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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年1月

大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 ダム

 ダムは、河川水量の調節を行って下流域の洪水被害を軽減させること及びダム下流域の河川の流水の正常な機能を維持するため必要に応じて流水の占用、舟運、漁業、観光、流水の清潔の保持等を総合的に考慮して定められた流量を補給すること(以下、そのための容量を「不特定容量」という。)を目的とする構造物である。多目的ダムは、これらに加えて、ダムに貯水した流水をかんがい用水、水道用水等に用いることもその目的としている。
 国土交通省及び水資源機構は、河川法、特定多目的ダム法等に基づき、ダム建設に関する事業計画を策定し、これに基づいてダム建設事業を実施している。そして、22年度において、国土交通省が行うダム建設事業(以下「直轄ダム建設事業」という。)は37事業(41ダム)、水資源機構が行うダム建設事業(以下「機構ダム建設事業」という。)は6事業(6ダム)、計43事業(47ダム)となっている。
 これらの事業について検査したところ、次のような状況になっていた(なお、ダムごとにみた検査結果等の概要については別表 参照)。

(1) 事業の目的、必要性等についての検討の状況

ア 事業の目的等

 前記の43事業で建設等を行っている計47ダムについて、目的別に整理し一覧にして示すと図表1-1 のとおりとなっている。

図表1-1 47ダムにおける事業の目的
事業主体名 ダム名 目的
洪水調節 流水の正常な機能の維持 かんがい用水 水道用水 工業用水 発電
北海道開発局 新桂沢ダム  
三笠ぽんべつダム          
夕張シューパロダム  
平取ダム      
サンルダム    
関東地方整備局 湯西川ダム  
八ッ場ダム  
荒川上流ダム再開発        
吾妻川上流総合開発        
利根川上流ダム群再編          
北陸地方整備局 利賀ダム      
中部地方整備局 美和ダム再開発          
戸草ダム    
新丸山ダム      
横山ダム再開発          
設楽ダム    
天竜川ダム再編          
近畿地方整備局 足羽川ダム          
大戸川ダム          
大滝ダム  
天ヶ瀬ダム再開発      
中国地方整備局 殿ダム  
尾原ダム      
志津見ダム    
四国地方整備局 長安口ダム改造        
横瀬川ダム      
山鳥坂ダム        
鹿野川ダム改造        
九州地方整備局 大分川ダム      
嘉瀬川ダム
川辺川ダム    
立野ダム          
本明川ダム      
鶴田ダム再開発          
筑後川水系ダム群連携          
城原川ダム        
七滝ダム      
沖縄総合事務局 億首ダム    
大保ダム      
奥間ダム      
比地ダム      
直轄ダム建設事業 計41ダム 39 31 6 20 9 13
水資源機構 南摩ダム      
川上ダム      
丹生ダム      
小石原川ダム      
大山ダム      
滝沢ダム    
機構ダム建設事業 計6ダム 6 6 6 1
合計47ダム 45 37 6 26 9 14

 特定多目的ダム法に基づき建設するダムについては、同法第4条第1項の規定により、基本計画を作成しなければならないこととされており、特定多目的ダム法に基づき建設している直轄ダム建設事業の24ダム(事業再評価により22年8月に中止することとした奥間ダムを除く。)のうち21ダムにおいて基本計画が作成されていた。
 また、機構法に基づき建設するダムについては、同法第13条第1項の規定により、水資源開発基本計画に基づいて事業実施計画を作成しなければならないこととされており、機構ダム建設事業の6ダム全てにおいて事業実施計画が作成されていた。

イ 検証対象のダム建設事業及び検討の場の設置状況等

 第1の2(3)イ のとおり、国土交通省は、「できるだけダムにたよらない治水」への政策転換を進めるとの考え方に基づき、21年12月に「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」を設置して、ダム本体工事に着手済みのものなどを除いたダム建設事業等について、22年9月に同会議が示した中間とりまとめに沿って、事業主体等を検討主体とし、検討の場を設置するなどして個別に検証を行った上で、その後の事業の進め方について判断することとしている。
 国土交通大臣が、検討主体による検討を指示したダム建設事業は、検査対象とした47ダムにおいては、既に本体工事に着手するなどされている21ダムを除き、図表1-2 のとおり、直轄ダム建設事業の22ダム、機構ダム建設事業の4ダム、計26ダムとなっている。
 そして、23年10月末現在、直轄ダム建設事業の17ダム、機構ダム建設事業の4ダム、計21ダムについては、検討主体において検討の場を設置して検討が行われているが、残りの5ダムについては検討の場が設置されていない。

