会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)国土交通本省 | (項)社会資本総合整備事業費 等 | ||||||||||||
社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定) | |||||||||||||||
(項)道路交通安全対策事業費 等 | |||||||||||||||
部局等 | 1地方整備局、8県 | ||||||||||||||
事業及び補助の根拠 | 道路法(昭和27年法律第180号)等 | ||||||||||||||
事業主体 | 河川国道事務所1、県8、市5、村3、計17事業主体 | ||||||||||||||
ポケット式落石防護網の概要 | 金網等を使用して崖の斜面全面を覆い上部に落石の入口を設けて、衝突する落石のエネルギーを吸収するもの | ||||||||||||||
ポケット式落石防護網の直接工事費 |
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標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
貴省は、道路防災事業の一環として、一般国道等において、落石による災害の発生を未然に防止するために、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業等(以下、これらの事業を実施する者を「道路事業者」という。)により、発生した落石を待ち受けてその運動を止めたり、通行車両等に落石が当たらないように下方又は側方へ誘導したりするための落石防護工を多数実施している。
落石防護工のうちポケット式落石防護網は、金網、吊ロープ、支柱、ワイヤロープ等を使用して崖の斜面全面を覆い、上部に落石の入口を設けて、衝突する落石の運動エネルギー(以下「落石エネルギー」という。)を吸収するものである。
ポケット式落石防護網の設計は、社団法人日本道路協会(以下「協会」という。)が作成した「道路土工のり面工・斜面安定工指針」(以下「安定工指針」という。)及び「落石対策便覧」(以下「便覧」という。)に基づいて行われており、これらは貴省制定の土木工事共通仕様書において、技術基準として指定されている。
安定工指針及び便覧によれば、ポケット式落石防護網は、落石エネルギーと可能吸収エネルギーをそれぞれ算定して、可能吸収エネルギーが落石エネルギーを上回るように設計して、ワイヤロープの破断荷重に耐えられるようにアンカーの安定性を検討することとされている。そして、これらのエネルギーのうち、可能吸収エネルギーについては、金網、ワイヤロープ、支柱、吊ロープの各部材がそれぞれ吸収するエネルギー(以下「吸収エネルギー」という。)と落石がポケット式落石防護網に衝突した際に両者が一体となって運動することにより減じられるエネルギー(以下、このエネルギーのことを「エネルギー差」という。)を全て足し合わせて計算することとされている。これは、各部材の吸収エネルギーのほかに、残存するエネルギーをエネルギー差により便宜的に代表させて合算して可能吸収エネルギーを算定するという考え方に基づいている(図
参照)。そして、具体的な算定方法は、便覧を参照することとされている。
図 ポケット式落石防護網の設計の考え方
また、安定工指針においても、ポケット式落石防護網については、かつて便覧と同じ設計方法が示されていた。しかし、貴省によると協会が実務者等から選定した委員により構成された「道路土工切土工・斜面安定工指針改訂分科会」において、ポケット式落石防護網の中には緩衝金具を設けたり、各部材の吸収エネルギーのみで落石エネルギーを吸収したりする製品が開発されており、残存するエネルギーをエネルギー差により便宜的に代表させて算定するという安定工指針における設計の考え方では、これらの設計が適切に評価できない製品が存在する可能性があるとの検討結果が示されたとされている。これを受けて、協会は、平成21年6月に、安定工指針の改訂を行い、ポケット式落石防護網の設計に当たっては、可能吸収エネルギーの算定にエネルギー差を加算しないこととした(図
参照)。
一方、便覧においては、他の項目の改訂作業等が遅れているため、安定工指針のような改訂は行われていない。
ポケット式落石防護網は道路防災事業における落石防護工の主要な対策の一つであり、直轄事業、国庫補助事業等により多数の事業が行われている。そこで、本院は、有効性等の観点から、道路事業者が実施しているポケット式落石防護網の設計は適切に行われているかなどに着眼して検査を行った。
