検査対象 | 財務省、東京国税局、44税務署 |
簡易課税制度の概要 | 中小事業者の事務負担に配慮して、事務の簡素化を図るために、事業者の選択により、課税売上げに係る消費税額を基礎として、課税仕入れに係る消費税額を簡易な方法により計算する制度 |
検査の対象とした事業者数 | 4,699事業者 |
簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額が推計納付消費税額に対して低額となっている事業者数及び低額となっている納付消費税額の推計額 | 3,742事業者 21億7647万円(平成19年度〜23年度) |
簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額が推計納付消費税額に対して高額となっている事業者数及び高額となっている納付消費税額の推計額 | 957事業者 2億2712万円(平成19年度〜23年度) |
消費税は、消費税法(昭和63年法律第108号)に基づき、製造、卸売、小売等の各段階の売上げに課税され、その税相当額が順次価格に織り込まれて転嫁され、最終的には消費者が負担することが予定されている。そして、消費税法は、前段階で課税されている消費税が各段階で二重、三重に累積的に課税されないように、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れに係る消費税額を控除する仕組みを採っている。消費税の納税義務者は、国内において課税資産の譲渡等を行う事業者(注1) となっている。
課税売上げに係る消費税額から控除できる課税仕入れに係る消費税額は、原則として、課税売上げに対応する課税仕入れに係る消費税額とされている(以下、課税売上げに係る消費税額からこの課税売上げに対応する課税仕入れに係る消費税額を控除して納付消費税額を算出する計算方法を「本則課税」という。)。
そして、中小事業者の事務負担に配慮して、事務の簡素化を図るために、事業者の選択により、課税売上げに係る消費税額を基礎として、課税仕入れに係る消費税額を簡易な方法により計算できる簡易課税制度が設けられている。
すなわち、課税事業者が、基準期間(個人事業者では課税期間(注2)
の前々年、法人では課税期間の前々事業年度)における課税売上高が5000万円以下である課税期間について、その課税期間の直前の課税期間の末日までに消費税簡易課税制度選択届出書を所轄の税務署長に提出した場合には、本則課税によることなく、その課税期間の課税売上げに係る消費税額から、課税売上げに係る消費税額にその事業者の営む事業の種類の区分(以下「事業区分」という。)に応じたみなし仕入率を乗じて計算した金額を課税仕入れに係る消費税額とみなして控除することができることとされている。
そして、第1種事業から第5種事業までの事業区分に該当する業種は卸売業、小売業、製造業等、その他事業、サービス業等となっており、みなし仕入率は、90%から50%となっている(表1 参照)。
表1 各事業区分に該当する業種及びみなし仕入率
事業区分 | 第1種事業 | 第2種事業 | 第3種事業 | 第4種事業 | 第5種事業 |
該当する業種 | 卸売業 | 小売業 | 製造業等 | その他事業 | サービス業等 |
みなし仕入率 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% |
注(1) | 第3種事業は、農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、電気業等をいう。 |
注(2) | 第5種事業は、不動産業、運輸・通信業、サービス業をいう。 |
財務省の資料によると、課税事業者のうち、簡易課税制度適用者が占める割合は、平成17年度からは、個人事業者が60%強、法人が30%弱とほぼ横ばいで推移している(表2 参照)。
表2 消費税の簡易課税制度適用者数等の推移
(単位:万事業者、(%))
年度 | 平成 17年度 |
18年度 | 19年度 | 20年度 | 21年度 | 22年度 | ||||
\ | ||||||||||
区分 | ||||||||||
個 人 事 業 者 |
課税事業者
〔1〕
|
162 | 157 | 149 | 146 | 143 | 136 | |||
〔1〕のうち本則課税適用者
〔2〕
|
61 | 59 | 56 | 55 | 55 | 52 | ||||
|
101 (62.3) |
98 (62.4) |
93 (62.5) |
91 (62.0) |
89 (61.8) |
84 (61.9) |
||||
法 人 |
課税事業者
〔1〕
|
211 | 210 | 209 | 208 | 206 | 202 | |||
