検査対象 | 環境省、経済産業省、総務省、一般社団法人環境パートナーシップ会議 |
検査の対象とした補助事業の概要 |
3省が、基金設置法人に対し補助金を交付して、グリーン家電普及促進基金を造成させ、グリーン家電の購入に対しエコポイントを付与するなどの事業を行うことにより、グリーン家電の普及促進を通じた地球温暖化対策の推進、経済の活性化及び地上デジタル放送対応テレビの普及を図るもの |
検査の対象とした基金の造成額 | 6929億6837万円(平成21、22両年度) |
政府は、「経済危機対策」(平成21年4月10日。「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定)のうちエコポイントの活用等による省エネ機器の普及促進等を実施するために必要な経費として、環境省、経済産業省及び総務省(以下、これらを総称して「3省」という。)で計2946億円を平成21年度補正予算(第1号)として、その後、同年12月に取りまとめた「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(平成21年12月8日閣議決定)で、エコポイントに関する予算として、3省で計2321億円を平成21年度補正予算(第2号)として計上した。
また、「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」(平成22年9月10日閣議決定)において、円高等の景気下振れリスクへの対応、デフレ脱却の基盤づくりのための緊急的対応のために、エコポイントに関する予算として3省で計884億円を経済危機対応・地域活性化予備費から使用することとし、その後、同年10月に、円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策を実施するために必要な経費を追加するなどとした平成22年度補正予算で、エコポイントに関する予算として3省で計777億円を計上した。
上記のように、エコポイントに関する予算は、補正予算に計上又は予備費から使用されており、その額は、環境省計2426億円、経済産業省計2426億円及び総務省計2076億円、計6929億円に上っている。
エコポイントに関しては、環境省は「グリーン家電普及促進対策費補助金交付要綱」、経済産業省は「グリーン家電普及促進対策費補助金交付要綱」、総務省は「省エネルギー型地上デジタル放送対応テレビジョン普及加速対策費補助金交付要綱」をそれぞれ定めて、これらにより実施することとしていた。3省は、これらの交付要綱に基づき、連携して、公募で基金設置法人に決定した一般社団法人環境パートナーシップ会議(以下、単に「基金設置法人」という。)に対して、前記の補正予算及び予備費により補助金を交付し、交付を受けた基金設置法人はグリーン家電普及促進基金を造成した。
3省は、省エネ性能の高い家電製品(以下「グリーン家電」という。)の購入に対してエコポイントを付与するなどの事業(以下「エコポイント事業」という。)を行うことにより、グリーン家電の普及促進を通じた地球温暖化対策の推進、経済の活性化及び地上デジタル放送対応テレビ(以下「地デジ対応テレビ」という。)の普及を図ることとした。そして、基金設置法人は、付与したエコポイント数に応じるなどして、その基金を取り崩すこととした。
エコポイント事業においては、エアコン、冷蔵庫及び地デジ対応テレビ(以下、これらを合わせたものを「家電3品目」という。)のうち、家電製品の省エネルギー性能に関する表示である統一省エネラベルの4つ星相当以上であって21年5月15日から22年12月31日までの間に購入した製品及び統一省エネラベルの5つ星相当であって23年1月1日から23年3月31日までの間に購入した製品が、エコポイントの付与の対象となるグリーン家電(以下「エコポイント対象製品」という。)とされていた。
購入に伴い付与されるエコポイントは、様々な商品と原則として1ポイント1円換算で交換できることとされていた。
そして、エコポイント事業において付与されたエコポイントの概要は、表1
のとおりであった。
|
エアコン | 冷蔵庫 | 地デジ対応テレビ | ||||||
冷房能力 | エコポイント | 定格内容積 | エコポイント | サイズ | エコポイント | ||||
平成21年5月15日から22年11月30日までに購入分のエコポイント | |||||||||
区分 | 3.6kW以上 | 9,000点 | 501L以上 | 10,000点 | 46V以上 | 36,000点 | |||
2.8kW、2.5kW | 7,000点 | 401〜500L | 9,000点 | 42V、40V | 23,000点 | ||||
