検査対象 | 25府省等 | ||
検査の対象とした3の府省共通業務・システム | (1)人事・給与等業務・システム | ||
(2)調達業務の業務・システム | |||
(3)旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システム | |||
3の府省共通業務・システムの概要 | (1)人事異動、俸給決定、各種手当等の申請・認定、給与の支給、勤務時間・休暇、共済組合の組合員資格及び被扶養者の申告・認定等に係る業務・システム | ||
(2)物品、役務等の調達要求、予定価格の設定、入札・開札・発注、契約等に係る業務・システム | |||
(3)旅行命令や旅費請求等の旅費業務、謝金・諸手当の交付要求等業務、物品の取得、保管・供用等の物品管理業務の各業務に係る業務・システム | |||
3の府省共通業務・システムの設計・開発等に係る支出金額 | (1) | 89億2734万円 | (平成15年度〜23年度) |
(2) | 5億3994万円 | (平成17年度〜23年度) | |
(3) | 14億4776万円 | (平成16年度〜23年度) | |
計 | 109億1505万円 |
政府は、簡素で効率的な政府の実現を図るため、各府省等に共通する業務・システム(以下「府省共通業務・システム」という。)について、業務や制度の見直し、システムの共通化・一元化等を実施し、併せてこれらに必要となる経費や業務処理時間の削減効果の試算を数値で明示した最適化計画を策定することとした。
府省共通業務・システムの最適化計画は、各業務・システムの担当府省が計画を立案して、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議(以下「CIO連絡会議」という。)で決定されるが、CIO連絡会議では、業務・システムの最適化を政府全体として整合性を確保しつつ進めていくために、平成18年3月に業務・システムの最適化に係る作業の統一的実施手順を定めた「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」(以下「最適化ガイドライン」という。)を策定している。
そして、政府は、府省共通業務・システムの最適化に係る施策の推進に係る事務を処理するために、18年4月に内閣官房情報通信技術(IT)担当室に電子政府推進管理室を設置し、府省共通業務・システムの円滑かつ効果的な実施等を図るための総合調整を行わせている。
府省共通業務・システムに関しては、23年度末現在で、人事・給与等業務や調達業務等の19分野を対象とする16の最適化計画が策定されており、7府省等が担当府省としてそれぞれの最適化計画に基づき、各業務・システムの最適化を実施している。
府省共通業務・システムは、最適化計画に基づき、担当府省がシステムの企画、設計・開発等を主体的に行っており、このうち人事・給与等業務・システム(以下「人給システム」という。)は人事院及び総務省が、調達業務の業務・システム(以下「調達システム」という。)は総務省が、旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システム(以下「旅費等システム」という。)は経済産業省が、それぞれ担当府省となっている。また、内閣官房は、人事院とともに人給システムに係る「人事・給与関係業務情報システム関係府省連絡協議会」(18年9月設置。以下「人給連絡協議会」という。)の事務局に加わり、最適化計画に沿ってシステムの設計・開発が進捗するよう、担当府省に対する助言等を行っている。
人給システム、調達システム及び旅費等システム(以下、これらを合わせて「3の府省共通業務・システム」という。)の最適化計画においては、担当府省が設計・開発した標準的なシステムを各府省等が導入することなどにより、各府省等が、従来独自に実施している業務を政府全体として最適化するとしているが、その最適化計画の策定及び改定の状況は、以下のとおりである。
すなわち、表1
のとおり、人給システムは、16年2月に当初の最適化計画が決定された後、24年1月までに、計4回にわたって最適化計画が改定されており、これに伴ってシステムに参画する各府省等(以下「参加府省等」という。)の運用開始が当初計画における予定から大幅に遅延している。
最適化計画の名称 | 担 当 府 省 名 |
計画決定(改定) | 運用開始年度 注(2) |
開発投資額 (千円) |
削減(△増加)経費
(千円/年)
|
上段:削減業務処理時間数 (万時間/年) 下段:金額換算値 (千円/年) 注(3) |
改定の概要 | |||||||||||
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | ||||||||
人事・給与等業務・システム最適化計画 | 人 事 院 ・ 総 務 省 |
平成16年 2月27日 |
当初 計画 |
○ | ● | 不明 | 2,000,000 | 1,300 | \ | |||||||||
40,625,000 | ||||||||||||||||||
19年 8月24日 |
第1回 改定 |
○ | ● | 8,348,912 | 720,000 | 1,050 | 更なる効率化の観点から、システムの運用方法を原則として各府省等別の「分散方式」から「集中管理方式」に変更するなどしたことによる大幅な改定 | |||||||||||
32,812,500 | ||||||||||||||||||
20年 2月13日 |
第2回 改定 |
○ | ● | 8,348,912 | 720,000 | 1,050 | 共同利用システム基盤への参画による経費節減額の追記 | |||||||||||
32,812,500 | ||||||||||||||||||
21年 8月28日 |
第3回 改定 |