〔1〕のうち本則課税適用者
〔2〕
|
151 | 151 | 151 | 150 | 149 | 146 | ||||
|
60 (28.4) |
59 (28.2) |
58 (27.9) |
57 (27.6) |
57 (27.5) |
56 (27.6) |
小規模事業者の事務処理能力等を勘案して、課税期間に係る基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除されることとなっている(以下、この消費税の納税義務が免除される仕組みを「事業者免税点制度」という。)。ただし、課税期間に係る基準期間がない新設された法人のうち、事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1000万円以上である法人(以下「新設法人」という。)は、課税期間に係る基準期間が存在しない設立2年以内の納税義務は免除されないこととされている。そして、新設法人が、事業を開始した日の属する課税期間に消費税簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その提出があった日の属する課税期間から簡易課税制度が適用できることとされている。
法人の合併には吸収合併と新設合併が、法人の分割には吸収分割、新設分割等があり、その内容は次のとおりとなっている。
ア 吸収合併とは、法人が他の法人とする合併であって、合併により消滅する法人(以下「被合併法人」という。)の権利義務の全部を合併後存続する法人(以下「合併法人」という。)に承継させることをいう。
イ 新設合併とは、2以上の法人がする合併であって、被合併法人の権利義務の全部を合併により設立する法人に承継させることをいう。
ウ 吸収分割とは、法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割(以下、この事業を分割した法人を「分割法人」という。)後に、他の法人に承継させる(以下、この事業を承継した法人を「分割承継法人」という。)ことをいう。
エ 新設分割とは、1又は2以上の法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する法人に承継させることをいう。
上記のうち、吸収合併又は吸収分割があった場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用については、次のとおりとなっている。
事業者免税点制度において、吸収合併に係る合併法人又は吸収分割に係る分割承継法人の基準期間における課税売上高が1000万円を超えるかどうかについては、当該合併法人又は当該分割承継法人の基準期間における課税売上高のみならず、当該吸収合併に係る被合併法人又は当該吸収分割に係る分割法人の課税売上高も考慮して判定することとされている。
一方、簡易課税制度において、当該吸収合併に係る合併法人又は当該吸収分割に係る分割承継法人の基準期間における課税売上高が5000万円を超えるかどうかについては、当該合併法人又は当該分割承継法人の基準期間における課税売上高のみによって判定することとされている。
事業者が行う取引に係る消費税等(消費税及び地方消費税をいう。以下同じ。)の経理処理には、消費税等の額と当該消費税等に係る取引の対価の額とを区分して経理する税抜経理方式と区分しないで経理する税込経理方式がある。そして、事業者が消費税等の経理処理について税抜経理方式を適用している場合において、簡易課税制度の適用を受けた課税期間に、仮受消費税等の金額から仮払消費税等の金額を控除した金額と納付すべき又は還付を受ける消費税等の額とに差額(以下、この差額を「消費税等差額」といい、当該差額のうち国税である100分の80に相当する額を「消費税差額」という。)が生ずるときは、当該消費税等差額について、法人の場合は法人税の申告において、その課税期間を含む事業年度の益金の額又は損金の額に、個人事業者の場合は所得税の申告において、その課税期間を含む年の総収入金額又は必要経費に、それぞれ算入することとされている。
簡易課税制度については、消費税が導入された元年4月以降、消費税に対する国民の信頼性等を向上させるために、これまで三度にわたり簡易課税制度の適用対象となる基準期間における課税売上高の上限額の引下げによる適用範囲の見直しが、また、二度にわたりみなし仕入率の事業区分の細分化によるみなし仕入率の水準の見直しが行われた。このうち15年度の税制改正においては、事業者免税点制度の適用上限の課税売上高を3000万円から1000万円に引き下げた改正に伴い新たに課税事業者となる者の事務負担に配慮して、簡易課税制度の適用対象となる基準期間における課税売上高の上限額を2億円から5000万円に引き下げて制度自体は存置することとされた。
