検査対象 | 25府省等 |
検査の対象とした契約の概要 | 府省共通業務・システム及び個別府省業務・システムの最適化の実施等に係るハードウェアの調達、システムの設計・開発、システムの運用・運用支援等に係る契約 |
25府省等における情報システムに係る契約の支払金額 | 5246億6035万円(平成20年度〜22年度) |
政府は、行政内部の効率的な事務処理や国民等への質の高い行政サービスの提供を図るため、情報システムを有効に活用していくとしており、そうした中で、情報システムに係る調達は、便利で効率的な電子行政を実現するための重要な手続として位置付けられている。
情報システムに係る調達は、府省等ごとに行われており、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する予算(内閣高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部公表)をみると、平成20年度1兆2168億円、21年度1兆0886億円、22年度9694億円と毎年度多額なものとなっている。
政府は、情報システムに係る調達において、サービス市場における自由で公正な競争を促し、真の競争環境を実現するとともに、調達手続のより一層の透明性及び公平性の確保を図るため、「情報システムに係る政府調達の基本指針」(平成19年3月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定。以下「基本指針」という。)を策定している。
基本指針の対象となる情報システムは、原則として、予定価格が80万SDR(注1)
以上と見込まれるものとされているが、80万SDR未満と見込まれるものについても、基本指針の基本的考え方に沿って調達を行うこととされている。
そして、基本指針の統一的かつ的確な実施の確保のため、内閣官房は、総務省の協力を得て、各府省等における調達等の実施状況を踏まえつつ、必要な措置を講ずることとされ、総務省は、「情報システムに係る政府調達事例データベース」(以下「調達事例DB」という。)の充実等を行うことなどとされている。
調達事例DBは、各府省等における情報システムに係る政府調達実務や政府調達のより一層の透明性及び公平性の向上等に資するため、情報システムの受注者側に調達情報を提供し、また、発注者側である各府省等の調達事例の情報共有を図ることを目的としており、基本指針において調達事例DBを充実させるとしたことから、20年度に改修され、21年4月から現行の調達事例DBとして運用されている。
情報システムの契約に当たっては、調達手続のより一層の透明性及び公平性を確保するとともに、政府全体としての戦略的な調達のための具体的取組を強力に推進することにより、効率的な予算執行に努めることが重要である。また、情報システムに係る契約事務は、各府省等の契約担当部局ごとに行われているが、その契約金額を決定するための基準となる予定価格については、当該契約に係る調達仕様書、設計書等に基づいて、適正かつ合理的に算定することが求められている。
本院は、18年10月に、参議院からの検査要請に基づき、「各府省等におけるコンピュータシステムに関する会計検査の結果について
」として検査結果を報告(以下、この報告を「18年報告」という。)し、情報システムに係る契約について、契約の競争性及び透明性の向上や積算の合理性の向上を図ることに努め、もって情報システム関係予算の経済的、効率的かつ効果的な執行を図ることが必要であるとの所見を示している。
そこで、18年報告から5年以上が経過していることなどを踏まえ、情報システムに係る契約について、経済性、有効性等の観点から、予定価格の算定は合理的なものとなっているか、また、調達事例DBについて、各府省等の調達に関する情報が政府全体として共有され、活用されているかなどについて着眼して検査を行った。
検査に当たっては、20年度から22年度までの間における情報システムに係る契約のうち、情報システム関係予算の大半を占める府省共通業務・システム及び個別府省業務・システムの最適化計画の実施等に係る〔1〕 ハードウェアの調達、〔2〕 システムの設計・開発、〔3〕 システムの運用・運用支援等で、年間支払額が1000万円以上の契約を対象として、25府省等(注2)
の本省及び外局等(以下「省庁」という。)から調書を徴するとともに、19省庁(注3)
において、予定価格の算定、調達に関する情報共有等の状況について関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。
(注2) | 25府省等 内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府本府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、裁判所、会計検査院