2.2kW以下 | 6,000点 | 251〜400L | 6,000点 | 37V | 17,000点 | ||||
250L以下 | 3,000点 | 32V、26V | 12,000点 | ||||||
26V未満 | 7,000点 | ||||||||
22年12月1日から23年3月31日までに購入分のエコポイント | |||||||||
区分 | 3.6kW以上 | 5,000点 | 501L以上 | 5,000点 | 46V以上 | 17,000点 | |||
2.8kW、2.5kW | 4,000点 | 401〜500L | 5,000点 | 42V、40V | 11,000点 | ||||
2.2kW以下 | 3,000点 | 251〜400L | 3,000点 | 37V | 8,000点 | ||||
250L以下 | 2,000点 | 32V、26V | 6,000点 | ||||||
26V未満 | 4,000点 | ||||||||
リサイクル分のエコポイント(21年5月15日から22年12月31日までに対象製品を購入しリサイクル券を添付して申請した場合) | |||||||||
更に3,000点 | 更に5,000点 | 更に3,000点 |
エコポイント事業は、23年3月31日までに購入した製品を対象に、23年5月31日まで申請を受け付け、24年3月31日までエコポイントの交換を行っていた。
エコポイント事業は、前記のとおり、グリーン家電の普及促進を通じた地球温暖化対策の推進、経済の活性化及び地デジ対応テレビの普及を図ることを目的として、短期間に多額の予算を投入して実施された。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、エコポイント事業の仕組みは目的を達成する上で適切であったか、ポイント数の付与の設定は適切であったか、エコポイント事業の効果は達成されたかなどに着眼して検査した。
本院は、21、22両年度に実施されたエコポイント事業を対象に、環境本省、経済産業本省、総務本省及び基金設置法人において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、環境本省、経済産業本省、総務本省及び基金設置法人から、エコポイントの申請及び事業の効果に関する資料の提出を受け、さらに、会計検査院法第28条に基づいて家電3品目の製造メーカー等に対して、エコポイント対象製品の型式ごとの消費電力量(注1)
等に係る資料の提出を求め、エコポイントの全申請件数を対象に、申請された個々のエコポイント対象製品の型式、リサイクル券の添付の有無、事業の効果の算出方法等を分析するなどの方法により検査を行った。
本院において、エコポイントの24年2月6日時点の申請状況等を集計したところ、エアコン737万台、冷蔵庫525万台、地デジ対応テレビ3320万台、計4584万台であり、この約72%を地デジ対応テレビが占めていた。
|
平成21年5月15日〜22年12月31日購入分 | 23年1月1日〜23年3月31日購入分 (リサイクル券の添付あり) |
計 | |||||
リサイクル券の添付あり | リサイクル券の添付なし | 小計 | ||||||
エアコン (割合)
|
3,286,488 (12.2%)
|
4,022,139 (25.5%)
|
7,308,627 (17.1%)
|
70,953 (2.2%)
|
7,379,580 ((16.1%)
|
|||
冷蔵庫 (割合)
|
3,623,858 (13.5%)
|
1,462,991 (9.3%)
|
5,086,849 (11.9%)
|
171,328 (5.3%)
|
5,258,177 (11.5%)
|
|||
地デジ対応テレビ (割合)
|
19,918,986 (74.2%)
|
10,304,670 (65.3%)
|
30,223,656 (70.9%)
|
2,978,721 (92.5%)
|
33,202,377 (72.4%)
|
|||
計 (割合)
|
26,829,332 (100%)
|
15,789,800 (100%)
|
42,619,132 (100%)
|
3,221,002 (100%)
|
45,840,134 (100%)
|