図表1-2 検証対象のダム建設事業及び検討の場の設置状況等
検討主体名 ダム名 ダム数 検討の場の設置状況 第1回開催年月
北海道開発局 新桂沢ダム   平成22年12月
三笠ぽんべつダム  
平取ダム   22年12月
サンルダム   22年12月
小計 4 4  
関東地方整備局 八ッ場ダム   22年10月
荒川上流ダム再開発   × 未開催
吾妻川上流総合開発   × 未開催
利根川上流ダム群再編   × 未開催
小計 4 1  
北陸地方整備局 利賀ダム   22年11月
小計 1 1  
中部地方整備局 戸草ダム   × 未開催
新丸山ダム   22年12月
設楽ダム   22年11月
小計 3 2  
近畿地方整備局 足羽川ダム   22年12月
大戸川ダム   23年1月
小計 2 2  
四国地方整備局 横瀬川ダム   22年11月
山鳥坂ダム   22年11月
小計 2 2  
九州地方整備局 大分川ダム   22年12月
立野ダム   22年12月
本明川ダム   22年12月
筑後川水系ダム群連携   22年12月
城原川ダム   22年12月
七滝ダム   × 未開催
小計 6 5  
  22 17
水資源機構等 南摩ダム   22年12月
川上ダム   23年1月
丹生ダム   23年1月
小石原川ダム   22年12月
  4 4  
合計   26 21
(注)
 新桂沢ダム及び三笠ぽんべつダムは2ダムを1事業で実施しているため、ダムごとに検討の場を設置しておらず、一つの検討の場で検討を行っている。

 検討の場が設置されていない5ダムのうち、検討主体自らが検証対象のダム建設事業を中止することとした吾妻川上流総合開発及び七滝ダムを除く3ダムについては、図表1-3 のとおり、国土交通大臣より22年9月に指示を受けてから1年以上が経過している。

図表1-3 検討の場が設置されていないダム建設事業
検討主体名 ダム名 検討の場が設置されていない理由
関東地方整備局 荒川上流ダム再開発、利根川上流ダム群再編 他のダムの検討を優先的に進めているため
中部地方整備局 戸草ダム 検証の進め方等を含めて、今後の対応について、関係者と調整中のため

ウ 検討主体からの検討結果の報告

 23年10月末現在、検討主体から国土交通大臣へ検討結果が報告されているものは、上記の検討主体自らが事業を中止することとした2ダムとなっていて、これらを除く24ダムについては報告に至っていない。

エ 検証対象のダム建設事業に関する国土交通省の対応方針の決定状況

 上記の検討結果が報告されている2ダムに対する国土交通省の対応方針としては、七滝ダムについては23年5月に、また、吾妻川上流総合開発については同年10月にそれぞれ中止を決定していた。

(2) 事業の実施状況

ア ダム建設事業の実施状況

 前記の47ダムにおける事業の実施状況について、進捗に応じた〔1〕調査・地元説明、〔2〕生活再建工事(注1-1) 、〔3〕転流工工事(注1-2 )、〔4〕本体工事の各段階又は〔5〕既存施設の機能増強を行う事業に分類し、計画事業費に対する執行済事業費の割合(以下「執行率」という。)や事業期間に対する事業着手後の経過年数の割合(以下「経過率」という。)を求めるなどして一覧にして示すと、図表1-4 及び図表1-5 のとおりとなっている。

(注1-1)
 生活再建工事  付替道路等を建設する工事や移転補償等
(注1-2)
 転流工工事  ダム本体工事の施工期間中、河川の流水を一時的に迂回して通水させるための水路トンネル等を築造する工事