○ | ● | 8,692,455 | 1,262,864 | 1,050 | 改修計画の見直しに伴う最適化工程表等の見直し、防衛省分の経費削減効果の具体化、共同利用システム基盤の利用に伴う見直し、共済組合事務システム等の他の府省共通システムとの調整に伴う見直し、給与支払業務の支出官払化の実現 | |||||||||||
32,812,500 | ||||||||||||||||||
24年 1月17日 |
第4回 改定 |
○ | ● | 8,692,455 | 1,262,864 | 1,050 | 新たな府省導入スケジュールを踏まえ、最適化工程表と業務削減の効果発現時期を修正 | |||||||||||
32,812,500 | ||||||||||||||||||
調達業務の業務・システム最適化計画 | 総 務 省 |
(16年 9月15日) |
当初 計画 |
○ | ● | 1,642,000 | 32,484,000 | 442 | \ | |||||||||
13,814,450 | ||||||||||||||||||
(18年 8月31日) |
一部 改定 |
○ | ● | 1,642,000 | 34,546,000 | 442 | 各府省個別に導入していた電子入札システムの府省共通化の政府決定に基づく府省共同の電子入札システムの構築 | |||||||||||
13,814,450 | ||||||||||||||||||
21年 8月28日 |
全面 改定 |
○ | ● | 2,541,581 | 58,377 | 25 | 「IT を活用した内部管理業務の抜本的効率化に向けたアクションプラン」等に基づく電子調達システムの開発、全府省への導入 | |||||||||||
784,638 | ||||||||||||||||||
23年 7月15日 |
第1回 改定 |
○ | ● | 2,564,350 | 31,013 | 21 | 「新たな情報通信技術戦略」を踏まえ、共同利用システム基盤から政府共通プラットフォームに変更してシステム開発することに伴う改定 | |||||||||||
666,797 | ||||||||||||||||||
旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システム最適化計画 | 経 済 産 業 省 |
(16年 9月15日) |
当初 計画 |
○ | ● | 1,642,000 | 32,484,000 | 442 | \ | |||||||||
13,814,450 | ||||||||||||||||||
(18年 8月31日) |
当初 計画 |
○ | ● | 1,642,000 | 34,546,000 | 442 | 各府省個別に導入していた電子入札システムの府省共通化の政府決定に基づく府省共同の電子入札システムの構築 | |||||||||||
13,814,450 | ||||||||||||||||||
21年 7月1日 |
全面 改定 |
○ | ● | 1,908,274 | 129,414 | 904 | 旅費、謝金・諸手当及び物品管理の各業務・システムの開発、全府省への導入 | |||||||||||
28,267,298 | ||||||||||||||||||
24年 1月17日 |
第1回 改定 |
○ | ● | 3,199,517 | △ 439,877 | 1,056 | 旅費業務に関する標準マニュアルの改定の反映、最適化工程表、最適化効果の見直し、21 年度決算検査報告の意見表示を踏まえた現行運用経費の見直し | |||||||||||
33,009,5788 |
また、調達システム及び旅費等システムは、当初の16年9月の最適化計画では、経済産業省が担当府省となって、物品調達、物品管理、謝金・諸手当、補助金及び旅費(以下「官房5業務」という。)の全ての業務・システムを最適化する計画となっていた。そして、17年6月開催のCIO連絡会議において、当初の最適化計画のうち、「電子契約システム」は総務省が、「予算執行等管理システム」は経済産業省が、それぞれ担当府省とされ、18年8月の一部改定を経て、物品、役務等の調達要求、予定価格の設定、入札・開札・発注、契約等の調達業務は調達システムとして、また、旅行命令や旅費請求等の旅費業務、謝金・諸手当の交付要求等業務、物品の取得、保管・供用等の物品管理業務の各業務は旅費等システムとして、21年8月及び同年7月に最適化計画がそれぞれ全面改定された。その後、調達システムの最適化計画は23年7月に、旅費等システムの最適化計画は24年1月に、それぞれ改定されており、これに伴って参加府省等の運用開始は、当初計画における予定から大幅に遅延している。
府省共通業務・システムの最適化計画は、15年度から21年度までの間に決定され、既にその大半はシステム構築が完了しており、多くの府省等で運用されている。しかし、3の府省共通業務・システムは、上記のとおり、当初の最適化計画が順次改定されており、参加府省等の運用開始が遅延していて、最適化効果の発現が大幅に遅延している。
府省共通業務・システムの最適化は、従来各府省等が独自に実施している業務を政府全体として最適化するために、共通したシステムの構築を図るものであり、担当府省と参加府省等が政府全体として最適化を円滑に推進していくことが重要である。
3の府省共通業務・システムは、前記のとおり、最適化効果の発現が大幅に遅延しているが、多数の府省等に影響を及ぼす府省共通業務・システムの最適化を円滑に進めるためには、システムの企画から設計・開発及び運用に至る各段階の工程を適切に管理することや、担当府省と参加府省等が連携して協力することが特に重要である。
そこで、本院は、3の府省共通業務・システムについて、これまでの経緯及び現状を検査するとともに、効率性、有効性等の観点から、最適化の実施に当たり、担当府省と参加府省等との間や関連するシステムとの間でどのような調整が行われているか、また、最適化の進捗の遅延により参加府省等にどのような影響が生じているか、さらに、最適化を円滑に進捗させるための具体的課題は何かなどに着眼して検査を行った。