そして、付与されたポイント数は、エアコン622億点、冷蔵庫560億点、地デジ対応テレビ5316億点、計6499億点であり、1ポイント1円換算であることから、エコポイントに係る経費に合計で6499億円が費やされることになる。そして、21年5月から23年3月までのエコポイント事業の期間に付与されたポイント数のうち約81%を地デジ対応テレビが占めていて、23年1月以降についてみると付与されたポイント数のうち約95%を地デジ対応テレビが占めていた。これは、同年7月の地上デジタル放送への完全移行に備える駆け込み需要がエコポイント事業の終了に合わせて前倒しされたことによるものと思料される。
本院において、エコポイント事業でエコポイントが付与された家電3品目の製造メーカー等について調査したところ、エアコンは11社の2,173種類、冷蔵庫は19社の840種類、地デジ対応テレビは57社の1,364種類であった。
これらの家電3品目について、表1
の区分ごとに、消費電力量が最も低い型式と最も高い型式の消費電力量を示し、さらに、各型式ごとの申請件数による消費電力量の加重平均を求めたところ、エアコンについては冷房能力が、地デジ対応テレビについてはサイズがそれぞれ大きくなるにつれて、消費電力量が大きくなっていた。一方、冷蔵庫については、定格内容積が大きくなっても必ずしも消費電力量が大きくなっておらず、消費電力量の加重平均は、定格内容積が251Lから400Lまでの場合が437kWhであるのに対して、定格内容積が501L以上の場合はその0.7倍の339kWhであった。
3省は、エコポイント事業開始当初の21年6月に、経済産業省総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会において、エコポイント事業の効果として、〔1〕二酸化炭素排出量の削減量は年間約400万t、〔2〕経済効果は約4兆円の生産誘発効果、約12万人の雇用創出、〔3〕地上デジタル放送化対策としての地デジ対応テレビの普及促進等を掲げていた。特に、総務省は、23年7月に地上デジタル放送への完全移行を決定していたことから、エコポイント事業を実施する以前から「デジタル放送推進のための行動計画(第7次)」(平成18年12月1日「地上デジタル推進全国会議」)において、地上デジタルテレビ放送受信機器(注2)
の普及の目標を、23年4月で5000万世帯、23年7月で1億台と設定していた。
そして、3省は、22年4月に、21年度中のエコポイント事業による二酸化炭素排出削減効果は年間約69万tとしていた。
3省は、エコポイント事業の申請受付終了後の23年6月に、「家電エコポイント制度の政策効果等について」(以下「政策効果」という。)を公表し、〔1〕地球温暖化対策の推進として、統一省エネラベル4つ星相当以上の省エネ家電製品の全出荷台数に占める割合の増加、エコポイント事業による省エネ家電製品の普及に伴う二酸化炭素削減効果を年間273万t、〔2〕経済活性化として、家電3品目について約2.6兆円の販売押し上げ、約5兆円の経済効果の呼び水、延べ年約32万人の雇用の維持・創出、〔3〕地デジ対応テレビの普及として、地デジ対応テレビの国内出荷台数の累計が制度開始当初に比べて約2.2倍(21年5月の3237万台から23年3月の7228万台)になり、地上デジタルテレビ放送受信機器の全体の出荷台数も制度開始当初に比べて約2.1倍(21年5月の5222万台から23年3月の1億1131万台)になったとしている。
ア 地球温暖化対策の推進
(ア) 二酸化炭素削減効果
3省は、23年6月に公表した政策効果において、地球温暖化対策の推進として、統一省エネラベル4つ星相当以上の省エネ家電製品の全出荷台数に占める割合が増加し、エコポイント事業による省エネ家電製品の普及に伴う二酸化炭素削減効果を年間273万tと算出した。
しかし、この273万tについて算出方法は公表されていなかった。本院に対する環境省の説明によると、同省は、算出するに当たり、エコポイント対象製品の台数を製品の出荷台数とするなどした上で、二酸化炭素排出量の削減効果の算出方法については、以下のとおりとしたと説明している。
〔1〕 買換え分については、出荷台数にリサイクル券が添付されていた割合を乗じて買換えによる数量を算出し、エコポイント事業により、継続して使用されるはずの従来型機器が全てエコポイント対象製品に買い換えられたと仮定した上で、従来型機器の平均的な使用年数から消費電力量を算出することとして、エコポイント対象製品と従来型機器との消費電力量の差分を削減効果として算出した。
〔2〕 新規購入分については、出荷台数から上記〔1〕の買換えによる数量を減じて新規購入による数量を算出し、エコポイント事業により、標準的な機器が購入されるはずだった代わりにエコポイント対象製品が購入されたと仮定した上で、エコポイント対象製品と当該標準機器との消費電力量の差分を削減効果として算出した。
そして、環境省は、これらにより算出した結果を足し合わせて削減効果としていた。