図表1-4 47ダムにおける事業の段階等及び計画事業費等の状況
事業主体名 ダム名 段階等 計画事業費a
(億円)
執行済事業費b
(億円)
執行率
(%)
b/a
着手年度 事業期間c
(年)
経過年数d 経過率
(%)
d/c
北海道開発局 新桂沢ダム 転流工工事 835 437 52.4 昭和60 31 26 83.9
三笠ぽんべつダム 転流工工事
夕張シューパロダム 本体工事 1,700 1,258 74.0 平成3 24 20 83.3
平取ダム 生活再建工事 1,313 961 73.2 昭和48 44 38 86.4
サンルダム 生活再建工事 528 286 54.2 昭和63 26 23 88.5
関東地方整備局 湯西川ダム 本体工事 1,840 1,424 77.4 昭和57 30 29 96.7
八ッ場ダム 転流工工事 4,600 3,558 77.4 昭和42 49 44 89.8
荒川上流ダム再開発 調査・地元説明 1,200 10 0.9 平成7 34 16 47.1
吾妻川上流総合開発 調査・地元説明 847 26 3.2 平成4 27 19 70.4
利根川上流ダム群再編 調査・地元説明 未定 31 平成14 未定 9
北陸地方整備局 利賀ダム 生活再建工事 1,150 346 30.2 平成元 34 22 64.7
中部地方整備局 美和ダム再開発 機能増強 1,080 533 49.4 昭和62 15 24 160.0
戸草ダム 調査・地元説明 昭和59 18 27 150.0
新丸山ダム 生活再建工事 1,800 643 35.7 昭和55 37 31 83.8
横山ダム再開発 機能増強 360 342 95.0 平成2 22 21 95.5
設楽ダム 生活再建工事 2,070 272 13.1 昭和53 43 33 76.7
天竜川ダム再編 機能増強 790 54 6.9 平成16 18 7 38.9
近畿地方整備局 足羽川ダム 調査・地元説明 960 148 15.5 昭和58 41 28 68.3
大戸川ダム 生活再建工事 1,080 629 58.3 昭和53 40 33 82.5
大滝ダム 本体工事 3,640 3,556 97.7 昭和37 51 49 96.1
天ヶ瀬ダム再開発 機能増強 430 74 17.4 平成元 27 22 81.5
中国地方整備局 殿ダム 本体工事 950 814 85.8 昭和60 27 26 96.3
尾原ダム 本体工事 1,510 1,258 83.4 昭和62 24 24 100.0
志津見ダム 本体工事 1,450 1,290 89.0 昭和58 28 28 100.0
四国地方整備局 長安口ダム改造 機能増強 470 69 14.8 平成10 21 13 61.9
横瀬川ダム 転流工工事 400 150 37.7 平成2 26 21 80.8
山鳥坂ダム 調査・地元説明 850 182 21.5 昭和61 38 25 65.8
鹿野川ダム改造 機能増強 420 87 20.8 平成18 10 5 50.0
九州地方整備局 大分川ダム 転流工工事 967 510 52.8 昭和53 40 33 82.5
嘉瀬川ダム 本体工事 1,780 1,727 97.0 昭和48 39 38 97.4
川辺川ダム 生活再建工事 2,650 2,142 80.8 昭和42 42 44 104.8
立野ダム 生活再建工事 905 418 46.3 昭和54 41 32 78.0
本明川ダム 調査・地元説明 780 70 9.0 平成2 31 21 67.7
鶴田ダム再開発 機能増強 460 75 16.3 平成19 9 4 44.4
筑後川水系ダム群連携 調査・地元説明 390 20 5.3 平成13 20 10 50.0
城原川ダム 調査・地元説明 1,020 40 4.0 昭和54 49 32 65.3
七滝ダム 調査・地元説明 395 11 2.9 平成3 29 20 69.0
沖縄総合事務局 億首ダム 本体工事 850 725 85.3 平成5 22 18 81.8
大保ダム 本体工事 1,370 964 70.4 昭和62 28 24 85.7
奥間ダム 調査・地元説明
比地ダム 未着手
水資源機構 南摩ダム 転流工工事 1,850 790 42.7 昭和44 47 42 89.4
川上ダム 転流工工事 1,180 584 49.5 昭和56 35 30 85.7
丹生ダム 生活再建工事 1,100 561 51.0 昭和55 31 31 100.0
小石原川ダム 生活再建工事 1,960 255 13.0 平成4 24 19 79.2
大山ダム 本体工事 1,400 942 67.3 昭和58 30 28 93.3
滝沢ダム 本体工事 2,320 2,306 99.4 昭和44 42 42 100.0
注(1)  新桂沢ダム及び三笠ぽんべつダム並びに美和ダム再開発及び戸草ダムについては、それぞれこれら2ダムを1事業として実施している。
注(2)  大保ダム、奥間ダム及び比地ダムについては、これら3ダムを1事業として実施している。ただし、比地ダムについては、事業に着手していない。
注(3)  平取ダム及び億首ダムについてはそれぞれ現在は完成している別のダムと1事業として実施されてきたものであるため、それぞれの計画事業費及び執行済事業費には、既に完成しているダムの事業費が含まれている。
注(4)  大保ダム及び奥間ダムの計画事業費等は、奥間ダムが中止される前のものである。

図表1-5 事業主体別のダム建設事業の着手年度

(単位:ダム数)

事業主体名 ダム数 着手年度
昭和
52
以前
53

55
56

58
59

61
62

平成元
2

4
5

7
8

10
11

13
14

16
17

19


北海道開発局 5 1     2 1 1            
関東地方整備局 5 1   1     1 1     1    
北陸地方整備局 1         1              
中部地方整備局 6
(3)
  2   1 1
(1)
1
(1)
      1
(1)
   
近畿地方整備局 4
(1)
1 1 1   1
(1)
             
中国地方整備局 3     1 1 1              
四国地方整備局 4
(2)
      1   1   1
(1)
    1
(1)
 
九州地方整備局 9
(1)
2 3       2     1   1
(1)
 