また、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号。以下「消費税法改正法」という。)が成立して、24年8月22日に公布され、別段の定めがあるものを除き26年4月1日から施行することとされた。そして、消費税法改正法においては、消費税率の引上げなどの措置のほか、税制に関する抜本的な改革及び関連する諸施策に関する措置として、消費税率の引上げを踏まえて、簡易課税制度の仕入れに係る概算的な控除率について、今後、更なる実態調査を行い、その結果を踏まえた上で、その水準について必要な見直しを行うことを検討し、速やかに必要な措置を講ずることが定められている。
消費税は本則課税が原則となっていて、元年4月に導入されてから20年以上が経過しており、簡易課税制度の適用対象となる基準期間における課税売上高の上限額の引下げによる適用範囲の見直しやみなし仕入率の事業区分の細分化によるみなし仕入率の水準の見直しが行われてきているが、前記のとおり、17年度から22年度までの間における簡易課税制度適用者の割合は個人事業者が60%強、法人が30%弱とほぼ横ばいで推移している。また、みなし仕入率が課税仕入率(課税仕入高の課税売上高に対する割合)を上回ってかい離している場合には、価格を通じて消費者が負担している消費税相当額のうち国庫に納付されない部分が事業者に残ることとなり、いわゆる益税(注3)
が発生すると言われている。そして、このような益税の発生は、消費税に対する国民の信頼性を損ねることとなる。
本院は、消費税に関する国民の関心が高い中で、上記のような状況を踏まえて、中小事業者の事務負担に配慮して設けられた簡易課税制度について、有効性等の観点から、有効かつ公平に機能しているかなどに着眼して、〔1〕 みなし仕入率と課税仕入率の状況はどのようになっているか、〔2〕 過去に本則課税を適用してその後簡易課税制度を適用している事業者の状況はどのようになっているか、〔3〕 多額の課税売上高を有する事業者の簡易課税制度の適用状況はどのようになっているか検査した。
検査に当たっては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき本院に提出された証拠書類等により書面検査を行うとともに、23年12月から24年5月までの間に東京国税局(注4) 及び44税務署(注5) において、上記の〔1〕 から〔3〕 までの検査項目に応じて、簡易課税制度を適用している3,075法人、1,624個人事業者、計4,699事業者を抽出して、消費税の確定申告書等によりその内容を分析するなどして会計実地検査を行った(表3 参照)。また、財務省において、みなし仕入率に関する実態調査の内容を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(注4) | 東京国税局 国税局は、大規模納税者等について、自ら賦課徴収を行っていることから、多額の課税売上高を有する法人を抽出するに当たって検査対象とした。
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(注5) | 44税務署 村山、桐生、川口、西川口、浦和、春日部、新潟、千葉東、千葉南、市川、成田、麹町、神田、日本橋、芝、目黒、北沢、渋谷、中野、杉並、豊島、板橋、葛飾、江戸川北、武蔵野、横浜中、保土ケ谷、横浜南、緑、川崎北、藤沢、小田原、相模原、大月、昭和、中川、豊橋、東、豊能、八尾、東大阪、尼崎、松山、博多各税務署
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表3 検査の対象とした事業者
事業者の態様 | 法人 | 個人事業者 | 計 | |
〔1〕 | 全体の課税売上高のうち、一つの事業の課税売上高の割合が90%超となっている事業者 | 1,040 | 991 | 2,031 |
〔2〕 | 過去4年以内(法人)又は過去2年以内(個人事業者)に本則課税を適用したことがある事業者 | 2,023 | 633 | 2,656 |
〔3〕 | 第1期課税期間又は第2期課税期間に多額の課税売上高(5億円超)を有する事業者 | 12 | — | 12 |
計 | 3,075 | 1,624 | 4,699 |
簡易課税制度は、前記のとおり、課税期間の課税売上げに係る消費税額に事業区分に応じたみなし仕入率を乗じて計算した金額を課税仕入れに係る消費税額とみなして控除することができることとされている。
