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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

地震・火山に係る観測等の実施状況について


第4 地震・火山に係る観測等の実施状況について

検査対象 内閣府、総務省、文部科学省、国土交通省、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、国立大学法人北海道大学、国立大学法人弘前大学、国立大学法人東北大学、国立大学法人秋田大学、国立大学法人東京大学、国立大学法人東京工業大学、国立大学法人名古屋大学、国立大学法人京都大学、国立大学法人鳥取大学、国立大学法人高知大学、国立大学法人九州大学、国立大学法人鹿児島大学、47都道府県、1,742市町村
検査の対象とした業務の概要 地震、津波及び火山の観測、調査研究等並びにこれらに関連する業務
検査の対象とした観測機器の平成24年3月31日現在の数 (1) 国、独立行政法人及び国立大学法人の観測機器
15,080台          

(2) 国の交付金等により更新等された地方公共団体の観測機器

2,453台          

検査の対象とした観測機器の台帳上の取得価格

(1) 564億4849万円     
検査の対象とした観測機器の更新等に係る交付金等の交付額 (2) 98億3183万円 (平成18、20、21、22各年度)

1 検査の背景

(1) 国等による地震及び津波の観測等の実施

 我が国においては、過去10年間でみても、十勝沖地震、能登半島地震、新潟県中越沖地震、岩手・宮城内陸地震、東北地方太平洋沖地震等の大規模な地震が発生し、全国各地で人的・物的な被害をもたらしている。地震及び地震等に伴う津波の観測やこれらを対象とする調査研究等は、国の機関を始めとする関係機関により行われているが、その概要は次のとおりである。
 気象庁は、気象業務法(昭和27年法律第165号)に基づき、災害の予防、交通の安全の確保、産業の興隆等公共の福祉の増進に寄与することなどのため、業務として地震及び津波の観測を行っている。
 一方、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機として制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)に基づき、地震に関する観測、測量、調査及び研究を一元的に推進するための組織として、文部科学省に地震調査研究推進本部(以下「地震本部」という。)が設置されている。地震本部は、地震に関する総合的かつ基本的な施策の立案、調査観測計画の策定等を行うこととされている。また、測地学及び政府機関の測地事業計画に関する事項を調査審議し、これに関して関係各大臣に意見を述べるための組織として同省に科学技術・学術審議会が設置されている。そして、地震本部が策定等した施策及び計画、科学技術・学術審議会が関係各大臣に建議を行った観測研究計画(注1) 等に基づき、国、独立行政法人、国立大学法人等の関係機関が防災・減災や自然現象の発生の予測及び解明を目的として、地震及び津波の観測、調査研究等を行っている。

 観測研究計画  地震及び火山噴火予知のための研究について、関係機関が分担して推進するための計画。現行の計画は、平成21年度から25年度までを対象期間として、20年7月に科学技術・学術審議会から総務、文部科学、経済産業、国土交通各大臣に建議された。

(2) 国等による火山の観測等の実施

 我が国には110の活火山があり、火山の噴火は、過去10年間でみると、浅間山、桜島、霧島山(新燃岳)等において発生し、これら3火山の噴火の際には噴石落下、降灰及び空気振動(以下「空振」という。)による被害が確認されている。
 火山の観測、調査研究等については、気象庁が気象業務法に基づいて観測を行っているほか、国、独立行政法人、国立大学法人等の関係機関が、活動火山対策特別措置法(昭和48年法律第61号)や科学技術・学術審議会の観測研究計画等に基づき、防災・減災や自然現象の発生の予測及び解明を目的として、観測、調査研究等を行っている。このほか、火山噴火予知連絡会が、火山の観測、調査研究等の成果や情報の交換、火山現象についての総合的判断等を行うための組織として設置されている。

