医業又は歯科医業を営む医師又は歯科医師(以下「医業事業者」という。)に対する社会保険診療報酬の所得計算の特例(以下「特例」という。)は、小規模医療機関の事務処理の負担を軽減することにより、その経営の安定化を図り、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図ることを目的として、各年における社会保険診療報酬の金額が5000万円以下である医業事業者が、社会保険診療報酬に係る売上原価、経費等の合計額(以下「実際経費」という。)により収支計算することに代えて、社会保険診療報酬の金額を4段階の階層に区分して、各階層の金額に所定の経費率を乗じて計算した金額の合計額(以下「概算経費」という。)を必要経費とすることができるとするものである。 しかし、多額の自由診療収入があっても社会保険診療報酬の金額が5000万円以下であることにより特例を適用していたり、社会保険診療報酬の金額に対する概算経費の割合と実際経費の割合とに開差があることにより概算経費と実際経費との差が多額となっていたり、特例を適用していた者のほとんどが実際経費を計算した上で概算経費と比較して有利な方を選択していたりしている事態が見受けられた。
したがって、財務省及び厚生労働省において、特例が有効かつ公平に機能しているかの検証を行い、その目的に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう、財務大臣及び厚生労働大臣に対して平成23年10月に、会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。
本院は、財務本省及び厚生労働本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、財務省は、本院指摘の趣旨に沿い、特例の制度の在り方について検討するため、本院が表示した意見を税制調査会に示し、税制調査会はこれを検討事項としていた。 そして、税制調査会で検討が行われた結果、平成24年度税制改正大綱(平成23年12月10日閣議決定)において、制度の適用対象となる基準の在り方等に留意しつつ、小規模医療機関の事務処理の負担を軽減するという特例の趣旨に沿ったものとなるよう、課税の公平性の観点を踏まえ、厚生労働省において特例の適用実態を精査した上で、25年度税制改正において検討することとされている。
また、厚生労働省は、当該大綱を受けて、本院指摘の趣旨に沿い、特例が有効かつ公平に機能しているかの検証を行うため、24年6月から特例の適用実態の調査を行っていた。 そして、厚生労働省は、この調査結果を踏まえて特例の適用実態を精査することとしている。