検査に当たっては、3の府省共通業務・システムの最適化に係る企画、設計・開発、改修等に係る経費(以下「開発経費」という。)及び機器の調達、保守・運用等に係る経費(以下「運用経費」という。)を対象として、15年度から23年度までの間の支出金額に関する調書を担当府省(人事院、総務省及び経済産業省)から徴するとともに、その履行状況等を把握するために、年間支出金額が300万円以上の契約について調書を徴した。また、3の府省共通業務・システムの参加府省等の独自システムの賃借や保守・運用等に係る経費(以下「現行経費」という。)を把握するために、20年度から23年度までの間の支出金額に関する調書を25府省等(注1)
の本省及び外局等から徴するとともに、移行計画書の策定支援やデータ整備等の移行作業に係る経費(以下「移行経費」という。)を把握するために、年間支出金額が300万円以上の契約について調書を徴するなどした。
そして、上記3担当府省を含む20府省等(注2)
に対して会計実地検査を行うとともに、設計・開発、機器の調達等に係る契約の相手方3会社(注3)
において会計実地検査を行い、契約の履行が適切なものとなっているかなどについて確認した。
(注1) | 25府省等 内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府本府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、裁判所、会計検査院
|
(注2) | 20府省等 内閣官房、人事院、内閣府本府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、総務本省、法務本省、財務本省、国税庁、文部科学本省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業本省、国土交通本省、海上保安庁、環境本省、衆議院、国立国会図書館、会計検査院
|
(注3) | 3会社 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、沖電気工業株式会社、富士通株式会社
|
ア 人給システムの経緯及び現状
(ア) 人給システムの開発等
人給システムは、16年2月の当初の最適化計画は、参加府省等ごとにサーバ等の機器を調達して保守・運用等を行う「分散方式」を前提としていたが、運用経費や業務処理時間の削減に関して一層効果を上げるために、19年7月開催の人給連絡協議会において、人事院が運用主体となって、機器の調達、保守・運用等を一元的に管理する「集中管理方式」へ変更された。その後、人事院は、20年度から23年度までの間に、システムの設計・開発等を行っており、既にシステムは構築されて、23年度以降、運用段階に入っている。
人事院及び総務省における15年度から23年度までの間の開発経費及び運用経費を調書に基づき集計すると、計89億2734万余円となるが、これ以外にも、24年度から28年度までの間に国庫債務負担行為により計上された運用経費等の予算額は、計31億2059万余円となっている。
(イ) 人給システムへの参画時期等
a 最適化計画に基づく参画時期
参加府省等は、システムに参画するために、独自システムを有する場合にはデータ抽出等により、また、独自システムがない場合にはデータ入力作業等により、システムに登録するデータを作成する必要がある。また、参加府省等は、システムに登録したデータの整合性の確認等を行い、通常、数箇月の並行稼働後に、システムを本番稼働して運用を開始し、独自システムを有する場合にはシステムの本番稼働後に独自システムを停止する。
人給システムについて、大半の参加府省等は、21年8月改定の最適化計画に基づく移行計画書において運用開始時期を定めており、運用を開始する本番稼働時期は、表2
のとおり、22年度9省庁等、23年度16府省等、24年度4省等、計29府省等(本番稼働時期が定められていない府省等については、並行稼働時期)となっていた。
しかし、22年度から開始された移行作業に問題が発生したことなどから、参加府省等の運用開始は大幅に遅延し、23年9月の人給連絡協議会申合せ(以下「23年申合せ」という。)により、24年1月に最適化計画が改定された。
24年1月改定の最適化計画に基づく30府省等の運用開始は、23年申合せ時点で既に人給システムを運用していた人事院、宮内庁、衆議院及び国立国会図書館を除く26府省等については、表2のとおり、23年度から27年度までの間に予定されるなどしている。
府省等名 | 平成21年8月改定の最適化計画に基づき各府省等が移行計画書等で定めていた本番稼働時期 | 24年1月改定の最適化計画に先立つ23年申合せ | 備考 (24年7月末現在に本番稼働している府省等の本番稼働時期) |
|||||||
本番稼働時期 | 移行作業 |
|||||||||
22年度 | 23年度 | 24年度以降 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 26年度 | 27年度 | |||
内閣官房 | 24年1月 | 27年1月 | 新移行方式 | |||||||
内閣法制局 | 24年1月 | 27年1月 | 新移行方式 | |||||||
人事院 | 22年10月 | (22年10月) | ||||||||
内閣府 | 24年1月 | 27年1月 | 新移行方式 | |||||||
宮内庁 | 23年2月 | (23年4月) | ||||||||
公正取引委員会 | 23年2月 | 24年9月 | 継続 | |||||||
警察庁 | 24年2月 | 24年2月 | 継続 | |||||||
金融庁 | 23年4月 | 27年5月 | 新移行方式 | |||||||
消費者庁 | (24年度) | 27年1月 | 新移行方式 | 注(2) | ||||||
総務省 | 23年7月 | 24年3月 | 継続 | (24年5月) | ||||||
法務省 | 23年4月 | 25年8月 | 新移行方式 | |||||||