上記のように、環境省は、エコポイント事業を実施した21年5月から23年3月までの間に、エコポイント対象製品が普及したことにより、1年当たりで273万tの二酸化炭素削減効果があったとしており、この考え方等を図に表すと、図1
及び図2
のとおりとなる。
環境省は、この二酸化炭素削減効果の考え方については、二酸化炭素排出量の削減効果を測る際に世界標準として用いられているGHGプロトコル(注3) の中で用いられている削減効果の考え方と整合しているとしている。
そして、環境省は、本院に対して、ベースラインの排出量は、新規購入の場合は、当該事業が行われなければ使用されたと考えられる標準的な機器を設定し、買換えの場合は、当該事業が行われなければ従来型機器が引き続き使用されていたと考えられる場合には当該従来型機器を設定し、そうでないと考えられる場合には標準的な機器を設定して算出することになると説明している。
これを踏まえ、環境省は、買換えの場合において、従来型機器として、エアコン及び冷蔵庫は14年前の製品、地デジ対応テレビは11年前の製品をそれぞれ設定して、エコポイント事業が行われなければこれらの機器が引き続き使用されていたとしてベースラインの排出量を算出していた。
しかし、GHGプロトコルの考え方によれば、買換えの場合にベースラインとする排出量を算出する際に、現在使用している製品がそのまま使用されたと考えることが常に認められているわけではなくその場合には、プロジェクトがなければ現在使用している製品が引き続き使い続けられたであろうことを説明できなければならないことになっている。すなわち、同省は、従来型機器として設定した買換え前の家電3品目が、エコポイント事業が行われなければ引き続き使用されたことを説明しなければならないこととなる。そして、同省は、平均的な使用年数分を遡った年度に製造された家電3品目を前記の従来型機器として設定していた。しかし、このような機器は、二酸化炭素削減効果の算出段階において既に平均的な使用年数が経過していて、エコポイント事業が行われなくとも買換えが想定されるものであり、当該事業が行われなければ引き続き使い続けられたとの説明はできないと思料される。
そこで、本院は、エコポイント事業に係る二酸化炭素削減効果を求めるに当たっては、買換え分と新規購入分とを同じ考え方に基づいて算出することが妥当と考えられるため、それぞれに係る数値が明らかでないことなどを踏まえて、次の仮定条件の下で二酸化炭素削減効果を試算することとした。
〔1〕 試算の対象とするエコポイント対象製品の台数は、対象製品出荷台数の実績から計算された台数ではなく、エコポイント事業で実際に申請された台数とする。
〔2〕 ベースラインの排出量は、エコポイント事業により平均的な使用年数より少ない年数で早めに性能の良い家電に買い換える場合の可能性を考慮して設定する必要がある。しかし、エコポイント事業がどの程度買換えの促進になったのかが不明であり、そのためのデータも存在しないことなどを踏まえて、環境省が新規購入分のベースラインとして用いていた、エコポイント事業が行われていた時期に販売されていた家電3品目の1つ星から5つ星までのものの平均的消費電力量から算出した二酸化炭素排出量をベースラインとする。
なお、国内クレジット制度を運営するために設置された委員会によると、21年度におけるテレビの更新分のサイズ区分ごとの出荷台数による消費電力量の加重平均値は、128.3kWh/年であるとされているが、今回の試算においては、環境省が23年6月に政策効果を算出した際に用いた係数(127kWh/年)を使用する。
〔3〕 購入の態様については、リサイクル券が添付されていた申請を「買換え」とし、それ以外を「新規購入」とする。
この考え方を図にすると、図3 のとおりとなる。
図3 「ベースライン&クレジット」方式による本院の二酸化炭素削減効果の考え方
この考え方に基づいて、本院が二酸化炭素削減効果を試算すると、図4
のとおり、買換え分は13万t、新規購入分は7万tとなるため、これらを合わせた計21万tがエコポイント事業による二酸化炭素削減効果であった。
このように、環境省は、エコポイント事業を実施したことにより273万tの二酸化炭素削減効果があったとしていたが、本院の試算によると、その削減効果は、環境省が算出していた二酸化炭素削減効果の8%程度の21万tにとどまっていたと思料される。
図4 「ベースライン&クレジット」方式による本院の二酸化炭素削減効果の試算イメージ
(イ) エコポイント事業の実施に伴う二酸化炭素排出量の増減
