度)

1 検査の背景

 政府は、平成13年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」に基づき、各特殊法人等の廃止、民営化を図るとともに、廃止又は民営化できない事業であって、国の関与の必要性が高く、採算性が低く、業務実施における裁量の余地が認められる事業を行う法人については、事業の徹底した見直しを行った上で、原則として独立行政法人化することとした。
 その後、18年6月に施行された「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号。以下「行革推進法」という。)において、行政改革の重点分野である政策金融改革の一環として、独立行政法人等が実施している融資等の在り方について見直しを行うこととされ、政府は、独立行政法人が行う融資等の業務について見直しを行った。また、政府は、21年12月に閣議決定された「独立行政法人の抜本的な見直しについて」に基づき、全ての独立行政法人の全ての事務・事業について、国民的視点で、実態を十分把握しつつ、聖域なく厳格な見直しを行うこととした。
 さらに、21年11月より、行政刷新会議のワーキンググループにおいて事業仕分けが実施され、独立行政法人が実施している融資等の業務についても複数の事業が対象とされた。そして、22年12月に、政府は、行政刷新会議が策定した「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(以下「基本方針」という。)を閣議決定した。基本方針では、各独立行政法人の事務・事業について講ずべき措置が取りまとめられており、個々の事務・事業の中には、業務の廃止や政府出資金等の国庫への返納等の方針が示されたものもあった。
 独立行政法人が実施している融資等の業務は、所掌する特定の専門分野における政策目的を達成するため、民間金融機関を補完する位置付けで行われている。したがって、多くの事業で政策的な配慮から、国からの財政支援を受けて一般的な融資等よりも優遇された融資条件を設定するなどしており、独立行政法人が実施している事務・事業においても、特にスリム化・効率化の一層の徹底が求められる領域の一つであると考えられる。
 一方、近年の社会経済情勢、特に金融情勢についてみると、世界的な金融危機の影響は、我が国経済にも深刻な影響を及ぼすこととなり、政府は、20年8月以降相次いで経済危機対策を実施し、独立行政法人に対する国の財政支出も多額に上っている。また、23年3月に発生した東日本大震災は未曽有の被害をもたらすこととなり、政府は、復旧・復興のための措置を講ずるなどしている。独立行政法人が実施する融資等の業務についても、被災地域の復興の推進に資するために、幅広い分野において新たな制度を設けたり、既存の制度を拡充したりするなどしており、これに伴う財政支出も増加することが見込まれることから、より一層効率的、効果的に事務・事業を実施していくことが求められている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 本院は、独立行政法人が実施している融資等の業務のうち、その大半を占める、事業者等を対象とした資金の貸付け並びに事業者等の資金調達の円滑化を図るための債務の保証及び保険の引受けを行う各業務(新規融資等を終了して債権の管理・回収等のみを実施している業務を含む。以下「融資等業務」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の項目に着眼して横断的に検査した。

〔1〕  融資等業務に対する国の財政支援の状況はどのようになっているか、また、独立行政法人による資金調達等の状況はどのようになっているか。
〔2〕  融資等業務の案件採択時における審査は、適切に実施されているか。
〔3〕  融資等により取得した債権の管理・回収は適切に行われているか。
〔4〕  融資等業務の収支の状況はどのようになっているか。
〔5〕  独立行政法人、事業者等、関係金融機関等の間におけるリスク負担等の内容は、合理的なものとなっているか。

(2) 検査の対象及び方法

ア 検査の対象

 独立行政法人のうち、22年3月末現在で、融資等業務を実施している26法人(表1 参照)を検査の対象とした(以下、検査対象とした独立行政法人を「検査対象法人」という。)。

表1  検査対象法人26法人

主務府省 検査対象法人 主務府省 検査対象法人
内閣府 独立行政法人北方領土問題対策協会 農林水産省 独立行政法人農業者年金基金
総務省 独立行政法人情報通信研究機構 独立行政法人農林漁業信用基金※
独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構 経済産業省 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
外務省 独立行政法人国際協力機構 独立行政法人日本貿易振興機構
文部科学省 独立行政法人日本学生支援機構 独立行政法人情報処理推進機構
独立行政法人国立大学財務・経営センター 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
厚生労働省 独立行政法人勤労者退職金共済機構 独立行政法人中小企業基盤整備機構
独立行政法人福祉医療機構 国土交通省 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
独立行政法人雇用・能力開発機構 独立行政法人自動車事故対策機構
独立行政法人労働者健康福祉機構 独立行政法人奄美群島振興開発基金※
独立行政法人医薬基盤研究所 独立行政法人住宅金融支援機構※
農林水産省 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 環境省 独立行政法人環境再生保全機構
独立行政法人森林総合研究所 26法人
独立行政法人農畜産業振興機構
注(1)
※印を付した各法人については、いずれも財務省と表中の該当する各省との2省が主務府省となっているが、便宜上、主務府省を一つ記載することとして本表のように整理している。
注(2)
独立行政法人雇用・能力開発機構は平成23年10月1日に解散した。

 (以下、各法人の名称中「独立行政法人」は記載を省略した。)

イ 検査の方法

 検査の実施に当たっては、16年度から21年度までを対象として、検査対象法人26法人から提出を受けた財務諸表、融資等業務に関して作成を求めた調書等を分析するとともに、貸付業務1業務に係る債権の管理・回収のみを実施していて債権残高も少ない日本貿易振興機構を除く25法人に対して会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 独立行政法人が実施している融資等業務の概要

 22年3月末現在で、独立行政法人が実施している融資等業務は、貸付業務が24法人56業務、債務保証業務が10法人25業務、保険業務が2法人5業務となっていて、計26法人で86業務が実施されている。これらの業務は、新規融資等の受付等を継続して行っている業務(以下「継続型」という。)と新規融資等の受付等は行わずに債権の管理、回収等のみを実施している業務(以下「管理型」という。)に区分することができる。
 融資等業務に対する国の財政支援の状況についてみると、検査対象法人の多くには政府出資金が拠出されており、このうち明確に各融資等業務に係る資金と特定できる政府出資金は、21年度末時点で11法人39業務に対して計2兆9669億円となっている。そして、その大半は、18年度に福祉医療機構が旧年金資金運用基金から業務を承継したことに伴うものであり、これを除くと21年度末時点で計5716億円となっている。
 また、国は融資等業務の運営を支援する特定の目的のために多様な補助金、交付金及び補給金(以下、これらを「融資等業務補助金」という。)を交付しており、16年度から21年度までの交付額は9法人20業務に対して計7683億円と多額に上っている。そして、その大半は、住宅金融支援機構が実施する貸付業務に関して、貸付金償却及び保証料返還に係る費用の補填や、旧住宅金融公庫から承継した特別損失を埋めることを目的としたもので、19年度から21年度までの3か年度に計4993億円となっている(表2 参照)。

表2  融資等業務の実施状況

検査対象法人(26法人) 業務数   融資等業務に係る資金と特定できた政府出資金(平成21年度末現在)
(百万円)
融資等業務補助金(16〜21年度計)
(百万円)
貸付業務
(24法人)
債務保証業務
(10法人)
保険業務
(2法人)
北方領土問題対策協会 1 1 939
情報通信研究機構 2 1 1 18,866
郵便貯金・簡易生命保険管理機構 2 2
国際協力機構 2 2
日本学生支援機構 1 1 95,300
国立大学財務・経営センター 1 1
勤労者退職金共済機構 3 3
福祉医療機構 4 4 2,401,052 59,906
雇用・能力開発機構 10 8 2 7,402
労働者健康福祉機構 2 2 1,295
医薬基盤研究所 1 1
農業・食品産業技術総合研究機構 1 1 86
森林総合研究所 1 1
農畜産業振興機構 1 1 371
農業者年金基金 1 1 621
農林漁業信用基金 12 5 3 4 156,940 15,382
新エネルギー・産業技術総合開発機構 4 2 2 24,055
日本貿易振興機構 1 1
情報処理推進機構 2 2 9,278
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 6 4 2 51,209 32
中小企業基盤整備機構 14 4 10 97,243
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 4 4
自動車事故対策機構 1 1
奄美群島振興開発基金 2 1 1 9,801
住宅金融支援機構 6 4 1 1 198,000 587,447
環境再生保全機構 1 1
  86業務 56業務 25業務 5業務 2,966,905 768,329
うち継続型 43業務 28業務 10業務 5業務
うち管理型 43業務 28業務 15業務 0業務
21年度末残高貸付残高 貸付残高
62兆5423億円
保証残高
1兆0577億円
保険価額残高
5兆7567億円
(注)
管理型については、法令等に基づき廃止の方針が決定されているものなどを含む。