(3) 国及び地方公共団体による情報提供等

 気象庁は、気象業務法に基づき、地震、津波及び火山に関する予報、警報等を行い、これらを国民に発表する業務を行っているほか、地震防災対策特別措置法に基づき、関係機関の観測結果等の収集を行い、その成果を地震本部に報告している。
 消防庁は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)における地震発生時の初動体制確立の迅速化等を目的に、全市町村への観測機器の設置及びこれらを接続する処理装置の整備を促進するため(以下、これらの観測機器等を「震度情報ネットワーク」という。)、都道府県に対して交付金等を交付していて、全市町村に整備された震度情報ネットワークにより得られた観測データは気象庁に提供され、同庁が各地域の地震情報として発表している。また、消防庁は、国から住民への緊急の情報提供に資する目的で、全国瞬時警報システム(以下「J—ALERT」という。)の整備・運用を行っており、都道府県及び市町村に対してJ—ALERTの整備を促進するための交付金を交付している。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 我が国は、23年に、霧島山(新燃岳)の噴火、東北地方太平洋沖地震等による災害が相次いで発生し、広範囲に被害を及ぼしたことなどから、国、独立行政法人、国立大学法人等の関係機関による地震、津波及び火山の観測、調査研究等の実施状況に対する国民の関心が高まっている。

 そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して検査を実施した。

ア.   関係機関による近年の地震、津波及び火山の観測機器の整備状況及び運用状況はどのようになっているか。

イ.   災害時における観測機器等の支障対策はどのようになっているか。

ウ.   観測機器で得られた観測データがどのように流通し、防災・減災に資する調査研究に活用されているか。

エ.   国民に対する地震、津波等に関する緊急情報の伝達は適切に実施されているか。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、地震、津波及び火山の観測、調査研究等の実施機関並びにこれらに関連する業務を所掌している機関のうち、4省庁等(注2) 、3独立行政法人(注3) 、12国立大学法人(注4) 、47都道府県及び1,742市町村から、観測機器の整備、維持、管理等や防災情報等の伝達体制等に関する調書を徴して、これらの調査、分析等を行うとともに、4府省(13府省庁等)(注5) 、3独立行政法人、6国立大学法人(注6) 及び11都道府県(注7) を対象として、観測等の実施体制の状況等について、観測、調査研究等の現場に赴くなどして会計実地検査を行った。

(注2)
 4省庁等  国土交通省(平成13年1月5日以前は、北海道開発庁、運輸省及び建設省)、国土地理院、気象庁、海上保安庁
(注3)
 3独立行政法人  独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所(以下、本文又は図において、それぞれ「防災科研」、「海洋研」、「産総研」という。)
(注4)
 12国立大学法人  科学技術・学術審議会の観測研究計画の実施機関となっている北海道大学、弘前大学、東北大学、秋田大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、鳥取大学、高知大学、九州大学、鹿児島大学の各国立大学法人
(注5)
 4府省(13府省庁等)  内閣府(内閣府本府)、総務省(本省及び消防庁)、文部科学省(本省)、国土交通省(本省、国土地理院、国土技術政策総合研究所、気象庁、海上保安庁並びに本省及び気象庁の4地方支分部局)
(注6)
 6国立大学法人  北海道大学、東京大学、京都大学、高知大学、九州大学、鹿児島大学の各国立大学法人
(注7)
 11都道府県  東京都、北海道、京都府、神奈川、長野、静岡、兵庫、高知、熊本、宮崎、鹿児島各県

3 検査の状況

(1) 観測、調査研究等に係る予算

 地震及び津波の観測、調査研究等に係る23年度の予算額を機関別にみると、地震本部の運営を担うとともに、観測、調査研究等を推進する立場として委託事業の発注者となっている文部科学省や、主たる業務又は業務の一つとして観測を行っている国土交通省の各機関(国土地理院、気象庁及び海上保安庁)の予算額が、東北地方太平洋沖地震の発生を受けて、対前年度比で約3倍から約5倍と大幅に増加し、それぞれ、131億余円、78億余円、112億余円、4億余円となっている。
 また、消防庁は、21年度に、前記の震度情報ネットワークに係る観測機器の更新等のために120億円、J—ALERTの整備のために112億円を予算計上している。
 一方、火山の観測、調査研究等を行っている機関のうち気象庁及び防災科研の23年度の予算額は、それぞれ18億余円、1億余円となっている。