そして、財務省は、みなし仕入率に関して、消費税の課税事業者における課税仕入率の実態を把握するための調査を実施し、「平成20年度分課税仕入率の実態調査について」として、政府税制調査会に提出している。調査対象者は簡易課税制度適用者330,067事業者(全国の税務署から抽出した4,969法人及び325,098個人事業者)及び本則課税適用者60万5千事業者(国税庁の課税事績による売上1000万円超から5000万円以下の28万2000法人及び32万2000個人事業者)、調査対象期間は法人が20年4月決算期から21年3月決算期まで、個人事業者が20年分である。
現行のみなし仕入率について、財務省は、5年度分の本則課税適用者及び簡易課税制度適用者の双方を含むサンプル調査により把握した業種別の課税仕入率を基に設定したとしているが、財務省の20年度分の調査結果によれば、全ての業種において、本則課税適用者と簡易課税制度適用者を合わせた全体の課税仕入率より簡易課税制度適用者の課税仕入率が下回っているなどの状況となっていた(表4
参照)。
表4 みなし仕入率及び課税仕入率(財務省調査)
業種 (事業区分) |
卸売業 | 小売業 | 農林水産業 | 鉱業 | 建設業 | 製造業 |
\ | ||||||
区分 | (第1種事業) | (第2種事業) | (第3種事業) | |||
みなし仕入率(%) | 90 | 80 | 70 | |||
簡易課税制度適用者課税仕入率(%) (調査対象者数) |
82.9 (10,578) |
77.4 (36,475) |
64.3 (63,089) |
60.9 (42) |
59.9 (57,867) |
58.8 (28,293) |
本則課税適用者課税仕入率(%) (調査対象者数) |
93.7 (36,113) |
85.1 (135,324) |
87.2 (25,607) |
97.8 (319) |
71.9 (116,272) |
71.8 (50,828) |
本則課税適用者と簡易課税制度適用者を合わせた全体の課税仕入率(%) | 87.9 | 81.4 | 69.2 | 77.1 | 65.0 | 62.9 |
業種 (事業区分) |
料理飲食業 | 金融保険業 | 運輸・通信業 | サービス業 | 不動産業 |
\ | |||||
区分 | (第4種事業) | (第5種事業) | |||
みなし仕入率(%) | 60 | 50 | |||
簡易課税制度適用者課税仕入率(%) (調査対象者数) |
60.0 (45,154) |
33.8 (1,365) |
44.1 (3,730) |
38.9 (77,850) |
32.0 (5,624) |
本則課税適用者課税仕入率(%) (調査対象者数) |
70.0 (60,616) |
90.1 (3,560) |
78.4 (11,090) |
67.6 (139,029) |
76.1 (25,888) |
本則課税適用者と簡易課税制度適用者を合わせた全体の課税仕入率(%) | 64.2 | 47.8 | 59.5 | 49.3 | 42.5 |
注(1) | 簡易課税制度適用者の課税仕入率の試算に当たっては、決算書等の売上原価、販売費及び一般管理費等の必要経費額から、課税仕入れに該当しない額を控除する方法で課税仕入額を把握し、課税仕入れ、非課税仕入れ及び不課税仕入れが混在する可能性のある費目については、一定の基準により案分して試算している。 |
注(2) | 固定資産の取得費は課税仕入れに加算していないが、減価償却費を課税仕入れに加算している。 |
注(3) | 本則課税適用者の課税仕入率は、国税庁の申告事績に基づくものである。 |
本院においては、検査の効率性を勘案して、直近の課税期間(法人については22年2月から23年1月までの間に終了する課税期間、個人事業者については22年分の課税期間。以下同じ。)を対象として、実際に簡易課税制度を適用している事業者ごとに、その課税仕入率の状況を検査した。そして、複数の事業を行っている事業者の兼業による影響を排除するために、全体の課税売上高のうち、一つの事業の課税売上高の割合が90%超となっている事業者を対象として、1,040法人、991個人事業者、計2,031事業者について、決算書等を基に課税仕入率の平均を試算したところ、事業区分ごとにみなし仕入率と課税仕入率の平均を比較すると、みなし仕入率が全ての事業区分において課税仕入率の平均を上回っていた。その中でも第5種事業(運輸・通信業、サービス業及び不動産業)の法人と個人事業者を合わせた課税仕入率の平均は32.4%となっていて、みなし仕入率50%との開差が顕著な状況となっていた(表5 参照)。
表5 簡易課税制度適用者に係るみなし仕入率及び課税仕入率(本院検査)
事業区分 | 第1種事業 | 第2種事業 | 第3種事業 | 第4種事業 | 第5種事業 | |
