会計名及び科目 | 一般会計 (組織)国土交通本省 | (項)社会資本総合整備事業費 等 | |
社会資本整備事業特別会計(治水勘定)(平成19年度以前は、治水特別会計) | (項)都市水環境整備事業費 等 | ||
部局等 | 直轄事業 | 4地方整備局 | |
補助事業等 | 8府県 | ||
事業及び補助の根拠 | 河川法(昭和39年法律第167号) | ||
事業主体 | 直轄事業 | 6河川事務所等 | |
補助事業等 | 府1、県6、市1 | ||
計 | 14事業主体 | ||
事業の概要 | 社会経済・生活様式の高度化に伴って悪化した河川環境を改善するために、河川環境の整備と保全を目的とした事業を実施するもの | ||
検査の対象とした河川環境整備事業費 | 直轄事業 | 210億5794万余円 | (平成13年度〜23年度) |
補助事業等 | 394億4572万余円 | (平成13年度〜23年度) | |
(国庫補助金等交付額 | 154億6719万余円 | ) | |
事業の効果が発現していない施設等に係る事業費 | 直轄事業 | 9億1576万円 | |
補助事業等 | 27億9624万円 | ||
(国庫補助金交付額 | 11億3367万円 | ) | |
事業の効果が発現していない施設等が含まれている事業費 | 直轄事業 | 1億4454万円 | (背景金額) |
補助事業 | 2億6816万円 | ||
(国庫補助金交付額 | 7290万円 | )(背景金額) |
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
貴省は、河川法(昭和39年法律第167号。以下「法」という。)等に基づき、洪水等による災害の発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全に必要な河川工事等の事業を毎年度多数実施している。このうち、河川環境の整備と保全を目的とした事業(以下「河川環境整備事業」という。)については、社会経済・生活様式の高度化に伴って悪化した河川環境を改善するために、直轄事業及び国庫補助事業(平成22年度以降、社会資本整備総合交付金及び地域自主戦略交付金による事業(以下「交付金事業」という。)に統合。以下、国庫補助事業と交付金事業とを合わせて「国庫補助事業等」という。)として実施されている。
そして、国民の環境に対する関心の高まりや地域の実情に応じた河川整備の必要性等を踏まえて、9年の法改正において、河川環境の整備と保全が法の目的として明文化された。
ア 河川環境整備事業に係る直轄事業
河川環境整備事業に係る直轄事業は、一級河川のうち国土交通大臣が管理する区間において、清浄な流水の確保を図るための水環境整備事業、良好な河川環境を保全、復元するために必要な湿地再生等を行う自然再生事業等が実施されてきたが、17年度に、ダムも含めて水系一貫した環境整備を実施するため、直轄総合水系環境整備事業が創設された。
そして、地方整備局長等は、「総合水系環境整備事業の実施について」(平成22年国河環第124号河川局長通知)等の通知(以下「直轄事業実施通知等」という。)に基づき、河川環境整備事業を実施しており、事業の実施に当たっては、実施内容を具体的に示した総合水系環境整備事業計画等の事業計画(以下「直轄事業計画」という。)を作成することとしている。
イ 河川環境整備事業に係る国庫補助事業等
河川環境整備事業に係る国庫補助事業等は、都道府県等が事業主体となり、一級河川のうち国土交通大臣が管理する区間以外の区間及び二級河川において、河川の水質改善のための河川浄化事業、良好な河川環境を保全、復元するために必要な湿地再生等を行う自然再生事業、親水空間を形成するため環境護岸等の整備を行う河川利用推進事業及びまちづくりと一体的な河道整備を行う河畔整備事業が実施されてきたが、17年度に、これらの事業は、統合河川環境整備事業に統合された。
そして、都道府県知事等は、「統合河川環境整備事業費補助制度について」(平成21年国河環第120号河川局長通知)等の通知(以下「補助事業実施通知等」という。)に基づき、河川環境整備事業を実施しており、事業の実施に当たっては、おおむね5年間の統合河川環境整備事業計画等の事業計画(以下「補助事業計画」という。)を作成することとしており、また、河川環境整備事業のうちの河川浄化事業については事業効果の検証を実施することとしている。
本院は、合規性、有効性等の観点から、河川環境整備事業の実施に当たり、直轄事業計画及び補助事業計画(以下、これらを「事業計画」という。)に係る検討は十分行われているか、事業実施後の維持管理等は十分行われているか、事業効果の検証は適切に行われているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、13年度から23年度までの間に実施した河川環境整備事業のうち、直轄事業として8地方整備局等(注1) 管内の19河川事務所等(注2) 及び国庫補助事業等として23都道府県等(注3) において、直轄事業78事業、事業費計210億5794万余円、国庫補助事業等74事業、事業費計394億4572万余円(国庫補助金等計154億6719万余円)を対象として、事業計画書、各工事の設計図書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
(注1) | 8地方整備局等 関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局、北海道開発局