|
(注3) | 19省庁 内閣官房、人事院、内閣府本府、警察庁、金融庁、総務本省、法務本省、外務本省、財務本省、国税庁、文部科学本省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業本省、特許庁、国土交通本省、気象庁、防衛本省、最高裁判所
|
検査の対象とした情報システムに係る契約件数及び支払金額は、表1 のとおり、計2,286件、5246億6035万余円となっている。
表1 情報システムに係る契約件数及び支払金額(平成20年度〜22年度)
(単位:件、百万円)
府省等名 | 平成20年度 | 21年度 | 22年度 | 計 | ||||
件数 | 支払金額 | 件数 | 支払金額 | 件数 | 支払金額 | 件数 | 支払金額 | |
内閣法制局 | 1 | 10 | 1 | 41 | 1 | 41 | 3 | 92 |
人事院 | 10 | 1,435 | 15 | 1,923 | 10 | 1,656 | 35 | 5,016 |
内閣府 | 16 | 983 | 15 | 2,375 | 18 | 2,384 | 49 | 5,743 |
宮内庁 | 5 | 143 | 6 | 152 | 7 | 151 | 18 | 448 |
公正取引委員会 | 1 | 11 | 1 | 17 | 2 | 37 | 4 | 66 |
警察庁 | 36 | 8,208 | 30 | 9,166 | 27 | 8,028 | 93 | 25,403 |
金融庁 | 10 | 1,853 | 14 | 1,455 | 12 | 924 | 36 | 4,233 |
消費者庁 | - | - | - | - | 1 | 16 | 1 | 16 |
総務省 | 78 | 12,123 | 82 | 11,731 | 78 | 12,024 | 238 | 35,878 |
法務省 | 103 | 22,527 | 105 | 32,900 | 130 | 39,789 | 338 | 95,216 |
外務省 | 28 | 2,160 | 32 | 3,051 | 26 | 3,524 | 86 | 8,735 |
財務省 | 137 | 54,444 | 166 | 58,583 | 199 | 64,528 | 502 | 177,556 |
文部科学省 | 13 | 1,083 | 14 | 1,037 | 16 | 2,903 | 43 | 5,023 |
厚生労働省 | 40 | 17,745 | 88 | 38,829 | 79 | 37,527 | 207 | 94,102 |
農林水産省 | 28 | 2,532 | 43 | 3,141 | 41 | 3,842 | 112 | 9,517 |
経済産業省 | 29 | 4,627 | 21 | 5,604 | 21 | 4,190 | 71 | 14,421 |
国土交通省 | 75 | 6,442 | 70 | 6,404 | 74 | 7,951 | 219 | 20,798 |
環境省 | 11 | 841 | 9 | 843 | 10 | 863 | 30 | 2,549 |
防衛省 | 22 | 2,231 | 27 | 3,919 | 36 | 5,801 | 85 | 11,952 |
衆議院 | 9 | 631 | 9 | 610 | 11 | 672 | 29 | 1,914 |
参議院 | 4 | 511 | 4 | 543 | 5 | 655 | 13 | 1,710 |
国立国会図書館 | 4 | 625 | 4 | 567 | 8 | 604 | 16 | 1,797 |
裁判所 | 12 | 496 | 13 | 548 | 18 | 553 | 43 | 1,598 |
会計検査院 | 2 | 227 | 5 | 307 | 8 | 331 | 15 | 866 |
計 | 674 | 141,895 | 774 | 183,758 | 838 | 199,006 | 2,286 | 524,660 |
ア 契約方式
今回検査の対象とした契約2,286件の中には、国庫債務負担行為による複数年契約を締結しているものがあり、当該契約について各年度に重複して計上した件数を除くと、検査の対象となる件数は1,677件となっている。また、上記の複数年契約の契約金額については、19年度以前や23年度以降に係る支払金額及び支払予定金額も含むものとなっており、これらを合わせると、検査対象に係る契約金額は計9334億9255万余円となっている。
18年報告においては、16年度の情報システム関係の契約(支払金額300万円以上)の大半が随意契約で執行されている状況を示していたが、上記1,677件の契約方式についてみると、表2