沖縄総合事務局 4         2   1         1
水資源機構 6 2 1 2     1            
47
(7)
7 7 5 5 7
(2)
7
(1)
2 1
(1)
1 2
(1)
2
(2)
1
38
(3)
8
(4)
(注)
 ( )内は既存施設の機能増強を目的とするダム数を内書きで記載している。

 図表1-5 のとおり、未着手の1ダムを除いた46ダムの事業着手の状況についてみると、5年度以降は事業着手のダム数が減少しており、事業着手されたダムの延べ数は、4年度までで38ダム、5年度以降は8ダムとなっている。この8ダムのうち既存施設の機能増強を目的とする4ダムを除くと新たに建設するものは4ダムとなっている。

イ ダム建設事業の事業主体別・進捗段階等別のダム数及び執行済事業費

 事業に着手していない比地ダムを除いた46ダムについて、事業主体別・進捗段階等別にダム数及び執行済事業費を示すと、図表1-6 のとおりであり、ダム数は、〔1〕調査・地元説明の段階及び〔4〕本体工事の段階が、それぞれ11ダムと多く、執行済事業費は、〔4〕本体工事の段階が1兆6268億円と最も多くなっている。

図表1-6 事業主体別・進捗段階等別のダム数及び執行済事業費
事業主体名 ダム数 執行済事業費百万円 進捗段階等別の内訳
〔1〕調査・地元説明 〔2〕生活再建工事 〔3〕転流工工事 〔4〕本体工事 〔5〕既存施設の機能増強
ダム数 執行済事業費 ダム数 執行済事業費 ダム数 執行済事業費 ダム数 執行済事業費 ダム数 執行済事業費
百万円   百万円   百万円   百万円   百万円   百万円
北海道開発局 5 294,347 2 124,721 2 43,759 1 125,866
関東地方整備局 5 505,208 3 6,930 1 355,839 1 142,439
北陸地方整備局 1 34,678 1 34,678
中部地方整備局 6 184,543 1 2 91,531 3 93,012
近畿地方整備局 4 440,887 1 14,840 1 62,921 1 355,649 1 7,476
中国地方整備局 3 336,407 3 336,407
四国地方整備局 4 49,060 1 18,292 1 15,091 2 15,676
九州地方整備局 9 501,676 4 14,308 2 256,071 1 51,076 1 172,702 1 7,517
沖縄総合事務局 3 168,935 1 2 168,935
水資源機構 6 543,964 2 81,676 2 137,441 2 324,846
46 3,059,709 11 54,371 10 651,600 7 603,208 11 1,626,846 7 123,682
注(1)  美和ダム再開発(既存施設の機能増強)及び戸草ダム(調査・地元説明)については、これら2ダムを1事業で実施しており、執行済事業費については、ダムごとに区分できないため、美和ダム再開発(既存施設の機能増強)に計上している。
注(2)  大保ダム(本体工事)及び奥間ダム(調査・地元説明)については、事業に着手していない比地ダムとともに、これら3ダムを1事業で実施しており、執行済事業費については、ダムごとに区分できないため、大保ダム(本体工事)に計上している。

ウ ダム建設事業の進捗段階等別の執行状況及び経過状況

(ア) 計画事業費に対する執行状況

 事業に着手していない比地ダム、計画事業費が未定の利根川上流ダム群再編、既に完成しているダムの執行済事業費が含まれている平取ダム及び億首ダム並びに22年8月に中止することとした奥間ダムの執行済事業費が含まれている大保ダム・奥間ダムを除く41ダムについて、進捗段階等別に22年度末現在での執行率の状況をみると、図表1-7 のとおり、〔1〕調査・地元説明の段階では、執行率が0%から20.0%までとなっているものが7ダムで最も多くなっている。同様に、〔2〕生活再建工事では、40.1%から60.0%までが4ダム、〔3〕転流工工事では、40.1%から60.0%までが5ダム、〔4〕本体工事では、80.1%から100%までが6ダムでそれぞれ最も多くなっている。

図表1-7 進捗段階等別にみた執行率の状況

(単位:ダム数)

進捗段階等
経過率(%)
〔1〕調査・地元説明 〔2〕生活再建工事 〔3〕転流工工事 〔4〕本体工事 小計 〔5〕既存施設の機能増強
    0〜20.0   7 2 9 4 13
  20.1〜40.0   1 2 1 4 1 5
  40.1〜60.0   1 4 5 10 1 11
  60.1〜80.0   1 3 4 4
  80.1〜100   1 6 7 1 8
9 9 7 9 34 7 41