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(注2) | 19河川事務所等 千曲川河川、静岡河川、豊橋河川、天竜川上流河川、琵琶湖河川、姫路河川国道、倉吉河川国道、三次河川国道、徳島河川国道、松山河川国道、筑後川河川、遠賀川河川、武雄河川、菊池川河川各事務所、室蘭、釧路両開発建設部、鬼怒川、天竜川両ダム統合管理事務所、弥栄ダム管理所
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(注3) | 23都道府県等 東京都、北海道、大阪府、青森、神奈川、新潟、石川、山梨、長野、岐阜、愛知、滋賀、島根、岡山、広島、愛媛、高知各県、札幌、名古屋、大阪、堺、広島、北九州各市
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検査したところ、次のような事態が見受けられた。
ア 事業計画において事業実施箇所の事前の検討が十分でなかったため、事業効果が十分発現していないもの
事業の効果が発現していない施設等に係る事業費 | |||||||
補助事業等 | 2事業 | 計 | 1億6201万余円 | 国庫補助金等相当額 | 計 | 7894万余円 |
補助事業実施通知等によると、河川環境整備事業においては、流域全体の河川環境について十分把握した上で、特に整備の必要な箇所について検討し、流域としてバランスの取れた計画を立てることとされている。このため、河川環境整備事業の実施に当たっては、補助事業実施通知等の内容に沿って事業実施箇所を選定する必要がある。
しかし、事業計画において事業実施箇所の事前の検討が十分でなかったため、整備した施設が土砂等で埋没するなどしていて、事業効果が十分発現していない事態が見受けられた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
大阪府は、平成20年度から23年度までの間に、水環境改善緊急行動計画に基づき、松原市内の落堀川において、河川水中の有機物質濃度を低下させ水質浄化を図るなどの目的で、河床に直径20cm程度の栗石がついたネットを敷き詰めるなどの河川環境整備事業を工事費1億5469万余円(国庫補助金等相当額7650万余円)で実施している。同事業は、河床に敷き詰めた栗石に触れて流れる時の水流の乱れによる酸素供給により、微生物が汚濁物質を分解して河川水を浄化するものである。
しかし、事業実施箇所が東除川との合流点付近であり土砂が堆積しやすい場所であったため、栗石が土砂で埋没しており、水流の乱れが維持できていなかった。
したがって、前記の計画において事業実施箇所の事前の検討が十分でなかったため、水質改善に係る事業効果が十分発現していない状況となっている。
イ 事業計画において関連事業等との連携が十分とれていないため、整備した施設等に係る事業効果が十分発現していないもの
事業の効果が発現していない施設等に係る事業費 | |||||||
直轄事業 | 2事業 | 計 | 1億8904万余円 | ||||
補助事業 | 2事業 | 計 | 10億5635万余円 | 国庫補助金交付額 | 計 | 3億5077万円 |
事業の効果が発現していない施設等が含まれている事業費 | ||||||
直轄事業 | 1事業(注4) | 7418万余円 | ||||
補助事業 | 1事業(注4) | 1億4674万余円 | 国庫補助金交付額 | 5530万余円 |
直轄事業実施通知等及び補助事業実施通知等によると、河川環境整備事業においては、河川周辺地域の整備・保全計画等を十分念頭におき、単に河川区域内における整備効果のみならず、その効果を広範囲に波及させることが重要であることから、関連事業等との密接な連携の下に実施することとされている。このため、河川環境整備事業の実施に当たっては、事業主体は関連事業等を行う地方公共団体と事業実施時期等について十分調整する必要がある。
しかし、事業計画において、事業主体と地方公共団体との調整等が十分でなく地方公共団体の行う事業が進捗していないなど関連事業等との連携が十分とれていないため、整備した施設等に係る事業効果が十分発現していない事態が見受けられた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
九州地方整備局遠賀川河川事務所は、平成21、22両年度に、遠賀川水系自然再生事業計画に基づき、福岡県直方市下境地区において、河川環境整備事業を工事費1億7192万余円で実施している。同事業は、遠賀川と水田との段差を解消しこれらの連続性を回復させて魚が水田まで遡上することを可能とするとともに、多自然化させることにより生物の生息・生育環境の改善を図るもので、同事務所は、上記の事業計画に基づき、遠賀川河川敷の開水路を先行して整備している。
しかし、同事務所は、上記事業計画の策定の際に、水田の地権者、農業用排水路の工事を行う直方市等との間で、上記の段差を解消する時期等について具体的な協議を行わなかったため、直方市の行う工事が全く進捗しておらず、上記の段差が解消されずに魚が水田まで遡上することが困難な状況となっていた。
したがって、前記の事業計画において関連事業等の連携が十分とれていなかったため、整備された開水路に係る事業効果が十分発現していない状況となっている。
ア 河川環境整備事業を実施した事業主体及び事業実施後に管理を行っている地方公共団体において、施設等の整備後の維持管理等を十分に行っていないなどのため、整備目的が達成されておらず事業効果が十分発現していないもの
事業の効果が発現していない施設等に係る事業費 | |||||||