外務省 | 23年度 | 28年3月 | 新移行方式 | |||||||
財務省 | 23年4月 | 27年5月 | 新移行方式 | |||||||
国税庁 | 24年2月 | 新移行方式 | 注(3) | |||||||
文部科学省 | 23年2月 | 25年2月 | 新移行方式 | |||||||
厚生労働省本省
| 23年4月 | 24年2月 | 継続 | |||||||
地方労働局以外の地方機関
| 24年10月 | 注(4) | ||||||||
地方労働局
| 25年1月 | 注(4) | ||||||||
農林水産省 | 23年1月 | 24年10月 | 継続 | |||||||
経済産業省 | 24年4月 | 27年3月 | 新移行方式 | |||||||
特許庁 | 23年度 | 25年5月 | 新移行方式 | |||||||
国土交通省 | 23年4月 | 27年1月 | 新移行方式 | |||||||
気象庁 | 24年1月 | 26年1月 | 新移行方式 | |||||||
海上保安庁 | 23年4月 | 25年5月 | 新移行方式 | |||||||
運輸安全委員会 | 24年1月 | 27年1月 | 新移行方式 | |||||||
環境省 | 23年1月 | 25年4月 | 継続 | 注(5) | ||||||
防衛省 | 24年度 | 26年8月 | 別途 | |||||||
衆議院 | 23年1月 | (23年4月) | ||||||||
参議院 | 24 年度 | 26年1月 | 新移行方式 | |||||||
国立国会図書館 | 23年1月 | (23年6月) | ||||||||
最高裁判所 | 24年度 | 27年1月 | 新移行方式 | |||||||
会計検査院 | 23年1月 | 24年7月 | 継続 |
注(1) | 平成21年8月改定の最適化計画に基づく本番稼働時期が移行計画書等に定められていない府省等は、並行稼働時期の年度を記載している。 |
注(2) | 消費者庁は平成21年9月に設置されたため、21年8月改定の最適化計画における本番稼働時期を( )書きとしている。 |
注(3) | 23年申合せにおける国税庁の本番稼働時期は、人事・給与システム事務局で実施する新環境での給与計算等の検証結果が分かり次第確定するとされている。 |
注(4) | 厚生労働省(地方労働局を含む地方機関)の本番稼働時期は、平成21年8月改定の最適化計画では厚生労働本省と区別されていない。 |
注(5) | 環境省の本番稼働時期は、23年申合せでは、原子力安全庁の組織等の詳細が確認できた段階で再度検討を行うとされている。 |
b 参加府省等のシステムの稼働状況
参加府省等は、22年度以降、人事、給与等のデータを人給システムの各サブシステムに登録するために、参加府省等の独自システムからのデータ抽出や必要なデータの整備を実施し、人給システムに登録したデータの整合性の確認等の移行作業を実施している。
移行作業に当たって、人事院は、人給システムの人事、給与等の各サブシステムにデータを登録するためのプログラム(以下「移行ツール」という。)を設計・開発したが、各サブシステムに登録したデータに不整合が発生するなどして、人事院、参加府省等ともにその確認等に膨大な時間を要するなどしたため、移行作業が大幅に遅延した。
人事院は、23年申合せに先立って、参加府省等に対し、移行ツールの改修を行い、新しい移行ツールを用いて移行作業を行う「新移行方式」を設計・開発して登録データの不整合を解消するとした。参加府省等は、人給システムに参画するために、既に保有している独自システムを極力、更新せずに運用しているが、人事院による「新移行方式」の提供が24年8月とされたため、参加府省等は、独自システムのハードウェアやソフトウェアの賃借期間やサポート期限の延長等を考慮して、移行作業をそのまま継続して実施するか、「新移行方式」により移行作業を実施するかを選択し、表2
のとおり、運用開始時期等を決定している。
今までの移行作業を継続している7省庁等(公正取引委員会、警察庁、総務省、厚生労働省、農林水産省、環境省及び会計検査院)の24年7月末現在の稼働状況をみると、23年申合せのスケジュールどおりに運用を開始した省庁等はなく、23年度に運用開始を予定していた3省庁のうち、総務省は24年5月から運用を開始していたが、残りの2省庁は並行稼働しながらデータの整合性の確認等を行っている。また、24年度又は25年度に運用開始を予定している4省等も、同様に、並行稼働しながらデータの整合性の確認等を行っている。
また、人給システムは、既に運用段階に達しているため、参加府省等は、開発経費だけでなく運用経費についても応分の負担を行っているが、各府省等の運用開始が大幅に遅延しているため、多くの府省等が人給システムを本番稼働していないのに多額の運用経費を負担することになっている(参加府省等が24年度から28年度までの間に負担する運用経費等は、計31億2059万余円)。
イ 調達システム及び旅費等システムの経緯及び現状
官房5業務の各業務・システムの最適化計画は、16年9月に策定された後、経済産業省の「予算執行等管理システム」と総務省の「電子契約システム」(18年度以降は電子入札システムの設計・開発も含む。)として設計・開発が始まったが、18年度の「予算執行等管理システム」の設計・開発において、システムのライフサイクルコスト(設計・開発、導入及び4年間の運用・保守に係る費用)が16年9月の当初の最適化計画時の試算を大幅に上回ったことなどから、システムの設計・開発が企画段階に戻って再検討され、「予算執行等管理システム」に密接に連携している「電子契約システム」についても大幅に設計・開発が遅延した。そして、内閣官房は、行政刷新担当大臣からの旅費業務効率化についての指示等を受けて、22年2月に旅費業務における支払状況等の実態調査を行うこととなり、総務、経済産業両省とも、21年度末の設計・開発業者選定の調達手続を一旦中止した。
その後、調達システム及び旅費等システムの設計・開発業務は再開されたが、24年7月末現在、システムは構築されておらず、今後も設計・開発が行われる。