 また、実際に執行済事業費が計画事業費を超えているものはないが、事例1-1 のとおり、執行率が100%近くになってから計画事業費を見直しているものがあった。

<事例1-1>

 九州地方整備局は、昭和54年度から立野ダム建設事業に着手しており、平成31年度完成予定となっている。そして、同ダムは、〔2〕生活再建工事の段階となっているが、22年度末までの執行済事業費は418億円であり、当時の計画事業費425億円に対する執行率は98.5%となっていた。そして、23年9月に、計画事業費を変更前の2.1倍に当たる905億円に引き上げていた。

 そして、〔3〕転流工工事までの各進捗段階において、執行率が60.1%以上になっているものは、図表1-4 のとおり、〔2〕生活再建工事では、川辺川ダムの80.8%、〔3〕転流工工事では、八ッ場ダムの77.4%となっている。

(イ) 事業期間に対する経過状況

 前記の41ダムについて、進捗段階等別に22年度末現在での経過率の状況をみると、図表1-8 のとおり、〔1〕調査・地元説明の段階では、経過率が60.1%から80.0%までとなっているものが6ダムで最も多くなっている。同様に、〔2〕生活再建工事では、60.1%から80.0%まで及び80.1%から100%までがそれぞれ4ダム、〔3〕転流工工事では、80.1%から100%までが7ダム、〔4〕本体工事では、80.1%から100%までが9ダムでそれぞれ最も多くなっている。

図表1-8 進捗段階等別にみた経過率の状況

(単位:ダム数)

進捗段階等
経過率(%)
〔1〕調査・地元説明 〔2〕生活再建工事 〔3〕転流工工事 〔4〕本体工事 小計 〔5〕既存施設の機能増強
    0〜20.0  
  20.1〜40.0   1 1
  40.1〜60.0   2 2 2 4
  60.1〜80.0   6 4 10 1 11
  80.1〜100   4 7 9 20 2 22
  101〜   1 1 2 1 3
9 9 7 9 34 7 41

 そして、3ダムについては、経過率が100%を超えていて、図表1-9 のとおり、事業が完了していないのに、事業期間の延長が行われないまま計画上の事業期間を既に過ぎている。

図表1-9 事業が完了していないのに計画上の事業期間を既に過ぎているダム建設事業
事業主体名 ダム名 当初事業期間 現行事業期間 計画上の事業期間を超えている年数(平成22年度末現在)
中部地方整備局 美和ダム再開発、戸草ダム 昭和59年度から平成13年度まで
(18年間)
同左 9年
九州地方整備局 川辺川ダム 昭和42年度から56年度まで
(15年間)
昭和42年度から平成20年度まで
(42年間)
2年
(注)
 美和ダム再開発及び戸草ダムについては、これら2ダムを1事業として実施している。

 事業が完了していないのに事業期間を既に過ぎているダム建設事業の3ダムのうち、美和ダム再開発及び戸草ダムについては、13年に利水者である長野県がダム使用権の取下げ申請をし、その後、当該ダムの治水上の位置付けの再検討を行い、21年7月に策定された天竜川水系河川整備計画において、美和ダム再開発については「美和ダム等既設ダムの洪水調節機能の強化、美和ダム恒久堆砂対策」が掲げられ、戸草ダムについては「今後の社会経済情勢等の変化に合わせ、建設実施時期を検討する」としている。また、川辺川ダムについては、20年度から、九州地方整備局を検討主体とする「ダムによらない治水を検討する場」において、中止の方向性を前提に球磨川の治水計画の検討が行われているところである。

 そして、〔3〕転流工工事までの各進捗段階において、経過率が80.1%以上になっているものは、図表1-4の とおり、〔2〕生活再建工事では、直轄ダム建設事業である大戸川ダム(82.5%)、新丸山ダム(83.8%)及びサンルダム(88.5%)、機構ダム建設事業である丹生ダム(100%)の計4ダムとなっており、〔3〕転流工工事では、直轄ダム建設事業である横瀬川ダム(80.8%)、大分川ダム(82.5%)、新桂沢ダム・三笠ぽんべつダム(83.9%)及び八ッ場ダム(89.8%)、機構ダム建設事業である川上ダム(85.7%)及び南摩ダム(89.4%)の計7ダムとなっている。これら11ダムについては、本体工事の段階に入る前であるのに経過率が高いことから、事業が完了しない段階で計画上の事業期間を過ぎる可能性もあり、事業を継続するに当たっては事業期間の延長が必要となるおそれがある。

 以上のように、計画事業費や事業期間の変更は事業評価に大きな影響を与えるものであるのに、執行率が100%近くになってから計画事業費を見直していたり、事業期間の延長が行われないまま計画上の事業期間を既に過ぎていたり、進捗段階別にみた経過率の状況をみると事業期間の延長が必要となるおそれがあったりするものが見受けられた。