(2) 観測の実施から情報の発表に至るまでの流れ

 観測の実施から情報の発表に至るまでの流れについて概略を示すと図のとおりである。

観測の実施から情報の発表に至るまでの流れについて概略を示すと図のとおりである。

(3) 観測機器の整備状況

ア.   観測機器の設置目的等

 観測の実施機関は、それぞれの権能等に応じて、地震が発生させた地震波を観測する地震計(注8) (高感度地震計、広帯域地震計及び強震計(震度計))を始め、地殻の変動、地震等に伴う津波、火山活動その他の関連する自然現象を観測するための様々な観測機器を設置・保有している。

 地震計  地震が発生させた地震波を計測する機器で、微弱な揺れまで検知することが可能な「高感度地震計」、速い揺れからゆっくりとした揺れまでの広い周波数範囲にわたる地震波を記録することが可能な「広帯域地震計」、非常に強い揺れであっても確実に地震波を記録することが可能な「強震計」に大別される。
 また、計測した地震波から震度を算出する機能を併せ持っている強震計を「震度計」という場合がある。以下の本文中では、気象庁及び防災科研の地震計のうち、震度演算機能を併せ持っている強震計については、「震度計」ではなく「強震計」と表記し、地方公共団体の震度情報ネットワークの地震計についてのみ「震度計」と表記している。

イ.   国、独立行政法人及び国立大学法人における整備状況

 国、独立行政法人及び国立大学法人が24年3月31日現在保有している観測機器は、長期間にわたって観測点を固定して実施する常時観測用の9,474台、緊急的に実施したり期間を限定して実施したりする臨時観測用の5,606台、計15,080台ある。また、24年3月31日現在の観測機器の管理台帳等に登載された取得価格及び23年度における維持管理費は、それぞれ計564億4849万余円(地震等の観測に係る分519億4107万余円、火山の観測に係る分45億0741万余円)、計28億1708万余円(同26億5555万余円、同1億6153万余円)となっている。

(ア) 常時観測用の観測機器の保有状況

 国の機関(4省庁等)、3独立行政法人及び10国立大学法人が24年3月31日現在保有する常時観測用の観測機器(計9,474台)を、観測対象別にみると、地震等の観測用が8,271台、火山の観測用が1,203台となっている。
 地震の常時観測については、地震本部が地震防災対策特別措置法に基づき、9年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画」を策定していて、同計画等に基づき、関係機関が観測機器の全国的な整備を進めてきている。
 機関別にみた主な整備状況は次のとおりである。
 気象庁は、震源及び地震規模の決定等に必要な地震波形データを取得する高感度地震計をおおむね60km間隔となるように、また、震度を測定するための震度データを取得する強震計をおおむね20km間隔となるように、それぞれ全国に設置している(206台、631台)。なお、同庁の強震計の一部(631台中215台)は、緊急地震速報の発表に必要な地震波形データを取得することも可能となっている。
 防災科研は、地盤の強震動を全国的に観測するための強震計や、内陸で発生する浅い地震の震源の位置を決定するための高感度地震計を、それぞれおおむね20km間隔となるように全国に設置している(2,427台、787台)。
 国土交通省は、地方整備局等の事務所等における地震発生時の初動体制の決定に資することを目的として、全国に強震計750台を設置し、地震計ネットワークを整備している。
 一方、火山の常時観測については、21年2月に火山噴火予知連絡会が災害の軽減のために監視を強化すべき火山として選定した47火山全てに、気象庁が地震計、傾斜計、遠望カメラ等を設置して(計514台)、常時観測を行っているほか、他の機関もそれぞれの業務に応じて観測を必要とする火山に各種の観測機器を設置している。