3省は、前記のとおり、エコポイント事業の効果として二酸化炭素削減効果を公表していた。しかし、エコポイント事業を実施したことに伴う二酸化炭素排出量の増減の実績については算出していない。
そこで、本院において、エコポイント事業の実施に関し、その前後における二酸化炭素排出量を比較して増減の実績を試算することにした。試算に当たっては、増減理由が全てエコポイント事業の実施に伴うものと特定できないものの、可能な限り客観的な数値を取り入れることとした。すなわち、エコポイント対象製品の買換え及び新規購入は、エコポイント事業が実施されなくても行われたと考えられること、エコポイント事業が実施されなければ実際より消費電力量が低い小型のエコポイント対象製品を購入したとも考えられることなど不確実な事項が想定されるが、それらの数値等が明らかでないことなどを踏まえて、次の仮定条件の下で試算することにした。
〔1〕 二酸化炭素排出量の算定式は、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)に基づく温室効果ガスの排出量の算出方法のうち、一般電気事業者等から供給された電気の使用の場合の算定式のCO2 排出量(t—CO2 )=電気使用量(kWh)×単位使用量当たりの排出量(排出係数(t—CO2 /kWh))を使用する。
〔2〕 試算の対象とするエコポイント対象製品の台数はエコポイント事業で実際に申請された台数とする。
〔3〕 消費電力量は、個々の使用形態によって異なるものの、エコポイント対象製品の型式ごとに日本工業規格(JIS)の基準で定められた各製造メーカーが公表している値を用いる。
〔4〕 買換えの場合にリサイクルした製品の消費電力量は、実際の消費電力量が不明であることから、内閣府が実施した消費動向調査の家電3品目の平均使用年数によりリサイクルした製品の製造年を推定し、その製造年の当該製品の消費電力量の平均とする。
〔5〕 購入の態様は、リサイクル券が添付されていた申請を「買換え」とし、それ以外を「新規購入」とする。
〔6〕 排出量の増減を試算するに当たっては、買換えにより従前の二酸化炭素排出量を減ずることができた場合は二酸化炭素排出量が減少したとし、新規購入した場合は家電3品目の保有台数が増加することから二酸化炭素排出量が純増したとする。
この算出方法により求められた二酸化炭素排出量の増減の値は、後年における使用家電の更新等により、変動することになるが、ここで算出した値は、最大値を示している。
家電3品目 | 申請台数 | 買換え台数 | 買換え前 消費電力量 |
対象製品 消費電力量 |
増減 |
新規購入台数 | — | ||||
エアコン | (台) | (台) | (kWh/年) | (kWh/年) | (t-CO2 /年) |
7,379,580 | 3,357,441 | 1,180 | 612〜3,162 | △ 226,484 | |
4,022,139 | — | 2,434,909 | |||
冷蔵庫 | 5,258,177 | 3,795,186 | 582〜1,012 | 160〜510 | △ 998,246 |
1,462,991 | — | 289,872 | |||
地デジ対応テレビ | 33,202,377 | 22,897,707 | 128 | 33〜498 | △ 338,486 |
10,304,670 | — | 572,779 | |||
計 | 45,840,134 | / | 1,734,344 ≒173万t増加 |
図5 本院の二酸化炭素排出量の増減のイメージ
上記のとおり、買換え分については、買換え前の製品よりも消費電力量が下がることから、冷蔵庫で99万t二酸化炭素排出量が減少することとなるなど、一定の二酸化炭素排出量の減少が認められたものの、新規購入については、二酸化炭素排出量が純増になり、例えば、エアコンでは243万tの二酸化炭素排出量が増加していたことになる。その結果、申請されたエコポイント対象製品の合計では最大で173万tの二酸化炭素排出量が増加していたことになる。
イ 経済活性化
3省は、政策効果において、経済効果として約2.6兆円の販売押し上げがあり、約5兆円の経済波及効果の呼び水となったとするとともに、この経済効果により延べ年約32万人の雇用を維持・創出したとしている。
一方、エコポイント事業の効果を把握するために、経済産業省から家電3品目の業界団体の自主統計の提出を受け、18年4月から24年4月までの家電3品目の国内出荷台数について集計してその推移をみたところ、エアコン及び冷蔵庫については、エコポイント事業の実施期間中とその前後を比べても大きな差が表れていなかった。一方、地デジ対応テレビについては、リサイクル券添付の有無がエコポイント付与の条件とされていなかった時期の後半の22年10月から12月期がピークになり、その後、大きく落ち込んでいた。