のとおり、競争契約の割合が件数で56.6%、金額で72.2%となっていて、18年報告における競争契約の割合(件数で19.1%、金額で3.6%)と比べて、大幅に増加している。
表2 契約状況の状況
(単位:件、百万円)
区分 | 件数 | 構成比 | 金額 | 構成比 |
競争契約 | 950 | 56.6 | 674,055 | 72.2 |
随意契約 | 727 | 43.4 | 259,437 | 27.8 |
計 | 1,677 | 100 | 933,492 | 100 |
(18年報告) 競争契約 |
551 | 19.1 | 17,349 | 3.6 |
随意契約 | 2,322 | 80.8 | 455,851 | 96.3 |
計 | 2,873 | 100 | 473,201 | 100 |
イ 契約方式別の平均落札率
契約金額の予定価格に対する比率である落札率は、予定価格の妥当性や契約方式の特性等から、その高低だけをもって一律に評価できない面はあるものの、契約の競争性や契約価格の経済性等を評価する際の指標の一つと考えられる。そこで、上記1,677件の契約のうち、前年度の契約金額を予定価格とするなどして予定価格の算定を省略している73件を除いた1,604件について、平均落札率を契約方式別にみると、表3 のとおり、競争契約950件の平均落札率が87.3%であるのに対し、随意契約654件は98.6%となっている。そして、単純に比較できないものの、18年報告における16年度の保守運用契約(支払金額300万円以上)の平均落札率(競争契約で81.9%、随意契約で97.4%)とほぼ同等となっていて、契約の競争性が十分確保されていない状況となっている。
表3 契約方式別の平均落札率
(単位:件、%)
契約方式 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 |
競争契約 | 950 | 59.2 | 87.3 |
随意契約 | 654 | 40.8 | 98.6 |
計 | 1,604 | 100 | 91.9 |
(18年報告) 競争契約 |
27 | 5.9 | 81.9 |
随意契約 | 431 | 94.1 | 97.4 |
計 | 458 | 100 | 96.5 |
ウ 競争契約における応札者数別の平均落札率
前記950件の競争契約について、応札者数を契約締結年度ごとにみると、表4
のとおり、1者応札の割合は、20年度67.8%、21年度73.7%、22年度56.8%となっていて、22年度において低下しているものの依然として半数以上を占めている。
また、応札者数別に平均落札率をみると、応札者数が2者以上である複数応札では70.1%であるのに対し、1者応札では96.0%となっていて、表3の随意契約における平均落札率98.6%とほぼ同等の高い比率となっており、競争契約であっても1者応札の場合は、実質的な競争性は確保しにくい状況となっている。
表4 応札者別の平均落札率
(単位:件、%)
区分 | 平成20年度 | 21年度 | 22年度 | 計 | ||||||||
件数 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 |
1者応札 | 272 | 67.8 | 95.7 | 205 | 73.7 | 96.4 | 154 | 56.8 | 96.1 | 631 | 66.4 | 96.0 |
複数応札 | 129 | 32.2 | 71.7 | 73 | 26.3 | 71.5 | 117 | 43.2 | 67.6 | 319 | 33.6 | 70.1 |
計 | 401 | 100 | 88.0 | 278 | 100 | 89.8 | 271 | 100 | 83.8 | 950 | 100 | 87.3 |
1者応札については、「指摘事項〜ムダ・ゼロ政府を目指して〜」(平成20年12月行政支出総点検会議)等を受けて、各府省等は、入札参加説明会に参加しながら入札に参加しなかった業者にアンケートを実施するなどして1者応札の要因を分析したり、入札参加資格の見直し、効果的な単位での発注、複数年契約の導入、公告期間の延長、参入可能事業者に対する周知、業務のマニュアル化等の具体的な取組を実施してきたりしている。しかし、情報システムに係る契約については、前記のとおり、22年度においても1者応札となっている契約が半数以上を占めており、顕著な効果は見受けられない状況となっている。
エ 業務内容別の契約方式等の状況
前記1,677件の契約について、契約ごとの業務内容をみると、〔1〕 ハードウェアの調達654件(契約金額6185億6393万余円)、〔2〕 システムの設計・開発307件(同1712億3865万余円)及び〔3〕 システムの運用・運用支援386件(同1608億6635万余円)が主なものとなっている(複数の業務内容を含んだ契約があるため重複しているものがある。)。