(イ) 臨時観測用の観測機器の保有状況

 国の機関(4省庁等)、3独立行政法人及び11国立大学法人が24年3月31日現在保有する臨時観測用の観測機器(計5,606台)を、観測対象別にみると、地震等の観測用が5,037台、火山の観測用が569台となっている。
 このうち、11国立大学法人の保有機器数が計4,032台(地震等の観測用3,627台、火山の観測用405台)となっている。これは、各国立大学法人が、地震が発生した後や火山活動が活発化した後に、観測機器を可能な限り早く設置して観測データを収集し、学術研究として地震発生・火山活動の構造を解明するため、機動的に設置できる観測機器を多く保有していることなどによる。

ウ.   地方公共団体における整備状況

 消防庁は、7、8両年度に都道府県等が整備した震度情報ネットワークの各機器の老朽化等を受けて、全額国費で震度情報ネットワークを更新するために、21年度に、防災情報通信設備整備事業交付金として、計84億5905万余円を交付している。そして、単独費で更新を行った2都県を除く45道府県は、上記交付金のほか、他の補助金等により、18年度から22年度までの間に更新を行っている(上記交付金等の交付額計98億3183万余円)。
 消防庁は、上記交付金の交付要綱等において、「平成の大合併」前の市町村ごとに少なくとも1か所は整備すること、気象庁又は防災科研が設置した強震計が近接している場合には、地方公共団体は自らが設置した震度計を撤去し、同庁又は防災科研が設置した強震計の震度データを活用してもよいこととしている。そして、都道府県において震度計を設置せずに気象庁又は防災科研が設置した強震計の震度データを活用する場合であっても、当該強震計から回線を分岐して震度データを市町村に送信する装置(以下「分岐装置」という。)を設置し、震度データを直接市町村が入手できるようにしているものは、分岐装置も上記交付金の対象としている。
 震度情報ネットワークを構成する都道府県等が整備した震度計2,937台のうち、前記交付金等により更新等を行った震度計は2,453台で、このうち、気象庁又は防災科研が設置した強震計との距離が1km未満と近接して設置されている震度計は233台あり、この中には、同一敷地内にあるなど距離が100m未満の震度計も59台含まれている。
 また、分岐装置については、43都府県が設置して気象庁又は防災科研の計360台の強震計の震度データを活用している。これらの強震計360台のうち、前記交付金等により更新等を行った分岐装置を介している強震計は325台である。
 一方、近年、震度情報ネットワーク等のシステム等の更新により気象庁からの地震情報の提供が短時間で行われるようになったことなどから、同庁の発表する地震情報を初動体制の確立の基準にするなどしていて、分岐装置を介して同庁及び防災科研の震度データを直接入手することを取りやめている地方公共団体も見受けられた。
 以上のことから、今後、地方公共団体において観測機器等の新設及び更新を行うに当たっては、気象庁又は防災科研の同種の観測機器の設置状況やシステム等の更新状況を把握するとともに、十分な連携を図るなどして、観測機器等の新設及び更新の必要性について十分に検討し、もって、効率的な予算執行に努める必要があると認められる。

エ.   関係機関が整備した観測機器で得られた観測データの気象庁における活用状況

 気象庁以外の関係機関の観測機器で得られた観測データのうち同庁に提供された観測データは、同庁の観測データと合わせて解析処理された後、予報、警報等の発表等に活用されている。
 このうち、気象庁の緊急地震速報の発表には、同庁の強震計の観測データとともに、防災科研の高感度地震計の観測データが活用されていて、同庁は、自らが設置した観測機器及び防災科研が設置した観測機器を活用することで、震源及び地震規模の推定の精度が高まるとしている。