\ | ||||||
区分 | ||||||
みなし仕入率(%) | 90 | 80 | 70 | 60 | 50 | |
法人 |
課税仕入率(%) (事業者数) |
80.4 (141) |
70.9 (133) |
60.5 (141) |
45.4 (137) |
34.6 (488) |
個人事業者 (991事業者) |
課税仕入率(%) (事業者数) |
85.2 (129) |
76.4 (131) |
64.0 (129) |
52.5 (140) |
29.3 (462) |
計 (2,031事業者) |
課税仕入率(%) (事業者数) |
82.3 (270) |
73.5 (264) |
62.1 (270) |
48.7 (277) |
32.4 (950) |
注(1) | 簡易課税制度適用者については、申告事績から課税仕入税額を把握することができないため、決算書等の売上原価、販売費及び一般管理費等の必要経費額から、課税仕入れに該当しない非課税仕入れ及び不課税仕入れの額を控除して課税仕入高を把握する方法等により、課税仕入率を試算した。 |
注(2) | 固定資産の取得費は課税仕入れに加算していないが、使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満等の少額減価償却資産について、取得価額相当額が必要経費等として把握できる場合には、当該金額を課税仕入れに加算している。 |
そして、事業者ごとの課税仕入率について、事業区分ごとにみなし仕入率との開差を分析したところ、同じみなし仕入率を適用している事業区分においても、課税仕入率がみなし仕入率を上回っている事業者もいるが、課税仕入率がみなし仕入率を下回っている事業者の方が67.0%から84.9%と多数となっており、第5種事業においては課税仕入率がみなし仕入率を20ポイント超下回っている事業者が全体の49.4%となっていた(表6 参照)。
表6 課税仕入率の分布状況
事業区分 | 第1種事業 | 第2種事業 | ||||||
\ | ||||||||
区分 | ||||||||
みなし仕入率(%) | 90 | 80 | ||||||
課税仕入率の範囲(%) | 70 未満 |
70以上 80未満 |
80以上 90未満 |
90 以上 |
60未満 | 60以上 70未満 |
70以上 80未満 |
80以上 |
法人数
〔1〕
|
25 | 35 | 59 | 22 | 18 | 35 | 45 | 35 |
個人事業者数
〔2〕
|
8 | 24 | 57 | 40 | 8 | 22 | 49 | 52 |
計(〔1〕 +〔2〕 )
〔3〕
|
33 | 59 | 116 | 62 | 26 | 57 | 94 | 87 |
割合(%)(〔3〕 /〔4〕 ) | 12.2 | 21.8 | 42.9 | 22.9 | 9.8 | 21.5 | 35.6 | 32.9 |
みなし仕入率未満の事業者の割合(%) | 77.0 | — | 67.0 | — | ||||
事業区分ごとの事業者数
〔4〕
|
270 | 264 |
事業区分 | 第3種事業 |
第4種事業 |
第5種事業 |
|||||||||
\ | ||||||||||||
区分 | ||||||||||||
みなし仕入率(%) |
70 | 60 | 50 | |||||||||
課税仕入率の範囲(%) |
50 未満 |
50以上 60未満 |
60以上 70未満 |
70 以上 |
40 未満 |
40以上 50未満 |
50以上 60未満 |
60 以上 |
30 未満 |
30以上 40未満 |
40以上 50未満 |
50 以上 |
法人数
〔1〕
|
37 | 43 | 28 | 33 | 50 | 29 | 36 | 22 | 211 | 112 | 76 | 89 |
個人事業者数
〔2〕
|
34 | 19 | 28 | 48 | 23 | 25 | 39 | 53 | 259 | 94 | 55 | 54 |
計(〔1〕 +〔2〕 )
〔3〕
|
71 | 62 | 56 | 81 | 73 | 54 | 75 | 75 | 470 | 206 | 131 | 143 |
割合(%)(〔3〕 /〔4〕) |
26.2 | 22.9 | 20.7 | 30.0 | 26.3 | 19.4 | 27.0 | 27.0 | 49.4 | 21.6 | 13.7 | 15.0 |
みなし仕入率未満の事業者の割合(%) |
70.0 | — |
72.9 | — |
84.9 | — |
||||||
事業区分ごとの事業者数
〔4〕
|
270 | 277 | 950 |