(ア) 調達システムの経緯及び現状
総務省における17年度から23年度までの間の開発経費を調書に基づき集計すると、計5億3994万余円となるが、これ以外にも、24、25両年度に国庫債務負担行為により計上された開発経費等の予算額は、計10億4974万余円となっている。
調達システムの最適化計画は、各府省等が最短で調達システムの運用が可能となる時期を示しており、16年9月決定及び18年8月改定の官房5業務の各業務・システムの最適化計画では、参加府省等のシステムへの参画時期は20、21両年度、21年8月改定の最適化計画では22年度から24年度までの間となっていた。
23年7月改定の最適化計画に基づく設計・開発業務の調達仕様書によれば、各府省等のシステムへの参画時期は、15府省等(注4)
が26年3月、3省(総務省、国土交通省及び防衛省)が同年4月となっている。また、上記以外の府省等は、3省庁等(警察庁、財務省及び会計検査院)が参画時期を検討中としているほか、4院等(衆議院、参議院、国立国会図書館及び最高裁判所)が調達システムへの参画自体を検討中としている。
(イ) 旅費等システムの経緯及び現状
経済産業省における16年度から23年度までの間の開発経費(官房5業務の各業務・システムの最適化計画に係る開発経費を含む。)を調書に基づき集計すると、計14億4776万余円となるが、これ以外にも、24、25両年度に国庫債務負担行為により計上された開発経費等の予算額は、計13億2062万円となっている。
旅費等システムにおいても、調達システムと同様に、16年9月決定及び18年8月改定の官房5業務の各業務・システムの最適化計画では、参加府省等のシステムへの参画時期は20、21両年度、21年7月改定の最適化計画では23、24両年度となっていた。
旅費等システムは、旅費、謝金・諸手当に係るシステムと物品管理に係るシステムの2システムから構成されており、それぞれ各府省等の参画時期が定められている。このうち、24年1月改定の最適化計画に基づく旅費、謝金・諸手当に係るシステムの移行予定スケジュールによれば、計25府省等(本省と地方支分部局等で別々に参画を予定している府省等もあるため、以下に示す府省等数とは一致しない。)が参画を予定しており、各府省等のシステムへの参画時期は、一部府省等によるテスト・改修を25年1月以降に行った後、24府省等(注5)
が26年1月、10省庁等(注6)
が27年1月となっている。
(注5) | 24府省等 内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、金融庁、消費者庁、総務本省、法務本省、外務省、財務本省、文部科学本省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業省、国土交通本省、環境本省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院
|
(注6) | 10省庁等 警察庁並びに総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省及び裁判所の各地方支分部局等
|
また、物品管理に係るシステムの移行予定スケジュールによれば、旅費、謝金・諸手当に係るシステムと同様に、計25府省等が参画を予定しており、各府省等のシステムへの参画時期は、一部府省等によるテスト・改修を25年4月以降に行った後、25府省等(注7) が26年4月、9省庁等(注8) が27年4月となっている。
(注7) | 25府省等 内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務本省、法務本省、外務省、財務本省、文部科学省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業省、国土交通本省、環境本省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院
|
(注8) | 9省庁等 警察庁、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省及び裁判所の各地方支分部局等
|
ア 人給システムにおける調整
「分散方式」による人給システムの設計・開発では、参加府省等から多くの意見や要望が寄せられたが、これらの意見や要望のうちには、企画段階において、担当府省と参加府省等との間で、最適化の対象となる業務範囲や業務の流れなどについて十分調整を図り、政府全体としての共通認識を持って要件定義を行っていれば、本来生じなかったものも多いと考えられる。しかし、初期開発の要件定義に係る資料が保存されていないため、会計実地検査では、担当府省と参加府省等との間でどのような確認、合意等が行われたのか確認できず、担当府省として十分な説明責任を果たしていない。
また、移行作業のうちには、システムに関する高度な技術的知識等を要する作業や作業量が非常に多いものもあることから、多くの参加府省等は、移行作業を請負契約により民間業者に実施させているが、参加府省等は、過去にこのような大規模な移行作業を実施した経験が少ないこと、また、人給システムに移行する人事情報や給与情報等を扱う担当部署はシステムの設計・開発等に関連する部署ではなく、担当者にシステムに関する技術的知識や経験が乏しいことなどから、移行作業に求められる具体的な業務内容や技術水準等に関する情報が乏しく、見積等を徴した民間業者からの情報に頼らざるを得ない状況となっていた。
参加府省等は、上記のとおり、移行作業の一部を請負契約により民間業者に実施させているが、今回、参加府省等における移行作業に係る請負契約の状況について検査したところ、22府省等(注9)
は20年度から23年度までの間に、移行計画書の策定支援、独自システムからのデータ抽出等のデータ整備等の移行作業に係る契約を73件、計18億0811万余円で実施していた。