(2) 貸付業務

ア 貸付業務の概要

 独立行政法人が実施している貸付業務は表2のとおり24法人56業務あり、継続型12法人28業務、管理型17法人28業務となっている。
 継続型28業務の新規貸付けの状況は表3 のとおりであり、21年度の新規貸付額は3兆0024億円、同年度末における貸付残高は14兆4746億円に上っている。

表3  継続型に係る新規貸付け等の状況
(単位:百万円)

法人名 業務名 平成16年度
新規貸付額
17年度
新規貸付額
18年度
新規貸付額
19年度
新規貸付額
20年度
新規貸付額
21 年度
新規貸付額 年度末貸付残高
北方領土問題対策協会 貸付業務 1,349 887 968 682 625 835 5,228
日本学生支援機構 学資金貸与業務 659,927 724,990 781,787 825,024 892,496 959,592 6,233,658
国立大学財務・経営センター 施設費貸付業務 54,404 71,226 65,816 69,124 67,185 58,169 361,404
福祉医療機構 福祉医療貸付業務 436,800 422,900 307,221 227,557 186,192 207,565 3,098,145
年金担保貸付業務 239,778 229,165 210,359 199,182 194,449 186,753 186,282
労災年金担保貸付業務 6,041 5,945 5,489 5,304 5,067 4,986 4,952
雇用・能力開発機構 就職資金貸付業務 19 13 19 9 9 7 18
生活支援業務 1,431 1,489 1,424 1,327 1,259 1,407 12,940
財形融資業務 129,683 99,755 81,195 76,501 56,773 37,537 801,586
財形融資資金業務 6,249 4,936 4,070 1,808 1,369 1,546 25,345
農林漁業信用基金 農業融資業務 21,179 32,777 21,304 32,813 21,689 33,278 51,486
林業等資金貸付業務 7,871 7,048 6,249 5,980 5,892 5,707 1,794
漁業融資業務 19,640 18,663 20,040 19,177 20,031 18,985 28,175
農業災害補償関係業務 8,327 2,291 1,726 2,042 1,772 2,417 2,417
漁業災害補償関係業務 17,198 15,203 9,311 7,396 5,785 4,868 3,758
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 共同石油備蓄施設整備融資業務 300 504
民間石油備蓄支援業務 314,602 329,853 454,129 649,140 693,379 926,086 926,086
金属鉱物探鉱資金貸付業務 630 730 6,130 2,890 6,843 11,925 27,011
鉱害防止資金・鉱害負担金資金貸付業務 561 700 702 688 530 428 4,770
中小企業基盤整備機構 高度化融資業務 18,670 11,035 10,597 176,123 109,893 38,325 645,707
共済金貸付業務 53,447 48,023 44,354 48,649 69,132 56,353 163,211
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 内航海運活性化融資業務 52,905 52,994 52,994 52,994 52,994 62,610 62,610
鉄道建設費貸付業務 10,660
株式処分推進業務 100,000
自動車事故対策機構 被害者支援業務 343 271 226 184 167 144 12,323
奄美群島振興開発基金 貸付業務 1,680 2,010 1,680 1,823 1,407 1,274 8,287
住宅金融支援機構 財形住宅資金貸付業務 19,966 6,806 2,169 944,602
住宅資金貸付業務 161,130 250,575 379,169 751,669
12法人28業務 計 2,052,744 2,082,914 2,087,800 2,587,523 2,652,333 3,002,444 14,474,639

イ 新規貸付けに要する資金に係る財政支援等の状況

 新規貸付けに当たって必要となる資金の調達方法については、既存の貸付けに係る回収金のほかにも、業務ごとに多岐にわたっており、政府等からの出資金のような一定の規模の資金を常に保有しているものもあれば、業務量の見込みに応じた資金を国や民間金融機関から借り入れるなどして調達しているものもある。

(ア) 政府出資金

 前記のとおり、貸付業務を実施するに当たっては、各種の国の財政支援が行われているが、新規貸付けに当たって必要となる資金について、政府出資金が拠出されている場合がある。
 継続型のうち、21年度において政府出資金を貸付原資等としている業務は5法人10業務あり、これらについて、貸付金の年度末残高と貸付原資等としている政府出資金等の年度末残高の状況をみると、表4 のとおりとなっていた。

表4  継続型のうち政府出資金を貸付原資等としているものに係る貸付金及び政府出資金等の年度末残高(平成21年度)
(単位:百万円)

法人名 業務名 年度末貸付残高
(A)
貸付原資等としている政府出資金等(平成21年度末) 割合
(A/B)
政府出資金残高 その他の出資金残高
(B)
福祉医療機構 福祉医療貸付業 3,098,145 5,534 5,534 100%超
労災年金担保貸付業務 4,952 5,831 5,831 84.9%
農林漁業信用基金 農業融資業務 51,486 54,467 8,213 62,680 82.1%
林業等資金貸付業務 1,794 17,056 17,056 10.5%
漁業融資業務 28,175 34,532 1,756 36,289 77.6%
農業災害補償関係業務 2,417 3,800 1,800 5,600 43.1%
漁業災害補償関係業務 3,758 2,860 2,960 5,820 64.5%
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 金属鉱物探鉱資金貸付業務 27,011 30,601 30,601 88.2%
中小企業基盤整備機構 高度化融資業務 645,707 935,276 935,276 69.0%
奄美群島振興開発基金 貸付業務 8,287 6,650 2,978 9,628 86.0%
(注)
政府出資金は、貸付け以外の目的に充てられる分を含んでいる。

 21年度末における貸付残高について、貸付原資等としている政府出資金等の年度末残高合計に対する割合を業務ごとにみたところ、多くの業務では80%前後となっている中で、農林漁業信用基金の林業等資金貸付業務(貸付原資は全て政府出資金)では10.5%と極端に低くなっていた。
 この林業等資金貸付業務に係る事態を事例として示すと次のとおりである。

<事例1>

 農林漁業信用基金は、林業等資金貸付業務を行っているが、その業務内容は、林業経営基盤の強化等の促進のための資金の融通等に関する暫定措置法(昭和54年法律第51号)に基づき、林業等の健全な発展に資することを目的として、木材産業等高度化推進資金の貸付けを行う金融機関への資金供給の事業を行っている都道府県に対して、当該事業に必要な資金を貸し付ける低利預託原資貸付けである。同基金は、同業務を林業信用保証勘定で経理しており、貸付けに必要な資金として170億円の政府出資金の拠出を受けていた。
 同業務の平成16年度から21年度までの貸付実績は、 のとおりであり、林業者等における当該資金への需要が低迷しているために、都道府県への貸付率は、各年度内における資金需要のピーク時の貸付残高でみても、16年度に53.6%であったものが21年度には38.6%と年々減少してきており、21年度の余裕金の額は、104億円となっていた。
 このため、政府出資金と都道府県への貸付残高との間にかい離が生じ、多額の資金が滞留することとなっていた。

表 林業等資金貸付業務における低利預託原資貸付けの状況(平成16年度〜21年度)
(単位:百万円、%)

業務名 区分 平成16
年度末
17年度末 18年度末 19年度末 20年度末 21年度末
林業等資金貸付業務
(低利預託原資貸付け)
政府出資金
[A]