オ.   国土交通省の地震計ネットワークの整備状況

 国土交通省は、主に7年度から9年度にかけて、事務所等及び事務所等が管轄する出張所並びにこれらの事務所等が管理する堤防、道路、ダム等に、前記のとおり、強震計750台を設置し、地震計ネットワークを整備している。
 地震計ネットワークの活用状況をみたところ、52事務所等においては、強震計又は事務所等の表示装置の故障等により、一部の観測データ(計147台分)を取得することができなくなっており、地震計ネットワークの一部が初動体制の決定のために活用されていない状況となっている。
 地震計ネットワークの整備が開始された7年度当時は、気象庁が発表する震度観測点の数が十分でなかったことから、地震計ネットワークは事務所等における初動体制の決定のために有用であったと思料される。一方、24年3月31日現在、気象庁は全国4,309の震度観測点をネットワーク化しており、地震発生時、各事務所等が同庁から送信される震度情報を利用することにより、初動体制の決定を行うことができる地域が広がっていると認められる。
 このような状況の中で、国土交通省は、24年8月に、地震計ネットワークの今後の運用方針を策定した。この運用方針においては、強震計の更新等について、気象庁が発表する震度観測点と河川・道路施設等の設置場所が離れていて震度観測の精度を向上させる必要がある場合等に限定した上で、これに該当しない強震計については廃止することとしている。
 以上のことから、今後、国土交通省において、上記の運用方針に沿って強震計の絞り込みに向けた具体的な計画を策定し、地震計ネットワークの見直しを着実に進める必要があると認められる。

(4) 観測機器等に係る支障対策

ア.   平成23年に発生した自然災害による観測機器の被災状況

 23年1月以降に発生した自然災害により故障又は亡失した機器数は計129台(地震等の観測用110台、火山の観測用19台)となっていて、その原因は、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波の影響が75%を占めている。また、上記129台のうち、24年3月31日までに復旧等した機器数は31台にとどまっている。

イ.   観測網に係る支障等の発生及び対策の状況

(ア) 支障等の発生状況

 気象庁及び同庁に観測データを提供している関係機関のうち国立大学法人を除く関係機関(以下「データ提供機関」という。)が整備した観測機器及び観測機器で得られた観測データを処理するサーバ等(以下「サーバ」という。)で構成される観測網における、東北地方太平洋沖地震発生からの1か月間の、停電や通信障害により観測機器から同庁への観測データの提供が即時に行われていない状態(以下「支障」という。)及び観測データが保存されていない状態(以下「欠測」という。)の発生状況について、上記アの故障又は亡失した観測機器を除いてみたところ、次のような状況となっていた。
 防災科研及び産総研においては、サーバが設置されている茨城県つくば市で長時間の停電が発生したことにより、サーバが停止し、観測機器(防災科研996台、産総研103台、計1,099台)のデータが気象庁に提供されていなかった。
 また、防災科研、気象庁及び国土地理院の観測機器(175台、85台、57台、計317台)において、停電により観測機器等の機能が停止したり、通信障害によりサーバへ観測データの送信ができなかったりしたため、欠測が生じている。
 各種観測データは、気象庁が発表する地震に関する予報、警報等の基礎となる情報であることから、観測データが停電等の影響を受けることなく確実に同庁に提供されることが肝要である。また、地震被害の軽減や地震現象発生の予測及び解明のための調査研究等に活用されている情報であることから、災害発生時においても欠測が生じない体制を構築する必要があると認められる。

(イ) サーバ及び観測機器の停電対策の状況

 サーバや観測機器が停電時においても通常時と同様に気象庁に観測データを提供できる時間(以下「稼働可能時間」という。)について、23年3月31日及び24年3月31日現在の状況をみたところ、24年3月までに気象庁、国土地理院及び防災科研が停電時の対策強化を図っているものの、いずれの時点においても、機関や観測機器の種類によって稼働可能時間が区々となっていた。
 各機関によって観測網の支障対策が区々となっているのは、国として、防災対策の見地からの総合的な調整を行う機関がないことによるものである。
 したがって、国は、気象庁の予報、警報等が国等の初動体制の確立や的確な被害状況の把握に大きな影響を与える状況を踏まえ、防災対策の見地から、災害発生時等においても、各データ提供機関の観測データが確実に同庁に提供されるよう、重要性に応じるなどした総合的な支障対策を検討する必要があると認められる。