このうち競争契約は、〔1〕 ハードウェアの調達では291件(契約金額4415億6400万余円)、〔2〕 システムの設計・開発では205件(同1455億5932万余円)及び〔3〕 システムの運用・運用支援では275件(同1017億7009万余円)となっており、これらの応札者数をみると、表5
のとおり、〔1〕 ハードウェアの調達については、複数応札の比率が40.9%となっていて、〔2〕 システムの設計・開発及び〔3〕 システムの運用・運用支援における複数応札の比率(共に25%程度)と比べると、その比率が高くなっている。その理由は、〔1〕 ハードウェアの調達については、ハードウェアとソフトウェアの分離調達の進展等により、サーバ等の機器の提供等が主な業務となっており、他の業務と比べて、入札に参加しやすいことなどによると思料される。
表5 業務内容別の応札者数の状況
(単位:件、%)
区分 | 〔1〕 ハードウェアの調達 | 〔2〕 システムの設計・開発 | 〔3〕 システムの運用・運用支援 | |||
件数 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 件数 | 構成比 | |
1者応札 | 172 | 59.1 | 155 | 75.6 | 202 | 73.5 |
複数応札 | 119 | 40.9 | 50 | 24.4 | 73 | 26.5 |
計 | 291 | 100 | 205 | 100 | 275 | 100 |
前記のとおり、情報システムに係る契約事務については各府省等の契約担当部局ごとに行われているが、前記三つの業務内容のうち、統一的な比較要件を設定することが困難なシステムの設計・開発を除くハードウェアの調達及びシステムの運用・運用支援に係る契約を対象として、各府省等の契約担当部局がどのように予定価格を算定しているかについて検査した。
ハードウェアの調達は、主に、サーバ等のシステム機器の賃貸借及び保守を実施するものである。
ハードウェアの調達に係る契約654件、6185億6393万余円のうち、21年度の契約で予定価格が80万SDR以上の賃貸借契約84件、2175億0628万余円を抽出し、このうちハードウェアの賃借料及び保守料を業者等から徴した見積書や価格証明書に基づき算定している64件、1988億7983万余円について検査した。
検査したところ、賃借料及び保守料については、一部の契約を除き、それぞれの積算項目が区分されている見積書等を徴していた。
そこで、本院において、本体価格、月間賃借料及び保守料の各積算項目について、業者から徴した見積書等の値引額と契約担当部局において過去の調達実績等に基づき査定して減額した額とを考慮して、業者が提示した値引前の見積金額等に対する割引率(以下、単に「割引率」という。)を試算したところ、表6
のとおり、それぞれの割引率は区々となっていた。
表6 ハードウェアの調達における割引率
(単位:件)
割引率 | ハードウェア全体 | 左のうちサーバ系機器 | ||||
賃借料 | 保守料 | 賃借料 | 保守料 |
|||
本体価格 |
月間賃借料 | 本体価格 | 月間賃借料 | |||
0%以上10%未満 |
3 | - | 2 | 2 | - | 2 |
10%以上20%未満 |
3 | - | 3 | 3 | - | 3 |
20%以上30%未満 |
7 | - | 6 | 6 | - | 6 |
30%以上40%未満 |
14 | 9 | 9 | 10 | 7 | 7 |
40%以上50%未満 |
7 | 14 | 11 | 5 | 10 | 6 |
50%以上60%未満 |
3 | 2 | 4 | 2 | 2 | 4 |
60%以上70%未満 |
- | - | 1 | - | - | - |
70%以上 |
1 | 1 | 1 | - | - | 1 |
計 | 38 | 26 | (注) 37 |
28 | 19 | (注) 29 |
さらに、上記積算項目のうち月間賃借料をみると、〔1〕 本体価格、金利、固定資産税等から月間賃借料を発注者が自ら算定していたり、〔2〕 業者から月間賃借料として徴した見積書等により算定していたり、〔3〕 本体価格に市販の積算参考資料に示されたリース料率を適用して算定していたりしていた。
そこで、この〔1〕 又は〔2〕 に該当する契約について、月間賃借料を本体価格で除してリース料率を試算し市販の積算参考資料に示されたリース料率と比較したところ、表7
のとおり、〔1〕 に係るリース料率は市販の積算参考資料に示されたリース料率との差が−0.5ポイント以上+0.5ポイント未満の範囲に収まっているものの、〔2〕 に係るリース料率はこれと大幅にかい離しているものも見受けられた。
表7 リース料率の分布状況