17,056 17,056 17,056 17,056 17,056 17,056
ピーク時の貸付残高(注)
[B]

9,151 8,143 7,746 7,236 6,846 6,587
余裕金(A−B)
[C]

7,904 8,912 9,309 9,819 10,209 10,468
貸付率(B/A×100)
[D]

53.6 47.7 45.4 42.4 40.1 38.6
(注)
貸付けの大半が年度内に償還される短期貸付けであるため、ピーク時の貸付残高を示している。

 さらに、同基金の農業融資業務及び漁業融資業務にも、貸付メニューの一つとして林業等資金貸付業務と類似した低利預託原資貸付けにより実施されているものがあり、それぞれについて、貸付残高及び貸付原資である政府出資金等の推移をみたところ、表5 のとおり、いずれも貸付実績が低調となっており、林業等資金貸付業務と同様に、貸付原資である政府出資金に多額の余裕金が生じていた。

表5  農業融資業務及び漁業融資業務における低利預託原資貸付けの状況(平成16年度〜21年度
(単位:百万円、%)

業務別 区分 平成16
年度末
17年度末 18年度末 19年度末 20年度末 21年度末
農業融資業務
(うち低利預託原資貸付け)
政府出資金
[A]

12,500 12,500 12,500 12,500 12,500 12,500
貸付残高
[B]

1,196 1,287 1,224 1,375 1,769 1,875
余裕金(A−B)
[C]

11,303 11,212 11,275 11,124 10,730 10,624
貸付率(B/A×100)
[D]

9.5 10.3 9.7 11.0 14.1 15.0
漁業融資業務
(うち低利預託原資貸付け)
政府出資金
[A]

6,000 6,000 6,000 6,000 6,000 6,000
貸付残高
[B]

615 611 579 449 458 409
余裕金(A−B)
[C]

5,384 5,388 5,420 5,551 5,541 5,590
貸付率(B/A×100)
[D]

10.2 10.1 9.6 7.4 7.6 6.8
(注)
農業融資業務及び漁業融資業務のいずれも、低利預託原資貸付け以外の貸付メニューも実施しているが、貸付原資である政府出資金は貸付メニューごとに区分して管理されていたことから、低利預託原資貸付けの貸付原資となっていた政府出資金額を計上した。

 また、中小企業基盤整備機構の高度化融資業務は、同機構の一般勘定において融資業務以外の他の業務とともに経理されていて、他の業務と共通の原資として同勘定に拠出された政府出資金等を貸付原資としているが、検査したところ、同勘定の21年度末における現預金、有価証券等の保有高は2769億円となっていた。同業務における貸付残高の政府出資金に対する割合は表4 のとおり69.0%であり、著しく低い割合ではないが、貸付残高及び貸付原資共に規模が大きいことから、政府出資金に生ずる余裕金も多額となり、このように現預金、有価証券等として保有されていることなどによるものと認められた。
 なお、基本方針においては、農林漁業信用基金の三つの低利預託原資貸付けのうち、農業融資業務及び漁業融資業務に係るものに関しては事業を廃止、林業等資金貸付業務についてはニーズに応じた規模に事業を縮減することとされており、農林水産省はこの方針を踏まえて、これらの事業を廃止又は縮減し、政府出資金のうち不要額計257億円を国庫に返納させている。また、中小企業基盤整備機構の高度化融資業務についても、基本方針において、政策的意義の低下した事業を廃止するとともに、事業メニューの見直しにより重点化し、事業規模の見直しを図ることとされており、経済産業省はこの方針を踏まえて、22年度から事業の見直しを行うとともに、緊急の中小企業対策等に必要な資金が確保されることなどに留意しつつ、政府出資金のうち不要額を国庫返納することとしている。

(イ) 有利子資金の借入れなど

 貸付原資について、政府出資金のような国からの財政支援以外に、有利子の借入れや債券の発行等、コスト負担を伴う手段により資金を調達している場合には、コスト負担を可能な限り軽減するために、事業量等に見合った調達額とするよう留意する必要がある。そこで、各法人が、資金の保有状況、過去の資金の貸付け・回収の実績等を踏まえて経済的な資金調達を行っているかについて検査を実施したところ、次のように必要額を上回って資金調達していた事態が見受けられた。

<事例2>

 奄美群島振興開発基金は、奄美群島振興開発特別措置法(昭和29年法律第189号)に基づき、奄美群島(鹿児島県奄美市及び大島郡の区域)において奄美群島振興開発計画に基づく必要な資金を供給することなどにより、一般金融機関が行う金融を補完することなどを目的として、中小規模の事業者に対する貸付業務を行っている。そして、同基金は、近年、貸付計画額を年24億円としており、これに必要な資金は毎月2億円から3億円としている。
 一方、同基金は、貸付けに必要な資金として、政府出資金等のほか、年度末に長期有利子資金の借入れを行っており、その額は、平成18年度2億円(借入期間中の支払利息総額896万円)、19年度3億円(同892万円)、20年度1億円(同260万円)となっている。
 しかし、同基金の近年の新規貸付実績が計画額を下回っていることなどから、貸付金の回収実績が貸付実績を上回っていて、上記の借入れを決定した12月末時点における現預金の残高は、18年度3億円、19年度5.6億円、20年度7.5億円と年々増加しており、資金調達に当たっては、資金の保有状況等を十分に踏まえて検討する必要があったと認められる。
 なお、同基金は、このような状況を踏まえて、21年度末の借入れは行っていなかった。

ウ 債権の管理・回収等の状況

(ア) 継続型に係る延滞債権等の状況

 貸付業務のうち、継続型においては、回収金を貸付原資に充当することにより業務を実施していることから、一定の回収が見込まれることが業務継続の前提となっているものが大半である。そのため、回収が遅れたり、回収が不能であったりする債権が多くなれば、業務の継続に支障が生ずることとなる。
 そこで、21年度末に延滞が生じている継続型について、延滞債権(償還期限が到来している債権のうち3か月以上延滞しているものをいう。以下同じ。)等の状況をみたところ、表6 のとおりとなっていた。

表6 平成21年度末において延滞が生じている継続型に係る延滞債権等の状況
(単位:百万円、%)

法人名 業務名 平成21年度末貸付残高
(A)
延滞債権
(B)
貸倒懸念債権等
(C)
償却額
(D)
延滞債権割合
(B/A)
貸倒懸念債権等割合
(C/A)
償却額割合
(D/(A+D))
北方領土問題対策協会 貸付業務 5,228 61 114 7 1.1 2.1 0.1
日本学生支援機構 学資金貸与業務 6,233,658 262,879 215,316 32,146 4.2 3.4 0.5
福祉医療機構 福祉医療貸付業務 3,098,145 33,357 32,925 647 1.0 1.0 0.0
年金担保貸付業務 186,282 146 145 48 0.0 0.0 0.0
労災年金担保貸付業務 4,952 28 28 3 0.5 0.5 0.0
雇用・能力開発機構 就職資金貸付業務 18 0 0 8 5.1 5.1 31.0
生活支援業務 12,940 1,038 2,575 170 8.0 19.9 1.3
財形融資業務 801,586 0 0 0.0 0.0
中小企業基盤整備機構 高度化融資業務 645,707 49,282 113,930 2,313 7.6 17.6 0.3
共済金貸付業務 163,211 28,575 54,003 7,641 17.5 33.0 4.4
自動車事故対策機構 被害者支援業務 12,323 2,553 5,443 18 20.7 44.1 0.1
奄美群島振興開発基金 貸付業務 8,287 2,179 3,342 292 26.3 40.3 3.4
住宅金融支援機構 財形住宅資金貸付業務 944,602 2,519 2,054 250 0.2 0.2 0.0
住宅資金貸付業務 751,669 4,649 4,212 37 0.6 0.5 0.0
8法人14業務 計 12,868,614 387,273 434,096 43,586 3.0 3.3 0.3
注(1)
各法人が一定の基準に基づき分類した貸倒懸念債権及び破産更生債権等を貸倒懸念債権等(C)としているため、法人間で内容は同一ではない。
注(2)
償却額(D)には、債務者等からの申出等により貸付金の返還を免除した額を含む。