人事院は、参加府省等が保有しているシステムはそれぞれ独自システムであり、移行経費の算定が困難であることや、「新移行方式」を踏まえた移行経費の把握が必要となることなどから、内閣官房等と協議の上、24年1月改定の最適化計画においても、移行経費を最適化の実施に係る投資額に含めていなかった。(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 参照)
イ 調達システム及び旅費等システムにおける調整
調達システム及び旅費等システムは、18年度の「予算執行等管理システム」のライフサイクルコストの試算等のために最適化が遅延したが、経済産業省は、最適化の企画段階でもライフサイクルコストの試算を行ったとしている。
しかし、設計・開発段階における試算は、要件定義において、参加府省等の個別業務を取り入れたことなどからシステム開発費等が増大したことにより、企画段階での試算を大幅に上回ったとしている。このような事態は、企画段階において、担当府省と参加府省等との間で最適化の対象となる業務範囲や業務の流れなどについて十分調整を図り、政府全体としての共通認識を持って要件定義を行っていれば、本来生じなかったものと考えられるが、企画段階の要件定義に係る資料が保存されていないため、会計実地検査では、どのような確認、合意等が行われたのか確認できず、担当府省として十分な説明責任を果たしていない。
調達システム及び旅費等システムは、今後の設計・開発に伴い、参加府省等のデータの移行作業等が実施されることになる。調達システム及び旅費等システムの参加府省等の移行作業やシステムの運用開始のためには、今後も担当府省と参加府省等との間で多くの調整が必要となることから、担当府省と参加府省等との間で十分調整を図り、最適化の円滑な進捗に努める必要があると認められる。
府省共通業務・システムに共通的に利用されるデータ集計、蓄積機能等の基盤機能や施設、設備及びその運用業務等の集約化を図るために、20年2月に、総務省が担当府省となり、共同利用システム基盤の業務・システム最適化計画が策定されている。共同利用システム基盤の担当府省である総務省は、人給システムに係るデータ集計、蓄積機能等の基盤機能を整備・運用することとされており、同省は、21年度から23年度までの間に、人給システムの設計・開発に合わせてデータベースサーバ等の機器等の調達に係る契約を4か年度又は5か年度の国庫債務負担行為により、計8億9848万余円(このうち、人給システムに係る分は計5億6804万余円)で民間業者と締結している。
また、22年5月に決定された「新たな情報通信技術戦略」において、クラウドコンピューティング技術(注10)
を活用した政府共通プラットフォーム(以下「政府共通PF」という。)により、政府情報システムの統合・集約化を進めることとされた。政府共通PFは、原則として、全ての政府情報システムを対象にして統合・集約化を図るとされており、3の府省共通業務・システムも、統合・集約化の検討が行われている。
このように、3の府省共通業務・システムの設計・開発は、その基盤となる共同利用システム基盤や政府共通PFにおける調達と密接に関係するため、相互の調達時期等について十分調整する必要があるが、旅費等システムの調達手続の中止に加えて、共同利用システム基盤における調達時期の変更が、調達システムの機器等の調達に影響を与えていた事態が見受けられた。
また、3の府省共通業務・システムは、相互に連携を予定しているほか、他の府省共通業務・システムとも連携を予定しているが、これらの府省共通業務・システムは、既に運用を開始しており、3の府省共通業務・システムにおいて最適化効果が発現していないだけでなく、他の連携する府省共通業務・システムにおいても、想定された最適化効果が十分発現していない。
ア 最適化効果の遅延
3の府省共通業務・システムは、前記のとおり、システムの構築が遅れていたり、移行作業の遅延に伴って参加府省等の運用開始が遅れていたりしており、最適化効果の発現が遅延している。
最適化計画における最適化に伴う削減経費(試算値)等は、最適化ガイドラインに基づき「最適化共通効果指標」として示されているが、最新の最適化計画に示されている削減経費(削減業務処理時間を含む。)により、最適化効果の発現状況をみると、当初の最適化計画どおりに、全府省等で3の府省共通業務・システムの運用が開始されていれば、毎年度、次のような最適化効果が発現していたことになる。
〔1〕 人給システムは、20年度以降、計340億7536万余円(削減経費12億6286万余円、削減業務処理時間(金額換算値)延べ約1050万時間(328億1250万円))
〔2〕 調達システムは、22年度以降、計6億9781万円(削減経費3101万余円、削減業務処理時間(金額換算値)延べ約21万時間(6億6679万余円))
〔3〕 旅費等システムは、22年度以降、計325億6970万余円(増加経費4億3987万余円、削減業務処理時間(金額換算値)延べ約1056万時間(330億0957万余円))
そして、前記のとおり、長年にわたって最適化の実施のために費用を投じてきたにもかかわらず、現在においても当初計画において予定されていた最適化効果の発現が遅延していることは適切ではなく、着実に設計・開発等を進め、担当府省だけでなく、政府全体として、最適化効果の早期発現に努める必要があると認められる。
イ 3の府省共通業務・システムにおける遅延の影響
人給システムについて、共同利用システム基盤におけるデータベースサーバ等の使用状況を検査したところ、参加府省等ごとのデータが蓄積されるデータ使用領域は、本番稼働する府省等のデータが毎年蓄積されていくこと、また、順次、並行稼働を開始する府省等があることなどから、今後、増加すると見込まれるものの、24年7月5日現在の使用率は、0.1%から1.9%までとなっている。また、人給システムは、26年10月以降の政府共通PFへの統合・集約化に向けた調整が行われており、同月以降に運用開始を予定している11府省等については、共同利用システム基盤で調達したサーバ等の機器等は、稼働検証や並行稼働等のために使用されるものの、本番稼働を迎えることなく賃借期間が終了するおそれがあると思料される。