(5) 観測データの流通及び活用

ア.   観測データの流通

 地震の観測データの流通については、16年3月31日付けで9国立大学法人(北海道大学、弘前大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、高知大学、九州大学、鹿児島大学の各国立大学法人)、防災科研、産総研、気象庁等の計17機関が相互に締結した協定等に基づき、各機関の常時観測点の観測データが即時に交換されている。
 一方、火山の観測データの流通については、気象庁及び防災科研が23年2月1日付けで締結した協定に基づき、両機関が常時観測している火山の観測データが即時に交換されていて、両機関以外の関係機関に対しては、防災科研が申請を受け付けて許可した上で当該観測データの即時提供を行うことができることとなっている。また、5国立大学法人(北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、九州大学の各国立大学法人)の観測データは、23年9月から24年3月にかけて気象庁、防災科研及び各国立大学法人の三者間で締結された協定により、同庁及び防災科研に即時に提供されるようになっている。

イ.   地方公共団体の観測機器で得られた地震波形データの活用

 都道府県の震度計で得られた地震波形データは、地震災害の軽減を図っていく上で貴重なデータであり、当該データの活用主体となり得る関係機関にも流通させることが望ましいとされている。21年度から23年度までの間に、気象庁、防災科研又は国立大学法人に対して提供した実績があったのは、震度5弱以上の地震を観測した東北地方及び関東地方の都県を中心とした26都道府県であった。

(6) 地方公共団体が実施している緊急情報の伝達

 住民に対して、緊急情報を伝達する手段としては、テレビ・ラジオによる放送、携帯電話会社の緊急速報メール等による伝達のほか、地方公共団体が実施しているJ—ALERTによる伝達がある。前記のとおり、J—ALERTの整備には、近年、多額の国費が投入されていることから、J—ALERTの整備、運用状況等に着目し、全1,742市町村から調書を徴して検査した。

ア.   J—ALERTの整備状況

 消防庁は、21年度第1次補正予算により、状況に応じた内容の音声放送の実現や地上回線接続による受信機等の管理強化を図るなどJ—ALERTの高度化を図るとともに、全国の都道府県及び市町村においてJ—ALERTの整備を国費により一斉に行うこととして、防災情報通信設備整備事業交付金を都道府県に交付(市町村分は都道府県を介した間接交付)することとした。同交付金の交付額は計92億1770万余円(都道府県の執行分1億5550万余円、市町村の執行分90億6219万余円)で、24年4月1日現在、J—ALERTは、全都道府県のほか、1,728市町村(注9) の99.4%に当たる1,719市町村に整備され、運用が開始されている。

 1,728市町村  1,742市町村のうち、東北地方太平洋沖地震の影響で、平成24年4月1日現在、J—ALERTが整備されていなかったり、運用されていなかったりしている岩手、宮城、福島各県の14市町村は集計から除外している。

イ.   J—ALERTの運用状況

 J—ALERTは、受信アンテナ、受信機、自動起動機等で構成されている。このうち自動起動機は、人工衛星等から受信した緊急情報を人手を介さずに瞬時に住民に伝達するため、同報無線等の情報伝達用の機器を自動起動するために必要となる装置である。
 J—ALERTが整備された前記1,719市町村の自動起動機の24年4月1日現在の設置状況をみると、1,241市町村(全体(1,728市町村)の71.8%)が設置するにとどまっている。
 一方、自動起動機を設置していない478市町村(全体(1,728市町村)の27.6%)は、その理由として、情報伝達用の機器がないこと、整備している情報伝達用の機器が古いため自動起動に対応できないことなどを挙げている。この478市町村のうち184市町村は、情報伝達用の機器の整備、改修に合わせて、今後、自動起動機を設置する予定としているが、294市町村は、多額の費用を要することなどから情報伝達用の機器の整備、改修の予定はなく、自動起動に対応する予定がない状況となっている。
 また、自動起動機を設置した1,241市町村のうち、91市町村(全体(1,728市町村)の5.2%)は自動起動機を設置したものの運用には至っていない。91市町村は、自動起動機を運用していない理由として、緊急情報を自動起動により伝達することに関して住民に周知し理解を得る必要があること、情報伝達用の機器が整備・改修中であることなどを挙げている。
 以上のように、多額の費用を要するため同報無線等の情報伝達用の機器を整備していないことなどから、自動起動機を設置していなかったり、自動起動機を設置したものの運用していなかったりしていて、緊急情報を人手を介さずに瞬時に住民に伝達するというJ—ALERTの整備目的が達成されていない市町村が約3割を占める状況となっている。
 緊急情報を伝達する同報無線等の情報伝達用の機器については、市町村合併により旧市町村単位で情報伝達用の機器の整備状況が異なっていたり、屋外放送用のスピーカーを沿岸部や土砂災害が想定される地域のみに設置したりなどしていて、市町村全域を対象としていない場合がある。そこで、自動起動機を運用している1,150市町村において、情報伝達用の機器が、市町村全域のうち、どの程度の地域を対象としているかについてみたところ、市町村の全域を対象としている市町村が998市町村(全体(1,728市町村)の57.7%)、一部地域のみを対象としていて全域を対象としていない市町村が152市町村(同8.7%)となっていた。