 これによると、8法人14業務において延滞債権が発生していたが、これら業務を延滞債権割合の高い順に整理すると、表7 のとおり、1%程度にとどまっている業務が半数を占めている一方で、比較的高い割合となっている業務も見受けられた。

表7  平成21年度末に延滞が生じている継続型に係る延滞債権割合の状況

法人名 業務名 平成21年度
延滞債権割合(%)
奄美群島振興開発基金 貸付業務 26.3
自動車事故対策機構 被害者支援業務 20.7
中小企業基盤整備機構 共済金貸付業務 17.5
雇用・能力開発機構 生活支援業務 8.0
中小企業基盤整備機構 高度化融資業務 7.6
雇用・能力開発機構 就職資金貸付業務 5.1
日本学生支援機構 学資金貸与業務 4.2
北方領土問題対策協会 貸付業務 1.1
福祉医療機構 福祉医療貸付業務 1.0
住宅金融支援機構 住宅資金貸付業務 0.6
福祉医療機構 労災年金担保貸付業務 0.5
住宅金融支援機構 財形住宅資金貸付業務 0.2
福祉医療機構 年金担保貸付業務 0.0
雇用・能力開発機構 財形融資業務 0.0

 延滞債権割合が比較的高い7業務のうち、業務規模が極めて小さい雇用・能力開発機構の就職資金貸付業務と、共済契約者に対して共済掛金とその運用益を原資とした貸付けを行うなど業務の性質が他と異なる中小企業基盤整備機構の共済金貸付業務の2業務を除く5業務について、債権の管理・回収に係る取組の状況をみたところ、いずれの業務においても、債権管理体制の強化や、融資実行後の期中管理の徹底等、回収促進又は延滞債権の発生抑止に向けた具体的な取組について、中期計画に明記するなどして管理・回収のための計画を策定し、実施している状況であった。
 また、それに加えて、いずれの業務も、中期計画において、それぞれの業務の特性に応じた数値目標を設定していた。
 上記5業務のうち、3業務においては債権回収に係る数値目標を設定しており、業務ごとの目標値を回収の実績と合わせて示すと表8 のとおりである。

表8  債権回収に係る数値目標を策定している業務に係る目標の策定状況及び実績

法人名 業務名 総回収率 新規返還者に係る回収率
目標
(中期計画)
実績
(平成21年度末)
目標
(中期計画)
実績
(21年度末)
自動車事故対策機構 被害者支援業務 90%以上 90.9%
雇用・能力開発機構 生活支援業務 97%以上 96.2%
日本学生支援機構 学資金貸与業務 82% 以上 80.0% 95%超 96.0%
注(1)
第二期中期目標期間(平成19年度〜23年度)中の各年度において90%以上としている。
注(2)
第二期中期目標期間(平成19年度〜23年度)中の達成目標である。なお、年度計画において各年度の達成目標を別途定めているが、21年度の目標は94%以上とされている。
注(3)
第二期中期目標期間(平成21年度〜25年度)中の達成目標である。

 これら3業務は経済的弱者に対する支援を目的とするものであり、回収率(各年度に返還されるべき要回収額に対する回収額の割合)に着目した目標値を設定している。
 被害者支援業務においては、業務全体での回収率について、生活支援業務においては、新たな滞納者の発生抑止という点を重視して新規返還者に係る回収率について、学資金貸与業務においては、その両方の回収率について、それぞれ数値目標を設定している。
 それぞれの目標値については、景況悪化を踏まえて、計画策定時点の回収率を維持するという観点から目標値を設定しているものがほとんどであるが、学資金貸与業務の総回収率の場合は、直近3か年の実績を基に改善率を見込んで目標値を設定している。
 一方、中小企業基盤整備機構の高度化融資業務及び奄美群島振興開発基金の貸付業務においては、回収率に着目した数値目標は設定していない。
 このことについて、同機構及び同基金は、都道府県と一体となって事業を実施しているなどの各業務固有の事情があるほか、中小規模の事業者等を対象とした事業であることから、回収に当たっては、当該事業者等の経営状況が急激に悪化しないための配慮等も必要であることなど、制度の目的等に照らし、回収率に着目した一律の数値目標を設定しないこととしたなどとしている。
 上記の2業務はいずれも回収不能となる可能性が高い債権等の割合が高く、表9 に示すとおり、回収率ではなく、中期目標期間中における、これらの債権の削減又はこれらの債権の割合を指標として、この低減について数値目標を設定している。

表9  中期計画におけるリスク管理債権等の縮減目標の設定状況及び実績(平成21年度末)

法人名 業務名 項目 目標 実績(平成21年度末)
中小企業基盤整備機構 高度化融資業務 不良債権額の削減 17年度末の不良債権額1765億円を22年度までの5年間で概ね半減する 進捗率96.9%
(21年度末不良債権額910億円)
奄美群島振興開発基金 貸付業務 リスク管理債権の抑制 リスク管理債権割合について、中期目標期間の最後の事業年度(25年度)において39%以下に抑制 リスク債権割合47%
注(1)
貸倒懸念債権及び破産更生債権等を不良債権としている。
注(2)
破綻先債権、破綻懸念先又は実質破綻先債権、3か月以上延滞債権及び貸出条件緩和債権の合計をリスク管理債権としている。

 このように、数値目標を設定している業務における目標に対する実績については、業務によっては中期目標期間半ばでの状況となるが、ほとんどの業務においてほぼ目標を達成している状況である。

(イ) 継続型に係る返還免除の状況

 一部の業務においては、特定の条件を満たした債務者等からの申出等による貸付金 の返還免除が制度化されている。この返還免除について、免除の事由及び免除額の推 移を示すと表10 のとおりである。

表10 継続型に係る貸付金の返還免除事由及び免除額(平成16年度〜21年度)
(単位:百万円)

法人名 業務名 免除理由 免除額
平成
16年度
17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
日本学生支援機構 学資金貸与業務 返還困難 死亡又は心身障害に伴う労働能力喪失による返還不能 1,025 1,356 1,483 1,662 1,712 1,908
目的達成 大学院において第一種学資金の貸与を受けた学生等のうち、在学中に特に優れた業績を挙げたと認められること 409 8,003 13,112 13,912 15,207
卒業後、継続して教育施設又は研究施設の職にあること 5,697 5,541 10,667 12,016 13,147 14,256
特別貸与奨学金の借入者であって、一般貸与相当額を最終の割賦金の返還期限までに返還したときは、その残額の返還を免除する 897 607 496 403 339 216
  7,620 7,914 20,651 27,194 29,111 31,588
雇用・能力開発機構 就職資金貸付業務 目的達成 就職日から一定期間を経過した日において常用労働者として雇用されているときなど 18 19 12 17 3 8
生活支援業務 返還困難 死亡又は心身障害に伴う労働能力喪失による返還不能 3 7 6 7 5 6
目的達成 一定期間職業訓練指導員の職務に就いた時、終了した科の技能検定に合格したときなど 223 134 191 176 129 164
  226 142 198 184 134 170
中小企業基盤整備機構 高度化融資業務 返還困難 都道府県が債務者に対する元金並びにこれに係る利息及び違約金について、弁済を受けることができる見込みがないと認め、議会の議決に基づき債権等を放棄又は譲渡した場合等 645 3,270 197 2,325 3,283 912
自動車事故対策機構 被害者支援業務 返還困難 死亡又は心身障害に伴う労働能力喪失による返還不能 13 12 7 13 6 15