直轄事業 | 5事業 | 計 | 7億2671万余円 | ||||
補助事業等 | 9事業 | 計 | 14億5040万余円 | 国庫補助金等相当額 | 計 | 6億6146万余円 |
事業の効果が発現していない施設等が含まれている事業費 | |||||||
直轄事業 | 1事業 | 7036万円 | |||||
補助事業 | 1事業(注5) | 1億2142万余円 | 国庫補助金交付額 | 1759万余円 |
直轄事業実施通知等及び補助事業実施通知等によると、河川環境整備事業においては、前記のとおり、単に河川区域内における整備効果のみならず、その効果を広範囲に波及させることが重要であるなどとされている。このため、河川環境整備事業を実施した事業主体及び事業実施後に管理を行っている地方公共団体は、整備した施設等が広範囲かつ長期にわたって活用できるよう十分な維持管理等を行う必要がある。
しかし、施設等の整備後の維持管理が十分行われていなかったり、機能が低下した施設等を補修していないことから整備した施設等の機能が維持されていなかったりなどしたため、整備目的が達成されておらず事業効果が十分発現していない事態が見受けられた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
関東地方整備局鬼怒川ダム統合管理事務所は、平成14年度から16年度までの間に、男鹿川河道検討設計業務報告書における河道整備の基本方針に基づき、栃木県日光市の男鹿川において河川環境整備事業を工事費7億6920万円で実施している。そして、日光国立公園特別区域内の川治温泉の自然環境を復元することを目的として、15、16両年度に水辺を周遊するための遊歩道や、川に入って水に親しめる湧水池等の整備(工事費相当額4億3110万円)を行っている。
しかし、男鹿川における出水後に、整備した遊歩道が流出して通行できなくなっていたり、湧水池が水没して利用できなくなっていたりしていた。
そして、これらの機能が低下した施設等を補修していないため、河川環境整備事業の整備目的が達成されておらず、事業効果が十分発現していない状況となっている。
イ 河川浄化事業の実施後に、事業効果の検証を行っていないため、事業効果が確認できないもの
事業の効果が発現していない施設等に係る事業費 | |||||||
補助事業 | 2事業 | 計 | 1億2747万円 | 国庫補助金交付額 | 計 | 4249万円 |
補助事業実施通知等によると、河川環境整備事業においては、施設供用後も適宜モニタリングを行うとともに、事業効果の検証を適切に行うこととされている。このため、河川浄化事業については、事業の実施後に事業効果の検証を継続的に実施する必要がある。
しかし、河川浄化事業の実施後に、事業効果の検証を行っていないため、事業効果が確認できない事態が見受けられた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
滋賀県は、平成14年度から16年度までの間に、琵琶湖総合保全整備計画に基づき、大津市の殿田川内湖において、水質を改善することにより自然環境の回復・保全を図るための河川浄化事業を工事費1億1469万余円(国庫補助金交付額3823万余円)で行っている。同事業は、同内湖の底泥の浚渫(しゅんせつ)を行うもので、水中に溶出している窒素やリンを削減することを目的としている。
しかし、同県は、同事業が終了した16年度以降、目標値としている負荷削減量(窒素0.27t/年、リン0.01t/年)が達成されているか検証するための水質等の測定をしていなかった。
したがって、同事業は、事業実施後に事業効果の検証が行われていないため、事業効果が確認できない状況となっている。
以上のように、河川環境整備事業の実施に当たり、事業計画に係る検討が十分行われていなかったり、事業実施後の維持管理等が十分行われていなかったりなどしているため、事業効果が十分発現等していない事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 地方整備局、河川事務所等において、河川環境整備事業の実施に当たり、事業計画において関連事業等との連携をとること及び整備した施設等の機能が低下した場合の明確な対応方針の策定について検討することが十分でないこと
イ 都道府県等において、河川環境整備事業の実施に当たり、事業計画において事業実施箇所の事前の検討を行うこと、事業計画において関連事業等との連携をとること、施設等の整備後の維持管理等を行うこと及び河川浄化事業の実施後に事業効果の検証を行うことが十分でないこと
河川環境整備事業は、都市内の河川や閉塞性の高い湖沼では依然として著しい水質汚濁が生じていること、良好な水環境の創出による生活環境の改善への期待が益々高まっていることなどから、今後とも、直轄事業及び交付金事業により多数実施されることが見込まれる。
ついては、貴省において、河川環境の整備と保全を目的とした河川環境整備事業の事業効果が十分発現するよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 地方整備局、河川事務所等に対して、河川環境整備事業の実施に当たり、事業計画における関連事業等との十分な連携及び整備した施設等の機能が低下した場合の明確な対応方針の策定についての検討を十分行うよう周知すること
イ 都道府県等に対して、河川環境整備事業の実施に当たり、事業計画における事業実施箇所の事前の十分な検討、事業計画における関連事業等との十分な連携、整備後の施設等の十分な維持管理等及び河川浄化事業の実施後の事業効果の検証の実施について周知すること