注(1) | 割合は、少数点第2位以下を切り捨てているため、各項目を合計しても100にならない場合がある。 |
注(2) | 検査の過程で第5種事業の課税仕入率の平均とみなし仕入率との開差が顕著であることが判明したことから、その傾向をより的確に把握するため第5種事業の事業者を重点的に検査した。 |
これらの1,040法人、991個人事業者、計2,031事業者について、簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額が、本則課税を適用したとして試算した推計納付消費税額(注6) に対して、低額となっている事業者数及び金額は840法人、2億9189万余円及び743個人事業者、2億1163万余円、計1,583事業者で5億0352万余円、高額となっている事業者数及び金額は200法人、3900万余円及び248個人事業者、2853万余円、計448事業者で6753万余円となっていた。
このように、多くの簡易課税制度適用者において、みなし仕入率が課税仕入率を上回っており、簡易課税制度の適用により事務負担に配慮され事務の簡素化が図られた上に、簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額が本則課税を適用したとして試算した推計納付消費税額に対して低額となっていて、いわゆる益税が生じている状況となっていた。
なお、財務省は、消費税法改正法に定められたみなし仕入率の水準についての必要な見直しの検討のために、みなし仕入率に関して、消費税の課税事業者における課税仕入率の更なる実態調査を行っている。
(1)のとおり、多くの簡易課税制度適用者において、みなし仕入率が課税仕入率を上回っている状況となっていた。そこで、同一の事業者について、簡易課税制度を適用した課税期間の納付消費税額の課税標準額(注7) に対する割合(以下「消費税納付率」という。)と本則課税を適用した課税期間の消費税納付率とを比較するために、直近の課税期間において簡易課税制度を適用していて、法人の場合は過去4年以内に、個人事業者の場合は過去2年以内にそれぞれ本則課税を適用したことがある2,023法人、633個人事業者、計2,656事業者の各課税期間における消費税納付率を分析したところ、法人及び個人事業者とも簡易課税制度を適用した課税期間の消費税納付率の方が、本則課税を適用した課税期間の消費税納付率より低くなっていた(表7 及び表8 参照)。
課税期間 | 直近−4の課税期間 |
直近−3の課税期間 |
直近−2の課税期間 |
直近−1の課税期間 |
直近の課税期間 |
法人数 |
\ | ||||||
区分 | ||||||
計算方法 課税標準額の平均〔1〕 納付消費税額の平均〔2〕 |
本則
40,523
868 |
簡易 40,876
618 |
簡易 41,489
632 |
簡易 42,716
654 |
簡易 43,749
673 |
266 |
消費税納付率 (〔2〕 /〔1〕 ) |
2.14% | 1.51% |
1.52% |
1.53% |
1.53% |
|
計算方法 課税標準額の平均〔1〕 納付消費税額の平均〔2〕 |
本則
40,661
811 |
簡易 41,157
594 |
簡易 42,169
603 |
簡易 43,575
630 |
389 | |
消費税納付率 (〔2〕 /〔1〕 ) |
1.99% |
1.44% |
1.43% |
1.44% |
||
計算方法 課税標準額の平均〔1〕 納付消費税額の平均〔2〕 |
本則
42,291
826 |
簡易 43,591
623 |
簡易 44,840
634 |
529 | ||
消費税納付率 (〔2〕 /〔1〕 ) |
1.95% |
1.43% |
1.41% |
|||
計算方法 課税標準額の平均〔1〕 納付消費税額の平均〔2〕 |
本則
46,027
882 |
簡易 46,694
685 |
839 | |||
消費税納付率 (〔2〕 /〔1〕 ) |
1.91% |
1.46% |
表8 633個人事業者の申告状況
(単位:千円)
課税期間 | 直近−2の課税期間 |
直近−1の課税期間 |
直近の課税期間 |
個人事業者数 |
\ | ||||
区分 | ||||
計算方法 課税標準額の平均〔1〕 納付消費税額の平均〔2〕 |
本則
38,496
756 |
簡易 36,237
548 |
簡易 39,807
599 |
260 |
消費税納付率 (〔2〕 /〔1〕 ) |
1.96% |
1.51% |
1.50% |
|
計算方法 課税標準額の平均〔1〕 納付消費税額の平均〔2〕 |
本則
41,466
847 |
簡易 42,855
662 |
373 | |