 免除事由は、債務者の死亡等による返還困難を理由にするものと、一定の政策目的を達成したことを理由にするものとに大別されるが、後者に該当するものについては、毎年、相当の免除額が発生しており、特に学資金貸与業務では、年々、その額が増加していて、返還免除額に充当するための融資等業務補助金の交付や、貸付原資である国からの無利子貸付金の償還免除等、財政支援額も増加している状況である。
 返還を免除した額については、回収されないことになるが、特に継続型にあっては、一定の回収が見込まれることが業務継続の前提となっていることなどを考慮すると、免除の条件を満たしているか否かについては、十分に事実関係等を確認するなどした上で判断する必要がある。また、貸付業務の目的に即した返還免除の要件を適切に設定する必要がある。そこで、これらを踏まえて、検査を実施したところ、次のように免除要件が業務の目的に十分に即したものとなっていない事態が見受けられた。

<事例3>

 雇用・能力開発機構は、生活支援業務として、独立行政法人雇用・能力開発機構法(平成14年法律第170号)に基づき、職業訓練を受けることが困難な者が当該職業訓練等を受けるために必要な資金の貸付けを行っている。
 このうち、短期課程の普通職業訓練を受ける住居喪失不安定就労者等に対する貸付けは、平成20年に発生した世界的な金融危機後の離職者対策として20年11月4日から22年1月31日までの間に行われたもので、その貸付実績は486件、2億3826万余円となっている。
 この貸付けについては、貸付要領において、訓練が修了した日の翌日から起算して6か月以内に雇用期間が4か月以上の職業(以下「安定職業」という。)に就いていることにより、その全部の返還を免除することができるとされており、同機構は、雇用期間が4か月以上の雇用契約を結んだことで要件を満たしたとして、21、22両年度に計280件、1億3181万余円の免除を行っている。
 そして、同機構では、雇用契約を結んだ後、実際に4か月以上就労しているかについては確認する必要はないとして、そのための手続を貸付要領に定めておらず、実際の確認を行っていない。
 しかし、本制度の目的が住居喪失不安定就労者等の就労状況を安定的なものとすることにあること、一旦安定職業に就いても短期間で離職する場合も想定されることから、安定職業に就いたことではなく、実際に4か月以上就労したことをもって免除を行う方が、より政策目的の達成を期待できると考えられる。

(ウ) 管理型に係る債権の管理・回収の状況等

 前記のとおり、貸付業務の中には、新規融資の受付等は行わずに債権の管理、回収等のみを実施している管理型も17法人28業務ある。これら28業務のうち、延滞が生じている業務について、延滞債権等の状況をみると、表11 のとおりである。

表11  平成21年度末において延滞が生じている管理型に係る延滞債権等の状況
(単位:百万円、%)

法人名 業務名 平成21年度末貸付残高
(A)
延滞債権
(B)
貸倒懸念債権等
(C)
償却額
(D)
延滞債権割合
(B/A)
貸倒懸念債権等割合
(C/A)
償却額割合
(D/(A+D))
情報通信研究機構 通信・放送承継業務 207 28 28 13.8 13.8
福祉医療機構 承継債権管理回収業務 2,050,347 29,393 26,105 129 1.4 1.2 0.0
雇用・能力開発機構 既往就職資金貸付業務 34 34 34 0 100.0 100.0 1.6
雇用促進融資業務 9,365 2,269 4,774 326 24.2 50.9 3.3
通勤用自動車購入資金貸付業務 0 0 0 100.0 100.0
既往財形融資業務 1,174 118 276 24 10.1 23.5 2.0
労働者健康福祉機構 援護資金貸付業務 168 78 121 46.3 72.1
融資資金貸付業務 3,680 1,423 2,120 197 38.6 57.6 5.1
農業者年金基金 農地等取得資金貸付金債権管理回収業務 1,868 106 113 7 5.7 6.0 0.3
新エネルギー・産業技術総合開発機構 鉱工業承継業務 762 90 99 11.8 13.0
中小企業基盤整備機構 産業再配置融資業務 991 728 991 73.4 100.0
産炭地域振興融資業務 4,027 2,637 2,769 366 65.4 68.7 8.3
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 貨物船改造資金融資業務 124 124 124 100.0 100.0
住宅金融支援機構 年金債権譲受業務 164,036 5,424 4,710 242 3.3 2.8 0.1
既往債権管理回収業務 28,317,477 1,147,060 1,003,423 143,958 4.0 3.5 0.5
環境再生保全機構 貸付金回収業務 16,036 3,196 7,368 19.9 45.9
10法人16業務 計 30,570,303 1,192,715 1,053,063 145,255 3.9 3.4 0.4
注(1)
各法人が一定の基準に基づき分類した貸倒懸念債権及び破産更生債権等を貸倒懸念債権等(C)としているため、法人間で内容は同一ではない。
注(2)
償却額(D)には、債務者等からの申出等により貸付金の返還を免除した額を含む。

 これによると、10法人16業務において延滞債権が発生しており、この中には、延滞債権割合、貸倒懸念債権等割合共に高い数値を示す業務が見受けられるが、債権の回収が進んだことによる債権残高の減少に伴い、回収が困難な債権の割合が相対的に高くなってきていることによるものと考えられる。
 なお、管理型にあっては、新規貸付けがなく債権の回収のみが行われているため、国庫に納付するまでの間は回収した資金を保有することになり、資金が一定期間滞留する状況となりがちであることから、回収金額の規模が大きい場合、回収した資金の適切な管理や、効率的な運用に努める必要がある。
 この点について検査を実施した結果、福祉医療機構の承継債権管理回収業務において、同機構が回収金等を国庫に納付するまでの間に行っていた資金運用について、回収金等の入金時期等を把握して、早期に運用を開始することにより運用収入の増加を図るよう本院が指摘したところ、同機構においてその処置が講じられたことから、平成21年度決算検査報告に「本院の指摘に基づき当局において処置を講じた事項」 として掲記した。

(3) 債務保証業務

ア 債務保証業務の概要

 独立行政法人が実施している債務保証業務(以下、単に「保証業務」という。)は10法人25業務あり、これを継続型と管理型に分けて整理すると、継続型は5法人10業務、管理型は6法人15業務となる。そして、表12 のとおり、継続型10業務の16年度から21年度までの間の新規保証引受額は計6686億円、21年度末の保証引受残高は計3285億円となっている。また、全25業務の21年度末保証引受残高の合計は1兆0577億円となっている。

表12  保証業務の状況(平成22年3月末現在)
(単位:件、百万円)

法人名 業務名 平成16年度から21年度までの間の新規引受実績 21年度末保証引受残高
件数 引受額
情報通信研究機構 通信・放送新規事業保証業務 2 432 432
農林漁業信用基金 林業信用保証業務 11,092 258,032 54,449
農業災害補償関係保証業務
漁業災害補償関係保証業務
石油天然ガス・金属鉱物資源機構 石油天然ガス開発保証業務 20 375,723 244,500
金属鉱物開発保証業務 2 22,716 22,716
中小企業基盤整備機構 中心市街地活性化事業保証業務
事業再生円滑化保証業務 3 535
事業再構築円滑化等保証業務 12 1,320 1,320
奄美群島振興開発基金 奄美地方保証業務 751 9,893 5,095
継続型(5法人10業務)の計 11,882 668,652 328,513
管理型(6法人15業務)の計 345 18,342 729,193
合計 12,227 686,995 1,057,706
(注)
中小企業基盤整備機構及び奄美群島振興開発基金については、それぞれ独立行政法人化した平成16年7月及び16年10月以降の実績である。(以下、表15までについて同じ。)

イ 国の財政支援の状況

 保証業務においては、保証の依頼を引き受けるに当たり、事業者等に代わって金融機関に対して行う債務の弁済(以下「代位弁済」という。)等に備える財源を確保しているが、継続型10業務のうち、政府出資金をこの財源に充てている業務は7業務あり、21年度末で計1159億円が出資されている。また、2保証業務に対して、2貸付業務と共通の原資として、66億円の政府出資金が交付されている。
 このほか、政府出資以外の国の財政支援として、林業信用保証業務に対して融資等業務補助金が16年度から21年度までの間に計60億円交付されている。