人給システムに関しては、22年度の移行作業の遅延を受けて、現在も移行作業を継続している参加府省等においては、独自システムと人給システムへの二重のデータ入力作業等に多大な労力を要していたり、今まで実施してきた移行作業を一旦中止し、改めて「新移行方式」により移行作業を実施する参加府省等においては、一度整備したデータの修正作業等が必要となったりしている。
3の府省共通業務・システムに係る運用経費は、当初の最適化計画が円滑に進捗して、参加府省等がシステムの運用を開始していれば相当程度増加したことが予想されるが、逆に独自システムに係る参加府省等の現行経費は発生していなかったと思料される(人給システムに係る参加府省等の20年度から23年度までの間の現行経費計147億9531万余円、調達システムに係る参加府省等の22、23両年度の現行経費計32億7899万余円、旅費等システムに係る参加府省等の22、23両年度の現行経費計22億6082万余円)。そして、このような現行経費は、年度ごとの支出金額は減少していくものの、参加府省等の運用開始まで継続することになる。また、参加府省等には、通常の現行経費以外に、サーバ等の機器調達やソフトウェアの更新等の費用が人給システムで7府省等(注11)
において、調達システムで5府省(注12)
において、旅費等システムで3省等(公正取引委員会、農林水産省及び衆議院)において発生するなどしていた。
(注11) | 7府省等 内閣府、公正取引委員会、法務省、財務省、経済産業省、国土交通省、海上保安庁
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(注12) | 5府省 内閣府、総務省、財務省、厚生労働省、環境省
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前記のとおり、3の府省共通業務・システムのうち、人給システムは、調達システム及び旅費等システムと異なり、既に設計・開発が完了してシステムは構築されている。
しかし、22年度から実施された移行作業の遅延等により、参加府省等の運用開始が大幅に遅延しており、実施された設計・開発や移行作業の業務等に関して、最適化を円滑に進捗させるための具体的課題が見受けられた。
次のアからエまでの事項は、人給システムに係る具体的課題となっているが、調達システム及び旅費等システムの設計・開発に当たっても、人給システムにおける具体的課題に十分留意して、設計・開発等を着実に実施していくことが重要である。
ア 設計・開発段階における課題
第1期から第3期までの設計・改修業務において、当初予定していたテスト期間に比べて、総合テストや受入テストが大幅に遅延しており、例えば、第1期の設計・改修業務については、22年3月末までと予定していたテスト期間に対して、総合テストの完了が同年6月、受入テストの完了が同年7月となっていた。これは、受入テストの結果により発見された多くの問題に対して、人事院が、設計・改修業者に総合テストを再度実施させただけでなく、プロジェクト管理支援業者からのシステムの品質に係る分析結果を踏まえて、設計・改修業者に単体テストや結合テスト等の品質点検や再発防止に向けた対策を別途求めるなどしたために生じたものであり、設計・改修業者の品質管理が十分でなかったと認められる。
また、人事院において、参加府省等が保有している現在のデータ量等の確認を十分行っていなかったこと、性能要件を定義する方法や性能の確認方法に関する知見が十分でなかったことなどから、性能要件が十分定義されていなかったり、性能要件に関する設計・改修業者と人事院との認識が一致していなかったりなどしたため、結果として参加府省等の実際のデータ量等が設計・開発に反映されておらず、また、総合テスト等においても十分検証されていなかった。
このため、22年度に参加府省等のデータを人事院が人給システムに登録して、参加府省等がシステムを並行稼働させたところ、画面遷移に時間を要したり、バッチ処理に時間を要して処理が停止したりするなど性能に係る障害が多数発生したが、人給システムは、上記の性能に係る障害以外にも数多くの障害が発生しており、安定的なシステム運用が実現できていない。(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項
参照)
イ 移行作業における課題
人事院は、移行ツールに係る要件定義に際して、参加府省等の独自システムにおける既存データの情報を十分把握していなかったため、参加府省等の登録データは基本的に品質が担保されているという前提で設計・開発を行っていた。このため、移行ツールのデータチェックが十分機能せず、人事データと給与データとの間や給与データ内での整合性が確保できないエラーが多数発生した。
また、移行作業の準備段階では、人事院から参加府省等に対する移行ツールや登録シートに関する説明が十分でなかったため、登録データの作成に当たって事前にデータの品質を確保する必要があることや、登録シートに必ず記載すべき情報の範囲等が十分伝えられていないなど、人事院と参加府省等との間で十分な情報共有が図られていなかった。
人事院は、前記のような技術的問題が多数発生することをあらかじめ想定していなかったため、22年9月から開設したヘルプデスクでは、システム操作の説明等に係る問合せには直接回答するが、データ等に起因する問合せには、人給システムの管理等を行う運用センター等に対応を要請し、運用センター等からの回答を受けて、後日参加府省等に回答することを想定していた。
しかし、参加府省等からの問合せの多くがデータ等に起因するものであったことから、22年9月から24年6月までの間にヘルプデスクに寄せられた問合せのうち、ヘルプデスクで対応できた件数は、全体の平均でも3分の1、最大の月でも半分程度であった。