ウ.   J—ALERTによる緊急情報の住民への伝達手段

 J—ALERTの自動起動機を運用している1,150市町村の住民への緊急情報の伝達手段についてみると、同報無線、MCA無線、有線(ケーブルテレビ、IP網等)等の通信設備を利用して屋外に設置したスピーカーにより情報伝達を行う屋外放送を1,095市町村が実施しており、主要な手段となっている。また、全世帯や屋外放送の難聴地域の世帯等に設置した戸別受信機による情報伝達を920市町村が実施している。このほか、登録者に対するメール配信等による伝達を実施している市町村も見受けられた。
 消防庁の試算によると、同報無線の市町村への整備には、人口の規模や面積にもよるが、一般的に2億円から3億円程度の費用を要するとされている。国は、これに対する財政支援策として、同報無線の整備に係る事業費の90%を起債対象とし、その元利償還金の50%を交付税算入する地方財政措置を取っているが、多額の費用が必要なことを理由に整備していない市町村も見受けられた。

エ.   J—ALERTの訓練の実施状況

 内閣府、消防庁及び気象庁は、緊急地震速報の訓練情報をJ—ALERTにより送信する訓練を実施しており、J—ALERTの全国一斉整備がおおむね完了した23年度は、23年6月28日と12月1日の2回実施している。
 このうち、同年12月1日に実施された訓練に参加した944市町村の訓練内容をみると、自動起動により同報無線等による放送を実施した市町村が75市町村、自動起動により庁舎内放送を実施した市町村が60市町村、J—ALERT受信機の動作確認を実施した市町村が912市町村となっており、参加した市町村数は多かったものの、自動起動により同報無線等による放送を実施した市町村数は少なかった。
 J—ALERTは、緊急情報を国から住民まで人手を介さずに瞬時に伝達することを目的に整備したものであり、その目的を達成する見地からは、国から発信される緊急情報を市町村が受信した場合には、住民に情報が確実に伝達されるような体制になっていることが求められる。このことから、国において訓練機会の拡大を図ること、より多くの市町村において緊急情報を受信することから同報無線等を自動起動して放送することまでの一連の訓練を実施することが望まれる。

オ.   J—ALERTの周知・広報の実施状況

 J—ALERTを整備した1,719市町村において、その導入に当たり、市町村が実施した周知・広報の状況についてみたところ、24年4月1日現在、広報誌やホームページへの掲載等により、J—ALERTの運用状況の住民への周知・広報を実施していない市町村が740市町村に上っていた。しかし、J—ALERTによる緊急情報がどのように伝達されるようになっているかなどについては、住民にとって重要な情報であり、J—ALERTの運用状況についての周知・広報を実施していない市町村においては、その実施に努めることが望まれる。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

 関係機関による近年の地震、津波及び火山の観測機器の整備状況及び運用状況はどのようになっているか、災害時における観測機器等の支障対策はどのようになっているか、国民に対する地震、津波等に関する緊急情報の伝達は適切に実施されているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。

ア.   一部の地方公共団体において、近接する地点に気象庁又は防災科研の強震計が設置されているにもかかわらず、その利用について十分に検討することなく震度計を更新するなどしていたり、分岐装置の更新等について十分な検討を行っていなかったりしている事態が見受けられた。