ウ 新規引受実績の状況

(ア) 新規引受実績のないもの

 表12 のとおり、継続型の保証業務10業務のうち3業務については、16年度から21年度までの間の新規引受実績がない。
 このうち、農業災害補償関係保証業務及び漁業災害補償関係保証業務は、検査対象法人が行う2貸付業務(農業災害補償関係業務及び漁業災害補償関係業務)をそれぞれ補完するものであるが、これら2保証業務に新規引受実績がないのは、業務実施の前提である、2貸付業務の貸付資金が一時的に不足した際に他の金融機関から借入れを行うなどの事態が発生していないためである。
 また、中心市街地活性化事業保証業務については、22年4月に実施された経済産業省における独立行政法人等についての見直しの結果を受けて、23年3月に事業が廃止され、同月に政府出資金28億円が国庫に納付された。

(イ) 一定の新規引受実績のある業務の状況

 継続型10業務における16年度から21年度までの間の新規引受実績は表12 のとおりであるが、このうち、毎年一定の新規引受実績を有するのは林業信用保証業務及び奄美地方保証業務の2業務であり、これらについて、16年度から21年度の間の状況をみると表13 のとおりである。

表13  新規引受実績の状況
(単位:件、百万円)

法人名及び業務名 区分 平成16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
農林漁業信用基金
林業信用保証業務
新規引受件数 2,043 1,937 1,795 1,776 1,647 1,894
新規引受額 46,057 43,089 39,714 39,755 36,266 53,149
保証引受残高 47,554 44,879 41,315 40,429 37,709 54,449
奄美群島振興開発基金
奄美地方保証業務
新規引受件数 102 147 143 172 111 76
新規引受額 1,430 1,910 2,201 2,274 1,173 902
保証引受残高 13,117 10,525 8,920 8,013 6,708 5,095

 これら2業務は、中小、零細規模の企業等を対象としていることから、業務の対象となる潜在的な事業者等が多く、また、制度が発足して長期間が経過していることもあって、新規引受実績は他の業務と比較して多くなっているが、一部の年度を除いておおむね減少傾向にある。その理由として、林業信用保証業務については、木材総需要の減少傾向が続いたこと、林業・木材産業の工場数や売上げが減少したことなどによるものと考えられる。同業務については、21年度に政府の経済危機対策により既存の保証とは別枠の無担保保証枠等を設定し緊急的な支援措置を講じたことから、一転して新規引受実績が増加しており、この緊急的な支援措置を行うための財源として別途政府出資金が69億円拠出されている。
 また、奄美地方保証業務については、経営環境の厳しい建設業や、売上げ不振が続く小売業等において資金需要が減少したことなどに加え、20年度以降、政府の経済危機対策により各都道府県の信用保証協会が保証割合を100%として実施している緊急信用保証に需要が移行したことなどによるものと考えられる。
 この2業務について、保証業務の収支の基本的な項目である、保証料収入、代位弁済額支出及び代位弁済回収額収入(以下、これらを合わせて「基本収支」という。)を抽出して計画及び実績を対比してみると表14 のとおりである。

表14  基本収支の状況
(単位:百万円)

法人名及び業務名 区分 平成16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績 計画 実績
農林漁業信用基金
林業信用保証業務
保証料収入額(A) 516 372 748 353 469 336 430 357 430 396 465 864
代位弁済額支出(B) 2,933 1,870 2,933 1,399 2,200 2,192 1,540 1,864 1,460 2,652 1,450 1,680
代位弁済回収額収入(C) 1,084 369 1,430 452 1,259 423 680 487 590 353 508 268
基本収支差額(A−B+C) △1,332 △1,129 △754 △593 △471 △1,432 △430 △1,019 △440 △1,902 △477 △547
奄美群島振興開発基金
奄美地方保証業務
保証料収入額(A) 75 75 178 54 142 108 107 74 131 56 140 44
代位弁済額支出(B) 250 248 500 499 450 444 424 423 275 273 400 713
代位弁済回収額収入(C) 182 192 363 154 357 205 348 144 242 146 200 172
基本収支差額(A−B+C) 7 19 42 △290 49 △129 32 △205 98 △71 △58 △496

 このように、2業務の基本収支の状況をみると、16年度から21年度までの間のほとんどの年度において基本収支差が支出超過となっている。このうち、林業信用保証業務についてみると、計画段階から基本収支差が支出超過となっているが、これは、政策目的の達成のために保証料を低く設定するよう制度設計されていることによるものである。
 また、2業務の基本収支について、計画と実績を比較してみると、ほとんどの年度において、支出超過の額は、計画より実績が上回っている。これは、主として代位弁済の回収実績が計画段階の半分程度にとどまっていることによるものであるが、このほかにも、保証残高が減少傾向にある中で、保証料収入の実績が計画を下回っていること、代位弁済の実績が計画と同程度又は上回っていることにもよるものである。
 そして、これら2業務に対する国の財政支援の状況についてみると、林業信用保証業務においては、前記のとおり政策的に保証料を低く設定していることによる基本収支差の補填等のために国から林業信用保証事業交付金等が交付されている。すなわち、基本収支差の支出超過の状況が交付対象経費の増加に直結する仕組みとなっていて、16年度から21年度までの基本収支差を補填するために27億円、また、米国の金融危機に端を発する世界的な景気悪化を受けて、20、21両年度の代位弁済額と経営上想定された代位弁済額との差額を補填するために19億円が交付されるなどしている。
 また、奄美地方保証業務においては、国等からの出資金の運用益等を業務の実施に必要な経費に充てることとしていて、16年度から21年度までの間に15億円の出資を国から受けており、奄美群島振興開発基金の中期計画においては、25年度までに更に13億円の出資を受けることとなっている。出資額の算定に当たっては、代位弁済率(代位弁済額を平均保証残高で除したもの)が2%から2.64%までの間で推移することや、代位弁済額が計画どおり回収できることなどを前提としている。しかし、17年度から21年度までの間の実績をみると、代位弁済率は最小で3.80%、最大で12.05%であり、また、表14のとおり、代位弁済の回収実績が計画を下回り続けており、今後も同様の傾向が続く場合、出資金の運用益等で必要な経費を賄うことができなくなるおそれがある。

エ 代位弁済回収の状況

 検査対象法人は、代位弁済を行った場合、事業者等に対する代位弁済額の返還請求権(以下「求償権」という。)を行使して、事業者等に対して代位弁済額の支払を請求し、回収業務を行う。回収に当たっては、保証引受時に徴求した担保を処分するなどして代位弁済額の回収を図ることになるが、回収ができず将来的にも回収は困難であると判断した場合は、求償権の一部又は全部を償却することとなる。
 求償権の分析に当たっては、代位弁済額の回収には代位弁済後一定程度の期間が必要なことを考慮する必要がある。このため、分析の対象とする求償権は、16年度期首時点で有していた求償権及び16年度から20年度までに発生した求償権とした。
 継続型の10業務のうち、上記分析対象の求償権を有しているのは4業務であり、各業務の16年度期首時点の求償権残高に16年度から20年度までに発生した求償権を加えた額は計314億円となっている。この額に対する同期間中における求償権の減少額の状況についてみると、約半分に当たる167億円が減少している。しかし、その減少額の内訳についてみると、減少額の57%に当たる94億円は求償権の償却によるものであ り、代位弁済額の回収によるものは減少額の43%に当たる72億円にとどまっている。
 このように、求償権は減少しているが、代位弁済額を回収できないものの割合が高い状況となっていて、継続型において、このような状況が今後も継続すれば、保証業務の基本収支について支出超過の額が累積するなどして財務上の損失が生じ、将来的には国の更なる財政支援を必要とするおそれがあることに留意する必要がある。