(3) 事業費の推移及び事業計画の変更等に伴う見直し等の状況

ア 事業費の推移

 事業未着手の比地ダムを除く46ダムにおける年度別執行済事業費の推移をみると、図表1-10 のとおり、ピークである12年度の執行済事業費は1906億円となっている。

図表1-10 年度別執行済事業費の推移
図表1-10年度別執行済事業費の推移

イ 事業計画の変更等に伴う見直し等の状況

(ア) 計画事業費の増減状況

 47ダムのうち、計画事業費の変更を行っている30ダム(22年8月に中止することとした奥間ダムの執行済事業費が含まれている大保ダム・奥間ダムを除く。)について、変更後の計画事業費(複数回変更しているものについては最終時点のもの)を当初の計画事業費(不明となっているものについては判明時点のもの)と比較して増減等の状況について整理すると、図表1-11 のとおりとなっている。

図表1-11 計画変更における計画事業費の増減等の状況
  増額   減額 未定
状況 1.0倍以上
1.5倍未満
1.5倍以上
2.0倍未満
2.0倍以上
5.0倍未満
5.0倍以上
ダム数 24 12 3 7 2 5 1

 このように、24ダムで変更後の計画事業費が当初の計画事業費から増額され、5ダムで減額されている。また、1ダムについては、変更後の計画事業費が未定とされている。そして、9ダムについては変更後の計画事業費が当初の2倍以上と大幅に増額されており、最も大きいものでは15.8倍となっている。

 近畿地方整備局は、昭和37年度から大滝ダム建設事業に着手しており、平成24年度完成予定となっている。同ダムの当初計画事業費は230億円であったが、これまでに6回の計画変更を経て、最終変更時点(20年7月)では3640億円となっていて、ダム本体の容量は変わらないまま15.8倍に増額されている。

 前記の24ダムについては合計して延べ31回の計画事業費の変更が行われているが、このうち22回はダム本体の容量変更を伴わない増額変更である。また、残り9回のうち5回は、ダム本体の容量を縮小する変更を行っているのに計画事業費が増額されている。
 そして、上記のダム本体の容量変更を伴わない22回の増額変更について、変更時期と1年当たりの増加率(当初又は前回変更した計画事業費に対する変更による増額分の割合を、当初又は前回の計画事業費の算定時期からの経過年数で除したもの)との関係をみると、
図表1-12 のとおりとなっている。

図表1-12 増額された計画事業費の1年当たりの増加率の状況

(単位:回)

増加率(%)
変更時期


5.0%
5.1%

10.0%
10.1%

15.0%
15.1%

25.0%
25.1%

30.0%
30.1%

 
 
〜昭和50年
 
  昭和51〜昭和60年   1 1
  昭和61〜平成 7年   1 1 2
  平成 8〜平成17年   4 5 1 1 11
  平成18年〜   7 1 8
11 7 2 1 1 22

 1年当たりの増加率が最も大きいものは、大滝ダムの第1回計画変更時(昭和53年3月)の47.4%となっている。そして、事例1-2 のとおり、同ダムの計画事業費は、当初の230億円に対して、最終変更時点では3640億円と大幅に増額されている。この増額要因について事業主体は、物価上昇、消費税の導入、地すべり対策工事等の追加、詳細な用地調査に伴う補償、生活再建対策費用の発生等によるとしている。
 また、1年当たりの増加率が29.9%と2番目に大きい川辺川ダムについても、当初計画事業費350億円に対して、最終変更時点(10年6月)では2650億円と大幅に増額されている。この増額要因について事業主体は、物価上昇、消費税の導入、現地調査等の進捗に伴う数量・工法の変更(付替道路の構造をトンネル構造に変更等)及び付替道路等の調査・設計数量の変更によるとしている。なお、川辺川ダムについては、前記のとおり、20年度から、「ダムによらない治水を検討する場」において、中止の方向性を前提に球磨川の治水計画の検討が行われているところである。
 このほか、計画事業費が増額されているダムについても、増額要因について事業主体は、上記の両ダムと同様の要因のほかに、環境対策の追加、事業期間延長に伴う事務費の発生等によるとしている。しかし、既存の関係資料からは、これらの要因の詳細や増額の内訳について明確にできない状況となっていた。

(イ) 事業期間の延長状況

 47ダムのうち、事業期間の変更を行っている35ダム(22年8月に中止することとした奥間ダムの事業期間が含まれている大保ダム・奥間ダムを除く。)について、変更後の事業期間(複数回変更しているものについては最終時点のもの)を当初の事業期間(不明となっているものについては判明時点のもの)と比較して延長等の状況について整理すると、図表1-13 のとおりとなっている。

図表1-13 計画変更における事業期間の延長等の状況
  延長 短縮 未定
状況   1.0倍以上
1.5倍未満
1.5倍以上
2.0倍未満
2.0倍以上
ダム数 33 15 11 7 1 1

