25件 不当と認める国庫補助金 292,767,000円
国民健康保険(前掲の「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」
参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険(昭和33年法律第192号)に基づいて交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。
普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費、老人保健医療費拠出金等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、その不足を公平に補うことを目途として交付するものであり、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金等(注1)
に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注2)
に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、普通調整交付金の交付額は、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。
(注1) | 後期高齢者支援金等 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する支援金等
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(注2) | 介護納付金 介護保険磨(平成9年法律第123号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金
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特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付するものであり、離職者減免特別交付金、徴収・医療改正特別交付金等がある。
財政調整交付金の交付手続については、〔1〕 交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出して、〔2〕 これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、これを厚生労働省に提出して、〔3〕 厚生労働省はこれに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、30都道府県の244市区町村及び1広域連合において、平成16年度から22年度までの間に交付された財政調整交付金について、会計実地検査を行った。その結果、16都道府県の24市区町及び1広域連合において、普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、調整対象収入額を過小に算定したり、特別調整交付金のうち離職者減免特別交付金等を過大に算定したりしていて、交付金交付額計41,089,701,000円のうち計292,767,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、上記の24市区町及び1広域連合において制度の理解が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりしたこと、また、上記の16都道府県において事業実績報告書等の審査が十分でなかったことによると認められる。
前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。
ア 普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していたもの
普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分に係る調整対象需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費、老人保健医療費拠出金等の合計額から療養給付費負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額である。
10都道府県の13市区町は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定していたため、調整対象需要額を過大に算定していた。
上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
鳥取県境港市は、平成20年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、一般被保険者に係る高額療養費等を二重に計上したり、基礎資料からの計数の転記を誤ったりしたため、調整対象需要額を過大に算定していた。
その結果、適正な医療分の調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、計44,082,000円が過大に交付されていた。
イ 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していたもの
普通調整交付金の調整対象収入額は、医療分、後期分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、それら被保険者の所得を基に算定される応能保険料額とを合計した額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。
このうち、医療分及び後期分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定される。
そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算定することとなっている。ただし、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を、上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額とすることとなっている。
また、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について上記と同様に算定することとなっている。
2県の2市は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額のうち、所得限度額を超える部分の額を過大にするなどしていたため、調整対象収入額を過小に算定していた。
上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
広島県府中市は、平成20年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、所得限度額超過世帯の所得金額を集計する際に、誤って被保険者ではない者の所得金額を含めるなどしたため、所得限度額を超える部分の額を過大にしていたことにより、算定基礎所得金額を過小に計算していた。
その結果、適正な算定基礎所得金額により算定した調整対象収入額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、計27,157,000円が過大に交付されていた。
ウ 特別調整交付金を過大に算定していたもの
(ア) 離職者減免特別交付金は、一般被保険者又はその属する世帯の世帯主が経済状況の悪化に伴い離職したと保険者が認める者に対し、条例に基づき保険料(税)の減免を実施した場合に交付するものである。
そして、この交付額は、一般被保険者数、保険料(税)調定額等から一定の計算式により算定した調整対象基準額と離職を原因とする保険料(税)減免総額とを比較して、いずれか金額の小さい額(以下「算定額」という。)となっている。ただし、算定額が調整対象需要額に占める割合(以下「減免割合」という。)が100分の0.03以下である保険者は除くこととなっている。
5府県の7市は、離職者減免特別交付金の実績報告等に当たり、調整対象基準額等を過大に算定していたため、離職者減免特別交付金を過大に算定していた。
上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
奈良県奈良市は、平成21年度の離職者減免特別交付金の実績報告等に当たり、誤って算定対象とならない減免期間の保険料を含めたため、調整対象基準額を過大に算定していた。
