会計名及び科目 | 労働保険特別会計(労災勘定) | (項)保険給付費 |
部局等 | 厚生労働本省(支出庁) | |
10労働局(審査庁) | ||
支払の根拠 | 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号) | |
労災診療費の概要 | 業務上の事由又は通勤により負傷又は発病した労働者に対する診療に要する費用 | |
支払の相手方 | 23指定医療機関等 | |
施設基準等に適合していなかったなどのため過大に支払われていた労災診療費 | 入院科、リハビリテーション科等 | |
過大に支払われていた労災診療費の件数 | 697件(平成16年度〜23年度) | |
上記に係る労災診療費の支払額 | 4億0470万余円 | |
上記のうち過大に支払われていた労災診療費の額 | 2364万円 |
(平成24年10月5日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤により負傷又は発病した労働者(以下「傷病労働者」という。)に対して療養の給付を行っている。
この療養の給付は、傷病労働者の請求により、都道府県労働局長の指定を受けた医療機関又は労災病院等(以下「指定医療機関等」という。)において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行った指定医療機関等は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、労働局が請求内容を審査した上で支払額を決定して、これにより、貴省本省が労災診療費を支払うこととなっている。
医療保険制度の一環として、健康保険法(大正11年法律第70号)等に基づき、保険者は、被保険者等に対して疾病又は負傷に関する療養の給付等を行っている。被保険者等が療養の給付等を受けようとするときは、地方厚生(支)局長(平成20年9月30日以前は地方社会保険事務局長)の指定を受けた医療機関(以下「保険医療機関」という。)において診療を受けることとなっている。そして、保険者は、診療を行った保険医療機関に対して、診療に要した費用の一部を診療報酬として支払うこととなっている。
保険医療機関は、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)等に基づき、所定の診療点数(以下「健保点数」という。)に単価10円を乗ずるなどして診療報酬を算定することとなっている。
そして、診療報酬には、保険医療機関が随時、医師、看護職員等の配置や病院等の施設、設備の整備状況等が厚生労働大臣の定める所定の施設基準等(以下「施設基準等」という。)に適合していることを地方厚生(支)局長に届け出て、審査を経て受理されたことにより算定できる基本診療料、特掲診療料がある。
一方、保険医療機関でもある指定医療機関等は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号労働省労働基準局長通達。以下「算定基準」という。)等に基づき、労災診療費を算定することとなっている。算定基準によると、労災診療費は、労災診療の特殊性等を考慮して、〔1〕 原則として、健保点数に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、〔2〕 初診料、再診料等特定の診療項目については、健保点数とは異なる点数又は金額を別に定めて、これらにより算定することとなっている。
労働局は、労災診療費の支払額を決定する際に審査を行っているが、この審査は、指定医療機関等から提出される個々の診療費請求内訳書(以下「レセプト」という。)の内容が算定基準等や健保点数に基づき適切に算定されているかを確認等するものである。
地方厚生(支)局及び都府県事務所(20年9月30日以前は地方社会保険事務局。以下「地方厚生局等」という。)は、診療報酬の請求等に関し、管内の保険医療機関等に対して、次のとおり、個別指導、監査及び適時調査を実施している。
ア 個別指導
個別指導は、地方厚生局等が保険医療機関等に対し、適正な療養の給付等を実施するため、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号)等に定められている保険診療の取扱い、診療報酬の請求等について周知徹底し、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的に行うものである。個別指導の結果、診療報酬の請求等に関し適正を欠く事態を確認したときは、地方厚生局等は、当該保険医療機関等に対して自主点検を求め、その結果、適正を欠く事態と同様の事態が確認されたときは、原則として個別指導の実施月前の1年以上の期間に過大に支払われていた診療報酬の自主返還を求めている。
イ 監査
監査は、地方厚生局等が保険医療機関等に対し、診療内容若しくは診療報酬の請求に不正若しくは著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき、度重なる個別指導によっても診療内容若しくは診療報酬の請求に改善が見られないとき又は正当な理由なく個別指導を拒否したときに、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的に行うものである。監査の結果、診療内容又は診療報酬の請求に関し、不正又は不当な事実を確認したときは、地方厚生局等は、当該保険医療機関等に対して、過大に支払われていた診療報酬の返還をさせる措置を執っている。
ウ 適時調査
適時調査は、地方厚生局等が保険医療機関等に対し、施設基準等の届出内容を確認するために行うものである。適時調査の結果、届け出ていた内容と異なる事情が生じていたため施設基準等に適合していないことが確認された場合は、地方厚生局等は、当該保険医療機関等に対して、過去の請求について自主点検を求め、その結果に基づき過大に支払われていた診療報酬の自主返還を求めている。