また、ヘルプデスク業務における想定業務量は、21年8月改定の最適化計画に基づき、22年度から24年度までの間に、全ての参加府省等が人給システムの運用を開始するとの前提となっており、全ての参加府省等が並行稼働又は本番稼働を開始した場合には、平常時で1日約450件の問合せがあるとしているが、参加府省等の運用開始が大幅に遅延したことなどから、実際の問合せ件数は、23年9月以降、1か月当たり数十件又は百数十件となっているなど想定業務量を大幅に下回っていた。(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項
参照)
ウ プロジェクト管理支援業務における課題
人事院は、20年度、22年度及び23年度にプロジェクト管理支援業務に係る契約を民間業者と締結しており、プロジェクト管理支援業務は、20年度以降に実施している第1期から第3期までの設計・改修業務及びアプリケーション保守業務等に対して、人事院が受入テストやユーザ検証に基づき、人給システムの要件定義等に適合しているか確認する際に、技術的な支援を行うなどとされている。
しかし、20年度及び22年度のプロジェクト管理支援業務は、第2期及び第3期の設計・改修業務の契約期間内に終了してしまったため、それぞれのプロジェクト管理支援業務では、システムの設計・改修業務に対する全体評価が実施できず、中間報告しか行われていなかったり、第1期設計・改修業務は、前記のとおり、プロジェクト管理支援業務の契約期間内に、受入テストが完了していなかった。(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項
参照)
エ 人事院における業務執行体制等の課題
人事院は、参加府省等の人材面からの協力なしに、単独で業務執行体制を維持することが困難であることから、効率的かつ効果的な業務執行体制の構築を検討した上で、参加府省等と十分調整を図っていくことが重要である。また、人事院及び内閣官房は、「集中管理方式」への変更に際して、参加府省等の実務担当者から広く意見を聴取しながら、システム開発等を進める必要があるとして、18年9月及び同年11月に、参加府省等の課長クラスによる人給連絡協議会及び人給連絡協議会の実務的な検討の会議として人・給システム実務担当者連絡会議(以下「全体WG」という。)を設置し、設計・開発や移行作業を進めている。しかし、前記のとおり、全体WGでは、移行ツール及び登録シートについての説明並びに先行して移行作業を実施した府省等の進捗状況に係る情報の共有及び発生した課題に係る情報の共有が十分図られていなかった。(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 参照)
政府は、電子行政の取組を迅速かつ強力に推進していくため、「電子行政推進に関する基本方針」(平成23年8月IT戦略本部決定)に基づき、24年8月、内閣官房に政府情報化統括責任者(政府CIO)を設置した。
同月決定された「政府CIO制度の推進体制について」(平成24年8月IT戦略本部決定・行政改革実行本部決定)において、政府CIOは、IT政策を担当する国務大臣及び行政改革担当大臣を助け、同基本方針のうち、政府CIO制度の役割として掲げられた事項に基づいた職務に関する企画及び立案並びに総合調整を行うこととされており、また、政府CIOを中心に、政府全体として、制度・業務プロセス改革の推進に資する電子行政の合理化・効率化・高度化の取組を迅速かつ強力に推進していくこととされている。
府省共通業務・システムの最適化を円滑に実施するためには、企画、設計・開発等の各段階において、担当府省と参加府省等との間で十分調整を図るなどして、政府全体が一体となって、プロジェクトを推進していくことが重要であり、政府CIOを中心に政府全体として、早期に、最適化の円滑な進捗に取り組むことが望まれる。
3の府省共通業務・システムは、当初の最適化計画が順次改定されるなどしており、これに伴い参加府省等の運用開始が遅延していて、最適化効果の発現が遅延しているだけでなく、参加府省等において独自システムの更新等のために新たな経費が発生したり、人給システムの移行作業に多大な労力を要していたりなどしている。また、人事院と参加府省等との間で十分な情報共有が図られていなかったことなどから、人給システムに登録したデータの整合性が確保できないエラーが多数発生したり、「予算執行等管理システム」の要件定義において、参加府省等の個別業務を取り入れたことなどから、システム開発費等が企画段階での試算を大幅に上回り、システムの設計・開発が企画段階に戻って再検討されたりしている。さらに、初期開発や企画段階での要件定義に係る資料が保存されていないため、担当府省と参加府省等との間でどのような確認、合意等が行われていたのか確認できず、担当府省として十分な説明責任を果たしていなかったり、連携する他の府省共通業務・システムの最適化効果の発現に影響を与えていたりしているなどの事態が見受けられる。
そこで、3の府省共通業務・システムについて、担当府省と参加府省等において、これまでの経緯及び現状を十分踏まえた上で、参加府省等が早期に運用開始できるように、次のことを実施するなどして、最適化効果を早期に発現させるとともに、内閣官房においても、政府全体として最適化が円滑に進進するように、総合調整等を行うことが必要である。
ア 設計・開発、改修や移行作業に当たっては、担当府省と参加府省等との間で十分な調整が図られるよう、必要となる課題等の情報の共有を更に進めること
イ 設計・開発、改修等の要件定義に当たっては、担当府省と参加府省等との間で十分協議して、その内容を決定すること
ウ 担当府省においては、担当府省と参加府省等との間の協議事項に関する情報について、システムの構築から運用まで一貫して管理していくこと
エ 連携する業務・システムにおいても最適化効果が早期に発現できるよう、協力、調整等について引き続き努力すること
本院としては、電子行政の推進や政府CIO制度の推進に向けた政府の動きに留意するとともに、3の府省共通業務・システムの最適化が円滑に進捗し、最適化効果が早期に発現するよう、今後とも引き続き注視していくこととする。