オ 保証引受に当たってのリスク負担の状況

 検査対象法人は、事業者等が債務保証を受けることで調達した資金に対して、政策上の必要性等を勘案して、保証割合を設定しているが、保証割合については、金融機関が貸付けを行う上で必要な範囲にとどめることが重要である。行革推進法に基づく見直しなどにおいても、金融機関が事業者等に貸付けを行う際に自己規律を欠いた判断をするといった、いわゆるモラルハザードの問題が生じないようにするなどのために、事業者等が債務不履行となった場合の損失リスクを金融機関も一定程度負担することで、金融機関が的確な判断を行うことができる仕組みとする必要性が指摘されている。
 そこで、継続型10業務のうち、16年度から21年度までの間に新規引受実績のある7業務(表12 参照)の保証割合の状況についてみたところ、表15 のとおり、2業務において、検査対象法人の保証割合を100%としている引受け(以下「100%保証」という。)が見受けられた。

表15  新規引受実績の推移
(単位:百万円、%)

法人名 業務名 区分 平成16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
件数 引受額 件数 引受額 件数 引受額 件数 引受額 件数 引受額 件数 引受額
農林漁業信用基金 林業信用保証業務 新規引受実績(A) 2,043 46,057 1,937 43,089 1,795 39,714 1,776 39,755 1,647 36,266 1,894 53,149
うち100% 保証(B) 1,648 39,298 1,542 36,199 1,450 34,042 1,459 34,293 1,346 31,322 1,642 47,094
割合(B/A) 80.6 85.3 79.6 84 80.7 85.7 82.1 86.2 81.7 86.3 86.6 88.6
奄美群島振興開発基金 奄美地方保証業務 新規引受実績(A) 102 1,430 147 1,910 143 2,201 172 2,274 111 1,173 76 902
うち100% 保証(B) 102 1,430 147 1,910 143 2,201 12 173 15 132 8 62
割合(B/A) 100 100 100 100 100 100 6.9 7.6 13.5 11.3 10.5 6.9

 2業務のうち奄美地方保証業務では、従来、全て100%保証としていたが、行革推進法に基づく見直しを受け、19年11月に、災害関係保証等の例外を除き、原則として保証割合を80%とする見直しを行った。その結果、21年度における全体の新規保証引受件数及び金額に対する100%保証の引受件数及び金額の割合は約1割となっている。
 また、林業信用保証業務では、従来、保証割合は2種類あり、政策上の必要性が高いものについて100%保証としていたが、20年6月以降に新規に保証を引き受けるものについては、100%保証の契約をより限定することとし、林業・木材産業改善資金助成法(昭和51年法律第42号)の定めるところにより貸し付けられる林業・木材産業改善資金である場合等に限って100%保証とするなどの見直しを行った。しかし、前記のとおり、21年度に政府の経済危機対策による緊急的な支援措置が100%保証により行われたこともあって、全体の新規保証引受件数及び金額に対する100%保証の引受件数及び金額の割合には、大きな変化は見られない。
 なお、債務保証を行うに当たっては、事業者等から保証の依頼を引き受けることにより代位弁済を行い損失を被るリスク(以下「保証引受リスク」という。)を負うことになることの対価として、被保証債務の額に検査対象法人が業務ごとに定めた保証料率を乗じて得た額を保証料として徴収している。保証料については、検査対象法人は、それぞれの保証引受リスクに見合ったものとなるよう設定する必要があるが、保証料率に関して再検討を要する事例が次のとおり見受けられた。

<事例4>

 情報通信研究機構は、通信・放送新規事業保証業務を実施するに当たり、保証料については、借入残高に、所定の保証割合及び保証料率を乗じて算定することとしており、このうち保証料率についてみると、事業1件につき借入元本の総額が2億8000万円を超える借入れに係る債務保証の場合は年0.9%以内、2億8000万円以下の借入れに係る債務保証の場合は年1.5%以内としていて、2億8000万円を境に保証料率が不連続となっているが、事業者の財務状況にかかわらず、借入元本の額が高額となり保証引受リスクが大きくなることに伴い、高額な保証料となるような制度としている。そして、保証料率を段階的に設定した理由については、同機構は、2億8000万円を超えるものについては政策的に低利に設定したためとしている。
 しかし、上記保証料の算定方法では、 のとおり、同一の事業者であっても、2億8000万円の前後において、高額な借入額に対する保証料の方が、低額な借入額に対する保証料より安価となる場合が生ずることとなる。

表 機構が設定する保証料率による年間保証料の上限(例)
(単位:件、百万円)

算定方法 借入元本の総額 2億8千万円以下 2億8千万円超
保証料率 1.5%以内 0.9%以内
借入総額の例 1億8千万円 億8千万円 2億9千万円 4憶6千万円
上記に対する年間保証料の上限 2,160 千円 3,360千円 2,088千円 3,312千円

(4) 保険業務

ア 保険業務の概要

 保険業務は、農林漁業信用基金の農業保証保険、農業融資保険、漁業保証保険及び漁業融資保険の4業務並びに住宅金融支援機構の住宅融資保険の1業務、計5業務が実施されていて、全て継続型である。
 このうち、農業保証保険及び漁業保証保険の両業務は、金融機関の貸付けについて債務保証を行う農業信用基金協会又は漁業信用基金協会(以下、これらを「基金協会」という。)が当該貸付けなどの債務者に代わって金融機関に弁済した場合に、同基金が基金協会に対して保険金を支払うものである(以下、これらの保険を「保証保険」という。)。
 一方、他の3業務は、貸付けを行う金融機関がその債務者から所定の期限までに弁済を受けられなかった場合に各法人が金融機関に対して保険金を支払うものである(以下、これらの保険を「融資保険」という。)。

イ 国の財政支援の状況

 上記の5業務に対する国の財政支援の状況についてみると、表16 のとおりである。

表16 国の財政支援の状況
(単位:百万円)

法人名 業務名 政府出資金等注(1) 融資等業務補助金
残高(平成21年度末現在) 独立行政法人化後の拠出額 平成
16年度
17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
農林漁業信用基金 農業保証保険 8,729
注(2)
1,046
注(2)
851
注(2)
292
注(2)
770 366
農業融資保険
漁業保証保険 26,852 555 479 392 366 2,724 674
漁業融資保険 160
住宅金融支援機構注(3) 住宅融資保険 116,000 98,000 5,900
注(1)
農業保証保険及び農業融資保険については、農林漁業信用基金が独立行政法人に移行する前に国から交付を受けた政府交付金32億円を含む。
注(2)
農業保証保険及び農業融資保険とで区分されていないため、合計額を示している。
注(3)
平成16年度から18年度までは旧住宅金融公庫の実績を示しており、表17及び18においても同様である。

 21年度末現在で、いずれの保険業務についても政府出資金等が拠出されており、これらは、各保険業務の運営に当たって財務基盤の強化を図る必要があるなどとして拠出されてきたものである。なお、独立行政法人化後に拠出されたものとしては、21年度に経済危機対策として、住宅融資保険業務に対して980億円が拠出されている。
 また、漁業融資保険を除いた各保険業務に対して、保険料の額が政策的に低く設定されていることによる収支差額の一部を補填するなどの目的で融資等業務補助金が交付されている。

ウ 業務実績の状況

 2法人5業務の16年度から21年度までの間の新規保険引受額は計4兆7003億円、21年度末における保険価額残高は計5兆7567億円となっている。これら5業務の業務実績について年度別にみると、表17 のとおりである。

表17 業務実績の状況
(単位:百万円)

法人名 業務名 区分 平成
16年度
17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
農林漁業信用基金 農業保証保険 新規保険引受額 665,918 595,272 457,262 424,716 460,510 432,832
保険価額残高 3,878,303 3,858,865 3,792,691 3,705,550 3,648,315 3,596,619
農業融資保険 新規保険引受額 450 7,100 300
保険価額残高 2,909 1,335 1,066 1,255 8,230 8,413
漁業保証保険 新規保険引受額 132,414 122,175 106,375 100,178 92,395 150,800
保険価額残高 216,097 203,468 186,750 169,175 160,203 208,590
漁業融資保険 新規保険引受額
保険価額残高
住宅金融支援機構 住宅融資保険 新規保険引受額 137,228 82,819 53,872 82,567 148,382 446,810
保険価額残高 1,786,404 1,726,832 1,620,998 1,584,007 1,620,165 1,943,090