消費税納付率 (〔2〕 /〔1〕 ) |
2.04% |
1.54% |
また、前記の2,023法人及び633個人事業者について簡易課税制度を適用した各課税期間と本則課税を適用した課税期間の消費税納付率を事業者ごとに比較すると、簡易課税制度を適用した課税期間の消費税納付率の方が低くなっているのは1,669法人及び475個人事業者であり、高くなっているのは368法人及び161個人事業者(注8)
であった。
これらの2,023法人、633個人事業者、計2,656事業者について、簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額が、本則課税を適用したとして試算した推計納付消費税額(注9)
に対して、低額となっている事業者数及び金額は1,675法人、11億1101万余円及び473個人事業者、2億0697万余円、計2,148事業者で13億1798万余円、高額となっている事業者数及び金額は348法人、1億1805万余円及び160個人事業者、3200万余円、計508事業者で1億5005万余円(注10)
となっていた。
(注8) | 課税期間により簡易課税制度を適用して計算した消費税納付率が、本則課税を適用して計算した消費税納付率より低くなっていたり、高くなっていたりしている事業者が14法人及び3個人事業者ある。
|
(注9) | 2,023法人、633個人事業者、計2,656事業者について、簡易課税制度を適用した課税期間において本則課税を適用したとして納付消費税額を推計する方法は、次のとおりとした。
〔1〕 税抜経理方式を採っていて消費税等差額を計上している事業者は、消費税差額と簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額の合計額 〔2〕 税抜経理方式を採っているが消費税等差額を計上しているかどうか明確ではない事業者及び税込経理方式を採っている事業者は、簡易課税制度適用時の課税標準額に、本則課税適用時の消費税納付率を乗ずるなどして試算 |
(注10) | 直近の課税期間において簡易課税制度を適用した事業者ごとに、本則課税を適用した課税期間まで過去に遡り、その間の各課税期間について、推計納付消費税額と簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額の差額を通算した金額としている。
|
このように、同一の事業者について比較しても、多くの簡易課税制度適用者において、消費税納付率が本則課税を適用した課税期間より低くなっており、簡易課税制度の適用により事務負担に配慮され事務の簡素化が図られた上に、簡易課税制度を適用して計算した納付消費税額が本則課税を適用したとして試算した推計納付消費税額に対して低額となっていて、いわゆる益税が生じている状況となっていた。
第1期課税期間又は第2期課税期間(注11) において多額の課税売上高(5億円超)を有し、簡易課税制度を適用して申告している法人で、消費税等差額を計上している11法人、消費税等差額の推計が可能な1法人、計12法人について、両課税期間の課税売上高の状況をみたところ、表9 のとおりとなっており、これらの12法人では、後述のとおりいわゆる益税が生じている状況となっていた。
表9 課税売上高別法人数
課税売上高 | 5億円超 10億円以下 |
10億円超 20億円以下 |
20億円超 30億円以下 |
30億円超 40億円以下 |
40億円超 50億円以下 |
50億円超 60億円以下 |
計 |
法人数 |
6 | 1 | 3 | 0 | 1 | 1 | 12 |
このように各法人の課税売上高が多額であるのに、簡易課税制度を適用していることから、法人の設立の経緯等について検査したところ、次のとおりとなっていた。
前記のとおり、吸収合併又は吸収分割があった場合の事業者免税点制度の適用に当たり、当該吸収合併に係る合併法人又は当該吸収分割に係る分割承継法人の基準期間における課税売上高が1000万円を超えるかどうかについては、当該合併法人又は当該分割承継法人の基準期間における課税売上高のみならず、当該吸収合併に係る被合併法人又は当該吸収分割に係る分割法人の課税売上高も考慮して判定することとされている。一方、簡易課税制度の適用に当たり、当該吸収合併に係る合併法人又は当該吸収分割に係る分割承継法人の基準期間における課税売上高が5000万円を超えるかどうかについては、当該合併法人又は当該分割承継法人の基準期間における課税売上高のみによって判定することとされている。