そして、地方厚生局等は、上記の個別指導等を実施した結果として、当該保険医療機関等に返還金が生じた理由、返還事項、過大に支払われていた診療報酬の返還金額の情報等(以下「診療報酬返還情報等」という。)を保有している。
本院は、合規性、効率性等の観点から、保険医療機関でもある指定医療機関等が、地方厚生局等の個別指導等を受けて、過大に支払われていた診療報酬を自主返還するなどしている場合に、労災診療費についても同様の誤った算定をしていないか、過大に支払われた労災診療費についても返還しているかなどに着眼して、診療報酬の自主返還を行っていた保険医療機関でもある23指定医療機関等に対して貴省が16年度から23年度までの間に支払った労災診療費計697件、支払金額4億0470万余円を対象として検査した。
検査に当たっては、3地方厚生局等(注1)
において会計実地検査を行い、診療報酬返還情報等の関係書類により診療報酬を自主返還するなどした保険医療機関を把握し、また、独立行政法人労働者健康福祉機構及び独立行政法人国立病院機構からその設置する病院が地方厚生局等による個別指導等を受けた際の診療報酬返還情報等の関係書類等の提出を受けた上で、10労働局(注2)
において会計実地検査を行い、レセプト等の書類により、保険医療機関でもある前記の23指定医療機関等の労災診療費の請求内容を確認するなどの方法により検査した。そして、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
(注1) | 3地方厚生局等 関東信越、東海北陸両厚生局、近畿厚生局京都事務所
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(注2) | 10労働局 秋田、茨城、栃木、埼玉、長野、静岡、愛知、京都、福岡、佐賀各労働局
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検査したところ、地方厚生局等の保険医療機関に対する個別指導又は適時調査を受けて、過大に支払われていた診療報酬の自主返還を行っていた保険医療機関でもある23指定医療機関等において、労災診療費についても、診療報酬と同様に、次のように算定を誤っていた事態が見受けられた。
〔1〕 入院基本料等の算定において、看護職員数と入院患者数の割合の算定方法を誤っていたり、夜勤を行う看護職員等の1人当たりの月平均夜勤時間数が所定時間を超えていたりなどしていたため、実際には施設基準等に適合していないのに、適合しているとして算定していた。
〔2〕 リハビリテーション料等の算定において、医師が診療に係る書類を作成することなどが算定の要件とされているが、実際にはその要件が満たされていないのに、満たされているとして算定していた。
保険医療機関でもある指定医療機関等が労災診療費を算定する場合、原則として、診療報酬と同様に健保点数を用いて算定することとなっていることから、診療報酬の算定を誤っている場合には、労災診療費においても同様に算定を誤っているおそれがある。このため、前記の23指定医療機関等に対して、地方厚生局等が保有している診療報酬返還情報等を活用して10労働局が労災診療費の支払に係る事後確認を行っていれば、過大に支払われた労災診療費について把握することが可能であったと認められる。
しかし、10労働局は、23指定医療機関等に係る診療報酬返還情報等を把握しておらず、これを活用した労災診療費の支払に係る事後確認を行っていなかったことなどから、前記の労災診療費697件について、労災診療費計2364万余円が過大に支払われたままとなっていた。
A病院は、平成22年9月に地方厚生局等の保険医療機関に対する適時調査を受け、その結果、一般病棟入院基本料の算定において、看護職員数と入院患者数の割合を算出する際に入院患者数の算定方法を誤るなどしたため、施設基準等に適合していないことが確認されたことから、施設基準等に適合していなかった期間に係る診療報酬の自主返還を行っていた。しかし、指定医療機関等でもある同病院は、労災診療費についても同様に算定を誤っていたのに、労働局が労災診療費の支払に係る事後確認を行っていなかったことなどから、労災診療費計145万余円が過大に支払われたままとなっていた。
前記のとおり、保険医療機関でもある指定医療機関等において、診療報酬については、地方厚生局等の個別指導又は適時調査を受けて過大に支払われていた額の自主返還を行っているのに、労災診療費については、診療報酬と同様に算定を誤っており、労災診療費が過大に支払われていたにもかかわらず、当該過大支払額の返還が行われていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 貴省において、労災診療費の支払の適正化のため、地方厚生局等が保有している診療報酬返還情報等を活用して労災診療費の支払に係る事後確認を行うことが有益であるのに、労働局が地方厚生局等から診療報酬返還情報等の提供を受けられる体制を整備していないこと
イ 労働局において、地方厚生局等が保有している診療報酬返還情報等を活用して労災診療費の支払に係る事後確認を行うことの有益性に対する認識が十分でなく、当該事後確認を行っていないこと
労災診療費の支払は毎年度多額に上っており、また、前記のとおり、保険医療機関でもある指定医療機関等は、労災診療費を算定する際に、原則として、診療報酬と同様に健保点数を用いて算定することとなっていることから、労災診療費について、地方厚生局等が保有している診療報酬返還情報等を活用して労災診療費の支払に係る事後確認を行うことは、労災診療費の支払の一層の適正化に資することとなる。
ついては、貴省において、地方厚生局等が保有している診療報酬返還情報等を活用して労災診療費の支払に係る事後確認を適切かつ効果的に行うよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 労働局が地方厚生局等から診療報酬返還情報等の提供を受けられる体制を整備すること
イ 労働局に対して、地方厚生局等から得られた診療報酬返還情報等を活用して労災診療費の支払に係る事後確認を行うよう指導すること