 保険業務5業務のうち、毎年度一定の業務実績を有する農業保証保険、漁業保証保険及び住宅融資保険の3業務についてみると、農業保証保険は、新規保険引受額、保険価額残高共に減少傾向にあるが、政府出資金等の額は、15年10月に独立行政法人となって以降、87億円のままとなっている。漁業保証保険及び住宅融資保険については、新規保険引受額、保険価額残高共に21年度に大きく増加しており、これは前記のとおり、政府が21年度に緊急経済対策を実施したことにより増加したものと考えられる。
 一方、漁業融資保険は、16年度から21年度までの間の業務実績がない状況となっている。これについて詳述すると、次のとおりである。

<事例5>

 農林漁業信用基金は、中小漁業融資保証法(昭和27年法律第346号)に基づき、毎年度、漁業融資保険の対象となる貸付金の上限額等を定めた基本的な保険契約を農林中央金庫と締結しており、同金庫が個々の貸付けについて同保険に付すと判断した場合に、同基金に通知することによって個々の保険関係が成立することとなっている。そして、同金庫は、同保険の対象となる漁業近代化資金等の貸付けを漁業者等に対して行っているが、同保険には付していないため、同基金が独立行政法人に移行した平成15年10月から21年度末までの間で個々の保険関係が全く成立していない。また、同基金が独立行政法人に移行する前の保険関係の成立状況をみても、昭和62年度までは毎年度成立していたものの、その後に成立したのは平成2年度の2件(保険引受額3億円)及び11年度の1件(同3億4000万円)となっている。
 これは、漁業経営環境の悪化等により、資金需要が減少していることもあるが、上記のように保険関係が成立していない状況を踏まえて、業務運営の適切な見直しが十分に行われてこなかったことによるものと考えられる。

 上記の事態について、農林漁業信用基金は、本院の検査を踏まえて、22年8月以降、農林中央金庫との連絡協議会を設け、同保険の活用等について調整を行っている。

エ 補填割合の状況

 保険契約の相手方となる基金協会又は金融機関では、債務不履行等があった場合に被る損失は、検査対象法人から保険金の支払を受けることで補填されることになる。しかし、その補填割合が著しく高い場合には、基金協会又は金融機関においてモラルハザードの問題があることが行革推進法に基づく見直しなどにおいて指摘されている。そこで、各保険の補填割合についてみると、農林漁業信用基金の各保険業務では補填割合は70%又は80%となっており、住宅金融支援機構の住宅融資保険では補填割合は90%のほかに、100%となっているもの(以下「100%補填」という。)がある。補填割合が高い住宅融資保険について、補填填割合別の保険引受額の状況についてみると、表18 のとおりである。

表18 住宅融資保険の補填割合別の保険引受額
(単位:百万円)

区分 平成16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度
90% 107,285 69,525 48,623 45,922 44,368 38,793
100% 29,943 13,293 5,248 36,645 104,013 408,016
137,228 82,819 53,872 82,567 148,382 446,810

 同保険の100%補填の保険引受額の推移をみると、19年度以降に急増している。特に21年度では、政府による経済危機対策の一環として、円滑な住宅資金貸付けの実施を目的として100%補填の適用範囲が拡大されるなどした結果、100%補填の保険引受額は4080億円と多額に上り、同年度における同保険全体の保険引受額4468億円の約9割を占めている。
 上記100%補填の保険業務については、モラルハザードの防止のため、住宅金融支援機構が、貸付けを行う金融機関から送付される関係書類に基づき、金融機関とは別に当該貸付けの行われる前に審査等を行う二重のチェック体制とし、金融機関による審査の適正性を担保することとされている。

4 本院の所見

 独立行政法人が行う融資等業務には、制度設計上、独立採算が困難で、国からの出資金の拠出や補助金の交付を前提としているものも多数見受けられる。しかし、その実施に当たっては、極力、経済性及び効率性に配慮して、必要以上に国の財政支援に依存しない経営を行うことに努める必要がある。
 また、東日本大震災以降、国の復興支援対策の一環として、検査対象法人の融資等業務についても、返済条件の緩和や制度の新設等の措置が執られてきている。これらの措置等が、検査対象法人の今後の業務運営や財務等に与える影響は現時点ではまだ明確ではないが、国からの財政支援も多額となることが予想される。
 したがって、各独立行政法人においては、融資等業務を今後どのような位置付けや方法で実施していくかについて、不断の検討や見直しが必要であり、その際には次の点に留意することが必要である。

ア 貸付業務

(ア) 主務府省及び検査対象法人においては、貸付業務の原資として拠出された政府出資金について、業務量の変化等に応じた適正な規模のものとなっているか、適時適切な見直しを行う。また、各法人においては、事業資金の調達及び運用に当たり、資金の効率的な調達及び運用に努める。
(イ) 債権の管理・回収に当たり、延滞債権額、貸倒懸念債権等の額及び償却額が多額に上っていたり、延滞債権割合が高かったりしている業務には、セーフティネットとしての役割が高く、政策性の強い業務も少なくない。しかし、継続型においては、未回収額が増加すれば、貸付財源として新たな資金調達が必要となるなど、経済性及び効率性が損なわれるばかりでなく、業務の継続に支障を来すことにもなりかねない。また、管理型においては、債権回収の遅れが業務の終了を遅らせることにより、管理経費等が増加することも懸念される。これらのことから、検査対象法人は、債権管理を的確に行い、債権の計画的な回収により一層努め、貸付業務の健全な運営に向けて取り組む。
(ウ) 債権の免除等は、国からの補助金等の財政支援等を招くことを踏まえ、検査対象法人は、免除に当たっては、業務の目的に即して免除要件を設定し、その要件が充足しているかについて十分な事実確認を行う。

イ 債務保証業務

(ア) 検査対象法人においては、保証業務の基本収支について支出超過の額が累積するなどして財務上の損失が生じ、国の更なる財政支援を必要とする事態を招かないためにも、代位弁済額に係る回収率の向上に努める。
(イ) 事業者等が債務不履行となった場合の損失リスクの全て又は大部分を検査対象法人が負担するような保証割合を設定している業務については、法人は、その設定を、金融機関が貸付けを行う上で必要な範囲に限定するよう適切に行うとともに、事業実施上の問題がないと判断される場合には、保証割合の設定について適時に見直し、モラルハザードの問題に的確に対処し、政策目的の達成に努める。また、事業者等から徴収する保証料について、保証引受リスクに見合った保証料の算定となっているか再検討を要する業務については、法人はその算定方法を見直す。

ウ 保険業務

(ア) 主務府省及び検査対象法人においては、継続して保険価額残高が減少している保証保険の業務に対して拠出された政府出資金等の額について、今後の業務見通しなどを踏まえて、その保有規模について適時に検討していく。また、保険引受けの実績がなく、保険価額残高もない融資保険については、同保険を取り巻く状況を的確に把握するなどして、業務運営の適切な見直しを行っていく。
(イ) 検査対象法人は、補填割合が100% となっている業務については、二重のチェック体制における審査等を的確に実施するとともに、今後、保険引受けの対象となった貸付けの償還が本格化することに伴い、保険金の支払実績が蓄積されていく中で、保険事故の発生状況を適時に調査・検討することなどにより、保険の制度及び運用を適切に見直すなどして、モラルハザードの問題に的確に対処し、政策目的の達成に努める。

 本院としては、今後とも、社会経済情勢の変化に留意しつつ、独立行政法人の融資等業務の状況について、東日本大震災が融資等業務の実績等に与えた影響も含め、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。