吸収合併又は吸収分割により事業を承継し、多額の課税売上高を有する課税期間において簡易課税制度を適用して申告している合併法人及び分割承継法人が計7法人あった。これらの吸収合併に係る合併法人と被合併法人及び吸収分割に係る分割承継法人と分割法人は親子会社関係等の密接な関係にあり、簡易課税制度を適用できる規模の小さな合併法人又は分割承継法人が、簡易課税制度を適用できない規模の大きな被合併法人又は分割法人から多額の売上げを有する事業を承継して簡易課税制度を適用していた。
上場企業である法人等が設立した法人で簡易課税制度を適用して申告している法人が5法人あった。これらの5法人は、新設法人であり、設立当初の両課税期間は基準期間がないことから、簡易課税制度を適用することが可能となったものである。
これら12法人が、簡易課税制度を適用して申告している各課税期間の課税標準額は計342億7698万余円、消費税差額は計3億4542万余円となっていて、特に、吸収分割に係る分割承継法人の場合が、5法人で課税標準額は計248億6911万余円、消費税差額は計2億7661万余円と多額となっていた。そして、これらのうち11法人は、簡易課税制度の適用により事務負担に配慮され事務の簡素化が図られている上に、消費税差額3億5495万余円を法人税の申告において益金に算入し納付消費税額が本則課税を適用した場合と比較して低額となっていて、いわゆる益税が生じている状況となっていた。また、1法人は、消費税差額として第1期課税期間は830万余円を益金に、第2期課税期間は1783万余円を損金に算入していて、両課税期間でみると納付消費税額952万余円が本則課税を適用した場合と比較して高額となっていた。
そして、(1)から(3)までの検査の対象とした3,075法人、1,624個人事業者、計4,699事業者の簡易課税制度を適用したことにより納付消費税額が低額となっている事業者数及び納付消費税額の推計額は3,742事業者で21億7647万余円、高額となっている事業者数及び納付消費税額の推計額は957事業者で2億2712万余円となる。
簡易課税制度は、中小事業者の事務負担に配慮して、事務の簡素化を図るために設けられたものである。そして、消費税に対する国民の信頼性等を向上させるために、これまでも簡易課税制度の適用対象となる基準期間における課税売上高の上限額の引下げによる適用範囲の見直しやみなし仕入率の事業区分の細分化によるみなし仕入率の水準の見直しが行われてきたところである。しかし、みなし仕入率が課税仕入率を上回ってかい離している場合には、価格を通じて消費者が負担している消費税相当額のうち国庫に納付されない部分が事業者に残ることとなり、いわゆる益税が発生すると言われている。そして、このような益税の発生は、消費税に対する国民の信頼性を損ねることとなる。
消費税に関する国民の関心が高い中で、本院は、簡易課税制度が有効かつ公平に機能しているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 簡易課税制度適用者について事業区分ごとにみなし仕入率と課税仕入率の平均を比較すると、みなし仕入率が全ての事業区分において課税仕入率の平均を上回っていた。その中でも第5種事業の課税仕入率の平均は、みなし仕入率との開差が顕著な状況となっていた。また、同じみなし仕入率を適用している事業区分においても、課税仕入率がみなし仕入率を上回っている事業者もいるが、課税仕入率がみなし仕入率を下回っている事業者の方が多数となっていた。
イ 同一の事業者について比較しても、多くの簡易課税制度適用者において、簡易課税制度を適用した課税期間の消費税納付率の方が、本則課税を適用した課税期間の消費税納付率より低くなっていた。
ウ 納付消費税額が低額となっている簡易課税制度適用者の中には、多額の課税売上高を有するような規模の大きな事業者も含まれていた。
アからウまでの分析により、多くの簡易課税制度適用者において、簡易課税制度の適用により事務負担に配慮され事務の簡素化が図られた上に、納付消費税額が低額となっていて、いわゆる益税が生じている状況となっていた。そして、消費税率の引上げが行われれば、いわゆる益税は増大していくことが懸念されるところである。
財務省は、前記のとおり、みなし仕入率に関して、消費税の課税事業者における課税仕入率の更なる実態調査を行っているとしており、その調査結果を踏まえて、みなし仕入率の水準について、必要な措置を講ずる改正が行われれば、いわゆる益税の問題は一定の改善が図られることとなるが、本院の検査によって明らかになった状況を踏まえて、今後、財務省において、簡易課税制度の在り方について、引き続き、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう不断の検討を行っていくことが肝要である。
本院としては、今後とも簡易課税制度を含む消費税全般について、引き続き注視していくこととする。