 このように、33ダムで変更後の事業期間が当初の事業期間から延長され、1ダムで短縮されている。また、1ダムについては変更後の事業期間が未定とされている。そして、7ダムについては変更後の事業期間が当初の2倍以上と大幅に延長されており、最も大きいものでは3.1倍となっている。
 さらに、上記の33ダムについては、合計して延べ48回の事業期間の変更が行われているが、このうち23回は、従前の事業期間の期限を過ぎてから延長が行われていた。

<事例1-3>

 水資源機構は、昭和56年度から川上ダム建設事業に着手しており、当初、事業期間を56年度から平成16年度までの24年間としていたが、事業期間の最終年度を5年以上過ぎた23年2月になってから事業期間を27年度までの35年間に延長している。

 また、事業期間の延長要因について事業主体は、主に用地補償に関する調整に時間を要したためなどによるとしている。しかし、既存の関係資料からは、これらの要因の詳細について明確にできない状況となっていた。

ウ 利水者が撤退を表明しているもの

 直轄ダム建設事業の美和ダム再開発・戸草ダム及び機構ダム建設事業の丹生ダムについては、利水者が撤退を表明している。美和ダム再開発・戸草ダムについては、前記のように、利水者はダム使用権の取下げ申請を行っており、その後、ダムの位置付けの再検討が行われるなどしているが、事業計画を変更するまでには至っていない。また、丹生ダムについては、見直しに係る諸調査が行われるなどしているが、事業計画を変更するまでには至っていない。

(4) 事業再評価時における投資効果等の検討の状況

ア 費用対効果分析等の実施状況

 47ダムにおける直近の費用対効果分析等の実施状況を一覧にして示すと、図表1-14 のとおりであり、ダム単体で実施しているものが40ダム、複数のダムを合わせて実施しているものが7ダムとなっている。
 そして、費用便益比を算出しているものは41ダムとなっていて、このうち費用便益比の算出方法が異なる大戸川ダムを除くと、その値は最小で1.2、最大で6.1となっている。そして、41ダムの事業再評価に対する対応方針についてみると、「継続」としているものが39ダム、「中止」としているものが1ダム、「着手しない」としているものが1ダムとなっている。
 一方、ダム建設事業の具体的な内容が確定していないこと、ダム以外の代替案の実現性が確認できたことなどのため、費用便益比を算出していないものは6ダムとなっていて、これらの事業再評価に対する対応方針についてみると、「継続」としているものが4ダム、「中止」としているものが2ダムとなっている。

図表1-14 47ダムにおける費用対効果分析等の実施状況
事業主体名 ダム名 総便益(百万円) 総費用(百万円) 費用便益比 対応方針 備考
北海道開発局 新桂沢ダム 122,894 101,525 1.2 継続 2ダムでの事業再評価
三笠ぽんべつダム 注(3)
夕張シューパロダム 210,899 103,052 2.0 継続  
平取ダム 83,928 63,383 1.3 継続  
サンルダム 150,679 68,085 2.2 継続 注(3)
関東地方整備局 湯西川ダム 657,460 153,131 4.3 継続  
八ッ場ダム 1,175,834 344,244 3.4 継続 注(3)
荒川上流ダム再開発 200,058 94,205 2.1 継続  
吾妻川上流総合開発 中止  
利根川上流ダム群再編 継続 注(3)
北陸地方整備局 利賀ダム 221,590 120,641 1.8 継続 注(3)
中部地方整備局 美和ダム再開発 95,118 67,692 1.4 継続 2ダムでの事業再評価
戸草ダム
新丸山ダム 1,187,124 236,512 5.0 継続 注(3)
横山ダム再開発 141,364 54,487 2.6 継続  
設楽ダム 496,817 178,225 2.8 継続 注(3)
天竜川ダム再編 175,910 77,370 2.3 継続  
近畿地方整備局 足羽川ダム 116,079 88,898 1.3 継続 注(3)
大戸川ダム 95,687
116,418
141,640
116,308
120,653
125,940
0.8
1.0
1.1
継続 注(3)
大滝ダム 1,764,814 656,001 2.7 継続  
天ヶ瀬ダム再開発 50,844 43,745 1.2 継続  
中国地方整備局 殿ダム 173,765 121,505 1.4 継続  
尾原ダム 282,398 147,675 1.9 継続  
志津見ダム 297,438 142,862 2.1 継続  
四国地方整備局 長安口ダム改造 91,734 51,019 1.8 継続  
横瀬川ダム 64,699 47,192 1.4 継続 注(3)
山鳥坂ダム 102,411 78,948 1.3 継続  
鹿野川ダム改造 79,434 44,696 1.8 継続  
九州地方整備局 大分川ダム 159,210 101,395 1.6 継続 注(3)
嘉瀬川ダム 282,022 177,017 1.6 継続  
川辺川ダム 継続  
立野ダム 252,001 124,932 2.0 継続 注(3)
本明川ダム 74,249 57,800 1.3 継続 注(3)
鶴田ダム再開発 78,185 46,964 1.7 継続  
筑後川水系ダム群連携 120,613 44,717 2.7 継続 注(3)
城原川ダム 219,378 81,193 2.7 継続 注(3)
七滝ダム 中止  
沖縄総合事務局 億首ダム 47,518 40,530 1.2 継続  
大保ダム       見直し継続
(継続)
 