イ.   国土交通省の地震計ネットワークは、事務所等における地震直後の初動体制の決定に資することを目的として、7年度以降整備されてきたが、強震計等の故障が一部に見受けられ、事務所等の中には気象庁が発表する震度観測点の増加に伴い、同庁から送信される震度情報により特段の問題もなく地震発生時の初動体制を決定している状況が見受けられた。

ウ.   東北地方太平洋沖地震後に発生した停電等により、気象庁への観測データの提供に支障が生じたため、一部の地点で震度情報が発表できない状況や、観測データが欠測している事態が見受けられるとともに、観測網に発動発電機等を整備するなどの停電等に対する支障対策について、データ提供機関によって区々となっている状況が見受けられた。

エ.   J—ALERTは、全国のほとんどの市町村に整備されたものの、約3割の市町村においては、多額の費用を要するため同報無線等の情報伝達用の機器を整備していないことなどから、J—ALERTにより受信した緊急情報を住民に伝達する手段がないなど、緊急情報を人手を介さずに瞬時に伝達するというJ—ALERTの整備目的が達成されていない事態が見受けられた。

オ.   地方公共団体における住民に対する地震、津波等に関する緊急情報の伝達体制についてみると、国から住民へ人手を介さずに瞬時に伝達することができるJ—ALERTが担う役割は重要なものであるが、緊急情報を受信することから同報無線等を自動起動して放送することまでを一連のものとして行う訓練の実施状況が低調となっていたり、居住地域におけるJ—ALERTの運用状況が住民に対し十分に周知・広報されていなかったりしていて、緊急時に伝達すべき情報が住民に適切に伝わらないことが懸念される状況が見受けられた。

(2) 所見

 地震、津波及び火山の観測体制は、地震本部の計画、火山噴火予知連絡会の報告等に基づき、その整備・強化が進められていて、観測機器で得られた観測データは、防災・減災や自然現象の発生の予測及び解明のために幅広く活用されるようになってきているが、地震、津波及び火山の観測、調査研究等並びにこれらに関連する業務は、今後も引き続き実施されるものである。ついては、以上の検査の状況を踏まえて、関係機関においては、次の点について留意することが望まれる。

ア.   地方公共団体の整備する観測機器等の更新等に当たっては、気象庁又は防災科研の同種の観測機器の設置状況やシステム等の更新状況を把握するとともに、十分な連携を図るなどして、観測機器等の更新等の必要性について十分に検討し、効率的な予算執行に努める。

イ.   国土交通省の地震計ネットワークにおける今後の強震計の更新等については、気象庁が発表する震度観測点と河川・道路施設等の設置場所が離れていて震度観測の精度を向上させる必要がある場合等に限定した上で、これに該当しない強震計については廃止するとした24年8月策定の今後の運用方針に沿って強震計の絞り込みに向けた具体的な計画を策定し、地震計ネットワークの着実な見直しに努める。

ウ.   国において、気象庁が発表する予報、警報等が国等の初動体制の確立や的確な被害状況の把握に大きな影響を与える状況を踏まえて、防災対策の見地から、災害発生時等においても気象庁の予報、警報等に活用されるデータ提供機関の観測データが確実に同庁に提供されるよう、支障対策の検討に努める。

エ.   市町村において、同報無線等の情報伝達用の機器の整備や多様な情報伝達手段の活用を図ることなどにより、J—ALERTによる緊急情報が住民に対して適切に伝達される体制の確立に努める。また、国において、今後、市町村における緊急情報の伝達体制確立に対する支援に努める。

オ.   国及び地方公共団体において、地震、津波等に関する緊急情報が住民に対して確実に伝達されて、防災・減災に資するように、J—ALERTの訓練機会の確保に努めるとともに、市町村ごとのJ—ALERTの運用状況が住民に伝わるよう、周知・広報に努める。

 本院としては、今後も、国、独立行政法人、国立大学法人等における地震、津波及び火山の観測等の実施状況、これらの成果の防災・減災の対策への活用状況等について引き続き注視していくこととする。