(単位:件)
積算参考資料に示されたリース料率 | 〔1〕本体価格や金利等に基づき月間賃借料を算定している契約について試算したリース料率との差 | |||||
リース期間 | リース料率 | −1.5%未満 | −1.5%以上−0.5%未満 | −0.5%以上+0.5%未満 | +0.5%以上+1.5%未満 | +1.5%以上 |
2年(13〜24か月) | 4.48〜4.56% | — | — | — | — | — |
3年(25〜36か月) | 3.08〜3.16% | — | — | 1 | — | — |
4年(37〜48か月) | 2.38〜2.46% | — | — | 1 | — | — |
5年(49〜60か月) | 1.96〜2.04% | — | — | 15 | — | — |
6年(61か月 〜) | 1.68〜1.76% | — | — | — | — | — |
計 | — | — | 17 | — | — | |
積算参考資料に示されたリース料率 | 〔2〕月間賃借料として見積書等を徴して算定している契約について試算したリース料率との差 | |||||
リース期間 | リース料率 | −1.5%未満 | −1.5%以上−0.5%未満 | −0.5%以上+0.5%未満 | +0.5%以上+1.5%未満 | +1.5%以上 |
2年(13〜24か月) | 4.48〜4.56% | — | — | 1 | — | — |
3年(25〜36か月) | 3.08〜3.16% | — | — | — | — | — |
4年(37〜48か月) | 2.38〜2.46% | 1 | — | 15 | 4 | 3 |
5年(49〜60か月) | 1.96〜2.04% | — | — | 6 | 1 | — |
6年(61か月 〜) | 1.68〜1.76% | — | — | 1 | — | — |
計 | 1 | — | 23 | 5 | 3 |
システムの運用・運用支援は、運用開始後のシステムに係るシステム監視や障害対応等を実施するものである。
システムの運用・運用支援に係る契約386件、1608億6635万余円について、20年度から22年度までの3か年にわたって継続していて、予定価格の算定を毎年度同様な方法で行っており積算項目が同様と思料される契約のうち、21年度に係る契約75件、274億4874万余円を抽出し、このうち個別の積算項目が区分されておらず総額のみの見積書等を徴しているため詳細な分析を行うことができない11件を除く64件、188億7415万余円について検査した。
検査したところ、システムの運用・運用支援に係る予定価格の算定において共通する主な積算項目は、各業務に応じた技術水準の人件費単価(円/人月)、工数(時間数、要員数等)等となっており、積算額が予算額を超えたために最終的に予算額を予定価格としていたものも見受けられたが、積算項目ごとの状況は次のとおりとなっていた。
(ア) 人件費単価
人件費単価については、技術水準によりSE(システムエンジニア)、プログラマ、オペレータ等のランク分けがされていて、業者から徴した見積書や価格証明書に基づき算定している契約が29件(45.3%)、市販の積算参考資料や日本電子計算機株式会社が取りまとめている大手メーカー6社の技術者サービス料金等に基づき算定している契約が37件(57.8%)となっていた(重複している契約があるため合計しても前記の64件とは一致しない。)。さらに、業者から徴した見積書等に基づき算定している29件の契約について、見積書等の徴取先の数をみると、1者のみとなっているものは21件(72.4%)、2者以上となっているものは8件(27.6%)となっていた。このような状況の中で、各府省等は、複数の業者に見積書等の提出を依頼するなどして1者見積りの回避に努めているものの、情報システムの運用・運用支援については同種業務が複数年にわたって同一業者により実施されることが多いことなどもあって、新たに入札参加意欲を示す業者が少ないことなどから、結果的に2者以上から見積書等を徴することが難しい状況となっている。
ランク別の人件費単価については、各契約の業務内容や必要とされる技術水準が厳密には同等でないなどのため、単純に比較することはできないものの、システムの運用業務に多く含まれている「問合せ業務」(ヘルプデスク業務)を含む40契約のうち、ランクが不明な7件を除く33契約について人件費単価をみると、図
のとおりとなっていた。すなわち、主にSEやプログラマ(以下「SE等」という。)の人件費単価に基づき予定価格を算定している11契約については、その人件費単価は875,000円/人月から1,982,400円/人月までとなっている。一方、オペレータ等の人件費単価に基づき予定価格を算定している22契約については、その人件費単価は376,000円/人月から1,182,720円/人月までとなっており、オペレータ等に基づく人件費単価の方がSE等に基づく人件費単価より全体として低額であるものの、いずれの人件費単価においても大きくばらついている状況となっていた。