その結果、適正な調整対象基準額に基づいて算定額を算定すると、減免割合が100分の0.03を下回り、離職者減免特別交付金3,643,000円は交付の必要がなかった。
(イ) 徴収・医療改正特別交付金は、保険料徴収システム開発事業及び医療制度改正によるシステム改修事業、又は住基情報等提供システム及び後期高齢者医療保険料徴収システムの開発事業に伴って、財政負担が多額になっている場合等に交付するものである。
そして、この交付額は、被保険者数、システム開発の契約額等から一定の計算式により調整基準額を算定し、これに基づくなどして算定することとなっている。
2県の2市町は、徴収・医療改正特別交付金の実績報告等に当たり、算定の対象とならない経費を含めたことにより調整基準額を過大に算定していたため、徴収・医療改正特別交付金を過大に算定していた。
以上の(ア)及び(イ)のほか、4都道県の4市区及び1広域連合は、特別調整交付金の原子爆弾被爆者特別交付金(注3)
、非自発的失業財政負担増特別交付金(注4)
、非自発的失業軽減特別交付金(注5)
等の実績報告等に当たり、対象となる医療給付費や一般被保険者数を過大に算定するなどしていたため、交付額を過算定していた。
(注3) | 原子爆弾被爆者特別交付金 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)に基づき、援護の対象となる被爆者に係る医療給付費等が多額になっている場合に交付される交付金
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(注4) | 非自発的失業財政負担増特別交付金 賦課期日の翌日以降の非自発的失業者に係る保険料(税)軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
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(注5) | 非自発的失業軽減特別交付金 賦課期日現在における非自発的失業者に係る保険料(税)軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
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なお、前記の24市区町及び1広域連合のうち4市区については事態の態様が重複している。
以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。
部局等 | 交付先(保険者) | 交付金の種類 | 年度 | 交付金交付額 | 左のうち不当と認める額 | 摘要 | |
千円 | 千円 | ||||||
(110) | 北海道 | 帯広市 | 特別調整交付金 (非自発的失業財政負担増特別交付金) |
22 | 11,422 | 5,094 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの |
(111) | 同 | 深川市 |
普通調整交付金、特別調整交付金 (療養担当手当特別交付金) |
18〜20 | 957,844 | 7,589 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(112) | 山形県 | 最上地区広域連合 | 特別調整交付金 (非自発的失業軽減特別交付金) |
22 | 3,624 | 2,440 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数等を過大に算定していたもの |
(113) | 福島県 | 会津若松市 | 普通調整交付金 | 16〜20 | 4,812,843 | 13,096 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(114) | 千葉県 | 千葉市 | 特別調整交付金 (徴収・医療改正特別交付金) |
19 | 26,528 | 11,120 | 調整基準額を過大に算定していたもの |
(115) | 東京都 | 江戸川区 | 普通調整交付金、特別調整交付金 (減額解除特別交付金) |
17〜19 | 4,997,701 | 15,812 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(116) | 愛知県 | 小牧市 | 特別調整交付金 (離職者減免特別交付金) |
21 | 15,162 | 3,605 | 調整対象基準額等を過大に算定していたもの |
(117) | 三重県 | 亀山市 | 普通調整交付金 | 21 | 148,160 | 7,054 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(118) | 同 | 度会郡玉城町 | 同 | 19〜21 | 171,714 | 4,831 | 同 |
(119) | 京都府 | 城陽市 | 特別調整交付金 (離職者減免特別交付金) |
21 | 2,788 | 2,078 | 調整対象基準額等を過大に算定していたもの |
(120) | 大阪府 | 羽曳野市 | 普通調整交付金 | 20 | 720,431 | 4,804 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(121) | 奈良県 | 奈良市 | 特別調整交付金 (離職者減免特別交付金) |
21 | 3,643 | 3,643 | 調整対象基準額を過大に算定していたもの |
(122) | 鳥取県 | 境港市 | 普通調整交付金 | 20 | 246,946 | 44,082 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(123) | 広島県 | 広島市 | 普通調整交付金、特別調整交付金 (原子爆弾被爆者特別交付金) |
18、19 | 18,011,101 | 24,801 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(124) | 同 | 福山市 | 普通調整交付金 | 18、19 | 4,734,424 | 13,546 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(125) | 同 | 府中市 | 同 | 20 | 181,957 | 27,157 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(126) | 徳島県 | 吉野川市 | 同 | 21 | 442,503 | 6,998 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(127) | 同 | 三好郡東みよし町 | 特別調整交付金 (徴収・医療改正特別交付金) |
19 | 4,476 | 2,153 | 調整基準額を過大に算定していたもの |
(128) | 福岡県 | 小郡市 | 普通調整交付金 | 17〜19 | 1,304,646 | 2,166 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(129) | 同 | 春日市 | 普通調整交付金 | 16〜20 | 2,503,022 | 6,350 | 同 |
(130) | 長崎県 | 大村市 | 特別調整交付金 (離職者減免特別交付金) |
22 | 11,820 | 11,820 | 調整対象基準額等を過大に算定していたもの |
(131) | 大分県 | 別府市 | 同 | 21 | 8,260 | 4,756 |
同 |
(132) | 同 | 中津市 | 同 | 21 | 7,382 | 7,382 | 調整対象基準額を過大に算定していたもの |
(133) | 同 | 豊後高田市 | 普通調整交付金、特別調整交付金 (離職者減免特別交付金) |
18〜22 | 1,422,723 | 24,011 | 調整対象収入額を過小に算定していたものなど |
(134) | 同 | 由布市 | 普通調整交付金 | 20 | 338,581 | 36,379 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(110)−(134)の計 | 41,089,701 | 292,767 |
上記の事態については、厚生労働省は、従来、発生防止に取り組んでいるとしているところであるが、さらに、通知等により市町村の事務処理の適正化に努めるとともに都道府県の事業実績報告書等に係る審査等の強化を図る必要があると認められる。