奥間ダム 133,158 70,363 1.9 見直し継続
(中止)
3ダムでの事業再評価
比地ダム       見直し継続
(着手しない)
 
水資源機構 南摩ダム 298,990 186,379 1.6 継続 注(3)
川上ダム 485,044 141,051 3.4 継続 注(3)
丹生ダム 継続 注(3)
小石原川ダム 202,707 173,512 1.2 継続 注(3)
大山ダム 143,900 96,155 1.5 継続  
滝沢ダム 1,275,782 210,428 6.1 継続  
注(1)  費用便益比欄の「-」は、費用便益比を算出していないことを示している。
注(2)  大戸川ダムの費用対効果分析については、ダム本体工事の実施時期を複数想定して費用便益比を算出しており、他のダムの費用便益比とは算出方法が異なる。
注(3)  検証対象のダム建設事業として新たな段階に入らずに現段階を継続することを示している。

イ 現在価値化の方法、不特定容量の便益の算定及び計上方法

 本院は平成21年度決算検査報告に「ダム建設事業における費用対効果分析の算定方法を明確にするなどして、費用対効果分析が適切に実施されるよう意見を表示したもの 」を掲記したところである。そして、国土交通省は、本院指摘の趣旨に沿い、22年11月及び12月に各地方整備局等、水資源機構及び都道府県等に対して事務連絡を発して、評価時点より前に計上されるダム建設費等について社会的割引率を用いて現在価値化することや不特定容量の便益の計上について代替法により算定する際の計上方法を明確にするとともに、その周知徹底を図る処置を講じた。また、不特定容量の便益の算定について試行的にCVM(注1-3) を用いた算定を実施するなど、算定方法を確立するよう技術の向上に努めるなどの処置を講じた。

(ア) 現在価値化の方法について

 事業再評価時の費用便益比の算出についてみると、評価時点より後に計上された費用及び便益については社会的割引率4%を用いて現在価値化している一方で評価時点より前に計上されたダム建設費等については現在価値化していないものが、20年度に事業再評価を実施している2ダムにおいて見受けられる。
 なお、この2ダムについては、事業再評価時には行っていないが、本院指摘の趣旨に沿い、その後の22年12月に行われた事業評価監視委員会において、評価時点より前に計上されたダム建設費等を社会的割引率4%を用いて現在価値化するなどして費用便益比を再計算した結果を報告している。

(イ) 不特定容量の便益の算定及び計上方法について

 費用便益比を算出している前記の41ダムのうち、不特定容量を有するものは32ダムとなっている。
 そして、上記の32ダムで実施している事業再評価時の費用便益比の算出において、不特定容量の便益の算定及び計上方法をみると、図表1-15 のとおりであり、代替法により当該不特定容量のみを貯水するためのダムを建設する費用(以下「身替り建設費」という。)を推定して不特定容量の便益として算定しているもののほか、河川の水量を確保することによる河川環境の改善の効果等を不特定容量の便益としてCVM等により算定しているものもある。
 なお、身替り建設費をダム完成後の評価期間等の各年度に割り振って計上して現在価値化しているなどの9ダムについては、本院指摘の趣旨に沿い、身替り建設費をダム整備期間中の各年度に割り振って計上して現在価値化するなどして費用便益比を算出することとし、既に事業評価監視委員会に対して再計算した結果を報告していたり、次回の事業再評価時に行うこととしたりしている。

 CVM  仮想的市場評価法(Contingent Valuation Method)の略称。アンケート等を用いて事業効果に対する住民等の支払意思額を把握し、これをもって便益を計測する手法


図表1-15 32ダムにおける不特定容量の便益の算定及び計上方法

(単位:ダム数)

区分
態様
直轄ダム 機構ダム
不特定容量の便益を算定しているもの 27 5 32
  身替り建設費を推定して便益を算定しているもの 25 3 28
  身替り建設費をダム整備期間中の各年度に割り振って計上して現在価値化しているもの 16 3 19
身替り建設費をダム完成後の評価期間等の各年度に割り振って計上して現在価値化しているもの 7 7
その他 2 2
CVM等により便益を算定しているもの 2 2 4