図 問合せ業務に用いた人件費単価の分布状況
(イ) 工数
工数については、業者から徴した見積書等に基づき算定している契約が45件(70.3%)、過去の実績等を基にするなどして契約担当部局において独自に算定している契約が19件(29.7%)となっていた。
業者から徴した見積書等に基づき工数を算定している45件の契約について、見積書等の徴取先の数をみると、1者のみとなっているものが34件(75.6%)、2者以上となっているものが11件(24.4%)となっていて、大半が1者見積りとなっていた。
各府省等は、人件費単価と同様、1者見積りの回避に努めているものの、前記のとおり、情報システムの運用・運用支援については、同種業務が複数年にわたって同一業者により実施されることが多いことなどもあって、結果的に2者以上から見積書等を徴することが難しい状況となっている。
ウ 予定価格の算定の現状、課題等
情報システムに係る契約事務については各府省等の契約担当部局ごとに行われているが、基本指針では予算要求時の積算方法を示しているのみであり、予定価格の算定については特段の定めがなく、また、工事請負契約等のように体系的な積算マニュアルは確立されていない。
そこで、各府省等における予定価格の算定について検査したところ、各府省等の契約担当部局は、過去の同種契約における算定方法や業者から徴した見積書等を参考にするなどして予定価格を算定しているが、各府省等の契約担当部局は、過去の算定方法等の情報を当該部局で保存し利用しているのみであり、複数の契約担当部局を有する府省等においては、算定方法等の情報を同一府省等内でさえも共有する体制になっていないなど、調達に関する情報が体系的に整備されていない状況が見受けられた。そして、前記のとおり、政府全体を横断的にみると、ハードウェアの調達における割引率やリース料率が区々となっていたり、システムの運用・運用支援について同等な積算項目の人件費単価に差が生じていたりしていた。
情報システムに係る契約について体系的な積算マニュアルが整備されていない現状においては、標準となるべき価格等が明確にされておらず、上記のように区々となっている割引率や人件費単価等について、個別の契約における価格の合理性を判断することは困難な状況となっている。また、システムの運用・運用支援については、見積書等を複数の業者から徴することが難しい状況となっている。
このように予定価格の算定のための情報が不足している状況にあることを考慮すると、各府省等が予定価格の算定の際に参考にした見積書等や予定価格の算定内訳等の有用な情報を、政府全体として共有し活用することとすれば、より多くの有用な情報に基づいて予定価格を算定することが可能となり、ひいては政府全体における予定価格の算定に係る合理性のより一層の向上に寄与するものと認められる。
しかし、各府省等は、前記のとおり多額の予算を投入して情報システムに係る調達を実施してきているものの、基本指針の策定等におけるこれまでのIT投資の全体最適化等に係る議論においては、情報システムに係る契約における予定価格の算定の現状や課題等について十分な検討はなされておらず、また、このような情報の活用について、政府全体の調整等を担当する府省等は明確になっていない。
調達事例DBは、前記のとおり、情報システムの受注者側に調達情報を提供し、また、発注者側である各府省等において、調達事例の情報共有を図ることを目的として運営されている。
調達事例DBは20年度に改修されており、21年度以降の現行の調達事例DBについては、基本指針の対象となっていない衆議院、参議院、裁判所等を除く各府省等は、原則として、予定価格が80万SDR以上と見込まれる情報システムの契約に係る調達計画書や調達仕様書案等を登録するなどとされており、予定価格が10万SDR以上80万SDR未満と見込まれるものについても、調達事例DBへ登録することは義務付けられていないものの、基本指針の趣旨を踏まえて積極的に登録することとされている。
そこで、調達事例DBにおいて、各府省等からの情報が適時に、また的確に登録され、漏れなく政府全体の調達に関する情報が登録されているか、登録された情報は発注者側において十分活用できるものとなっているのかなどについて検査したところ、次のとおりとなっていた。
ア 調達事例DBの登録及び活用状況
(3)ア
のハードウェアの調達84件及び(3)イ
のシステムの運用・運用支援75件のうち、基本指針の対象となっていない府省等の契約等を除く113件に、21年度の契約で予定価格が80万SDR以上のシステムの設計・開発に係る契約30件を加えた137件(複数の業務内容を含んだ契約があるため重複しているものが6件ある。)の契約について、22年3月末時点における調達事例DBへの登録状況を検査した。