また、22年の夏の日本の平均気温は、気象庁によると過去113年間で最も高くなるなど、全国的に記録的な高温になったとされている。経済活性化に対する効果のうちエアコンの需要は、この猛暑の影響も考慮に入れた上で検討をしなければならないと思料されるが、この猛暑の影響による需要の増加を考慮したとしても、エコポイント事業は経済を落ち込ませないことに一定程度寄与していたと思料される。
ウ 地デジ対応テレビの普及
3省は、政策効果において、地上デジタル放送化対策として実施した地デジ対応テレビの普及事業の効果として、地デジ対応テレビの国内出荷台数の累計が事業開始当初に比べて約2.2倍に増加し、地上デジタルテレビ放送受信機器全体の出荷台数も事業開始当初に比べ約2.1倍に増加し、23年3月の普及目標9200万台に対して実績は1億1131万台とこれを上回ったとしている。
しかし、21年4月の「経済危機対策」の決定前に、総務省情報通信審議会に社団法人電子情報技術産業協会から、地上デジタル放送化の移行に伴うテレビ等の需要動向が提示されており、それによれば23年末には地上デジタルテレビ放送受信機器全体で9853万台になるとされているなど、既に地上デジタルテレビ放送受信機器全体の需要の伸びが見込まれていた。そして、同審議会に提示された需要動向と実績を対比すると、需要動向が暦年で示されているため、政策効果とは単純に比較できないものの、エコポイント事業が行われた21年から23年まででは、地デジ対応テレビの出荷台数の累計は、上記の需要動向において約1.5倍になるとされていたが、実績は約2.0倍になっていた。
このように、地上デジタルテレビ放送受信機器全体の需要は、地上デジタル放送化への対応による要因も大きいと考えられるが、エコポイント事業の実施は、地デジ対応テレビの普及促進を前倒しさせていたと思料される。
政府は、地球温暖化対策として、1990年(平成2年)の温室効果ガスの排出量12億6100万tを2020年(平成32年)までに25%削減するとし、環境省は、二酸化炭素排出量の削減が必要不可欠であるとしている。
そして、政府は、「経済危機対策」において、太陽光、低燃費車、省エネ機器等世界トップ水準にある環境・エネルギー技術の開発・導入促進等により、世界に先駆けて「低炭素・循環型社会」を構築するとしている。
この一環として実施されたエコポイント事業について検査したところ、地球温暖化対策の推進については、エコポイント対象製品が統一省エネラベルの4つ星相当以上のものとされていたことから、グリーン家電の普及には寄与していたと認められる。
しかし、二酸化炭素削減効果については、前記のとおり、3省は、詳細な算出過程を明らかにしないまま273万tとしていたが、本院の試算によると、その削減効果は21万tという結果になった。
そして、環境省は、特に近年の二酸化炭素排出量の増加が著しい家庭部門の排出削減が必要不可欠であるとしているが、エコポイント事業の実施に関し、その前後における二酸化炭素排出量の増減実績を比較した本院の試算によると、新規購入や機器の大型化により二酸化炭素の1年当たりの総排出量が最大で173万t増加していた結果となった。
なお、エコポイント事業の効果のうち、経済の活性化及び地デジ対応テレビの普及については、地デジ対応テレビの販売推進等に一定の効果があったと思料される。
したがって、国の施策の財源には、国民の税金が充てられていることから、事業の効果を明らかにする場合には、その算出過程について十分に検討を行った上で、第三者が算出内容を評価できるようにその全てを明らかにする必要があると認められる。そして、今後、エコポイント事業のように経済活性化と地球温暖化対策を目的とする事業を実施する場合には、経済活性化の推進により商品の新規購入や機器の大型化等により消費電力量が増加して二酸化炭素排出量が増加することもあることを十分に踏まえて実施を検討する必要があると認められる。すなわち、ポイント付与の対象を買換えに限定したり、省エネ性能に応じたポイントを付与したり、二酸化炭素排出量が減少する場合に限りエコポイントを付与する仕組みを構築したりすることなどにより、二酸化炭素排出量の削減に効果のある方策を検討するとともに、二酸化炭素排出量が減少したことが検証できる仕組みを構築するなど適切な制度設計を行う必要があると認められる。
本院としては、地球温暖化対策の推進については社会全体で取り組み着実な効果を上げる必要があることに鑑み、二酸化炭素排出量の削減に関する事業の実施について、今後とも多角的な観点から引き続き検査していくこととする。