本院は、21年度から23年度までに実施されたポケット式落石防護網工事を含む道路防災事業のうち、17事業主体(注) が実施した直轄事業3工事(9か所、契約金額計10億4312万余円、ポケット式落石防護網の直接工事費計2258万余円)、国庫補助事業等101工事(164か所、同28億4281万余円、同9億0314万余円、国庫補助金等相当額計5億2994万余円)、計104工事(173か所、同38億8594万余円、同9億2572万余円、同5億2994万余円)を対象として、貴省及び17事業主体において、契約書、詳細設計書類等を確認するとともに、説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
すなわち、可能吸収エネルギーの算定に当たり、17事業主体によるポケット式落石防護網173か所のうち、2事業主体による2か所(国庫補助事業等2か所)においては、事業主体が改訂後の安定工指針に基づいてエネルギー差を加算せずに算定していたが、残り17事業主体による171か所(直轄事業9か所、国庫補助事業等162か所)においては、安定工指針の改訂の経緯が周知されていなかったなどのため、改訂前の安定工指針に基づきエネルギー差を加算するなどしていて、事業主体によって算定方法が区々となっていた。
そこで、本院において、上記ポケット式落石防護網171か所について、エネルギー差を加算しないで可能吸収エネルギーを改めて計算したところ、ポケット式落石防護網135か所(直轄事業6か所、国庫補助事業等129か所)で可能吸収エネルギーが落石エネルギーを下回っていて、その算定結果が設計に大きな影響を与えるほど相違していた(表
参照)。
区分 | 1倍超〜 2倍以下 |
2倍超〜 3倍以下 |
3倍超〜 4倍以下 |
4倍超〜 5倍以下 |
5倍超〜 6倍以下 |
135か所 | 76 | 48 | 9 | 1 | 1 |
宮崎県は、平成23年度に、県道岩戸延岡線道路防災工事A140工区において、ポケット式落石防護網工事(直接工事費10,194,720円)を実施している。同県は、これに先立ち、23年3月に実施した設計において、便覧に基づいて構造計算を行い、金網、横ロープ等の吸収エネルギー計36.0kJにエネルギー差79.4kJを加えた可能吸収エネルギー115.4kJが、落石エネルギー101.5kJを上回ることから、ポケット式落石防護網は安全であるとしていた。
しかし、改訂後の安定工指針に基づいて計算すると、可能吸収エネルギーは36.0kJとなり、落石エネルギーを大幅に下回る結果となっていて、安定工指針の改訂の前後では、算定結果が設計に大きな影響を与えるほどの相違が生じていた。
しかし、貴省は、協会が安定工指針において可能吸収エネルギーの算定方法の変更を含む改訂を行っていたことについては認識していたものの、直轄事業、国庫補助事業等において上記のような事態が生じていることを全く把握していなかった。
また、貴省は、安定工指針が改訂された21年6月から現在までの間に、可能吸収エネルギーの算定方法に関する改訂後の安定工指針の取扱いについて協会に確認等することをしていなかった。
貴省は、事業主体において、ポケット式落石防護網の設計に当たり、可能吸収エネルギーの算定方法が区々となっていて、その算定結果が設計に大きな影響を与えるほど相違している事態が生じているにもかかわらず、改訂後の安定工指針の取扱いについて協会に確認等することなく、また、道路事業者にその取扱いを周知することなく現在に至っている事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 事業主体において、安定工指針におけるポケット式落石防護網の設計方法が改訂の前後において異なっていることを認識していないこと
イ 貴省において、事業主体におけるポケット式落石防護網の設計方法が大きく異なるなどしている事態についての認識が欠けていて、道路事業者に対してこの取扱いに関する周知を行うための検討を行っていないこと
我が国は様々な自然災害が発生しやすい環境にあることから、道路事業者は、道路網の発達と共に道路利用者の安全を図るために、防災点検による危険箇所の把握等に努め、道路防災事業の一環としてポケット式落石防護網を設置している。
ついては、貴省において、ポケット式落石防護網の設計に当たり、道路事業者が適切な設計を行えるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。
ア 可能吸収エネルギーの算定方法の取扱いを明確に定めて、その取扱いを道路事業者に周知徹底すること
イ 上記アを踏まえて、21年6月以降に設計されたポケット式落石防護網について、安定工指針と便覧における可能吸収エネルギーの算定方法との適合性を検証するよう、事業主体に対して指導又は助言を行うこと