検査したところ、基本指針の対象とされている契約(予定価格が80万SDR以上と見込まれる契約)については、112件のうち57件と約半数しか登録されておらず、また、基本指針の趣旨を踏まえて積極的に登録することとされている契約(予定価格が10万SDR以上80万SDR未満と見込まれる契約)については、25件全てが登録されていなかった。
また、調達事例DBについては、全体のアクセス件数は増加しているものの、発注者側と受注者側とを区分してアクセス件数を把握していないため、各府省等における活用実績等は把握できない状況となっていた。このため、本院において、各府省等における活用状況について聞き取り調査を実施したところ、一部の府省等で調達仕様書を作成する際に他システムの記述を参考にしたとする例があったものの、参考となる情報が登録されていないことなどから、全体としてその活用が低調となっていた。また、このように各府省等における活用が低調であることもあって、さらに、調達事例DBへの登録も積極的に行われていない状況となっていた。
イ 調達事例DBへの要望
前記のように、現行の調達事例DBについては、各府省等で積極的に情報が登録されておらず、基本指針の対象とされている契約についても約半数しか登録されていない状況となっていた。そこで、各府省等に対し、調達事例DBにどのような情報が登録されれば有用か、また、そのためにはどのような機能拡充等が必要かなどについて調査したところ、予定価格の算定内訳や機器等の単価等の情報が登録されれば参考になるという回答が多くなっていた。さらに、現行の調達事例DBにおいては発注者側でも他府省等の登録情報については外部に公表する情報と同じものしか閲覧できないため、各府省等で閲覧できる情報と外部に公表する情報を区分するなどの機能拡充を図る必要があるという回答が多くなっていた。
内閣に設置されている高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は、23年8月に、「電子行政推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)を策定している。そして、基本方針において、IT投資によって得られる効果を最適化するためには、IT投資管理の確立・強化が必要となるとし、そのためには、成果目標の明確化、投資額の妥当性、リスク分析等の事前評価等が必要であるなどとして、IT投資管理を適切に行うための具体策を早急に検討し、順次導入するなどとしている。また、電子行政の取組を迅速かつ強力に推進していくため、政府の電子行政推進に係る実質的な機能を有する司令塔として政府CIO制度を導入するなどとし、政府CIO制度の役割等として、政府全体のIT投資の管理等を行う方向で検討するとしている。
情報システムに係る契約は、今後とも多額に上ることが見込まれ、各府省等が情報システムに係る契約を実施するに当たっては、前記のとおり、18年報告と比べて競争契約の割合が増加してきているものの1者応札の割合も依然として大きく、競争性が十分確保されていない状況となっており、国の厳しい財政状況等を鑑みると、効率的な予算執行に努めることが重要である。
また、情報システムに係る契約における予定価格の算定の在り方は、前記のとおり、基本指針においても明確に示されておらず、政府全体を横断的にみると、各府省等で割引率や人件費単価等が区々となっていたり、各府省等が保有する有用な情報を政府全体として共有できる体制となっていなかったり、それらを政府内で調整する府省等が明確になっていなかったりしていた。
さらに、調達事例DBについては、基本指針において登録することとされているものが登録されていなかったり、各府省等がどのような情報を必要としているのか十分検討されていなかったりしていて、情報の共有が十分達成されていない状況であった。
したがって、政府は、基本方針に沿った電子行政を推進するに当たり、次のような取組を進め、もって国の情報システムに係る契約の経済的及び効率的な執行に努めることが必要である。
ア 1者応札への対応や契約の競争性の確保について引き続き努力すること
イ 予定価格の算定に関する情報について、政府全体として情報を共有し活用することについて、情報の種類、内容等も含めて検討すること
ウ 上記イの検討等を担当する部署について、政府内での調整等を行うこと
エ 調達事例DBについては、各府省等が必要とする情報を十分把握するなどして、各府省等が保有する情報を登録して有効に活用できるよう検討すること
本院としては、電子行政の推進や政府CIO制度の導入に向けた政府の動きについて注視するとともに、国の情報システムについて、今後とも多角的な観点から引き続き検査していくこととする。